「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

単発 - 黒の女王

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
「暇だわ」
本当に退屈そうに黒服の女がそんな事を言った。
組織の光線銃と、契約者の能力と怒号が飛び交う建物での話である。
組織の敵となる契約者の集まりを、組織が襲撃した。そんな場面のようだ。
奇妙な風景だった。
腕の吹き飛んだ黒服が、腹に穴の開いた黒服が、口の裂けた黒服が、まるで傷など無いかのように歩く。
足を擦りむいただけの契約者が、頬に小さな切り傷のできた契約者が、手を火傷した契約者が、まるで重傷のように痛みに泣き叫び、呻き、うずくまっていた。
黒服達は契約者の攻撃を全く恐れずに突っ込んでいく。
「彼らは、命がいらないのですか?」
黒服の女の隣で、同じく黒服の男が呟く。
「命?」
男の言葉に、女は意味が分からないという顔をする。
「彼らは人形よ?大量生産できる感情の無いお人形」
「そう、ですか……」
この場にいる黒服は、この二人以外、感情の無い黒服らしい。
そんな無表情な黒服が一人、真っ黒に火傷した右半身を引きずりながら近づいてきて、黒服の男に耳打ちをする。その動作に、火傷の痛みを気にしている様子は無い。
「見つけたらしいですよ」
「そう、それじゃあ行きましょうか」
「え?直々に会いに行くんですか?」
「えぇ、少しは、退屈を紛らわしてくれるかもしれないわ」
黒服からの報告を受け、二人は建物の奥へと進む。


重傷の黒服が歩き、軽傷の死体が転がる建物の最奥に、初老の男がいた。
それが、今回、組織が襲撃した目的。もちろん、老人一人の為にここまでするのは、過激派だからだ。
老人の手には一冊の赤い本。
「わたしが、何をしたと言うんだ」
「何も。貴方はまごうことなき善人よ。
 貴方の為に命をかけて戦える人間が、この建物に何人も集まる程に。襲撃の為に集めた契約者が寝返る程に」
老人の呟きに答えたのは、先の黒服の女。黒服の男は連れていないようだ。
「さて、最後通牒よ。その本を渡しなさい」
女の視線が向かう先には、赤い本。
その昔、とある少年が悪魔から騙し取った一冊の魔導書。
「わたしは、この本で何も悪さをした事はない。これからも悪事に使う気はない。
 だというのに、何故だ。何故、わたしから、この本を奪おうとする」
「貴方がその本を、人を襲う都市伝説や契約者を懲らしめる為にしか使っていない事は知ってますよ」
「では、何故……!?」
「だって、貴方が善人かどうかは関係ないでしょう?」
意味が分からないという顔をしながら黒服の女は言う。
「ミサイルの発射ボタンを個人が管理していて良いわけがないでしょう。
 たとえ善人でも、感情的になって、或は、頭がおかしくなって、ボタンを押すかもしれない。悪人にボタンを取られるかもしれない。
 個人にそんな危険な物の管理を任せるわけにはいかない。そんな物は皆で管理しなくては。そして、その為の私達、組織です」
「なるほど……、たしかに、一理あるのかもしれん」
「でしょう?」
「だが、やはり、この本は渡せん」
「………………」
「お前達、組織の過激派は、その『悪人』だろう」
そう言って老人は、赤い本を開く。
「あら、酷い勘違いだわ」
黒服の女は、慌てる事もなく少し楽しそうに呟く。


66個師団という膨大な数の悪魔の軍兵を率い、地獄軍におけるあらゆる権限を持つ悪魔、バアル。
その悪魔を自由に操る本。
それが老人の持つ都市伝説「アッピンの赤い本」である。
老人はその本を使い、悪魔を呼び出す
「っっっっっっぁ゛!!!!??」
事ができなかった。
身体中から襲い来る痛みに、老人はうずくまる。
正体不明の激痛に本を取り落とす。
「……はい、終わり」
退屈そうに黒服の女は言った。
「痛みでそれどころじゃないかも知れないけれど、私は『痛みの基準はハナゲ』っていう、ジョークみたいな都市伝説と契約していた黒服なのよ」
鼻毛を抜いた時の痛みを1とする統一単位があるという都市伝説。
はたして、それがどうしてこうなったのか。黒服の女の能力は、痛みを操る事。
どのような重傷でも、痛みを無くす。
ただ足を擦りむいただけの痛みを、足がちぎれたような痛みにする。
髪の毛にすら痛感を与え、老化や新陳代謝と呼ばれる、傷などと定義されるはずのない細胞レベルの死に痛みを与える。
そして、大きな傷など無くとも、激し過ぎる痛みは、それだけで人を[ピーーー]。
「         」
「あら、もう死んだの?」
老人から返事は無く、その身体はもはや動く事はなかった。

「……終わりました?」
ひょっこりと、黒服の男が顔を覗かせた。
「えぇ、そちらは?」
「終わりましたよ。敵対契約者は全員死亡です。……過激ですね」
「生き残って逆恨みされても迷惑でしょう。そんな事より、終わったなら帰還しましょうか」
「はい……」

「暇だったわ」
本当に退屈そうに黒服の女がそんな事を言った。
事件の隠蔽につとめる黒服と、死体となった契約者のある建物での話である。
その手に一冊の赤い本を持って。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー