16 そして、謝罪へ
☞ 「アクマの書き手 ◆MERRY/qJUk」さんの「ヒーローズカフェにて」から
本スレ Part12の>>503-506
ヒーローズカフェで夕食を取った後
俺は篠塚さんのご厚意で学校町の地理と施設について一通り教えて貰った
俺は篠塚さんのご厚意で学校町の地理と施設について一通り教えて貰った
正直、この時点で頭がパンクしそうだった
その上、厨房で調理をしていた女の子、文さんが美弥さんの実妹であること
美弥さんも瑞希さんも文さんも、既に都市伝説と化した存在であることを聞いた
美弥さんも瑞希さんも文さんも、既に都市伝説と化した存在であることを聞いた
俺の頭はショート寸前だった
言い訳したい
篠塚さんが「怪奇同盟」の所属であること
そして、養い親から「怪奇同盟」の盟主さんへ挨拶に行くよう言われたことから
篠塚さんも都市伝説関係者であるとは予想していた
篠塚さんが「怪奇同盟」の所属であること
そして、養い親から「怪奇同盟」の盟主さんへ挨拶に行くよう言われたことから
篠塚さんも都市伝説関係者であるとは予想していた
まさか夫婦揃って都市伝説と化していたとは、予想を軽く超える事態だ
先程から震えが止まらない
高奈先輩はそんな俺を見て笑いを堪えているようだが
先輩は篠塚さん夫妻と文さんがそういった存在であることを知っていたのだろうか
高奈先輩はそんな俺を見て笑いを堪えているようだが
先輩は篠塚さん夫妻と文さんがそういった存在であることを知っていたのだろうか
確かに、“波”を読めば篠塚さん達の状況を知り得たかもしれない
でもそんな失礼なことはできるはずがなかった
相手は、篠塚さん夫妻だ
そして今回の挨拶先の方々でもある
でもそんな失礼なことはできるはずがなかった
相手は、篠塚さん夫妻だ
そして今回の挨拶先の方々でもある
訪問先の方の“波”を読むなど、先方の許可なく相手の領域に空間転送するようなものだ
言ってみれば、ホストの玄関のドアを蹴破って土足で押し入るような行為だ
そんなことが許される相手ってのは、敵対者か警戒対象くらいだ
篠塚さん相手にそんな無礼が働ける筈が無かった
言ってみれば、ホストの玄関のドアを蹴破って土足で押し入るような行為だ
そんなことが許される相手ってのは、敵対者か警戒対象くらいだ
篠塚さん相手にそんな無礼が働ける筈が無かった
だが
雰囲気的に美弥さんが熟達者であることは伝わってきた
ということは恐らく、瑞希さんもまた歴戦の強者なんだろう
雰囲気的に美弥さんが熟達者であることは伝わってきた
ということは恐らく、瑞希さんもまた歴戦の強者なんだろう
正直、怖れすら感じる
特に怖れの感情を抱いたのは、文さんに対してだった
最初、能力が展開されたときは驚きの余り声を上げてしまった
話によれば美弥さんと俺達の声が外へ届かなくなるように能力を行使したらしい
その微かな光を発する膜に包まれたとき、心地よい圧迫感を感じた
これは完全に俺の主観だが、文さんの能力は“西”の護法に似ているようで、少し異質だった
きっと強力な術を編むことが出来る人なんだろう、そう感じた
最初、能力が展開されたときは驚きの余り声を上げてしまった
話によれば美弥さんと俺達の声が外へ届かなくなるように能力を行使したらしい
その微かな光を発する膜に包まれたとき、心地よい圧迫感を感じた
これは完全に俺の主観だが、文さんの能力は“西”の護法に似ているようで、少し異質だった
きっと強力な術を編むことが出来る人なんだろう、そう感じた
ほんの一瞬だけ
もし美弥さんが俺の親父であったら、という考えが脳裏を過っていった
もし美弥さんが俺の親父であったら、という考えが脳裏を過っていった
莫迦か俺は
感傷もいい所だ
感傷もいい所だ
そして
美弥さんは「怪奇同盟」の盟主さんについて話をしてくれた
美弥さんは「怪奇同盟」の盟主さんについて話をしてくれた
盟主さんは今まで所在不明だった
盟主さんが精力的に活動していたのは今から20年も前に遡る
美弥さんもその頃に「怪奇同盟」に加わったそうだ
美弥さんもその頃に「怪奇同盟」に加わったそうだ
そして、その5年後
つまり今から15年前に盟主さんは姿を消した
つまり今から15年前に盟主さんは姿を消した
元々緩やかな集団だったという「怪奇同盟」は
それを契機として活動を休止することになった
それを契機として活動を休止することになった
時は流れ、現在
盟主さんは姿を現した
人を襲う、都市伝説として
盟主さんは姿を現した
人を襲う、都市伝説として
