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連載 - 騎士と姫君-14

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夢と魔法の王国・後編 ≪その1≫


 通されたのは何とも奇妙な八角形の部屋。
 その内四面の壁にはそれぞれ違った肖像画が掛けられている以外、家具も何も置かれていない。

「やあ、ようこそ諸君」

 気取った様子で部屋にたたずんでいたのは、一人の少年。
 その声は先程部屋で聞いたものと同じ、そしてその声の印象のままの姿であった。
 年の頃は10歳前後か、今手をつないでいる少年からいくらか年上に見える。
 釣り目がちの瞳を細め、口元に浮かべるのはからかうような笑み。
 そして唯一その手に抱えられていたのは、どこか見覚えのあるような古ぼけた人形であった。

「あなたがここの主人……ですか?」

 おそるおそるそう尋ねてみれば、彼の笑みがますます深くなる。

「そうならとても素晴らしいんだけどね。あいにく、僕は代理人ってところさ」

 そう話す仕草、口ぶりは紳士的ではあるものの、なんとも芝居がかった立ち振る舞いである。

「ゴーストホストは客人の相手で忙しいらしくてね、僕が代わりに君たちのお相手をするよう言われて来たんだ。ああ、さっきのショーは楽しんでもらえたかな?」

 にんまりと、意地の悪い笑みで見つめられる。
 その笑みの意味するところは、先程しでかしたアレだろう。
 落ち着いた今になって改めて思い返してみても、あの取り乱し様はひどかった。
 ちらりと思い返すだけであっという間に顔が熱くなる。

「ま、楽しんでもらえたみたいだったから何よりだね」

 くすくすと、さも可笑しそうに少年は笑う。
 どこか棘を含んだ笑いにまるでちくりと胸を刺されたような感覚を覚え、思わずきっと少年をにらみつける。
 しかしそれを受け止めてなお、少年は癖のある笑みを貼り付けていた。
 やはり戻ろうかとかたわらの少年に声をかけようとすると、彼はぱあっと満面の笑みを浮かべて目の前の少年を見つめている。

「うー、やっと会えたー!」

「や、やっと?」

 まるで久々に遊び友達にでも会えたかのような反応に、彼女は何か言いかけた事も忘れて面食らう。
 しかし「あの子!」と繰り返すのを聞く内、ようやくあの門の前での一件を思い出した。

「え、じゃあ私たちを呼んでたのって……」

「ああ、僕だよ」

 あっさりと言い放つ少年に、今度こそ彼女は驚きを隠せなかった。
 この傍らの少年の口ぶりでは、もっと優しげな子を想像していたら……実際はこんなに辛辣な少年だったとは。

「どうして僕なんかが、って顔してるね? 残念だけどそれもゴーストホストの言い付けでね、客人のたっての願いを叶える為に僕がお連れする事になったんだ。
 最初は怖がりなあなたの事、きっと無理だろうと思ってたら……意外にもそこのおちびさんが真っ先に気づいてくれてね。思ってたより楽に済んだから助かったけど」

 こちらの考えなんかお見通し、とでも言うかのように少年は語る。
 彼の話ぶりからすると、どうやらこの館の主人とやらは「ゴーストホスト」と呼ばれているらしい。
 しかし先程からまた語られる「客人」とやらは自分たちを知る人なのだろうかと、首をひねる。

「もちろん『客人』が誰なのかは会ってのお楽しみ。大丈夫、きっと会えたら死ぬほど嬉しい相手さ」

 まるで悪巧みをたくらむ悪戯っ子のような表情に、もしや何かよからぬものと引き合わされるんじゃなかろうかと体が自然とこわばってしまう。
 大抵こういう表情の相手は、こちらが翻弄される様を見るのが何よりも楽しみなのだ。

「さて……説明と言ったらこんな所なんだけど、そろそろ次に進んでも構わない?」

「次?」

 次と言っても、見たところこの部屋から進めるのは先程二人が入ってきた隠し扉のみ。
 それも気づけばまた元に戻され、今この部屋は窓も扉もない密室のはず。
 あとは壁に掛けられた何枚かの肖像画(最初に見た時より伸びてる気がするが、気のせいだろう)ぐらいで、家具さえろくに置かれていない。

