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連載 - 騎士と姫君-13

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「夢と魔法の王国・中編 ≪その2≫」


 鳴き交わすカラスたちの羽音、狼の遠吠え。
 どこからともなく冷たい風が吹きつければ草木が騒ぎ、傾いた窓枠が打ち付けられる。
 そして時折聞こえるのは風の音か、それとも誰かの叫び声か――。

「今……何か聞こえませんでした……?」

「うー?」

 しきりと不安げに周囲を伺う彼女に対し、少年はどこ吹く風といった様子でてちてちと前を進む。
 門をくぐれば周囲はちょっとした庭園が広がっており、ランプの明かりに様々な動物の像が浮かび上がっている。
 そこを恐る恐る通り抜ければ、目の前にあの館がそびえ立っていた。

「うわあ……こうして見ると……」

 何とも不気味、とつい口をついて出そうになった言葉を慌てて飲み込む。
 遠目に見てもそれは明らかだったが、改めて目の前にすると迫力が全く違う事に気づかされる。
 若干腰が引けている様子の彼女の手を解き、少年はドアの前へと一歩踏み出す。

「うーうー、こんばんはー! ぼく来たよー!」

「いきなり!?」

 小さな握りこぶしで門をぺちぺちと叩き始めた少年に、思わず突っ込まずにいられなかった。
 どうやらノックをしているつもりらしいのだが、力が弱い為かほとんど音がしていない。

「うー、おねーちゃんもご挨拶するのー」

 少しばかり不満げな瞳で見つめられ、しぶしぶと彼女もドアの前へ立つ。
 まあ物は試しだ、と半ば諦めも混じりつつ右手をドアの前にかざした。

「………………」

「うーうー! 開いた!」

 まさにノックしようと力を込めた瞬間、軋みを上げてドアが開いた。

「……私、触ってないんですけど……」

 そうつぶやくのと同時に、冷ややかな冷気が彼女の頬を撫でてすうっと通り抜けていく。
 いよいよ青ざめた様子の彼女を尻目に、少年は興味津々と言った様子でドアの隙間から中を覗き込んでいる。
 しかし彼女がノックの体勢のまま固まっているのに不思議そうに首を傾げた。

「うー、おねーちゃんどうしたのー? 」

「え、いや……大丈夫です、ハイ……」

 本当はちっとも大丈夫などではないのだが、少年の手前そう答えるわけにもいかない。こわごわとだがなんとか笑顔を浮かべて見せれば、少年もまた笑みを返してくれる。

「じゃあ暗いですから、また手をつないで行きましょうか」

 言葉通りの意味半分、正直一人じゃ歩けなさそうだからという本音半分でそう問いかければ、頷いた少年の小さな手が彼女の手に重ねられた。

「さあ、今度は何が出るんでしょうかね……」

 いい加減腹を決めねばならないのだろうが、子ども時代のトラウマはそう簡単にぬぐえるものではない。それでも、今は進まなければならないのだ。

「うー、おじゃましますー」

 彼女が一世一代の決心を固めるかたわらで、まるで友人の家にでも来たようにうきうきとした様子の少年の姿があった。

*



 その一方で、鉄門の前は今や凄まじい状況になっていた。
 次々と押し寄せる着ぐるみたちが閉ざされた門を揺さぶり、その後ろからもさらに黒い影の集団が迫る。
 一見古びた門はすぐ壊れてしまいそうにも見えたが、以外にも着ぐるみたちの攻撃に耐えて彼らを阻んでいる。
 それでも、この様子では門が破られるのも時間の問題だった。
 己を見下ろすガーゴイルたちの赤く燃える眼差しにも一切気に留めず、着ぐるみたちは門を突破せんと門を揺さぶり続けた。
 そんな無言の内に繰り広げられるやりとりの最中に、突如投げ込まれた石ころが、見事先頭の茶色のウサギの頭に命中する。

「……?」

 ぶつけられた箇所をさすり、ウサギは不思議そうに首を傾げてみせる。
 しかしウサギが再び前を向いた次の瞬間、数え切れないほどの石ころが彼ら目掛けて浴びせかけられた。

