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連載 - 騎士と姫君-15

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夢と魔法の王国・後編 ≪その2≫


 上質な絨毯が敷かれた廊下の上を、三人と一匹は歩いていた。
 それは初めに彼女らが案内された廊下とは異なり、窓が一つもない。
 代わりに両脇には一定の間隔でずらりと同じ扉が並び、いずれも古びてはいるがそれらは至って普通のものだ。
 ――そのドアというドアが時折ガタガタと震えたり、ノブが回されたり、うめき声が聞こえてくる事を除けば。
 そしてもう一つ、決定的な違いがこの廊下にはある。
 それは……彼女らの進む先が全く見えない事。

「エンドレスウェイホール、って聞いたことない?」

 宙にふわりと浮いた燭台と共に先頭を歩く少年が、不意にそう口を開く。
 エンドレスウェイホール……直訳するならば『果てしなく続く廊下』、または『無限廊下』。
 まさしく今彼らが歩いている廊下そのものを指す言葉。
 しかし、この場所では非常に有名な廊下でもあった。

「ええと……この屋敷、アトラクションの見せ場の一つ、でしたっけ」

「うん、正解」

 記憶を辿り、思い出した答えに少年は嬉しそうに頷く。
 先程の大笑いの件から徐々にあの芝居がかった仕草が消え、逆に本来の子供らしさがだいぶ明らかになっていた。
 どうやらそれがこの少年の素であるらしい。

『ワタクシ存じ上げないのですが、それほどこの場所は有名なのですの?』

「そうさ、すごく人気があるスポットなんだよ!
 ここを通る人間達は皆、間抜け面でこっちを眺めてるんだ」

 ザクロの問いに少年は少し拗ねた調子で答えるが、その様子を思い出したのか、またくすくすと笑い声をあげる。

「たまにこっちを睨みつけてるヤツもいるけど、大抵僕を見つけると顔が真っ青になるんだ!
 大の大人が、隣のヤツにしがみ付いてるなんて信じられる?」

 試しにその様子を想像してみると、確かに脅かす側としては非常に面白い光景なのだろう。
 しかし彼女もまた先程まで脅かされる側の立場にいた身としては、少々複雑な気分でもあったのだが。

「って事は……あなたはやっぱり、その」

 ここで驚かす側というならば……答えは一つしかない。

「うん、僕はゴースト……幽霊だよ」

 天気の話でもするかのように、軽い調子で少年は答えた。

「気が付いたらここにいたんだ。何でかはわからないけど、ずっとね。最初は僕の方が怖かったけど、でもだんだん人を驚かせるのが楽しくなってきたんだ」

 だから周りのゴーストたちからいろいろ教わったのだと、少年は言う。
 驚かせるコツ、格好、タイミング――どういった事をすれば人が驚き悲鳴をあげるのかといったテクニックを吸収し、いつしか少年はこの館に数多いるゴーストたちの中でも指折りの知名度を誇るようになった。

『アナタ……やっぱり≪夢の国≫とは別の都市伝説ですわね』

 不意に黒犬から掛けられた言葉に、少年はびくりと肩を震わせて立ち止まった。

『ワタクシがこの館に着いた頃……門に押し寄せる人形もどきどもを、誰かが追い返していましたわ。姿は見えませんでしたけど、どうやら何かをぶつけているのだけはわかりましたわ。
 少々おかしいとも思いましたけど、その時はそれどころじゃなかったのでワタクシあまり気に致しませんでしたの。でも今こうして改めて考えてみと、やっぱり納得いきませんわ』

 少年の頭上に浮かぶ燭台を見つめ、ザクロは丁寧に一つ一つ当時の状況を説明していく。

『あの時お二方を追いかけていたのは≪夢の国≫の人形もどき、それと黒い異形たち……どちらも≪パレード≫と呼ばれて学校町にたびたび現われていた連中ですわ。
 そしてこの≪夢の国≫の中にあるお屋敷も当然≪夢の国≫のもの、ならばこの中にいる者たちもやはりあの人形もどきたちと同じ行動に走るはずですわ』

 しかし、この館は彼女らを迎え入れ、あの着ぐるみたちを追い払おうとした。
 それの意味するところは――。

『つまり、お二方を助けに現われたアナタ……≪夢の国≫に属さないアナタだけが、≪夢の国≫の意に反した行動が取れるはずですの。
 そしてワタクシが思うに、このお屋敷の狂った部分を取り除いて本来の姿を取り戻させたのも、アナタじゃありませんこと?』

 少年は初めこそ困惑の――どちらかというと畏れ、か――表情でザクロを見つめていたが、やがてそれは純粋な驚きのものへと変わっていた。

「すごいや、やっぱりあの時バレてたんだね。木の陰で、しかも半分ぐらい消えてたのに」

『ワタクシの目と鼻はごまかせませんことよ』

 ふふん、と自慢げに黒犬は胸を張る。

「でも一つだけあなたの考えは間違ってる。ここの皆を解放したのは僕じゃないよ」

 むしろ取り込まれる寸前だったという話に、今度はこちらが驚く番だった。

「初めは来る人間にただ悲鳴をあげさせれば、驚いた顔を見れれば皆それで満足してたんだ。けどいつからか、それががらっと変わっちゃった」

 いつからか、館の中には壮絶な悲鳴が響き渡るようになった。
 それは臓器を抜かれる子供たちの苦しみの声、そしてそれを追うように狂ったような甲高い笑い声が館のあちこちから聞こえてくる。
 そんな中少年は必死に耳をふさぎ、あの廊下でうずくまっていたのだという。
 「これは悪夢だ、早く覚めろ」と、来る日も来る日も願い続けた。
 あの優しくて茶目っ気のある主人が、怖いけれども面白いものを見せてくれるあの水晶玉の女性が、そして少年を可愛がってくれる何人ものゴーストたちが戻ってくるのを彼は待ち続けた。

