11 再会
「メゾン……ド、ラルム?」
「はい! 『ラルム』ですの!」
「はい! 『ラルム』ですの!」
学校町東区、のさらに奥
コトリーちゃんは東区の奥がバイト先だと話していた
だが厳密に見るとここは既に学校町ではなくて東区に隣接する町だ
引っ越してきたばかりの頃に地図と睨めっこして学校町の範囲を追ったのでよく覚えている
コトリーちゃんは東区の奥がバイト先だと話していた
だが厳密に見るとここは既に学校町ではなくて東区に隣接する町だ
引っ越してきたばかりの頃に地図と睨めっこして学校町の範囲を追ったのでよく覚えている
俺は今、コトリーちゃんのバイト先にいた
俺の隣にいるドリル髪な女の子が赤マントに襲われていたコトリーちゃんだ
彼女をおぶって逃げ出した後バイトへ行く途中だったと言うのでここまで送ったんだ
襲われたショックで腰が抜けていたようだがもう大丈夫そうなのでお店の前で彼女を下ろした
俺の隣にいるドリル髪な女の子が赤マントに襲われていたコトリーちゃんだ
彼女をおぶって逃げ出した後バイトへ行く途中だったと言うのでここまで送ったんだ
襲われたショックで腰が抜けていたようだがもう大丈夫そうなのでお店の前で彼女を下ろした
バイト先だという喫茶店を眺める
店の前の看板には「メゾン・ド・ラルム」とあった
白いレンガの外壁だ、鉢植えの緑色がよく映えている
こういう例えが正しいかは分からないが可愛い雰囲気のお店だ
店の前の看板には「メゾン・ド・ラルム」とあった
白いレンガの外壁だ、鉢植えの緑色がよく映えている
こういう例えが正しいかは分からないが可愛い雰囲気のお店だ
よし、帰ろう!
「じゃあ、コトリーちゃんバイト頑張ってね」
「あっ待って下さいっ!」
「あっ待って下さいっ!」
腕を掴まれた
「あのっ! 助けてもらったお礼がしたいですの! ご馳走させて下さいっ!」
「いいよそんな! 悪いって!」
「わ、私の問題ですわ!」
「いいよそんな! 悪いって!」
「わ、私の問題ですわ!」
コトリーちゃんは俺の腕を両手で握っている
しっかり掴んで離す気は無いようだ、意外と力強いな!?
しっかり掴んで離す気は無いようだ、意外と力強いな!?
「助けてもらったのに何もお礼しないだなんて、私が納得できませんの!」
((> x < ;)))みたいな顔して俺をお店の中へくいくい引っ張り込もうとする
わ、分かったから! ちょ、分かったから! ああもうなんてこった!
「わ、分かったよ! 入る! 入るから!」
彼女は既に扉へ手を掛けていた
ドアベルが大きく響く、何故だか緊張してきたぞ
ドアベルが大きく響く、何故だか緊張してきたぞ
意外と広めの喫茶店だった
シックな内観だがやっぱりその雰囲気は可愛い感じだ
シックな内観だがやっぱりその雰囲気は可愛い感じだ
今の時間帯は然程混んでいるわけではないらしい
喫茶店の中では年配の女性客が数名談笑をしている
喫茶店の中では年配の女性客が数名談笑をしている
お店の外装から薄々予想はしてた
正直言って10代の野郎が入っていいようなお店では、ない
正直言って10代の野郎が入っていいようなお店では、ない
今の気分を率直に話すと
可愛いウサギさん達の村に突如薄汚い野良犬がやって来た! って感じだろうか
可愛いウサギさん達の村に突如薄汚い野良犬がやって来た! って感じだろうか
「いらっしゃいませー」
奥から出てきた店員さんと目が合う
コトリーちゃんと同じ年くらいの子だ、思わず会釈してしまった
ん? 何だろう、店員さんが口に手を当ててめっちゃ目を見開いてこっち見てる
コトリーちゃんと同じ年くらいの子だ、思わず会釈してしまった
ん? 何だろう、店員さんが口に手を当ててめっちゃ目を見開いてこっち見てる
俺か? 俺なのか?