盟主さんは、「逢魔時の影」と呼ばれる日没直前に出現する怪異を率いており
美弥さんは実際に盟主さんの姿を確認し、交戦した
美弥さんは実際に盟主さんの姿を確認し、交戦した
率直に白状しよう
盟主さん、やばいよ
話を聞く限りではかなり危険だ
盟主さん、やばいよ
話を聞く限りではかなり危険だ
「敵に回ってみるとなかなかどうして戦いにくい相手だよ
そういうわけで今、怪奇同盟は活動休止状態で、盟主様には会えない状況なわけだ」
そういうわけで今、怪奇同盟は活動休止状態で、盟主様には会えない状況なわけだ」
「よ、よくわかりました……」
そういう事情があったとは
全く無知なままで篠塚さんを訪ねてきたのか、俺は
全く無知なままで篠塚さんを訪ねてきたのか、俺は
正直、この時点で俺の脳は煙を上げていた
盟主さんは今でも夕暮れ時には町内を徘徊している
それ以上のことを考えようにも、脳みそはもうオーバーヒートしていた
盟主さんは今でも夕暮れ時には町内を徘徊している
それ以上のことを考えようにも、脳みそはもうオーバーヒートしていた
「そういえば、早渡君は『首塚』とも接触をするつもりか?」
「え゙っ、いや、それは多分無い……と、思います、けど」
「え゙っ、いや、それは多分無い……と、思います、けど」
反射的にそう答えてしまった
美弥さん、今、「首塚」と話したか?
美弥さん、今、「首塚」と話したか?
「もし『首塚』のメンバーと話す場合
特に『首塚』のトップである将門公と話す機会があったら、盟主様の話題は出さないでくれ」
特に『首塚』のトップである将門公と話す機会があったら、盟主様の話題は出さないでくれ」
「そ、それはどういう……まさか『首塚』と『怪奇同盟』は敵対してたり?!」
「いやまあその、敵対はしていないし正直これも俺の憶測というか……
とにかく向こうから振られない限り、盟主様の話題は控えたほうがいい
でないと面倒なことが、起こらないとは思うんだが……頭の片隅に留めておいてくれ」
とにかく向こうから振られない限り、盟主様の話題は控えたほうがいい
でないと面倒なことが、起こらないとは思うんだが……頭の片隅に留めておいてくれ」
頷くより外無かった
「首塚」か
将門様の率いる勢力だ
確か、学校町も活動圏内だったか
将門様の率いる勢力だ
確か、学校町も活動圏内だったか
行くことは無いだろう、多分
あって欲しくない、絶対に
だって、怖いんだぞ?
あの将門様だぞ
怖い
あって欲しくない、絶対に
だって、怖いんだぞ?
あの将門様だぞ
怖い
とはいえ、だ
不安材料が無いわけでは無い
つまり、「七つ星」の養い親、俺が世話になっている親父殿だ
あの爺さん、「首塚」にまで挨拶に行ってこいとか言わないだろうな
不安材料が無いわけでは無い
つまり、「七つ星」の養い親、俺が世話になっている親父殿だ
あの爺さん、「首塚」にまで挨拶に行ってこいとか言わないだろうな
頼むから言わないでくれ
そう祈らずには居られない
そう祈らずには居られない
しかし、美弥さんの話から推すに
「怪奇同盟」と「首塚」は過去に何らかのやり取りがあったようだ
どういったやり取りがあったのかは怖くて聞けないが
「首塚」とも渡り合う「怪奇同盟」はかなり強力な集団に違いない
そう思わずには居られなかった
「怪奇同盟」と「首塚」は過去に何らかのやり取りがあったようだ
どういったやり取りがあったのかは怖くて聞けないが
「首塚」とも渡り合う「怪奇同盟」はかなり強力な集団に違いない
そう思わずには居られなかった
「うんまあ、そういうわけで俺から伝えたいことはこれくらいだけど、何かあるかな?」
「すいません、正直、訊きたいことより、理解するのに、精一杯で……」
「すいません、正直、訊きたいことより、理解するのに、精一杯で……」
自分が情けなくなる
顔を上げると、美弥さんはこっちを見ていた
「まあ、無理もない」といった表情だろうか
顔を上げると、美弥さんはこっちを見ていた
「まあ、無理もない」といった表情だろうか
「でも、多分、『首塚』には行かないと思います」
美弥さんに答える為に
というより、自分自身に言い聞かせる為に
もっと言うと、そんな未来が絶対起きませんようにと祈る為に
というより、自分自身に言い聞かせる為に
もっと言うと、そんな未来が絶対起きませんようにと祈る為に
そう答える
「……万が一行くとしても、約束します
絶対に、盟主さんのことは話しません」
絶対に、盟主さんのことは話しません」
更に付け加える
美弥さんに言われたからには従う積りだ
そもそも「首塚」を訪れなければその必要も無い筈だ!
