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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第06話

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匿名ユーザー

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「なるほど、つまりお二人は斗貴子氏やカズキと同業という訳だ」
「ああ、まあそんな感じだ。詳しく説明するとややっこしくなるからそういう事にしといてくれ」
「聞く気もないけどね。カズキが何も言わないんなら聞く必要もその意味もない事だろうから」
 顔を緑色に変色させて昏倒している岡倉を脇においたまま、六枡は軽く紹介を受けた蓮司と灯を見やりつつ呟いた。

 ――アンゼロットの説明によれば、ウィザードの技術と戦団の技術の最大の違いは『世界に対する許容度』であるらしい。
 『神秘』として常識から秘匿されたウィザードの技術とその存在は『知られてはならないモノ』だが、『学問』として常識との
融合を目指した戦団の技術と存在は単に『知られていないだけのモノ』なのである。
 故に、戦団の生み出した錬金術の技術は一般に知られてもある程度のレベルまでは世界に許容され、常識として認識される。
 先年にこの銀成市で起こった神隠し事件や銀成学園の集団幻覚事件、最近で言えば巷を騒がせている蝶々仮面の怪人などが良い例だ。
 もっとも、その”ある程度のレベル”の境界が具体的に判明していない以上、無闇に明かしてしまうべきモノではないのも確かだったし、
ウィザードである蓮司達の素性を詳細に明らかにする事はより忌避すべき事だった。

「えっと、それじゃあ柊くんや緋室さんが転校してきたのは、最近また起こってる行方不明の?」
「……ああ、そういう事になる」
「……去年学校に出た奴みたいなのがいるって事なんだね」
「大丈夫だ。オレ達がなんとかするから、絶対」
 巨躯を縮込ませた大浜を鼓舞するようにカズキは断言する。
 ゆるぎない彼の瞳を見ていくらか安堵したのか、大浜は小さく息を吐き出した。
「そうだよね、去年だってカズキくんと斗貴子さんが守ってくれたし」
「オレ達が学校を守れたのは皆のおかげだよ。学校の皆がオレ達を助けてくれたから」
「学校の皆、か。ちょっと不謹慎だけど、幸い今の所学生に被害はないみたいだしな」
「―――」
 六枡の言葉にカズキは咄嗟に声を返すことができなかった。
 エミュレイターと融合したホムンクルスにプラーナを喰われた人間は最悪存在を抹消されると言う。
 そういう風にしていなくなった人間達は、面識があるなりといった何らかの縁がない限り蓮司達ウィザードであってもその存在を
認識する事はできなくなるらしい。
 確かに、今の所学生に行方不明者は出ていない。
 だが、本当は誰にも認識されていないだけで学校から文字通り”消えて”しまった人間もいるのではないか――
「カズキ」
 ふと肩に置かれた手の感触でカズキは現実に引き戻された。
 目をやればそこには蓮司がいて、こちらを見つめている灯がいる。
 そして脇には、これまで一緒に戦ってきた斗貴子がいた。
 小さく頷く彼女に向かって、応えるようにカズキは頷き返す。
「……うん。そのために、皆がいるんだもんな」
 失われてしまったものを取り戻すことはできないけれど、これから失われるかもしれないものを守る事はできるだろう。
 例えば今目の前にいる人達。例えば今生きているこの街。
 例えば今ここにいる世界を。


