「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

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ある晴れた日の夕方の事だった

放課後を迎えた校舎は、生徒を吐き出していく
部活に励む者、帰宅する者、道草を食う者、それぞれだ
しかし一つ明確なのは……『奴ら』はそれを絶好の狩り時と看做す
実害が出る前に『奴ら』を仕留めなければならないのは『奴ら』に対峙する者の任務だ

学校町の東区
地の底に響くような発破音と共に子供達はアスファルトに倒れ伏した
ランドセルを背負う子、中学の制服の少女、恐らく帰宅途中だったのだろう
サングラスを掛けた黒スーツの男は、装置を構えていた手をゆっくりと下げた
男の持つストロボのような機材は、赤い閃光によって対象の記憶を消去する装置だ

「こっちは大丈夫ですよ!」

男は額に湧き出す汗を感じながら、振り返って首尾よく行った事を伝える

「遅いッ! さっさと退け、来るぞッ!」

間髪入れずに罵声が飛んだ。男は内心慄きながらも罵声の主の立つ位置よりも後退した
同じく黒スーツを来た上司。異性であるもののその身長は男のそれよりはるかに高い
腰に手を当て、路地の向こう側へと相対している
男は汗ばんだ手でストロボを握り直し、横にいるもう一人の同僚、女性の黒服を盗み見た
ヒールにタイトスカートという出で立ちは先刻まで男の妄想を刺激していたものの
男は今、この女の尋常ならぬ冷静さにもはや薄気味悪ささえ覚えていた
秋の初めとはいえ、残暑の照りつける西日は辛いものがある
しかし、男の背から噴き出す汗の理由は既にそれだけではなくなっている

不意に路地の奥が揺らいだ
陽炎か、男はサングラス越しに目を見張る

違う、『奴ら』だ
正確には一人だが、その周囲の空気は異様なまでに歪んでいる
此処からでは影のようにしか見えない
路地の奥に立った『奴』は、まるでこちらの様子を窺っているかのようだ
男に背を向けている形となっている上司の肩が微かに揺れた
ゾッと、悪寒が男のスーツ下の肌を撫でる
男には何故か分かっていた、上司が嗤っている事に

路地の奥が、『奴』の立っている場所が、いや、『奴』が……圧縮した
男が気づいた時、『奴』は上司のすぐ前へ突進していた
赤いコート、片側が裂けた大きな口、死を予感させる赫、振り上げられた刃の長い鋏

時が遅く感じる
上司が片足を引き、身体を捻るのが見える
振り下ろされた兇刃は空を掻き、こちらへと突っ込んで来る
つまり、……つまり『奴』は男の前へ……

「こっちだ口裂け」

低い上司の声が場に響く
男の眼は、『奴』、口裂け女の胴に
上司の唸りあげた脚が突き刺さるのを辛うじて捉えた

時が、爆発する

「遅い遅い遅い遅いんだよッ畜生がッ!」

上司の嗤い声と共に、地面が震える
スタンプ。上司は腰に片手を当てたまま、倒れた口裂け女の身体を踏み潰していた
並みの速さでは無かった
もう男の眼で上司の脚を、突き刺しては持ち上げ、叩き込む動作を追う事は出来なかった

不意に上司の蹴りが止まる
まるでサッカーボールでも蹴飛ばすかのように脚を上げている

刹那
堅固な物体同士がぶつかり合うような硬い音と共に
口裂け女の身体が電柱へと激突した
何かが潰れる音も聞こえた気がする

「んー、お利口お利口、身体はまだもってるじゃん。今までの奴なんか二三度踏みつけたらお終いだったよ」

場の空気に不釣り合いなほどの上司の軽い口調は、男の精神を圧迫するには十分過ぎるほどだった

「お、ご、あ……あああ、 まえ、せっ、が」

「うん?」

「おばえが、おばえが、あだしど、だがばを、ごどしただあッ」

「いやそんな怒鳴られてもね」

「おおお、だがばをッ、だがばをがえぜッ!」

恐らく最期の力を振り絞って、という所だろう
電柱の下で身体をくの字に曲げて呻いた口裂け女は
その状態から上司に飛びかかった。捨て身の一撃に掛けるつもりか

「遅いンだよ」

あれほど踏み潰されても鋏を離す事はなかったのか、振り上げた刃は
しかし、上腕のみを回転させた振り上げによって、弾かれた
甲高い金属音が耳に突き刺さる。一拍置いて路地の奥で鋏がアスファルトの上に落ちた音がした

