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連載 - 騎士と姫君-12

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「夢と魔法の王国・中編 ≪その1≫」


 ≪夢の国≫で一番の高さを誇る岩山の天辺に、黒犬はいた。
 電飾やスポットライトで浮かび上がる≪夢の国≫を見下ろしながら、黒犬――ザクロは風の匂いに神経を研ぎ澄ませていた。
 眼下では賑やかな音楽が絶えず流され、時折どこからか微かに笑いさざめく声すら聞こえる。
 しかしそれらはザクロにとってみれば、耳障りなものでしかなかった。
 例えるならば不調和音を常に耳にしている様な、そんな感覚。

「それに加えて、ここの空気といったら……もう、気味が悪いったらないですわ!」

 少しでもその空気を振り払おうとぶるぶると何度か身震いをしてみるが、それだけで辺りを取り巻く雰囲気が変わるわけでもない。

「まったく、早くお二人を見つけて、こんなところさっさとおさらばしたいものですわ……」

 そうぼやきつつも、彼女の目はしっかりと下界を見据えている。
 初めこそ匂いを探して≪夢の国≫をしばらく歩き回ったものの、これだけ広大な場所をではそれを続けていれば切りがない。
 その間に二人が≪夢の国≫の餌食になってしまえば――二度と彼女らはあの町に戻れないだろう。
 何としてもそれだけは防がなければならない。

 ならばどうすればいいのか、その答えは彼女の目の前にあった。
 それを理解した途端、彼女はすぐに行動に移っていた。
 それは目の前の岩山を登る事――つまり、すべてを見渡せる場所から探せばいいのだ。
 辺りはすでに闇に包まれてはいるが、彼女にとってすればそんな事は障害の内にも入らない。
 その真紅の瞳は闇をも見通し、今も動き回る≪夢の国≫の住人達の姿をはっきりと捉えていた。

「……あれは?」

 彼女が目を留めたのは、岩山のそばの池を越えた先の広場である。
 しかしそこには、異様な事に周りから住人達が次々と押し寄せているのだ。
 それまでザクロが観察していた内では、住人達は皆それぞれが独立して動いていた。
 着ぐるみたちや黒い人影同士が集まる事はあっても、二つが共通の動きを見せる事はほとんど見られなかった。
 それが今やどの着ぐるみも人影も、ある一点を目指して歩みを進めていたのだ。
 その先を辿れば、見えたのは大小の人影。
 片方は浴衣、もう片方は小さな子供のそれは――。


 次の瞬間、岩山の黒犬の姿は瞬く間に消え失せていた。

*



 静かな逃避行は続いていた。
 ゆっくりと、しかし確実に、何者かが二人の後をつけてくる。
 昼間のひたすら走り続けていた頃に比べれば、徒歩で済むというのは正直ありがたい。
 しかしどこからともなく迫る気配に追われ続け、彼女の精神的な疲労はそろそろピークに達しようとしていた。

「出口……どこでしょうねえ……」

「うー……」

 自分達が外からやってきた以上外へ通じる道がどこかにあるはずだと、それを信じて二人はひたすら歩き続けていた。
 しかし行けども行けども見つかる道といえば分岐路、または建物へと向かう道のみ。
 外へ向かって伸びた道など、全く見つからなかったのだ。
 そして、それ以外にも彼女にとってもう一つ気がかりな事があった。

「(ホロウさん……どこ行っちゃったんでしょう)」

 この場所に来てからというもの、気が付けば騎士の姿が全く見えなくなってしまっていた。
 少年と合流してからも何度か呼びかけてみたが、うんともすんとも返事は無い。
 一度姿を消してしまったのかとも考えたが、今や完全に日も落ちて騎士の活動時間として申し分ない。
 それ以前にこれまで呼ばずとも現われていたというのに、今となって急に姿を隠すのはどう考えてもおかしかった。
 そうなると考えられるのは、何か考えがあってあえて姿を現さないのか、姿を現す事ができない状況にいるのか。
 いずれにしろ、彼女にとってそれはあまりありがたい状況には思えなかったのだが。

「……うー」

 不意にぎゅっと手を握られて視線を落とせば、少年が不安げに眉を寄せてじっと前方を見据えている。
 その先に見えるのはうごめく影――電飾の明かりに照らし出された、幾人もの着ぐるみたちの姿。
 慌てて後ろを振り返れば、同じくじりじりと住人達の影が迫っている。
 回りこまれた――彼女がそれに気づいた時には、すでに周囲には何体もの人影が迫りつつあったのだった。

「万事休す……ってやつですか」

 本当であれば底知れぬ恐怖を感じるような状況だと言うのに、彼女の顔に浮かぶのは苦笑。
 肉体的に、そして精神的にも疲れ果てもういろいろな部分が麻痺してしまったのかもしれない。

