人外と人間

河童と村娘 番外編

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河童と村娘 番外編 859 ◆93FwBoL6s.様

 夏の日差しよりも眩しい、白無垢を纏った花嫁が歩いていた。
 付き人の手で赤い番傘を差し掛けられ、母親に手を引かれ、新郎を伴って神社の前を過ぎていく。新婦の後ろに付いている父親と思しき年配の男性は、紋付き袴に身を包み、厳かな表情だった。その後ろには親族や参列者が二列に並んでずらりと連なっていて、花嫁の門出を祝っていた。角隠しを被った花嫁の背後では、穂を膨らませた稲が風に揺らされ、さわさわと波打っていた。空はどこまでも高く、清々しい青だ。これで雨が降れば狐の嫁入りだよな、と清美は思っていた。
 現世と常世の境目である神社の境内で、最も大きな木である御神木の枝に清美は座っていた。白い半袖ブラウスと紺色のプリーツスカート姿で、ローファーを揺らしながら花嫁行列を眺めていた。夫である清滝之水神はその名の通りの水神なので、ぱらりと雨を降らせることなど造作もないだろう。だが、その妻であろうと清美はあくまでも人間だ。神になる修行もしていないので、神通力などない。花嫁行列に連なる参列者の一人が御神木を一瞥したが、目線を彷徨わせ、訝しみながら前に向いた。常世の者である清美は現世の者には見つからないと解っていても、こういう瞬間は少し緊張する。
 花嫁行列は、祝言を挙げるために神社に戻ってくるはずだ。見てみたいが、山に戻らなければ。うっかり勘の鋭い人間に見つかりでもしたら、清美も困るが、清美を守っているタキを困らせてしまう。清美が御神木の枝から立ち上がり、スカートを払っていると、ぎしりと背後の枝が軋んで葉が落ちた。

「タキ!」

 清美が振り返ると、揺れの残る枝の上に、緑色の肌と皿と甲羅を持った異形が立っていた。

「清美。祝言か」
「うん。昨日から神社が騒がしかったから、何かなぁって思って」

 清美はぽんと跳ね、河童のいる枝に飛び移った。

「そしたら、花嫁行列だったの。お嫁さん、見たことない人だったから、村の外から入ってきたんだね」
「祝言の終いまで見るつもりか」
「いいよ、そこまで気になるわけじゃないし。神社に長くいたら、私もタキも誰かに見つかっちゃうよ」

 清美は風に乱された長い髪を掻き上げ、耳元に掛けた。

「でも、いいなぁ。お嫁さんかぁ」
「おぬしは儂の嫁だ」
「そりゃそうだけど、やっぱり一度は着てみたかったかも。白無垢とかドレスとか」
「何故に」
「だって、綺麗じゃない」
「そうか」

 タキは少し長めに瞬きしてから、クチバシを開いた。

「清美」
「ん、なあに?」
「しばらく外へと赴く。案ずるな、儂がおらぬとも山は乱れぬ」

 それだけ言い残し、タキは両足を曲げて枝を踏み切ると、大柄な体格に見合わぬ身軽さで跳んだ。直後、水気を含んだ風が一瞬吹き付け、清美が閉じかけた瞼を開くと既にタキの姿は消え失せていた。

「…いってらっしゃーい」

 清美はいずこへと消えた夫の背に向け、手を振っていたが、御神木から降りて別の木に飛び移った。せめてどこに出掛けるかぐらい言い残してくれればいいのに、と思ったが、意味が解らないのも事実だった。
 神々は未だに古い地名を使っているので、地理や日本史に明るくない清美にはちんぷんかんぷんなのだ。だから、以前タキが神々の集まりで遠出する時にも行き先を教えられたが、聞いた傍から混乱してしまった。清美が現代の地名に言い直させようとしても、タキは現代の地名が解らないらしく、今度は彼が混乱した。なので、タキは地名に関しては清美に理解させることを諦めたのか、最近ではどこに行くか告げなくなった。夫としてそれでいいのか、と思わないでもないのだが、必ず帰ってくるので問題ないだろう、とも思っていた。

