Wild mummys人物紹介
トートの巫女。気の強い脳筋少女
古代エジプトから来た少女
テレサ•メロディ
カルキノスの神装巫女。厨二病気味のカニ娘。
『Wild mummys』のマネージャー兼リーダー。何かと器用なギャンブラー。
前回までのあらすじ
巫女連盟に命を狙われたアザリーは、山に逃げ込んだ。
ヒエロとリーダーが囮になって、二手に分かれて行動することになった。
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「おっ、アザリー!あったぞこれだ!」
真夜中、淡い赤髪のツインテールの少女は、古びた遺跡の中で、全長1メートルほどの小さな祠を見つけ出した。
褐色黒髪の少女が、それを覗き込む。
「これが、ギリシア神話のスフィンクスが祀られた祠…」
「こっちではスピンクスと呼ばれるらしい」
黒髪の少女アザリーは、手を合わせ、祈り始める。儀式の準備だ。
ヴィオティア県の県都ティーヴァ、かつて「フェキオン山」と呼ばれた、この地にはとある伝承が残されていた。
ギリシア神話の怪物スピンクス。
ニキアスは、アザリーをスピンクスの神装巫女にしようと企んだ。
巫女連盟のルールのようなもので、「巫女は、巫女を殺してはいけない。」というものがある。
たとえ反巫女組織であったとしても、しかるべき収容所に入れるしかない。
そう決まっているから。
ニキアスは、アザリーを神装巫女にしてしまえば、追手がどんな組織だろうとアザリーに安易に手を出す事ができなくなる。
と考えた。
「あっ、」
するりと、アザリーのポケットから何かが落ちると、すかさずテレサが拾い上げる。
手のひらサイズの宝石が付いてあるネックレスだった。
それをまじまじと見つめながら
「前から聞きたかったんだけど、その宝石、なぜ肌身離さず持っているんだ?暗黒大邪竜の力でも封印してあるのか?」
「いやいや!そんなんじゃないよ!お守り!
私が2000年の時を渡る前に、先代トートの巫女様が渡してくれたんだよ。」
「そうか。そこまで大事に扱っているなら、君にとって大切な人なんだな。」
「私には両親がいなかったから、姉のように面倒を見てくれた人なの。
今でも覚えてる。いつも優しくて…」
テレサは腕を組みうんうんとうなづいた後、しばらくして眉をひそめる。
「…トートの巫女って言ったか?
そんな時代から巫女がいたんだな」
「まぁ、今みたいに歌って踊ったりはしないけど、神を宿して戦う人々は、古代の時代からいたんだよ。」
その言葉を聞いてテレサが怪訝な顔をした、アザリーもそれに気づく。
テレサはアザリーに問う。
「その先代巫女の事、覚えてるのか?」
どういう意味かと聞こうとした所で、足元の祠が眩い光を発し始める。
「あっ!」
「おっと、始まったか」
スピンクスがこちらを招待している。アザリーの意識はその光に包み込まれるように消えていく。テレサに向かって一言。
「テレサちゃん。行ってきます」
「あぁ、健闘を祈るよ。アザリー。」
気がつくとアザリーは、辺り一面暗闇の中にいた。足元には星がキラキラと輝くガラスのような床がある。
ボウっと音をたて、アザリーの目の前に松明の明かりがつけられた。
そこには、全長5メートルほどの、胸から上は女、下はライオンで、翼をもった怪物がいた。
おそらくこの生き物が、「スピンクス」だ。
エジプトにいた個体とは大きく異なる。国によって姿形が違うのだろうか。
アザリーはぺこりと頭を下げ、簡単な挨拶と自己紹介をした。すると、スピンクスは口を開け、
「ようこそ。初めましてだな。アザリーよ。我はスピンクス。人間に友好的な怪物だ。」
スピンクスはクククッと笑った。
「スピンクス様、直接謁見できる機会をいただいた事、光栄に思います。今回はあなたの力をお借りしたくお会いさせていただきました。」
「いいだろう。そういう儀式だものな。
だが、お前には試練を受けてもらう。」
「試練?」
スピンクスが咆哮をあげる。
すると、アザリーの周りに松明の炎が光りだした。
「お前に3つ質問をする。全てに正解すればお前を巫女として認め、力になろう。不正解ならお前を頭から喰らう。」
「…。」
ニキアスから聞いていた通りだ。
ギリシャのスピンクスには、"朝は4本足、昼は2本足、夜は3本足。これは何か"という謎を出し、解けないものを殺して食べていったという伝承がある。
だから、もしかしたら神装巫女の儀式も似たようなものになるんじゃねぇかな。
と、彼は言っていた。
「ん?そこまでわかっていながら、我の前に何の対策もせず挑んで来たのか?
