06 不意
美人さんと出会ったあの雨の夜から数日後の晩、俺は相変わらず逃げ回っていた
しかも今度の相手は都市伝説じゃない、嬉しいことに「組織」所属の契約者ときたもんだ
しかも今度の相手は都市伝説じゃない、嬉しいことに「組織」所属の契約者ときたもんだ
「馬鹿じゃないの」
感激のあまりつい本音が漏れる
全く涙まで出てきやがったぜ畜生
全く涙まで出てきやがったぜ畜生
歳の近そうな女の人でしかも美人さんと出会えたもんだから、てっきりツキが回ってきたものと勘違いしていた
そうではなかった、良いことが起これば漏れなく悪いことも起こるとはよく言ったものだ
そうではなかった、良いことが起これば漏れなく悪いことも起こるとはよく言ったものだ
隠す気の全くない殺気が迫ってくる
後方からの霊圧を伴ったそれは未だに俺を追跡していた
なんで俺をここまで追い回すんだ!? 以前の赤マントの方がまだ可愛げがあったぞ!?
後方からの霊圧を伴ったそれは未だに俺を追跡していた
なんで俺をここまで追い回すんだ!? 以前の赤マントの方がまだ可愛げがあったぞ!?
「馬鹿じゃないの」
走りっぱなしで正直余裕はないが吐き捨てずにはいられない
今は兎に角逃げなければ
ねっとりと絡み付いてくる大気を振り切るように脚を動かす
今は兎に角逃げなければ
ねっとりと絡み付いてくる大気を振り切るように脚を動かす
時は少しだけ遡る
俺は夜中に学校町の東区を散歩していた
四月から不定期に始めた夜の散歩は今じゃ日課になりつつある
ここはもう半年近く歩き回ってるが、まだまだ分からないことが多過ぎだ
東区は学校町の中で最大の区域だと耳にした覚えがあり、町の中央も東区に含まれるらしい
なので散歩の範囲はかなり広く、予めポイントを決めて散策しないとあっという間に迷いだすことになる
四月から不定期に始めた夜の散歩は今じゃ日課になりつつある
ここはもう半年近く歩き回ってるが、まだまだ分からないことが多過ぎだ
東区は学校町の中で最大の区域だと耳にした覚えがあり、町の中央も東区に含まれるらしい
なので散歩の範囲はかなり広く、予めポイントを決めて散策しないとあっという間に迷いだすことになる
ここ最近は東区の北側ばかり見て回っている
個人的には北側のニオイは好きだし、山に近くてのどかな雰囲気がある
個人的には北側のニオイは好きだし、山に近くてのどかな雰囲気がある
だが
俺は顔を上げて前方の校舎を見た
学校町内で最大と言われている中学校だ
古い学校のようで近いうち創立80年か90年を迎えるらしい
三年前、この中学で10人もの女子生徒が屋上から飛び降りた
そしてそれは飛び降りなんかではなく、中学の教師が生徒を突き落としていた
犠牲者の中には教師の実の娘も含まれていたらしい
学校町内で最大と言われている中学校だ
古い学校のようで近いうち創立80年か90年を迎えるらしい
三年前、この中学で10人もの女子生徒が屋上から飛び降りた
そしてそれは飛び降りなんかではなく、中学の教師が生徒を突き落としていた
犠牲者の中には教師の実の娘も含まれていたらしい
ひどい話だ
評論家気取りの連中は近頃の親世代の価値観や責任感の崩壊を批判している
ワイドショーが昨今の孤児の急増について特集を組んだりするのも今となっては珍しくない
俺だってある意味親に捨てられたような身だし、この突き落とし事件にしてもどこか他人事とは思えなかった
ワイドショーが昨今の孤児の急増について特集を組んだりするのも今となっては珍しくない
俺だってある意味親に捨てられたような身だし、この突き落とし事件にしてもどこか他人事とは思えなかった
で、だ
何故俺が中学校のフェンスをよじ登って中へ侵入しているのか
単純な話、敷地に沿って遠回りするより校庭を抜けて行った方が近道という真実に気付いたからだ
何故俺が中学校のフェンスをよじ登って中へ侵入しているのか
単純な話、敷地に沿って遠回りするより校庭を抜けて行った方が近道という真実に気付いたからだ
校庭を突っ切って近道するのは今回が初めてじゃない
自分が見た限りだと警備員さんは巡回していないようだった
