「へへへ……。今日はちゃんとゲットしたぜ、ジェラートよぉ!」
少女の幽霊、鉄条一歌は歓喜の雄叫びを上げた。
存在濃度の調節と維持に苦労する事数時間。有名店のジェラートを、ちゃんと並び、ちゃんと入手するのに成功したのだ。同じ要領で手に入れたクレープを幽霊との戦いでフイにした悔しさが、数時間に及ぶ一歌の執念を支えた。
存在濃度の調節と維持に苦労する事数時間。有名店のジェラートを、ちゃんと並び、ちゃんと入手するのに成功したのだ。同じ要領で手に入れたクレープを幽霊との戦いでフイにした悔しさが、数時間に及ぶ一歌の執念を支えた。
「今度こそいただきま──」
その時だ。またしても漆黒の闇が背後から流れ、一瞬の間に周囲を包み込んだ。領域が張られてしまったのだ。
一歌はまたしても、日常を引き剥がされて戦場に引き戻された。
一歌はまたしても、日常を引き剥がされて戦場に引き戻された。
「ざ……っけんなクソァ!! なんでこんなのが天丼すんだよッ!!」
ジェラートの冷たさは既に手中から失われている。現世のものを持ち込むことはできない──融通の利かない法則がまたしても一歌の楽しみを奪い去っていった。
アスファルトの感触が消え、足元は使い込まれた重厚な木材の感触に変わった。鼻を突くのは排気ガスの臭いではなく、芳醇なウイスキーと、染み付いたタバコの臭い。その領域は高級そうな酒場を風景としていた。
それらを振り払うように一歌の領域が混濁する。取り払われた天井から覗く黄昏の光、そして床板に走る線路。その中から使い慣れた遮断桿を握り締める。怒りの分、気持ち強めに。
カラン、と解けた氷の崩れる涼やかな音がした。音の主であり、領域の主でもある男は行儀悪くバーカウンターに腰掛け、ウイスキーグラスを片手にしている。
アスファルトの感触が消え、足元は使い込まれた重厚な木材の感触に変わった。鼻を突くのは排気ガスの臭いではなく、芳醇なウイスキーと、染み付いたタバコの臭い。その領域は高級そうな酒場を風景としていた。
それらを振り払うように一歌の領域が混濁する。取り払われた天井から覗く黄昏の光、そして床板に走る線路。その中から使い慣れた遮断桿を握り締める。怒りの分、気持ち強めに。
カラン、と解けた氷の崩れる涼やかな音がした。音の主であり、領域の主でもある男は行儀悪くバーカウンターに腰掛け、ウイスキーグラスを片手にしている。
「チャオ」
仕立ての良いシャツとスラックスに、スリーボタンの黒いベストを着用した、いかにも地中海の伊達男と言った風貌の幽霊は、一歌の方を振りかえると嬉しそうに頬を緩ませた。
「人のお楽しみ奪っといてお前は呑気に一杯か? ムカつくなぁ……」
「おっと、何か気に障ったようだねバンビーナ 。良ければ話してくれないかい? その顔、怒るよりも笑った方がステキだと思うぜ」
「誰のせいだと思ってんだコラァッ!」
「おっと、何か気に障ったようだね
「誰のせいだと思ってんだコラァッ!」
一歌が怒りに任せて遮断桿を叩きつける。木製のバーカウンターを叩き割るものの、本命である男は少し横へ移動しただけでかすり傷さえ追っていない。
「ッ!」
銃声と弾の雨が一歌の足元を貫く。牽制射撃に逆らわず、一歌は一旦距離を置いた。
今度はグラスの代わりに、無骨なアサルトライフルが彼の手の中にあった。
