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単発 - ある暑い夏の日に

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kemono

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ある暑い夏の日に


 空に輝く太陽が容赦なくアスファルトを焼き焦がし、遠くでは陽炎が揺らめいている。
 しかしどんなにうだるような暑い日だろうと、私の格好が変わることはない。
 赤いロングコートを身に纏い、口には大きな白いマスク。
 そう、私は口裂け女だ。

 所在無げに道路を歩いていると、曲がり角の向こうから人が近づく気配を感じた。
 よし、今日の獲物はこいつだ。
 マスクの下で笑みを浮かべ、私はそちらへと歩みを進めた。

 角を曲がると、そこにいたのは10歳ほどの少年だった。
 驚きもせずにキョトンとした表情で私を見上げている。
 私の姿を恐れないということは、最近の子供は口裂け女を知らないのだろうか。
 まあいい、どうせここで私の餌となることに代わりはないのだから。

「わたし――」
「こんにちは!」

 元気にあいさつをされた。
 どうしよう、このパターンは完全に想定外だ。
 とりあえずもう一度問いかけようと思い、私の顔を不思議そうな目で見上げる少年に向けて口を開く。

「こ、こんにちは」

 いや違う、私が言おうとしたのはこういう言葉じゃない。
 なんだかあいさつを返さないと申し訳ないような気がしてつい妙なことを口走ってしまった。
 少年はあいさつを返されたのが嬉しいのか、かわいらしい笑顔を私に投げ掛けている。
 そうじゃない、私が望んでるのはそういう顔じゃないんだ。
 そのかわいい顔を恐怖と絶望で染め上げてやるべく、私はまた口を開く。

「わt――」
「お姉さんそのかっこ、暑くないの?」
「えっ、いや、大丈夫……たぶん」

 だから違う、私はそういうことを言おうとしたのではなく。
 というかこの子供がさっきから私の言葉に食いぎみで言葉を被せてくるせいで、ペースが乱されて仕方ない。
 最近の子供は人の話をきちんと聞きましょうと教わっていないのか。

「暑いかっこしてたら、汗いっぱいかいて大変なんだよ?」
「よし少年、ちょっと静かにs――」
「そうだ!お姉さんにこれあげる!汗かいたら食べなさいってお母さんに言われたやつ!」
「あ、ありがとう……」

 とうとう私の言葉を無視しだした少年が差し出したのは白い飴。
 見たことはないが、少なくともべっこう飴でないことは確かだ。

「でもおいしくないから僕いらない」

 その美味しくないものを人に勧めるのはどうかと思うぞ少年。
 だがしかし口裂け女の性か、自然と包み紙を破ってそれを口に入れてしまった。
 そして口の中いっぱいに広がる塩の味。
 うむ、確かにこれはおいしくない。

 べっこう飴とは真逆のその味になんともいえない表情を浮かべていると、少年が目を丸くして私を見上げていた。

「お姉さんのお口、すっごくおっきいね!」

 そうか、飴を食べるときに無意識にマスクを外していたのか。
 よし、このタイミングならいける。
 私は裂けた口を三日月に歪めながら少年に問いかけた。

「わふぁし、きれい?」

 噛んだ。

「わかんない」

 少年は首をかしげながらそれに答えた。

 そうか、まだ女性がきれいだとかかわいいだとかを判断するお年頃ではなかったか。
 ここに至るまでの茶番を思いだし、思わず自嘲を込めた笑みがこぼれる。

「お外はあぶないから早く帰りなさいってお母さんから言われてるから、僕帰るね」

 私がその「危ない」の一因なんだが……などと口にするより早く、少年は笑顔で私に手を振る。

「バイバイお姉さん!」
「さようなら少年」

 とてとてと走り去る少年を追う気にもならず、たまにはこんな日もあるさ、と自分を慰める。
 だが不思議と獲物を狩り損ねた悔しさはなく、充実感のようなものが心を満たしていた。
 形は違えど飴を貰えたからだろうか。
 口の中に広がる塩味が、不思議と美味しく感じた。


【終】




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