うちの猫は世界で一番可愛い
「えーっと、ワイシャツとスーツと靴下とシャツと……」
パジャマを着た一人の男が、明日の準備にいそしんでいる。
「はんかちと眼鏡と資料と買い物リストと……よし、準備ばっちり!」
用意するものをすべてそろえ終えた男は満足そうに頷き、部屋をぐるりと見渡す。
部屋の壁一面に張り巡らされた猫のカレンダーや猫のポスター。
そして本棚の上や4段ラック、机の上からカーペットの上まで、いたるところに配置された猫のぬいぐるみたち。
この男、生粋の猫好きである。
部屋の壁一面に張り巡らされた猫のカレンダーや猫のポスター。
そして本棚の上や4段ラック、机の上からカーペットの上まで、いたるところに配置された猫のぬいぐるみたち。
この男、生粋の猫好きである。
「うん、片付け忘れもなし。これで今日やることはなくなったかな……よし、じゃあ寝るとしますか」
おやすみ、と誰にともなくつぶやき、男は電気を消して布団にもぐる。
それから十分も経たないうちに、静かな寝息が部屋を支配した。
それから十分も経たないうちに、静かな寝息が部屋を支配した。
『にゃー』
その静まり返った部屋に、猫の鳴き声が響く。
だが男はすでに熟睡しており、その鳴き声には気づかない。
だが男はすでに熟睡しており、その鳴き声には気づかない。
『よーし、みんな起きるにゃー!』
直後、部屋のぬいぐるみたちが一斉に動き始めた。
「んん……っ、やっと夜かー!」
「夜なんだから寝ようよぉ……ふあぁ」
「遊ぶ?ねぇ遊ぶ?遊ぶよね?ねぇねぇ?」
「まったく、毎度毎度騒がしい奴らだ」
「夜なんだから寝ようよぉ……ふあぁ」
「遊ぶ?ねぇ遊ぶ?遊ぶよね?ねぇねぇ?」
「まったく、毎度毎度騒がしい奴らだ」
眠りから覚めた猫のように伸びをするもの、あくびをしたかと思うと丸まって寝てしまうもの、早くも床を駆け回るものと、その動きは猫そのものだ。
次いで壁のポスターやカレンダーの中の猫たちも、毛づくろいを始めたり体をこすり合わせたりと、写真や絵の中でめいめい動き始める。
次いで壁のポスターやカレンダーの中の猫たちも、毛づくろいを始めたり体をこすり合わせたりと、写真や絵の中でめいめい動き始める。
部屋の壁を覆うポスターやカレンダーと、部屋を埋め尽くす猫のぬいぐるみたち。
ポスターなどに描かれた猫たちの視線は、部屋の中を幾重にも交わっている。
「ポスターの視線が重なると霊道が開く」といわれ、それによって招かれた霊が「付喪神」となってぬいぐるみやポスターなどに憑く。
そのような要因が重なった結果、この部屋では毎夜、猫によるナイトミュージアムが展開されているのである。
ポスターなどに描かれた猫たちの視線は、部屋の中を幾重にも交わっている。
「ポスターの視線が重なると霊道が開く」といわれ、それによって招かれた霊が「付喪神」となってぬいぐるみやポスターなどに憑く。
そのような要因が重なった結果、この部屋では毎夜、猫によるナイトミュージアムが展開されているのである。
「ゆきひ、ねぇゆきひ!早く早く!遊ぼうよ!」
「うるさいなぁ。キミと遊ぶのは疲れるんだよ」
「えー、そんなこといわないでさー。うりゃあ!」
「いてっ!なにすんだよひょうが!」
「わーい、ゆきひが怒ったー!逃げろー!」
「うるさいなぁ。キミと遊ぶのは疲れるんだよ」
「えー、そんなこといわないでさー。うりゃあ!」
「いてっ!なにすんだよひょうが!」
「わーい、ゆきひが怒ったー!逃げろー!」
豹柄の猫とユキヒョウの追いかけっこが始まった。
寝ている男を踏んづけ、畳まれた服を乱し、ゴミ箱を蹴飛ばしたりと、やりたい放題である。