ふはは。命知らずの愚か者め」
アザリーは少し驚いた顔をした。
なるほど、この目の前にいる怪物は、心を読む事ができるのか。
「承知しました。問題を出してください。」
「よかろう。」
「では第一問!」
唐突に、クイズ番組で流れていそうな、ジャジャーンという音が鳴り響き、アザリーの周りの松明がカラフルに光り出す。
決してふざけているわけではない。
命がかかっているのだから。
「エジプトを滅ぼしたのはドラゴンである。YesかNoか答えよ!」
「えっ」
アザリーはその問いに戸惑いの表情を見せた。学校の例文のような問題が出てきた事に対してではなく。
「なぜ、このような質問を?」
「3つの問いはお前に深く関連するものだ。そうでなければ不公平だろう?」
「はぁ。」
"エジプトを滅ぼしたのはドラゴンである。
YesかNoか"
なるほど、私の記憶から問題を出しているのか。だが、この問題は難しい。
それがドラゴンであるのか、はたまたそれ以外の物なのかはアザリーにもわからなかったから。
「おぉ!?もう手詰まりか!?早く喰わせろ!お主の味はしょっぱいのか!?それともすっぱいのか!?」
スピンクスがアザリーを急かす。
アザリーはにっこりと笑って返す。
ふと、首に掛けてある宝石のついたネックレスが目に入った。
さっき、テレサに怪訝な顔をして言われた事を思い出した。
「その先代巫女のこと、覚えてるのか?」
そうだ。
ドラゴンに信仰を奪われたなら、その人についての記憶は完全に失われるはずなのだ。
だけど、アザリーは先代トートの巫女シファの事を、鮮明に覚えていた。
それだけではなく、シファの他にも何人か巫女がいたが、彼女達のことも全員覚えている。
記憶が失われていない、という事は、エジプトを滅ぼしたのはドラゴンではない。という事になる。
「答えはNoです。」
「正解だ!エジプトを滅ぼしたのはドラゴンではない。」
スピンクスは、目の前の少女がひどく落ち着いている事を不思議に思った。
一問でも間違えれば死ぬ状態だ。
それにしてはずいぶんと冷静に、答えを導き出した。
間髪入れずスピンクスが叫ぶ。
「では第二問!!」
デデン!!と音が鳴り響く。
「エジプトを滅した犯人は誰か答えよ!」
アザリーはきょとん、とした。
「それは、どちらの意味でですか?」
スピンクスは、黙ってじっとアザリーの様子を伺っている。
"エジプトを滅ぼしたものは?"
アザリーは、どうやら自分で考えるしかないようだ。と思った。
唇に指をあて、う〜ん。と考える
「答えは…エジプトの人間ですか?」
「…………………………。」
「エジプトの民が道具を使い、エジプトを滅ぼした。だから犯人という定義に当てはめるなら、答えはエジプトの民です。」
スピンクスはアザリーを見つめ、その違和感に気付いた。
この少女は、エジプト崩壊の唯一の生き残りだ。それなのに、なぜこんなにも平然としていられるものだろうか?
動揺したようなしぐさを見せているが、その心は一切乱れていない。
ピンポーン!という音とともに、クラッカーが飛び出した。
「…正解だ。エジプトを滅ぼしたのは、エジプト人だ。」
「あぁ、良かった!答えは2択あって、どちらにしようか悩んでいたんですよ。
でも、"そうしたい"と願ったのは、彼らなので、犯人はエジプトの人間ですよね」
「お前には、悲しいとか、罪悪感という感情はないのか…?」
「つ、次が、最終問題だ!!」
ボボっと松明の明かりがスピンクスを照らす。
最後の質問は、核心に迫るものであり。
安易に到達してはならない領域だった。
問題を出したスピンクスの声は、若干震えていた。
その問いを聞いたアザリーは、ふっと、冷たくほほえんだ気がした。
アザリーの記憶から答えを覗き見たスピンクスは、ある種の本能で、かつてないほどの悪寒を感じていた。
アザリーの深層心理は海のように広く、穏やかで、底の見えないものだった。
その深海に潜む、少女の影に隠れた神性を見て。
はやく、逃げなければならない。こいつは恐ろしい力を秘めている。はやく。
はやく。
「く、来るなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
スピンクスは目を覆いながら、後ろの台座から飛び降り、深淵へと身を乗り出した。
アザリーはその様子を、ぽか〜んと、見つめていた。