あぎょうさん
「…誰か、助けて!」
僕の悲痛な叫び声は、炎の中へと消えていってしまう。何故、こんなことになってしまったんだろう…
────僕はこの教室に忘れ物をして、それから先生に鍵を借りて、教室に入って、窓際の僕の席に着いたその瞬間…突然、ロッカーから火が吹き出したんだ。僕、大パニックで尻餅着いちゃって、その間にも火はあり得ない速度で燃え広がって…
気付けば、僕の周りは炎に包まれていた。逃げ道、ほぼ無し。あるとすれば、窓からグラウンドに降りる事だけど…
「ここ、四階じゃないか…」
「ここ、四階じゃないか…」
それと同時に、僕は恐ろしいものを見た。
グラウンドで体を踊り狂う様にくねらせて、炎を吐く竜の姿を。
「な…なんだよ…あれ…」
グラウンドで体を踊り狂う様にくねらせて、炎を吐く竜の姿を。
「な…なんだよ…あれ…」
はっと、振り返れば。
炎は既に、すぐそこにまで来ていた。
炎は既に、すぐそこにまで来ていた。
そして、今に至る。
もうパニックで、何も考えられなくて、でも、熱気と息苦しさの中で、僕は死を覚悟していた
もうパニックで、何も考えられなくて、でも、熱気と息苦しさの中で、僕は死を覚悟していた
そんな時だったんだ、あの声が聞こえたのは。
『あぎょうさん、さぎょうご、いかに』
おじいさんのような、おばあさんのような、とても不気味な声を、天井から。
その声は続けて、こんな事を言い始めた
その声は続けて、こんな事を言い始めた
『ひっひ、あぎょうさん、さぎょうご、いかに。あんた、"あの話"を聞いちまったね?ひっひ、このままじゃあんた、"火竜そば"に殺されちまう。ひっひ』
…なんでだろう、この声に耳を傾けている間は、熱気も息苦しさも感じられなかった
それに、火竜そば。何処かで聞いたような、聞かなかったような…
それに、火竜そば。何処かで聞いたような、聞かなかったような…
『ひっひ、ワシは"あぎょうさん"。あぎょうさん、さぎょうご、いかに。あんた、ワシと契約しないかい?してくれたら、助かるヒントくらいはやってもいいがねぇ?ひっひ』
「…契約?」
「…契約?」
なんの事かは分からなかったけど、とにかくなんでもいい、命が助かるなら、僕は
「…する、契約でもなんでもするよ!だから僕を助けて!あぎょうさん!」
──それが僕と"うそ"の都市伝説、あぎょうさんとの出会いだった。
『…ひっひ、契約完了、契約完了、ひっひ、あぎょうさん、さぎょうご、いかに。あぎょうさん、さぎょうご、いかに…』
あぎょうさんは、とてもおかしそうな声で『あぎょうさん、さぎょうご、いかに』と言い続けていた。それより──
「あぎょうさん!契約したら助けてくれるんでしょ!?ねぇ!早く助けてっ!」
僕はもう必死だった。必死にあぎょうさんに助けを求めた、けど
僕はもう必死だった。必死にあぎょうさんに助けを求めた、けど
『ひっひ、ワシは助けるなどとは一言も言っておらんよ。ワシはヒントをやると言っただけさ。あぎょうさん、さぎょうご、いかに。ひっひ』
「えっ………?」
「えっ………?」
そんな!無茶苦茶だ!それに、ヒントなんて何処にあるんだ!ああ、いつの間にかまた熱気と息苦しさが襲ってきてる!もうダメだ!
僕はゆっくりと、瞼を閉じた…
僕はゆっくりと、瞼を閉じた…
…ん?
あぎょうさん、さぎょうご、いかに?
僕はこのフレーズを、ちょっと前に聞いた事がある気がする
…そうだ、噂好きの僕の兄さんからだ。それに確か、火竜そばって名前も…
あぎょうさん、さぎょうご、いかに?
僕はこのフレーズを、ちょっと前に聞いた事がある気がする
…そうだ、噂好きの僕の兄さんからだ。それに確か、火竜そばって名前も…
あぎょうさん、さぎょうご、いかに
ア行三、サ行五、如何に?
「…うそ?」
…そう言った直後、あぎょうさんの笑い声がけたたましく響く
僕はこれより恐ろしい笑い声を知らない、そんな声だった。
僕はこれより恐ろしい笑い声を知らない、そんな声だった。
『ひっひ!そう、うそなのさ!"火竜そば"も、ワシも!"うそ"と言う名の都市伝説なのさ!』
「どういう…こと…?」
「どういう…こと…?」
限界が近かった。視界が掠れて、意識も朦朧として…けど、僕は必死に、あぎょうさんの言葉に耳を傾けた
『おまえさんは火竜そばとワシの噂を聞いてしまった、だからワシも火竜そばもおまえさんに憑いた。ひっひ、でもなおまえさん、これは"うそ"なんじゃよ、この炎も、火竜そばという存在も、ワシもなぁ。』
『全部おまえさんにしか見えておらんよ。言うなれば、力を持った言霊じゃな』
『全部おまえさんにしか見えておらんよ。言うなれば、力を持った言霊じゃな』
ああ、そうか、だから騒ぎの音が一つも聞こえなかったんだ
…その時だった、激しい炎が、僕の体を、勢い良く、包み込んで────いなかった、いなかったんだ、確かに、僕は…
…その時だった、激しい炎が、僕の体を、勢い良く、包み込んで────いなかった、いなかったんだ、確かに、僕は…
『ひっひ、ワシの能力は、一日一回、持続するなら一時間だけ、"事実を嘘に変える"じゃ。ひっひ、そして、奴が手にいれた能力は"幻覚の炎を操る"というもの。だから、奴の正体が分からなければ、幻覚といえど死んでしまうという訳じゃ、ひっひ』
僕は少しぽかんとしたけど、あぎょうさんが僕を守ってくれた事だけは、わかったんだ
これは、うそ。全部、幻覚。だったら怖い事なんて何もない────
「炎も何もかもうそだ!火竜そばなんて、うそばかり!」
──気がつくと、そこはいつもの教室だった
燃えたところもなければ、竜もいない。あれは夢だったのかと、忘れ物を持って教室から出ようとした、その時だった
燃えたところもなければ、竜もいない。あれは夢だったのかと、忘れ物を持って教室から出ようとした、その時だった
『ひっひ、夢じゃないよ、おまえさん』
──あぎょうさんの声
『ひっひ、ワシの存在はさっきも言ったように"うそ"だが、おまえさんと契約した事でおまえさんから消える事はなくなった…ひっひ、さあ、おまえさん、これから忙しくなるぞ。おまえさんはワシと共に、都市伝説達と戦わなけりゃならんのだからな、ひっひ』
「ちょ…えぇっ!?意味分からない…ってか、そんなの聞いてないよ!?」
「ちょ…えぇっ!?意味分からない…ってか、そんなの聞いてないよ!?」
僕が抗議するのを楽しむかの様に、あぎょうさんはおかしそうに、こう続けた。
『ひっひ、そりゃあ、言ってないからのう。』
「そ、そんなぁ…」
「そ、そんなぁ…」
僕は、がっくりと項垂れて、これから起こりうる出来事に、頭を悩ませるのだった。
──Fin