今度はグラスの代わりに、無骨なアサルトライフルが彼の手の中にあった。
「悪いね。ドンナ に銃を向けるのはあまり趣味じゃないんだが、仕方なくだ。許してくれるかい?」
口調こそ軽いが、銃口をぴたりと一歌に合わせる男の目は、言葉ほど気楽ではない。
「ポイントになったら許す」
「ハッハッハ! 気の強いバンビーナだ、そういうの好きだぜ! いいさ、名乗りな」
「あ゛?」
「それとも口説かれるのが好きかい? なら俺から行くが──」
「いい、黙っとけ。んで二度と口開くな。……鉄条一歌。死因は『電車事故』」
「ハッハッハ! 気の強いバンビーナだ、そういうの好きだぜ! いいさ、名乗りな」
「あ゛?」
「それとも口説かれるのが好きかい? なら俺から行くが──」
「いい、黙っとけ。んで二度と口開くな。……鉄条一歌。死因は『電車事故』」
床が一部アスファルトや沿線の砂利に置き換わっていく。だが男は未だに笑みを崩さないままだ。
「Oh……。君のような可憐な少女が失われてしまうだなんて世界の損失だ。神は酷いことをするね。君を手元に置いておきたくて、こんな残酷な運命を仕組んだんだから」
「だから今神サマに中指立ててんだよ。生き返って、クソ野郎のモンにはならねえってな」
「俺と同じだ! 俺も残酷な運命から逃れなきゃならないんだ。待たせてるやつらがいるんでね」
「……お互い、退けねえみてえだな」
「もう一度言うけれど、老いも若きも問わず、ドンナに銃を向けるのは俺の趣味じゃないんだ。君が助かる道は二つある」
「へえ……、お前を殺すのと?」
「俺のアマンテ──恋人になることさ!」
「却下ァッ!」
「だから今神サマに中指立ててんだよ。生き返って、クソ野郎のモンにはならねえってな」
「俺と同じだ! 俺も残酷な運命から逃れなきゃならないんだ。待たせてるやつらがいるんでね」
「……お互い、退けねえみてえだな」
「もう一度言うけれど、老いも若きも問わず、ドンナに銃を向けるのは俺の趣味じゃないんだ。君が助かる道は二つある」
「へえ……、お前を殺すのと?」
「俺のアマンテ──恋人になることさ!」
「却下ァッ!」
決裂。それが戦闘開始の合図となった。
男の目に、命のやり取りを知るものの冷たい深淵の色が宿る。
男の目に、命のやり取りを知るものの冷たい深淵の色が宿る。
「仕方のないバンビーナだ。せめて名前は覚えておこう──『ズヴォルタ 』!」
叫ぶや否や、男は手にしたアサルトライフルのトリガーを引いた。無数の弾丸が一歌をハチの巣にしようと一斉に迫る。
「こっちはジェラートだっつーの!!」
遮断桿を高速で回転させそれらを弾きながら前方へ駆け出す一歌。それほど距離があるわけではない。あと3,4歩も踏み込めば遮断桿が届く。とにかく距離を詰め、得意の接近戦に持ち込む。
「ブラーヴォ! 突っ込んでくるとはね!」
本当に嬉しそうに叫んだ男は、「ズヴォルタ」と呼ばれたアサルトライフルから手を離し、腰の後ろに手を回した。もう一丁の巨大な銃、ショットガンが姿を表す。
「ゲッ!?」
「『ロットゥーラ 』! ブッ飛ばせ!」
「『
重い発砲音と衝撃が一歌の体を叩く。どうにか遮断桿で防いだものの、威力を重視したショットガンの一発は彼女の手を痺れさせていた。握力が弱まる。
「ならこれでどうだ!?」
一歌は近くにあったスツールを持ち上げ、その天面を無数の線路で覆いつくした。