だからきっと大丈夫! 心の中でそう自分に言い聞かせる
美弥さんに言われたからには従う積りだ
そもそも「首塚」を訪れなければその必要も無い筈だ!
だからきっと大丈夫! 心の中でそう自分に言い聞かせる
そこで唐突に思い出した
「墓守」さんの件だ、俺は「墓守」さんに謝罪しないといけない
「墓守」さんの件だ、俺は「墓守」さんに謝罪しないといけない
俺は「怪奇同盟」に接触しようと
四月から毎月満月の晩に東区の墓地で
かなりの失礼をやらかしてしまっていたんだ
たとえそれが、人面犬のおっさんに乗せられたものだったとしても、だ
四月から毎月満月の晩に東区の墓地で
かなりの失礼をやらかしてしまっていたんだ
たとえそれが、人面犬のおっさんに乗せられたものだったとしても、だ
俺は無礼の数々を「墓守」さんに謝らなくてはならない
これは、美弥さんに相談しなくてはならない問題だろう
これは、美弥さんに相談しなくてはならない問題だろう
「美弥さん、あの」
俺はつっかえながら、どうにか言葉にする
「さっき話した、墓地で騒いだ行為についてなんですが
『墓守』さんに謝罪がしたくて、その、どのようにすればいいでしょうか」
『墓守』さんに謝罪がしたくて、その、どのようにすればいいでしょうか」
「そうだな」
美弥さんは少し考え
「もし良いなら、今夜にでも『墓守』に会いに行こうか?」
「い、いいんですか!? マジっすか!?」
「い、いいんですか!? マジっすか!?」
そう答えてくれた
これはあれか
美弥さんにお供する形で謝罪に行けるということだろうか
これは、本当は喜んではいけないのかもしれないが、すごくありがたい!
美弥さんにお供する形で謝罪に行けるということだろうか
これは、本当は喜んではいけないのかもしれないが、すごくありがたい!
「良かったわね、早渡君」
先程から黙っていた高奈先輩も、どこか安心した表情でそんなことを言ってきた
「でも、ごめんなさい。私は、そろそろ、帰らないと
子供達は、ご飯を食べていると、思うけれど、少し、心配で」
子供達は、ご飯を食べていると、思うけれど、少し、心配で」
はい?
子供?
子供?
少しの間、俺は硬直した
結局、高奈先輩にそれ以上のことは訊けず
俺は店を出る先輩を見送ることしか出来なかった
俺は店を出る先輩を見送ることしか出来なかった
「大丈夫よ、早渡君」
店を後にする際、先輩は俺にそう告げた
「『墓守』さんは、きっと、許してくれるわ。きっと、ね」
何故「きっと」を二度言うんです、先輩
ちょっと不安になってくるんですけど、先輩
ちょっと不安になってくるんですけど、先輩
勿論、そんなことを口にして言える筈も無く
俺は独り、ヒーローズカフェに残ることとなった
「俺は変身するとして」
思わず美弥さんの言葉に耳を疑う
えっ? 今、変身と言ったか?
「早渡君はザクロに乗ってもらおう、その方が速い」
はい?
俺が? ザクロさんに、乗る?
俺が? ザクロさんに、乗る?
「えっ、あのっ、ぎゃ、逆じゃないんですか!?」
俺の動揺に、美弥さんは「?」という顔をしている
いや!! その顔は俺がすべき表情ですよ!?
ザクロさんというと、あの長身の美人な店員さんだ
俺が、ザクロさんに、乗るだって? 逆じゃないのか?
むしろ乗る、というか踏まれるべきは、俺の方じゃないのか!?
いやそもそも乗る乗られるってのは、墓地に行くのとどういう関係が!?
俺が、ザクロさんに、乗るだって? 逆じゃないのか?
むしろ乗る、というか踏まれるべきは、俺の方じゃないのか!?
いやそもそも乗る乗られるってのは、墓地に行くのとどういう関係が!?
あ、そういうことか!?
俺が踏まれることで既に反省済みだと「墓守」さんに示すための
俺が踏まれることで既に反省済みだと「墓守」さんに示すための
そういう事前準備的なアレなのか!?
俺の脳みそは既にばくはつしていた
「あああ、あのっ! 俺っ! 鎖で縛られた方がいいっすか!?」
「早渡君、さっきから何を言っているんだ」
「早渡君、さっきから何を言っているんだ」
美弥さんの突き刺さる眼差しが痛いが、今はそれどころじゃない!
とにかくどうにかしないと、俺の中の俺が大変なことになってしまう!!
とにかくどうにかしないと、俺の中の俺が大変なことになってしまう!!
このときの俺は幾つかの点で盛大な勘違いをしていた
そのことを悟るのは、本当にほんの少しだけ先の話だ
そのことを悟るのは、本当にほんの少しだけ先の話だ
□■□