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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第11話

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だれでも歓迎! 編集
 斗貴子は鮮血に染まった沙織を抱きかかえたまま、地面に腰を下ろした。
 バルキリースカートを核鉄に戻して、状態を確認する。
 微動だに――呼吸さえもしていない沙織に一瞬だけ不吉な予感が頭を過ぎったが、それはすぐに払拭された。
 急所は外したものの無残に切り裂かれた沙織の身体に核鉄を添えると、沙織の顔色に僅かに血色が戻ったのだ。
 エミュレイターが展開した月匣の中では沙織のような一般人――イノセントは完全に無力化し、それを認識する事もできない。
 ブラボーの話によればそれは斗貴子や剛太も同様であり(カズキはその命が核鉄と同化しているので問題がない)、つまり
核鉄の状態で手放してしまうと沙織と同じように意識を失ってしまう。
(………待て)
 そこで斗貴子は気付いた。
 河井 沙織に憑いていたエミュレイターは既に灯が駆逐した。
 ならばソレが展開した月匣もその時点で解除されるはずだ。
 斗貴子は眉を寄せて天を仰ぐ。
 空には、いっそ美しいと言える程に凶々しい、紅の月が浮かんでいた。

 ――斗貴子の背後で、爆音が轟いた。


 エミュレイターを撃ち倒したのを確認し、治療のために斗貴子と沙織の元へ走り出そうとしたくれはを、脇から灯が唐突に捕まえた。
 声を上げる暇もなく、くれはは灯に抱えられてその場から飛び離れる。
 同時に空から巨大な影が墜落し、今まで二人がいた場所を粉砕した。
「はわ……!?」
 着地した後、半ばくれはを放り捨てる形で解放して灯は飛来したソレを睨みつける。
 これまで相手にしていた黒狼達よりも二回りほど巨大な体躯。
 四足歩行であったそれらとは違い、二足で直立して居るためにその威容は更に大きく見えた。
 黒狼達が群の構成員だったとするなら、ソレはその群の長と呼ぶべきだろうか。
 丸太のような腕と、鋭い獣爪。漆黒に覆われた毛並み。
 天上の紅月をそのまま宿したかのような、凶相を思わせるような赤い双眸。
 威嚇するように牙を剥き、その巨狼は灯とくれはを睨みつけていた。
「―――」
 この場に相対してソレが敵ではない、と論ずる者など存在しない。
 灯は地を踏みしめてガンナーズブルームを振るい、砲口をその巨狼に――



 ――向ける事なく、長大な砲身を盾代わりに構えた。
 瞬間、爆発したような衝撃と浮遊感。
 接近され殴られた、という事実に吹き飛ばされてから気付いた。
 空中で体勢を立て直し、たたらを踏んで倒れそうになる身体を支える。
 即座に敵に向けて砲口を向け、トリガーを引いた。
 並みのクリーチャーなら数体は纏めて吹き飛ばせるガンナーズブルームの砲弾が巨狼に直撃する。
 耳をつんざく爆砕音と肌を焼く爆炎。それらを吹き飛ばすように、
「――ォオオオォオオオッッ!!」
 狼は咆哮した。
 焼け付いた巨狼の身体が瞬時に再生し、更に膨れ上がる。
 纏う闇と威圧感が更に強大さを増し、咆哮と共に灯に叩きつけられた。
「じ、人狼……?」
 巨狼が攻撃を受けた隙にその場から離脱したくれはが、表情を強張らせて呻く。
 だが灯は敵を凝視したまま否定した。
「多分、違う。アレは――」
 攻撃が命中した際に一瞬だけ吹き払われた巨躯を覆う闇。そこに垣間見えた、左胸の印章。
 それが示す事実は、一つ。
「ホムンクルス」
 灯の言葉と同時に、巨狼の双眸がぎょろりと動いた。
 一瞬灯は身構えて――敵の気配を悟って弾けるように叫んだ。
「斗貴子!」


 呼ばれるまでもなかった。
 ソレが出現した時点で、闘いがまだ終わっていない事を理解していた。
 だが、彼女に落ち度があったとするなら。
 それは今だ傷の深い河井 沙織の治療を放棄して、核鉄をバルキリースカートにするかを逡巡した事だった。
 巨狼は暴風のような速度で斗貴子に迫り、鋭い爪を振りかざす。
「く……!」
 反応が一瞬だけ遅れた。
 彼女が一人だけであったなら、あるいはそれでも避ける事は可能だっただろう。
 しかし今、彼女は沙織を抱えていた。
 避けきれないと自らで理解しつつ、斗貴子は沙織を庇うように抱きかかえて地を蹴る。
 巨狼の爪が振り下ろされた。
 ほんの僅かに身を引いた、攻撃を対処するに無意味なその両者の狭間に――

