21世紀深夜アニメバトルロワイアル@ウィキ

思い出は奪われ、憎しみの熾火が燻ぶる

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集

思い出は奪われ、憎しみの熾火が燻ぶる ◆x/rO98BbgY



闇の中を、西へと駆け抜ける異形の影があった。
防弾効果があると判明したシルバースキン・アナザータイプで、再び全身を隈なく覆った姿はまさに白銀の怪人。
周囲に明かりなどない闇の中でも、そのいでたちは凄まじく目立つ。

彼こそは、己が正義を貫く漢キャプテン・ブラボー……ではなく。
クロマティ高校の一年生、神山高志であった。


先程、この殺し合いの島において"ゲームに乗った男"と初対決した彼は、自らが囮となる事で友を逃がし、今もまだ逃亡の最中にある。
実はその男――ジョゼッフォ・クローチェは既に追撃を諦めて、追って来てはいないのだが、生まれて初めて銃で撃たれた
神山は動揺しており、その事実には未だ気付いていない。

『ジョゼさんはこの殺し合いに乗りました! 一見すると優男に見えそうな自称イタリアの警官で複数銃を持っています!
 近くにいる方は直ちに避難してください! 仲間がいるそうですが彼らも乗った可能性が極めて大きいです!
 ……背の高い男のジョゼッフォ・クローチェさんです!
 ……既に3人も殺傷しており僕も撃たれました! 皆さんは避難してください!』

だから、神山はジョゼを引き付けるため。
そして、周囲の無辜の人々に警告をする為に、拡声器を使いながら逃走し続ける。

『繰り返します! フゥ……フゥ……』

何度目のリピートであろうか。
走りながら、長台詞を吐き続けた神山の息は乱れに乱れ、チアノーゼに近い症状になりかけていた。
それに加えて、胸を衝く打撲の痛みに神山は呻く。
実際、逃走直後には、声も出せなくなったほどの痛みだ。
もう警告を終わりにして、逃走に専念したほうがいいんじゃないかと思えてくる。

(いや……そんな軽々しくやめる事は出来ない。
 まだ林田君が逃げ切れたかどうか判らないし、こっちにジョゼさんを誘導している以上、この辺に人が残っていたら大変だ……)

弱音を吐きそうな心と体に活を入れ直し、少年は警告を続ける。
とはいえ、体力は有限だ。
いつまでもこんな事を続ける事が出来ない事くらい、神山とて承知している。

(……そもそも、警告が長すぎるんじゃないのか? 名前を入れた所で彼の仲間以外には判らないし、これは外してもいいか)

『一見すると優男に見えそうな……自称イタリアの警官が殺し合いに乗っています!
 ……複数銃を持っており、大変危険ですので……近くにいる方は直ちに避難してください!
 ……仲間がいるそうですが……彼らも乗った可能性が……極めて大きいです!
 ……背の高い男です! ……既に3人も殺傷しており僕も撃たれました! 皆さんは……避難してください! フゥ……フゥ……』

名前を削ってみた。
だが、まだ長い。
もっと短く纏めるにはどうしたらいいか、神山は酸素の足りなくなった脳をフル回転させる。
聞く人の立場になって、考えてみてはどうだろう。
仲間がいるなどと警告されても、誰がその仲間とやらなのか判らないし、ただの可能性の話だ。
不確定情報は、疑心暗鬼を招いてしまう。
だったら、これも削っていいだろう。

『背の高い優男風の……自称イタリアの警官が殺し合いに乗っています!
 ……複数銃を持っており、大変危険ですので……近くにいる方は直ちに避難してください!
 ……既に3人も殺傷しており僕も撃たれました! 皆さんは……避難してください! フゥー、フゥー』

……まだ長くないだろうか。
そもそも、こんな荒い吐息混じりの長台詞に、真剣に聞きいる人がいるだろうか。
クロマティ高校の面子だったら、最初のワンフレーズを聞いてくれるかどうかも判らない。
ならば削るべきは……銃を持ってるとか、三人殺傷したとかの辺りだろうか。
具体的な脅威を明らかにするのは良いが、長くて聞いてもらえなければ意味がない。