まだ何も悪いことはしてないはずだけど何だ!?
何かやってしまったのか俺!? まさかドレスコード違反か!?
まだ何も悪いことはしてないはずだけど何だ!?
何かやってしまったのか俺!? まさかドレスコード違反か!?
「あらまあコトリーヌちゃん! 彼氏さん連れて来たのぉ?」
いきなり横から声が掛かり心臓が飛び出しそうになった
そちらを見れば先程の年配女性客の一人だろうか、ニコニコ顔で近づいてきている
そちらを見れば先程の年配女性客の一人だろうか、ニコニコ顔で近づいてきている
「違いますのっ!! 私、さっき変質者に追い掛けられましたの!! この方が助けてくれましたの!!」
「あらまっ!! 変質者ですってぇ!? 怖いわねぇ! 気を付けなきゃダメよぉ!!」
「あうっ! わ、分かってますのっ!」
「あらまっ!! 変質者ですってぇ!? 怖いわねぇ! 気を付けなきゃダメよぉ!!」
「あうっ! わ、分かってますのっ!」
おばちゃん特有のテンションを前に若干圧倒される
それと今の会話だと何だか俺こそがその変質者ではないのかという錯覚にだな
それと今の会話だと何だか俺こそがその変質者ではないのかという錯覚にだな
「今の時間は空いてますの! テーブル席で待ってて下さい! こっちですの!」
おばちゃんを振り切るようにしてコトリーちゃんに引っ張られ奥の席に案内された
ありがたいことに先程のおばちゃんグループからは離れたテーブル席だ
ありがたいことに先程のおばちゃんグループからは離れたテーブル席だ
「ちょっとてんちょーに話をつけてきますの! そのままお待ちくださいませね!」
パタパタと奥の方へ行くコトリーちゃんを目で追う
入れ違いに先程会釈した店員さんがこっちへやって来た
入れ違いに先程会釈した店員さんがこっちへやって来た
「いらっしゃいませ。あの、『ラルム』へようこそ」
お水とメニューを持ってきたことに軽く会釈で応じる
テーブルにお水を置いてくれた手は白く――ふるふる震えてるぞ?
思わず店員さんの顔を見ると、めっちゃ赤い顔をして俺の目を見ていた
テーブルにお水を置いてくれた手は白く――ふるふる震えてるぞ?
思わず店員さんの顔を見ると、めっちゃ赤い顔をして俺の目を見ていた
「あの……脩寿くん、だよね……?」
「!?」
「!?」
待て
学校町に来てから女性に名前呼びされたことは一度もない、これは確実
そしてこの店員さんは俺の名前を知っている。つまり俺のことを知っているわけで
そしてこの店員さんは俺の名前を知っている。つまり俺のことを知っているわけで
過去に会ったことがあるってことだよな。ならば、この子は一体、誰だ?
高校に入って真っ先に叩き込まれたのは次のことだった
世の女性の容姿には二種類あってそれは「美人」と「カワイイ」である、と
これに関しては酷い目にあったので、この命題は世の中の真実として俺の中に君臨している
世の女性の容姿には二種類あってそれは「美人」と「カワイイ」である、と
これに関しては酷い目にあったので、この命題は世の中の真実として俺の中に君臨している
そして目の前の店員さんは10人中10人の早渡が「カワイイ」と即断するタイプの女の子だ
この天使のような顔立ちならば、いくらボンクラな俺の頭にも記憶として焼き付いているはずだ
この天使のような顔立ちならば、いくらボンクラな俺の頭にも記憶として焼き付いているはずだ
俺の脳みそがフル回転を始める
商業の子では無い、確実だ。こんな可愛い子は商業にはいない
商店街で会ったことがある? いや無い、会ったのは年上の方々ばかりだ
勿論、俺がこのお店に来たのは初めだから過去にここで出会ったということは無い
商業の子では無い、確実だ。こんな可愛い子は商業にはいない
商店街で会ったことがある? いや無い、会ったのは年上の方々ばかりだ
勿論、俺がこのお店に来たのは初めだから過去にここで出会ったということは無い
ならば学校町に来る前に出会った?