万が一誰かと鉢合わせしたりしたら、謝罪して近道しようとしただけだと説明するつもりだ
自分が見た限りだと警備員さんは巡回していないようだった
万が一誰かと鉢合わせしたりしたら、謝罪して近道しようとしただけだと説明するつもりだ
校庭特有の砂の感触を踏みしめつつ、夜の闇の中にある校舎の方へ目を向ける
物静かな中にもどことなく剣呑な空気を感じるのはこの中学の持つ歴史の重みか、先の事件現場だからなのか
とにかく足早にここ突っ切ろうと校舎から前方へと視線を動かして、思わず立ち止まった
物静かな中にもどことなく剣呑な空気を感じるのはこの中学の持つ歴史の重みか、先の事件現場だからなのか
とにかく足早にここ突っ切ろうと校舎から前方へと視線を動かして、思わず立ち止まった
誰かが、いる
先程までニオイも気配もまるで何も無かったが、確かに誰かが立っている
人物のシルエットからして警備員さんでは無さそうだ
人物のシルエットからして警備員さんでは無さそうだ
「何度か見かけた顔だ」
その声は思いの外、若い
若いというか中学か高校くらいと見るべきか
下手すると俺と歳が近いかもしれない、あと多分男だ
若いというか中学か高校くらいと見るべきか
下手すると俺と歳が近いかもしれない、あと多分男だ
「不思議な気配だな、気配を殺したかと思えば微かに気配を滲ませる、それを不定期に繰り返している」
俺が固まっているうちにも、そいつはゆっくりとこっちへ歩を進めてきた
「当初は何かの合図かとも思ったが、まあいい。契約者だな?」
「っ!?」
「っ!?」
息を、飲んだ
悟られたか?
さらに一点気付く
目の前のそいつは腰に刀を差していた
悟られたか?
さらに一点気付く
目の前のそいつは腰に刀を差していた
咄嗟に感覚を全開にする
何やら古いニオイだが間違いなく都市伝説由来のソレだ
加えて特有の臭気を微かに感じる
思わず舌打ちしたくなった
何やら古いニオイだが間違いなく都市伝説由来のソレだ
加えて特有の臭気を微かに感じる
思わず舌打ちしたくなった
「『組織』所属の契約者か……!?」
「いかにも」
「いかにも」
こちらの問いに、野郎は即答
少々まずいぞ、遂に『組織』関係者と遭遇だ
少々まずいぞ、遂に『組織』関係者と遭遇だ
「このような場所で会ったのも何かの縁だ、是非手合わせを願いたい」
「お断りだ!」
「お断りだ!」
切るように告げて明後日の方向へ地面を蹴った
何がなんでもこの場から逃げないと!
何がなんでもこの場から逃げないと!
だが、不意の殺気
勢いづけて逃げ出そうとした脚を急停止させた直後、逃走先の前方の地面が破裂した
両腕で顔を庇い飛来する砂石に耐える
両腕で顔を庇い飛来する砂石に耐える
「背を向けて逃げ出すとは、いい度胸だ」
「ふざ、け……っ!!」
「ふざ、け……っ!!」
どうやら俺を逃がすつもりは無いらしい
手合わせがしたいらしい野郎を睨み、先程破裂した地面の方に視線をやる
手合わせがしたいらしい野郎を睨み、先程破裂した地面の方に視線をやる
地面は破裂したのではなく、青白い光を発する槍が刺さっていた
俺の逃げ道を封ずる為に投げたものだ
地面からやや離れた方を見れば、槍を投げた主がいた
俺の逃げ道を封ずる為に投げたものだ
地面からやや離れた方を見れば、槍を投げた主がいた
古めかしい甲冑を纏った人物は全体から青白い光を発している
武者だ、どこをどう見ても武者だ、しかも俺の推測が正しければ都市伝説だ
恐らく野郎が契約している個体だろう
その表情は影の所為で全く見えないがこちらに注意を向けているのは嫌でも分かる
何故って新たに槍を肩に担ぐようにして構えていたからだ
武者だ、どこをどう見ても武者だ、しかも俺の推測が正しければ都市伝説だ
恐らく野郎が契約している個体だろう
その表情は影の所為で全く見えないがこちらに注意を向けているのは嫌でも分かる
何故って新たに槍を肩に担ぐようにして構えていたからだ
まるで槍投げ選手のようだ
俺が逃げようとしても更に槍を投げて牽制するつもりだ、そういう意志を感じる
てかおかしいだろ!? あんな長柄の槍って普通投げて使うもんじゃ無いだろ!?