「……やっぱりここを貸し切ってたな」
 そんな時校舎へと続く鉄扉が開かれて、一人の少年が姿を現した。
「剛太……貸し切ってたって?」
 軽く辺りを見回している少年――中村 剛太に釣られるようにしてカズキは回りに視線をやった。
 今更ながらに気付いたが、この屋上は結構な広さがあるにも関わらず他の生徒の姿は見当たらない。
 多少風当たりは強いが、街を一望できるこの屋上は昼休みを過ごすには格好の場所のはずだ。
 カズキが小さく首を傾げてると、剛太は小さく苦笑を漏らしてから肩を竦めて見せた。
「お前等がいるとうるさくって昼飯もおちおち食べられないんだってさ」
「遅かったな、剛太。何かあったのか?」
「すみません。ちょっと校内を案内してたもんで」
「案内?」
「はい。流石に一つのクラスに三人も転入させる訳にはいかなかったみたいで」
 言って彼は振り返る。促されるように屋上に姿を現したのは、膝ほどまである黒髪を絵元結で束ねた少女だった。
「やほー、ひーらぎ。きちゃった!」
「な……く、くれはァ!?」
 蓮司が顎を落として素っ頓狂な声を上げる。
 彼の声を心地良さそうに耳に入れて少女――赤羽 くれははにっこりと微笑むと、剛太と共に六人の許に歩み寄った。
「人員補充なんだって。何でも構成が前のめり過ぎるとかなんとか……あ」
 言ってしまってからくれはははっとして周りにいるカズキ達を――正確には一緒にいた大浜と六枡(あとついでに転がっている岡倉)を見た。
 剛太からカズキと斗貴子に関しては聞いているのだろうが、他の三人については聞いていないらしい。
「大丈夫だ、ここにいる奴は一応知ってるから」
「はわ、そっか。よかったー」
 安堵して胸を撫で下ろす彼女を上から下まで眺めつつ、蓮司は眉を寄せてからくれはに問いかけた。
「つーかくれは……お前、その格好……?」
 彼女はいつも着ている巫女服ではなく、銀成学園高校の制服を身に纏っていたのだ。
 蓮司に指摘されてくれはは「はわ」と声を漏らすと、照れ臭そうに頬をかいて苦笑した。
「アンゼロットが調達してくれたんだよ。流石に巫女服でこの学校に通う訳にはいかないからねー」
「確かに……でも、」
「巫女服で学校に通う、だとォ……!?」
 口を開きかけた蓮司を遮るようにして、地の底から響くような声が沸きあがった。
 それまで昏倒していた岡倉が何時の間にか目を覚まし、ゆらりと立ち上がった。
「そんなパラダイスが東京にはあるのか!?」
「……輝明学園には巫女クラブがあって、そこの部員は巫女服での登校が許されてる」
 さらりと説明する灯。
 それを聞いた岡倉はぶるぶると身体を震わせて、爆発するように叫んだ。
「もう転校するしかない!」
「大浜も大喜びだな!」
「なんでボクに振るのォ!?」
 岡倉に続くように叫んだカズキに、大浜が悲痛な声を上げる。
「大浜 真史……キミは……」
「ああ!? 斗貴子さん引かないでよ!?」
 僅かに距離を取る斗貴子に縋るようにして大浜は呻く。
 そんな周囲の喧騒を気にする風でもなくくれはは窺うような目線を蓮司に向けた。
「どう? 似合ってる?」
「うっ……」
 制服姿を見せびらかすようにしてくれはは蓮司の前で軽く回ってみせる。
 長く伸びた艶やかな黒髪と腰についたリボンを揺らす彼女の姿に、蓮司は動揺してしまっていた。
 正直な所を言ってしまえば、輝明学園のものとは違った方向に趣味が入りまくっている銀成学園の制服は、くれはには
あまり似合ってないような気がした。
 というのも、彼女は生家が神社であるので子供の頃からの付き合いであっても巫女服以外の彼女をほとんど見た事がないからだ。
 こうして普通の少女と同じような制服を着ている彼女は、蓮司が知る彼女とは全く別人のような気がするのだ。
 だからだろう、
「あー………まあ、似合ってる……んじゃないか?」
 彼女の屈託のない表情に妙に照れ臭くなり、蓮司は目線を反らしてぼそりと呟いた。
「はわ………えへへ、そっか」
 一瞬だけ驚いたような顔を浮かべると、彼女は僅かに頬を染めて嬉しそうに笑った。
 その表情を横目で見やって、蓮司は顔が熱くなるのを感じる。
 まずい。これはまずい。
 何かよくわからないが、非常にまずい。
 きっとアレだろう、吊り橋効果とかそういった類のものなのだろう。
 そうに違いない。
 必死に言い聞かせて、蓮司は平常を装うべく強引に笑って見せた。
「まあ、アレだ。馬子にも衣装って奴だな、あっははははははぶぅっ!?」
 いつも通りの自分を取り戻した蓮司は、叩き込まれた鉄拳できりもみしながら吹き飛んだ。
 ボロ雑巾のように床を転がっていく蓮司に目もくれずくれははカズキ達を振り返りる。
「そういえば自己紹介まだだよね? 赤羽 くれはです、よろしくね」
「あ、ああ……」
 何事もなかったかのように愛想のいい笑みを浮かべ回りの人と紹介しあうくれはに、斗貴子は多少動揺しつつもどうにか返し、
「……どうした、カズキ?」
 ふと自分を見つめるカズキの視線に気付いた。
 彼は何事かを考えるように顎に手を当てて、神妙な顔で斗貴子をじっと見やっている。
「……どうしたんだ? あまりじろじろ見るな、失礼だぞ」
 まじまじと見入ってくる視線に気恥ずかしさを憶えたのか、斗貴子は僅かに身を引いてから少し険の入った声を上げる。
「……斗貴子さんってさ」
「なんだ?」
「――巫女服似合いそうだよね」
「っ!?」
 ざわっ、と男性陣(蓮司を除く)の空気が変わる。
 彼等の視線が一斉に斗貴子に集まり、彼女は自分の身体を隠すように身を抱いた。
「な、なっ……何を馬鹿な!!」
「いやだって黒髪だし、キリッとしてるから……」
「斗貴子さんに清楚な巫女服! 色々やばいだろそれは!」
「黙れエロス! 神職を侮辱するな!」
 顔を赤くして、後ずさりつつ吼える斗貴子に、くれはが首を傾げて彼女を覗き込む。
