「でもさー、実際どうかと思うよ」
古書店「カムパネルラ」の店内。店の片隅には控えめにテーブルセットが置かれている。
無論店内での飲食は出来ないが、本をじっくり吟味できるようにとの店主の気遣いで置かれたそれは
専らただ一人のアルバイトがサボって本を読むためか、常連客とのお喋りの場と化していた。
そのアルバイト「ダンタリアン」の契約者たる水上怜奈が
本も何も置いていないテーブルの上にダージリンの注がれたカップを並べていく。
「ふつー美を磨くっていったら、アンチエイジングとか基礎化粧じゃん」
いきなり整形ってどーよ。怜奈の言葉に口裂け女は縮こまった。
「怜奈さん」
穏やかに彼女と契約したばかりの棘が口を挟む。
「たとえば怜奈さんが車を買ったとして
エアロパーツを新たに付けるなり痛車にカスタムしたら工場の人に申し訳ないのかとか
ベーシックな性能こそが車の命だと言われたら、どうします?」
「さあ?あたしは車乗んないから知らない」
棘は椅子からずり落ちそうになった。質問の意図がまるで解っていない。
「・・・質問の内容を変えましょう。もしお洋服を買ってきて、それを怜奈さんなりにコサージュやレースを付けて
リメイクしたところ、デザイナーさんに謝れとかお洋服本来の美はシンプルイズベストとか
全く何の関わりもない人に言われたら、何と思いますか?」
因みに今日の怜奈はといえば、裾に様々なお菓子の柄が並んだ、胸当てのついたエプロン風の水色のスカートに
ピンク色のリボンタイ付きのブラウスを併せた目がちかちかしそうな出で立ち。
両サイドをそれぞれ高い位置で纏めた髪にはビスケットのモチーフが付いたアクセサリーが付けられていて、
「そんな阿呆のような服装で店に立たせられるか」
と危うく店から追い出されそうになった、シンプルイズベストとは対極にある身形だった。
「うーん・・・それはそうかもしれないけど、あたしは好きでこうしてるんだから、どうこう言われても困るとしか」
「でしょう」
顔の造作なんてものもその程度ですよと言われ、困惑したように黙り込む怜奈。
「顔を変えたくらいで生まれ持った個性は失われないし、親に感謝していないという事にはなりません」
「う、うむー・・・」
「怜奈、もうその辺にしておけ。この男の屁理屈にお前如きが太刀打ちできるものか」
それより本の整理でもしておけと店の奥から青年以上少壮未満、といった男が姿を現した。
男性にしては長めの黒髪を適当に纏め、チャイナ風の立ち襟の黒いシャツに、ややシルエットのルーズな黒いズボン姿の彼が 、古書店「カムパネルラ」の店主、九頭竜 神(くずりゅう じん)その人だった。
「えー、もう6時になるじゃんか」
「だったら外の掃除と閉店の支度だ。働け馬鹿者」
店主と雇われバイトとはあまり思えない応酬がその後も続く。
やがて
「わかりましたー」
と気のない返事の後、怜奈が独り言と共に遠ざかる。
「ふふ」
「竹下、何が可笑しい」
「いえね、九頭竜君は昔から偏屈で人嫌いだったのに、随分とあの子には甘いんですねぇ」
古書店「カムパネルラ」の店内。店の片隅には控えめにテーブルセットが置かれている。
無論店内での飲食は出来ないが、本をじっくり吟味できるようにとの店主の気遣いで置かれたそれは
専らただ一人のアルバイトがサボって本を読むためか、常連客とのお喋りの場と化していた。
そのアルバイト「ダンタリアン」の契約者たる水上怜奈が
本も何も置いていないテーブルの上にダージリンの注がれたカップを並べていく。
「ふつー美を磨くっていったら、アンチエイジングとか基礎化粧じゃん」
いきなり整形ってどーよ。怜奈の言葉に口裂け女は縮こまった。
「怜奈さん」
穏やかに彼女と契約したばかりの棘が口を挟む。
「たとえば怜奈さんが車を買ったとして
エアロパーツを新たに付けるなり痛車にカスタムしたら工場の人に申し訳ないのかとか
ベーシックな性能こそが車の命だと言われたら、どうします?」
「さあ?あたしは車乗んないから知らない」
棘は椅子からずり落ちそうになった。質問の意図がまるで解っていない。
「・・・質問の内容を変えましょう。もしお洋服を買ってきて、それを怜奈さんなりにコサージュやレースを付けて
リメイクしたところ、デザイナーさんに謝れとかお洋服本来の美はシンプルイズベストとか
全く何の関わりもない人に言われたら、何と思いますか?」
