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連載 - 喫茶ルーモア・隻腕のカシマ-20a

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喫茶ルーモア・隻腕のカシマ


夢の国編・秋祭り2日目(決着)


辺りは暗く、既に時は夜に飲み込まれていた

マスコットの内の1体は思う

何故、自分は眼前の者達と戦い続けているのだろうか?
───命令があったからだ

それは誰からの命令だっただろうか?
───王だ

違和感……王から受けた命令は戦うことだったろうか?
───思い出せない

既に壊れた精神で、断片的な事しか思い出せず
考える事さえもまともには出来ない

思い出せない?
───思い出したくない

何を?
───自分は……

*



咆哮と共に繰り出される腕
温和そうな外見とは裏腹に
腕が振り抜かれる都度 "ゴウッ" という風斬り音が響く

だが、相手には届かない

強い

無限の再生力がなければ確実に倒されていただろう

この再生があるからこそ戦闘中であるにも関わらず

のんびりと思考する事が出来ていた

既に壊れた精神で、断片的な事しか思い出せず
考える事さえもまともには出来ない

思い出せない?
───思い出したくない

何を?
───自分は畸形である

思い出などあるのか?
───自分はマスコットである

そもそもは自分がヒトであったのか……
元々 "夢の国" の一部として生まれたのかは……分からない
だが、自分の様な人前に出れぬ様な
出る事で奇異の目に晒されるのが怖いと考えている者にとって
"夢の国" は、文字通り夢の様な国であった
着ぐるみさえ着れば、子供達が自然と寄って来て……

彼らの顔には笑顔、偽り無い笑顔

畸形を目にし、恐怖や好奇の表情を向けられる事はない

昼過ぎに他のマスコットが次々と出て行く中
自分はただ、同じ様に住人を引き連れて出てきただけだった
いつもの様に、パレードを行えば良いのだと理解したからだ

*



そしてつい先程
王権が創始者へと返還……
そして、更にどちらを王とするかの判断は各住人に委ねられたという事を……
彼は理解していない

だが、彼は既に王からの命令を受けてはいないのだ
ジャックに拠って、精神を壊されてしまって以来
彼──くまのプ○さん──は王命による束縛から解き放たれていたのだから……
故に、彼はただ "夢の国" ──自分の居場所──を護ろうと動くだけだ

*



しかし、分からない……

国とはなんだ?
───王がいるから国となるのでは無い

では、国とはなんだ?
───民がいるから国となるのだ

ならば "夢の国" とは何だ?
───子供達の笑顔があって初めて、"夢の国" となるのだ

「ウガァァァァ!!」
咆哮する
狂ってしまった精神で
"夢の国" を護ろうと想う
護るべきは狂ってしまった "夢の国" ではない
今、彼の心にあるのは……思い出の中の "夢の国"

笑顔が絶えない "夢の国"

長い列に並び、疲労や苛立ちに歪む顔も
アトラクションに泣く子供達も
迷子の子供達も

皆、最後には笑顔

その為には、パレードの邪魔をする者を排除する必要がある

*



「ウガァァァァァァァァァァァァァァ!!」

再び咆哮

軍装の男と対峙する

何度、腕を振り抜こうとも……かすりさえしない
腕の届かぬ、遥か外の間合いで斬られる
構えた刃からは想像も出来ぬほどに長い間合い

腕が斬り落とされる

これで何度目になるのだろうか
だが、問題は無い……再生するのだから……

?!!

腕は斬り落とされたまま、何も起こりはしない

何故?

対峙していた軍装の男も怪訝な表情
しかし、すぐに表情に明りが灯り
共にいた少年に声を掛ける

少年の顔には色濃い疲労が貼り付いていた
動きも鈍く、今すぐにでも倒れそうに見える

自分は"夢の国" を護ろうとしているのに
何故、この少年はこんな姿なのか……
ぼんやりと考える
いつの間にか、共にいたはずの住人がいなくなっていた
独りだった

「御免ッ!」

軍装の男の声が聞こえ、刃が閃く
肩口からざっくりと斬り裂かれ、前のめりに倒れていき
ドスンと地面に打ち付けられる
ガクガクと痙攣しながらも顔を上げると
視界には少年の顔
少年の顔に安堵が広がる
心からの安堵

いや、違う
少年の顔には……迷い、不安が見て取れた

この顔は、どんな時の表情だったろうか?
昔からよく見ていた表情だったような……
───ああ、そうだ……この子は……

痛みを堪え、ずるずると体を引き摺り
少年へと近づく
後退る少年

本当は喋っちゃいけないんだけど
もう、他の住人は近くにいないし……仕方ないよね
特別だよ、内緒だよ

「キミ……迷子……なの?」

少年は驚きの表情を見せる
あれ?違ったかな?こういうの自信があったんだけど……
少年と軍装の男が何か話しているけど
よく聞こえない……
ゆっくりと近づいて来る少年

「お母さん?……お父さん……の方、かな?」

声を掛けると、今度は頷く少年
やっぱり迷子なんだ
大丈夫、きっと見つかる

「だいじょ……ぶ……だよ……心配……ないよ」

上手く喋れない

「ちゃん……と逢え……るよ」

"夢の国" に訪れた者は最後には笑顔で帰っていくのだ

最後に……はちみつ……ハチミツ舐めたいな……甘くて……とろける……
のども渇いたよ……ミルクも飲みたい……ああ、混ぜたら……きっと、美味しい……
飲みたいな……つめたくて……甘い……甘い……アイスハニーミルク
最後? ああ、そうだ……最後なのだ

狂った精神、狂った命令、狂った結末
だが、本当に狂っていたのは何だ?
わからない、わかる必要も無い
でもこれで全て終わりなんだ
ただ、正しい笑顔がそこに残りさえすれば良いんだ

少年が優しく頭を撫でてくれている

「ありがとう」

確かにそう聞こえた

そして、何かに呼ばれた気がする

意識が───途絶えた


たんぽぽの綿毛の様な柔らかな光粒が舞い上がり
そして、消える
後には何もなく
ただ秋の満月に照らされた少年と軍装の男が佇むだけであった



*


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