「あーした天気になぁ~れっ!!」
はしゃいだ掛け声と共に片足を大きく振り上げる幼い少女。
ミニスカートから覗く足は素肌をむき出しで、まだ冷たさの残る春先の空気の中では寒々しく映る。
真っ直ぐ伸ばされた健康的な素足から飛ばされた履き物は、ポーンと、綺麗なアーチ型の弧を描き。数十cm先の地面に落ちると何度か転がり、やがて横倒しの体勢で動きを止めた。
そこにあったのは、小学校の低学年らしき体格の少女には似つかわしくない、大人物の古びた下駄。少女の片足に残っているのもそれと対のものだ。
とても足のサイズに合ってるとは思えないそれを少女は片足飛びでも危なげなく操り、落ちていた下駄に足を通すと駆け足で背後のベンチに駆け戻った。
「残念、明日は曇りだって!」
そこには年若い男女の姿があった。一見すると若夫婦とその子供のようにも見える組み合わせだ。
「そーかそーか。そりゃあ残念だなー」
「そうねぇ、それは残念かもしれないわねぇ……。と言っても、特にやることもない私らにはどうでもいいことだけどねー」
はしゃいだ掛け声と共に片足を大きく振り上げる幼い少女。
ミニスカートから覗く足は素肌をむき出しで、まだ冷たさの残る春先の空気の中では寒々しく映る。
真っ直ぐ伸ばされた健康的な素足から飛ばされた履き物は、ポーンと、綺麗なアーチ型の弧を描き。数十cm先の地面に落ちると何度か転がり、やがて横倒しの体勢で動きを止めた。
そこにあったのは、小学校の低学年らしき体格の少女には似つかわしくない、大人物の古びた下駄。少女の片足に残っているのもそれと対のものだ。
とても足のサイズに合ってるとは思えないそれを少女は片足飛びでも危なげなく操り、落ちていた下駄に足を通すと駆け足で背後のベンチに駆け戻った。
「残念、明日は曇りだって!」
そこには年若い男女の姿があった。一見すると若夫婦とその子供のようにも見える組み合わせだ。
「そーかそーか。そりゃあ残念だなー」
「そうねぇ、それは残念かもしれないわねぇ……。と言っても、特にやることもない私らにはどうでもいいことだけどねー」
だらしなく四肢を投げ出してだらけていた男は、それでも帰ってきた少女を褒めるように髪の毛をグシャグシャにかき混ぜて迎え。顔の下半分を大きなマスクで覆い隠した女も、労る手付きで少女の頬を撫でている。傍目からも分かる溺愛振りだ。
だが二人の明らかに気のない返事に、少女はムッとした顔で頬を膨らませた。
「もう……。そんなことばっかり言ってると明日は大雨に変えちゃうんだからね?!」
「いやいや、曇りで充分だって!むしろ曇りがいいんだよ、うん」
「そうそう。雨に降られたらこうやって外で会えなくなっちゃうからね!」
途端にワタワタと両手を振り回して取り乱す大人達に少女も溜飲を下げ、吊り上げていた目尻からも険が消える。
「そうだよね……。大雨なんかになっちゃったら、お兄ちゃんやお姉ちゃん達とも会えなくなっちゃうんだもんね。そうなったらちょっと寂しいかな」
「そうだぞ~!兄ちゃんはソラちゃんと会えなくなったら、ちょっとどころじゃなく寂しいけどな!!」
「そんなの私だって負けてないんだから!ソラちゃんの顔を見れない日は、寂し過ぎてご飯もマトモに喉を通らないんだからね!!」
だが二人の明らかに気のない返事に、少女はムッとした顔で頬を膨らませた。
「もう……。そんなことばっかり言ってると明日は大雨に変えちゃうんだからね?!」
「いやいや、曇りで充分だって!むしろ曇りがいいんだよ、うん」
「そうそう。雨に降られたらこうやって外で会えなくなっちゃうからね!」
途端にワタワタと両手を振り回して取り乱す大人達に少女も溜飲を下げ、吊り上げていた目尻からも険が消える。
「そうだよね……。大雨なんかになっちゃったら、お兄ちゃんやお姉ちゃん達とも会えなくなっちゃうんだもんね。そうなったらちょっと寂しいかな」
「そうだぞ~!兄ちゃんはソラちゃんと会えなくなったら、ちょっとどころじゃなく寂しいけどな!!」
「そんなの私だって負けてないんだから!ソラちゃんの顔を見れない日は、寂し過ぎてご飯もマトモに喉を通らないんだからね!!」
