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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第07話

最終更新:

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 日が沈み月が昇る。
 陽光は世界から姿を消し、夜闇が世界を覆う。
 色彩と音響を切り取った影絵のような街並みを、給水塔の上から少女はじっと見つめていた。
 少女の持つ紅の瞳は、無貌の世界を鏡面のように映し出しその表情を窺うことはできない。
「……そこは私の特等席なんだがな」
 無音の世界に沁み込むように響いた声に、緋室 灯は街から視線を落としてそちらを見やる。
 同じ銀成学園高校の屋上、フェンスに身を預けて津村 斗貴子は灯と同じように街を見つめていた。
「……」
 少しの間灯は斗貴子を見つめ、やがて軽く地を蹴って給水塔から飛び降りる。
 一切の音を立てず羽のように静かに屋上に降り立って、彼女は斗貴子の隣に歩み寄った。
 そして斗貴子と同じ目線で再び街に目をやり、特に感情を込めない様子で静かに口を開く。
「……乗らないの?」
「……。いや、いい」
 別にそこに乗りたくて言った訳ではない。なんとなく声をかけてみただけだ。
 だから斗貴子には、それ以上灯に提供する話題がなかった。
 再び降り始めた沈黙を破ったのは、灯の方だった。
「服、着替えたの?」
「っ……それは言うな」
 僅かに眉間に皺を寄せ、斗貴子は呻く。
 斗貴子は現在ニュートンアップル学園の制服を纏っている。
 当たり前だが学校の時間はとうに過ぎ、寄宿舎での服装は(比較的)自由ではあるのだが、
”こういう時”にはこの制服でいるのが一番都合がいいのだ。
 もっとも、今灯が尋ね斗貴子が呻いたのはこの制服に関しての事ではない。
 その直前まで着ていた衣装――昼休みに何が何だかわからないまま約束させられてしまった巫女装束――の事だ。
 その時は休み時間の戯言だと思って……厳密には期待していたのだが、やはりというべきかそれはまひろ達に
よって履行する事になったのだ。
 約束してしまった手前もはや断るわけにも行かず、斗貴子は寄宿舎に戻った後まひろ達と共に巫女衣装を着ることになった。
 そこまではまだ許容できた。
 昨年の末に着るハメになったサンタクロースのコスチュームに比べれば巫女装束などかなり真っ当な部類に入るからだ。
 だが、見通しが甘かった。甘すぎた。
 先述の衣装の時には冬休みという事もあって他の生徒に見られることは殆どなかったが、現在は三学期の真っ最中。
 当然寄宿舎は生徒で溢れかえっている。
 そんな中を斗貴子はまひろ達に引きずり回され、夕食が終わるまでその格好で衆目に晒してしまったのだ。
 ひっきりなしに向けられる携帯のカメラを思い出して、斗貴子は大きく溜息をついた。



「本職のくれははともかく……あとまひろ達もともかくとして、何故キミは平気なんだ?」
「輝明学園ではあまり珍しくないし、服装が変わっても別に」
「……東京の学校は計り知れないな」
「……萌え?」
「萌えとかいうな」
 ボソリと呟く灯に、斗貴子は再び嘆息を漏らす。
 斗貴子には灯が何を考えているのかわからない。
 表情を全く見せないくせに珍妙な行動や台詞を吐き出すあたり全く理解不能だ。
「変わった奴だな、キミは」
「……そう?」
「一般常識からはかけ離れてると思うぞ」
「一般常識……そうかもしれない」
 やはり灯は表情を変えずに言う。
 いや――表情だけは全く変わらなかったが、
「――輝明学園に転入してから、余分な情報が増えすぎているから」
 その声だけは、ほんの僅かに感情を帯びていた。
「……情報?」
「そう、余分な情報。無意味な会話、不必要の接触、無益な行動。学園生活や日常生活。
 そういった諸々の、任務の遂行に不必要な知識と思考」
「―――」
 斗貴子は僅かに目を見開いて灯を振り向く。
 視線を合わせる事なくただ人形のように夜闇の街を見つめる少女を、斗貴子は言葉もなく凝視した。
 初めて彼女と逢った時の事を思い出す。
 紅い月を背負うようにして斗貴子を見下ろしていた灯。
 そんな彼女を見て、斗貴子はまるで鏡を見ているような錯覚を覚えたのだ。
「……『絶滅社』って知ってる?」
「あ、ああ。確か世界規模で展開している傭兵斡旋企業……だったか」
「私はそこで『製造』された。この世界を侵すエミュレイターを駆逐するための兵器――強化人間(キリングドール)として。
 ただそのためだけに生まれ、そのためだけに生きる。それが私に求められている唯一つの機能」

