ラノロワ・オルタレイション @ ウィキ

神威 (無為化)

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神威 (無為化) ◆76I1qTEuZw




……ちょっとちょっと! 待ちなさいよ!

誰? じゃないわよ! あんたよあんた! そこのななしの権兵衛!

あーもう、どこまでもしらばっくれる気? このいの字!
いのすけ! いーいー! いっきー! いっくん! いー兄!
『あ』の次に来る字! 『あ』の下『き』の横! 『あ』の1つ後! 『あ』の後に1つ!
戯言遣い! ぎげんづかい! 虚戈言遣! 虚+戈言遣い! 詐欺師!
いいなおすけいいとこなしねいいたくなんかなしいいじんせいだったいいいくぁwせdrftgyふじこlp;……

 (以下、言葉にならない言葉が数分に渡って続く。十数行略)


……あ、やっと止まった。ったく、お城から出ちゃうとこだったじゃない。
何よ。変な顔して。
妙な呼び方するな、ですって?
あんたが名乗らないのが悪いんでしょ。こっちは名前聞いてんのに、変なあだ名ばっか喋って。
まあもう面倒くさいから『いー』でいいわ。あんた「ちゃん」付けで呼ばれるような可愛い奴でもないでしょ。
それで、いー。
このままあんたの提案採用してここから逃げちゃおうかと思ったけど……気が変わったわ。

あんたも、『聞こえてた』でしょ?

そう。さっきの。
……聞こえてない?
あー、確かに、あんたが来た方向からだと、よく聞きとれなかったかもしれないわね。反響とかで。
そう。スピーカーか何か使って叫んでた、アレ。
なんか長ったらしくて鬱陶しい演説だったけど、確かこんな意味のことだったはず。

まずは『俺は強いぞー!』だったかしら?
で、『僕の女に手を出すなー、手を出したら殺すぞー』。
さらに『だから誰かさっさとなんとかしろー』って。
ああ、『優勝したい奴はかかってこい、ホールで待ってるぞ!』、……みたいな挑発もしてたわね。
他力本願なのがちょっと気に喰わないけどね、まあ嘘はついてないんじゃない?

……別に忘れてたわけじゃないわよ。仕方ないじゃない。
どうしよっかな、って思ってたとこにあんたが来て、それどころじゃなくなっちゃったし。
あと、あんたにも聞こえてたもんだと思ってたから。
そのあんたが何も言わないんだもの。あたしだって「ま、いっか」って思うわよ。ちょっとだけだけどね。


それで? じゃないわよ!
いー、あんたは気にならないの?

だって、挑戦状よ、挑戦状! 
かかってこいって言われてるのよ!? 正々堂々決闘よ!
こんな面白いこと、見逃せると思う?
SOS団の辞書に、挑戦から逃げるという言葉はないの!
……自分はSOS団じゃない、って、全くいちいち細かいこと気にする奴ね。いいのよ、そんなこと。

まあそりゃ、あたしは『優勝』とやらを目指してるわけじゃないから、挑戦を受ける義理なんてないんだけどさ。
でも、見てみたいじゃない。
どんな奴がこんなこと言い出すのか、っての。
なんだかやけに自信満々だったし、勝算はあるようだったし、ひょっとしたら凄い奴なのかもしれないわ。
凄腕の殺し屋とか、超能力者とか、宇宙人とか、魔法使いとか。
……何よ。また変な顔して。

まさかとは思うけど、「そんなのいるわけない」、とかつまんないこと言うつもり?
でもあんたも気付いてるでしょ。始まった時の変なワープとか、この妙なデイパックとか。
何があってもおかしくない状況で、何か不思議なことやらかしてもおかしくないあの宣言よ。
これで普通の人が普通のまま殺しあってたら、それこそ興醒めってものよ!
それに、ひょっとしたらあの男は普通のつまんない人間なのかもしれないけど、
アレを聞いて集まってくる奴らの中には、普通じゃないのが混じってるかもしれないじゃない。
こんな機会、逃す手はないわ!

ん? 世界の端を見に行く? ああ、そんなことも言ってたわね。
でも後回し! どうせあんたも、時間的に厳しいから1マスくらい妥協してもいい、って言ってたでしょ。
なら1マスも2マスも一緒よ。妥協なさい。これは命令。

……近づくのは危険だからやめた方がいい?
そうね、危険かもしれないわね。だけどね、あえて聞くわ。

危険。それが何? それがどうかした?