「ん、何? 斗貴子さん巫女服着たいの?」
「誰がそんな事を言った!?」
「でもホント似合うと思うんだけどなあ、巫女服」
「くどいっ!」
 気恥ずかしさが過ぎて怒気に転じたのか、斗貴子はだんと床を踏んでこの空気の下手人であるカズキに一歩詰め寄った。
 そして口を開きかけたその時、
「あー、いたいた! お兄ちゃん!」
 明るい声が響いてカズキの妹――武藤 まひろが若宮 千里と河井 沙織を伴って現われた。
「お、まひろ。丁度いい所に」
「なんてタイミングで……!」
 愕然として斗貴子は呻く。
 この状況下で彼女が現われてしまえば、
「二年生に転校生が三人も来たって……どうしたの?」
「ああ、実は今斗貴子さんに巫女服が似合うよなって話を――」
「ええっ! 斗貴子さん巫女服着るの!?」
 こうなってしまうのは確実なのだ。
「いや、着るとかそういう話では――ひぁっ!?」
「見たい見たい! 斗貴子さん綺麗だから絶対似合うよ!」
 まひろはカズキを撥ね退けて斗貴子に抱きつく。
 裏返った悲鳴を上げる彼女を他所にまひろは満面の笑みを浮かべて斗貴子に縋りついた。
「で、いつ着るの? 寄宿舎帰って? もしかして今ここで?」
「き、着ないと言ってるだろう! というかそんなモノは……」
「着たいならあるよ? 巫女服」
 脇で見ていたくれはがさらりと言った。
 同時に斗貴子の顔が驚愕に凍りつき、まひろの顔が歓喜に輝く。
「ほんとに!? あ、その前に初めましてさん? 今日来た転校生の人?」
「うん、赤羽 くれはだよ。よろしくね」
「よろしく、くれはちゃん! くーちゃんって呼んでいい?」
「くーちゃん? はわー……まあ、別にいっか」
 一瞬にして愛称まで作り上げたまひろがくれはの両の手を掴んで大きく振る。
 少しだけ苦笑を浮かべながらもくれはは彼女の行為に身を任せている。
 和気藹々と言った雰囲気だったが、斗貴子は先程のくれはの言葉に気が気ではなかった。
 とはいえ下手に口を出してしまえばまた話題をぶり返してしまう。
 このまままひろが別の話題に移ってしまう事を祈ったが、
「……で、巫女服は?」
 先程から沈黙を保っていた灯がぼそりと呟いてしまった。
「緋室 灯っ! お前、初見の時といい先日の一件といい私に何か含むところでもあるのかっ!?」
「別にない。学友として話題の提供を」
「そんな話題は提供しなくていい!!」
「そう、巫女服!」
 斗貴子の抵抗を打ち砕くようにまひろが手を叩く。
 そしてまひろが期待に満ちた目線をくれはに向けると、彼女はふっふっふ、と得意げに笑って床に置いてあった
灯のバッグを手繰り寄せた。
「はいー、ここに取り出しますは何の変哲もないあかりんのバッグ~」
 バッグに視線が集まるのを確認した後、くれははおもむろにバッグの中に手を差し入れてごそごそと動かし始める。
「のーまくさんまんだーぼだなんー」
「……何故神道の巫女が密教の真言を?」
「というかなんでそーいうのがわかるんだよ、六枡……」
 しばらくの間くれははバッグの中を適当に探り――実の所月衣から出すのでそんな必要は全くないのだが――やがて彼女は
バッグから巫女服をずるりと引きずり出した。
「はい、この通り!」
『おおーっ!!』
 歓声と拍手が沸きあがる。
 得意気な表情になってそれらに応えるくれはを、斗貴子はぽかんとして見ていることしかできなかった。
「じゃあこれ。ホントは襦袢を下に着るんだけど、まあ別に正式にどうって訳じゃないし」
「……? ……!」
 くれはから白衣と緋袴を手渡されて斗貴子はようやく我に返る。
 興味深々で視線を向ける一同から後ずさり、
「な、なんで着ることになってるんだ!?」
「え、着るんじゃないの?」
「着ないと何度も言ってるだろう!」
「一人で恥ずかしいなら私達も着るから!」
「巫女さんの服かー、一回ぐらいは着てみたいよね、ちーちん」
「私は昔一度手伝いで着たことあるけど」
「あ、ちーちんは作務衣着てるもんね」
「いや、作務衣は関係ないから、まひろ……」
「着替えならまだあるよ?」
「しかし赤羽さん。斗貴子氏が着るならかもじが要るんじゃないだろうか?」
「はわ、私は地毛がこれだから流石にそれはもってきてないなあ」
「かもじ?」
「付け毛の事。古来から女性の髪には霊力が宿ってるとされていて、地毛の短い巫女はかもじをつけて代替にするんだ」
「へぇー」
「はわー、六枡君物知りだねえ。でもまあ正装する訳じゃないから要らないと思うよ?」
「物知りで済むレベルじゃねーよコイツ……」
 何時の間にか一同に混じって会話をしているくれはを見ながら、斗貴子はそろそろと校舎に向かって歩き出す。
 頃合を見計らって逃走しようと脚を踏み出した瞬間、
「……確保」
「くっ!? またお前か、緋室 灯ぃ!」
「あっ、斗貴子さん逃げちゃやー!」
 灯に拘束された斗貴子がもがく間もなくまひろ達に殺到される。
 まひろに抱きつかれながら斗貴子は縋るような、そして責めるような表情で呆然としている蓮司をにらみ付けた。
「蓮司っ! こいつらをどうにかしろっ!」
「え!? お、俺っ!?」
「そうだ! 緋室 灯といい赤羽 くれはといい、お前の連れだろう! 責任をとれっ!」
 よほど切羽詰っているのか、普段ならまず言わないような支離滅裂な論法で斗貴子は叫んだ。
 唐突に矛先を向けられ立ち竦んでいる蓮司に、女性陣の視線が一斉に集まる。
「なに、ひーらぎ? 文句あるの?」
「う、くっ……」
 何時の間にか混ざっているくれはが半目で蓮司を睨み付けた。
 言葉には出していないが、その視線は言外で間違いなく脅しをかけている。
 彼は少しだけ斗貴子とくれはを交互に見やった後、二人から目を反らした。
「すまん俺には無理だッ!」
「この軟弱者ぉ!!」
 灯とまひろに捕まえられて、ぶつけるにぶつけられない怒りを込め斗貴子は地面を蹴りながら叫んだ。



