「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 葬儀屋と地獄の帝王-09

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sougiya

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ゲーム王国編 第二話
【詞後硬直】

「無理、絶対無理。何これ、何なのこれ」
「何度も言わすな、『子泣き爺』だ」
「都市伝説じゃなくて妖怪じゃん! 水木しげるワールドの住人じゃん! こういうのは鬼太郎の仕事じゃん!」

『人面犬』と契約した翌日。
 何故かはわからないが、都市伝説と戦うことになった。
 都市伝説を憶えるのには実戦あるのみだとか言われたがそんなことはあるだろうか、いや、ない。
 自慢じゃないが殴り合いの喧嘩どころか口喧嘩すらしたことない温厚な人間が実戦なんて無理。
 というか、どうやって戦えってんだ。

「ヤバいヤバい、殺されるってマジで、死ぬって本気で」
「そう簡単に死にやしねえよ。殺させやしねえから安心しろ」
「怖い怖い怖い怖いいいいいいいい!」
「俺の話を聞け!」

 あれだよ、『子泣き爺』って言えば泣き始めると巨大化して砂をかぶせてきて引っ掻いてちゃんちゃんこで窒息死させる無慈悲で残酷な凄い体臭の化物だよ。
 子供の頃鬼太郎で見たことあるから間違いない。
 ここで人生終了か、死んでしまうのか、もうあの無邪気な頃には戻れないのか。
 だが。
 だが、その前に。死ぬ前に。っていうかあれだ。

「死に……たく……ないいいいいいい!」
「ちょ、バカ、逃げんな!」

 全速力でその場から逃げ去った。
 こう見えても百メートルを十八秒くらいで走れる自信はある。

「逃げんなって言ってんだろ!」

 あっという間に追いつかれ、首根っこを咥えて戻された。
 徒競走で一位を取ったことのない経験がこんなところでも活かされるなんて。

「あああぁぁぁ~」
「言うこと聞けこの糞ガキ!」
「お前らみたいな万国ビックリショーの仲間になりたくねええええええ!」

◆  □  ◆  □  ◆

「お前達の仲間にはならない――そう言ったはずだが?」

 同日、同じ場所。
 時間だけが違った。先の時間が昼間なら今は夜更け。
 ふたりの男が相対していた。
 ひとりの名は江良井卓。
 もうひとりの名は高城楓といった。〈ゲーム王国〉建国を目論む六人のうちのひとりである。

「敵にならないとの言葉を聞いていない」

 だから、現れた。
 シンプルな物言い。

「敵にはならん。勝手にしろ」
「……信用できない」
「ならばどうする」

 単純に数だけで見ると江良井はひとり、彼らは六人。
 江良井の能力である〈地獄の帝王〉を含めても――ふたり。数の上では優勢である。

「錨野はお前を敵にするなと言っていた。逆らうつもりはない」

 彼らのリーダー格である錨野蝶助は、江良井だけは敵に回すなと厳命してある。
 江良井の中に何を見出したのか多くは語らないが、単純な戦闘力だけではないようであることは確かだ。
 無論、彼ら五人は錨野に逆らうつもりはないし、対峙するだけで汗が出てくるような江良井を敵に回そうとも考えない。
 今こうして平然としていられるのはただの虚栄にしか過ぎない。

「ならそれでいいだろう。それとも――今ここで死ぬか?」
「――ッ!!」

 江良井は何もしていない。ただ言葉を発しただけだ。
 それなのに、体にかかるこの凄まじい圧は何だ。
 都市伝説でも〈異常〉でもないこの見えない圧力は何だ。
 純粋な殺意。純然たる殺意。憎悪や悲哀や恐怖や愉悦といった不純物のない、清流のように澄み切った混じりっけなしの殺意。
 ふつふつと湧き上がる汗と脱兎のごとく逃げ出したい衝動をこらえ、高城が何かを口にすべく声を絞り出そうとした時――第三者が現れた。

「そうしてくれると助かります」
「な――」

 現れたのは黒いスーツを身にまとう男。
 言うまでもなく〈組織〉の黒服だ。

「とある契約者がこの付近で戦闘したとの報告があったので来てみましたが、それ以上のものが見つかりましたね」
「〈組織〉……!」
「如何にも。お初にお目にかかります。A-№107のナンバーを与えられている〈組織〉所属の黒服です」
「何の用だ」
「江良井卓さん、貴方の監視と高城楓さん、貴方達〈ゲーム王国〉の情報収集を担当しています」