「タキがいないと、暇だなぁ」

 青い葉が生い茂った木々の枝を飛び跳ねて山の斜面を昇りながら、清美は少し機嫌を損ねていた。心底惚れ合ってしまったタキは別としても、他の神々とは話が合わず、顔を合わせても話が弾まない。時には女の子らしい雑談をしたいと思っても、丁度良い相手がおらず、喋り足りなくて悶々とすることもある。その点、タキは清美がぐだぐだと垂れ流す話を辛抱強く聞いてくれるので、清美には何よりもありがたい。だが、タキがいなければ暇潰しの下らない話を聞いてくれる相手がおらず、退屈が凌げなくなってしまう。
 現世とは違い、常世には漫画もなければゲームもテレビもない。以前拾った携帯ラジオも電池が切れた。退屈過ぎて、時折荒ぶる神々の気持ちが解ってきた。滞った時間が長すぎるため、刺激が欲しくなるのだ。けれど、清美は荒ぶることも出来なければ現世にも出られないので、悶々とすること以外にやることはない。
 夫が帰るまでの辛抱だ。
 一週間後。清滝之水神が帰ってきた。
 その日は雲もないのに朝から弱い雨が降っていたので、清美もなんとなく夫の気配を感じ取っていた。タキの依り代でもあり二人の住処でもある、石碑の中の洞窟から出た清美は、湿った空気を肺に入れた。石碑から程近い川の上流に向かい、顔を洗って髪を整え、襟を直していると、あの水気のある風が吹いた。風が吹き抜けてから振り返ると、タキが現れた。清美はタキに駆け寄ろうとしたが、彼の手元に気付いた。
 タキは、見慣れぬ箱を抱えていた。清美には読み取れないほど達筆な字が書かれた、桐の木箱だった。お帰りなさい、と言ってから、清美は両腕で抱えるほど大きな桐の木箱と表情の解らない夫を見比べた。

「タキ、これってなあに?」
「開ければ解る」

 タキはぺたぺたと水掻きのある足を鳴らし、朝露の付いた雑草を踏みながら、古びた石碑に向かった。清美もそれに続いて石碑から中に入り、ある種の異空間の中に成されている薄暗い洞窟に入った。洞窟の中程に至ったタキは、定位置の石に腰を下ろし、桐の木箱を傍らに置いて清美を見上げた。

「清美。おぬしのものだ」
「ってことは、プレゼント?」
「うむ」
「わーい、ありがとう!」

 清美はタキの傍に座ると、箱を受け取り、骨董品か上等な反物が収まっていそうな桐箱の蓋を開けた。だが、箱に入っていたのは予想に反した真っ白い布で、取り出してみると裾の広がったドレスだった。ドレスの下からはヴェールまで出てきたが、箱の底にあったというのにどちらも型崩れしていなかった。同じく純白のハイヒールとガーターベルトにストッキングまで入れられていて、花嫁衣装一式が揃っていた。柔らかな絹のウェディングドレスは丈が短く、清美は体に当ててみたが、制服のスカートよりも短かった。バレリーナのチュチュのように裾が大きく広がったタイプのドレスだが、膝上十五センチかそれ以上はある。清美が戸惑っていると、タキはどことなく自慢げな眼差しで清美を見上げていたので、その意図を察した。

「これ、タキが作ってきてくれたの?」
「少し離れた山に、機織りの神がおる。儂の膏薬と引き換えに成してもらった」
「でも、なんでドレスなの? 神様だったら、白無垢の着物とか打ち掛けとかを作りそうなもんだけど」
「儂が申し出たのだ」

