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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第14話

最終更新:

nwxss

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だれでも歓迎! 編集
 唐突な話になるが、斉堂 一狼は女の子が苦手だ。
 どれくらい苦手かというと、バイトの娘にティッシュを手渡されただけで動揺してしまうくらいに免疫がない。
 今は既に滅びた里に生まれ、忍者として育てられた一狼は輝明学園に入学するまで年頃の女の子と接触する機会が絶無だった。
 そんな生い立ちであるが故に彼は女の子と会話する事は勿論、同じ部屋に一緒にいるというだけでもかなりの心労を抱えてしまう。
 別に一狼は女の子が嫌いな訳ではなかった。むしろ、16歳の青少年としては当たり前のように女の子に興味がある。
 ただ、どうしようもなく苦手なだけだ。
 そんな彼にとって、

「……彼女が姫宮 空」
「わ、凄い可愛い。……でも、なんで一狼くんこの人抱えてるの?」
「ちょっと機械が誤爆しそうになって、逃げようとしている所」
「誤爆……? よくわかんないけど、あかりんの友達ってドラマティックな人多いね」
「わたくし達自身がある意味ドラマティックな存在でありますからなー」

「………………」
 三人(厳密には四人)の女の子に囲まれているこの状況は、はっきり言って拷問に等しかった。

 まず、ベッドに横たわっている緋室 灯。
 つい先程まで灯は意識不明だったのだが、今では二人の少女達と話せるくらいには快復していた。
 戦闘で受けた傷は塞がっているようで、患者衣の胸元から白い包帯が覗いている。
 一狼は絶滅社からの命令で、彼女を社へと帰還させるべく護送の任務を与えられていた。
 だから、彼が彼女と同じ部屋にいる事はおかしくない。
 続いて、灯のベッドの脇に座っている黒い衣装の少女。一狼の知る知識でいえば、いわゆるゴスロリという奴だ。
 月光のような銀の髪をリボンで結わえ、見る者を魅了するような紅の瞳は、けれど彼女の纏う明るい雰囲気で神秘的という印象は少なかった。
 少女の名はノーチェ。一狼と同じく絶滅社に雇われている人間――否、吸血鬼で、灯の護送のために組まれたチームの一員だ。
 だから、彼女がここにいるのも変ではない。




 そして更に、ベッドにいる灯を挟んでノーチェの反対側。
 灯と同じように患者衣に身を包んでいる少女。
 聞けば彼女は今回の件でエミュレイターに憑依されたイノセントだという。
 本来なら彼女――河井 沙織は次元の狭間に存在するアンゼロット宮殿につれてくるべき類の人間ではない。
 通常の病院などに搬送して治療を受けるべきなのだ。
 だが、先日の戦闘で多くの負傷者が出てしまった事、更に灯が急を要する重傷を負ってしまったために手間を省いて彼女もこちらに連れて来たのだ。
 要するに彼女はこの場にいる者達とは無関係なのだが、何故かここにいる。
 それは灯のベッドから少し離れた所にあるソファに腰を下ろし、彼女達のやりとりを生暖かく見守っているチームリーダー、十文字 冴絵の指示だった。
 ……百歩譲って、それもよしとする。
 傭兵にとって任務と命令は絶対だ。リーダーの指示であれば、甘んじて了解する。
 何をどうしても理解する事ができないのが――
「なんで……」
 なぜ自分――斉堂 一狼がこの少女達の輪に加わっているのかだ。
 あまつさえこの少女達が囲むベッドの上に大きな水晶球が置かれていて、そこには過去の自分の映像が映っている。
 その水晶は『叡智の水晶』と言ってノーチェの一族に伝わる秘伝の品であるらしい。
「どうかしたでありますか、一狼?」
 隣に座っているノーチェが覗き込むようにして紅の瞳を一狼に向け、思わず彼はひっと小さく呻いてしまった。
 ノーチェは口調はともかく外見だけは見目麗しい美少女だ。
 今の所は可愛らしさが先行しているが、もう少し成長して大人びたら正しく魔的といえるほどの美貌になるだろう。
 そんな彼女に至近距離で迫られて、一狼は跳ね上がった心臓を抑えるように胸に手を当てつつノーチェに向かって声を潜めて言った。
「い……イノセントにこんなの見せて大丈夫なの?」
「へーきでありますよ。堂々としてれば大抵は手品とかその辺で受け取ってくれるでありましょうから」
 犬歯を覗かせてノーチェは軽く笑う。そんな彼女の仕草に一狼は更に動揺して視線を彷徨わせた。
 ウィザードの存在を秘匿すべしと教わってきた一狼には彼女の軽さは少々受け入れ難かったが、彼にはそれ以上に聞かねばならない事がある。
「なんで僕の映像とか見せてるんだ……」
 叡智の水晶には昨年一狼が経験した出来事が映っている。
 イノセントである沙織の前だけにエミュレイター関連の事象までは映されなかったが、それでも過去の自分の行動――例えば彼の住むアパートの
隣室に越してきた姫宮 空とのやりとりだとか――を見られているのは恥ずかしすぎる。
 しかしノーチェは一狼の気苦労を知る事もなく、たははと軽く笑い飛ばした。
「この部屋にはテレビが置いてないでありますからなー。精度の良い情報を映すには対象走査が一番なのでありますよ」
(なんで僕なんだよ! プライバシーの侵害だろ!)
 と一狼は言いたかった。だが、少女達の前でそれを言う度胸は彼にはなかった。