しかも甲冑着込んだままで槍を投げてくるっておかしいだろ!?
普通は弓で狙うだろ!! いや射られても困るけども!!
俺が逃げようとしても更に槍を投げて牽制するつもりだ、そういう意志を感じる
てかおかしいだろ!? あんな長柄の槍って普通投げて使うもんじゃ無いだろ!?
しかも甲冑着込んだままで槍を投げてくるっておかしいだろ!?
普通は弓で狙うだろ!! いや射られても困るけども!!
「これで心置きなく勝負ができるというものだ」
「一方的に仕掛けてきやがって何が『心置きなく勝負』だ、アンタ」
「一方的に仕掛けてきやがって何が『心置きなく勝負』だ、アンタ」
率直な感想が口を衝いて出る
あちらは既に抜刀しており、よほどやり合いたいらしい
いや、色々言いたいことはあるが、相手は『組織』だ
道理と誠意が通用する相手とは思えない
あちらは既に抜刀しており、よほどやり合いたいらしい
いや、色々言いたいことはあるが、相手は『組織』だ
道理と誠意が通用する相手とは思えない
手合わせすると見せかけて、隙を突いて逃げる
もうこれしかない
もうこれしかない
「参る」
「ふざけやがって……!」
「ふざけやがって……!」
右手を前方へ差し出す
手元から“黒棒”を生成し、同時に一気に距離を詰める
手元から“黒棒”を生成し、同時に一気に距離を詰める
「ッしィ――ッ!」
息を吐きながら右薙ぎを狙って“黒棒”を振るう、がヤツは受けた
鍔迫り合いに持ち込む積りは無い、さもなくば引き技で俺がアウトだ
足元が砂地だからかやけに滑るが知るか! 向かって左側へ回り込む
鍔迫り合いに持ち込む積りは無い、さもなくば引き技で俺がアウトだ
足元が砂地だからかやけに滑るが知るか! 向かって左側へ回り込む
相手より速く、もっと速く! 打ち込まれる前に!
大地を摺るように足を捌き、野郎と距離を取る
相手の体を注視、既に脚へ力を込めている。間合いを詰めて斬りかかる積りか
チャンスは今だ
相手の体を注視、既に脚へ力を込めている。間合いを詰めて斬りかかる積りか
チャンスは今だ
“黒棒”の形成を崩し、鞭のようにしならせた
そしてそのまま一気に、ヤツの脚に目掛けて一撃をぶち込んだ
そしてそのまま一気に、ヤツの脚に目掛けて一撃をぶち込んだ
が、ヤツはこれを
「面白いな」
普通に捌いた
剣客は下半身の防御が疎かになるので実戦では先ず脚を狙え、と言ったのは誰だったか
少なくともこれは実戦を生きる刀使いには通用しない話だ
ああそうとも、かつて刀使い相手に下半身ばっか攻めた挙句一本取られまくったのがこの俺だ
少なくともこれは実戦を生きる刀使いには通用しない話だ
ああそうとも、かつて刀使い相手に下半身ばっか攻めた挙句一本取られまくったのがこの俺だ
そしてやり合って分かったが目の前の相手は強い、間違いなく強い
俺はそもそも刀使いでは無いが、それでも相手の力量くらいは分かる
こちらの攻撃を捌きつつ余裕でこちらの隙を観察しているのが嫌でも伝わってきた
俺はそもそも刀使いでは無いが、それでも相手の力量くらいは分かる
こちらの攻撃を捌きつつ余裕でこちらの隙を観察しているのが嫌でも伝わってきた
相手は正眼に構え、改めてこちらに相対している
今度こそ突っ込まれたら間違いなくヤバい
ならば
今度こそ突っ込まれたら間違いなくヤバい
ならば
鞭状の“黒棒”を引き寄せ、再度前方へ叩き付ける
但し、今度はヤツにではなく、地面に向かってだ
抉られた砂石は野郎目掛けて飛散した
但し、今度はヤツにではなく、地面に向かってだ
抉られた砂石は野郎目掛けて飛散した
「っ!?」
野郎が息を飲む気配を掴んだ
身を翻して、あの鎧武者の方へ疾走
武者の方は先程のように槍を構えているが、遅い
かなり距離はあるが“黒棒”の射程内だ、迷うことなく武者へと打ち込む
鞭は武者の片脚に絡まった――そのまま引き戻すように“黒棒”を振るうと武者はそのまま転倒
身を翻して、あの鎧武者の方へ疾走
武者の方は先程のように槍を構えているが、遅い
かなり距離はあるが“黒棒”の射程内だ、迷うことなく武者へと打ち込む
鞭は武者の片脚に絡まった――そのまま引き戻すように“黒棒”を振るうと武者はそのまま転倒
急げ急げ急げ!
