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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 次世代の子供達-13a

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匿名ユーザー

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   なくしてしまわないで
   どうか見失わないで

   どうか、どうか
   見つけてしまわないで




               Red Cape








 その日は、朝からしとしとと雨が降っていた
 夕暮れ頃には雨は止んだのだが、代わりにうっすらと霧が発生し始めてした

「……ん、我が助手よ。そろそろ遅い時間であるし、霧も出てきたから、今日は帰り給え」

 包帯等の在庫をチェックしていた灰人に、診療所の主はそう声をかけてきた
 灰人は顔を上げて、時間を確認する

「…普段よりは早い時間だと思うが」
「いや、霧が出ているのでね。このところ、また都市伝説事件が増えてきて物騒であるし」
「………まぁ、早く帰れる分には、いいんだが」

 心配し過ぎではないだろうか
 そう考えながら、灰人は帰る支度を始めた
 家に連絡は…………まぁ、いらないだろう
 どちらにせよ、夕食までには帰るようにしているのだから

「……じゃ、これで。リアは早めに寝かしつけとけよ」
「うむ、わかっておるよ」
「つまりは、あんたが早く寝ろって事だからな。あんたが起きてるとリアも起きてるんだから」

 診療所の主には、娘が一人いる
 基本的に良い子なのだが、父親が起きていると、そちらを心配して寝ないで起きてくることがよくあるのだ
 まだ幼い身体で夜更かしは、成長に悪い
 わかった、と診療所の主は笑ってくるが、さて、実行できるかどうか

「………本当に、気をつけたまえよ。霧が深くなってきているようだ」
「…わかっているよ」

 半ば、言い捨てるようにして診療所を出て、家路につく

 わかっている
 「気をつけろ」と言ってきた、その意味を

(………わかっては、いるんだ)

 頭で理解していようとも、いざそうなってしまうと、自分はどうしようもないだろう
 無差別に暴れるとまではいかないものの、衝動に流された時、自分がどこまで暴走してしまうのか、予想しきれない
 己の契約都市伝説を思い、灰人は小さくため息を付いた
 それと契約したことを、後悔する訳ではない
 制御しきれず、暴走する自分が悪いのだ
 だから、己はもっと、この都市伝説を制御できるようにならなければいけない
 三年前に一度暴走させて以降、より強くそう感じるようになり、制御できるように、と鍛錬してきたつもりではあるが

(……霧)

 この深い霧は、たしかにいけない
 ざわざわと、己の内側でざわめくものを、確かに感じた

 ……とにかく、早く帰ろう
 家路を急ごうと、駆け足になって

 ぞくり、と感じた気配
 とっさに、横に飛び退いた
 ぬちゃり、と、どこか粘着性を帯びた手が、捕らえるべき目標を見失ってべちゃりと落ちる

「逃げちゃあ、いやぁあああ」

 ずるり、ぬちゃり
 それは、ゴミ捨て場からゆっくりと這い出てきた
 半ばゴミにまみれていて姿ははっきりと見えないが、それは女性のように見えた

「……「ゴミ子さん」、か」
「当たりぃいい」

 ぎちぎちと、ゴミ子さんの爪がアスファルトの地面に食い込む
 げたげたとどこか不気味な笑い声をあげながら、ずるり、とはい寄ってくる

「ねぇえええ、あなたぁあ、私を捨てたやつ、知らなぁいぃいいいいい?」
「知らん。さっさと消えろ」

 ずる、ずる、ずる、ずる
 霧の中、はっきりとした存在感を持って、それは灰人に這いよってくる
 感じるのは、はっきりとした敵意

「ねぇえええ………教えてよぉおお…………私を、捨てたやつぅうううううう………!?」
「知らんといっているだろう」
「いいえぇええ………知ってる、あなたは、知ってるはずぅううう………」

 べちゃり、と
 手が、伸びてくる

「教えてくれなきゃあぁ……………あなたから、八つ裂きだぁあああああああああああああっ!!!」

 ゴミ子さんの手が、伸びる
 目の前の灰人を捕らえ、八つ裂きにせんとしようとしている
 伸びてくるその手を、灰人は冷めた目で見ていて

 軽く、横へと避ける
 不自然に曲がりながら、ゴミ子さんの手は灰人を追いかけようとしたが

 ぼとんっ

「…………あらぁ?」

 手が、落ちた
 鋭利な刃物ですっぱりと切られたかのように断面は綺麗だった
 吹き出した血を避けるように、灰人は後方へと跳んだ

「……近寄るな。これ以上、切り裂かれたくないだろう」

 灰人の手元には、いつの間にかメスが出現していた
 契約している都市伝説で出したそれは、通常のメス以上の鋭さを持っている
 この霧の中、灰人が契約している都市伝説は、真の力を発揮する