 ※ ※ ※



 斗貴子にとっては無限とも思えた昼休みを終えて、一行は屋上から各々の教室に戻るべく廊下を歩いていた。
 午後の授業を免罪符にしてその場で着替える事はどうにか回避した斗貴子だったが、結局まひろ達の押しに負けて
寄宿舎に帰ってから巫女服に着替えることを約束させられてしまった。
 がっくりと肩を落として歩く斗貴子を中心にして談笑する女性陣の後に続いて男性陣が歩を進める中、剛太がふと蓮司に話しかけた。
「そういえば、柊」
「なんだ?」
「まひろちゃん達が来てから、お前ずっとあの子達見てなかった?」
「うっ……!? い、いやそんな事は」
「そういえば見てたね。斗貴子氏にふられるまでずっと凝視してた」
「お前あいつ等の話題に混ざってたんじゃねえのかよ!?」
 思わず声を荒らげる蓮司に六枡は委細構わぬ様子で目を反らす。
 一方で岡倉はカズキの肩に手をかけてまくし立てた。
「おい兄貴、妹が色目使われてたらしいぞ、何か言ってやれ!」
「え? うーん……」
 カズキは一度蓮司を見やった後、前を歩くまひろに目をやって一つ頷いた。
「まひろも子供じゃないんだから、別にいいんじゃないか?」
「わあ、カズキくん大人の反応だ……」
「くっ、これが彼女持ちの余裕と言う奴か……っ」 
「――ただし!」
 カズキはカッと目を見開き、胸に手を当てて叫んだ。
「オレの事は義兄さんと呼んでもらおう!!」
「呼ばねえよ!?」
「じゃあじゃあ、斗貴子さんの事はお義姉ちゃんって呼ばないとだよ!」
「呼ばなくていい!!」
 何時の間にか近くに来ていたまひろが声を上げ、斗貴子が叫ぶ。
 十人近い男女が廊下を占拠しながら歩く中、蓮司はカズキに近寄って耳打ちした。
「なあ、カズキ」
「ん?」
「あのさ……俺達が初めて会った時の事、憶えてるか?」
「? 憶えてるけど……あの時はゴメンな、邪魔しちゃって」
「いや、それはいいんだけどよ……あの時俺が追ってたエミュレイターの事も憶えてるか?」
 話題が話題だけに、二人は少しだけ歩を緩めて集団から距離を取った。
 カズキは追想するように首を捻ったが、
「うーん……女の人だったよな? あれ、女の子? 髪が肩ぐらいまであったような気がするんだけど……悪い、そっちはよく憶えてない」
「……。そっか、ならいい」
 言って蓮司は足を止めた。振り返ってこちらを見るカズキに彼は照れ臭そうに頬を掻く。
「わり、ちょっとトイレ。先に行っててくれ」
「……ああ、わかった。教室わかるよな?」
 おう、と軽く手を上げて応えると、カズキが見送る中蓮司は踵を返した。