「工夫は大歓迎だ! できれば死んでくれるのが一番だけどねっ」
再び重たい発砲音が轟く。しかし線路で覆ったスツールは狙い通り強度を増し、散弾と衝撃を殺す。再び一歌が駆け出す契機が生まれた。
二発、三発も受ければさすがに即席の盾は長く持たない。だが十分に役目は果たした。
二発、三発も受ければさすがに即席の盾は長く持たない。だが十分に役目は果たした。
「喰らいやがれ!」
ポンプアクションの瞬間に合わせてぐるりと一回転、遠心力を乗せてボロボロのスツールを勢いよく放る。
「ワオ!」
男は器用にもショットガンでそれを弾き飛ばした。しかし攻撃の手は確実に緩む。スツールが破片となって砕け散る中、一瞬の隙を逃さず一歌が床を蹴って進む。
「まだ届かないだろ──」
「とか思ってんだろバァカ!」
「とか思ってんだろバァカ!」
彼女は遮断桿を振り上げた。またしても上から叩きつける──と見せかけ、自分の少し手前にそれを突き刺す。勢いを保ったまま床を蹴り、さらに前方へと身を躍らせる、支柱飛び蹴りの弾丸となった一歌の足裏が、男の腹部に叩き込まれた。
「ごふォッ」
吹っ飛ばされた男の体はボウリングのように近くのテーブルやスツールをなぎ倒して転がっていく。しかしそれを面白がっている場合ではない。一歌は再び男目指して駆ける。
「いいね……っ、楽しくなってきた!」
かすれた声に続いてテーブルが飛んでくる。視界を覆うそれを遮断桿で薙ぎ払うと、男は再び「ズヴォルタ」へと持ち替えていた。
「バーチォ !」
照準は頭。躊躇なくトリガーを引く。今度は先ほどのバーストとは異なる単発狙撃だ。
「ッソ!」
動き出しが一瞬遅れた。何とか頭を振って弾を回避しようと試みるもわずかに間に合わず、掠った弾が一歌の頬を裂いた。
「ッ!!」
瞬間に感じる激痛。ほんのかすり傷とは到底笑い飛ばせないその痛みに彼女は悟る。目の前の男の死因は「銃殺」だ。
「ならあたしも見せたるよ!!」
狙いを悟らせないよう、酒場のあちこち四方八方に蜘蛛の巣のように線路が走る。その一つに、ミニチュアサイズの電車が走り出した。
「君みたいに可愛いね! だけどそれで俺を轢けるかな!?」
男は片手ずつ「ズヴォルタ」「ロットゥーラ」を握り、腰だめに構えて撃った。ショットガンの衝撃がとっさに防御に回した遮断桿を弾き飛ばし、ライフル弾の連射が浅く一歌の皮を裂いていく。狙い自体は適当だが、銃撃が死因となった男がばらまくソレは忌々しくも一発ごとが「致命攻撃」として機能する。見た目以上の激痛に苛まれながら、しかしその程度で鉄条一歌の闘争心は無くなりはしない。
「行け!」
電車がまっすぐ男に向かって突っ込んでいく。しかし狙いは見え見え、サイズも小型。男はあっさりと跳んで躱した。
その瞬間、一歌の表情が獰猛に歪む。
その瞬間、一歌の表情が獰猛に歪む。
「ピンボールだ!」
加速した小さな電車が、男の背後でテーブルを弾き飛ばした。その先にいるのはもちろん敵対する男。
「ぐっ!」
「貰った!」
「貰った!」
背中からの衝撃に、空中で男の体勢が崩れた。機を逃さず一気に距離を詰めた一歌が、渾身の力で遮断桿を薙ぐ。
「ブッ飛べ!!」
「うおっ──」
「うおっ──」
固い衝撃と共に男の体が吹っ飛んだ。壁へと吹き飛ばされ、木の破片が舞い上がる。
(銃でインパクト防がれた!! でも今なら殺れる!!)