そもそも『安全な場所』なんてどこにもないでしょう!?
逃げてもダメ! 隠れてもダメ! 上手く逃げ隠れできても、時間切れになったら終わり!
なら、どうすればいいと思う?

……ちょっとは考えなさいよ!
いいこと、いー。
こういう時に必要なのは、ズバリ! 『情報』よ!
誰が危険で誰が信用できるのか! 誰にどんなことができて、どんなことしようとしてるのか!
それを集めることが大事なのよ。
多少のリスクを犯してでも、こういうコトを知るチャンスを逃すべきじゃないわ!

今回、相手は『ホール』で待ち構えてる、ってのが分かってるわ。
挑戦を受けようって奴も、まっすぐそこを目指すに決まってる。
場所も進路も大体分かってるんだから、こっそり隠れて見張ることはできるはずよ!

あたしたちの目的は、偵察!
こっそり近づいて隠れておいて、誰が『挑戦』に応じようとしているのかだけでも遠目に確認!
もしこっちが見つかっちゃったら、即撤退!
戦闘が始まっちゃっても、即撤退よ!
見逃すかもしれないのは、ちょっと勿体無いけどね。背に腹は換えられないわ。

……「さっきは逃げないって言ってた」、ですって? あんた男のくせに細かいこと気にすんのね。
いいのよ、戦略的撤退って奴よ。状況に応じて柔軟な対応していかなきゃ、この3日間戦っていけないわ。
もっと長期的視野で考えなさい。
あと、心配しなくても、逃げる時の足もちゃんとあるわ。
うんしょっ……っと。

どう? これよ!
サイドカーつきのバイク!
トレイズのサイドカー』ですって。そういえば名簿にも同じ名前があったわね。同一人物かしら?
まあ、あたしの鞄から出てきたんだから、今はあたしのものよね。遠慮なく使わせて貰うわ。
……何か文句ある?

え? もっと早く出しとけ、ですって? なんでわざわざ走ってたのか、って?
う、うるさいわね。
……そう、大きな音がするから「あえて」温存してたのよ!
さっきまでは、誰にも見つからないように移動するつもりだったでしょ? だから使う機会なんてなかったの!
でも、「いざ何かあって」逃げる時には、そんなこと言ってられないわ。全速力で移動しなきゃ。
だから今出すのは正解なのよ。

免許? もちろんないわ。でもきっと簡単よ、こんなの。
特にコレ、サイドカーつきってことは補助輪ついてるようなモンでしょ。
なら、そう簡単には倒れないわよね。適当に動かしてりゃ運転の仕方も覚えるでしょ。

……あら、そうなんだ。
ちょっと意外ね。見た感じ、ヤンキーってわけでもないのに。
なら、あんたをSOS団専属の運転手に任命するわ!
いざという時は、あんたがコレ運転するのよ。あたしはサイドカーの方に乗るわ。
そうと決まったら、さっさと引き返しましょう。

ほら、いー! 急ぎなさいってば! 置いていくわよ、もう!
重い? 押すの手伝え?
あんたが運転手なんだから、あんたが面倒見るのが道理ってもんでしょ! さあ行くわよ!



【D-4/ホール近く/一日目・黎明】

【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:健康
[装備]:クロスボウ@現実、クロスボウの矢x20本
[道具]:デイパック、基本支給品
[思考・状況]
 基本:この世界よりの生還。
 1:ホールで叫んでた奴、またはそれに惹かれてやってきた奴を遠くから観察する。危なくなったら逃げる。
 2:一段落してから、世界の端を確認しに行く。
 3:SOS団のみんなを探す。

[備考]
 支給品「トレイズのサイドカー」は、いーちゃんに渡しました。


   ◇  ◇  ◇


《偶然》とは何か。

その問いはコインの裏表のように、もう1つの問いを内に秘めている。
すなわち、《必然》とは何か。
《偶然》と《必然》の間に引かれる線は何なのか、と言い換えてもいい。

たとえば誰かがカジノのルーレットで赤に全財産を賭けて勝ったとしても、一回だけなら多分《偶然》だ。
けれど、これが5回続けて起こったりしたら、それはもう何らかの《必然》が働いている。
少なくとも、多くの人はそう考えてしまう。
ただ運が良かっただけです、と言われても納得はしない。
確率にして1/2の5乗、32分の1、3%強の幸運を引いただけです、では済まされない。
いくらかの有名なギャンブラーの錯誤だと分かっていても、そこに必然の匂いを探そうとしてしまう。
それは例えば、イカサマだったり、50億人に1人の強運が来る2週間だったり、超能力だったりするわけだが。
どうしたってそこに《偶然》以外の力が存在するのだ、と想像してしまうのだ。