 ――この世界に潜むホムンクルスを駆逐するために。そのためだけに生きてきた。
 無意味な会話、不必要の接触、無益な行動。学園生活や日常生活。
 そういった諸々の、任務の遂行に不必要な思考を排除して。

「色々な場所を巡った。戦場に行った事もあるし、学生として潜入した事も多かった。
 それでも私は、そういうモノでいられた。それで構わなかった」

 様々な場所に赴き、ホムンクルスと戦ってきた。
 学生として潜入した事も一度ではない。
 だがそれでも、何も変わる事はなかった。
 自分は戦士として生きてきたし、それで構わなかった。

「でも、それが変わってしまった。任務として輝明学園に潜入して、そして――」

 それが、変わってしまった。任務としてこの街を訪れ、銀成学園に赴き、そして――


「『私』は、」
 ――『彼』と、出逢った。


 静寂が戻った夜闇に、冬風が通り抜けた。
 闇に溶けるような黒髪と、闇を焦がすような紅髪が静かに揺れる。
 風の行く先を見るように視線を反らした灯に釣られて、斗貴子もそちらを見やる。
 二人の少女の見つめる先にあるのは、静謐に沈んだ夜の街並。吸い込まれてしまいそうな夜空。置き去りにされたように白く浮かぶ月。
 ――少女が少年に出逢ったのも、こんな月の夜だった。
「……それで、いいんじゃないか?」
 視線を動かさないまま、斗貴子は囁くように呟いた。
 自分に向けられた視線を感じながら、彼女は言葉を継ぐ。
「多少……いや、かなりズレているとは思うが、そういったモノを得るのは良い事だと私は思う」
「でも私は――」
「兵器である前に、戦士である前に……私達は人間だ」
 灯の言葉を遮って言いながら、斗貴子は自分の発言に僅かに驚きを感じていた。
 一昔の自分であれば、絶対にそんな事は言わない。そんな事を考える事さえもしなかっただろう。
 それがこんな台詞を吐き出すようになってしまったのは間違いなく――彼のせいで、彼のおかげだ。
 知らず、斗貴子の唇は僅かに緩んでいた。
「私はここに来て、多くのかけがえのないモノを手に入れる事ができた。キミにとってその学園は、私にとってのこの場所なんだろうな」
 振り向いて斗貴子は灯を見つめる。
 ほんの少しだけ困惑の色を見せている灯の顔が、昔の自分と重なった。
「キミは多分、これからもっと変わっていくと思う。でもそれは決して悪い事ではない」
 そんな自分に語りかけるように、斗貴子は声を紡ぐ。
 灯はしばし沈黙し紅の視線を僅かに彷徨わせると、
「……。よくわからない」
「だろうな。私もよくわからなかった」
「貴方も?」
「ああ。だが安心していい、私でもわかったのだから……キミもきっとわかるようになる」
「……貴方がそういうなら」
「……その納得の仕方はちょっと失礼だぞ」
「そう?」
「そうだ」
 真顔で小さく首を傾げている灯を見つめながら、斗貴子は苦笑を閃かせた。
 灯はそんな彼女を紅の瞳でじっと凝視した後――彼女に応えるように、その顔に小さく微笑みを浮かべた。