「ねえねえ、一狼くん」
「は、はいっ!?」
 不意に対面の沙織に呼びかけられ、思わず一狼は上擦った声を上げて椅子から腰を上げかけた。
 沙織は一狼の顔を窺うように、しかしあからさまに興味を示した表情で水晶に映っている少女と一狼と交互に指差した。
「もしかして一狼くんとこの姫宮さんって、付き合ってるの? 彼女?」
「はい、え? はいぃい!?」
 ガタン、と椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がり後ずさった。
 温度計のように顔が紅く染まっていく一狼の顔を沙織とノーチェは興味津々と言った風情で覗き込んでいる。
「え、いや、そっ、ぼ、僕と姫宮はそんなんじゃ……!」
 腕を意味不明にばたつかせ、しどろもどろになりながら一狼は呻き声を吐き出す。
「妙に慌ててる所が怪しいでありますなぁ」
「だよねー?」
 にやにやと笑みを浮かべながら沙織とノーチェが顔を見合わせる。
 動揺が頭の中を駆け巡って言語を発することができない一狼の代わりに、
「違う」
 と灯が静かに口を開いた。
「灯さん……!」
 思わぬ助け舟に一狼は声を上げた。
 怪訝そうに視線を向ける沙織とノーチェに、灯はやはり無表情で、
「姫宮 空は斉堂 一狼の『所有物』」
「ぶぅっ!?」
「「所有物っ!?」」
 三人が吐き出した二種類の驚愕の悲鳴が部屋に響き渡った。
「あ、ああ灯さん!? 何言ってんです!?」
「しょ、所有物ってどゆこと!?」
「そのまま。昨年十二月二十五日午前零時を以て、姫宮 空は一狼のモノになった」
「え、モノになったって、え? もしかしてそういうこと!?」
「日本の学生は進んでいるでありますなあ!」
「ち、違う! 違うんだ! 誤解だっ!!」