「やだ、こわぁあああいぃいいい………」

 メスを向ける灰人に、ゴミ子さんはげたげたと笑う
 片手を切り落とされながらも怯んだ様子は全くない

「見つけなきゃあ、ダメなのぉぉおおおお…………あってぇ、あの方は、私を捨てたんだからぁああ……………捨てたから、きっと、何も命令が来ないのよぉお………」
「……俺は知らんと言っているだろうに」
「嘘吐きぃいい…………知ってる、あなたはぁ、知ってるはずうううう………!」

 濁った目が、灰人を射抜く
 その目に、正気の色は、ない

「見つけなきぁあああ……………私達のぉおおお………私達のぉ、あのお方ぁああ……………あのお方の、為にぃいい……このっ、この、街ぃいいいいい………あの方の、「巣」にしなきゃぁああ………!」

 正常とは思えぬ精神で、ゴミ子さんは喚き散らす
 説得は、どう考えても不可能
 こちらを逃すつもりも、己が逃げるつもりもないらしい
 …………仕方ない

「…鬱陶しい」

 手元に出現させたメスをそのまま構える
 げらげらと笑いなら、ゴミ子さんは残った片手で襲い掛かってきた

(…遅い)

 そう、その動きは、あまりにも遅く見えた
 通常の人間ならば反応しきれないのだろう。しかし、灰人にとっては簡単に反応できる速度しかなかった
 ゆらりと攻撃を避けながら、メスをふるう
 鋭い刃はすぱぁんっ、とゴミ子さんの残った片手を切り落とし、その流れのままにゴミ子さんの首筋を切り裂く
 辺りに、血の花が咲く
 それでも、ゴミ子さんの動きは止まらない
 にちゃあ、と笑みの形に歪んだ唇の隙間から、ギザギザの鋭い歯が姿を現す
 にちゃにちゃとして、しかしまるで肉食獣のように鋭い歯は、灰人を獲物と見定めたように襲い掛かってくる
 もう一度、メスをふるう
 ゴミ子さんの牙が灰人に届くよりも、灰人のメスがゴミ子さんに届く方が早かった
 再び、血の花
 ゴミ子さんの胸元が、どす黒い赤で染まり上がっていく

「ぎ、っげ、げげげげげげげ…………っ」

 げらげらと笑う声
 あぁ、うるさい
 五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い
 笑い声が、癇に障る

「どぉしてぇええ…………私ぃ、ちゃんと、あの方の命令に、従ってるのにぃいいいいいいいい……………どぉして、捨てるのぉおおお………私ぃいい、あの男とはぁああ、違うのにぃいいい………」

 ギリギリと歯ぎしりの音が響く
 あぁ、不快だ、忌々しい
 生命力が強いのか、心臓を摘出してやったと言うの、まだ生きている

「………あの男ぉおおおおお……………っあの男がぁあああ、「三年前」に余計な事したからぁあ……………捕まりなんかして、喋っちゃったからぁあああ………!だから、あの方が困っていらっしゃるのぉおお…………面倒な隠れ方、しなきゃダメになってるのよぉおおお…………っ」

 ぴくりっ、と
 ゴミ子さんの言葉に、灰人は小さく、反応した

「…娘すら殺して取り込んでも、気にしなかった癖にぃいい…………いざ自分が死ぬかもしれないとなったらぁああ、馬鹿みたいにべらべらべらべら喋ってぇえええ………だからぁああ、私は反対だったのよぉおおおお、あぁんな男ぉおおお、あの方にはふさしくなんて…………」

 言葉は、最後まで続かなかった
 灰人のメスが、再びゴミ子さんの喉を切り裂く
 しゃべることすら出来ないレベルで喉が傷つけられて、ただ、口がぱくぱくと動いただけだった

「…………そうか、てめぇは、アレの仲間なのか」

 灰人の声が、ただひとつの色に染まる
 漆黒の憎悪が、灰人を突き動かす

「じゃあ、死ね」

 メスが振り下ろされる
 鋭いメスはゴミ子さんの身体を容赦なく切り裂き、腸を辺りに飛び散らせた
 ぐちゃぐちゃと、肉が切り裂かれる音が真っ白な霧の中に吸い込まれていく

(あの男の仲間なら、俺の敵だ)

 腸を引きずり出す
 引きずりだしたそれを、切り裂く、切り裂く、切り裂く

(あの男の「上」に仕えていると言うのなら、俺の敵だ)