 ※ ※ ※



 人通りがまばらになった夜の街を、蓮司はカズキや剛太と共に歩いていた。
 この街に潜むホムンクルスやエミュレイターを警戒して気を張っている――という訳ではない。
 四六時中気を張っていた所で労力の無駄遣いであるし、何より周囲から訝しげに一瞥されるだけだからだ。
 行方不明事件が蔓延しているとはいえ、街にはそれなりの人間が闊歩している。
 どんな異常だろうと、それが自身の身に降りかからない限りはやはり他人事でしかないのだ。
「しかし、こんな風にしててエミュレイターっていうのは見つかるもんなのか?」
 車道を挟んだ反対側の歩道を歩くカップルに何気なく目をやりながら剛太が声を漏らした。
「いや……実はあんまり意味がない」
「え、そうなの?」
「アモルファス……ヒトに取り憑く奴は普段は普通の人間と変わらないからな。本人でさえ自覚がない事も多い。
 強いて意味があるとすりゃあ、近くで月匣が展開された時に早く駆けつけられるぐらいだ。奴等は月匣の中でしか顕現できないから」
 もっともそれはアモルファスタイプのエミュレイターの場合で、自身の現身を持つシェイプドライフの場合はその限りではない。
 普段無知と蔑まれる蓮司とて、そのくらいの知識はあるのだ。
 それが十分に発揮できないのは、本人の意思とは別の何か抗い難い何かの力が作用しているに違いない。
 軽く頭を振って蓮司は剛太に向かって逆に問いかけた。
「ホムンクルスは違うのか?」
「ああ。こっちはホムンクルス自体を探すってより、奴等のアジトを見つけるんだ。
 街を捜索して奴等が拠点にしそうな所を絞り込む。後は虱潰しに……」
 蓮司に向かって解説しながら、剛太はカズキが興味深そうに自分をみやっているのに気付いた。
 彼は嘆息して軽く頭をかいてみせる。
「……そういや武藤はこの辺の事何にも知らないんだったな」
「うん。オレ、戦団とか何もしらなかったから。……そっか、だから斗貴子さんあの時も遅れたんだ」
 一人何かを納得したようにカズキがうんうんと頷く。
 それを半目で眺めやり、剛太は再び溜息をついた。
「……まあアジトとかその辺りは戦士長達が調査してるだろ。下っ端の俺達はこうして足で稼ぐしか……」
「蝶野なら何か知ってるかな」
「……蝶野?」
「パピヨン。蝶のマスクを被ってる奴」
「……あー、あいつか。何か最近噂されてる怪人とかいう」
「知ってるのか、蓮司?」
「見た事ならある。またナイトメアみたいな変なウィザードかと思ってたんだけどな」
「あいつみたいなウィザードがいるのかよ……」
「いる。色々といるんだよ、ウィザードにはな……」
 冬でありながら首筋に汗をたらしつつ呻く剛太に、蓮司はしみじみと頷いて見せた。
 特徴的な格好といえば夢使いが代表的だが、人狼族やら吸血鬼やらがいるウィザードの世界ではさして珍しくもない。
 外見的な事だけではなく内面的な事も含めれば、常軌を逸している者達など両手両足の指で数え切れないほどに蓮司は知っている。
「でも、アイツ最近全然姿を見ないぞ?」
「そうだな、去年の末ぐらいまではワリと見かけたんだけど……」
 カズキは虚空を見つめて首を捻り、何かを思いついたように二人を見た。
「あそこならいるかもしれない」
「あそこって、まさか」
「そう、あそこ」
 思い切り眉を顰める剛太に、気にする風でもなく応えるカズキ。
 この街の事を殆ど知らない蓮司としては、二人の反応を訝しげに見ていることしかできなかった。




「いらっしゃいませー」
 三人が店の中に足を踏み入れると、店員の明るい声が響き渡った。
 このファーストフード店――ロッテリやの第一人者とも言える店員の少女の姿は見えない。
 (本人は望んでいないだろうが)この店に最も馴染んでいる彼女とはいえ、一日中店に入っている事は難しいのだろう、
現在カウンターで接客をしているのは別の店員だった。
「やっぱりいないか……」
「安直過ぎるぞ、武藤……」
 店内を一望してからカズキは小さく呟き、その脇で剛太が肩を落として呻く。
 変人バーガーと揶揄されたり特異点とまで噂されるこの店であるが、そうそういつもそういった類が集まるわけではないようだ。
「どうすんだ?」
「店に入って何もしないで出るってのもアレじゃないか? せっかくだから何か食べていこう」
「カズキ……お前、夕食滅茶苦茶食ってなかったか?」
「そうか?」
 呆れた蓮司の声に軽く返し、カズキはカウンターに向かって歩き出す。
 そこまで空腹ではなかったが別に反対する理由もなかったので、二人はカズキに続いてハンバーガーセットを購入すると、二階席に向かって歩き出した。
「二階は喫煙席だけど、結構眺めがいいんだぞ」
「今は夜だからあんまり関係ないけどな」
「へえ……」
 気のないような台詞を返しながらも、内心では蓮司は心が躍っていた。
 何しろここ一年近くアンゼロットによって二十四時間世界中を飛びまわされて彼はこういった普通の学生がするような事をほとんど経験していない。
 ファーストフード店で食事をする――そんな何でもない事に蓮司は幸せを感じていた。
 階段を上りながら蓮司はドリンクに刺されたストローを口に咥えた。
 くれはが居れば行儀が悪いなどといわれそうだが、今は男同士だ。知った事ではない。
 そして三人は二階席に辿り着き、

