「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

死神少女は修行中-24.健康優良児の憂鬱

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 体が痛い。背筋がぞくぞくして、なんだか頭がぼうっとする。
「風邪だね」
 ここ学校町は新田家。ノイと柳を除く全員が風邪にやられていた。
 いや、新田家だけではなく、学校町全体で風邪がパンデミックしていたのだ。
「ムーンストラック、しっかりして」
「む・・・ノイ・リリス。感染るといかん・・・部屋から出なさい」
「極くん、大丈夫?ああ、飛縁魔は殺しても死なないから平気だね」
「ぼ・・・僕は平気です、うっ、げほげほげほ」
「・・・治ったら、ごほっ、張っ倒す」

「みんな、どうしちゃったのかなー?」
 部屋でひとり首をかしげるノイの耳に、小さな声が聞こえる。
「おい!」
「ふぇ?」
 見回しても、誰もいない。みんな風邪で寝込んでいるし、柳は病人の世話に忙殺されている。
 つまらないから幻と遊ぼうかと思ったけど、貴也がひどい風邪で、これまた看病に忙しいのだという。
 空耳かなぁと窓の外に目をやると、
「ここだ!ここ!」
 見下ろしてみると、毒々しい色の小さな金平糖のようなものがそこで声を張り上げて―なにぶん体が小さいので、その分声も小さい―いた。
 どっかで見たことがあるなぁとしばし首を傾げ―
「あ!エヘン虫だ!」
 テレビで見たー!ホントにいるんだー!と好奇心旺盛に突っつき回し出したので“エヘン虫”は大慌て。
「ば!バカかお前!オレ様はな、都市伝説なんだ!」
 その“エヘン虫”いわく、彼は「馬鹿は風邪を引かない」という都市伝説で、普段はひっそり温和しく、冬だけ活動して平和に暮らしていたものの、ここ学校町に来た途端急に能力が拡大して、町中にその力を振りまいてしまったのだという。
「みんな困ってるよー、早くカゼをなおしてよ」
「オレ様は風邪を引かせることは出来ても、風邪を治すことは出来ないんだ!」
 みんな困れ困れー!と高笑いを上げる「馬鹿は風邪を引かない」に向かって、全員の熱冷ましシートとアイスノンを代えた柳が一言。
「このまま風邪が収まらなかったら、『組織』が調査に乗り出して、君なんかあっけなく討伐されちゃうね」
 にこにこの笑顔のままこれを言うものだから、かえって怖くなったらしい。
「うっ!それは困るのだ!オレ様契約者を探さなきゃ」
 彼曰く、契約者を作って契約すれば、力が安定してこんなに無駄に振りまかずに済む、よって風邪のパンデミックも収まる。との事で。

「柳、あたし、行ってきていい?」
 襟元にリボンを結んだ紺色のワンピースに、しっかりベレーを被って。
「じゃ、行ってらっしゃい。みんなの面倒は任せてね」
 元気よく家を出たノイはぱたぱたと駆け出した。

