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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 次世代ーズ-13

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匿名ユーザー

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13 素性 I




「実は。以前から、あなたのことを、見ていたの」

 文脈が違えば心拍数が一気に上がりそうな発言だ
 もちろん色んな意味で

「五月、だったかしら。『組織』の黒服を、遠巻きに見ている、あなたを、見たことが、ある」
「ああ、ばっちり見られてたわけっすね。俺」

「そのときから、声をかけたいと、思っていたわ」




 週明けの放課後、俺は高奈先輩に誘われて町を案内されることになった
 四月に引っ越してきたとはいえ、もう学校町のあちこちは見て回った
 だがこういう好意には素直に甘えたい

 学校町は大まかに四つの区域に分けられることは知っていたが
 北区の山から流れる川によって分割できることは先輩に教えられて知った

 この日は彼女の提案もあって俺達は北区の神社を目指していた
 放課後すぐの約束だったので俺も先輩も制服のままだ
 先輩の私立のブレザー姿は新鮮だった




「早渡君は。『組織』を、避けているの?」

 そうだ
 率直に言えばそうだ
 俺は「組織」を避けている

 「組織」。社会の害悪となる都市伝説を駆逐し、その力を管理する集団だ
 だが連中がやっていることはそれだけじゃない。都市伝説の隠蔽もまた彼らの職分だ
 そして俺が「組織」を避ける理由はそこに関わってくる。正しく言うと彼ら「組織」は俺にとって仇だった

 先輩は俺が「組織」を避けていることは勘付いていたのか
 先輩に見られてたというときの行動があからさま過ぎたのだろうか
 もしかしたらあのとき、「組織」の黒服も俺の方に気付いてたかもしれない

「私も、よ。早渡君」
「え……?」

 俺が答える前に、先輩が口を開いていた
 横に並んだ先輩の顔を見る。いつもの穏やかな表情だ

「私も、『組織』とは関わらないように、しているわ」
「『組織』に加われって強要されたんすか?」
「いいえ、そうではないの」

 先輩は穏やかな声で答えた

「私の、好きだった人は。『組織』の黒服に、殺されたの」
「ッ……!?」


 理由は、重過ぎるものだった


「あの人は。黒服と刺し違えたけれど。私は、あの人を、助けられなかった」



 訊くべきでは無かった。あまりにも軽率過ぎた
 何と声を掛ければいいんだ

「早渡君」

 先輩と目が合う。表情は柔らかい

「気にしないで。あの人は、私のここに、いるわ」

 そう言いながら自分の胸に手を当てる

「先輩……」
「それに、ね」

 先輩は何故か悪戯っぽく笑った

「一年に一度は、あの人に、逢えるから。それが、私にとっての、楽しみなの」
「逢えるん、ですか?」
「ええ。年に一度だけれど」

 先輩はどこか遠くを見ている

「だけど、今年は、ケンカ別れしてしまったから。来年、来てくれるか、心配ね」
「あの。それって……?」
「お盆に、戻ってくるのよ。あの人。まだ、未練が、あるの」

 そう話しながら、先輩はもう一度悪戯っぽく笑う
 それは未だ見たことのない、先輩の不思議な表情だった
 思わず目を逸らした。俺なんかが見てはいけない気がしたんだ

「あの人。私に、まだ。未練があるの。意地っ張りだから、絶対に、認めようと、しないけれど」

 でも、と高奈先輩は言葉を続ける

「だからって、逢えるからといって。『組織』のやったことを、忘れられる、わけではない
 黒服にも、それなりの、理由があって、あの人を、始末しに、きたと思う。でも
 だからといって、『組織』を許せるほど。私は、大人じゃない」

 それが、高奈先輩が「組織」と関わらない理由
 そりゃそうだ。最愛の人をぶっ殺しに来た連中を許せるはずがない

 実は今の話で色々聞きたいこともある
 先輩に恋人がいたことや、お盆に死者が戻ってくる伝承が実在するのか
 だが今は、それを訊くべきときでは無い。俺なんかが訊いて良いことでも無い

