日本にもこんな場所があるんだな、と思わせる豪邸だった。
豪華でそれでいて派手ではない屋敷。その屋敷まで門から車で15分という広大な庭。
そんな、庭の中にある林を、黒服は走っていた。
「くそ……なんで、こんなことに!!」
ずいぶん長い間走り回ったのだろう。
すでに息も絶え絶えといった様子だ。
『がんばってくださいねー。後3時間逃げ切ったら解放してあげますからー』
木の上に設置されたスピーカーから、ノイズ混じりにそんな少女の声が聞こえてきた。
『αの1から10はCブロックに向かえ。Cブロック周辺の奴は付近を捜索。他は待機だ』
少女の後に、奴らに命令する、男の声が聞こえてくる。
忌ま忌ましいスピーカーを叩き壊してやりたくなったが、黒服にそんな暇はない。
光線銃で撃ち抜こうにも、取り上げられ、手元にはない。
「く、そ……」
すでに、走っているとは言えず、徒歩より遅い。
けれど、足は動かす。
止まってしまうと、力尽き、その場に倒れてしまいそうだった。
そんな事になれば、奴らの餌食だ。
「……っ……く…………、……ぁ…………あっ!?」
上手く足が上がらず、木の根っこに躓き、黒服は転んでしまう。
「く、そ……」
立ち上がる事もできず、黒服は注射を取り出す。
黒服は、注射男と契約していた黒服である。
かれこれ、20時間、その能力で自分をドーピングしたり、奴らと戦ったりしてきた。
「ぁ……く、そ……」
「あれー?お兄さん、もう限界ですかー?」
不意に、少女の声が聞こえた。
スピーカー越しではない、生の声。
なんとか、顔を上げると、小学生程度のかわいらしい少女の姿。
「もうゲームオーバーですかー。でも、すごくすごいですよー。こんなに長生きしたのはお兄さんが初めてですー」
そう言って無邪気に笑う少女の周りには、奴らがいた。
口裂け女でも、テケテケでも、フラットウッズ・モンスターでも、スカイフィッシュでもない。
それは、都市伝説でもなんでもない、犬だった。
ドーベルマン。土佐闘犬。ドゴ・アルヘンティーノ。アメリカン・ピット・ブルテリア。
そして、チベタン・マスティフ。
一匹いれば、素手の人間ではおよそ勝ち目の無い犬が、何匹も、何匹も、庭をうろつき、襲ってくる。
「そろそろ、終わらせるか」
犬に命令していた男の声が、少女の足元から聞こえた。
「そうですねー。もう無理でしょうしー」
「よーし、お前ら、ヤって良いぞ」
声の正体は、一匹の犬。
人の顔を持つ、人面犬。
「お前、ら……こんな、なんで、こんな事して……」
ゆっくりと、犬達が近づいてくる。
「なんでって、お人形遊びなんかより楽しいからですがー?」
犬が来る。
けれど、黒服の身体は立ち上がる事もできず、手の中の注射一本で、どうにかできるはずもない。
「こんな…………事、して……許される、と…………思っ、て」
足に犬の鼻先が当たっているのに気がつき、黒服はそいつを蹴ろうとする。
もちろん、そんな体力は残っておらず、足を持ち上げただけになった。
「……?よくわかんないですよー?人面ワンさん、この人は……」
「ちゃんと過激派だ。そうだろ?」
人面犬が質問する。
質問の答えは、確かに、この黒服は組織の過激派所属だ。
だが、黒服にそんな質問に答える余裕はない。
身体中、臭いを嗅いでいる犬から何とか逃げようと、必死なのだ。
「過激派さんは組織さんの中からも外からも嫌われてるんでしょうー?だったら、何人かいなくなったって大丈夫ですよー」
少女の、そんな無邪気で残虐な微笑みを、黒服は見ていなかった。
ついに、犬が噛み付き始めていた。
肉を食いちぎり。骨をかみ砕き。
黒服の悲鳴が辺りに響く。
飛び散った血が、少女の足に付く。
それを舐め取りながら、人面犬がたずねる。
「楽しいか?」
「はい、とっても……」
うっとりと、少女は不様にもがく黒服を見ていた。
血の臭いに、犬はまだまだ集まってくる。