「む?」
「お?」
「どりぃ~む?」

「ぶふぉっ!?」
 蓮司は口に含んだジュースを盛大に吐き出した。
「ぐふ、がはっ……な、なんでアンタ等がここにいるっ!?」
 咳き込みながら蓮司はテーブルを囲んでいた”三人”を食い入るように睨み付けた。
 眼帯にマント姿のまま席に座っているナイトメアが苦笑を漏らしつつ口を開いた。
「我々とて神仙ではない。栄養補給のために食事を摂るのは当たり前だろう?」
「う、い、いや、それはいい! だが一緒にいるソイツはなんだ!?」
 ハンバーガーセットの載ったトレイを片手で持ち直し、蓮司は震える手で三人目を指差す。
 ナイトメアの向かいに座り、前面を大きくはだけた漆黒のスーツを纏った蝶々仮面の男――パピヨンは、
手にしていたポテトを齧りながら蓮司を無視すると、意にも介さず隣にいるカズキに目をやった。



「なんだ武藤、お前も来たのか」
「久し振りだな、蝶野。最近見なかったけど、何処行ってたんだ?」
「何、くだんのパピヨンパークがようやく軌道に乗ったんでな。ちょっと日本を出ていた」
「え、それって去年言ってた? あれ本気だったのか?」
「当たり前だ。俺はいつでも蝶本気だからな」
「おい、何事もなかったかのようにスルーすんなよ!?」
 必死に叫ぶ蓮司にようやくパピヨンは視線を向けた。その存在に初めて気付いたかのようにパピヨンは眉を顰めると、
煩わしそうな視線を向けながらナイトメアに向かって声をかける。
「やかましい男だな。お前の知り合いか、ナイトメア?」
「ああ。今回の件で一緒に組んでいる仲間だ」
「は、こんな奴等の御守とはお前も大変だな……奥方を放っておいていいのか?」
「幸い経過は良好だ。順調に行けば二月の中旬、と言った所だな」
「そいつは蝶畳。無事に生まれたらお祝いに行かせてもらおう」
「頼む。アレも喜ぶだろう」
「待てぇええぇ!?」
「うるさいぞ、店内で騒ぐな柊 蓮司。他の客に迷惑だろう」
「なんで普通に仲良く談笑してんだよ!? しかも家族ぐるみの付き合いなのかよ!!」
 一応正論であるナイトメアの言葉に応える余裕もなく、蓮司は行き先を失った指先を彷徨わせながら叫んだ。
「彼とはちょっとした縁で知り合ってな。経緯は面倒なので省く」
「ナイトメアとはともかく、花子婦人は中々に素晴らしいセンスを持ってたからな。少々懇意にさせてもらっている」
「なんだこの変態コミュニティ……」
 絶句している蓮司の脇で、今にも逃げ出しそうな剛太が呻くように漏らした。
 するとそれまで沈黙を保っていたブラボーがハットの奥から鋭い眼光を向けた。
「戦士・剛太」
「は、はいっ!?」
「……俺をこの二人と同類にしないでもらおうか」
「え……えぇ~……?」
「その格好で言っても全く説得力がないな」
「まったくだ」
「俺の気持ちを代弁してもらってなんだが、お前等が言うな……っ」
「まあとにかく、二人とも早くこっち来いよ」
 何時の間にか三人のテーブルに混ざったカズキが、階段付近に立ち尽くしている二人を手招きする。
 蓮司と剛太の二人は互いに視線を交わしながら、
「……剛太、早く行けよ」
「やだよ、俺はノーマルなんだぞ……? お前が先行けよ、柊」
「俺だって嫌だ、あいつらに混ざるのなんてごめんこうむる」
 肩を押し合って牽制するのだった。


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