一歌は遮断桿を地面と水平に構えた。足元から走り出す、本来のサイズの線路。鳴り出す警報器。完成する電車通過のシーン。キルゾーンは固定された。
「終わりだナンパ野郎ぉっ!!」
背後から轟音と共にやってくる電車が、男の下へ突っ込んでいく。線路上の一歌は、その一瞬、確かに勝利を確信していた。
「──頼むぜ、『ヴィットーリア 』」
男は更なる三丁目の銃──銀色に輝く大口径のリボルバー銃を電車に向けた。
「俺の名はマルコ・ヴァレンティ。親愛なるシチリアの友と、5人の最愛のアマンテに捧ぐ」
宣誓と共に弾丸が解き放たれた。
「な──」
垂直に高く跳躍して電車を回避した一歌は、眼下に信じられないものを見た。
たった一発の銃弾が、高速で迫る鋼鉄の構造物を貫き、霧散させていく様を。
その銃弾は、こともあろうに電車を真っ向から打ち破ってみせたのである。
たった一発の銃弾が、高速で迫る鋼鉄の構造物を貫き、霧散させていく様を。
その銃弾は、こともあろうに電車を真っ向から打ち破ってみせたのである。
「次は君だよ」
「っ!!」
マルコの声が初めて夜の如き闇を帯びた。死者を狩ってきただけではなく、恐らくは生前から死線を知るものの、生死の深淵から湧き出る冷たさが、弾丸以前に一歌を射抜く。
本能だけが防御させた。とっさに構えた遮断桿を平然と貫いた弾丸は、そのまま一歌の脇腹をも抉り取っていった。
本能だけが防御させた。とっさに構えた遮断桿を平然と貫いた弾丸は、そのまま一歌の脇腹をも抉り取っていった。
「ごはァッ」
まともな着地もできず地面に叩き付けられ、血を吐く。それでもまだ存在している。
「う……くっ!」
痛みをこらえて立ち上がり、バーカウンターの裏に転がり込む。直後、連射がカウンターを穿つ音が聞こえた。
静寂が訪れる。双方負傷しているが、致命攻撃をより深く食らった一歌の方が重傷を負い、領域の維持も困難にしている。今彼女を繋ぎとめているのは意地、それだけだ。
静寂が訪れる。双方負傷しているが、致命攻撃をより深く食らった一歌の方が重傷を負い、領域の維持も困難にしている。今彼女を繋ぎとめているのは意地、それだけだ。
「アハハ! いや、素晴らしいね! 今の一撃を受けて、まだ意識を保っているなんて。その根性、本当に愛してしまいそうだ!」
カウンターの向こう側から、男の能天気な声が響く。
「……黙れよ、クソ野郎。褒める暇があるなら……大人しく点数になってくれた方が、あたしは嬉しいんだけどな……っ!」
死ねない。勝利のための手段を考えろ。
痛みを紛らわすために大きく深呼吸をすると、鼻に無数のアルコールの匂いが入り込んできた。傷にぶっかけたところで消毒にもなりはしないが、これはこれで使い道がある。
痛みを紛らわすために大きく深呼吸をすると、鼻に無数のアルコールの匂いが入り込んできた。傷にぶっかけたところで消毒にもなりはしないが、これはこれで使い道がある。
(さっさと決めないと……死ぬな。イチかバチかだ)
大きく息を吐き出し、覚悟を決める。
「──しゃあっ」
叫ぶと同時、大量の酒瓶が宙に舞った。
それらは一本たりともマルコに届くことはなく、すべてが撃ち落とされていく。次々にアルコールが飛散し、匂いを感じられるほどに充満していく。
そこへ再び線路が伸びた。通過を知らせる警報音が鳴り響く。
それらは一本たりともマルコに届くことはなく、すべてが撃ち落とされていく。次々にアルコールが飛散し、匂いを感じられるほどに充満していく。
そこへ再び線路が伸びた。通過を知らせる警報音が鳴り響く。
「自棄 でも起こしたかな!」
「いいや──焼けちまえ!」
「いいや──焼けちまえ!」
電車は線路を駆け抜けることなく、急ブレーキをかけて制動した。
「! そういうことか……!」
天井が元に戻っていた。つまり、一歌は領域の干渉規模を絞っている。マルコはすぐにその場を離れた。迎撃のために上方を見上げていなければ気付けていなかっただろう。
直後、レールと車輪が急ブレーキで擦れて生じた火花が、床にまき散らされた度数の高い酒に引火し、領域内を炎と煙が満たした。