 授業開始のチャイムが鳴り響く中、蓮司は一人校舎裏に佇んでいた。
 壁に背を預け、彼は0-phonを耳に充てたまま動かない。
 やがて耳元で、涼やかな少女の声が響いた。
『どうかなさいましたか、柊さん』
「ちょっと話があってな」
『話? せっかく授業に出られるのですから――』
「――”そんな事”はどうでもいい」
 蓮司の声に茶化す場ではないと感じ取ったのだろう、少女――アンゼロットは世界の守護者としての態度で応えた。
『話とは、なんでしょう?』
「……お前、もしかしてわかってて俺をここに転入させたのか?」
 婉曲的に言う気分ではなかったので、単刀直入に切り出した。
 そしてそれを聞いたアンゼロットの方も、少しの沈黙の後端的に言った。
『はい。事前の調査と先日の接触で概ね情報は得ましたので』
「……っ」
 ほんの僅かな期待を打ち砕かれて蓮司は唇を噛み手にしていた0-phonを握り締める。
「……カズキもあの子の友達も誰も気付いてない。変わった様子も、なかった」
『アレ等は”そういうモノ”だというのは、知ってるはずでしょう。
 見ず知らずの他人だろうと、よく知る隣人だろうと、こちらとあちらは薄氷の境しかないのですよ』

 実際にソレを見ているはずのカズキが気付かないのも無理のない事ではあった。
 例えば、普段とは違う服を着てみたり。
 例えば、普段結っている髪を下ろしてみたり。
 それが男であったならまだしも、女であればそれだけの変化で驚くほど簡単にその印象は変わってしまうものだ。

「……あの子も、融合型のホムンクルスとやらにされてるのか?」
『いえ、彼女は通常の規格通り憑かれているだけ……つまり真正のエミュレイターのようです』
 アンゼロットの説明を聞きながら、蓮司は瞑目して情報を整理する。
 頭の中で予想を吟味した後、彼は確認するように0-phonの向こうにいる彼女に問いかける。
「……偶然じゃあねえよな」
『でしょうね。錬金の戦士がいるとはいえ、寄宿舎の中にあって学校にこれといった被害やその残滓が残っていない以上、
 何らかの意図が介在しているはずです』
「……魔王か」
『ほぼ間違いなく』
 そもそも人間と接触して段取りを組むというやり方自体、単にプラーナを求めている下位のエミュレイターとは一線を画している。
 普段馬鹿だの頭が悪いだの揶揄されている蓮司であるが、彼は多くの修羅場を経験してきた歴戦のウィザードなのだ。
『斗貴子さんやブラボーさんといった方達ならともかく、侵食の度合いによってはカズキさんに相手をさせるのは酷でしょう。
 しかるべき処置をお願いします』
 これといった感情を乗せる事なく事務的に語るアンゼロットに、蓮司は僅かに眉をひそめた。
 世界の守護者として大局的な視点を持たねばならない彼女の立場は彼もわかっている。
 だが蓮司としては、こんな風に冷然とした態度の彼女は、普段愉しそうに自分を弄っている時の彼女以上に気に入らない。
「……わかった。だが、俺は俺のやり方でいかせてもらう。文句は言わせねえぞ」
『……。ええ、勿論。そこの所も含めて、貴方をそちらにやったのですから』
 一瞬沈黙したアンゼロットは、どこか嬉しそうに彼に答えた。
『では柊さん。彼女を――河井 沙織さんをよろしくお願いしますね』
 通話を終えて蓮司は0-phonを手にした腕をだらりと下ろす。
 しばし何処ともなく虚空を見つめた後、唇を噛んで拳を壁に叩きつけた。
「………くそったれ」



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