 タキがいつもの調子で述べた言葉に、清美はきょとんとした。

「へ?」
「機織りの神は、儂に比べれば現世のことに明るいのだ」
「だから、ドレスも作れるってわけ?」
「うむ」
「でも、なんで、タキがドレスを頼んだの? だって、なんかそういうキャラじゃ…」
「儂はおぬしの伴侶よ。嫁を飾り立てようと思うのは当然だ」
「ふえ」

 今まで、そんなことを言われたことはなかった。清美が赤くなると、タキは促してきた。

「さあ、着て見せよ。儂の嫁よ」
「うん!」

 清美はドレス一式が入った桐箱を抱えると、洞窟の奥に向かい、込み上がってくる笑みを押し殺した。村の中を行く花嫁行列を見た時に零しただけなのにドレスを作ってきてくれるなんて、タキは本当に優しい。着物であっても嬉しかったが、ドレスはもっと嬉しい。見せる相手はタキだけだが、彼一人いれば充分だ。
 タキに嫁いで水神の妻となったが、その際に祝言を挙げることもなく、二人でひっそりと契りを交わした。神々の世界ではそれが当たり前なので、清美も文句は言えなかったが、本音を言えば祝いたかった。けれど、あまり我が侭が過ぎてタキに愛想を尽かされたくはないので、言うに言えずに黙っていたのだ。
 その願いが、こんなことで叶ってしまうとは。一週間大人しくしていた甲斐があった、と清美は歓喜した。滑らかな手触りのドレスを古びた姿見に掛けてから、ブラウスを脱ぎ、スカートを落とし、下着も全て外した。ガーターベルトは下着の上から付けるものだと知っていたので、裸で付け、その上に再度ショーツを履いた。両足に白いストッキングを履き、ガーターベルトのストラップで留めてから、ドレスを下から引っ張り上げた。ドレスはノースリーブで襟ぐりが大きく開いていて、ミニスカートの割には大人っぽい雰囲気があった。サイズが合うかどうか心配だったが、寸法合わせもしていないのに胸回りも腰回りもぴったりと填った。ファスナーを上げても、きつくなるどころか丁度良い。清美は腰を捻って、布地に遊びがあることも確かめた。

「おおー!」

 清美は感嘆し、ヴェールを被ってハイヒールを履き、タキの元へと戻った。
「タキー、凄いすごーい! 全部ぴったりだよ、靴も丁度良いー!」

 慣れない靴に転びかけたが、姿勢を直し、清美はタキの前に立ってくるりと回った。

「これでちゃんとメイクが出来たら良かったんだけどなぁ、あー、写真撮りたぁい!」

 ドレスの裾を持って頬を緩める清美に、タキは返した。

「無粋なことを申すな」
「えー、なんでなんで?」
「着飾ったおぬしを目にするのは、儂一人で良い」
「…うぅ」

 そこまで言うか。清美は先程以上に赤面し、唸った。

「どれ、儂に見せよ」

 タキが手招いたので、清美はタキに近寄って裾を持ち上げた。

「どう? 似合う?」
「無論だ。儂の見立てだからな」
「えへへへへ」
「儂のおらぬ間、何もなかったか」
「うん。山も川も普通だし、他の神様達も何もしなかったよ」
「そうではない、おぬし自身のことだ」

 タキの分厚い瞼が狭まり、目が細められたが、どことなく意地の悪い表情だった。

「…え?」

 清美が答えに迷っていると、タキは太い指を白い太股に這わせた。

「どれ、確かめてくれる」
「ひあぁっ」

 太股をなぞる冷たい指先の感触に、清美はぞくぞくした。彼は、一体何を確かめると言うのだろう。いや、解っている。解っているから、逆らう気は起きず、清美は下着に滑り込んできた指先を感じた。水よりも温いが人間よりは冷ややかな指の腹が、柔らかく陰部をなぞり、清美は唇を噛み締めた。程なくして、じわりと体の奥から溢れ出してきたものが下着と指に絡み、粘ついた異音を立て始めた。

