白は白く解けて~2~

(投稿者:フェイ)


視界を埋め尽くすワモンの群れ。
油断せず周囲に眼を配りながら一息をついたブリュンヒルデは、重槍ヴォータンを構えなおす。
頭の中で今までの前線位置と、現在の防衛ラインを比較検討し。

「………押されている…!」

いくらブリュンヒルデが気を張ろうと、あくまで抑えられるのは点。
303作戦の失敗によりMAIDが激減している今、この戦線を保つには純粋に戦力不足であった。
各国からの援軍をもってして、ようやく五分。
ようやくメード開発の復興を見せ始めたとはいえ、エントリヒメードの誕生にはまだかかる。
――ならば、今自分の為すべきことはなにか。
迷う必要はない。

「はああああああっ………はあっ!!!!!」

身体に力が充ちて行くのを感じながら、踏み込む。
力を込めた一歩はその足跡を地に刻みながら、一気にブリュンヒルデを加速させる。
突貫、突き出したヴォータンがワモンを真正面から貫き、引き裂く。
勢いのままにヴォータンを横へ振り、その横へ位置していたワモン数体を纏めて切り裂いた。
横へ振り切った慣性に囚われるブリュンヒルデの背後から飛び掛るワモン、その先頭にいた一匹の頭が振りぬかれたバックハンドで砕かれる。
地を削りながら脚を摺り、攻撃を回避して自らの間合いを取り直す。
ヴォータンを下段に構えなおし、次の群れへと飛び込む。

「おおおおおおっ!!!」

―――例えコアエネルギーを使い果たそうと、一匹たりともここよりは通さない…!
ヤヌスも、ライデンも、ディックも。ロゼもファービーもメリッサも、皆居なくなった。
自らの命を懸けてでも彼らが守ろうとした国を守るため、どうして自らの命を惜しんでいられよう。
次の世代が生まれるまで保てばいい。

「っ…!!!」

まだ、まだまだ動ける。
上空を通過しようとしたフライに向けて天高く跳躍。
下から突き上げるように貫き、そのまま地へ縫い付けるように叩きつける。
フライと地を同時に縦に裂きヴォータンを引き抜くと、強く引き石突を後ろへと突き出す。
後ろでよろけたウォーリアを、振り回したヴォータンで薙ぎ、背後の安全を確保、下がり、気付く。

――また一歩、下がってしまった。

戦おうと思えばいくらでも前へ出ることは出来る。
しかし他の部隊は現在補給中、援軍の居ないこの状況で敵を後ろへ通さないためには、下がりながらの戦闘を強いられる。
歯痒さに奥歯をきしませながらそれでもヴォータンを構える。
まだ敵の数は多く、ここから後何歩下がるのかも見当はつかない。
せめて―――。



「苦労していますね」



「?!」

背後の気配に振り向くことは出来ず、しかし声から判断は出来た。

「レギン、レイヴ…? 何故ここに」
「貴女が単騎で大群を食い止めていると聞きました。いったはずです。越える、と」

ゆっくりと歩いてきたレギンレイヴは、ブリュンヒルデの横へ並ぶとホルダーから装備を取り出す。
棒状のそれは、レギンレイヴの手に握られるとその先端から光の刃を作り出す。

「それが、光剣……」
「はい。レアスキルと呼ばれる技能で扱う剣。…貴女の槍のように大層な銘はついていませんが」

油断なく構えるブリュンヒルデの隣で、剣を構えるレギンレイヴ。

「……何か?」
「いえ…貴女が助けに来るとは思っても見ませんでしたから。てっきり敵視されていると思っていました」
「…越えるべき対象が死んでいたら正当な評価が得られないでしょう?」

レギンレイヴは呆れたように言いながら、跳びかかってきたワモンを無造作に一閃。
光の剣に切り裂かれたワモンはそのまま真っ二つとなり地に落ちる。
その様子をみたGは警戒するように二人の戦乙女から一定の距離を取るが、構うことなくレギンレイヴの視線はブリュンヒルデに向かい。

「貴女が生きている内に貴女を越える。その為に貴女を助けましょう。…このまま一人で戦われてもスコア差を開けられますから」
「………」
「……今度は、何か」

しばしの間唖然としていたブリュンヒルデは、ゆっくりとその表情を柔らかい笑みへと変え。

「やはり、貴女は優しい人なのですね。レギンレイヴ」

レギンレイヴの力が抜けた。

「……ブリュンヒルデ。今の会話の何処をどう取ればそういう結論に達するのか説明しなさい」
「共に高みを目指す者として、互いを助け合い、精進を重ねる。…ハジメに言われたとおり、私にはその競争心が足りていなかった。…それを教えてくれたのでしょう」
「何…いや、私は」
「さぁ、参りましょう。私の隣を、お願いします」
「私の話を聞きなさい。……全く。終わりましたら話があります。よいですね」
「ええ。私もゆっくりと、貴女の話を聞きたいですから」

その返答にレギンレイヴは、頭痛を抑えるためか軽くこめかみを押さえる。
しばらくしたのち、軽く息を吐いてから前へ向き直り。

「では、行きます、ブリュンヒルデ」
「ええ…ここからは攻めへ転じます!」

ブリュンヒルデの頭に、先ほどの懸念は既にない。
一人の点で護るよりも、二人で線で護れることがどれほど楽なことか。
そして何よりも、言葉を交わし、レギンレイヴの考えを理解できたことが嬉しく、気分を清清しくさせる。
――正しく、理解したかはともかくとして。

「軍神、ブリュンヒルデ。参ります…!」

ブリュンヒルデが、槍を構え。

「…Gよ、高貴なるモノとして、このレギンレイヴが判決を下します。悉く、死を!」

形成される光剣は、細身で先端の鋭く尖った刺突用の剣。
剣を持った左腕をかかげ肘を軽く曲げ、レイピアの様に構える。

黒と白
二人の戦乙女はGの群体へと飛び込んでいった。




最終更新:2009年11月11日 20:24
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。