明かりの殆どない小道を、私は奔る。こんな日に限って、月のない夜であった。
違う。壊したのは私じゃない。私はただ、昔よく遊んでた神社に───本当になんとなくで───ふと久しぶりに足を運んだだけで。一通り懐かしんだから帰ろうとして。その直後、背後からバキン。と音がして、振り返ったら祠が壊れてて。
突然のことで呆然としてたら祠の奥のナニカと目が合った気がして。それから私は一目散に逃げ出した。何が起こっているのかわからない。ただ、あれ以上あそこにいては行けないと本能が告げたのでひたすら奔っている。怖い。恐い。身体も悲鳴を上げている。
走りながら、ふと疑問が浮かんだ。どんなに足を動かしても、見知った道路が見当たらない。行きは普通だったのに。
あれ?この道って、こんなに長かったっけ───?
「あのぉ、」
不意に声が聞こえて、私の心臓は止まっのではないかと錯覚するくらい驚き、身体が動かなくなった。逃げようにも、足がすくんでしまっている。
目を凝らすと闇の奥から人影が浮かんできた。低い声の、長身の男だった。
つなぎに着物の様な羽織と妙な格好をしている。一目で『普通の人』ではないと理解できる風貌。
終わった。確実に私の人生は終わったのだと悟った。
「お嬢さん、あの祠壊しちゃったの?」
男は神社の方を見つめながらゆらりと私に向かってくる。
「ち、違う……!勝手に、祠が壊れたの!!私は通りがかっただけで、何にもしてなくて……!お願い、信じて!」
私は首を横に振りながら後ずさった。
「あ〜、そっち。ならもっとヤバイなあ……」
男はボリボリと頭を掻いた後、私に向かってニィと笑った。
「お嬢さん。このままだと良くて明日。それか今夜までの命だ。覚悟した方が良い……でも、助かる方法がひとぉつだけあるとしたら、どうする?」
「っ!たすけて……、ください……っ!」
「っ!たすけて……、ください……っ!」
私は泣きながら叫んだ。すると、そりゃあ簡単。と男は芝居がかったように腕を広げる。
「巫女になればいい」
これが、私が巫女になったキッカケ。
◾️◾️サマとの出会いのおハナシ。
後日。壊れた祠を直す二人組の影があった。
「今回は巫女になれたから良かったけど、うまく行かなかったらどうするつもりだった?トネさん」
フードの付いた白銀の着物を着た女は『トネさん』と呼んだ黒い男をジロリと見やる。黒い男は先程とは打って変わって、身なりを整えており、白い着物に紫の袴を着用していた。
「ありゃあ、◾️◾️サマは元々あのコが気に入ってたみたいで。前々から目を付けていたんだと思います。恐らく彼方から“招いた"ンでしょう。偶々あっしらがいた事と、彼女と神の相性が良かったのが幸運でしたね」
いやはや、なんてラッキーガール!と宣いながら男はラムネを口に含む。
「それじゃあ…あの子がここに来なかったら、祠は壊れなかったとでも?」
「これはあっしの予測ですがね。この地も過疎化が進み、◾️◾️サマは龍に堕ちかけていたのも事実。これ以上遅かったら大きな被害が出ていたかもしれやせん。……今回のは最善策だと思いますがね」
「……最悪、捕食されたり、神に呑まれる可能性だってある。どちらにせよ、あの子の人生は大きく変わってしまった」
「そこまでくると管轄外ですねぇ。だから俺は、面倒を見てくれるよう大ベテランの貴方様にお願いしているんです。頼みますよぉ、センパイ」
「これはあっしの予測ですがね。この地も過疎化が進み、◾️◾️サマは龍に堕ちかけていたのも事実。これ以上遅かったら大きな被害が出ていたかもしれやせん。……今回のは最善策だと思いますがね」
「……最悪、捕食されたり、神に呑まれる可能性だってある。どちらにせよ、あの子の人生は大きく変わってしまった」
「そこまでくると管轄外ですねぇ。だから俺は、面倒を見てくれるよう大ベテランの貴方様にお願いしているんです。頼みますよぉ、センパイ」
男は飲み干したラムネの瓶を掌で弄ぶように回した。中に入ったビー玉が胡乱に揺れ、カラカラと音が鳴る。
「どっちみち……鬼が出ても蛇が出ても、こんな世の中じゃ変わりゃあしませんヨ。それに、祠の調査の依頼主は貴方様でしょうに」
「それは……そうね……。ちゃんと出来るだけの援助はする。でも、良い結果を残せるかは……あの子たち次第だからね」
「それは……そうね……。ちゃんと出来るだけの援助はする。でも、良い結果を残せるかは……あの子たち次第だからね」
女は小さく息を吐いた。参拝を済ませた2人は、新たに誕生した巫女に祝福と幸運を祈り、その場を後にするのであった。