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連載 - 騎士と姫君-16

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夢と魔法の王国・後編 ≪その3≫


「さて、君達には何とお礼を言ったらよいのか」

 実際に目の前にしたこの館の主人――ゴーストホストは、まさにあの肖像画そのままの人物であった。
 見たところ二十代後半にも、四十代過ぎにも見え、はっきりとした年齢が全くわからない。。
 しかし幽霊とはいえ未だその姿は若々しくも見え、力に満ち溢れている。

「君達が居なければ、今頃我々はこうしてここに揃う事はなかっただろう」

 そして君達と顔を合わせる事も、と主人は苦笑を浮かべる。

「いえそんな、私たちは何も」

 そう恐縮しても、主人や周りのゴーストたちはただにこにこと笑みを浮かべるだけである。

 彼女らはあれからゴーストたちの大歓迎を受け、改めて勧められるままにそれぞれテーブルに着いていた。
 (ザクロはうーうー言う少年の隣に行儀よく座っている)
 こうして手放しに褒められても、実際に働いたのは隣に座る騎士なのであって自分達ではない。
 その為、先程からなんとも申し訳ないような気分を味わっていたのだった。

「まあ、我々のおぞましい姿を見られなかったのはある意味ありがたかったがね」

 その言葉に、周囲のゴーストたちもそれぞればつが悪そうに顔を歪めたりだとか、テーブルの下に姿を隠してしまう。
 彼らは皆、騎士によって一度『死』を迎え、そしてあるべき姿に生まれ変わったのだという。
 幽霊が再び死ぬ、というのも不思議なものではあるが、彼らはそれに関してはあまり深く考えてはいないらしい。
 ただなぜ彼らが元の姿を取り戻す事が出来たのかについては、誰にもわからなかったらしい。

「だが、この館だけではなくこの≪夢の国≫全体の空気が変わりつつあるようだ。徐々にだが我々と同じく≪夢の国≫もまた元の姿を取り戻しつつあると、私はそう思っているよ」

 何の要因でそれが起こっているのかはわからないが、とにかくかつてない変化が起きているのだという。

「あの、そういえば外の様子は……」
「ああ、それに関しては心配ない。あちらの勇敢なレディが『あれ』を追い払ってくれたようだ」

 そう主人が示したのは、他ならぬザクロである。
 しかし彼の膝の上に座る少年にとってみればそれは面白くなかったらしい。

「僕も! 僕も頑張ったんだよ!」
「おおそうか、君もそうだったな」

 「すまない」と苦笑気味に主人が謝るが、少年はかえって拗ねてしまったようで人形を抱えて頬を膨らませている。
 しかし主人がそっと少年の頭を撫でると、気持ちよさそうにまぶたを閉じた。

『あの、ワタクシたちこの≪夢の国≫からの帰り道を探しているんですの。何かご存じないかしら?』

 少女のゴーストと並んで巨大なクッキーにかぶりついている少年を横目に、ザクロがずばり本題を切り出す。
 すると主人は少年を撫でる手を止め、ふむと唸る。

「実はこの子に案内をさせている間、騎士殿ともそれについて相談したのだがね。あいにく我々の中にもここを出た事があるものはいないのだよ」

 主人が言うには、本来であれば≪夢の国≫自身が中に招きいれた者たちを表の世界へ送り届けていたのだというが、それも≪夢の国≫全体が歪んでしまってからは全く行われていないのだという。
 なぜなら、来た者は皆≪夢の国≫の住人になって住み着いてしまう。
 それ故帰り道はもはや必要なくなってしまったのだ。

「じゃ、じゃあ帰り道はもう無いって言うんですか?」

 彼女の悲痛な声をきっかけとして、周りのゴーストたちもまたおろおろとざわめき始める。
 喧騒は徐々に高まっていくが、それも主人がひとたびさっと手を上げれば、ぴたりと止んでしまった。

「確かに諸君が考えている通り、正規の道はほとんど見込めないだろう。だが……裏道ならどうだね?」
「うー、うあみい?」

 もごもごと口いっぱいにクッキー頬張る少年の横で、ザクロが唖然とした様子で目をしばたかせる。

『そ、そんなもの存在するのですの?』
「うむ。そしてそれはむしろ、君達の方がよくご存知なのではないかね?」

 そう主人から尋ねられ、それぞれ改めて思い出そうとしてみる。
 しかしそんな『裏道』を見つけていれば、ただそこを通り抜ければいいだけの話。
 だが危険を冒して≪夢の国≫中を歩き回ったというのに、それらしいものはまったく見出せなかったのだ。