『背の高い優男風の……自称イタリアの警官が……殺し合いに乗っています! 
 近くにいる方は……直ちに……避難してください! フゥー! フゥー!』

…………。
大分短くなったが、脅威を告げる文面を取り払った結果、なにやら台詞に緊迫感と迫力がなくなってしまった。
まるで緩み切った、学校の火災訓練の放送のようだった。
ここで必要なのは真実味を伴った鋭い警告と、ジョゼへの牽制だ。
ならば、もっとこの状況に相応しい一句があるのではないか……。


神山は走りながら眼を瞑り、考えを巡らせる。
額に皺が寄るほど、深く考え込み――そして、答えを得た。



『人殺しだあああああーーーーー!!』







一回の契約で出現する弾丸を全てを使いきった蘇芳は、一旦現出せしめたデグチャレフBTRDを消し去った。
そして対価を支払う為、素早くルールブックを破り取り、折り紙を作る。
チラチラと手元を見ながらも、蘇芳の視線が標的から離れる事はない。

蘇芳が居るのは、小さなビルの最上階だ。
幸いにも標的の少女はそこから見える範囲に留まり続けており、どこかへと逃げ込む様子はなかった。
それどころか狙撃手が攻撃を止めたとでも思っているのか、足を止めて休んでいるほどだ。
その驚くほど無防備な姿は、とてもあの恐るべき怪物たちと同じ種族には見えない。

「なにかの罠……それとも、ボクを甘く見ている?」

だが、それでも少女に弾丸を当てる事が出来ないのは、いつもなら観測手を務めてくれるジュライがいないからだ。
いつしか家族のようにも思っていた、幼いドールの少年。
最後まで蘇芳に寄り添ってくれた彼は、あのゲートの中で銀に殺されてしまった。

「ジュライ……ボクに力を貸して」

少年の面影を思い出しながら、再び蘇芳は対戦車ライフルを具現化させる。
胸の中から放たれた、ランセルノプト放射光が室内に満ちる。
その柔らかな光と共に現れた対戦車ライフルの二脚を窓の枠に載せ、立射の姿勢で長大な砲身を桃色の髪の少女へと向けた。
具現化させたばかりの薬室には、既に14.5ミリ弾が装填されている。

「これは黒の為なんだ……」

呟きに込められた意思に、揺るぎはない。
かつて価値観の定まらない子供のまま契約者となった蘇芳は、何を持って合理的とするかも定まらない、契約者らしからぬ契約者であった。
時に人間的な感情を判断基準とし、時に契約者らしい一面を見せる不安定な存在だった。

だがゲートでの戦いを経て、自らの想いに気付いた蘇芳には確固たる価値観がある。
黒が大好きだという、絶対の価値観がある。
だから黒の為になると思えば、契約者らしく人殺しをも辞さないのが今の蘇芳なのだ。


スコープの先の少女を見据えながら、トリガーに指をかける。
父や黒の教えを思い出し、これまでの射撃によって得られたデータから微調整を加えた。
僅かな手元のブレが、長距離を往く弾道に致命的な誤差を与えてしまう。
だから慎重に狙いを定めたかったのに――


『人殺しだあああああーーーーー!!』



予期せぬ大音声に、身体が硬直してしまった。
付近一帯に響き渡ったであろう拡声器越しのその声は、まるで自分を名指しで非難しているかのようで。
契約者となった蘇芳の、まだ柔らかな心の一部をぎゅっと握り潰す。
カノンという少女を殺した時の感触が、グリップを握る手に蘇った。


気が付けば、いつの間にかトリガーが引かれていた。
マズル・ブレーキから炎と煙が噴き出し、チャンバーからは自動で空の薬莢が排出されていた。
マッハ3で飛び出した55口径弾は、既に蘇芳にはどうする事も出来ない。
固唾を呑んで、スコープの中の世界を凝視する。

命中した。
今まで蘇芳が当てる事が出来なかった弾丸は、偶然の助けを得て少女の右腕を撃ち砕いていた。
いや、それとも先の邪魔がなければ、胴体に当てる事が出来ていたのだろうか――。

