「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……はぁ」
荒い息を吐きながら暦はプラネタリウムを目指す。
エーテルが通話の締めに言っていた事を思い出す。
「……最後に一つだけ。
気をつけろ、今、お前は人と伝説の境界線にいる。
暦のバランスは伝説側に崩れ始めている」
「強すぎる者は、いつの世も、人として生きることを許されず、伝説となる」
「こちらには来るな」
「都市伝説を倒す事を生き方にはするな」
「俺は黒服になってしまった。
怪異を人知れず倒すを目的とした怪異に」
「だから戦友よ。心より忠告する。
都市伝説を殺す手を休め、人として生きろ……
俺にはそれが出来なかったからな……」
そういって通話は切られた。
含蓄のある言葉だ。
怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になることのないように気をつけなくてはならない。
深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ。
そういう風に言った哲学者が居たはずだ。
エーテルは恐らく生涯でただ一度転んだのだろう。
人と伝説を分かつ深淵の上で。
都市伝説から人を守る為に都市伝説になってしまうとは
なんと言う皮肉だろう。
「言ってる事はよく分かるけど
とりあえず此処を切り抜けないと先が無いのよね~!」
怖くは無いけど辛い。
なんとかプラネタリウムに辿り着くと衛悟が出迎えてくれた。
彼は同じ高校に通う友達で組織に務める契約者だ。
「暦!連絡を受けてすっ飛んできたぞ、大丈夫か!?」
「あ、衛悟も来てくれたんだ~。
全然問題ないけどしんどいよー」
「いや、あんな連絡を受けたらほっとけないだろ」
「来てくれてありがと、中の人払いは?」
「ああ、もう既に退避は完了している」
「仕事が速いわねー黒服さんもエーテルさんの薫陶が行き届いてるみたい。
衛悟にもやって欲しいことがあるんだけどいいかな?」
「俺に出来る事なら何でも」
二人して人気の無いプラネタリウムの内部に入る。
内部には先ほど頼んだとおり、ガシャポンの玉やボールなどの
街から集められた球体が山ほど積んであった。
「それじゃ、衛悟はそこと、そこと、そこと……
あそこの入り口以外全部の九十度以下の鋭角を水で包んで」
「分かった」
衛悟の契約している「水の記憶」が発動し
プラネタリウム内部が水浸しになる。
壁の皹、人工物の直角が水の幕に覆われていく……
水が壁の角を消す。ひび割れを埋める。
人工物の直角は包まれて丸くなる。
「……流れる水に鋭角は無いわ、連続体だもの……
溶解がティンダロスによく効くのもそのせいね。
液体の中に鋭角は存在しない。
……普通の時間は円、時計の針が廻るように……
時間の角ってのは針が指し示す区切られた不自然な時間ね。
ティンダロスはそれを物質の角と同一視して如何なる時間にも現れる……
再出現のインターバルが15分なのも多分その影響」
普通の水は丸い。水滴を落とせば表面張力で自然と球形になる。
連続する流体の表面に鋭角は存在できない。
「衛悟のお陰でプラネタリウム下部の鋭角を切り取る作業をしなくてすんだわ」
プラネタリウム上部の天井は壁に星を写す性質上球形だ。
後は椅子や床にある鋭角を潰してしまえばいい。
「でもあそこの入り口をふさがなくてもいいのか?」
「私は閉じこもる為にプラネタリウムを戦場に選んだわけじゃないのよ……
もうすぐ十五分ね、さ、ボールとかガシャポンとか入り口に仕掛けるわよ」
唯一残された人工物の角から青黒い煙が立ち昇る。
暦のナイフが閃き、煙の手前でガシャポンの玉が砕けて……
「捕まえた」
時間を戻されたガシャポンの玉が再び砕かれる前の形に戻った。
ただし、ガシャポンの中には
ティンダロスが実体化する前の青黒い煙が封じられている……
青黒い煙が外に出ようともがくがガシャポンの玉はびくともしない。
「これは!!」
「やっぱり予想通りね。
実体化する前なら即席の結界石代わりのガシャポンでも捕まえられると思ったわ。
完全に出入りを封じて建物を壊されちゃったら堪らないし。
たった一個だけ鋭角を開けておけばそこから入るしかない。
時間を計って待ち伏せておけばどってこと無いわよ」
暦は逃げる為にプラネタリウムを戦場に選んだわけではない。
迎え撃つ罠を張る為に此処を選んだのだ。
「で、これで衛悟もやり方は分かったでしょ?