「相も変わらず、良く滴るものよ」
「だ、だってぇ…」

 清美はタキの肩に縋って立っていたが、膝が折れるのは時間の問題だった。

「ふむ」

 清美の下着の中から指を引き抜いたタキは、自身の水気とは異なる水分を眺め回した。

「手慰みはしておらぬようだな」
「なんで解るの、そんなこと?」
「儂は水神だ。おぬしから溢れるものとはいえ、これも水の内よ。解らぬことなどない」
「解っても言わないでよぉ…」
「何故に」
「だって、恥ずかしいから」
「先日は、おぬしの方から儂に跨ってきたではないか」
「あ、あの時は、なんかこう我慢出来なかったからで、それとこれとは違うっていうか…」

 清美がタキの甲羅に額を当てて呟いていると、タキの指が再び下着に押し入ってきた。

「ん、あ、ぁっ」

 充分に潤った陰部に太い指がぬるりと吸い込まれ、ぐじゅぐじゅと掻き回された。

「あ、あぁ、くぁああっ」

 タキの指は陰部をほぐすように緩く動かされ、その度に膝から力が抜け、頭に血が上ってくるようだ。たったの一週間離れていただけなのに、寂しくて切なくてたまらなかったが、何もしないで我慢していた。退屈すぎて息苦しくなる夜もあったが、それでも堪えて、こうして彼に慰められる時を待っていたのだ。当然、自分でするよりも余程良いからだ。陰部に詰め込まれた指が二本に増えると、とうとう膝が折れた。だが、どれほど陰部を乱そうとも、肉芽には触れてこない。意地悪なのか、焦らしているだけなのか。けれど、事を始めるにはドレスを脱がなければ。だから、堪えられるだけ堪えよう、と清美は強く思った。
「どれ」

 タキは清美の胸元を覆う布地を下げると、触れられもしないのに尖った乳首をさすってきた。

「あぁあっ!」

 だが、少しも持たなかった。清美が崩れ落ちそうになると、すかさず腰を支えられた。

「して、何を求めるか」

 タキの低い声に囁かれ、清美は薄く汗を浮かべながら喘いだ。

「お願い、触ってぇ…」
「具体的に申せ」
「そんなの、とっくに解ってるくせにぃ…」
「さて、どうだかな」

 タキはにやりと目を細め、じゅぐ、と陰部から白濁した愛液にまみれた指を抜きかけた。

「あ、やだやだぁっ!」

 清美はタキの腕を掴むが、タキは指を引き抜いてしまった。

「おぬしが申さぬから、儂には解らぬのだ」
「うぅ…」

 清美は火照った体を持て余し、喘ぐうちに垂れた涎を拭った。

「いつもはそんなこと言わないのに、なんで急に…」
「整いすぎておると、乱してやりたくなるものでな」
「それが本音?」

 清美がむくれると、タキは汚れていない左手で清美の頬を包んできた。

「気に障ったか」
「ちょっとは。せっかく綺麗なドレスなのに、汚すこと前提で来られちゃ私だって困るよ」
「汚れたとしても、儂の力を与えた水で清めれば元通りになる」
「型崩れしちゃったりしない?」
「その服自体にも神通力が込められておるからな。滅多なことでは破れもせん」
「そう、かもしれないけど…」

 清美は少々困りながら、ドレスの裾を抓んだ。汚れても水洗いで元通りになるのなら、もっとやるべきか。だが、やはりドレスはドレスなのだ。清美が迷っていると、タキは清美を持ち上げて膝の上に座らせた。

「これは下げぬ方が良かろう」

 タキは大きく広がって膨らんだスカートの下から手を差し込み、潤いが染みた下着を横にずらした。

「そのまま入れちゃうの?」

 清美が期待と躊躇いを交えて漏らすと、タキは充血した肉芽を抉ってきた。

「その前にこちらではないのか?」
「ふぐぅ、あぁっ!」

 高ぶっていた箇所に訪れた強烈な快感に、清美は掠れた声を発した。

「どれ、もっと鳴いてみせよ」
「んぐぁ、あ、あああっ!」

 肉芽を潰されたまま陰部にも指が押し込まれ、清美はタキの腰に絡めた足に力を込めた。

「も、もおダメぇ、それ以上はぁ」
「ならば、儂を求めるか」
「入れて、お願いだからタキの入れて、でないと収まらないぃ…」
「その前に、成さねばならぬことがあるのではないのか?」
 タキは清美の胎内から指を抜き、膝の上からも下ろした。