悲鳴はもう聞こえない。
豪華でそれでいて派手ではない屋敷。その屋敷まで門から車で15分という広大な庭。
そんな、庭の中にある林を、黒服は走っていた。
「くそ……なんで、こんなことに!!」
ずいぶん長い間走り回ったのだろう。
すでに息も絶え絶えといった様子だ。
『がんばってくださいねー。後3時間逃げ切ったら解放してあげますからー』
木の上に設置されたスピーカーから、ノイズ混じりにそんな少女の声が聞こえてきた。
『αの1から10はCブロックに向かえ。Cブロック周辺の奴は付近を捜索。他は待機だ』
少女の後に、奴らに命令する、男の声が聞こえてくる。
忌ま忌ましいスピーカーを叩き壊してやりたくなったが、黒服にそんな暇はない。
光線銃で撃ち抜こうにも、取り上げられ、手元にはない。
「く、そ……」
すでに、走っているとは言えず、徒歩より遅い。
けれど、足は動かす。
止まってしまうと、力尽き、その場に倒れてしまいそうだった。
そんな事になれば、奴らの餌食だ。
「……っ……く…………、……ぁ…………あっ!?」
上手く足が上がらず、木の根っこに躓き、黒服は転んでしまう。
「く、そ……」
立ち上がる事もできず、黒服は注射を取り出す。
黒服は、注射男と契約していた黒服である。
かれこれ、20時間、その能力で自分をドーピングしたり、奴らと戦ったりしてきた。
「ぁ……く、そ……」
「あれー?お兄さん、もう限界ですかー?」
不意に、少女の声が聞こえた。
スピーカー越しではない、生の声。
なんとか、顔を上げると、小学生程度のかわいらしい少女の姿。
「もうゲームオーバーですかー。でも、すごくすごいですよー。こんなに長生きしたのはお兄さんが初めてですー」
そう言って無邪気に笑う少女の周りには、奴らがいた。
口裂け女でも、テケテケでも、フラットウッズ・モンスターでも、スカイフィッシュでもない。
それは、都市伝説でもなんでもない、犬だった。
ドーベルマン。土佐闘犬。ドゴ・アルヘンティーノ。アメリカン・ピット・ブルテリア。
そして、チベタン・マスティフ。
一匹いれば、素手の人間ではおよそ勝ち目の無い犬が、何匹も、何匹も、庭をうろつき、襲ってくる。
「そろそろ、終わらせるか」
犬に命令していた男の声が、少女の足元から聞こえた。
「そうですねー。もう無理でしょうしー」
「よーし、お前ら、ヤって良いぞ」
声の正体は、一匹の犬。
人の顔を持つ、人面犬。
「お前、ら……こんな、なんで、こんな事して……」
ゆっくりと、犬達が近づいてくる。
「なんでって、お人形遊びなんかより楽しいからですがー?」
犬が来る。
けれど、黒服の身体は立ち上がる事もできず、手の中の注射一本で、どうにかできるはずもない。
「こんな…………事、して……許される、と…………思っ、て」
足に犬の鼻先が当たっているのに気がつき、黒服はそいつを蹴ろうとする。
もちろん、そんな体力は残っておらず、足を持ち上げただけになった。
「……?よくわかんないですよー?人面ワンさん、この人は……」
「ちゃんと過激派だ。そうだろ?」
人面犬が質問する。
質問の答えは、確かに、この黒服は組織の過激派所属だ。
だが、黒服にそんな質問に答える余裕はない。
身体中、臭いを嗅いでいる犬から何とか逃げようと、必死なのだ。
「過激派さんは組織さんの中からも外からも嫌われてるんでしょうー?だったら、何人かいなくなったって大丈夫ですよー」
少女の、そんな無邪気で残虐な微笑みを、黒服は見ていなかった。
ついに、犬が噛み付き始めていた。
肉を食いちぎり。骨をかみ砕き。
黒服の悲鳴が辺りに響く。
飛び散った血が、少女の足に付く。
それを舐め取りながら、人面犬がたずねる。
「楽しいか?」
「はい、とっても……」
うっとりと、少女は不様にもがく黒服を見ていた。
血の臭いに、犬はまだまだ集まってくる。
悲鳴はもう聞こえない。
終