「させるかぁあああぁああっ!!」

 ――疾走する陽光が割り込んだ。



 カズキと蓮司がその戦場を視界に収めた瞬間、巨狼が爆ぜて斗貴子へ向かって疾駆していた。
「斗貴子さん!」
 カズキは叫んでエネルギーを展開する。
 だが、その距離は余りにも遠い。
 全力で走った所で間に合わず、ランスの力を以てしても届くかどうかは危うい。
 もっともその分析を行える程にカズキは小賢しくはなく、共に走る蓮司もまた、そんな理屈など必要としなかった。
「行け、カズキ!」
「――ぉおおおおっ!!」
 カズキが斗貴子に向かって地を蹴る瞬間、その背中を蓮司が力強く押した。
 それは比喩ではなく、文字通りの意味で。
 物理的な意味だけでなく、それ以上の意味で。
「――《エア・ダンス》!!」
 逆巻く烈風を纏った閃光が爆ぜ、紅の世界を切り裂いた。


「させるかぁあああぁああっ!!」
 振り下ろされた獣爪を、眩い閃光がその腕ごと吹き飛ばした。
 カズキは突進の勢いを二の足で全力で抑え込み、振り返り様にサンライトハートを大きく振るう。
「ギ――!」
 呻き声か、巨狼は光り輝く槍を掠めるように飛び退り、狂気を孕んだ紅の双眸で目の前に立つ少年を睨みつけた。
 カズキはその眼光に怯む事なく、サンライトハートを巨狼に向かって構えなおした。
「……お前が蝶野の言っていたマーニって奴か!?」
 しかし巨狼は答えない。
 言葉の代わりに態度で示すように巨狼は牙を剥き、残ったもう片方の腕が膂力の充満を顕すように膨れ上がった。
 明らかな戦闘体制にカズキはサンライトハートの柄を握り締める。
 巨狼が僅かに身を沈め、カズキに飛び掛る――その瞬間、巨狼の背中に爆発が起こった。
「グ、!!」
 巨狼を挟んでカズキ達とは反対側、灯がその隙を見逃すはずがなかった。
 挟み撃ちの状態を不利ととったか、巨狼は地を蹴って距離を取る。
 だがそれすらも、許されない。
「《グラビティネット》!!」
 巨狼の影から幾条もの魔力の鎖が伸び、その巨躯を縛り付ける。
 くれはが放ったその魔法の効果は一瞬。
 だがその刹那で、総ては決していた。
 カズキに続いてきた二陣目の烈風が、刃の閃きと共に駆けてきた。
「ぉおおおおらあぁああ!!」
 蓮司の放つ魔剣の斬撃が残った片腕を斬り飛ばす。
 巨狼はその痛みを認識する暇も、反応する時間も与えられなかった。
 迸る陽光の槍が、既に眼前に迫っていた。
「サンライト――!!」

「――――――《ダークバリア》」

「!!」
 巨狼を覆うように闇色の障壁が出現する。
 カズキの放ったチャージはその障壁に受け止められ、光と闇が交じり合って激しい火花を散らす。
 闇の障壁を貫くも威力を弱められたカズキの突撃は、巨狼の肩口を抉る事しかできなかった。
 巨狼が地を蹴って大きく後退する。
 灯とくれはが、カズキと斗貴子が、そして蓮司がその後を追って視線を向けた。
 両腕を失いながらも今だ闘争意識に満ちた眼光を光らせている巨狼。
 その脇に。
 闇に溶けるかのような、漆黒の少女がいた。