――どうでもいい。

重要なのは、敵にようやく打撃を与える事が出来た。ただ、その事だけだ。
蘇芳は無意識のままポケットの中から弾丸を取り出すと、チャンバーに押し込んだ。
ボルトを操作してチャンバーを閉鎖、新たな狙撃体勢を整える。
特大の弾丸の威力に、身体ごと吹き飛ばされた少女は、よろめきながらも立ちあがって逃げようとしている。
右腕が丸ごと無くなったというのに、血を流す事もなく。

「やっぱり、怪物じゃないか……」

どこかから、こちらの様子を見ているらしき声の主も気にかかったが、やはりこの怪物を放置しておく事は出来ない。
通常の相手なら致命傷とも言っていい傷を与えたが、恐らく今のダメージだけで死ぬ事はないだろうという確信があった。


『人殺しがいるぞおおーーーーー!!』


再び聞こえてきた叫び声を無視して、蘇芳はトリガーを引く。
背中を濡らす、冷たい汗が気持ち悪かった。





『人殺しがいるぞおおーーーーー!!』


先程から断続的に大気を振動させる、重々しい発砲音。
そして、拡声器を通して伝えられた警告の声。
それらを聞いて、ゲルトルート・バルクホルンの心中は平静ではいられなかった。

脳裏に浮かぶのは、この島で出会った少女の姿だ。
泣きべそを浮かべた幼い顔が、バルクホルンの頭の中で、戦火に倒れた妹の顔と重なってしまう。

「待ってろっ! 今、お姉ちゃんが行くからな!」

身体が青白く発光し、使い魔であるジャーマンポインターの耳と尻尾が生えてくる。
彼女の固有魔法は、自らの身体能力を強化するという極めて使い勝手の良いものだ。
追走する男の事など脳内から消え去り、バルクホルンは魔力で強化した脚力を持って爆走する。

「くっ、どこだナナッ! お姉ちゃんはここだぞ! ここにいるっ!」

焦燥が胸を焼き焦がす。
周囲に呼びかけながら、必死に幼い少女の姿を探した。
雑多に入り組んだオフィス街を駆け抜けて、見通しのいいメインストリートに出る。
耳朶に発砲音が大きく鳴り響き、バルクホルンは現場に近付いている事を知覚した。

「うわあああぁぁん、お姉ちゃーん」
「――ッ!」

と、その時であった。
バルクホルンは、探し求めていた少女の泣き声を耳にする。
朝靄の中に、よたよたと走ってくるシルエットがあった。

「ナナ!?」

バルクホルンは、思わず息を呑む。
そのシルエットには、何かが欠けていた。
服はボロボロになり、バルクホルンが与えた帽子を失くし、右腕を丸ごと喪っていた。

「ナナ!!」

駆け寄って抱き締めると、ナナはバルクホルンの腕の中で、ほっとしたように脱力する。
しかし――。

『人殺しだあああああーーーーー!!』


先程からずっと続いている拡声器の声を聞くと、ナナはびくっと小さく震え、身体を硬直させる。
そしてバルクホルンに対して、言い訳をするようにまくしたてる。

「ち、違うよ。ナナ、人を襲ったりしてないよ……。
 ちゃんといい子にしてたのに、いきなり撃たれたんだもん。
 ナナは何もしてないんだよ……ナナは……ナナは……」

「判ってるっ! 済まなかったな、一人にしてしまって……。
 もう大丈夫だぞ。悪い奴は、お姉ちゃんがぶっ飛ばしてやるからな」

バルクホルンは、そんなナナの髪の毛を優しく撫でた。
ナナの四肢は、既に義肢である。
右腕を失っても、肉体的なダメージは特にないだろう。
だが、この純粋無垢な少女にとって、何の理由もなしに襲われたショックは如何ほどのものか。
バルクホルン自身も、そうしてナナと出会っただけに不憫に思う。
ナナの身体は、こんなにも暖かだと言うのに、なぜ化け物扱いされてしまうのか。

「――クソッ! ナナ、お前を苛めた奴はどこにいるんだ! わたしが――」
「ううん、もういいよっ! それより早く逃げよ? ナナ、もうここには居たくないよ……」

怒りに満ちた眼で周囲を見渡すバルクホルンに、ナナは逃亡を訴える。
あのクラスの銃弾は、ナナでは軌道を逸らす事さえ出来はしない。
自分はともかく、バルクホルンを巻き込んでしまうのが怖かった。
バルクホルンが、自分を見捨てたわけじゃないと判っただけで、ナナは満足だった。