「……! ……!!」

 実質ダメージはまったく与えられていないが、それでもぶつけられる石ころにたまらず、着ぐるみたちは慌てた様子で次々と門の前から逃げ出していく。
 しかしそれも小石が当たらない範囲までであり、届かない場所にたどり着くと再び館へと向き直る。
 門を揺さぶるものがいなくなると、程なく石のつぶても止んでしまった。
 それを見計らって再び着ぐるみたちも動き出すが、門に手をかけるやいなや、また石の雨が降り注ぐ。
 逃げると石が止み、着ぐるみたちが戻ると石が飛んでくる、その繰り返し。
 しかし何度繰り返そうとも着ぐるみたちは一向に諦める様子を見せない。
 それこそ己の足がもがれようと、這いつくばってても彼らはこの門へと押し寄せるだろう。

「…………」

 何度目かの膠着状態に、木陰で何者かが舌打ちする。
 そうする間にもまた着ぐるみたちは向き直り、こちらへと歩み始め――木陰でため息が漏れた、まさにその時。

 アオォ――――ン……

 どこからか遠吠えが響く。
 ここでよく耳にする狼のものとも違うその声に、着ぐるみたちは歩みを止めてざわめき始めた。
 木陰の影もまた周囲を伺い、そして見つけた。
 背後にそびえる館の尖塔の上、風見鶏が回る屋根に、赤い目を光らせる漆黒の獣がこちらを睨みつけていた。
 着ぐるみたちもまたその姿を捉えたのか、彼らのざわめきが一際高まる。
 そしてざわめきが最高潮に達した瞬間、満月を背に黒い影が跳躍した。

*



 蝋燭の明かりが揺らめく長い廊下を、彼女と少年は進んでいた。
 しかし先ほどと違うのは、二人を先導する人物が増えた事。
 質素な黒いロングドレスにこれまた黒の前掛け、そして唯一白いレースで飾られたホワイトブリムといった装いの女性は、突如として二人の前に現われた。
 彼女はこの館の主人に仕える使用人だと名乗り、主の下へ案内してくれるという。
 初めこそ突然現われたこのメイド姿の女性に、飛び上がらんばかりに驚いた彼女だったが、落ち着いて考えてみればそれはとてもありがたい申し出である。
 右も左も、そして何が潜んでいるかもわからない館を先導してくれるというのなら、まさに願ったり叶ったり。
 そうして二人は女性の申し出をありがたく受ける事にし、こうして主人がいるという部屋へ案内してもらっているのだった。
 いくらかほっとしたからか辺りを見回す余裕もでき、館に足を踏み入れるまでにあれほど怯えていたのが嘘の様ですらある。

 そうして何度目かの角を曲がると、新たな扉が彼女らの目の前に現われた。

「こちらでお待ちください。じき主人が参ります」

 扉を示し、メイドがそう告げる。
 平坦な声、固い表情――彼女は出会ってからこの道すがらまで、一切感情を示そうとはしなかった。
 こちらが何かしら問いかけてみても、すべて同じ調子、同じ表情で応対され、それが何とも人間らしくない。
 そんなメイドに彼女はまた一抹の不安を覚えたのだが……しかし使用人ならば余計な事は言わないのだろうと、そう思い込む事にした。
 示された扉に目をやり、こちらも軽く頷いてみせる。それを確認し、メイドはノブに手をかけて静かに扉を引いた。
 扉の先に目を凝らせば、小さいながらもシャンデリアが吊るされ、ストライプ柄の壁に肖像画が掛けられた以外、家具が全くない小部屋であった。
 興味津々な様子の少年に手を引かれ、部屋へと足を踏み入れる。

「では、私はこれで失礼致します」

「あ、はい、ありがとうございました」

「うー、ありがとー」

 二人揃って礼を述べるとメイドは優雅に一礼し、扉を静かに閉めた。

「……行っちゃいましたね」

「うー」

 少々気味は悪かったものの、ようやく出合えたまともな人間が去っていってしまった事で彼女の胸のうちで再び不安が膨らみ始める。
 せめて少しでも気を紛らわせようと、唯一飾られた肖像画へと目を向ける。
 描かれているのはこの館の主人であろうか、彫りが深いながらも端整な顔立ちの男性である。

