「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

単発 - 銀の鍵の男と鏡の少女

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
―夜刀浦市のある路上。
 平日の昼下がり。 さほど人通りも多くないそこで、少女は銀色に光る鍵を拾い上げた。
 緩くカールした淡いピンク色の頭髪をツインテールに結わえ、紅い薔薇のコサージュで飾っている。
 纏った裾広がりの膝丈のドレスは黒一色ながら、光に当たると薔薇の意匠が浮かび上がる織りの生地と、
 そこここにあしらわれた繊細なレースの為か、派手な印象を禁じ得ない。
 彼女の名を新宮幻と言う。
 3年前までは人間の少女だった。多重契約とその能力の濫用とで自身を都市伝説と化すまでは。
(随分でっかい鍵ですねえ)
 アンティークか何かの類かと、アラベスク模様が施されたその鍵を手の中でくるくると弄んでみる。

「やめて!」

 耳に届いた悲鳴に近い拒絶の叫び。
 幻が声の方向に視線を向けると、地元の学校らしい制服姿の少女と、やはり制服姿の複数の少年達。
 少年達はにやにや笑いながら少女を小突き回し、少女は半泣きになりながらも抵抗を試みている。
 他にも同じ制服を着た少年少女は通りかかるものの、一瞥するのみで興味なさげに去るか、
 あるいは同情の色が表情に浮かんではいても、関わり合いになるのは避けたいといった体だ。
(気にいらねー連中ですよ)
 幻が思わず睨みつけると、少年達も彼女に気づいたらしく、幻をちらちら見ながら指さしている。
(なあ、あの女こっち見てるぜ)
(何あれ。メイド?)
(何かのコスプレじゃね?)
 ひそひそ話に続いて爆笑の声が上がり、少年達のひとりが携帯電話を此方に向けた。
(てめーらみてーな連中の考える事なんて、とっくにお見通しですよ)
 盗撮されたとて別に減るわけではないが、気分が悪いこと夥しい。
 幻は薔薇の花を象った小さな手鏡を取り出すと、こっそり鏡面を彼らに向けた。

「ぎゃっ!」
「あ、熱ちちちっ」
「燃えてる、燃えてるって!」
 幻がかつて契約していた「アルキメデスの鏡」
 鏡に太陽光を反射させて敵の軍船を焼いたという都市伝説は、ただの少女に光と熱を操る力を与えていた。
 少年達がパニックに陥るのを見届けると幻は少女に逃げるように目配せをひとつ。
(さて、ボクもさっさと撤収ですよ)

 所は変わって駅前のとあるカフェ。
 冷たいミント・ティーとサクランボのクラフィティ、プラリネのミルフィーユを前にして、
 些か傾いた機嫌を立て直していた幻の隣に人影が近づく。
「あの…さっきはありがとうございました」
 セミロングの黒髪をサイドだけまとめ、セルフレームの眼鏡を掛けた少女。
 どうやら首尾よく逃げたらしい先程の被害者に幻は鷹揚に頷き、
「別にボクは殊更キミを助けたわけではねーですよ。
 ボク自身があーいう理性と客観性に欠けた輩が大嫌いだからやったですよ」
…本当は学校に乗り込んで見て見ぬ振りを決め込んだ連中も焼き払ってやりたいところだった事は秘密だ。
「…『悪口は自己紹介』ってよく言うけど、まさにその通りだね、新宮さん」
 気がつくと、少女達の後ろにはひとりの若い男が立っていた。
 やや痩せ気味の長身に革のライダースジャケットを纏い、やはり革のグローブをはめた手にはアイスコーヒーのグラスがある。
「あ、えーと、こちらの方は…?」
 男の連れ、というのが予想外だったのか少女は明らかに狼狽え、
 考えれば礼を言うべき相手の名前も未だ聞いていなかったと交互に幻と男を見比べた。
「ボクはにいみや まほろというですよ。で、こっちの命知らずは」
 そこで言葉を切ると同時に、幻の手にあるグラスが男の後頭部を直撃した。

「ええと…嶋。嶋 貴也(しま たかなり)…です」
 気持ち口調がどもっているのは殴られて脳震盪を起こしたという訳ではなく、生来の人見知り故のこと。
 落ちつきなくあらぬ方に視線を漂わせているので、幻はともかく
 「沢村 ひかる」と名乗った眼鏡の少女はいささか居心地が悪そうだ。
 幻が追加注文したミントティーがひかるの前にも置かれると、
 先程のお礼にここの勘定を持ちたいとひかるが述べた。
「そんな事はキミが気にする事ではねーですよ」
 携帯を片手に席を離れた貴也を尻目に、さらに幾つかのケーキを注文し、
 ミントティーを飲み干す間に戻ってきた貴也に、ひらりと伝票を差し出した、その時。

―鍵を、手放せ

「!?」
 明らかに物理的な声ではない。精神感応とかその類のものだ。
 店内を見回しても無意味と、幻は手鏡を取り出し覗き込んだ。
 「照魔鏡」これもかつて幻が契約した都市伝説。都市伝説を映し出す鏡だ。たとえソレがどのように擬態していても。
 鏡に映るのは、壮年から初老と思われる白人の男。

―鍵を、手放せ

 その一言のみを残し、鏡からも男は消えた。
(鍵を手放せ、ですか…さっきのアレですかね)
 何やら曰くのある鍵だったのかと考えたその時、席を立とうとしたひかるの姿が鏡に映る。
(―!?)
 其処に映っていたのは、セミロングヘアに眼鏡の少女ではなく、

 豚の鼻、緑色の目に牙と鉤爪を備え、毛に覆われた真っ黒な何か。

 その姿の禍々しさに幻は慄然として少女を見上げた。
「新宮さん?」
 少女は幻の心中など知らず、人当たりの良さそうな柔らかい微笑みを向けた。


続く

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
ウィキ募集バナー