 必死に叫ぶ一狼とよそに沙織とノーチェは盛り上がって歓喜の声を上げている。
「日付と時間がわかっているならもう視るしかないでありますな!」
「きゃー! 視たい視たい!!」
「やめろ! やめてくれー!!」
 紅の瞳をらんらんと輝かせて叡智の水晶に手を翳すノーチェと、歓声を上げながら水晶を覗きこむ沙織。
 この事態を引き起こした灯はそ知らぬ顔で沙織と同じように視線を水晶に向けている。
 いっそ水晶を叩き壊してやろうか、と一狼は拳を握り締めたが、ふと思いなおして縋るように彼女達を見守る冴絵に振り返った。
「十文字さん、どうにかしてください! いくらなんでもプライバシーの侵害だ!」
「んー……………許可!」
「そんな!」
「沙織ちゃんには立場上色々と不自由な思いさせちゃってるから、あたし達には彼女の精神衛生を保つ義務があるのよ」
 沙織はイノセントではあるが、カズキや斗貴子等の錬金戦団に多少なりとも関わったために非日常の世界に理解があった。
 もちろん事情の総てを彼女に語る訳にはいかないが、踏み込みすぎないレベルで多少の説明は施してある。
 記憶操作で丸ごと忘れさせる、というのも手ではあったが、それは沙織自身が拒絶した。
 カズキや斗貴子達、加えて仲良くなったくれはや灯達の生きている世界というモノを知らなかった事にしたくはないそうだ。
「で、でもそれでなんで僕の事なんか……!」
「あかりんとノーチェのは論外だし、あたしが経験した中東の内戦風景とか見せても面白くないじゃない」
「だからって……べ、別に誰かの過去とか見る必要ないじゃないですか! テレビ番組とか適当に見せれば!」
「わたくしの水晶はそんな便利ではないでありますよー?」
「ヒトの過去を走査してるってだけで便利すぎるじゃないか!」


 棒読みで語るノーチェに一狼は食ってかかる。
 普段なら女性に対してそこまで言えるような性格ではないが、自分の事――とりわけ姫宮 空との関わりに関する事を覗き見られて一狼の精神には既にリーチがかかっていた。
「ノーチェもこう言ってるから、諦めなさい。という訳で続行!」
「冴絵姐さん話がわかるぅ!」
 一狼を無視してびしりと水晶と指差した冴絵に沙織が喜色を孕んだ声を上げ、ノーチェは苦笑交じりに声を出した。
「沙織沙織。冴絵は一応貴方と同じ16歳でありますよ」
「あっ……でもなんか姐さんって感じだよね?」
「……いーよもう。どうせあたしは老成してるさ……」
「よくはありません! いや十文字さんの中身の年齢はいいですが、僕のプライバシーはよくないんですって!」
「なんだとぅ!?」
 冴絵が叫んで一狼に踊りかかる。
 身のこなしは一狼の方が遥かに上なのだが、動揺していた彼はあっさりと彼女に捕まってヘッドロックをかけられてしまった。
「この歳で戦場巡ってりゃあ老成したって当たり前でしょうが!」
「ちょ、じゅうっ……か、勘弁してください!」
 ギリギリと締め付けられる痛みよりも、頭に押し付けられる冴絵の脇下、胸の感触に一狼はぐるぐると脳髄をかき乱されてばたばたともがく事しかできない。
(誰か助けてくれ……!)
 一狼が悲鳴にならない悲鳴を上げたその時、
「……何やってんだ、お前等」
 その部屋に入ってきた蓮司が嘆息交じりに声を吐き出した。