「道と言っても……」
「うー、ここ来たときもぼくら歩いてないもんね」

 指についたチョコを舐めながら、少年もまた首をかしげる。
 しかしその言葉を聞いてザクロの耳がぴんと立った。

『そうですわ! ここへ来るあの『穴』こそが≪夢の国≫への『裏道』だったのでしょう!?』
「ご明察!」

 それを聞いて、周りのゴーストたちがそれぞれ顔を見合わせながらも身を乗り出してくる。

「騎士殿に伺ったところ、どうやら君達は≪夢の国≫の住人を追ってここへやって来たという。おそらく表の世界の子供たちをこちらへ連れて来る為に作った一時的なもの、あるいは君達に追われて逃げる為に急遽作ったものか」

 例えるならば、それは従業員用の通路と言ったところか。
 どちらにしろそれはあの白ウサギの一任により作られたもので、≪夢の国≫が認める正規の通路ではない。

「そうして君達はここへやって来られた。しかしいざ帰ろうにも、他に道はない」

 ならば――来た道を辿っていけば、元いた場所に戻れるはずではないか。
 その推察に周りのゴーストたちが一斉にざわめき始めた。

「で、でも私たちは気づいたらもうこの≪夢の国≫にいたんです。どこであの穴から落ちたかなんて、ほとんど覚えていません」

 彼女の言葉に、水を打ったようにざわめきが静まり返る。
 確かに、それも彼女らが考えた手段一つではあったのだ。
 しかし合流した後で少年にもそれを聞いたのだが、返って来たのは同様の返事であった。
 ザクロにはまだ面と向かってそれを尋ねてはいないものの、渋い表情を見ればその答えはおのずと伺える。
 最後の頼みである騎士も、なぜか主人を示すのみで何も語ろうとはしない。

「これはすまない、どうやら結論を急ぎすぎたようだ」

 場の空気などまったく気にも留めていないのか、主人はいたって朗らかに話を進める。

「私が言いたいのはだね、その道を作った者にまた道を作らせればいいのではないかという事なんだよ」

 微笑を浮かべた主人が言い放ったのは、至極簡単な事。
 一瞬の静寂の後、ゴーストたちを中心にこの日一番の歓声が巻き起こった。

『ちょ、ちょっと待ってくださいな、確かにそれが一番確実ですわ。でもその張本人を連れて来られないことには――』

「もちろん、それなら心配ご無用だ」

 そう主人が差し示したのは彼らの頭上、テラスのように張り出した二階の回廊部分である。
 示されるままに目を向ければ、柱に隠れるようにしてこちらを伺う白い影。
 垂れた長い耳、首にかけられた大きな懐中時計、そして全身を覆うふさふさとした真っ白な毛――。

「あ、あ、あ」

 彼女がそれを指差して何か言おうとぱくぱくと口を開くが、驚きのあまり声が出てこない。

「うー! ウサギさんー!」

 少年の言うとおり、それはまさにあの時後を追いかけていた白ウサギその人であった。
 しかし当の本人と言えば、少年の声にびくりと身を震わせてたちまち柱の影に引っ込んでしまった。

『確かにアレがあの穴を作ったウサギに間違いありませんわ。でも……』

 驚愕の一瞬からいち早く立ち戻ったザクロが、怪訝な視線を白ウサギ(何人かのゴーストたちによって陰から引っ張り出されている)へと向ける。
 いくらあのように怯えているとはいえ、かつては子供たちの誘拐に一役買っていた一人である。
 それが突然素直に彼女らの言う事を聞くようになるとは、ザクロには到底思えなかった。

「確かに君が疑うのももっともだ。だが彼はもう大丈夫、私が保証するよ」

 どこか哀れむような主人の声に、ふと彼女の脳裏にある事がひらめいた。

「あの、もしかしてあの着ぐるみも……」

 おずおずとした彼女の問いに、主人はうむと頷いてみせる。

「彼もまた我々と同じ、あるべき姿に戻った者の一人だ」

 ゴーストたちにより二階から引き摺り下ろされたのか、いつの間にか傍に連れて来られた白ウサギを見つめて主人は再び話し始める。

「君達がここへ来られるまでに、実はもう一つ騎士殿に尋ねた事があってね」

 それは、何故騎士がこの館へやって来たのかという事。

「彼がこの館を訪れるまで、ここは周りと大差ない狂った≪夢の国≫の一部だった。なのに彼はあえてここへやって来たと言う」

 そして向かい来る館の住人たちを斬り捨て続け、気づけば騎士は館のゴーストたち全てを倒していた。それがただの気まぐれなどでできる事では到底ないという事は、誰の目にも明らかであった。