「ずいぶん若いご主人なんでしょうかね……それとも若い頃の姿なんでしょうか?」

 そうつぶやきながらも、次はシャンデリアへと視線を移す。
 ほとんど骨董品の心得がない彼女の目からしてもそれは素晴らしい造りに思われたが、よく見ればうっすらと埃をかぶっている。
 ふと壁際にも視線を落とせば、やはり綿埃がいくらか溜まっている。
 先程の使用人は掃除をしないのだろうかと、そんな事を考え込んでいると、不意に背後で少年の歓声があがった。

「うーうー! すごーい!!」

 振り返れば、あの肖像画を見つめて少年が手を叩いて大喜びしている。

「すごいって、どうしたんですか?」

 そう声をかければ少年が勢いよく振り向き、こちらへと駆け寄ってくる。

「うー! あの絵! あの絵すごいー!」

 「うーうー!」と目を輝かせる少年の様子に、彼女は内心首を傾げる。
 確かに精巧な肖像画だとは思うが、果たしてそれが少年の興味を引くかと言うと、疑問が残る。

「うー、おじーちゃん! おじーちゃんがね、ぱーって!」

 そう興奮した様子で説明する少年の言葉に、彼女はふと違和感を覚えた。

「『おじーちゃん』? あれは若い男の人の絵じゃないですか?」

 東洋人からすると、西洋人は老けて見えるという。それにしてもあまりに飛躍しすぎじゃなかろうかと問えば、今度は少年が首を傾げた。

「うー、なんで? 若いひとじゃないよ、この人おじーちゃんだよ?」

 本心からそう不思議がる様子の少年に、今一度肖像画へと目をやる。
 絵柄は先程と同じく、燕尾服を着た若い青年の姿。
 やはり違うだろうと少年を見れば、なぜか少年は食い入るように肖像画を見つめている。
 この絵の何がこんなに少年を夢中にさせているのだろうと、再び肖像画に視線を戻す。
 しかしそこにはやはり先程と同じ、凛々しい青年の姿があるのみ。

 ――いや、違う。何かが変わっている。

 それに気づいた途端、先程は感じなかった違和感が彼女を襲った。
 例えるならば間違い探しの最後の一つが見つからない時のような、本当に微かな違和感。
 それを探ろうとじっと肖像画を見つめるが、違和感はさらに大きくなるばかり。

「うー、もうすぐ、もうすぐ……」

 肖像画に見入ったまま、少年がつぶやく。

「もうすぐ……」

 もうすぐ何が始まるのか、それを見逃すまいと絵全体をくまなく見渡す。すると、彼女の目がある一点――男性の口元で止まった。

 微笑を湛えた口元の端に、一本の線が描かれている。
 先程はあんなにはっきりしたラインが引かれていただろうかと思い返してみるが、特別気にも留めていなかった箇所を細かく思い出そうとするのはなかなかに難しい。
 そうする間にもラインはますます濃く、深く、はっきりとなってゆくようにさえ見えてくる。

「うー!」

 少年が再び歓声をあげた。
 どうやら『何か』はすでに始まっているらしいと、慌てて口元から目を離す。
 しかし図らずも、それが彼女に『何か』の正体を気づかせるきっかけとなったのだった。

「え……」

 彼女は呆然と『青年の肖像画だったもの』を見つめた。
 今やそこに描かれていたのは、白髪頭の初老の男性である。
 しかしそれもすぐさま移り変わり、その変化は留まる事なく流れていく。
 見る間に頬はこけ、目は落ち窪み、髪は抜け落ち……そして彼の顔面に深く刻まれたのは、無数の皺。
 そう、先程彼女が目を留めたのは皺の一つだったのだ。

「嘘……こんなのって……」

 目の前で繰り広げられるある男の末路の様子に、彼女はよろめきながらも後ずさる。
 一方の少年は何故こんなに面白いものを見ないのかと、きょとんとした様子で彼女を見つめている。
 どうやら先程から少年が面白がっていたのは、この絵が瞬く間に変化する様子であったらしい。

「や……やっぱり出ましょう、こんな所!」

 なかば叫びつつも、彼女はドアに駆け寄った。

 やはり来るべきではなかったのだ、たとえ、あの着ぐるみたちに追われていたとしても!