でも来てくれてほんとに助かったわー、持つべきものは仲間ねー。
実体化する前に水の幕で球を作って閉じ込めちゃえばいいのよ。
交代しながらやれば体力的な心配も無くなるし。
時間を稼いでいる間にもっと応援を呼んだっていいわ」
暦は普通の人間なら怪異に脅えて震えるしか出来ない時間を
待ち構えて怪異に打ち勝つ時間に変えてしまった。
「汝、時間に祈る事無かれ」
暦は煙の詰まったガシャポンの玉を拾い上げると呟く。
「特殊な能力の無い契約者じゃない普通の人だって……
角にボンドぶちまけるなりくす玉とか用意すれば同じことが出来るかもね。
怪異や都市伝説相手には頑健に抗う意思が何より大事なのよ」
荒い息を吐きながら暦はプラネタリウムを目指す。
エーテルが通話の締めに言っていた事を思い出す。
「……最後に一つだけ。
気をつけろ、今、お前は人と伝説の境界線にいる。
暦のバランスは伝説側に崩れ始めている」
「強すぎる者は、いつの世も、人として生きることを許されず、伝説となる」
「こちらには来るな」
「都市伝説を倒す事を生き方にはするな」
「俺は黒服になってしまった。
怪異を人知れず倒すを目的とした怪異に」
「だから戦友よ。心より忠告する。
都市伝説を殺す手を休め、人として生きろ……
俺にはそれが出来なかったからな……」
そういって通話は切られた。
含蓄のある言葉だ。
怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になることのないように気をつけなくてはならない。
深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ。
そういう風に言った哲学者が居たはずだ。
エーテルは恐らく生涯でただ一度転んだのだろう。
人と伝説を分かつ深淵の上で。
都市伝説から人を守る為に都市伝説になってしまうとは
なんと言う皮肉だろう。
「言ってる事はよく分かるけど
とりあえず此処を切り抜けないと先が無いのよね~!」
怖くは無いけど辛い。
なんとかプラネタリウムに辿り着くと衛悟が出迎えてくれた。
彼は同じ高校に通う友達で組織に務める契約者だ。
「暦!連絡を受けてすっ飛んできたぞ、大丈夫か!?」
「あ、衛悟も来てくれたんだ~。
全然問題ないけどしんどいよー」
「いや、あんな連絡を受けたらほっとけないだろ」
「来てくれてありがと、中の人払いは?」
「ああ、もう既に退避は完了している」
「仕事が速いわねー黒服さんもエーテルさんの薫陶が行き届いてるみたい。
衛悟にもやって欲しいことがあるんだけどいいかな?」
「俺に出来る事なら何でも」
二人して人気の無いプラネタリウムの内部に入る。
内部には先ほど頼んだとおり、ガシャポンの玉やボールなどの
街から集められた球体が山ほど積んであった。
「それじゃ、衛悟はそこと、そこと、そこと……
あそこの入り口以外全部の九十度以下の鋭角を水で包んで」
「分かった」
衛悟の契約している「水の記憶」が発動し
プラネタリウム内部が水浸しになる。
壁の皹、人工物の直角が水の幕に覆われていく……
水が壁の角を消す。ひび割れを埋める。
人工物の直角は包まれて丸くなる。
「……流れる水に鋭角は無いわ、連続体だもの……
溶解がティンダロスによく効くのもそのせいね。
液体の中に鋭角は存在しない。
……普通の時間は円、時計の針が廻るように……
時間の角ってのは針が指し示す区切られた不自然な時間ね。
ティンダロスはそれを物質の角と同一視して如何なる時間にも現れる……
再出現のインターバルが15分なのも多分その影響」
普通の水は丸い。水滴を落とせば表面張力で自然と球形になる。
連続する流体の表面に鋭角は存在できない。
「衛悟のお陰でプラネタリウム下部の鋭角を切り取る作業をしなくてすんだわ」
プラネタリウム上部の天井は壁に星を写す性質上球形だ。
後は椅子や床にある鋭角を潰してしまえばいい。
「でもあそこの入り口をふさがなくてもいいのか?」
「私は閉じこもる為にプラネタリウムを戦場に選んだわけじゃないのよ……
もうすぐ十五分ね、さ、ボールとかガシャポンとか入り口に仕掛けるわよ」
唯一残された人工物の角から青黒い煙が立ち昇る。
暦のナイフが閃き、煙の手前でガシャポンの玉が砕けて……
「捕まえた」
時間を戻されたガシャポンの玉が再び砕かれる前の形に戻った。
ただし、ガシャポンの中には
ティンダロスが実体化する前の青黒い煙が封じられている……
青黒い煙が外に出ようともがくがガシャポンの玉はびくともしない。
「これは!!」
「やっぱり予想通りね。
実体化する前なら即席の結界石代わりのガシャポンでも捕まえられると思ったわ。
完全に出入りを封じて建物を壊されちゃったら堪らないし。
たった一個だけ鋭角を開けておけばそこから入るしかない。
時間を計って待ち伏せておけばどってこと無いわよ」
暦は逃げる為にプラネタリウムを戦場に選んだわけではない。
迎え撃つ罠を張る為に此処を選んだのだ。
「で、これで衛悟もやり方は分かったでしょ?
でも来てくれてほんとに助かったわー、持つべきものは仲間ねー。
実体化する前に水の幕で球を作って閉じ込めちゃえばいいのよ。
交代しながらやれば体力的な心配も無くなるし。
時間を稼いでいる間にもっと応援を呼んだっていいわ」
暦は普通の人間なら怪異に脅えて震えるしか出来ない時間を
待ち構えて怪異に打ち勝つ時間に変えてしまった。
「汝、時間に祈る事無かれ」
暦は煙の詰まったガシャポンの玉を拾い上げると呟く。
「特殊な能力の無い契約者じゃない普通の人だって……
角にボンドぶちまけるなりくす玉とか用意すれば同じことが出来るかもね。
怪異や都市伝説相手には頑健に抗う意思が何より大事なのよ」
【続く】