sample/カク
やがて考えがまとまったのか、マイケルは一つ頷き、サイドテーブルにカップを置いた。トパーズの瞳が気真面目な、しかしどこか浮かされた色をしてニールを見る。
「ニール」
「なん」
何だ、と続けようとした言葉は、相手に飲み込まれた。不意打ちで口付けられて、ニールは思わず目を瞠った。恋人同士が、ふとした瞬間にキスを交わすのは、何もおかしいことではない。だが、さして色気のある会話をしていた訳でもない中で、このキスは随分と唐突だ。
驚きはしたところで、無論、恋人からのキスが嬉しくないはずもない。ニールは口を開くと、忍びこんできた舌を自分のそれで絡め取った。飲んだばかりのココアが残っているのか、マイケルの舌は甘い。それを堪能するように啜り上げれば、マイケルが小さく声を漏らした。
水音を立てて唇が離れる。ほんのりと胸の内に沸く照れを隠すように、ニールは小さく笑った。
「ココアの味がするな」
「そりゃ、たった今飲んだんだから、当然だろ」
「まあな。……どうした、急にムラムラきちまったか?」
触れ合うほどではないが、未だマイケルの顔は近い。からかうように囁きかけると、その顔はあちこちに朱を散らして眦を吊り上げた。
「っ、ニールの所為だろ」
不貞腐れたように顔を伏せ、ニールの胸を拳で叩いてくる。重くはないが軽くもないそれに少し息を詰まらせながら、ニールはマイケルの顔を覗き込んだ。噴き出さないように気をつけてはいるが、口元がにやけてしまうのは不可抗力だ。
「何だよ、オレサマがあまりに良い男だから参っちまったのか?」
「違うっ! だから……」
上気した頬が、ますます赤みを増した。再度加えられた胸への一撃は、苛立ちにか照れ隠しにか、少し重さを増している。すると、ふとその拳が解け、ニールの服を掴んだ。
「……ニール、風邪ひいた時にしかココアを飲まないんだろ。だから、うつせば飲めるんじゃないか、って……」
言葉が進むにつれて語尾が弱くなり、顔がどんどん俯いていく。反比例するように手には力がこもり、掴まれた個所は皺だらけだ。零れる髪の隙間から覗く耳朶の見事な赤さに、ニールはとうとう堪え切れずに噴き出した。
最終更新:2011年10月06日 15:42