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単発 - 銀の鍵の男と鏡の少女-02

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匿名ユーザー

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「泊まるホテルがねーって・・・どーゆー事なのですか」
 貴也の説明によると、ブッキングしたかなにか、とにかく宿泊予定だったホテルに予約が入っていないという事らしい。
 夜刀浦市への滞在は10日程の予定だったが、明日以降はともかく今晩は何処も無理っぽいというので
 ではネットカフェでも探すかとケーキの箱を手に幻も席を立ちあがりかけた。
「そーいや、昔はよくネカフェに寝泊まりしたですね」
 故郷を逃亡同然に離れ、学校町に辿り着くまでのほんの数年前が、少し懐かしくなって思わず遠くを見た。
(別に帰りたいわけでもねーのですけど)
「あの・・・」
 席を立ったふたりに、ひかるの声が遠慮がちに掛けられる。
「新宮さんへのお礼もまだだし、もしご迷惑でなかったら・・・家に来て下さい」

「わー」
 そこそこ広さのあるマンションの一角。
 シンプルな調度で纏められた、日当たりの良い明るい部屋の隅に、ワンピースを着たトルソーが飾られていた。
「4年前に出た限定品のドレスじゃねーですか」
 ベルベットという季節を選ぶ、すなわち着る機会が相対的に少ない素材の割に値段が高額だったので
 予約で戦争状態の店を黙って後にしたのだが、後日街でそのドレスを着たロリータ少女とすれ違う度に
(○万円が歩いてるですよ)
 といささか品性下劣な感想を心の中で抱いていたのだった。
「好きなんです、こういう服・・・」
 似合わないので着たことはないんですけれどと少し恥ずかしそうな様子のひかるに、幻は微妙に眉を顰める。
「着ないなんてもったいねーのですよ」
「新宮さん」
 そんなの人の勝手だろと貴也が諌めても聞く耳など持たない幻は、ひかるに詰め寄り出した。
「着てみろですよー。似合うか似合わないかは、気合い次第なのですよ!」
「新宮さんっ!」
 とうとう貴也に羽交い締めにされた。
 彼は彼で、恥ずかしさとひかるに対する申し訳なさで内心は修羅場。
 寝室にとあてがわれた部屋に押し込まれた幻の心中に、この時ある計画が芽生えていたことはひかるも貴也も知る由もない。

 ベッドに入って暫くしてからのこと。
「・・・?」
 体も心もふわふわとしている。なんだか水の中にでもいるかのようだ。
(ああ、これは夢なのですよ)
 何か声が聞こえる。よく聞き取れないが頭がぼうっとして、耳を澄ませることも出来ない。
 声は少しずつ大きくなり、ようやく意味を聞き取れそうというところで・・・
 胸元で、何かが煌いた。
『!?』
 幻の他にも、何者かが驚愕したかのように空気が揺らぐ。
 ぱじゅっと何かが弾ける様な音がして、視界が唐突に明るさに包まれる間際
 昼間鏡に映った豚鼻の怪物が脳裏をよぎったような気がした。
「・・・夢、だったのですか?」
 幻が首を傾げると胸元の小さな丸いペンダントが光を反射して煌いた。絵画の額縁の様なフレームに、ごく小さな鏡がはめ込まれた物だ。
 「鏡は魔を反射する」
 古くからある伝承。鏡は魔除けになるという都市伝説と契約していた幻は、自分に向かってくる「魔」
 すなわち都市伝説の力を弾き返す力を手に入れている。
 直接的な物理攻撃には効果がなく、回復系の能力までもを弾き返してしまう不便さに目をつぶれば、結構使えるものなのだ。―今のように。
「またアイツなのですよ・・・」
 昨日鏡に映った、豚鼻の魔物。鏡に映るべきひかるが映らず、代わりにそれが映る。
(なんだか、厄介事に巻き込まれたのですかね)
 とうに人であることを止めた自分が魔に取り憑かれるとはおかしな話と首を傾げたところで
 貴也が朝食が出来たと告げてきた。一夜の宿の礼にと、彼が支度をしたらしい。
「今行くですよー」
 幻はひとつあくびをすると、かったるそうにドアの外へ向かって告げた。