「だから私は尋ねたのだ。なぜ、どうしてここを選んだのかと」

 すると騎士は答えた。だがそれは音に載せたものではなく、同族同士で通じ合う一種のテレパシーのようなものであるという。

「彼は迷いなく言ったよ、『追っている者がこの館に逃げ込んだからだ』とね」

 満面の笑みを浮かべ、とっておきの話でも披露するかのように語る主人に彼女らの思考はほんの一瞬停止した。

「つ、つまり……ホロウさんはあのウサギさんを追いかけて来ただけ、と」
「そのとおり」

 何の事はない、ゴーストたちの救出は二の次だったと言う事実に、彼女は勢いよく隣の騎士へ向き直った。
 だが当の騎士はといえばなぜ主が眉を吊り上げて己を睨みつけているのかがわからないらしく、困った様子で主人へと身体を傾ける。

「まあまあ、そう彼を責めないでやってくれないかね。本来であれば、我々はいくら八つ裂きにされても文句は言えない事をやっていたのだから」

 「むしろお礼を言いたいぐらいだ」という穏やかな彼の声に、彼女は少々ばつが悪そうに姿勢を正した。

「まあ、我々の身の上話はこれぐらいにしておこう。少々話が長引いてしまったようだ」

 そう主人が示した先では、二枚目のクッキーを握り締めた少年がうつらうつらと船を漕いでいたのだった。

*



 それから、全てはとんとん拍子で進んでいった。
 白ウサギは彼らの求めを快く承諾し、ゆらゆらと揺れる首をおさえつつも再びあの「穴」を館の庭先へと作り出した。
 そして「穴」の支度が整うまでの間、彼女らは様々なゴーストたちの相手をする事となった。
 純粋に礼を言うだけのものもいればとっておきの喉を披露する彫像たち、あとはここに住まないかだの、死亡証明書は必ず取っておけだの、返答に困るものも多かったのだが。
 ちなみに騎士はやはり一番人気であったのだが、最後は何やら首を抱えた騎士と別れを交わしているようだった。
 終いには「よければ一晩泊まっていけばいい」という主人の提案も丁重に辞退し、こうして彼らはいよいよ帰路へ着く事となったのだ。

 そして別れの時、満月の下には数え切れないほどのゴーストたちが集結していた。

「本当に行っちゃうの? もうちょっとゆっくりしていけばいいのに」

 人形を抱えて名残惜しそうに一行を見上げる少年に、周りのゴーストたちも皆一様に頷く。
 彼らいわく、恩人とその一行をろくにもてなせなかったのがとても心残りらしい。

「ゆっくりしたいのは山々なんですが……皆早く帰ってあげなきゃいけない人がいるんですよ」

 それは主に背中で寝息を立てている少年だとか、かたわらで相変わらずぴしりと姿勢を正している黒犬だとか、なのであるが。
 しかしその言葉に少年は頷いてみせながらも、しょんぼりとうなだれてしまう。

『そう落ち込まないでくださいまし、きっとまた会えますわ』
「……本当に?」

 ザクロの言葉を受け取ってこくりと頷いてみせれば、少年の顔にいくらか笑顔が戻ってくる。

「何、そう悲しむ事はない。どの道最後には皆一緒なのだからね」

 そう話す主人はいたって晴れやかな笑顔だが、その言葉にいささか彼女の顔が引きつった。
 やはり死人と生者の感覚というのは、若干ずれているものなのだろうか。
 そしてそれに続けて、主人が少年の耳元で何かをささやいてやる。
 それを耳にした少年は何やら驚いた様子だったが、今度こそ満面の笑みが戻ってきた。