「斗貴子さん、カズキ先輩!」
 声を上げて立ち上がった沙織に、蓮司と共に部屋を訪れたカズキと斗貴子が駆け寄る。
 殊に彼女を直接傷つけてしまった斗貴子はより心配が大きかったのだろう、沙織の存在を確かめるように肩を撫でてから口を開いた。
「さーちゃん……もう怪我は平気なのか?」
「うん、全然平気。っていうよりその辺りの事あんまり憶えてないんだけど」
「すまない。キミをまたこっちの世界に巻き込んでしまった……」
 頭を垂れる斗貴子に沙織は一瞬だけ困った表情を浮かべ、肩に置かれた斗貴子の手に自分のそれを重ねた。
 そして釣られるように顔を上げた斗貴子に、沙織は屈託のない笑みを浮かべて見せた。
「ううん、斗貴子さんが謝る必要なんてないし、それに私を助けてくれたんでしょ? だからありがとう」
「さーちゃん」
 肩を寄せ合う二人に言葉をかけるのを憚ったのだろう、カズキと蓮司達は黙って二人を見守った。
 と、そんな蓮司の元に一狼が歩み寄り、おずおずと声をかけた。
「あの……柊 蓮司先輩?」
「ん? ああ、そうだけど……」
「斉堂 一狼です。絶滅社から灯さんの護送を命じられて来ました」
「……あー、そういやアンゼロットがそんな事言ってたな」
 と言いながら蓮司はベッドに横たわっている灯へと眼をやり――その脇で好奇に満ちた紅の瞳を自分に向けているノーチェに気付いた。
 眼が合った事をきっかけにノーチェが銀髪を揺らして蓮司の元までやってくる。
 そして彼女は蓮司を上から下までしげしげと観察した後、
「貴方が柊 蓮司でありますか。思ったよりも普通の人間でありますな」
「ありますぅ……? てか、普通って何だよ。まるで俺が異常な奴みたいな言い方しやがって」
 ノーチェの奇妙な喋り方に眉を潜めた蓮司に、ノーチェは大きく頷いてから紅の眼を細めた。
「そりゃあ、我々の間ではかなりの有名人でありますからな。せっかくなんでサインとか貰ってもいいでありますか?」
「さ、サイン!?」
「はわ、ひーらぎがサイン……ぷっ」
 ぎょっとする蓮司と噴き出したくれはをよそに、ノーチェは懐からごそごそと色紙を取り出して蓮司に差し出した。
 慌てて色紙を押し返そうとする蓮司と強引にそれを押し付けるノーチェのやり取りをみながら、カズキは感嘆の声を漏らした。
「蓮司ってそんな凄い奴だったんだ」
「柊先輩は何度も世界を救ってるんですよ。実績も実力もウィザードとして一流ですから」
「へぇ……」


 一狼の解説に頷くカズキだったが、一狼が蓮司を見る目にわずかな羨望がこもっていたことには気付かなかった。
「同僚とか故郷の仲間に自慢したいでありますよ。だからお願いするであります」
「柊、サインぐらいしてやればいいじゃない」
「ち……しょうがねえな……」
 くれはに肘でつつかれて、蓮司はしぶしぶといった感じで色紙を手に取った。
 態度こそ嫌々といった様子ではあったが、実際サインを求められるというのは満更ではなかったのか、いそいそとマジックで名前を書く蓮司にノーチェが脇から声を上げた。
「あ、ついでに一筆啓上してもらってもいいでありますか?」
「この際だから構わねえけど、何書けばいいんだ?」
「そうでありますな……ここはやはり『下がる男』と」
「喧嘩売ってんのかてめえ! 手の込んだ前振りしやがって!?」
「あぁっ!? サインが!?」
 蓮司が怒声と共に色紙をびりびりに引き裂き、ノーチェが悲鳴を上げる。
 そんな二人のやり取りと見やっていた斗貴子が小さく溜息を吐き出した。
「何をやってるんだ、お前たちは……」
「あ、そうだよ。こんな事しに来たんじゃねえよ」
 しゃがみこんで裂かれた色紙をかき集めているノーチェをよそに、蓮司はベッドで様子を見守っていた灯に向き直った。
「もう大丈夫なのか?」
「処置はもう終わった。命に別状はない」
 抑揚なく返して、灯は蓮司から目を切り脇にいる冴絵に顔を向けた。
 言葉を発する事はなかったが視線で彼女の意を察したのだろう、冴絵は小さく頷いてから一狼に声をかけた。
「一狼、沙織ちゃんを病室に連れてって」
「え、あ、はい」
「冴絵姐さん?」
「ごめんね、これから『お仕事』の話になるから」
「……。わかりました」
 冴絵と、その場にいる一同――最後にカズキと斗貴子を見やってから沙織は大人しく頷いた。
「せっかくだからわたくしも一緒に行くでありますよ」
 色紙の破片を集め終わったのか、ノーチェも立ち上がって沙織の元へ駆け寄る。
 そして彼女は沙織の腕を取りながら、口の端を吊り上げて一狼を見やった。
「一狼には色々と聞かないといけないでありますからな」
「あ、そういえばそうだったね」
「え、いやちょっ!?」
「ほらほら、行くでありますよ。さっさとエスコートするであります!」
 沙織とノーチェが一狼を両脇から掴みかかり、信号機のように真っ赤になった彼を連行するように部屋を後にする。
 三人――厳密には沙織の姿が完全に部屋から消えたのを確認すると、灯は蓮司達を見据えて静かに口を開いた。
「……状況はどうなっているの?」