直後、レールと車輪が急ブレーキで擦れて生じた火花が、床にまき散らされた度数の高い酒に引火し、領域内を炎と煙が満たした。
(領域を絞ったのはこのため……炎と煙で視界を遮るためか。やるね)
そしてまたしても線路が四方八方に伸びる。重傷を負った一歌は何としても致命攻撃を命中させて勝負を決めに来る、その確信があった。
「いいさ! 決めようぜバンビーナ!!」
マルコも自分が一番信頼する「ヴィットーリア」を確 と握り締めた。次こそ必ず眉間を撃ち抜き、勝負を決める覚悟を込めて。
撃鉄を起こし、引き金に指をかける。踏切の警告音は鳴りやまない。互いに、致命攻撃の準備はできている。あとは、どちらが命中させるか──。
撃鉄を起こし、引き金に指をかける。踏切の警告音は鳴りやまない。互いに、致命攻撃の準備はできている。あとは、どちらが命中させるか──。
「っ、だらぁっ!!」
「!」
「!」
音のした方に視線と銃を向ける。煙の中から現れたのは半ばから叩き折られた遮断桿、その鋸刃 のような断面だ。避け損なえば体を貫かれる即席の槍を前にし、マルコはどこまでも冷静だった。
「マンマミーア……ッ!」
先端が直撃する瞬間、ヴィットーリアに滑らせて僅かに軌道を上に曲げ、さらにとっさに後ろへ反らした上半身、そのスレスレを遮断桿が飛んでいく。
体勢が不安定になったところへ本命の一歌が迫る。折った遮断桿の片方で床を薙ぎ払い、マルコの脚を刈りに行く。
体勢が不安定になったところへ本命の一歌が迫る。折った遮断桿の片方で床を薙ぎ払い、マルコの脚を刈りに行く。
「オラァっ!!」
「く……っ!!」
「く……っ!!」
マルコは跳ぶしかなかった。
空中でバランスを崩すマルコを前に、一歌は遮断桿を投げ捨て、右の拳を深く腰だめに構えた。自分の腕を線路と踏切とし、パンチと同時に電車を相手に叩きこむ、初めての戦いで行った必殺の一撃を放つために。
空中でバランスを崩すマルコを前に、一歌は遮断桿を投げ捨て、右の拳を深く腰だめに構えた。自分の腕を線路と踏切とし、パンチと同時に電車を相手に叩きこむ、初めての戦いで行った必殺の一撃を放つために。
「ゴー・トゥー・ヘール!!」
「ぶっ殺す」という心の叫びと共に繰り出される右パンチ。しかし甘んじてそれを受けるほど、マルコは甘い男ではない。
「インクレディービル !!」
各部の動きがグチャグチャな中、右腕を必死に動かし銃口を合わせる。狙いは一歌の右腕。
互いの致命攻撃が、再び激突する。
互いの致命攻撃が、再び激突する。
「悪いね……!!」
その激突を制したのは、互いの消耗度の差だけだった。
より強く領域を支配していたマルコの弾丸が、一歌の拳を砕き、そのまま右腕までもを完全に粉砕した。
より強く領域を支配していたマルコの弾丸が、一歌の拳を砕き、そのまま右腕までもを完全に粉砕した。
「がああああああああああああっっっっ!!!!!!!!」
それでも彼女は膝をつかない。意地、意地、意地。どこまでもそれ一つで彼女は立つ。鉄条一歌の精神を折ることは、例え「死」であったとしても、何者にも不可能である。
「終わりだよ、バンビーナ──最後に楽しめたかい?」
眉間に、冷たい銃口が突き付けられた。後はこれを引くだけで勝負が決する。
「やる気ならさっさとやれよ、ナンパ野郎……! あたしは、今でもっ、お前を殺したくて、仕方ねえ!!」
虚勢などではない。一歌は本当に、残された左腕で先程と全く同じ攻撃を、間髪入れずに叩き込もうとした。
「…………」
その攻撃は腕を押さえられて簡単に止まった。それでも一歌の目に宿る光は消えない。
腕が無くなれば蹴り殺す。足が捥がれれば嚙み殺す。口も無くなれば呪い殺す──相手を殺すことにとことんまでに強欲な、その姿勢。
腕が無くなれば蹴り殺す。足が捥がれれば嚙み殺す。口も無くなれば呪い殺す──相手を殺すことにとことんまでに強欲な、その姿勢。
「フェノーメノ !!」
そう叫んだマルコは──己の領域を消し去った。
「あ……?」
「戦う前に話したこと、覚えてるかい? ここから出る二つの方法」