七つ星団地で厄介になっていたときに? 無い、誓っていい
七つ星団地で厄介になっていたときに? 無い、誓っていい
「あの、覚えてないかな? ナナオの施設で、一緒だったんだけど……。覚えてないよね……」
最後の可能性に行き当たる前に、彼女が答えをくれた
「嘘っ……!? ナナオの、施設の!?」
「っ……うん! 脩寿くんはANクラスだったよね、私は普通クラスだったから」
「っ……うん! 脩寿くんはANクラスだったよね、私は普通クラスだったから」
まさかだ
まさか、この町でナナオ時代の子と出会えるなんて、思ってなかった
まさか、この町でナナオ時代の子と出会えるなんて、思ってなかった
「あのっ、あのね……。私、脩寿くんに助けられたことがあって。それで覚えてて」
「えっ、えっ?」
「あの、初等部のときに施設にいっぱい犬が入ってきて、そのとき、脩寿くんに助けてもらったんだけど」
「ああ……あああ!!!」
「えっ、えっ?」
「あの、初等部のときに施設にいっぱい犬が入ってきて、そのとき、脩寿くんに助けてもらったんだけど」
「ああ……あああ!!!」
思い出した。いや、言われるまで思い出せなかった
チャイルドスクール時代の話だ、大量の野犬が施設内に入り込んできた事件があった
忘れもしない。俺が初めて人前で都市伝説――ANを発現させたときだ。忘れられるわけがない
チャイルドスクール時代の話だ、大量の野犬が施設内に入り込んできた事件があった
忘れもしない。俺が初めて人前で都市伝説――ANを発現させたときだ。忘れられるわけがない
そしてあのとき
俺は一人の女の子を助けた記憶がある
遠い過去の話だ、でも今でもはっきりと、思い出せる
俺は一人の女の子を助けた記憶がある
遠い過去の話だ、でも今でもはっきりと、思い出せる
「あの、白い子犬を助けようとして飛び出してった、あの、女の子……?」
「……っ!! 覚えて、たんだ。……うんっ、そうです。あのとき助けてもらった、はいっ!」
「言われて思い出したよ、うん! でもまさか、本当にあの時の?」
「……っ!! 覚えて、たんだ。……うんっ、そうです。あのとき助けてもらった、はいっ!」
「言われて思い出したよ、うん! でもまさか、本当にあの時の?」
なんということだ
まさかあの子とこんな形で再会するとは
まさかあの子とこんな形で再会するとは
「脩寿くん、本当に覚えてたんだ」
「いやあ、言われて思い出して言うのもアレだけど。忘れられないや」
「いやあ、言われて思い出して言うのもアレだけど。忘れられないや」
そうだ、忘れられるはずがない
あの事件は表向き、施設内に野犬が入り込んだということになっている
だが本当は違う。あれは何者かが作為的に引き起こした人狼の襲撃だった
あの事件は表向き、施設内に野犬が入り込んだということになっている
だが本当は違う。あれは何者かが作為的に引き起こした人狼の襲撃だった
当時、俺がその事実を知ったのはもう少し後になってからだ
「あの、……ええと。ごめん、名前を聞いても、いいかな」
「えっ、あっ……はい。 千十です。遠倉千十って言います」
「千十ちゃん」
「えっ、あっ……はい。 千十です。遠倉千十って言います」
「千十ちゃん」
駄目だ、初めて聞く名前だ
だけど、知らなかったとは言いたくなかった
だけど、知らなかったとは言いたくなかった
「俺の名前は、あの、もう知ってると思うけど」
「うんっ! 早渡、脩寿くん。ずっと覚えてたよ!」
「うんっ! 早渡、脩寿くん。ずっと覚えてたよ!」
何だか恥ずかしさと申し訳なさが込み上げてきた
しかもこの状況、というか感情は、物凄いデジャブだ
それもそうだ、高奈先輩のときのそれと非常によく似ている
しかもこの状況、というか感情は、物凄いデジャブだ
それもそうだ、高奈先輩のときのそれと非常によく似ている
「脩寿くんは、ナナオ出た後にすぐ学校町に来たの?」
「え? ああ、いや違うんだ。実は俺、今年の四月にこっちに越してきたばかりで」
「そうだったんだ」
「千十ちゃんは、ナナオの後にこっち来たの?」