 ※ ※ ※


 緋室 灯の見舞いを辞した剛太は、一人アンゼロット達のいる司令室に訪れていた。
 矢継ぎ早に映し出される様々な情報を受け取り、そして指示を出しているアンゼロット――その脇に控えていたブラボーに向かい合い、
剛太はポケットから何かを取り出してブラボーに差し出した。
「……戦士・剛太?」
 剛太の手に握られていたモノ――シリアルナンバー『LV』の刻印された核鉄を見てブラボーは僅かに目を見開き、そして彼を見据える。
 剛太は数瞬視線を彷徨わせた後俯いて一度瞑目すると、何かを決意するように顔を上げてブラボーに口を開いた。
「俺の武装錬金では魔王相手に全く歯が立ちませんでした。……俺じゃ、何の力にもなれない」
 吐き出すように言った後、彼は再び顔を俯けた。
 攻撃力で劣るモーターギアは魔王モーリー=グレイに対して一切の痛痒を与える事もできなかった。
 それはすなわち、彼が今回の件において戦力として成り立ちえないという事でもある。
 であるなら、彼自身が持つ力――武装錬金となる核鉄は戦力となり得べき人間に渡した方が闘いには有利になるはずだ。
 悔しくはあった。腹立たしくもあった。だが、絶対的な力の差と言う事実は覆らない。
 個人の感情を優先すべき状況でない事を、剛太は理解していた。
「……」
 しかし、ブラボーはその核鉄を受け取ろうとはしなかった。
 顔を伏せて表情を隠していても、その核鉄を差し出した手が僅かに震えているからだ。
「――剛太さん」
 透き通るようなアンゼロットの声が響き、剛太は思わず顔を上げた。
 ブラボーが半歩身を引くとアンゼロットは剛太の正面に歩み寄り、彼の顔を青の瞳で見つめる。
 そして彼女は、静かに口を開いた。
「柊 蓮司」
「……え?」



「彼はこれまで幾度となく世界を救っているウィザードです。実力でも実績でも彼は優秀ではありますが、しかし彼は最強ではなく、無敵でもありません。
 力量という点で見れば、彼より強いウィザードは世界に数多存在します」
 言葉の意図を理解しきれず、呆然と聞き入るだけの剛太にアンゼロットは怜悧な表情を保ったまま、言葉を続ける。
「世界の守護とは個々の力量のみによって支えられるほど単純でも、軽くもありません。
 本当に重要なのは、世界の滅びに相対し、介在する事なのです」
 『勇者』と呼ばれる存在がある。
 世界の滅びに対抗するために、世界そのものが生み出した対抗機能。
 彼等や、彼等に関わる者はその力量に関わりなく――最悪ウィザードと覚醒してすぐにでもその滅びに直面し、そしてそれを退ける。
 因果や運命と呼ばれるモノが複雑に絡み合い形をなすこの世界とその存亡において、問われるのはそれと同じく因果と運命――すなわち、その滅びの現場
に居合わせる事と、それに立ち向かう意思なのだ。
「貴方は先程自分では力になれない、と仰いましたね」
「……はい」
 諭すように問いかけるアンゼロットに、剛太は項垂れて首肯する。
 しかし彼女は小さく頭を振ってから、力強く彼に言葉を紡いだ。
「それは違います。貴方には力がある。
 それは武器や魔法のような戦闘能力ではなく、運命の力……『貴方が今ここにいる』という事実そのものが、この世界にとって何物にも代えがたい『力』なのです」
 核鉄を差し出した剛太の手に、そっとアンゼロットの手が重ねられる。
 はっとして顔を上げた剛太に彼女は優しく微笑みかけて、核鉄を握らせた。
「後はお前次第だ、戦士・剛太」
 ブラボーが剛太の背中を押すように声をかける。
「世界を守る為に、貴方の力をお貸し下さい」
 アンゼロットが輝く銀色の髪を静かに揺らして、頭を垂れた。
 そして剛太は、
「――わかりました。俺も闘います……いえ、一緒に、闘わせて下さい」
 自らの核鉄を強く強く握り締めて、そう答えた。