 流れるような黒壇の髪。その身を包む昏い群青色の衣装。手に抱えた大きな書物。
 その闇の中に浮かぶような、白磁の肌。
 天に浮かぶ紅の月とは対照的な、冷め切った薄青の瞳を持った少女は人形のような無表情で五人を見つめていた。
「……リオン=グンタ」
「…………」
 蓮司の声に、少女――リオンは答えなかった。
 意味のない確認などに語る口は持っていない。
 彼女が答えるのは、
「てことは、ソイツがマーニっていうホムンクルスか」
「……ええ」
 意味のある問いにだけだ。
 蓮司は囁くようなリオンの返答に促され、巨狼――マーニに目を向けた。
 パピヨンから聞いた話では、マーニは人型のホムンクルスだったはずだ。
 だが今目の前にいるのは、明らかに獣のソレだ。
 しかも、息を荒らげて牙を剥き、禍々しい紅眼を爛々と輝かせているその表情。
 リオンがこの場にいなければ今にも飛び掛ってきそうなその態度は、どうみても正気のものではない。
 これはもう”利用されている”というレベルの話ではなかった。
「エミュレイターに喰わせたのか……」
「……。彼は力と真理を望んだ。故に、私はそれを与える。契約に偽りはない」
「”そんな風”になるのもソイツが望んだってのかよ」
「……自我の有無については、何も聞かれなかったから」
 無貌の顔に薄っすらと笑みを浮かべてリオンは答えた。
 寒気が走るような美しさに、蓮司は眉を歪めて唇を噛む。
「……詐欺師の常套句だな」
「問われる限りにおいて、私は偽らない。契約の内容を確認しないのは、相手の落ち度」
「……だったら聞くけどよ。今回の件はお前が仕組んだのか?」
「ええ、その通り」
 蓮司の問いにリオンは正直に答える。
 彼は魔剣を握る拳に力を込めて、さらに問う。
「なら、お前を倒せばそれで終わりなんだな?」
 足に力を込めた彼に、彼女は全く表情を変える事なく――
「――ええ。今の所は」
 正直に答えた。



「――そうかよっ!!」
 同時に蓮司が地を蹴り、リオンに向かって疾走する。
 眼を見張るような速さで距離を詰めてくる蓮司をやはり無表情に見据えたまま、リオンは手を翳した。
「……マーニ」
「ォオォオォオオオオッ!!」
 少女の囁きに応えて巨狼――かつてはマーニであったモノが咆哮する。
 両の腕を失ったままにも関わらずソレは地を蹴り、蓮司と正面から衝突した。
 真っ向から迫ってくるマーニを斬り裂こうと蓮司は魔剣を振りかぶる。
「!?」
 それは反応というよりは反射と呼ぶべきだった。
 魔剣を振ろうとした腕を無理矢理に折りたたんで突進してきたマーニとの間に魔剣の腹を挟みこむ。
 強烈な衝撃が全身を駆け抜け、その衝撃に引き摺られるようにして蓮司の身体は吹き飛んでいた。
「なっ……!?」
 体躯が圧倒的に違う。正面衝突して吹き飛ばされる事はある意味で必然。
 ゆえに蓮司の驚愕はそこではなく。
 マーニにはもはや存在しないはずの両の腕が何時の間にか再生していた事に、彼は驚愕した。
「斗貴子さん、さーちゃんを!」
「わかっている……!」
 蓮司がマーニと衝突すると同時に、二人は動いていた。
 沙織を抱きかかえて回復魔法を使えるくれはの元に走る斗貴子の気配を後ろに感じながら、カズキは
吹き飛ばされた蓮司と入れ替わるように突進した。
 穂先を掲げエネルギーを迸らせる。吹き上がる閃光を纏うようにカズキはマーニに向かってサンライトハートを走らせる。

「――『貴方』は、こっち」

「――!?」
 透き通るような声が聞こえると同時に、目前に居たはずのマーニが消失した。
 突き出したサンライトハートが誰も居ない空間を貫き、カズキはたたらを踏んで周囲を見る。
 敵が消えたのではなかった。何時の間にか、カズキ自身が移動していた。
 厳密に言うなら移動した訳ではなく、リオンが使った《アポート》で引き寄せられたのだが、初めて魔法を
経験した彼が意識を正常に働かせるには幾瞬かの時間が必要だった。
「本当はあまり表立って動きたくはないんだけど、こればかりは彼にはできないから」
「!」
 至近で響くリオンの声にカズキは慌てて身を引こうとする。
 だが、遅かった。
「《グラビティネット》」
「ぐっ……!?」
 先程マーニを捕縛した闇の鎖が、カズキに絡みつく。
 動きを封じられたカズキの眼前に、酷薄な微笑を称えたリオンがいた。
 彼女は優雅な動きでゆっくりと白い腕を伸ばし――カズキの左胸に”突き入れた”。



「う、あぁあああああぁああっっ!!!」
 肉体を抉られ、心臓を鷲掴みにされる激痛にカズキが叫ぶ。
「カズキッ!!」
 蓮司がリオンに向かって走り出そうとするが、それは間に立ち塞がったマーニによって阻止された。
 コマ落としのように蓮司の眼前に出現したマーニが腕を振るう。回避が間に合わない。
 魔剣で受け止めるも、その剛力によって蓮司の身体はまたも弾き飛ばされ逆に距離を開けられてしまう。
「――てめぇっ!!」
 歯を食いしばり、蓮司はもう一度距離を詰めて魔剣を振るった。
 避ければそのまま突破するつもりだったが、マーニは避けなかった。
 全力で振り下ろした魔剣の一撃が、マーニの腕によって受け止められる。
 先に放った際には腕を切り落としたその斬撃は、肉を半ばまで切った所で押し留められていた。
(コイツ――!?)
 同時に悪寒が背中を走り抜ける。素早く身を引くと同時に、彼の目の前を豪風が駆け抜けた。
「く……!」
 深く間合いに入った分、身を引くのが遅かった。
 浅く切り裂かれた身体から血が滲み、彼の制服を濡らす。
 しかしそれを委細気にすることはなく、蓮司は立ち塞がるマーニを睨み付けた。
 その巨躯の背後に、リオンに胸を穿たれるカズキの姿がある。
 蓮司はマーニに足止めを余儀なくされたが、カズキを助けに向かっているのは彼一人ではなかった。