「うん、お姉ちゃんと一緒にすぐここに来て、中学校からずっとこっちで」
「え? ああ、いや違うんだ。実は俺、今年の四月にこっちに越してきたばかりで」
「そうだったんだ」
「千十ちゃんは、ナナオの後にこっち来たの?」
「うん、お姉ちゃんと一緒にすぐここに来て、中学校からずっとこっちで」
そうか、ナナオが潰れた後にすぐ学校町へ引っ越してきたのか
「あのっ、脩寿くん。もし良かったら、あの、……お友達になって下さいっ!」
「えっ嘘、あの、えっ、いいの? 本当に? 嬉しいよ!」
「えっ嘘、あの、えっ、いいの? 本当に? 嬉しいよ!」
千十ちゃんからの突然の申し出に、嬉しさのあまり挙動不審さに加速が掛かりそうだ
てか最近凄いな、俺
高奈先輩に続いて可愛い女の子と友達になれるとは
四月からの不毛具合と比較したら何だこれは雲泥の差だぞ
高奈先輩に続いて可愛い女の子と友達になれるとは
四月からの不毛具合と比較したら何だこれは雲泥の差だぞ
まさか“ツキ”ってヤツが非常に猛烈な勢いで俺に接近しているのではないだろうか
「俺もほら、引っ越してきて心細かったんだ
まさかナナオ時代の子と再会できるなんて思ってなかったし」
まさかナナオ時代の子と再会できるなんて思ってなかったし」
友達が増えるってのと、特に女の子の友達が増えるってのは大きい
友達自体はいるにはいるが商業のダチ公は野郎ばっかりだし
そもそも、それはそれ、これはこれで話が別だ!!
友達自体はいるにはいるが商業のダチ公は野郎ばっかりだし
そもそも、それはそれ、これはこれで話が別だ!!
「ええと、あれだ。連絡先を教えた方がいいよね?」
「あっ……、ごめんなさい。今アルバイト中だから、携帯をロッカーに置いてあって」
「えっあっそうか、ごめん! じゃああの、俺の連絡先を書いて渡すね」
「いいの!? ごめんなさい! あのっ、ありがとう!」
「あっ……、ごめんなさい。今アルバイト中だから、携帯をロッカーに置いてあって」
「えっあっそうか、ごめん! じゃああの、俺の連絡先を書いて渡すね」
「いいの!? ごめんなさい! あのっ、ありがとう!」
ペンは、持ってる
男の流儀ってわけじゃないがボールペンは常に携帯してる
だが紙が、ない
男の流儀ってわけじゃないがボールペンは常に携帯してる
だが紙が、ない
辺りを見回すがそれらしい物はない
いや、ある。テーブルの上の紙ナプキンだ
一枚抜いてボールペンを手に取り、電話番号とメルアドを書くことにした
いや、ある。テーブルの上の紙ナプキンだ
一枚抜いてボールペンを手に取り、電話番号とメルアドを書くことにした
何だか気恥ずかしくなってきたぞ
紙が無いとはいえ紙ナプキンに書くことになるとはな
俺も高奈先輩に倣ってこれからはブレザーにお洒落な便箋を忍ばせておこう
紙が無いとはいえ紙ナプキンに書くことになるとはな
俺も高奈先輩に倣ってこれからはブレザーにお洒落な便箋を忍ばせておこう
「千十~、てんちょーが呼んでますの~!」
ビビってペンを取り落としそうになった
コトリーちゃんがこっちへ近づいてきている
コトリーちゃんがこっちへ近づいてきている
「えっ、あっ、ごめんタマちゃん! 今行きますっ!」
んなっ!? アドレスを渡しそびれてしまった
ていうかまだ書いてる途中だ、間に合わなかったか
ていうかまだ書いてる途中だ、間に合わなかったか
「これは私からのお礼ですわ! 無料ですわ! ごゆっくりどうぞ、ですわ!」
コトリーちゃんはお店の制服に着替えていた
カップに入った紅茶とケーキの乗った皿をテーブルに置こうとする
急いでアドレス書きかけの紙ナプキンを脇の方へどけた
カップに入った紅茶とケーキの乗った皿をテーブルに置こうとする
急いでアドレス書きかけの紙ナプキンを脇の方へどけた
「メニューはお下げしますの」
「ああ!? ちょっ、コトリーちゃん待って!」
「ああ!? ちょっ、コトリーちゃん待って!」
考えるより先にコトリーちゃんを止める
駄目だ、これを食べてハイ終わりは駄目だ!