「……そうか。ナナがそういうんだったら……」

バルクホルンとしては、こんな無法を働く人間を許せなかった。
どうやら犯人はスナイパーらしいが、このまま放っておいたら、また罪もない人間が傷付けられるかもしれない。
戦場においてスナイパーとは、それほど恐ろしい存在なのだ。
だが傷付いた少女を一人残して戦いに行く事など出来なかったし、冷静になってみれば、ここでこうして突っ立っているのも危険すぎる行為だ。
いつの間にか攻撃が止まっていなかったら、今頃二人とも頭を吹っ飛ばされていたかもしれない。
慌ててナナを建物の影へと引っ張り込みながら、バルクホルンは忘れものに気付く。

「あ、そういえば黒は……」
「黒?」

ここに来る前に出会った、一風変わった青年の事をようやく思い出し、バルクホルンは周囲を見渡す。
いない。
自分の指示通り倉庫に隠れたのか、それとも自己判断で逃げたのか。
それは判らなかったが、とにかく青年はいなくなっていた。

「あ……いや、なんでもない。行くぞ、ナナ」

ここから撤退した後、倉庫に行って彼と合流してもいいが、その場合はナナの説明をしなければならないだろう。
彼は温和な性格だったから、ちゃんと説明すれば面倒な事にはならないはずだが、ナナ自身が自分の素性を明かすのを嫌がるかもしれない。
もし、彼にナナを預ける事が出来れば、自分一人でさっきのスナイパーを倒しに行く事も可能なのだが。

バルクホルンはそんな事を考えながら、傷付いたナナを連れてその場から逃げ出した。
そして時間をかけて細い路地を進み、ある程度の距離を取り、ようやく人心地ついた頃、ナナがぽつりと呟きを漏らす。


「え……嘘。ルーシーさんの気配が――消えた?」



【一日目 G-4 市街地北部 早朝(放送間際)】

【ゲルトルート・バルクホルン@ストライクウィッチーズ
[状態]:健康
[装備]:トカレフTT-33(14/15)@Phantom ~Requiem for the Phantom~
[道具]:基本支給品×1、予備弾装×4、ランダム支給品0~1(確認済)
[思考]
基本:ナナと一緒に島を廻って危険人物を片付ける
1:倉庫に行き黒と合流するか、それとも――
2:できれば芳佳を保護する
3:フラウやシャーリーは…あいつ等なら大丈夫だろ
[備考]
※一期で芳佳が謹慎処分を受けた後から参戦

【ナナ@エルフェンリート】
[状態]:疲労(中)、右腕喪失(義肢なのでダメージはありません)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×1、ランダム支給品1~3(確認済)
[思考]
基本:何とかして生き残って、蔵間(パパ)と再会する
1:ルーシーさん、まさか……
[備考]
※マリコとの対決後からの参戦



折り紙が、もうひとつ出来ていた。
やはり動く標的に当てるのは、中々上手くいかない。
先程の衝撃で軽い脳震盪でも起こしたのか、フラフラ走る標的は狙いにくかった。


『人殺しだあああああーーーーー!!』

「うるさいっ!」

続けられる罵声に悪態を返し、蘇芳はトリガーを引こうとして――止めた。
状況に少し変化があった。
標的の少女が、他の人間と接触したのだ。

(仲間? ……でも、角付きじゃないな)

犬のような耳としっぽ。そして、なぜかはいてない。
その人間は、桃色の髪の少女たちとは少し違う特徴を持っていた。
だが、普通の人間じゃない事だけは間違いない。

犬耳の少女が、桃色の髪の少女を抱き締める。
まるで姉妹のように仲睦まじい様子を見て、蘇芳の心が少し痛んだ。
蘇芳にもかつて居たはずの、そんな存在を思い出して。

(友達……それとも、家族なのかな)

怪物にもそんな存在がいる事を知った蘇芳であったが、契約者ならではの合理的な感性が、とあるアイディアを少女に齎した。

友釣りという戦術がある。
狙撃で傷付けた兵士を餌に、その仲間たちを次々とおびき寄せる非情なるスナイパーの戦術だ。
意図したわけではなかったが、今の状況はまさにそれだった。