「出口は見つからないし、ホロウさんはどっか行っちゃうし……いい加減にしてくださいよ、もう」

 わずか今日一日で降りかかったトラブルが思い返され、ふつふつと怒りが湧き上がってくる。
 ただお祭りを楽しみたかった、それだけだったのにこれはどうしたことだろう。
 本当であれば今頃は夜の出し物などを見ながらラムネを飲んだりとか、リンゴ飴をかじったりとか、そんな楽しい時間だったはずなのに。

 正直、もううんざりしきっていた。
 これが店舗やアトラクションだとかであれば、責任者出て来いとか言い出しかねないかもしれない。

「……うー! おねーちゃん!」

 唐突に明るい声と共に手を引かれて振り返れば、満面の笑顔。

「うーうー、見て見て、あそこ!」

 彼女がなかなか理解に時間がかかるのがじれったいのか、一生懸命ある方向を指差している。
 釣られて視線を移せば、そこにあったのは……今にも崩れ落ちそうな洋風の屋敷であった。

「あれ……じゃないですよね」

「うー、あのおうち! あそこ行く!」

 一体何の冗談だと、再び少年に視線を戻す。
 しかし少年の表情は真剣そのもので、決してやけっぱちや気まぐれで起こした様には到底見えない。

「あそこって……あ、あの、せめてもうちょっと、こう……」

「うー、あそこなら安全! 不吉じゃないー!」

「え……えええええ」

 思わず情けない声が漏れるが、それも少年の強い意志の前には何の意味も持たなかった。
 「うーうー!」と迷いなく言ってのける少年の自信に、もう一度恐る恐る彼が指差した先を伺い見てみる。

 かつてはさぞ立派であったのだろうゴシック様式の屋敷は、今や遠目に見ても明らかなほどに荒れ果てていた。
 雨風に晒された壁や銅像は色褪せ、窓は壊れ、荒れ放題の庭は草木が生い茂り……一目で人が住んでいない事は明らかのはず。
 なのに軒先にはランプが灯され、固く閉ざされた門が薄明かりに浮び上がり、今夜の来訪者を今かと待っている様にさえ思われた。
 門の両脇に据えられた一対のガーゴイルの石像が文字通り目を光らせ、侵入者を見逃すまいとする様まではっきりと伺える。
 ずいぶん前にT県にある≪夢の国≫を訪れた際、友人に無理やり「あそこ」へ引っ張り込まれた思い出が蘇り、ぞわりと肌が粟立った。

「うー、いっぱいきたー!」

「うえ!?」

 しかし悩んでいる暇など、すでに彼女らに残されてはいなかった。
 少年の声に我に返れば、いつの間にか前と後ろに着ぐるみたちがゆらゆらと迫り、逃げ道はもはやあの邸宅へ続くものしかない。

 選択肢は二つ。
 ここで着ぐるみたちの手にかかるか、あるいはあの恐ろしげな邸宅へと逃げ延びるか――。

「うーうー! おねーちゃん、行こ!」

「ちょっ!?」

 彼女が心を決めるよりも、少年が動き出す方が早かった。
 一直線に邸宅を目指す彼に、今度は手を引かれる形で彼女が続く。
 しかし着ぐるみたちは、それを黙って見逃すつもりはなかった。
 彼女らが急に方向を変えたのをきっかけに、それまでのゆったりとした動きとは比べ物にならない速さで追ってきたのだ。
 それを察して二人も歩みを早めるが、いつしか彼女らを追う着ぐるみの数は倍以上に膨れ上がっていた。

「あ、あのこれ逃げ込んでも中に入ってくるとか……」

「うー、だいじょうぶー! あの子がそう言ってるー!」

 自信満々、疲れなど吹っ飛んだかのように少年は早足で門を目指す。

「……あの子?」

「あの子呼んでるー! 早くおいで、こっちにおいで、ってー!」

 その言葉に、今一度前方へ視線を移す。
 鉄の門はあと数メートルのところまで近づいており、まるで彼女らを迎え入れる様に大きく開け放たれている。
 しかし、少年が言う「あの子」の声も聞こえなければ姿も見えはしない。
 門の前、塀の上、屋敷の窓……ありとあらゆる場所に視線をめぐらせても、あるのはねじくれた大木や割れた窓、ひび割れた壁面のみ。

「って……この門、さっき閉まってませんでしたっけ?」

 そう、確か初めにこの屋敷を観察した際、門は確かに閉まっていた――
 それに気が付いた瞬間、悲鳴の様な軋みをあげ、巨大な門が二人の後ろで勢いよく閉じられたのだった。



<To be...?>



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