それにほらあれだ、俺はお金を払っていないし!
駄目だ、これを食べてハイ終わりは駄目だ!
それにほらあれだ、俺はお金を払っていないし!
「あの、コトリーちゃん。俺、ここで晩ご飯を食べていくことにするよ」
「あら、そうですの? ……まさか、早渡さん。気を遣ってますの?」
「いや違うよ、ほらあの! お腹もグーペコだしさ!」
「あら、そうですの? ……まさか、早渡さん。気を遣ってますの?」
「いや違うよ、ほらあの! お腹もグーペコだしさ!」
実にジャストタイミングで腹の虫が鳴った
運が良いとしか思えない、グッジョブだ腹の虫!
運が良いとしか思えない、グッジョブだ腹の虫!
「初めて来たお店だし、折角だから奮発して美味しいの食べて帰りたいんだ!」
「むー……、何だか気を遣われてる気がしますけど、……じゃあ分かりましたの!」
「むー……、何だか気を遣われてる気がしますけど、……じゃあ分かりましたの!」
コトリーちゃんはむうと唸っていたが、やがてメニューを見せてくれた
よし、これでもう少し喫茶店に長居できるな!
よし、これでもう少し喫茶店に長居できるな!
「なんかコトリーちゃんのオススメってある?」
「『ラルム』はフレンチとイタリアンって建前ですの、あくまで建前ですの。例えばこの――」
「『ラルム』はフレンチとイタリアンって建前ですの、あくまで建前ですの。例えばこの――」
「やあ、君! どうも初めまして!」
出し抜けに真横から声を掛けられてビックリした
ついでにコトリーちゃんも「いぴッ!?」と変な声を上げて驚いていた
ついでにコトリーちゃんも「いぴッ!?」と変な声を上げて驚いていた
いきなり声を掛けてきた人を見る
若い男性だ、格好からして喫茶店のスタッフさんだ
業務用の帽子を被ったその人は俺を見ながらニコニコしている
若い男性だ、格好からして喫茶店のスタッフさんだ
業務用の帽子を被ったその人は俺を見ながらニコニコしている
「うちのコトリーちゃんを助けてくれたんだってね!
本当にどうもありがとう! これも何かの縁だと思ってね!
どうかな!? もし良ければ君も一緒に『ラルム』で働かないかい!?」
本当にどうもありがとう! これも何かの縁だと思ってね!
どうかな!? もし良ければ君も一緒に『ラルム』で働かないかい!?」
「ちょっ、てんちょー!? やめて下さい!! お客様ですのよ!?」
「あ、あー、すいません。俺、他にバイトしてて」
「あ、あー、すいません。俺、他にバイトしてて」
「掛け持ちでもいいから! 本当にお願いだよ! ウチは女の子しかいないんだ!