 恐怖に駆られ、震える手でドアノブを握ると勢いよく扉を押し開け――ようとした。

「な、何で……」

 しかし何度もドアノブを回すも、無常にも扉は固く閉ざされていた。
 先程メイドが去った後、鍵が掛けられた様子はなかったはず。

 では誰が、なぜ、どうして――?

 必死に考えようとしてもそれらは恐怖に散らされ、もはや形を成そうとはしない。
 代わりに鮮明に脳裏に蘇るのは、まだ子どもの頃の記憶。
 彼女がここまでこの場所を恐れる要因となった、ある光景。
 それがさらに彼女の混乱に拍車をかけ、ますます激しくドアノブを回し、それが無駄だとわかれば扉に体当たろうと――。

『 それぐらいにしといてくれないかな、ドアが壊れちゃうよ 』

 突如どこからともなく響いた高い声に、二人はそれぞれびくりと身をすくませた。
 即座に二人は部屋の中に視線を巡らせるが、無論その声の主は見えない。

『 とりあえず落ち着いてくれない? 僕、乱暴な人は嫌いなんだ 』

 淡々と声は続く。
 だがその口調は、かえって今の彼女を落ち着かせるのに適していた。
 だんだんと恐怖が収まり、それと同時に力も抜けたのか、彼女はぺたりとその場に座り込んだ。

「うー……おねーちゃん、だいじょうぶ?」

 いつの間にそばに来たのか、心配そうに覗き込む少年の顔を見てようやく彼女は平常心を取り戻した。

「すいません……ちょっと大丈夫じゃなかったみたいです……」

 沈んだ様子の彼女に、少年はそっと手を伸ばす。

「うー、だいじょうぶ、こわくないよ。ぼくもいるよ」

 そうして少年は彼女の頭を優しく撫でる。
 いつか彼女にしてもらったように、ぽんぽんと。

「……そう、ですよね」

 そっと触れたぬくもりに、彼女の心を蝕んでいた恐怖が少しずつほどけていく。

「うー、これで元気でた?」

「はい、元気百倍です」

 そうして浮かべたのは、入り口での形ばかりのものではなく、心からの笑み。
 それを見て、少年もまた嬉しそうに笑い声をたてた。

『 ねえ、もういい? 』

 いい加減待ちくたびれたと言わんばかりの、不機嫌そうな声が再び室内に響く。

『 だったら次の部屋に来てくれない? そこでまた説明するから 』

「次の部屋って……そのドアは開きませんでしたけど」

 彼女が示したのは、二人が入ってきた扉。
 それはこの部屋で唯一外と通じているものであり、他に扉は一切ない。
 そしてその唯一の扉は今さっき閉ざされてしまった事を、彼女自身が確かめている。

『 ああ、そっちじゃないよ。こっちこっち 』

 その声に合わせた様に、奥の壁が音を立てて開いた。

「か、隠し扉ですか……」

「うー、かっこいい!」

 全く異なる反応を見せる二人に、声の代わりに深々とため息がつかれる。

『 わかったんならさっさと来てよね、僕も忙しいんだから。じゃ、あとは向こうで 』

 それが最後だったらしく、始まりと同様、唐突に声は途切れてしまった。

「うー、だれ?」

「……私にもさっぱり」

 あれがもしかしたら主人の声だったのかもしれないが、それにしてはいくらなんでも若すぎる。
 口ぶりこそ大人びていたものの、あの肖像画(今もまた変わり続け、老人の姿になっている)からもさらに年若い、少年の声だと思われた。

「とりあえず、呼ばれた以上行ってみないとですね」

「うー、いこー!」

 いくらかすっきりとした気分で、少年の手を借りて彼女は再び立ち上がる。
 もうあんな恐怖には囚われはしない、そう決意し、ぐっと拳を握り締める。
 そうして二人はまた手をつなぎ、壁に隠されていた通路へと足を向けたのだった。




 二人が去った後、再び部屋に残されたのは一枚の肖像画のみ。
 そしていつしか肖像画の老人は、眼を光らせるドクロへと変わり果てていた。



<To be...?>



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