「おぬしを貫こうにも、儂のものが現れなければ出来ぬというものよ」
「あー…」

 タキの股間を見、清美は心底落胆した。彼の胎内に没している男根が、先端すらも出ていなかった。いつもならとっくに出ているのに、これは妙だ。タキを見上げると、目元は意地の悪い表情のままだった。となると、先程のことも意地悪なのか。少し腹が立ったが、このままでは収まりが付かないのは本当だ。
 清美はヴェールと一緒に髪を掻き上げ、タキの股間に顔を埋め、男根が没している箇所に口付けた。端から見れば、実に卑猥な光景だ。神とはいえ、爬虫類の親戚のような異形に花嫁が奉仕しているのだ。しかも、その中身は女子中学生と来ている。我ながら恥ずかしくなってきたが、清美は愛撫を続けた。
 薄い唇で厚い皮を挟み、体内に潜むものを吸い出すつもりで吸うと、赤黒い逸物が現れてそそり立った。体液でてらてらと光る亀頭を含み、男根全体を飲み込もうとするが、清美の口では全て受け止められない。中程まで銜えるのが精一杯で、根元ははみ出してしまうので、残った部分は両手で丁寧に撫でさすった。しばらく続けていると、男根全体が硬さを増した。もう少しで出そうだ、と察した清美は、根元をきつく握った。

「…ぐ」

 すると、喘ぎなど一度も漏らしたことのないタキが小さく呻いた。

「出しちゃダメ。出すんだったら、私の中で出してよぉ」

 清美は甘ったれた声を出し、タキの男根の根元を握ったまま跨ると、腰を落として陰部に飲み込んだ。

「ふぁ、あああ…」

 だが、手は緩めない。清美が腰を揺すり始めると、タキは目を上げた。

「清美」
「ん、なぁに」

 清美がにんまりすると、タキはクチバシを開いた。

「その手を外してくれぬか」
「だぁめ。だって、タキだって私に意地悪してきたじゃない。おあいこだよ」
「だが…」

 タキが言葉を濁すと、清美は手を緩めぬまま、タキに迫った。

「ね、なんで着物じゃなくてドレスにしたの? 教えてよ」
「大した理由はない」
「嘘だぁ。こんなに短いスカートのドレスなんて、普通は頼まないよ。着物じゃないってことからして引っ掛かるもん。私にドレスを着せてしたかったんでしょ? ねえ、そうでしょ?」
「儂はそのつもりではなかったのだが」
「じゃあ、どんなつもりでミニスカのドレスなんて頼んだの? ねえ、タキ?」

 清美がくすくす笑うと、タキは苦々しげに答えた。

「ただ、おぬしを喜ばせるようと思うてその服を作らせたのだが、おぬしを見ているうちに妙な気がもたげてな」
「つまり、綺麗な格好をした私にムラムラ来ちゃったってこと?」
「…うむ」
「ふふふふふ、なんか可愛いー」