「でもね、待っても待っても何も変わらなかった。そうしたらだんだん子供たちの悲鳴を聞いても、いやな血の臭いをかいでも、何も感じなくなっちゃったんだ」

 これが普通、これがこの屋敷の本来あるべき姿なのだと、少年の心もいつしか周りに染まり始めていた。
 もしこのままこの惨劇が続けば、少年はこの館をさ迷うゴーストの一人に成り果てていたに違いなかった。

「それが、突然あの首の無い騎士がやって来たんだ」

「ホロウさんが?」

 思わぬところで飛び出したパートナーの存在に、思わず口をついた彼女の言葉に少年は目を輝かせた。

「ホロウ? あの騎士はホロウっていうの?」

「あ、はい。正しくはスリーピー・ホロウっていいます」

 そう教えてやると、少年は「かっこいい!」と歓声をあげる。

「でも最初はすごく怖かったんだよ、何も言わないし。でも、皆がその騎士……スリーピー・ホロウに一斉に襲い掛かったんだ」

 ゴーストたちやゾンビたちが、皆侵入者に対して束になって襲い掛かったのだという。

「でも、あっという間に皆やっつけちゃったんだ!」

 そう語る口調はだんだんと熱を帯び、その様子はおとぎ話やテレビのヒーローに憧れる子供となんら変わりない。

「僕、いつの間にか見とれてたんだ。でも気づいたらすぐ目の前にスリーピー・ホロウがいてね」

 そびえ立つ巨大な影に、少年は自らもまたあのゴーストたちのように切られるのだと、人形を抱きしめて目をつむった。
 しかしいつまでたっても剣の感触も、衝撃もやってこない。
 代わりに感じたのは、頭に載せられた大きな手。

「ぽんぽんって撫でてくれたんだ。それがなんだか、すごく懐かしくって」

 それは少年の忘れかけていた記憶をも呼び覚ました。
 誰かの膝の上でこうして撫でられた記憶、撫でる手はなくても、代わりに心地よい声が聞かせてくれた誰かの歌の記憶、そしてたくさんの存在が少年の周りに居てくれた記憶――。
 気が付けば、周りには心配そうに少年を伺うゴーストとゾンビたちとで埋め尽くされていた。

「うー? じゃあみんな戻ったの?」

「うん、どうしてだかはわからないけれど、スリーピー・ホロウにやっつけられたゴーストやゾンビたちは元に戻ってたんだ」

 初めは周りのゴーストたちとの再会を喜んでいたのだが、気が付けばあの騎士はいつの間にか姿を消していた。
 そしてそれからだんだんと館に満ちていた淀んだ空気が薄れていき――ついには自ら現われた館の主人に会う事が出来たのだという。

「じゃ、じゃあここが元に戻ったのは……」

『あの騎士様のおかげ、なんですの?』

 思わぬ真相に驚く彼女らに、少年は得意げに頷いてみせた。

「あとは大体合ってるよ。だから皆は恩人の契約者である君らを招きいれようとしたんだし、僕はあいつらを追い払おうとしてたんだ」

『なるほど……爪が甘かったですわね』

 悔しげな様子の黒犬に、少年はにやりと笑みを浮かべる。

「ホロウさん、だから呼んでも来なかったんですね……この館を開放するために……」

 一方の彼女といえば、先程の自分勝手な怒りを思い出し、何とも情けない気分に陥っていた。
 もしあの時こちらを放って彼女の元に来ていれば、今頃逃げ込む場所もなく状況はもっと酷い事になっていたかもしれない。

「じゃあ落ち込むより早く会いに行っといでよ。僕が会った時すごく心配そうにしてたみたいだし」

 そう言って少年が示したのは一つの扉。
 初めは皆その意味がわからずそれぞれ首を傾けていたものの、やがて一人があっと声をあげた。

「うー、扉! 扉あけるー!」

「え?」

 その言葉に女性陣がさらに困惑した表情を浮かべるが、待ちきれずに「うー!」と少年がドアノブに飛びついた。

「ちょっ、勝手に触ったら――」

 危ない、と言いかけった言葉は扉の向こうを見た瞬間どこかへと消えうせた。

『まあ、これは……!』

 その光景に、ザクロが歓声をあげる。

 彼女らの目の前に広がっていたのは大きなシャンデリアが吊るされた広い一室が広がっていた。
 中央には様々な料理が並べられた長いテーブルが置かれ、何人ものゴーストたちが席についている。
 その後ろでは男性のゴーストの奏でるオルガンに合わせて、何組ものゴーストたちがドレスの裾をを翻してステップを踏む。
 皆楽しげに談笑して笑いあい、端から見ればそれは何とも賑やかな食卓であった。
 そんな中、上座に座る男性とその隣に座る首の無い鎧姿を、彼女はようやく見つけ出した。


<To be...?>



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