 ※ ※ ※



 蓮司達が現状をかいつまんで説明する間、灯は全く表情を動かさなかった。
 絶滅社からの任務でこの場を訪れ、灯の看護に掛かりきりだった冴絵はそれを聞いて流石に平静を保っていられなかったのか、心なし青ざめた顔で大きく溜息を吐き出した。
「リオン=グンタにモーリー=グレイ、世界結界と同化した侵魔に裏方でベール=ゼファーって……どんな大惨事よ」
「……冴絵。薬を出して」
 眉根を寄せて肩を落としていた冴絵に、灯は無表情のままで小さく漏らした。
「ダメ」
 即答する冴絵に灯は目を向ける。
 表情を浮かばせない紅の瞳を細め、射竦めるように投げかける視線にしかし冴絵は動じない。
「投薬は許さないよ。社に戻るまではあたしの指示に従ってもらう」
「………」
 有無を言わさぬ冴絵の声に、灯は僅かに身を起こした。
 殺気は見せないものの、それゆえに寒気を感じさせる彼女の動きを手で制したのは、斗貴子だった。
「無理はするな」
「無理じゃない。薬があれば、まだ動く。何も問題は――」
「ある」
 言うが早いか、斗貴子は強引に灯をベッドに押さえ付けた。
 それは寝かせたと言うよりも叩きつけるような強引さで、その衝撃でベッドがぎしりと軋む。
「と、斗貴子さん」
「はわ……」
 慌てるカズキやくれはをよそに、斗貴子は灯を見据えていた。
 抑え込まれても表情を一切崩さないのは流石だったが、彼女の肉体は正直だった。
 灯の胸に巻かれていた白い包帯が、じわりと赤色に滲んでいる。
 傍目で変化がわかりにくくとも、灯と斗貴子は一時とはいえ背を預けて共に戦った身だ。
 身体の調子などは挙動や表情を窺えば知れている。
 加えて言うなら――この場にいる四人よりも、斗貴子は灯に共感を抱いていた。
 だから彼女は、灯にもっともわかりやすい言葉を選んだ。
「そんな身体で出てこられても、足手まといだ」



 自分の状態というものを正確に把握しているのだろう、灯は斗貴子に対して反論する事ができなかった。
 むしろ把握していながら先程のような事を口走ったという事の方が、よほど緋室 灯という強化人間にとっては矛盾しているのだが――彼女はそれに気付かなかい。
 それまで沈黙を保っていた蓮司が灯に向けて口を開く。
「今回の件は俺達で片を付けるから、灯は大人しくしてろ」
「戦力は限られている。戦う事はできなくとも、盾代わりにはなる」
「それこそいらねえし、必要ねえ。その気ならここで縛り付けてでも絶滅社に追い返す」
 灯の言葉に蓮司は声を顰め、僅かに棘の篭った調子で吐き出した。
 そして数瞬灯を睨み付けた後、彼は小さく息を吐き出した。
「それにまあ、個人的に言えば今回のはいくらかマシな方だしな」
「……?」
 そこで初めて、灯の瞳に感情が浮かんだ。
 それは蓮司の言葉に対する疑念であり、それはその場にいる全員が浮かべた表情と同じだった。
「マシ……って、今の状況がか?」
 驚きを隠せないといった貌を浮かべているカズキに小さく頷くと、蓮司はくれはに目を向けた。
 首を傾げて見返す彼女を見て、蓮司は少しだけ戸惑った表情を浮かべてそっぽを向いた。
 そして彼は首を軽く掻きながら、
「……今回は天秤にかけなくていいからな」
 呟くように言った。