 清美が肩を震わせると、タキは目元を歪めた。

「何故に」
「だって、タキがそんなこと思うなんて思わなかったんだもん」

 清美は男根の根元を握っていた手を外すと、タキの首に腕を回した。

「もういいよ、一杯出していいからね」
「申されずとも」

 タキは清美の腰を抱き締めると、一息に奥まで貫いた。

「あぁんっ!」

 清美が甲高い声を上げると、タキは清美を組み伏せ、足を大きく広げさせた。

「どれ、乱れてみせよ。儂の嫁よ」
「もう、充分そうなってるってばぁ!」

 荒々しく突かれながら清美が喚くと、タキは言った。

「まだ足りぬ」

 その言葉に、清美は身震いしそうになった。短い一言だが、あらゆる感情が込められていたからだ。一週間山を空けていたことに対する詫びや、清美に対する並々ならぬ思いといった生々しい感情だ。普段は表情だけでなく、言葉でも感情を表そうとしない彼だからこそ、やたらと嬉しくなってしまった。だが、清美にはその気持ちを言葉に出来るような余裕はなく、ドレスに生温い染みが付くほど乱れた。
 夫が愛おしいからだ。
 水で清められたドレスが、風を受けてはためいていた。
 青く茂った木々の中に混じる純白のドレスは、山の光景には不釣り合いどころか物凄く異様だった。だが、洞窟の中は湿気が多くて乾きが悪いので、風通しの良いに干さなければ元通りにならないだろう。スカートの内側がひどく汚れて型崩れしかけていたが、タキの言葉通り、普通に洗ったら綺麗に落ちた。それはタキ自身の力なのか、機織りの神の力なのかは解らないが、どちらにせよ神通力とは万能だ。いつもの制服姿の清美は、手近な木の枝に腰掛けてドレスを眺めながら、意味もなく足を揺らしていた。

「ねーぇ、タキー」
「何用か」

 清美が声を掛けると、眼下に流れる川で泳いでいたタキが立ち上がった。

「今度、私も外に連れていってよ。山の中で留守番しているだけじゃつまんないんだもん」
「おぬしは外に出ずとも良い。必要とあらば、望むものを手に入れてやるが」
「あー、だからドレスなんてプレゼントしてくれたんだぁ。私のご機嫌取りするために?」
「それだけではないのだが…」

 タキは少々ばつが悪そうに語尾を弱めたので、清美は畳み掛けた。

「そりゃ、ドレスは嬉しかったし、ぶっちゃけ毎日退屈だけど、タキがいてくれないと意味がないよ」
「ふむ」

 タキは清美を見上げていたが、クチバシを開いた。

「だが、おぬしを連れられる場所は限られておる。それでも良いか」
「うん。言い付けはちゃーんと守るから」
「ならば、手始めに山神の元を訪れねばならんな」
「え…」

 清美が若干身を引くと、タキは平坦に述べた。

「山神は近隣の山地を統べ、儂らも統べておる神だ。訪ねるのが道理というものよ」
「でも、山神様ってあれでしょ、ヒス持ちで女嫌いなんでしょ? 大丈夫かなぁ…」
「それはおぬしが現世の者であったからだ。常世の者となったのだから、以前ほど嫌われてはおるまい」
「だと、いいんだけど」

 清美が不安げに眉を下げたので、タキは目を細めた。

「何、恐るることはない。おぬしは儂の嫁なのだからな」
「うん、そうだよね。そうだもんね」

 清美は笑みを取り戻すと、ぽんと枝を蹴って飛び降り、タキの泳ぎの波紋が残る水面に身を投じた。高く水柱が上がったが、清美の体には水面と衝突した際の衝撃は訪れず、水は柔らかく迎えてくれた。水中に没した清美はプリーツスカートと長い髪を漂わせながら、タキにしがみつき、クチバシに口付けた。タキは清美の唇を塞ぎ返す代わりに抱き寄せると、水に弄ばれている髪を太い指で優しく梳いてくれた。
 清美は幼すぎて妻の役割を果たせているとは思えないし、水神の妻の身の振り方など知るわけもない。ドレスの件も、結果として清美の我が侭でタキを振り回してしまったし、これからもそんなことがあるだろう。そのままタキに甘えて生き続けるのは楽かもしれないが、そんなことではタキの妻になった意味がない。常世のことや神々については何一つ解らないが、時間は余るほどあるのだから、ゆっくり知っていけばいい。
 そして、愛し合えばいい。





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