 ぐっと抑え込む

「俺も、『組織』とは関わりたくないです」

 正直このタイミングで切り出していいのか迷う
 だが「ヒーローズカフェ」を後にしたとき俺は決めたはずだ

「昔話をすることになるんですけど。いいっすか?」


 高奈先輩は頷いた





「俺は親がいなくて、施設で育てられたんですよ。『七尾』って知ってますか?」
「ええ。知っているわ。でも、『七尾』は、確か」
「はい。丁度俺が六年のときに潰れました」


 俺がいた施設は、簡単に説明すると養育施設と保幼小中高一貫校が一緒になった感じの学校だ
 こうまとめてしまうと我ながら凄い所にいたんだな、俺
 それはいいとして、だ

 ここ20年のうちに急増した孤児の問題は社会にとっても解決すべき問題だった
 背景については色々議論があるけど今は措こう

 そうした問題に対処しようと動いたのがこの国の大企業だ
 彼らは積極的に教育や児童福祉の部門を創設して問題解決に乗り出した
 「七尾」もまたそうした複合企業の一つで、俺はその「七尾」の施設でお世話になった

 勿論この話には裏がある
 大体20年くらい前にこの国の政界の裏でとんでもない計画が進んでいた
 隠蔽され続けてきた都市伝説の存在を利用して政治・経済界の両面で莫大な利益をあげようと
 一部の政治家と都市伝説業界の関係者が結託して長期的規模の壮大な陰謀を巡らせていたのだ

 医療を例に取ろう
 現行の製薬産業に対して所謂“霊薬”が登場したらどうなるだろう?
 優れたお医者さんに対して“治癒系の契約者”が登場したらどうなるだろう?
 都市伝説由来の存在や技術や製造物が現行の市場において圧倒的優位性を持つのは言わずとも明らかだ

 そして、そうした力を一部の者達が独占できるとしたらどうなるだろう?

 美味しいパイがそこにはある
 今までには無かった、美味しくて大きなパイが

 かくして暗黒メガコーポとも呼ぶべきこの国の一部の大企業はその素敵な可能性に目をつけた
 都市伝説業界は、彼らにとって新たなパイであり、金のなる木であったというわけだ
 木になる果実を口にすればどんな結果を招くのか、彼らは熟慮しなかったようだ

 そして当然の話だが、都市伝説業界の番人達はこれを看過しなかった
 どう考えても荒唐無稽過ぎるこの陰謀は実行前に阻止された
 そのとき動いた勢力の一つが、恐らく「組織」だ
 結局、陰謀家達は人知れず粛清された
 そこまではいい

 裏の世界を知った大企業の幾つかは、この夢の市場を諦められなかった
 彼らは都市伝説業界の番人達の目を盗んで、何とか夢の力を手中に収めようとした

 だが結局の所、彼らは表の人間だ
 やりたくても出来ることには当然限界がある
 彼らには知識も技術も無く、ましてや実在化した都市伝説の何たるかを知らない

 だから彼らは「基礎研究」を進めた
 番人達の目を盗みながら、ゆっくりと、しかし、着実に
 そうした「基礎研究」に手を出した大企業の一つが、そう、「七尾」だった

 「七尾」は孤児達の中で適正のある子を調査・特定した
 来るべき都市伝説の市場を担っていく人材を育成するためだ
 適正のある子供達は一つのクラスに集められ、集中的な訓練を受けることになった

 ところで、「七尾」時代の終盤に俺はこんな話を聞いたことがある
 都市伝説に適正を示す子供達は10年ほど前をピークに明らかに増加傾向にあった
 そのほとんどが“孤児”だ、孤児の増加と子供の契約適合者の増加は軌を一にしていた
 まるで社会全体が“学校町”になったかのようだ、研究者の一人がそう零したのを覚えている



