12 在りし日
夢を、見ていた
もう遠い昔の話だ
親のいない俺は施設で育った
そこでANと契約を結んで訓練を受けた
次世代を担う人材になっていく為の訓練だった
だけど、俺達は然程そういったことを意識していなかった
『みんな、昨日のおさらいだ。三つの合言葉、覚えてるね?』
誰もがあの人に憧れていた
俺にとってもあの人は憧れだった
誰もがあの人になろうと頑張っていた
『器の大きさはー?』
『『『じゅーにんといろー!』』』
懐かしい
もう戻ってくることのない日々
これはあの頃の記憶の欠片に過ぎない
『力の強さはー?』
『『『おもいのつよさー!』』』
俺はあの人には、なれなかった
それを知ったとき俺は初めて早渡脩寿になろうとした
そして――今の俺はどうだ。なれたのだろうか、早渡脩寿に
『技の形はー?』
『『『そーぞーりょくー!』』』
もう、分からない
今となっては、何も
俺が何者なのかどうかすら
俺は、今、夢を見ている
全てが、夢なら、良かったのに
「――、――」
目が覚めた
時計を確認すると深夜二時半
いつもの起床時間だ、バイトの準備をしないと
時計を確認すると深夜二時半
いつもの起床時間だ、バイトの準備をしないと
酷く懐かしい夢だった
上体を起こして軽く頭を振った
もう少し続きを見てたかった気もするが、起きなきゃな
上体を起こして軽く頭を振った
もう少し続きを見てたかった気もするが、起きなきゃな
携帯を弄ってメールを確認する
『今日はありがとうございました!
これからも、どうぞよろしくお願いします!』
これからも、どうぞよろしくお願いします!』
顔が緩みそうになる
喫茶店で晩ご飯を食べた後、おばちゃんズに絡まれてしまい
途中店長さんの度々の乱入もあって、結局閉店間際まで喫茶店で過ごしてしまった
喫茶店で晩ご飯を食べた後、おばちゃんズに絡まれてしまい
途中店長さんの度々の乱入もあって、結局閉店間際まで喫茶店で過ごしてしまった
帰宅して後に届いたのが、この千十ちゃんからのメールだ
商業のダチ公の話ではツイッターやらラインやら色々あるらしいが詳しくは知らない
千十ちゃんの電話番号とメルアドだけで俺にとっては十分だった
商業のダチ公の話ではツイッターやらラインやら色々あるらしいが詳しくは知らない
千十ちゃんの電話番号とメルアドだけで俺にとっては十分だった
ここで一つ罪を白状しなければならない
千十ちゃんを南区のホテルに連れ込んでお互いに欲望を吐き出すという刹那の妄想は
今となっては数枚のティッシュと共に、秋の夜が作り出す影と闇のあわいへと消えていった
千十ちゃんを南区のホテルに連れ込んでお互いに欲望を吐き出すという刹那の妄想は
今となっては数枚のティッシュと共に、秋の夜が作り出す影と闇のあわいへと消えていった
今となっては後悔している
一応本気で言ってるんだ、これは
こんな気分になったのは初めてだったと言い訳する積りは無い
ああそうとも、俺は最低のクソ野郎だ。言い訳などできるはずが無い
一応本気で言ってるんだ、これは
こんな気分になったのは初めてだったと言い訳する積りは無い
ああそうとも、俺は最低のクソ野郎だ。言い訳などできるはずが無い
罪悪感が酷い
全部俺の劣情が悪い
全部俺の劣情が悪い
強く頭を振って欲望の残滓を追い出す
もう一度、千十ちゃんからのメールを眺めた
施設時代の子に再会できるとは思わなかった
小さい子犬を助ける為に、野犬の群れが疾駆する校庭に進んでいった、あの子と
小さい子犬を助ける為に、野犬の群れが疾駆する校庭に進んでいった、あの子と
目を閉じた
こうして出会えたことを大切にしたい
こうして出会えたことを大切にしたい
「千十ちゃん、か」
いい友達でいたい
理由もなくそう思えた
理由もなくそう思えた
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