 悲鳴は聞こえない、喉を切り裂いたから
 正解だった、と思う。悲鳴が聞こえていたら、鬱陶しくて仕方ない

 切り裂く、刻む、切り裂く、刻む、切り裂く、刻む、切り裂く、刻む、切り裂く、刻む、切り裂く、刻む、切り裂く、刻む、切り裂く、刻む、切り裂く、刻む、切り裂く、刻む、切り裂く、刻む、切り裂く、刻む、切り裂く、刻む、切り裂く、刻む、切り裂く、刻む、切り裂く、刻む、切り裂く、刻む、切り裂く、刻む、切り裂く、刻む、切り裂く、刻む、切り裂く、刻む、切り裂く、刻む、切り裂く、刻む、切り裂く、刻む、切り裂く、刻む、切り裂く、刻む、切り裂く、刻む、切り裂く、刻む、切り裂く、刻む、切り裂く、刻む、切り裂く、刻む、切り裂く、刻む、切り裂く、刻む、切り裂く、刻む

 何度、メスを振るったのかすら、わからなくなってきた
 ただ、目の前のそれを、刻み続けて

「はい、ストップ」

 振り下ろそうとした腕を、誰かに掴まれた
 聞こえてきた声に、びくりっ、と、大きく身体が振るえる
 ゆっくりと振り返ると、そこにはよくミシッた顔がいた

「………直斗」
「それ、もう死んでる。そろそろ消えると思うからやめとけ」

 直斗の言うとおりだった
 灰人が切り裂いたゴミ子さんは腸を全て引きずり出され、引きずり出された腸は全て切り裂かれて原型すら残っていない
 そして、その身体は静かに、光の粒子となって消えていこうとしていた

「ほら、落ち着け」
「………もう、落ち着いてる」

 軽く頭を振る
 大丈夫だ、落ち着いている
 ………落ち着いている、はずなのだ

「…霧のせいか?」
「…………かもな」

 深い霧は、契約都市伝説の能力を一気に強めてくれる
 しかし、同時にその都市伝説のちからが暴走し、飲み込まれそうになってしまう

 深い霧の中現れ、そいて永遠に正体がわからないままであった存在
 「切り裂きジャック」
 荒神 灰人が契約した都市伝説は、それである
 はるか遠き国、イギリス発祥の正体不明の連続殺人犯
 当時ですら様々な憶測が飛び交っていたそれは、今の世ではさらに様々な説が飛び交い、その正体は霧の向こう側にいるかのように見えないままだ
 灰人が契約した「切り裂きジャック」は、「切り裂きジャックの正体は医者であった」と言う説に則り、その手元にいつでも鋭い切れ味を持ったメスを出現させる事が出来る
 敵対者の腸をスムーズに切り裂き散らすことができるのも、「切り裂きジャック」と契約した恩恵だ

 ……ただ、「三年前」に一度飲み込まれかけたがゆえに、欠点もある
 このような深い霧の中では、時として殺人衝動が湧き上がる。その上、感情の制御も難しくなってしまう
 ゴミ子さんを、必要以上に切り裂いて殺したのが、その結果だ

「……しっかし、こんだけ辺りに血をまき散らしても、お前は返り血ついてないってのも不思議だよな」
「…そう言う都市伝説だからな。証拠は残さない」

 ふー…………と、息を吐き出す
 辺りに漂っていた血の匂いすら消えて、ゴミ子さんは存在していたことが事実である、等と信じられない程に、何の痕跡も残さず消え去った
 都市伝説とは、基本、こう言うものだ
 死ねば、存在していた証すら、残らない

「ほらほら、襲ってきた相手は消えたんだし、帰るぞ」
「………そのつもりだが、直斗。何故、ついてくる気まんまんの顔なのか聞こうか」
「え?だって、この霧だと、またなんかに遭遇したら灰人暴走しそうでヤバイし。俺としては灰人と行動した方が、万が一、ヤバイのと遭遇した時安全だし」
「……お前な」

 ため息を付きながらも、灰人は直斗を伴い、歩き出した

 ……正直な所、酷くホッとしていた、というのもあった
 己は、友の言葉で正気に戻る事ができた

 大丈夫
 自分は、まだ人間なのだ、と

 いつ、飲まれるかもわからない
 一度暴走させてしまったがゆえに、飲まれるリスクは高まってしまっている
 そもそも「切り裂きジャック」は、飲まれるリスクが高い都市伝説なのだから
 それと契約したことに後悔こそないが、飲まれる恐怖がない訳でもない
 ……そんな自分にとって、「現実」と言う「日常」にとどまらせてくれる存在は、貴重なのだ
 高校は、あえて皆が選ばないだろう高校を選び別の道を歩もうとしているとはいえ、それでも、こうして会話をすることを酷く重要視していた

(俺は、人間であり続けなければいけない)

 ……そうでなければ、守れないのだから


 夜の闇の中、霧は少しずつ、晴れていって
 月の光が、静かに、静かに、街を照らしたのだった








  いつか、私が人ではなくなってしまったとしても
  どうか、覚えていてください
  人であった頃の、私の事を




               Red Cape




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