寝ている男を踏んづけ、畳まれた服を乱し、ゴミ箱を蹴飛ばしたりと、やりたい放題である。
『あ、こら!部屋散らかすんじゃないにゃ!ちゃんと片付けるにゃ!』
『まぁまぁ、元気があるのはいいことにゃ。のびのび遊ばせてやるにゃ』
『むー。主に迷惑かけるのは申し訳ないのにゃ……』
『にゃーは猫らしからぬ忠犬っぷりにゃー。もっと猫らしく気ままにいくにゃー』
『まぁまぁ、元気があるのはいいことにゃ。のびのび遊ばせてやるにゃ』
『むー。主に迷惑かけるのは申し訳ないのにゃ……』
『にゃーは猫らしからぬ忠犬っぷりにゃー。もっと猫らしく気ままにいくにゃー』
ポスターの猫たちはその光景を眺めながら談笑する。
そのころカーペットの上では子猫が、一番高い棚の上にいるトラを見上げていた。
そのころカーペットの上では子猫が、一番高い棚の上にいるトラを見上げていた。
「ねぇふゆちー、すらりもそっち行きたいー」
「ふふっ、いいよ。頑張って登っておいで」
「あーずるいー、ふわりも登るー」
『気をつけるにゃー。そこ狭いから落ちるんじゃないにゃー』
「だいじょーぶ、だいじょーぶ……あっ」
「ふふっ、いいよ。頑張って登っておいで」
「あーずるいー、ふわりも登るー」
『気をつけるにゃー。そこ狭いから落ちるんじゃないにゃー』
「だいじょーぶ、だいじょーぶ……あっ」
ぼふっ。
男の顔面に子猫が落下した。
部屋の猫たちの動きがぴたりと止まり、息を呑んで男を見つめる。
部屋の猫たちの動きがぴたりと止まり、息を呑んで男を見つめる。
「…………くー……すー……」
『よし、大丈夫にゃ』
『相変わらずの熟睡っぷりだにゃー』
「いたいー。ふゆち助けてー」
「まったく、仕方ないなぁ。今行くよ」
「ふわりずるいー。すらりも落ちるー。助けてふゆちー」
「はいはい、順番ね」
『よし、大丈夫にゃ』
『相変わらずの熟睡っぷりだにゃー』
「いたいー。ふゆち助けてー」
「まったく、仕方ないなぁ。今行くよ」
「ふわりずるいー。すらりも落ちるー。助けてふゆちー」
「はいはい、順番ね」
すやすやと眠る男をよそに、猫たちは再び部屋を縦横無尽に駆け巡るのだった。
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窓から差し込む朝日に、男は目を覚ました。
むくりと起き上がって部屋を見渡すと、そこには部屋中に散乱するぬいぐるみたちの姿。
むくりと起き上がって部屋を見渡すと、そこには部屋中に散乱するぬいぐるみたちの姿。
「……ああ、また地震か。最近多いよなぁ。みんなごめんよー、今並べてあげるから……ふわぁ」
男は目をこすりながら布団から抜け出す。
そして部屋に散乱するぬいぐるみたちを拾い集め、それを本棚の上やラックへと並べ始めた。
そして部屋に散乱するぬいぐるみたちを拾い集め、それを本棚の上やラックへと並べ始めた。
「えーっと、ふわりとすらりは隣同士で、りおんはしばらく後ろだったから今日は前に。となるとひょうがをこっち側にして、ゆきひは今度は向こうの棚に……」
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「……最後にふゆちを定位置に!よし、できた!」
ぬいぐるみの配置から30分、男は猫に囲まれた部屋を見渡して満足そうに頷く。
「うんうん、今日も我ながら素敵なレイアウト……って時間んんんんんんん!?また遅刻するうううううううう!!」
男は時計を見て叫び声をあげ、パジャマを脱ぎながら洗面所へと走る。
『……朝っぱらから騒がしいやつにゃ』
ポスターの猫のつぶやきに、部屋のぬいぐるみたちは一斉に小さく頷いた。
【終】