変な所で張り合う、駄目人間の代表格を立派に張れそうな大人二人。ソラと呼ばれた少女は苦笑するとあらかじめ空けられていたスペース――男と女の間にすっぽりと身を収め、男によって乱された髪を直した。
「ケッ、都市伝説の口避け女なくせして良く言うぜ。一生飯なんか食わなくてもどうせお前らは平気なんだろ?」
「差別反対~!都市伝説にだって人権があるんです~!!」
「そういう生意気なセリフは住民票を確保してから言えや」
「都市伝説差別反対!反対~!!私達にだって人格や思想はあるんだからね!!」
放っとけばいつまでも続きそうな他愛ない口論。いつものじゃれあいの延長だと知ってても、ソラは溜め息を吐かずにはいられなかった。
「もう!そんなんじゃ二人とも、パパとママとまるで同じじゃない。……パパ達もそうやって顔を会わせれば口喧嘩しかしないんだから……」
小声に付け足された呟きにハッとしたように彼らは息を飲み、ソラの頭上で視線を交わすと頷き合った。その間、実際の時間に換算するとコンマ一秒以下の出来事。
「ごめんな、ソラちゃん。嫌な思いさせて……」
「お姉ちゃんもお兄ちゃんも本当はちゃんと仲良しなのよ?ただちょっとソラちゃんを好き過ぎてたまに暴走しちゃうだけで……」
「差別反対~!都市伝説にだって人権があるんです~!!」
「そういう生意気なセリフは住民票を確保してから言えや」
「都市伝説差別反対!反対~!!私達にだって人格や思想はあるんだからね!!」
放っとけばいつまでも続きそうな他愛ない口論。いつものじゃれあいの延長だと知ってても、ソラは溜め息を吐かずにはいられなかった。
「もう!そんなんじゃ二人とも、パパとママとまるで同じじゃない。……パパ達もそうやって顔を会わせれば口喧嘩しかしないんだから……」
小声に付け足された呟きにハッとしたように彼らは息を飲み、ソラの頭上で視線を交わすと頷き合った。その間、実際の時間に換算するとコンマ一秒以下の出来事。
「ごめんな、ソラちゃん。嫌な思いさせて……」
「お姉ちゃんもお兄ちゃんも本当はちゃんと仲良しなのよ?ただちょっとソラちゃんを好き過ぎてたまに暴走しちゃうだけで……」
ヒートアップしていた声音をトーンダウンさせ、左右から優しい笑みが注がれる。
「本気で喧嘩してるわけじゃないけど、ソラちゃんが嫌だと思ったらいつでも止めてくれていいんだからな?」
「お姉ちゃん達も気を付けるつもりだけど、まだちょっと修行が足りないのよ」
一般に猫撫で声と言い表されるその場を取り繕う為だけの表面的なものとは違い、心から申し訳ないと思っていることを察せられる二人の声音は真摯で。左右からソラの頬に触れてくる手付きもおずおずとしたもので。
普段から向けられる彼らの嘘偽りない優しさを知っているだけに、ソラは知らず強ばらせていた表情を自然と和らげていた。
「お兄ちゃんもお姉ちゃんも本当にしょうがないなぁ……」
「分かってくれたか!」
「だからソラちゃんが好きなのよぉ!」
感極まり左右から伸ばされてきた腕がそれぞれ、遠慮の欠片もなくソラを強く抱き締めてきて。息苦しくすらあるそれに少女は文句の声を上げつつ、半ば諦めと至福の心地で受け入れたのだった。
「本気で喧嘩してるわけじゃないけど、ソラちゃんが嫌だと思ったらいつでも止めてくれていいんだからな?」
「お姉ちゃん達も気を付けるつもりだけど、まだちょっと修行が足りないのよ」
一般に猫撫で声と言い表されるその場を取り繕う為だけの表面的なものとは違い、心から申し訳ないと思っていることを察せられる二人の声音は真摯で。左右からソラの頬に触れてくる手付きもおずおずとしたもので。
普段から向けられる彼らの嘘偽りない優しさを知っているだけに、ソラは知らず強ばらせていた表情を自然と和らげていた。
「お兄ちゃんもお姉ちゃんも本当にしょうがないなぁ……」
「分かってくれたか!」
「だからソラちゃんが好きなのよぉ!」
感極まり左右から伸ばされてきた腕がそれぞれ、遠慮の欠片もなくソラを強く抱き締めてきて。息苦しくすらあるそれに少女は文句の声を上げつつ、半ば諦めと至福の心地で受け入れたのだった。
続く