心は痛んだが、躊躇いはなかった。

この状況を上手く生かせれば、他の角付きたちをも、おびき寄せる事が出来るかも知れない。

訪れた絶好のチャンス。

しっかりと狙いを定めて――。

「!?」

スコープの中を、黒い影が横切る。
驚いて顔を上げた蘇芳の前に、ロープアクションで窓から飛び込んできた男の姿があった。

「ヘ」

ヘイと、名を呼ぶ間もなかった。
頬に熱い衝撃が走り、蘇芳の軽い身体が、硬い床に叩きつけられる。
赤毛の三つ編みが、しっぽのように飛び跳ねた。

ジンと痺れるような痛みは、蘇芳にとって馴染みのあるものだ。
直ぐに黒に頬を張られたのだと気付き、上半身を起こす。

「何をしている。大人しく待っていろと言っておいたはずだぞ」

感情を見せない瞳。
だが、その口調には抑えきれない苛立ちを感じさせた。
そんな黒と視線を合わせながら、ちゃんと説明しなきゃと蘇芳は思った。
自分が事に及んだのには、ちゃんとした理由があるのだと。しかし。


「ボクは……」

『人殺しがいるぞおおーーーーー!!』


喧しい拡声器の声と、それに伴うハウリング音が、蘇芳の機先を制した。
伝えたかった言葉が胸の中で詰まり、蘇芳の唇を虚しく震わせる。
切れた口の中を、苦い鉄の味が満たした。


黒としても、いきなりこんな騒動を起こされたのは想定外だった。
失望したという、苦い気持ちが心中を占める。


自分の知らない記憶を持つ、蘇芳という少女の存在。
1945年を生きていたというウィッチの存在。
そしてなによりも、ここの空には本物の月と星があった。
夜空に瞬く偽りの星は、今や二つしかその存在を観測出来なかった。

あの軍人は、タイムトラベルかもしれないと言っていたが、アンバーの能力にしても、ここまでの状況を作り出せるとは思えない。
ゲートの中でなら、なんでも有り得るのかもしれないが、それにしてはこの世界は安定しすぎている。

ならば既にこの世界は、黒の知識だけでは判断出来ない代物だと言えるだろう。
そんな状況で、軽々しく主催者の言いなりになど、なれるものではなかった。
様々な事実を調査し、予断のない判断をしていかなければ生き残れはしない。
だというのに。

打放しのコンクリートの床には、契約の対価である折り紙が二つ。そして十を超える巨大な薬莢が転がっている。
窓の外には、寄り添いあいながら逃げていく二人の少女たちが見えた。
その内の一人は、隻腕となっている。
蘇芳の暴走は、明白だった。
これではただ、島に無用な混乱を齎しただけだ。


あの涙に、判断を曇らされたのではないかと、黒は思う。
人間らしさを残した契約者。
そんなアンバランスな存在に、黒はつい興味を抱いてしまった。
それが、間違いだった。
契約者は、所詮契約者でしかなかったのだ。

「黒……? どこに行くの?」

踵を返して部屋から出て行こうとする黒に、蘇芳が問う。
振りかえった黒は、知らない人間でも見るかのように蘇芳を見つめる。

「お前と一緒には、やっていけない。ここからは別行動だ」
「え……」

窓の外からは、相変わらず騒々しい拡声器の声が響いている。
そんな中で、蘇芳は絞り出すように黒に訴える。

「いやだ……いやだよ黒……。いつでも傍に居てくれるって、言ってくれたじゃないか……」
「そんな事、俺は知らない」

黒が部屋の扉を開ける。
蘇芳は、縋り付くように甘えた声を出す。

「いやだよ黒……。ボク、黒の作ったペリメニがまた食べたいよ……」
「そんな物、俺は知らない」

黒が部屋から出て行ってしまう。
蘇芳は、泣く寸前のような声で黒に尋ねる。

「別行動って……ボクは何をすればいいんだよ」
「何もするな。じっとしていろ」

扉が、強く閉まる。
黒は、行ってしまった。
残された蘇芳は、ぺたんこ座りで扉を見ながら、力なく呟く。

「……銀の所に行くの? 決着をつけたら、戻ってきてくれるんだよね?」

応えはない。
だが、蘇芳には判っている。
今の黒は、苦しみながらも銀と決着を付けようとしていた頃の黒ではない。
彼は、銀を探し求めて、そして――。

「やだよ黒……あんな奴のところになんて、いかないでよ……あいつは……」

紫苑を、そしてジュライを。
自分から奪っておいて、そして今度は黒をも奪おうというのか。
もう、自分には黒しか残っていないのに。
銀に対する憎しみが、蘇芳の中で膨れ上がる。