この隙に逃げ出さなければ俺が危ない
足を動かし、ようやくフェンスに辿り着くと縋るようによじ登りフェンスを跨いで――校庭の方を見た
先程の野郎は抜き身の刀を握ってこっちへ疾走していた
おまけにその横に仲良く並ぶように鎧武者も槍を担いで走って
足を動かし、ようやくフェンスに辿り着くと縋るようによじ登りフェンスを跨いで――校庭の方を見た
先程の野郎は抜き身の刀を握ってこっちへ疾走していた
おまけにその横に仲良く並ぶように鎧武者も槍を担いで走って
「ボエェーッ!!??」
俺は間抜けな声と共にフェンスから転落した
飛んできた槍がフェンスに突き刺さり、衝撃で揺さぶられたからだ
校庭側に落ちなかったのは幸いだ! てかあの体勢から投げるのかよ!?
槍は俺がいた所の大体横に突き刺さってるぞ!? 本気で俺を殺す気だったのか!?
飛んできた槍がフェンスに突き刺さり、衝撃で揺さぶられたからだ
校庭側に落ちなかったのは幸いだ! てかあの体勢から投げるのかよ!?
槍は俺がいた所の大体横に突き刺さってるぞ!? 本気で俺を殺す気だったのか!?
驚いている暇はない
俺は転げるように逃げ出した
俺は転げるように逃げ出した
無我夢中でかなり走った
以前赤マントに追い掛けられた時より頑張った気がする
以前赤マントに追い掛けられた時より頑張った気がする
後方を確認するがもう霊圧も殺気も無い
撒いたか? 撒けたのか、俺!?
撒いたか? 撒けたのか、俺!?
「っしゃァァあああーッッ!!」
謎の喜びのあまり思わずガッツボーズだ
俺には肉親はいないが仇ならいる
その一つが「組織」だ
とはいえ態々敵対するほど俺も向こう見ずではない
向こうから突っ込んでこない限りはな!
その一つが「組織」だ
とはいえ態々敵対するほど俺も向こう見ずではない
向こうから突っ込んでこない限りはな!
しかし、だ
今回の出来事に関してはかなりまずい気がする
今夜のことが切っ掛けで、ある日突然「組織」がやって来たらどうしようかね
「組織」に歯向かった貴様は不届千万! よって死刑! ってな具合にだ
この町に来る前に色々想定した中でもかなり良くない方のパターンだ
今回の出来事に関してはかなりまずい気がする
今夜のことが切っ掛けで、ある日突然「組織」がやって来たらどうしようかね
「組織」に歯向かった貴様は不届千万! よって死刑! ってな具合にだ
この町に来る前に色々想定した中でもかなり良くない方のパターンだ
「狐」が討伐されるのを見届けるまで、果たして俺は逃げ切れるだろうか
思わず溜息が出る
まだ起こってないことを悩んでても仕方ない、今は考えるのを止めにした
まだ起こってないことを悩んでても仕方ない、今は考えるのを止めにした
ガムシャラに走った所為で自分が今どこを歩いているのか本格的に分からなくなっている
多分東区の真ん中辺りだろう、遠方より微かに繁華街の喧噪が聞こえる
とりあえず、以前と同じように南区を目指すか
多分東区の真ん中辺りだろう、遠方より微かに繁華街の喧噪が聞こえる
とりあえず、以前と同じように南区を目指すか
そうだな
曇掛かった夜空を仰ぐ
曇掛かった夜空を仰ぐ
本格的に自主トレを再開しよう
もう暫く夜間徘徊もとい夜の散歩は控えよう
あと近道だからって中学校へ侵入&校庭を横断するのはもう止めよう
もう暫く夜間徘徊もとい夜の散歩は控えよう
あと近道だからって中学校へ侵入&校庭を横断するのはもう止めよう
そう決意した
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