男独りでやってるとさ、時折無性に泣きたくなることがあるんだよね! 頼むよ!!」
男独りでやってるとさ、時折無性に泣きたくなることがあるんだよね! 頼むよ!!」
その男性はニコニコしながらそんなことを言う
途中から俺の手を取ってお願いしてきたが、その目は泣きそうになっていた
繰り返すが、顔は笑っていて、目が泣きそうになっている
途中から俺の手を取ってお願いしてきたが、その目は泣きそうになっていた
繰り返すが、顔は笑っていて、目が泣きそうになっている
「てんちょー! お客様困ってらっしゃいますの! それにキッチンはどうしましたの!?」
「大丈夫!! 千十ちゃんが一人でやってるから!!」
「何やってますの!? 早く! キッチンに! 戻って下さいませ!!」
「そっちの男の子がウチでバイトしてくれるって言うならすぐにでも戻るよ!!」
「大丈夫!! 千十ちゃんが一人でやってるから!!」
「何やってますの!? 早く! キッチンに! 戻って下さいませ!!」
「そっちの男の子がウチでバイトしてくれるって言うならすぐにでも戻るよ!!」
「すいません、時間が……無いっす」
「ほらぁ!! お客様困らせるのやめて! 早くキッチンに戻って! ですの!!」
店長さんはコトリーちゃんに背中を押されて半ば無理矢理奥へと押しやられていった
かなり落ち込んでる様子が店長さんの背中から伝わってくる
そんなに男手が欲しかったのか、店長さん……
かなり落ち込んでる様子が店長さんの背中から伝わってくる
そんなに男手が欲しかったのか、店長さん……
コトリーちゃんが肩で息しながら戻ってきた
「早渡さん、ごめんなさい。普段は悪いてんちょーじゃありませんの」
凄くバツの悪そうな顔をしている
こっちが申し訳ない気分になってきた
もういっそのこと、この喫茶店で働いてみるか?
こっちが申し訳ない気分になってきた
もういっそのこと、この喫茶店で働いてみるか?
「でもこれ以上スタッフ増やしたら、てんちょー怒られてしまいますの」
話を聞くと、喫茶店の数字はその道ウン十年のパートさんが管理しているそうだ
店長さんでは務まらないらしく、パートさんには完全に頭が上がらないらしい
店長さんでは務まらないらしく、パートさんには完全に頭が上がらないらしい
「ところで早渡さん。千十とはお友達でしたの?」
「えっ、ああ。どうも幼馴染だったみたいで。俺もさっき知ってさ、ビックリだよ」
「そうでしたの!?」
「えっ、ああ。どうも幼馴染だったみたいで。俺もさっき知ってさ、ビックリだよ」
「そうでしたの!?」
ただ何というか、幼馴染という言葉が適当かどうかは分からない
俺は千十ちゃんを知ってたが、顔と名前は覚えていなかった
俺は千十ちゃんを知ってたが、顔と名前は覚えていなかった
「運命というものですわね……。羨ましいですわ、羨ましいですわ」
コトリーちゃんは妙な関心の仕方をしている
「ちょっと! ちょっと待ってて、ですの!」
コトリーちゃんは少し慌てた様子で奥の方へ行ってしまった
ふとテーブルに広げられたメニューに目を落とした
確かにイタリアンだ、あとフレンチだったか。でも建前がどうとか言ってたな
確かにイタリアンだ、あとフレンチだったか。でも建前がどうとか言ってたな
その前に、だ。書きかけのアドレスを書き上げなきゃ
脇に除けた紙ナプキンを手に、連絡先の残りを書き込む
脇に除けた紙ナプキンを手に、連絡先の残りを書き込む
「あのっ、……脩寿くん」
「!」
「!」
顔を上げると千十ちゃんが戻ってきた
思わず席を立った
思わず席を立った
「千十ちゃん、これ。お願いします!」
書き上げたばかりの連絡先を両手で差し出し、お辞儀する
「あっ、こ、こちらこそよろしくお願いしますっ!」
千十ちゃんも、それを両手で受け取ってくれた
顔を上げると奥からコトリーちゃんがこっちを窺っていた
「よしっ!」とガッツポーズを取っている
「よしっ!」とガッツポーズを取っている
「初いわねぇ♥」
そこへおばちゃんの声が掛かる
先程の年配女性とその同席のおばちゃんズがめっちゃニヤニヤしながらこっちを見ていた
先程の年配女性とその同席のおばちゃんズがめっちゃニヤニヤしながらこっちを見ていた
まさか一部始終を全部見られてたのかよ、んっとーに恥ずかしいな!!
千十ちゃんの方を見ると彼女の顔は耳まで真っ赤になっていた
俺も同じ気分だ、今なら顔から火が出せそうな勢いだ
俺も同じ気分だ、今なら顔から火が出せそうな勢いだ
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