座った眼で扉を睨みつけていた蘇芳の視線が、何かに気付いたかのように部屋に備え付けの洗面台に転ずる。
そこでは、水滴を伝って来た観測霊が、蘇芳を見ていた。
それは半透明の、艶めかしい少女のラインを形作っていき、あの女のシルエットとなる。

「――ッ!!」

傍に転がっていたデグチャレフを、腕の力だけで振り回し、発砲。
至近距離から放たれた対戦車ライフルの威力は、洗面台を粉々に粉砕した。

「渡すもんか……あんたなんかに……」

黒に叩かれた頬が熱い。
今の蘇芳には、この痛みだけが残された黒との絆だった。
蘇芳は頬を擦りながら、黒の事を想う。
頬を流れる雫が、少しだけ熱を冷ましてくれた。


【一日目 G-4 ビル 早朝】

【黒@DARKER THAN BLACK】
[状態]健康
[装備]椎名の短刀×2@Angel Beats!
[道具]基本支給品×2、ロープ@現実、フリーガーハマー(残弾70%)@ストライクウィッチーズ
[思考]
基本:銀とともに殺し合いから脱出する
1:銀と合流したい
2:観測霊や時間を操る契約者(アンバー)との接触を図る
[備考]
※一期最終回後から参加。契約能力使用可能。
※蘇芳の事は別の時間から来たと考えています

【蘇芳・パヴリチェンコ @DARKER THAN BLACK】
[状態]疲労(中)、頬に腫れ
[装備]なし
[道具]基本支給品×1、特別支給品0~1個(確認済)、ルールブック2冊(黒と蘇芳)、核鉄@武装錬金
[思考]
基本:黒と旅を続ける
1:黒と一緒にいたい
2:銀を殺したい
[備考]
※二期最終回、銀に魂を吸われた直後からの参加。
※ルールブックのページを数枚消費



『人殺し……ガハッ、ゲホッゲホッ!!』

神山は、通過してきた周囲で起こった騒動にも気付かず、ひたすらに声を張り上げながら走っていた。
だが、もはや喉はからからで、今にも張り避けそうであった。

(そろそろ……警告を止めて、身を隠しても大丈夫かな?)

流石にこれ以上は無理だと思った神山は、拡声器を鞄に仕舞う。
本音を言えば、この暑苦しいコートも脱いでしまいたかったのだが、解除方法が判らなかった。
シルバースキンに覆われた素肌は汗だくで、蒸し風呂のように蒸れてしまって堪らない。
安全を確保したら、風呂にでも入りたいと少年は思った。

(林田君も、無事でいてくれるといいんだけど)

昇りつつある朝日が、この島を照らしていくのを感じながら、神山は一人、身を隠せそうな場所を探して走って行った。

【一日目 G-3 道路 早朝】

【神山高志@魁!!クロマティ高校】
[状態]:胸部に痣、疲労(大)、喉が痛い
[装備]:核鉄「シルバースキン・アナザータイプ」@武装錬金、拡声器@現実
[道具]:基本支給品×1 未確認支給品0~1
[思考]
基本:この島から逃げる為に仲間と協力者を集める
1:僕の考えは正しかった!
2:一刻も早くメカ沢くんを手に入れる
3:このコートは防弾ジャケットだったのか!
備考:商店街方面へ逃走、拡声器を使用した為近くにいる人間に聞かれた可能性があります。


042:オープンウォーター 投下順に読む 044:嘲笑
時系列順に読む
037:我が良き友よ 神山高志 000:[[]]
041:倍額保険 蘇芳 066:留守番
000:[[]]
ゲルトルート・バルクホルン 000:[[]]
ナナ

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー