人外と人間
触手型宇宙人×OL 桜嫌い 和姦
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桜嫌い 前編 0-79様
「…そう、こっちに来たの。遊ぼうって、今はね〜桜が咲いているでしょ。
私、桜が嫌いだから、この時期、外に出るのはちょっと嫌なのよね。
そんなこと言って彼とデートじゃないかって?
違うよ、篤とはこの前別れたの。うん、まあ一年の付き合いで遠距離恋愛になっちゃったってのが無理だったんじゃない?やっぱり会えないってのは大きいよ。
ん?無理してないかって、ううん、私もなんとなく離れたときからこうなる予感はあったし。
なら、余計にどこか出掛けようって?でもなぁ〜。
昔は桜が好きじゃなかったかって?アイツを連れて蕾のころから散る頃まであちらこちらで花見してたじゃないかって…まあね、でも今は桜餅すら見るの嫌いなんだよね。
アイツ?ああ、アイツなら二年前に自分の星に帰ったよ。うん、それから音沙汰無し。
薄情モンだよね。小学校に中学、高校、大学までいっしょに過ごして世話焼いてやったのに。
うん、ああ、そうなんだ。あさってまでいるんだ。
それなら明日、超大作立体映画の録画キューブ持って来てやるって?
じゃあ、こっちはお菓子とおつまみとビールを山ほど用意しておく。
うん、まあ失恋の愚痴でも聞いてよ。待ってるから、駅に着いたら連絡して迎えに行く。
うん、じゃあね、ありがとう。明日は宜しく。」
私、桜が嫌いだから、この時期、外に出るのはちょっと嫌なのよね。
そんなこと言って彼とデートじゃないかって?
違うよ、篤とはこの前別れたの。うん、まあ一年の付き合いで遠距離恋愛になっちゃったってのが無理だったんじゃない?やっぱり会えないってのは大きいよ。
ん?無理してないかって、ううん、私もなんとなく離れたときからこうなる予感はあったし。
なら、余計にどこか出掛けようって?でもなぁ〜。
昔は桜が好きじゃなかったかって?アイツを連れて蕾のころから散る頃まであちらこちらで花見してたじゃないかって…まあね、でも今は桜餅すら見るの嫌いなんだよね。
アイツ?ああ、アイツなら二年前に自分の星に帰ったよ。うん、それから音沙汰無し。
薄情モンだよね。小学校に中学、高校、大学までいっしょに過ごして世話焼いてやったのに。
うん、ああ、そうなんだ。あさってまでいるんだ。
それなら明日、超大作立体映画の録画キューブ持って来てやるって?
じゃあ、こっちはお菓子とおつまみとビールを山ほど用意しておく。
うん、まあ失恋の愚痴でも聞いてよ。待ってるから、駅に着いたら連絡して迎えに行く。
うん、じゃあね、ありがとう。明日は宜しく。」
ピッと一人きりの静かな部屋に通信カードの通話を切る短い電子音が響く。
私は窓に歩み寄ると薄いレースのカーテンを少し開けた。指先で窓に触れ、偏光ガラスのスイッチを切る。
防犯という意味もあるがこの時期はいつもカーテンを閉め、偏光ガラスを曇の状態にしている。
それはこんなよく晴れた休みの土曜日でもそうだ。
ふわりと春風が舞い、部屋に入り込む。キラキラと明るい日差しに細波を煌かせる大きな川の向こうには、淡い紅色の花を零れんばかりにつけた桜の木が並んでいる。
私は下唇と小さく噛むとカーテンを引いた。
さっきの大学時代の友人との電話どおり昔は…そう大学四年生の春までは私は桜が大好きだった。
アイツと蕾の頃から満開、散り零れる頃まで桜の名所と呼ばれるところを次々とハシゴし、花見を始まりから終わりまで思いっきり楽しんだものだ。
そう…あの春までは…。
私は窓に歩み寄ると薄いレースのカーテンを少し開けた。指先で窓に触れ、偏光ガラスのスイッチを切る。
防犯という意味もあるがこの時期はいつもカーテンを閉め、偏光ガラスを曇の状態にしている。
それはこんなよく晴れた休みの土曜日でもそうだ。
ふわりと春風が舞い、部屋に入り込む。キラキラと明るい日差しに細波を煌かせる大きな川の向こうには、淡い紅色の花を零れんばかりにつけた桜の木が並んでいる。
私は下唇と小さく噛むとカーテンを引いた。
さっきの大学時代の友人との電話どおり昔は…そう大学四年生の春までは私は桜が大好きだった。
アイツと蕾の頃から満開、散り零れる頃まで桜の名所と呼ばれるところを次々とハシゴし、花見を始まりから終わりまで思いっきり楽しんだものだ。
そう…あの春までは…。
『美幸、こいつがさ、美幸のこと好きみたいなんだ。付き合ってみたらどうかな?』
そう言って、アイツが別れた彼を引き合わせ、『後はお二人でどうぞ。』と背を向けて夕日に光る桜並木の下を去って行くまでは…。
その後、空っぽの心のままで夜桜見物をしたあの日までは。
ピンポーン。玄関のチャイムが鳴って私はこの時期はどうしても思い出してしまうあの夕日の桜の下の背中を頭から慌てて消し去るとドアに向かった。
その後、空っぽの心のままで夜桜見物をしたあの日までは。
ピンポーン。玄関のチャイムが鳴って私はこの時期はどうしても思い出してしまうあの夕日の桜の下の背中を頭から慌てて消し去るとドアに向かった。
「誰だろう…。」
来客の予定は無い。宅配だろうか、ここしばらくはネットで通販はしていない。
両親が何か送ってきたのか、それともこの前に出したサイトの懸賞が当たったのか、首を捻りながら玄関のドアに近づくとチェーンを掛けたまま、慎重にドアカメラのパネルを操作しモニターに外の様子を映し出した。
両親が何か送ってきたのか、それともこの前に出したサイトの懸賞が当たったのか、首を捻りながら玄関のドアに近づくとチェーンを掛けたまま、慎重にドアカメラのパネルを操作しモニターに外の様子を映し出した。
『…美幸、居る?』
ドア越しに人の近づいた気配を悟ったのか、私の脳にダイレクトに男の…懐かしい男の声が響く。
ドアホーンを使わず、いや使えず、直接頭に話し掛けてくる男などアイツしかいない。
モニターの向こうにはひらひらと灰色の細い紐のようなものが揺れていた。
ドアホーンを使わず、いや使えず、直接頭に話し掛けてくる男などアイツしかいない。
モニターの向こうにはひらひらと灰色の細い紐のようなものが揺れていた。
「まさか…。」
そうだとしたら二年ぶり、いや三年ぶりだ。あの夕日の桜から私はアイツを意識的に避けていたから。
大学を出ての春、故郷の星に帰るときも出発の宙港のロビーから通信カードに
大学を出ての春、故郷の星に帰るときも出発の宙港のロビーから通信カードに
『長い間、本当にありがとう。美幸と会えて良かったよ。僕は今から星に帰ります、さようなら。』
とメールが届いただけだった。
見送りも出来なかった、させて貰えなかったアイツがなぜ、今…。
息を飲むと震える手でドアを開ける。
見送りも出来なかった、させて貰えなかったアイツがなぜ、今…。
息を飲むと震える手でドアを開ける。
『美幸、久しぶりだね。』
春の風が吹き込んでくる。頭に優しく響く穏やかな声と共にそこにいたのは私を桜嫌いにさせたエイリアンの幼馴染だった。
『ごめん。連絡も無く急に来ちゃって。』
「ううん、どうせ暇だったから。本当に久しぶりだね、ドラム。」
『ごめん。連絡も無く急に来ちゃって。』
「ううん、どうせ暇だったから。本当に久しぶりだね、ドラム。」
三年ぶりの幼馴染をリビングに上げた後、私は逃げるようにコーヒーを淹れにキッチンに入った。
思ってもみなかった、しかもまだ心のしこりを抱えたままの対面にどう接すればいいのか頭が混乱している。
ワザと時間の掛かる旧式のコーヒーメーカーを出し、震える手で粉をフィルターに入れる。
コンロでお湯を沸かし、それを注いでフィルターの粉を蒸らしながら、私は大きく息をついた。
思ってもみなかった、しかもまだ心のしこりを抱えたままの対面にどう接すればいいのか頭が混乱している。
ワザと時間の掛かる旧式のコーヒーメーカーを出し、震える手で粉をフィルターに入れる。
コンロでお湯を沸かし、それを注いでフィルターの粉を蒸らしながら、私は大きく息をついた。
どうして…。
生まれ故郷の星に帰ったドラムが今更、なぜ目の前に現れたのだろう。
しかもあの時付き合うように引き合わされた篤と一週間前に別れた、絶妙のタイミングで。
そっとリビングを覗き込むとドラムは小さなテーブルの前で身体の正面についたモノアイをキョロキョロさせて部屋を見回していた。
しかもあの時付き合うように引き合わされた篤と一週間前に別れた、絶妙のタイミングで。
そっとリビングを覗き込むとドラムは小さなテーブルの前で身体の正面についたモノアイをキョロキョロさせて部屋を見回していた。
『…美幸ってこんなに綺麗好きだっけ?いつも部屋を散らかしっ放しにしてたから、てっきり一人暮らしでもバタバタにしてると思ったよ。』
頭に響く陽気な声に「馬鹿…。」と小さく呟きつつ、返事を返す。
「一人暮らしして二年だからね。それなりにしっかりするようにもなるよ。」
確かにこの二年の実家を離れての一人暮らしで家事もきちんとするようになった。
実家の母も「しっかりしてきたものね。」と驚いている。
だが、ここ一週間は酷かった。篤の最後の電話を受けた晩から、罪悪感とそして少しの安堵感、それに対する更なる罪悪感でまるで家のことなどする気も起きなかった。
ただ、職場と家のベッドを往復するだけの日々。家では食事すら取って無い。
今朝、さすがにこれでは駄目だと思い直し、新規一心を計るつもりもあってリビングからキッチン、風呂場にトイレ、ベランダまで全部掃除したのだ。
その大掃除で見つけた棚の隅に二年間どうしても捨てられずの置いてあったマグカップを取り出す。
軽い強化プラスチックのカップに黄色い蓋、長い透明なキューブ状のストローがついているそれは、よく実家に遊びに来て入り浸っていたドラムが使っていたものだ。
二年前、このアパートに引っ越すとき持っていく食器の荷造りをしていたときに、星に帰ったドラムのカップを母が「これ、どうしようかしら?」と困ったように出してきたのを見て、思わず貰ってきてしまった。
出来たコーヒーを自分のカップとドラムのカップに注ぐ。冷蔵庫からミルクポーションを一つ出して、彼のカップにだけ入れてスプーンでかき混ぜる。無意識に冷凍庫から氷を三つ出してそれをカップに入れ溶かしながら、コーヒーをドラムの飲める好みの温度にしている自分に気がついて苦笑を浮かべた。
そう、小学生の頃から遊びに来る度に、こうしてホットミルクを作ったり、コーヒーを淹れたりしてきたので身体が彼の好みを覚えてしまっている。
かき混ぜるスプーンを上げ、先から落ちる雫に小さく息をつくとストローを差した蓋を被せて、私は二つのカップをトレイに乗せて重い足取りでリビングに戻った。
『そのカップ、持っていてくれたんだ。』
実家の母も「しっかりしてきたものね。」と驚いている。
だが、ここ一週間は酷かった。篤の最後の電話を受けた晩から、罪悪感とそして少しの安堵感、それに対する更なる罪悪感でまるで家のことなどする気も起きなかった。
ただ、職場と家のベッドを往復するだけの日々。家では食事すら取って無い。
今朝、さすがにこれでは駄目だと思い直し、新規一心を計るつもりもあってリビングからキッチン、風呂場にトイレ、ベランダまで全部掃除したのだ。
その大掃除で見つけた棚の隅に二年間どうしても捨てられずの置いてあったマグカップを取り出す。
軽い強化プラスチックのカップに黄色い蓋、長い透明なキューブ状のストローがついているそれは、よく実家に遊びに来て入り浸っていたドラムが使っていたものだ。
二年前、このアパートに引っ越すとき持っていく食器の荷造りをしていたときに、星に帰ったドラムのカップを母が「これ、どうしようかしら?」と困ったように出してきたのを見て、思わず貰ってきてしまった。
出来たコーヒーを自分のカップとドラムのカップに注ぐ。冷蔵庫からミルクポーションを一つ出して、彼のカップにだけ入れてスプーンでかき混ぜる。無意識に冷凍庫から氷を三つ出してそれをカップに入れ溶かしながら、コーヒーをドラムの飲める好みの温度にしている自分に気がついて苦笑を浮かべた。
そう、小学生の頃から遊びに来る度に、こうしてホットミルクを作ったり、コーヒーを淹れたりしてきたので身体が彼の好みを覚えてしまっている。
かき混ぜるスプーンを上げ、先から落ちる雫に小さく息をつくとストローを差した蓋を被せて、私は二つのカップをトレイに乗せて重い足取りでリビングに戻った。
『そのカップ、持っていてくれたんだ。』
懐かしそうな声を私の頭に響かせて、ドラムは灰色の触指を伸ばすとカップの取っ手を握った。
ライトグリーンのモノアイの瞳が嬉しそうに輝く。
どうしてこんな三流SF映画のヤラレ役に出てきそうなエイリアンが未だに忘れられないのだろう。
私は自分のカップを持って、それを啜りながら懐かしい幼馴染を眺めた。
ドラムは異星人。正確にはM77銀河アリアス星系の第三惑星エアロ星人。
その形状から触手型宇宙人と他の異星人と一纏めで呼ばれることもある。
見た目はまるで歩く小型のドラム缶。灰色の太い胴体に脇から支えるように四本の短い足がついている。
ドラムの名前もそこからきている。本当の名前は地球人では発音出来ないので、私がつけたあだ名を彼の父がそのまま彼の地球名にしてしまったのだ。
上から四分の一の位置にライトグリーンの瞳の光る単眼がついていて、その少し下、三分の一の位置から今は二本の触腕が生えている。
自分が地球人の一部に生理的に嫌悪感を覚えさせる容姿をしていることを良く知っている為、普段は地球人に合わせて調度腕に当たる位置の触腕しか出さないのだ。
しかし、本当はその他に前面、横後方、後面と八本の触腕を持っていることを知っている。
前面四本は先が五本の触指に別れ、それが地球人の手や指の働きをすることも、後ろの四本は筋肉の束で一本一本が地球人の大人の男一人を容易に吊り上げられることも、左腕当たる触腕の一番端の触指がどうにも動きが鈍くて困っていることも、それでいて困ったときや照れたときにモノアイの下を掻くのがその触指だということも。
透明なチューブを頭頂にある口腔に入れて、ミルク入りのコーヒーをドラムが啜る。
ライトグリーンのモノアイの瞳が嬉しそうに輝く。
どうしてこんな三流SF映画のヤラレ役に出てきそうなエイリアンが未だに忘れられないのだろう。
私は自分のカップを持って、それを啜りながら懐かしい幼馴染を眺めた。
ドラムは異星人。正確にはM77銀河アリアス星系の第三惑星エアロ星人。
その形状から触手型宇宙人と他の異星人と一纏めで呼ばれることもある。
見た目はまるで歩く小型のドラム缶。灰色の太い胴体に脇から支えるように四本の短い足がついている。
ドラムの名前もそこからきている。本当の名前は地球人では発音出来ないので、私がつけたあだ名を彼の父がそのまま彼の地球名にしてしまったのだ。
上から四分の一の位置にライトグリーンの瞳の光る単眼がついていて、その少し下、三分の一の位置から今は二本の触腕が生えている。
自分が地球人の一部に生理的に嫌悪感を覚えさせる容姿をしていることを良く知っている為、普段は地球人に合わせて調度腕に当たる位置の触腕しか出さないのだ。
しかし、本当はその他に前面、横後方、後面と八本の触腕を持っていることを知っている。
前面四本は先が五本の触指に別れ、それが地球人の手や指の働きをすることも、後ろの四本は筋肉の束で一本一本が地球人の大人の男一人を容易に吊り上げられることも、左腕当たる触腕の一番端の触指がどうにも動きが鈍くて困っていることも、それでいて困ったときや照れたときにモノアイの下を掻くのがその触指だということも。
透明なチューブを頭頂にある口腔に入れて、ミルク入りのコーヒーをドラムが啜る。
『ちゃんと温くしてくれたんだ。』
頭に響く嬉しそうな声に頷き返す。ドラムは声帯を持たないので会話はテレパシーだ。
最も頭に声が響くからといっても人の思念を読み取ったりは出来ない。
口はイソギンチャクと同じように体の天辺にあり、中は歯舌がぐるりと周囲に生えていて、それで食べ物を噛み潰す。筒のような口だから熱いものは食べられない。
実家によく泊まりに来ていっしょに食事をしたときはドラムに合わせて、母が彼の分の御飯を冷ましていたものだ。
最も頭に声が響くからといっても人の思念を読み取ったりは出来ない。
口はイソギンチャクと同じように体の天辺にあり、中は歯舌がぐるりと周囲に生えていて、それで食べ物を噛み潰す。筒のような口だから熱いものは食べられない。
実家によく泊まりに来ていっしょに食事をしたときはドラムに合わせて、母が彼の分の御飯を冷ましていたものだ。
「どうして地球に?星に帰ってあっちで就職したんじゃないの?」
途切れがちになる会話の沈黙が重くて訊ねると、ドラムはライトグリーンの瞳を何故かきょときょとと回した。
『今度、うちの会社がこっちに地球支社を出すことになって、それで地球でずっと暮らしてきた僕が支社の社員に派遣されたんだ。』
「そう…じゃあ、これからはまた地球暮らしなんだ。」
『うん、もう美幸の実家の隣の家は売っちゃったから、今は一駅先の町のおんぼろアパートに住んでいる。
ぼろいけど僕みたいな異星人や亜人が多くて、家賃も安いから住み易いんだ。』
「そう…。」
「そう…じゃあ、これからはまた地球暮らしなんだ。」
『うん、もう美幸の実家の隣の家は売っちゃったから、今は一駅先の町のおんぼろアパートに住んでいる。
ぼろいけど僕みたいな異星人や亜人が多くて、家賃も安いから住み易いんだ。』
「そう…。」
私はコーヒーを一口飲んだ。いつも以上に苦い味がする。
ドラムの会ったのは小学三年生の頃、異星人街の近くにあった実家の隣に父親の転勤で家族で越してきたのがきっかけだ。
お隣同士ということもあり、向こうの両親に地球に慣れない息子と仲良くしてやってくれと頼まれたこともあり、異星人の友達という物珍しさもあって、いっしょに遊んでいるうちに気が合っていたのか、いつの間にか一番の友達になっていた。
学校の放課後は毎日、日が暮れるまで二人で遊んだし、夏休みもお互いの家でずっといっしょに過した。
花火見物に夏祭り、夏休みの最後、山のように残った宿題を手伝ってくれたのも彼だ。
そのまま同じ校区の中学に上がり、いっしょに受験勉強しながら同じ高校に入った。
学校での友人付き合いの悩みも、勉強の悩みも一番に話せて、一番良く聞いてくれたのも彼、そして大学は星間貿易の仕事に就きたいと希望していたドラムを追って同じ大学の星間経済学部に入った。
ドラムの会ったのは小学三年生の頃、異星人街の近くにあった実家の隣に父親の転勤で家族で越してきたのがきっかけだ。
お隣同士ということもあり、向こうの両親に地球に慣れない息子と仲良くしてやってくれと頼まれたこともあり、異星人の友達という物珍しさもあって、いっしょに遊んでいるうちに気が合っていたのか、いつの間にか一番の友達になっていた。
学校の放課後は毎日、日が暮れるまで二人で遊んだし、夏休みもお互いの家でずっといっしょに過した。
花火見物に夏祭り、夏休みの最後、山のように残った宿題を手伝ってくれたのも彼だ。
そのまま同じ校区の中学に上がり、いっしょに受験勉強しながら同じ高校に入った。
学校での友人付き合いの悩みも、勉強の悩みも一番に話せて、一番良く聞いてくれたのも彼、そして大学は星間貿易の仕事に就きたいと希望していたドラムを追って同じ大学の星間経済学部に入った。
『美幸、こいつがさ、美幸のこと好きみたいなんだ。付き合ってみたらどうかな?』
あの日、毎年の恒例の二人の花見の約束にドラムが同じゼミの篤を連れてきて言った言葉が蘇る。
ぎゅっと手を握り、私は頭の中をこだまする忘れたくても忘れられない言葉を打ち消した。
「ドラムは向こうに帰ってどうしたの?彼女でも出来た?」
ぎゅっと手を握り、私は頭の中をこだまする忘れたくても忘れられない言葉を打ち消した。
「ドラムは向こうに帰ってどうしたの?彼女でも出来た?」
そんな過去にしがみ付いたままの自分が嫌でわざと明るい口調で聞く。
肯定の答えなら…やっと諦められる。別れた篤には悪いけどやっと区切りがつける。
肯定の答えなら…やっと諦められる。別れた篤には悪いけどやっと区切りがつける。
『ううん、仕事が忙しくてさ、出来なかった。相変わらずの寂しい一人身だよ。』
ドラムの困ったような声に思わず安堵が胸を満たす。
それと同時に自分が三年前とちっとも変わってない思いをまだドラムに抱いていることに驚いた。
それと同時に自分が三年前とちっとも変わってない思いをまだドラムに抱いていることに驚いた。
馬鹿みたい…どこまで私、馬鹿なんだろう…。
苦い、苦いコーヒーを飲み干す。
『美幸は?篤とうまくいってる?』
ドラムのどこか探るような声に私は素直に答えた。
「ううん、一週間前に別れたの。篤、就職して直ぐに支店に転勤になっちゃって。
ダメよね、一年そこそこの付き合いで遠距離恋愛なんてね。
結局、連絡が途絶えちゃって、向こうで新しい彼女が出来たんだって。」
ダメよね、一年そこそこの付き合いで遠距離恋愛なんてね。
結局、連絡が途絶えちゃって、向こうで新しい彼女が出来たんだって。」
一週間前の後悔と罪悪感が蘇る中、務めて明るく答える。
『そうなんだ…。』
何故かドラムの声が篭ったように響く。コーヒーのカップを置くと彼は小さく左端の触指を震わせた。
『悪い、美幸。こっちで彼女が出来たんだ。別れてくれ。』
篤が電話を掛けて来たのはちょうど一週間前の土曜日、彼が私の家に泊まりに来る日の夜だった。
その日は離れてから尚更感じるようになった彼と会う前の重い気持ちを振り払うように、朝から掃除をして、買い物に行き、二人分の夕食を作って篤を待っていた。
中々到着の連絡をしてこない篤にこっちから電話を掛けようか迷っていたときに通話カードの篤用の着信音のメロディーが流れたのだ。
別れの言葉はそれだけだった。多分、それが篤の優しさだったのだろう。
そして彼がわざと私が彼に会う用意を終えたころに電話を掛けたのは彼の精一杯の私への仕返しに違いない。
心の中でいつまでも他の男のことを考えている私へ、いつも彼をその男と比べている女への。
その日は離れてから尚更感じるようになった彼と会う前の重い気持ちを振り払うように、朝から掃除をして、買い物に行き、二人分の夕食を作って篤を待っていた。
中々到着の連絡をしてこない篤にこっちから電話を掛けようか迷っていたときに通話カードの篤用の着信音のメロディーが流れたのだ。
別れの言葉はそれだけだった。多分、それが篤の優しさだったのだろう。
そして彼がわざと私が彼に会う用意を終えたころに電話を掛けたのは彼の精一杯の私への仕返しに違いない。
心の中でいつまでも他の男のことを考えている私へ、いつも彼をその男と比べている女への。
『そう、そうなんだ。解った。新しい彼女を大事にね。』
『ごめんなさい。』と謝り出してしまわないうちに、私はそう答えて直ぐに通話を切った。
それは篤に余りに失礼だし、彼の男としてのプライドをとことんまで傷つけてしまう。
忘れられない相手が、比べていた相手がエイリアンだなんて。
通話を切って一番最初に胸を満たしたのは安堵だった。
もう無理をして恋人のふりをしなくて済む。本当は好きでもないのに篤の求めるままに抱かれなくて済む。
その後、襲ったのはそう感じる自分へのひどい罪悪感だった。
でも、全く失望は感じなかった。夕日の桜並木の向こうの彼の背中を見送った時のような胸が空っぽになる思いは微塵も感じなかった。
…そう、無理して付き合っていたのだ。彼が『付き合ってみたらどうかな?』って言ったから、彼が進めてくれた相手だったから。彼を…友人にしかなれないと知った彼を諦める為に。
でも、篤は彼の代わりにはならなかった。
花火見物のとき浴衣を着て不慣れなゲタで歩く私の横で篤はさっさとスニーカーで歩いていった。