「いやあ、残念だったね」

上司の横顔は笑んでいた
いつの間にかその手には武器が握られている
振り上げられた腕が一気に下げられる。伸長する特殊警棒、先端には肉厚の刃が据え付けられている

呆然とした表情の口裂け女は、空に吼えた
地に足を沈め込み、上司に掴みかかろうと両手を伸ばし

その一撃は容易くも斬り飛ばされた

「まあ何だ、『憑き筋』持ちのアタシにはねえ、全部お見通しってか」

飛んだ両腕が宙を舞う

「アレだ、運の尽きって事でひとつ」

上司が警棒を振りかぶったのは一瞬だ
直後、口裂け女の身体が、頭から両断された

「ほい、これで一丁上がりだ」

上司はこちらへと半身を向けた

「おいどうした、大の男が」

男は、自分に声が掛けられている事に気がつくのに数秒かかった

「膝ァ、笑ってるぞ」

言われて分かる
自分自身が今、どうしようもない恐怖に駆られている事が

「これで、東区の『口裂け女』駆除は、あと二点のみです」

「さっさと廻るぞ、ほらボサッとするな」

これが……、奴らを、人間に牙を剥く都市伝説の駆除が、『組織』の主要な任務である
外回りの実地研修が始まったとはいえ、男にとって、それは恐怖以外の何物でもなかった

「……緊急連絡です、上官
 東区の駆除について、横槍が入りました。Kナンバーの構成員とRナンバーの構成員が
 ……驚きましたね、R-No.3が直々に出てきているようです」

「ァあ? R-No.3ってったら、『赤い幼星』の秘蔵ッ子か
 なんで中間管理の輩が出張ってきてンだよ?」

「経緯は分かりませんが、殺処理の方では無く沈静化をおこなう算段なのでしょう
 しかし、穏健派の上位スタッフが出て来たという事は
 先程の処理の件が伝わると面倒な事になりますね」

「チッ。おい、アレはもう消えてるか?」

上司は女子黒服から視線を移す
口裂け女の両断された屍体は未だに地に転がっていた

「細切れにするか」

「ヒィッ」

小さい悲鳴が上がる
咄嗟に男が悲鳴にした方を向くと、中学の制服を着た少女が口元を手で押さえていた
破損された惨殺死体にしっかりと顔を向けて

「おい何してる、とっとと記憶を消せ」

「え?」

「貴様に言ってるのが分からんか、屑が」

ようやく記憶除去装置を使えと言ってる事を理解した

「ちょっと、お嬢ちゃん」

考えるまでもなく、勝手に身体が中学生へと歩み寄る

「うっ、ふっ、くふっ、う、うおお、おおおおおっ」

上体を折って、彼女は盛大に戻し始めた
あれを直視してしまったのだ、無理もない
男もどうしようもない吐き気をどうにか抑え込んでいる

「嬢ちゃん」

再び呼びかける
顔を上げた少女の前にストロボを突き付ける

「ゴメン」

地の底に響くような発破音と共に赤い閃光が周囲を灼いた
膝から崩れるように少女の身体が地面へ落ちる
すんでの所で掴まえて、優しく地へと下ろした
彼女の吐いた吐瀉物の中へ倒れないように

「何してるロリコンが」

「すいません」

「ッたく、何が新人研修だよ
 使えねェ奴は使えねェだけじゃねーか
 実験のマルタに廻せばまだ利用価値あんじゃないのか?」

「その発言は穏健派の連中に聞かれない所でお願いしますね」

男の黒服は思う。果たして、強硬派に身を置いている自分は生き残れるのか、と
漠然とした何かだった。恐怖とも不安とも言えない黒ずんだ染みのような

「おお、アレも消えたじゃん。じゃあ、これからどーするよ」

「西区へ移動しましょう、あそこなら強硬派が担当する箇所ですので
 多少の無理は効くでしょう」

「おし。じゃ、とっとと移動するぞ」

少女の心に浅くはない傷を残したであろう亡骸は、既に姿を消していた
不意に脳裏を先日の伝聞が去来する
強硬派と過激派が手を組んで、徐々に発言権を強めているらしい
強硬派が支配的になるのも時間の問題だ、との事だった

男は、西区へと歩を進める上司と同僚の背を見て、振り返り、倒れている子供達を見た
自分に、あの口裂け女が見せただけの根性があるだろうか
あるいは、圧倒的に強い敵に立ち向かう勇気が

もしかすれば、強硬派のやり方に付いていけなくなったその日には
上司が、敵となるかもしれないのだ

自分も、何時か、あの口裂け女と同じ末路を辿る日が来るかもしれない
ただ……そうであっても、あの子供達のような存在を守れる程には強くなりたい

空を仰ぐ。西日を受けて天高く浮かぶ雲は朱に染まっていた

30年ほど前の、ある晴れた夕方の出来事だった

〈お前の右、了〉





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