「お茶会をしようなのですよ」
 目玉焼きとトースト、フルーツヨーグルトサラダの朝食が済み、貴也が用事で出かけると
 学校に行く支度中のひかるに幻がにじりよった。
「お茶会!?え、放課後・・・ですか?」
「今これからなのですよ」
 さあさあこれを着てと件のワンピースをいつの間にやら手に取り詰め寄る幻にひかる一人で抵抗できるわけがなく・・・
「あっ・・・あの、学校!」
「学校はいつでも行けるけど、お茶会は今しかできねーですよ!」
 貴也が聞いたら逆だろうと突っ込みたくなるような台詞と共に
 幻は台風もかくやというような勢いでひかるの着替えとヘアメイクに取りかかる。
 あっという間にひかるは件のベルベットのドレスを着せられ、
 両サイドを纏めた髪の上にレースを何重にもあしらったヘッドドレスが飾られた。
 幻自身も要所要所が生成色のレースで飾られた黒いベルベットのワンピースに
 カメオのブローチを付けると生成色の薔薇の造花をあしらったミニハットを合わせて
 ひかるの手を掴むようにしてマンションを飛び出した。
「楽しみなのですよー!」
「に、新宮さん!」

 ゴシックロリィタ、あるいはロリィタファッションを愛好する者達がお茶会を好むのは珍しい事ではない。
 大はロリィタファッションの洋服メーカー(彼或いは彼女たちは“メゾン”と呼ぶ)や
 有名なブロガーが主催する大規模なものから、小は友人同士のお誕生会レベルまで
 ゴシック或いはロリィタを好む者は、集まって大抵は紅茶を飲み、お菓子を食べることが好まれる。
 幻とひかるも、そういった少女達と何の変わりもなく、昨日のカフェでお茶とケーキを楽しんでいた。
「ボクはこの、期間限定のイチゴのマッドパイにするのですよ!」
「じゃあ、私は・・・ガトーショコラで」
 学校をサボった後ろめたさからか、或いは着慣れない格好のせいか、ひかるは幾分落ち着かなさげに見える。
「本当に似合ってますか?あの、私・・・」
「言ったじゃねーですか。気合いで似合わせろですよ」
 幻はしれっと言い募ると、ぐっと胸の前で拳を固める。
「世の中何でも気合いなのですよ。経済回復も世界平和も、気合いさえあれば!」
「気合いって・・・新宮さん」
 ひかるがくすりと笑い、彼女の周りの空気が解け掛けたとき。

「何あれ。絶対○障だよねー。○ネよ!」

 あまりに遠慮のない罵声がふたりの空気を凍りつかせ、ひかるの手からフォークが落ちる。
「新宮さん・・・」
 なにがしか言い返すかと思いきや無言のままの幻を、ひかるが見つめる。

 幻の瞳には、ひかるも、罵声の主も映っていない。彼女の心は今、数年前を漂っていた。
 冷笑と罵倒の日々。味方なんか誰もいはしない。
(何よ、好き好んで見せ物になってる癖に、写真くらい何がいけないのよ!?)
(どけよヒラヒラ、マジきもいんだよ!)
(こんな○チガイみたいな格好してご近所を歩く子、生むんじゃなかった)
(はぁ!?生意気なんだよ、メイドの癖に!)
 投げつけられる飲み物の紙パックまで、はっきりと脳裏に蘇る。

(ボクは弱くない・・・ボクは弱くない・・・ボクは弱くない!!)

「新宮さん止めて!」
 バッグから手鏡を取り出しかけた幻をひかるが止めようと立ち上がり・・・
「・・・!」
 そのままふらふらと倒れ込んだ。
「ひかる!?」
 さすがに幻も我に返り、ひかるの体を支えてやる。
「・・・ごめ、なさ・・・急、に・・・眠く・・・」
「眠く!?」
(急に、倒れ込むほどの眠気?)
 言いしれぬものを感じた幻の足下でいつの間にか床に落ちた鏡が
 幻と、彼女に支えられている“なにか”を映し出していた事に気づく者は誰もいなかった。

 半ば意識を失いかけているひかるを公園のベンチに横たわらせると
 水でもあった方が良いだろうと自販機でペットボトル入りの水を買う。
 お釣りと商品を取って振り返ると
「てめーは・・・」
 昨日「鍵を手渡せ」と彼女の『精神』に話しかけた、初老の白人の男が、そこにいた
「私はランドルフ・カーター。作家にして、哲学者。夢の旅人にして、カダスの王者。『銀の鍵』の正当なる持ち主だ」



続く

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