「カズキ!」
 傷付いた沙織をくれはに任せ、斗貴子は核鉄を手にリオンへと疾走する。
 武装錬金を起動してバルキリースカートを纏うと同時、背後から火線が斗貴子を追い抜いた。
 灯の放ったガンナーズブルームの砲撃がカズキの胸を穿つリオンへと走る。
 しかしリオンは一瞥さえせず、空いた手に持っていた書物を手放した。
「……来たれ、秘匿されし異界の神秘」
 リオンの身体ほどもある巨大な書物が開かれる。白紙の項から淡い光の羅列が浮かび上がり、それは力となる。
 ――《カレイドスコープ》
 砲撃がリオンの身体を貫いた。
 少女の身体が闇に混ざり、崩れて溶ける。呆気ないほどに簡単な消滅。
 だが、それは当然。灯の撃ち抜いたリオンは、書物が描き出した万華の魔力が生み出した虚像に過ぎない。
「ぉおおおっ!!」
 斗貴子が咆哮と共にバルキリースカートを展開する。
 視認するリオンは四つ。虚像も実像も構わず一切を切り刻まんと四刃が閃いた。
 三つを同時に切り捨てて、残る一刃が実像のリオンを捉える。
 瞬間、見えない障壁がその斬撃を受け止めた。



 変わらずカズキの胸に腕を沈ませたまま、リオンはつと視線を眼前の斗貴子に向ける。
 リオンの薄蒼の瞳が見つめる、怒りと殺気を孕ませた斗貴子の表情。
 斗貴子の漆黒の瞳が睨む、冷め切ったような無貌の表情。
 二人は互いに視線を絡ませて――先に視線を切ったのはリオンだった。
 虚像を斬った三つの刃がリオンに向かって殺到し、纏う障壁を切り裂いて彼女の身体へ叩きつけようとした瞬間、リオンが身を引いたのだ。
 カズキの胸から手を引き抜き、風に乗るようにリオンは斗貴子から距離を取る。
 彼女はリオンを追わず、崩れ落ちたカズキに振り返った。
「カズキ!」
「ぐ……っ」
 力なく身を寄せるカズキの身体を支え、傷を確認する。
 が――確かにリオンが穿っていたはずの左胸には、一切の傷が存在しなかった。
「斗貴子、さん」
「カズキ。無事か? 身体は――」
「大丈夫だと思う……」
 痛みの残滓を拭うようにカズキは左胸に手を添えて、そして自分の足でどうにか身体を支えた。
 胸を穿たれ身体に腕を突き入れられた影響か、僅かに違和感を感じるものの特に痛みなどは感じなかった。
(……あれ? オレ、武装解除したか?)
 そこでカズキは気付いた。
 リオンの眼前に引き寄せられた時には確かにサンライトハートを手にしていたはずだが、何時の間にかそれが消えている。
 胸を貫かれた時に反射的に核鉄に戻したのだろうか。
 ともかく、マーニにしろリオンにしろ敵が居なくなった訳ではない。
 彼は胸に手を添えてサンライトハートを――
「……無理はしない方がいい。『新しい命』が、まだ馴染んでいないはずだから」
 リオンの静かな声で、カズキの行動は中断させられてしまった。
 言葉の意味がわからず、カズキと斗貴子は呆然とリオンを見やる。
 彼女は薄蒼の瞳を僅かに細め、唇を微笑の形に歪めてから、ゆっくりとカズキを穿った手を掲げて見せた。
 二人の前に持ち上げられる少女の腕。
 その手に握られているモノを眼にした瞬間、二人の表情は凍りついた。
「え……」
「馬鹿な……!」
 それは黒く輝く六角形の金属。中央に彫られた『Ⅲ』の刻印。
 二人がソレを見間違うはずもない。
 かつて津村斗貴子が与え、武藤 カズキの命となった黒い核鉄が、リオン=グンタの手に握られていた。



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