 話を戻そう





「ニュースで、何度か、目にしたわ」
「表向きはスキャンダルでしたからね、施設の子に性的虐待って」


 「七尾」は俺が小学校六年に相当する学年のときに解体された
 施設職員が組織ぐるみで性的児童虐待の問題を隠蔽していたのが発覚したからだ
 この事件がきっかけとなって世間の批判を浴びた「七尾」は、遂に児童福祉の部門を潰すことになる
 同時に「七尾」系施設の子供達は新たな受け入れ先を探す難民と化した
 当時のワイドショーは連日「七尾」問題で大賑わいだった

 ニュースでは以上のように報道されている
 だがこれはあくまで表向きの理由だ
 なら真相は? お察しの通りだ


「早い話が『七尾』も裏で都市伝説の研究を進めてて、それがバレたんですよ」


 少し話が込み入るが、性的虐待自体はあった

 実際に施設の教職員が子供達に猥褻行為をやらかし問題になったことは以前にも何度かあった
 というか普通に逮捕者も出したし、報道もされたし、お役所の内部調査も行われたが
 その度に七尾のお偉いさん達は「誠に遺憾であり」の一点張りで切り抜けていた

 それが先の性的虐待の隠蔽報道のときには施設解体にまで発展したのだ
 何故今回はここまで? と思う者あり、ようやく潰れたかと思う者あり
 評論家気取りの御仁共は銘々が好き勝手に意見を宣っていた

 施設を解体するに際して、叩けば幾らでも出る埃を利用したと見るのが適当な所だろう


「研究の一環で『七尾』は都市伝説に適正のある子を特定して、契約させて、訓練してたんです」
「それは、つまり、早渡君も」
「はい。俺もそこでANと契約して、教育されました。あ、“AN”ってのは実在化した都市伝説のことです」


 俺も今でこそ都市伝説と呼んでいるが、実際にこの“都市伝説”という語を使うときはある種の前提に立っている
 つまり、それが話としての都市伝説ではなくて、話が実在化した存在を意味する語であること
 そして、実在化したのは狭義の都市伝説だけとは限らないこと
 こうした前提だ

 「七尾」ではこれを“Actualized Narratives”、「顕在化した語り」とのニュアンスを持ったANという語で呼んでいた
 俺達のような適正ありの子供達は、契約書の形で封印されたANと契約を結び、能力者となった
 そして同期の連中と一緒にANのお勉強が始まったというわけだ


「俺もANクラスのメンバーとして同期の奴らと一緒に訓練されました。それで」

 言葉を区切る
 俺達は既に東区を抜け、北区に入っていた
 北区は学校町でも静かな雰囲気をたたえた場所だ

 神社までもう少し距離があるだろう

「『組織』はANクラスの奴らを確保したかったんだと思います」



「俺達は『組織』が襲撃するって話を聞いて
 先生達に半分無理矢理『七尾』から叩き出されました」

「『組織』が、来たのね?」
「はい、俺も自分の目ではっきり見ました」


 「組織」が襲撃する、という話を聞かされた
 突然の話だった。襲撃の実に数時間前の時点だ
 俺達ANクラスの連中は文字通り這う這うの体で逃げ出した


「俺もダチと一緒に逃げた所を黒服に追跡されて、ヤバかったっす」
「大丈夫、だったの?」
「はい、本格的にヤバいってときに
 『七つ星団地』って所の兄ちゃん達に助けられました
 それで、俺とダチは助かったんです。助かったんすけど」


 高奈先輩の顔を見た
 これを、話すべきだろうか
 先輩はじっと俺を見詰め返している

 先輩に嘘を吐きたくなかった


「同じANのクラスに、初恋の幼馴染がいたんですよ」


 アイツのことだ


「まあ施設解体の日に告って、すごいフラれ方しちまったんすけど」


 アイツは「組織」に連行された。アイツは自分から「組織」に随っていた
 そんな話を聞いたのは「七つ星」に厄介になって大分経ってからだ

 今となっては確かめようもない話だが、「組織」はアイツを回収したがっていたらしい
 その理由は予想がつく。アイツは優秀で強力な契約者だった
 彼女は「七尾」の最高傑作と呼ばれた存在だ