まあ、カジノの場合、ディーラの作為が多少なりとも働くから、最初っから《偶然》ではないんだけどさ。
もちろんこれは戯言。

逆に、あらゆる意味で《必然》なのに《偶然》と認識されることもあるだろう。
さっきのルーレットの例で言えば、ディーラーを買収するか何かして、赤1点賭けで大勝した。つまりイカサマ。
でもそこで勝負をやめてしまった。
この場合は真相を知らない限り、あるいは露見でもしない限り、幸運、の一言で済まされることが多いだろう。
《必然》がそこにあるのに、見逃されてしまうわけだ。

さてこうなると、《必然》か否かを決めるのは、結局のところ観測者の気分次第、ということになるのだろうか。
回数はその気分に影響を与えうる重要なファクターの1つだが、しかし必要条件でも十分条件でもない。
気分、
もしくは理解、
あるいは納得。
なんと呼ぼうと大差はない。
そしてそもそも、《偶然》だろうと《必然》だろうと、実は結果的には大差はない。


まあ、言い訳をするならば。
そういったことに思考を裂かれていたので、
ぼくはハルヒちゃんの言葉に生返事を返すばかりになっていたのだけど。

しかし……ふむ。
ハルヒちゃんが聞いたという、あの《宣言》。
会場に散る善良な参加者に対する督促状であり、
会場に潜む悪辣な参加者に対する挑戦状であり、
会場に彷徨う最愛の参加者に対する決意表明たる、
あの《宣言》。
いやまあ実は、彼女に教えてもらうまでもなく、しっかりちゃんと聞こえてはいたんだけどね。
なにぶんぼくは記憶力が悪いので、彼女が話題を振ってくれるまで、綺麗さっぱり忘れていたというわけ。
まったく戯言である。

しかしこうして思い出してしまった以上、ぼくとしても気になってしまう。
1つだけなら《偶然》と流せた。でも、こう重なってくると《必然》を疑わざるを得ない。
それは、ぼくとハルヒちゃんが揃ってあんな自殺志願者の長口上を忘れていたこと、ではなく。

自分以外の誰かのために、人類最悪言うところの《椅子取りゲーム》に乗る奴がいることについて、だ。

学校で出会った自称超能力者・古泉くんは、目の前のハルヒちゃんのために自作自演の悲劇を作ろうとした。
ホールで挑戦者求む! とブチ上げた男は、大事な誰かのために皆を脅迫し、また危険を排除しようとした。
ここに、友のために行動しようと決めたぼくを加えれば、既に3人。
ハルヒちゃんだって、古泉の「目的」たる人物だ。
この短時間に直接・間接問わず出会った相手が、揃いも揃って同類、あるいはその対象というのは……
これはちょっと、《偶然》とは思えない。
ここまで重なると、《偶然》では流せない。

あるいは、ひょっとしたら。
この《椅子取りゲーム》に放り込まれた連中は、そういう連中ばかりなのかもしれない。
そういう傾向の者だけではないにせよ、そういう傾向の者が多いのかもしれない。
自分より誰かが大事。
利己主義者ならぬ、究極の利他主義者。
なるほど、これはこれで《ゲーム》は進行することだろう。
守るにせよ、攻めるにせよ、逃げるにせよ、だ。

そう考えた理由は、他にもある。
例えばこの、サイドカー。
もちろん、本来の持ち主から取り上げたついでに適当に支給しただけ、という可能性もないわけではない。
けれど基本的に、サイドカーは2人乗りを前提とした乗り物だ。
彼女は補助輪、なんて言ってたけど、バイクとしての使い勝手を考えれば、外した方がいいに決まってる。
そしてサイドカーを外すだけなら、そう難しい作業でもないのだ。
2人で行動しようと望む者が出るだろうから、あえてつけたままにしておいた。そう見た方が自然だ。

まあ……現時点では戯言くらいにしかならない考察だけどね。


で、そんなわけで。
ぼくはこうして、意気揚々と道を引き返すハルヒちゃんの後を、バイクを押しながらついていっているわけだ。
うん、『情報』を集める。確かに重要なことだ。
世界の端を確認する、なんてことも、他に当てがないからのこと。
いつかはやらなきゃいけないけど、そんなのいくらでも妥協していい話だ。