「――さて、これ以上お客人を困らせてはいけないよ。諸君、お帰りの時間だ!」

 主人の一声に、それまで銘々に騒いでいたゴーストたちが途端にしんと静まり返る。

「本当ならば私が送り届けたいところなんだが、残念な事に私はこの館に縛られている身でね」

 そしてその代わりに、と前へ出たのは未だびくびくと震える白ウサギである。

「案内は彼が務めるから、君達はそれに付いて行けばいい。ただし決して後ろを振り向いたり、脇道があってもそれてはいけないよ」

 ただ白ウサギだけは絶対に見失うなという主人の言葉に、一向は皆それぞれに頷いてみせた。

「本当に、何から何までありがとうございました」

 眠る少年を背に負ぶったまま、精一杯の感謝を込めてお辞儀をする。
 本当に、これだけでは足りないぐらいの助けを彼らにはしてもらったのだ。

「いやいや、我々こそこれぐらいの事しか出来なくて申し訳ない」

 苦笑しているのだろう、すまなそうな声。

「君達にしてみれば、この≪夢の国≫は悪夢でしかなかっただろう。だが、これだけは言わせてほしい。
 ――≪夢の国≫へ、この館へ来てくれて本当にありがとう」

 それはこの館の住人達すべての気持ちだったのだろう。
 顔を上げた彼女の目に写ったのは、皆感謝の笑みを浮かべたゴーストたちだったのだから。

「さあ、ぐずぐずしないで行きたまえ! 振り返らずに!」

 その言葉をきっかけに、まず白ウサギがぴょんと穴へ飛び込んだ。
 それに続いて黒犬、騎士と続き、最後に彼女の番がやって来る。
 もう一度だけ顔をあげれば、そこにはずらりと並んだ恐ろしげな、それでいて短い間ながらも親しんだたくさんの住人達。
 そしてその後ろにそびえる館を見ても、もう彼女の心に恐怖が忍び寄る事はなかった。

「……私も、ここに来られてよかったです!」

 それは彼女の本心からの言葉。
 この数時間(そう、たった数時間しかたっていない)で、彼女は様々な体験をし、そして彼らと出会った。
 それらを総合してみれば、もはやこの館は彼女にとって恐ろしいだけのものではなくなっていたのだ。
 彼女の言葉に、ゴーストたちがわいわいと歓声をあげ、主人は嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 そして彼らに見送られ、彼女は再び真っ暗な穴の中へと身を躍らせた。

*



 学校町、どこかの路地。
 あちらに着いた時同様、気づけばまた見慣れた風景の中に彼女は立ち尽くしていた。

『ここは……南区みたいですわね』

 そう鼻を鳴らすのは幾多の危機を助けられた、頼れる黒い雌犬のザクロ。
 確かにそれは駅前通の一角であり、辺りを見回してみればどうやらネオンが輝く歓楽街の辺りのようである。

『どうやらあの人形もどきどもも、もう居ないみたいですわね。これならもう安心してよさそうですわ』

 それを耳にした瞬間、彼女の身体の緊張が一気に抜けてがくんと膝が崩れ落ちる。
 そのまま道端に座り込むかと思われた刹那、彼女の肩を大きな手が支えた。

「ホロウ、さん」
「…………」

 いつもであれば恥ずかしいから離せだの、いくらか抵抗するのだが、正直今はもうそんな力も残っていない。
 ≪夢の国≫から帰った今、一刻も早く休める場所へ行きたかった。
 そして次に望むのはふかふかのベッドで眠る事のみ。
 だが、一つだけ問題が残っている。

「どこへ……帰ったらいいんでしょうねえ」

 帰ってきたという実感と共に、今の今まで追いやられていた記憶もまただんだんと戻ってくる。
 たとえば黄金色の田んぼであるとか、そこで出会い、別れた二人はあれからどうしたんだろうとか、はたまた破壊しつくされた自宅付近の風景であるとか。

『そういえばこの子、お宅はどちらなんですの?』

「………………」

 どうやら問題は一つどころではなかったようだ。
 そんな事など知る由もなく、少年は未だ背中で寝息を立てている。

「どうやら……また迷子、みたいですねえ」

 力なく笑う彼女を、ザクロは不思議そうに見つめるしかない。
 確かにザクロに頼めば、どこへなりと望むところへ連れて行ってはくれるだろう。
 しかし、目的地がないのならばどうしようもないのだ。

「あー……とりあえず何か食べません?」

 その言葉に、ザクロはひさびさに空腹感を覚えたのだった。

*



 そこからすぐ傍の、狭い路地。
 ごみ箱や自転車がひしめく陰に紛れて、ケタケタと何かの笑い声が聞こえてくる。

「あーあ、まさか家がないなんて予想外だったけど……」

 路地に響くのは子供特有の高い声、しかしそれを話す人影はどこにもない。

「ゴーストホストの言い付けだもの、最後まで付いてってあげなきゃね」

 その声に、さらに甲高いものや低い笑い声が混じり、やがて路地中にこだました。



 そしてそれを耳にした者がいたかどうかは、また別のお話。





秋祭り二日目、≪夢の国≫編 <Fin>



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