「アイツは『組織』に連行されて、それで俺は『七つ星』で世話になって」


 俺は「七つ星」で用心棒見習いの傍ら、アイツの情報を集めていた
 アイツが学校町にいるという真偽不明な情報を耳にしたのもその頃だ


「で、俺が『七つ星』でバウンサーとして本デビューしてから一年くらい経ったときに」


 あの日のことは今でも思い出す


「アイツが死んだって話を聞きました。組織の命令で『狐』討伐戦に駆り出されて、殺されたと」


 「組織」に首輪を付けられ、連中に飼育されることになったアイツは
 当時から問題になっていた「狐」を討伐する非公式の作戦に参加したそうだ


 で、死んだ





「早渡君」


 先輩は立ち止まった
 それは静かな声だった


「あなたは、その子の。仇を、討つために、学校町へ、来たの?」


 目を、見返す
 強い意志を感じる眼差しだった
 俺の目を、心を、突き刺すように見詰めている

 俺は首を横に振った


「『狐』は強いって聞いてます。正直俺が勝てる相手じゃないっす」


 自覚はある
 相手は強力な精神干渉能力、“魅了持ち”だ
 加えて強すぎる配下で周囲を固めているという話だ、到底太刀打ちできる相手ではない


「『狐』の連中も色々やらかしてるわけですから、ほら
 『組織』とか『首塚』とかに目を付けられてるわけじゃないっすか
 だから、多分、そういう勢力が『狐』を討伐するんじゃないかって、そう思ってます」


 既に「狐」はお尋ね者だって話だ、いずれ誰かが倒すだろう
 きっと誰かが、倒してくれるはずだ。この町の、誰かが。きっと


「俺は。 ――『狐』の討伐を見届けるために、学校町へ来ました」


 高奈先輩は黙って俺の話を聞いていた
 だが、何か言いたげな目で俺を見詰めていた

 先輩から視線を外す


「だから、そういう過去のこともあって『組織』とは関わりたくないっす
 『七尾』が裏で都市伝説研究やってて目を付けられたんだから、自業自得なんすけど」


 「組織」にも「組織」なりの理由があったのだろう
 だが、そんなものは結局あちら側の都合に過ぎない


 「七尾」に非があったとしてもだ
 俺にとって、あそこは家のようなものだった
 親に捨てられたような俺にとって、縋るのはあそこしか無かった


「『組織』相手に挑もうなんて思っちゃいません
 ただ、今はもう。連中とは関わりたくないだけっす」


 「組織」が憎くないと言えば大嘘になる
 控えめに言って連中は俺にとっての仇なことには変わりない
 育ててくれた場所を壊し、初恋のアイツを死に追いやった連中だ


 そうは言っても
 相手は「組織」、強大な勢力だ
 連中を敵に回すほど俺は無謀でも無いし、勇敢でも無い
 向こうから積極的に仕掛けてこない限りは、こちらも事を構える積りは無い



「神社、見えてきましたね」



 ようやく目的地が見えてきたな

 正確には山の上の神社へと続く、長い石段だ
 最初に神社へ来たときは登るのに一苦労するんじゃないかと思ったもんだ


「早渡君」


 高奈先輩に呼ばれる
 先輩は先程と同じ眼差しで俺を見詰めていた


「あなたの、幼馴染の子の、名前。聞いても、いいかしら」


 秋の風が通り抜ける
 俺は先輩の目をしばらく見詰め返し、神社の石段の方へ顔を背けた


「九宮空七(くみや うるな)です」



 俺達は石段へと進んだ





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