「殺すか、恋人になるかだろ……お断りだクソ野郎……クソッ、ぶっ殺して──」
「三つ目を、追加しよう」
「は……何だよ、それ……」
「戦う前に話したこと、覚えてるかい? ここから出る二つの方法」
「殺すか、恋人になるかだろ……お断りだクソ野郎……クソッ、ぶっ殺して──」
「三つ目を、追加しよう」
「は……何だよ、それ……」
マルコは「ヴィットリーア」を手放し、ボロボロの一歌の両肩を抱いた。そして、まるで新しい公式でも発見した学者のような大声で、叫んだ。
「──俺が、君を救うんだ!」
一歌の領域が消滅していく。これで両者の領域がなくなり、戦闘状態は解除された。戦闘が終わり領域外に出れば全ての負傷は元通りになる。ボロボロの一歌も、一切の傷がない元の姿に戻っていた。
「……マジかよお前。殺る気だったんじゃねえのかよ」
「ああ。だが、気が変わった。改めて、俺の心の叫びを聞いてくれるかい、バンビーナ」
「うるせえよもう……好きにしろ……」
「ああ。だが、気が変わった。改めて、俺の心の叫びを聞いてくれるかい、バンビーナ」
「うるせえよもう……好きにしろ……」
心底疲れた様子の一歌。そんな彼女の手を取り、マルコは今日一番大きな声で叫んだ。
「死に屈しない強い心! 決して勝利を諦めない貪欲さ! フオリクラッセ !! 素晴らしいよ! 俺は君に惚れたんだ、イチーカ! どうか俺の心を受け止めてほしい!!」
「…………マジで言ってんのか、お前? 告ってんの?」
「もちろん本気だ!! 俺は愛に嘘をつかない!!」
「…………お断りだよ」
「アァオゥッッッ!!!!」
「…………マジで言ってんのか、お前? 告ってんの?」
「もちろん本気だ!! 俺は愛に嘘をつかない!!」
「…………お断りだよ」
「アァオゥッッッ!!!!」
銃弾に撃たれたようにマルコが震えた。
「だいたいなんだその『イチーカ』ってなぁよぉ。あたしは『一歌』! 妙な呼び方すんじゃねえ!」
「ノン・ノン。それじゃ響きが美しくない。『イチーカ』。うん、素晴らしい」
「殺すぞ!?」
「ノン・ノン。それじゃ響きが美しくない。『イチーカ』。うん、素晴らしい」
「殺すぞ!?」
一歌はもう、本当の本当に、心底疲れ切っていた。マルコのテンポに付き合わされると、延々と体力・精神力を削り取られていく。それでいて殺し切れないほど強い。ある意味最悪の出会いだった。
そんな彼女の様子を汲んで、マルコは手を離し、一歩退いた。
そんな彼女の様子を汲んで、マルコは手を離し、一歩退いた。
「……分かったよ、ミ・アモーレ 。君の気持ちは君の物だ。尊重しなければ」
聞き分けの良いことを言い出したマルコの態度に、一歌は安堵のため息を吐いた。
「その代わり、これを受け取ってほしい」
「うわ……薔薇だぁ……」
「うわ……薔薇だぁ……」
彼の手にはどこからか取り出された、一輪の真っ赤な薔薇があった。それを目の当たりにした瞬間、嫌な予感が背筋に走る。しかしもう抵抗するのも面倒になっていた。
「分かったよ……持ってくから消えろ……」
「ああ、消えるとも。だがイチーカ、それはいつでも俺の心が君と共にある証拠だ。何か辛いことがあれば、それに呼びかけてくれ。俺がいつでも君の味方になろう」
「呪物じゃねえかよォ……」
「ああ、消えるとも。だがイチーカ、それはいつでも俺の心が君と共にある証拠だ。何か辛いことがあれば、それに呼びかけてくれ。俺がいつでも君の味方になろう」
「呪物じゃねえかよォ……」
要は藍島から貰った呼び出しの鈴と同じ代物なのだろう。しかしなぜこんなものを持つ死者と二人も出会ってしまったのだろうか。変人に目をつけられたことは、ある意味死ぬ以上の不幸と言えるかもしれない。疲れ切った頭の片隅でぼんやりとそんなことを考える。
「アリーヴェデルチ、イチーカ!」
「消えろよォ……二度と会いたくねえよ……」
「消えろよォ……二度と会いたくねえよ……」
変人の背中を見送って、一歌は深いため息を吐いた。
ストレス発散に、ジェラートが食べたい。
ストレス発散に、ジェラートが食べたい。