 街にも風邪はあふれていた。
「けほん、けほん」
「げほっ・・・こんな時にも呼び出しなんて、蓮華ちゃんも冗談キツいぜ」
「ご主人様・・・しっかり、こほっ」
「はっくしょん!」
「ごほっごほっ・・・ああ、あそこに健康な人間が、ああ妬ましい、健康が妬ましい・・・!」
「ホントにみんなカゼだぁ・・・エヘン虫、なんとかできないの?」
「だーかーら!オレ様はエヘン虫じゃなくて!ああもういい!」
「ねーねーっ」
 ふたり(?)に声を掛けてきたのは、水色の髪と目の、ノイよりちょっと年上の、可愛い女の子。
 その子はエヘン虫を指さして一言。
「それ、食べてもいーかな?」
「ふぇ?」
 エヘン虫を?食べる?
「このコは都市伝説だから、食べられないよ?」
 あまりにも唐突な申し出に、ふたりとも頭がついて行かない。
 そうこうするうちに―
「えいっ」
 その水色の髪の少女が、エヘン虫をつまみ上げてぽいっと口に運ぼうとした。
「わー!!??」
「やめてー!?」
 ノイが少女に飛びついた拍子に少女の手がエヘン虫から離れ、あわててエヘン虫はノイの後に隠れる。
「私ね、つーちゃん」
「『感染系都市伝説担当部署』ο(オミクロン)-No.2」
「ゼロりんの命令で、その都市伝説を“食べに”来たんだ」
「えっ・・・エヘン虫を、食べるの?」
 ダメだよ!とノイが悲鳴を上げる。
「だって、命令なんだもーん」
 “つーちゃん”と名乗った少女はじりじりとノイに近寄る。
「邪魔すると、あなたも食べちゃうよ?」
(このコ・・・本気だ)
 どうしよう、エヘン虫が食べられちゃう。
 少女の動きに合わせてじりじりとノイも後ずさりする・・・が。
(どうしよう、壁だ)
「じゃあ、いっただきまー・・・」

「あーっ!!!!」

 時ならぬ大声に、思わず“つーちゃん”の動きが止まる。
 大声の主は、長い茶髪のサイドだけを高い位置で束ね、水色に白いメリーゴーランドの柄がプリントされたワンピースを着た、
 ふたりよりも更に年上と思しき、辛うじて少女と言えるくらいの女の子。
「それ、可愛いー!貰っていい?ううん、ちょーだい?」
「え、でもこのコ」
 茶髪の少女はしばしじーっ、とノイを見つめる。
 この少女は「ダンタリアン」の契約者、水上怜奈。
 契約都市伝説である「ダンタリアン」の力を最大限に使い、あらゆるモノに「変身」し、
 さらに「ダンタリアンの書物」であらゆる生き物の思考を“読む”事が出来る。
「あ、うん。いーよ、よくわかったから」
 ひとり勝手に頷くと、ひょいとエヘン虫をつまみ上げる。
「それ、私が食べるんだけどー!」
 さっと延びてくる“つーちゃん”の手をかわすと
「へーんっ、しんっ!」
 茶髪の少女は見る見るうちに、小柄な黒髪に、ベレー帽姿の少女となっていた。
「う、うっそー!?」
「な、な、なんだぁ?」
 ノイが、ふたり。
 これには当のノイも、エヘン虫もびっくり。
 未だに呆然としているノイの手を、ノイに“変身”した怜奈が持ち上げ
「どっちだっ?」
「え?え?こっち?」
 あまりの急展開に彼女も着いていけなくなったのか、ノイの方を指し示す。
「あっそ、じゃ、コレあげる」
 自らの盾にするようにひょいっとノイを差し出した怜奈。

「へーんっ、しんっ!」

 お次は一羽の鳩になり、羽音もばたばたと喧しく飛び去っていった。

「・・・・・・」
「・・・・・・」
 あとに残されたのは、黒髪と水色の髪の、ふたりの少女。
 先に我に返ったのは、水色の髪の少女で。
「ねっ!都市伝説は!?」
 揺さぶられたノイは、未だに夢でも見ているかのような表情。
「あ、あの子が、持ってっちゃった・・・」
 “つーちゃん”はしばらくその場でわなわな震えて立ち尽くしていたが、やがて。
「わーん!ゼロりんにいいつけてやるー!!」
 盛大に泣きながら、去っていった。


 それから程なく。
 学校町で大流行した風邪は程なく終息に向かい、街はいつもの平穏を取り戻した。
「エヘン虫、元気でやってるかな・・・」
 いつもの家のいつもの部屋でひとりごちるノイ。
「待って・・・『バカは風邪を引かない』?ってことは・・・あたし、バカってこと!?」

 その疑問に今更気づいたことが、何よりの答えだろう。



END

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