彼はゆっくりと歩調を合わせて、『きばっておしゃれしなくても良いのに。』と笑いながらも時々立ち止まって休ませてくれたのに。
人込みの中でも、ただグイグイと手を引くだけの篤と違って、彼は私が人に押されて転んだり倒れたりしないように側にぴたりとついて伸ばした触腕を腰に回してしっかりと守ってくれていた。
具合が悪いときも、落ち込んでいるときも彼は、黙っていれもすぐに察して優しく声を掛けてくれた。
篤との付き合いで知ったのは皮肉にも彼以上に私を見ていて、気に掛けてくれている男が他にいないことと、そんな彼へいつの間にか抱いていた自分のどうしょうもない思いだけだった。
触手型宇宙人にとって私は恋愛どころか異性としての対象にすらならない。
彼にとっては私を好きな男を紹介出来る幼馴染の友人でしかないというのに。
「今日はどうしてここに来たの?」
それは篤に余りに失礼だし、彼の男としてのプライドをとことんまで傷つけてしまう。
忘れられない相手が、比べていた相手がエイリアンだなんて。
通話を切って一番最初に胸を満たしたのは安堵だった。
もう無理をして恋人のふりをしなくて済む。本当は好きでもないのに篤の求めるままに抱かれなくて済む。
その後、襲ったのはそう感じる自分へのひどい罪悪感だった。
でも、全く失望は感じなかった。夕日の桜並木の向こうの彼の背中を見送った時のような胸が空っぽになる思いは微塵も感じなかった。
…そう、無理して付き合っていたのだ。彼が『付き合ってみたらどうかな?』って言ったから、彼が進めてくれた相手だったから。彼を…友人にしかなれないと知った彼を諦める為に。
でも、篤は彼の代わりにはならなかった。
花火見物のとき浴衣を着て不慣れなゲタで歩く私の横で篤はさっさとスニーカーで歩いていった。
彼はゆっくりと歩調を合わせて、『きばっておしゃれしなくても良いのに。』と笑いながらも時々立ち止まって休ませてくれたのに。
人込みの中でも、ただグイグイと手を引くだけの篤と違って、彼は私が人に押されて転んだり倒れたりしないように側にぴたりとついて伸ばした触腕を腰に回してしっかりと守ってくれていた。
具合が悪いときも、落ち込んでいるときも彼は、黙っていれもすぐに察して優しく声を掛けてくれた。
篤との付き合いで知ったのは皮肉にも彼以上に私を見ていて、気に掛けてくれている男が他にいないことと、そんな彼へいつの間にか抱いていた自分のどうしょうもない思いだけだった。
触手型宇宙人にとって私は恋愛どころか異性としての対象にすらならない。
彼にとっては私を好きな男を紹介出来る幼馴染の友人でしかないというのに。
「今日はどうしてここに来たの?」
私の問いにドラムは焦ったように触指をそわつかせた。
『久しぶりに地球に来たら、美幸の顔が見たくなってさ。
おばさんに聞いたら意外と近くに住んでいたものだから、それなら久しぶりに良い天気だし、いっしょに花見にでも行こうかと思ったんだ。』
「ごめん、私、桜が嫌いなんだ。」
おばさんに聞いたら意外と近くに住んでいたものだから、それなら久しぶりに良い天気だし、いっしょに花見にでも行こうかと思ったんだ。』
「ごめん、私、桜が嫌いなんだ。」
精一杯の彼への抵抗で言ってみる。ドラムはライトグリーンの瞳をまん丸にして私を見た。
『嘘…小さい頃からずっと桜が大好きだったじゃないか。二人で毎年いろんなところへ花見に出掛けたのに…。』
「でも、今は桜餅すら嫌いなの。」
「でも、今は桜餅すら嫌いなの。」
私はぴしゃりと言い切った。
『そんな…。』
ドラムがおどおどと瞳を動かす。左の触腕の一番端の触指がモノアイの下を掻く。
私はそんな彼から視線を逸らした。
だって、だって、ドラムが桜の下であんなことを言うから、恋人でなくても良い、異性に見られなくても良い、ただいっしょに居るだけで良かった私にあんなことを言うから、どうあがいても伝わらない思いだということをあの時はっきりと示したから…!!