因みに今日の怜奈はといえば、裾に様々なお菓子の柄が並んだ、胸当てのついたエプロン風の水色のスカートに
ピンク色のリボンタイ付きのブラウスを併せた目がちかちかしそうな出で立ち。
両サイドをそれぞれ高い位置で纏めた髪にはビスケットのモチーフが付いたアクセサリーが付けられていて、
「そんな阿呆のような服装で店に立たせられるか」
と危うく店から追い出されそうになった、シンプルイズベストとは対極にある身形だった。
「うーん・・・それはそうかもしれないけど、あたしは好きでこうしてるんだから、どうこう言われても困るとしか」
「でしょう」
顔の造作なんてものもその程度ですよと言われ、困惑したように黙り込む怜奈。
「顔を変えたくらいで生まれ持った個性は失われないし、親に感謝していないという事にはなりません」
「う、うむー・・・」
「怜奈、もうその辺にしておけ。この男の屁理屈にお前如きが太刀打ちできるものか」
それより本の整理でもしておけと店の奥から青年以上少壮未満、といった男が姿を現した。
男性にしては長めの黒髪を適当に纏め、チャイナ風の立ち襟の黒いシャツに、ややシルエットのルーズな黒いズボン姿の彼が 、古書店「カムパネルラ」の店主、九頭竜 神(くずりゅう じん)その人だった。
「えー、もう6時になるじゃんか」
「だったら外の掃除と閉店の支度だ。働け馬鹿者」
店主と雇われバイトとはあまり思えない応酬がその後も続く。
やがて
「わかりましたー」
と気のない返事の後、怜奈が独り言と共に遠ざかる。
「ふふ」
「竹下、何が可笑しい」
「いえね、九頭竜君は昔から偏屈で人嫌いだったのに、随分とあの子には甘いんですねぇ」
「ったく、給料の割にこき使いすぎだっつの」
ぶつぶつ言いながらも店の前を丁寧に掃く。ゴミでも落ちていたら後で何を言われるかわかったもんじゃない。
掃き掃除を終えると道路に打ち水をしていく。
初夏にしては高い気温が幾分か下がるが大気中の水分が増して行くようで、怜奈は僅かに眉をひそめた。
ふと、立ち上る水蒸気が揺らぎ、ひとりの男の姿が顕わになる。
「お嬢さん…注射をしても宜しいかな」
「ふざけんな!」
みなまで聞かず、男は注射器を構えて突進してくる。
怜奈は慌てることなく男の注射器を持った手首を掴むと、素早く身を翻した!
どさっと鈍い音がして、注射男の体は仰向けにひっくり返り。
なにが起きたのか解らないといった表情でひたすら目を瞬いている。
「人の仕事の邪魔すんな。以上!」
きぱっと言い捨てて注射男に背を向け、再び閉店の準備に取りかかった。
ぶつぶつ言いながらも店の前を丁寧に掃く。ゴミでも落ちていたら後で何を言われるかわかったもんじゃない。
掃き掃除を終えると道路に打ち水をしていく。
初夏にしては高い気温が幾分か下がるが大気中の水分が増して行くようで、怜奈は僅かに眉をひそめた。
ふと、立ち上る水蒸気が揺らぎ、ひとりの男の姿が顕わになる。
「お嬢さん…注射をしても宜しいかな」
「ふざけんな!」
みなまで聞かず、男は注射器を構えて突進してくる。
怜奈は慌てることなく男の注射器を持った手首を掴むと、素早く身を翻した!
どさっと鈍い音がして、注射男の体は仰向けにひっくり返り。
なにが起きたのか解らないといった表情でひたすら目を瞬いている。
「人の仕事の邪魔すんな。以上!」
きぱっと言い捨てて注射男に背を向け、再び閉店の準備に取りかかった。
その日の深夜。
学校町内にあるо(オウ)-No本拠地内にて。
「重症の貧血が・・・頻発?」
「ええ、若い女性を中心に。それまでの健康状態には全く関連のようなものはありません」
「このところ頻発してる『キャトル・ミューティレーション』との関連はどうなのかしらねぇ」
「なんにせよ、重篤な被害が出る前に何とかしないとねー。引き続き捜査してねー」
「了解」
「さて、何が目的なのかしらねぇ・・・」
学校町内にあるо(オウ)-No本拠地内にて。
「重症の貧血が・・・頻発?」
「ええ、若い女性を中心に。それまでの健康状態には全く関連のようなものはありません」
「このところ頻発してる『キャトル・ミューティレーション』との関連はどうなのかしらねぇ」
「なんにせよ、重篤な被害が出る前に何とかしないとねー。引き続き捜査してねー」
「了解」
「さて、何が目的なのかしらねぇ・・・」