 口元に笑みを浮かべ、淡々と答える。裏がある笑みなのを隠そうともしないのは自信か否か。

「もっとわかりやすく言いましょう。――私は貴方達の敵です」
「そうか」

 答えるが早いが、A-№107に真っ直ぐに突き進む。
 その拳が黒服に届こうとした瞬間、その姿は消えた。

「意外に気の早い方だ。敵とは言いましたが戦いに来たわけではありません。少なくとも今日のところは、ですが」
「瞬間移動……?」
「私に課せられた命令はあくまでも貴方達の監視及び情報収集に過ぎません」

 高城の問いに答えず、やはり淡々と口にするA-№107。
 自身の拳が空を切った答えを探しているのか、何も言わぬ江良井。
 そして続けざまに攻撃を仕掛けるべく走り出すと――電子的な音が高城から聞こえた。
 いつの間に持っていたのか、右手に携帯ゲーム機を手にしていた。
 音が聞こえると同時に標的を変えた江良井の手刀が高城の首筋に迫る瞬間――

「『アメリカ村』発動」

 高城の声が聞こえたかどうか、ふたりの男はこの場から消失していた。

◆  □  ◆  □  ◆

「死にたくないいいいいいいいいいいいいいいいい!」
「んだよ、ぎゃあぎゃあうるせーな」

 首根っこを咥えられて『子泣き爺』のいた場所に引き戻されると、面倒臭そうに男がひとり立っていた。
 中年――と呼ぶにはまだ若干早そうな、頭部が若干心許ないのを見るに中年のような。

「っと、何だお前」

『人面犬』を見て驚く男。そりゃそうだ、誰だって驚く。
 って、隠さないとマズいんじゃないか?

「あー……その犬の契約者か」
「って驚いてないし!」
「んー、ま、確かに野良じゃない『人面犬』ってのは滅多にないかもな」
「いやいやいや、そっちじゃなくて『人面犬』そのものに驚こうよ!」
「都市伝説なんて驚くことじゃないだろ」

 当たり前のことのように笑う男。
 ああそうか、この男もどっかおかしいんだ。

「残念そうな人を見る眼で俺を見るのはよせ」
「いや、だって……なあ?」
「お前も契約者だな?」
「そうだけど?」

 即答かよ、何なんだよ、知らない間に都市伝説ってこんなに市民権を得ていたのか。
 きっと選挙とかもやってんだ。衆議院参議院の他に都市伝説議院ってのがあるんだよ。

「ゴロが悪いってーの」
「お前……その都市伝説どこで手に入れた? いや、質問を変えよう。――何と契約している?」

 と、アホなことを考えていると『人面犬』が呟いた。
 流石は犬なだけあって、都市伝説の臭いに敏感なようだ。

「そりゃ企業秘密だ」
「神、妖怪、噂、デマ、ネットロア……数多くの人外を見てきたこの俺でも初めてのタイプだ」
「何? そんなヤバいのこの人?」
「別に俺はヤバくねえよ」
「よく飲まれないな」
「そりゃそうだ」

 何故か自信満々に男は答えた。

「飲まれにくくなる方法を俺らのリーダーから教えてもらったのさ」
「人の手柄じゃん! それ自慢するところ!?」
「そこはツッコミどころじゃねえ。――そんなことよりもお前、ここにいた『子泣き爺』はどうした?」
「消した」

 あっけらかんと言い放つ男。
 って消した!? あの化物を?

「お前の能力で、か?」
「イエス」
「その力は本当に都市伝説のものか?」
「イエス」
「どんな能力だ?」
「企業秘密」
「仲間がいるのか?」
「イエス」
「目的は?」
「企業秘密」

 どうしよう……この置いてけぼりのやり取りにどう加わればいいんだろう。
『人面犬』の質問にイエスと企業秘密しか口にしないのを見るに絶対に怪しいのは間違いないんだけど、何がどう怪しいって聞かれると……。
 犬は犬で何だか男相手に警戒してるようにも見えるし。

「っていうかさ」
「あん?」
「何だ?」
「あんた、何て名前なの?」

 きょとんとした顔のふたり。いや、もう片方は犬だから一頭と数えるべきか。あれ、犬って一匹だっけ。
 それは兎も角。この問いに、男はめっちゃ笑い出した。

「面白いヤツだな、お前さん」

 笑いながら言われてもバカにされてるとしか。

「至村」
「?」
「俺の名前は至村賢ってんだ。〈ゲーム王国〉建国の為にこの町に来たのさ」
「目的……企業秘密なんじゃないの?」

 ニヤリと屈託の無い笑顔で、男――至村賢は言った。

「だいじょぶだ」


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