「ああ……すっかり忘れてた、君らドアがないと出れないんだっけ?」

 取ってつけたかの様に驚いてみせるが、その口元に笑みは張り付いたまま。
 どう見ても、明らかにこの状況を楽しんでいる。

「……そうですけど」

「うー、僕らも幽霊にならないと出れない?」

 思わぬ横槍に、ぴしりと彼女の思考が固まった。

「確かにそれが一番簡単な方法だし、君らがいいんならその方が僕も楽なんだけど」

「うー……それはまだだめ」

「そう? 残念だな、君とは気が合いそうなのに」

「いいいいいいや! わわ私たちまだそういうって言うかその、し、死ぬ予定とかはありませんから!」

 物惜しげな様子の少年に、彼女は慌てて傍らの少年を背にかばう。
 するとほんの一瞬驚いた表情を浮かべたかと思うと、やがて堪えきれないといった様子で笑い出した。

「そ、そんなの冗談に決まってるだろ? ジョークだよジョーク! なのにそんな本気で……ぷっ」

 それは今までの癖のある笑みではなく、年相応の、何とも子供らしいもの。
 どうやら彼女の挙動不審ぶりかツボにはまったのか、なおも少年は肩を震わせる。
 こういった時の発作じみた笑いというのは、たいてい治まるまで大抵時間がかかるもの。
 そして彼もまた例外ではなかった。

「失礼致します。ご主人様、先程新たなお客様が――」

 突然奥の壁が音も無く開いたかと思うと、先程のメイドが姿を現す。
 しかし用件をすべて述べる前に、目の前の状況に微かにだが驚愕の表情を浮かべた。
 おそらく、これが彼女の最大の表情表現なのに違いない。

「ああ、最後の一人がご到着みたいだね。ご苦労様……くくっ」

 未だ治まりきらない笑いの発作を堪えつつ、少年はメイドをねぎらう。
 しかしメイドはといえば、今度は眉を寄せて少年を半ば睨みつけるかのように見据えている。

「何故貴方がこちらにいらっしゃるのですか? ご主人様はどちらに?」

「僕が代わりで来たんだよ、ゴーストホストは多忙なんだ」

 涙を拭いながらそう答える少年に、未だ釈然としない様子ではあったものの、冷ややかな眼差しのままメイドは何も答えなかった。

「それはそうとお客様なんでしょ? お通ししてよ」

 その言葉に一瞬間を置いた後、こちらに一礼してからメイドは静かにこの部屋を後にする。
 それと入れ替わりに部屋を訪れたのは――あの大きな身体にルビーのような瞳を輝かせた黒犬だった。

「ざ、ザクロさん!?」

「うーうー、わんこ!」

『ああ、ようやくお会いできましたわ! ワタクシ、方方探し回りましたのよ!』

 嬉しそうに尾を振りながら駆け寄ってくる黒犬の姿に、少年がぎゅうと抱きつく。
 彼女もまたその姿に何よりも安堵を覚え、ほっとした様子でザクロの頭を撫でた。

『さあ、皆様揃ったなら一刻も早く帰りましょう! こんな薄気味悪い場所、ワタクシ耐えられませんわ!』

 「それにあの人形もどきどもも!」と鼻息荒くまくし立てるザクロの様子に、彼女は慌ててなだめにかかる。

「そ、それがまだホロウさんが……」

『まあ、あの騎士様がいらっしゃらないのですか!? どちらにいらっしゃいますの?!』

「うー、わからないのー。出口もいっぱい探したけど、見つからなかったー」

『何ですって!?」

 さらに気色ばむ雌犬に迫られ、あわあわとまごつく彼女らを面白そうに眺めていた少年が、唐突に口を開く。

「あの大きな騎士なら、ここにいるよ」

『「「えっ!? (うー?)」」』

 思いもよらぬ方面からの返答に、二人と一匹がいっせいに振り向く。
 その様子に、さらに少年は楽しそうにもったいつけて人形を両手に抱えた。

「だってさっきから言ってる客人って、彼の事だもの」

 少年は得意げに、あの悪戯っ子の様な笑みを浮かべた。



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