けれど、ハルヒちゃん。
それ以上に、ぼくが気になるのはね。

きみがどうやら、本物、らしいということだ。

古泉くんの言った通りの《神》なのかどうかは、まだぼくには分からない。
そこまでは断言できない。
ただ、どうやらただの夢見る少女、ではないらしい。
それくらいは分かった。分かってしまった。
少なくとも《アレ》は、《偶然》では済まされない。
《偶然》と《必然》とを分ける重要なファクターの1つは回数だけど、それは必要条件でも十分条件でもない。
1回限りでも、十分《必然》を疑わざるをえない状況というのはある。

ぼくにとっては、彼女が口にした《名前》が、まさにそれだ。

でたらめに大量に言った内の1つが、たまたま当たっただけ。それは分かる。
でもそれは、ぼくにとっては《偶然》では済まされない。
それが《必然》である理由が必要になってしまう。

涼宮ハルヒには、無自覚ながらも自らの願望を実現する力がある――古泉くんの言葉だ。
つまり彼女は、「ぼくの名前が知りたい」と思った。
だから、言い当てた。
少し遅かったけど、見事に言い当てた。
彼女自身も、与り知らぬうちに。
たぶん、彼女はまだ気付いてない。ぼくの名前を当ててしまったことに、全く気付いていない。
自分のしでかしたことを、理解していない。
……そういうことに、なるのだろうか。

……まったく。
いくらなんでも、無茶苦茶だ。
子荻ちゃんの時のように、十分なヒントがあったわけではない。十分な知識と知恵があったわけでもない。
なのに、ただでたらめに、思いつくままに言葉を口に出していって、それで見事に正解を引いてしまう。

これはもう、常識を超えた「何か」がある。
例えばそれはあの、空前絶後の占い師のように。
《神》は大袈裟にしても、それを《必然》とする「何か」がそこにあるんだろう。
超能力。ESP。神の力。それを何と呼ぶかは重要じゃない。

なるほど、これは戯言殺しだ。
これもまた、立派な戯言殺しだ。
無自覚なままに発揮される才能。発揮されても自覚されない才能。
そこには戯言が食い込む余地はなく、事故頻発性体質が挟まる隙間もない。
そこには戯言を言っている暇もなく、無為に帰すべき意図もないのだから。

ぼくの周りでは、何もかも上手くいかない。誰の望みも叶わない。
ぼくが何もしなくても、周囲が勝手に狂いだす。
けれど――
彼女という中心では、何もかも上手くいく。彼女の望みは叶ってしまう。
彼女が何かすることで、周囲が勝手に従っていく。
それ自体が一個の特異点。


だけどね――ハルヒちゃん。
きみは、《4人目》なんだ。

一人は井伊遥奈。
一人は玖渚友
一人は想影真心。

一人は死んだ。
一人は壊れた。
一人は焼かれた。

この場合、意識して呼んだわけじゃないから例外扱い、なのかもしれないけれど――
きみはいったい、どうなるんだろうね?

どうでもいいと言えばどうでもいい。
気にならないと言ったら戯言になる。
――なんてね。

やれやれ。
まったく、ぼくらしくもない。
ぼくはひとつ溜息をつくと、サイドカーを押して歩き出したのだった。


【D-4/ホール近く/一日目・黎明】

【いーちゃん@戯言シリーズ】
[状態]:健康
[装備]:森の人(10/10発)@キノの旅、バタフライナイフ@現実、トレイズのサイドカー@リリアとトレイズ
[道具]:デイパック、基本支給品、22LR弾x20発
[思考・状況]
 基本:玖渚友の生存を最優先。いざとなれば……?
 1:ハルヒに付き合ってホールに近づく。危なくなったら逃げる。
 2:一段落したら、世界の端を確認しに行く。
 3:涼宮ハルヒを観察。ハルヒの意図がどのように叶いどのように潰えるのかを見たい。

[備考]
 涼宮ハルヒは、(自分も気づかないうちに)いーちゃんの『本名』を言い当てていたようです。
 (ハルヒパートの冒頭付近。『以下十数行略』の中に含まれている可能性もあります)
 (なお、「あのつぎにくるじ」「あのした・きのよこ」などは、「本名候補の1つ」として考察されているものです)
 なお、いーちゃんの『本名』は不明です。



【トレイズのサイドカー@リリアとトレイズ】
『リリアとトレイズ』Ⅰ・Ⅱ巻で登場した、サイドカーつきのバイク。


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