息苦しさともどかしさに立ち上がる。
私はそんな彼から視線を逸らした。
だって、だって、ドラムが桜の下であんなことを言うから、恋人でなくても良い、異性に見られなくても良い、ただいっしょに居るだけで良かった私にあんなことを言うから、どうあがいても伝わらない思いだということをあの時はっきりと示したから…!!
息苦しさともどかしさに立ち上がる。
「ごめん、用事思い出したの。帰ってくれる?」
私の突然の言葉にドラムがオロオロと触腕を振る。
『暇だって言っていたのに?』
「明日、友達が来るの。その仕度に買い物に行かなくちゃいけないの。」
『だったら、そこまでいっしょに行こう。駅まで見送りくらいしてくれないかな?』
「ごめん、まだ掃除も残っているし。」
『手伝うよ。僕、暇だし。』
「いいから帰って!!」
「明日、友達が来るの。その仕度に買い物に行かなくちゃいけないの。」
『だったら、そこまでいっしょに行こう。駅まで見送りくらいしてくれないかな?』
「ごめん、まだ掃除も残っているし。」
『手伝うよ。僕、暇だし。』
「いいから帰って!!」
私はドラムに背を向けてリビングを出て廊下を玄関のドアに向けて歩き出した。
後をドラムが短い四本の足を器用にちょこまかと動かしてついてくる。
後をドラムが短い四本の足を器用にちょこまかと動かしてついてくる。
『美幸、何を怒っているんだい?』
「怒ってなんかない。」
「怒ってなんかない。」
私は玄関のノブに手を掛けた。
諦めよう、どうあがいても無駄なのはあの時知った。
今日、ドラムに会ったのはきっとこれで諦めなさいということ。
明日は友達と立体映画見て、愚痴って、ビール飲んで、そしてこれからはきれいさっぱり彼を忘れて、ちゃんと私を異性と見てくれる男と付き合おう。
ノブを回そうとした瞬間、私の体にドラムの触腕が絡みついた。
後方の触腕、重いものでも軽々と持ち上げられる筋肉の束の腕だ。
そのまま、あっという間に廊下へと戻される。とんと背中にドラムの厚い皮膚に覆われた胸が当たった。シュルシュルと今度は前方の四本の触腕が私の身体に纏わりつく。
細い触指が私の手に重なった。
諦めよう、どうあがいても無駄なのはあの時知った。
今日、ドラムに会ったのはきっとこれで諦めなさいということ。
明日は友達と立体映画見て、愚痴って、ビール飲んで、そしてこれからはきれいさっぱり彼を忘れて、ちゃんと私を異性と見てくれる男と付き合おう。
ノブを回そうとした瞬間、私の体にドラムの触腕が絡みついた。
後方の触腕、重いものでも軽々と持ち上げられる筋肉の束の腕だ。
そのまま、あっという間に廊下へと戻される。とんと背中にドラムの厚い皮膚に覆われた胸が当たった。シュルシュルと今度は前方の四本の触腕が私の身体に纏わりつく。
細い触指が私の手に重なった。
「ドラム!?」
驚いた私の声に答えるように触腕がギュッと私の身体を抱き締める。
『美幸…。』
聞いたことの無いドラムの熱っぽい声が私の頭に響いた。
(続)