 ――昨年四月、『星を継ぐ者』事件と称されたディングレイ流星群の墜落未遂の一件では世界を守る為にその落下目標とされたくれはが命を狙われた。
 更にその事件の首謀者は蓮司やくれはの知人であり、世界を守る為にはその人物を討たねばならなかった。
 例えそれが仮初の関係であったとしても、その人物が蓮司達と交友を結んだ仲であったのは変わりはない。
 その後に起きた魔王ディングレイの覚醒では、くれはがその依代として選ばれてしまった。
 結果的には彼女は助かったが、最悪の場合には世界を守る為に彼女を殺すという選択を入れておかねばならなかった。
 彼女の身体に刃を食い込ませた時の感触は今でも忘れる事はできず、きっとこれから一生忘れる事ができないだろう。

 彼が携わった大きな事件では概ねの場合において『世界』と『誰かの命』が天秤にかけられていたのだ。

「状況はきついかも知れないし、敵の強さも半端ないかも知れない。けど、今回は魔王を倒してマーニをぶっ潰せば、それで万事解決だ。
 難しい事考える必要なんかねえ、全力でやれる」
 どこか自分に言い聞かせるように、蓮司は自らの拳を握り締める。
 くれはも、灯も、斗貴子も呆然と彼を見やっていたが――ただ一人。
「……そっか。そうだよな」
 カズキだけが、蓮司に力強く頷いていた。



 蓮司のように世界規模ではないにしろ、カズキもまた闘いの中で選択を強いられてきたのだ。
 街の人間と斗貴子の命を救うために、ホムンクルスとなったパピヨンを討った。
 本来なら仲間となるべき錬金の戦士達――キャプテンブラボーとも戦わねばならなかった。
 黒い核鉄によって絶望の道を辿ったヴィクター=ハワードとも刃を交えた。
 武藤カズキが経験した戦いの相手は、概ねの場合において倒すべき敵ではなかったのだ。
 だが、今回は違う。
 今回の戦いは彼がそう願い、そう闘おうとしていたように――正真正銘の『皆を守る戦い』なのだ。

 心臓が高く跳ね上がるのを感じて、カズキは己が胸に手を添えた。
 心の奥から湧き上がってくる熱い衝動を掴み取るように手を握り締め、彼は灯に拳を差し出す。
「大丈夫。絶対にどうにかして、皆を助ける。あかりんの分まで、オレが頑張るから」
「――『私達が』だろう?」
 斗貴子が嘆息交じりに呟いて、カズキの拳に手を重ね、次いで蓮司とくれはもそれに倣う。
 目の前で重ねられた四つの手と、自分を見つめる四人の顔を眺めやり――最後に灯も、そっと手を差し伸べた。
「……わかった。皆に、任せる」
 戸惑うように言葉を漏らす灯。
 そんな彼女の声を吹き飛ばすように、カズキは力強い笑みで応えてみせる。
「……任せろ! 何を隠そう、オレ達は世界を守る達人だ!」

「流石にその使い方は規模が大きくなりすぎだぞ、カズキ……」
「えっ、でも蓮司は実際その通りだろ?」
「柊の場合アンゼロットに使われてるからなんか説得力ないんだよねぇ」
「うるせえな、好きでやってる訳じゃねえっていうか使われてるとか言うな!?」
 食ってかかる蓮司と、それをさらりと受け流すくれは。
 そんな二人を頬を緩めて見守るカズキと、苦笑を称える斗貴子。
 四人のそんな様子を見ながら、灯は彼等の温もりが残る手を胸に添えた。
 その顔に僅かに微笑が浮かんでいた事に、彼女自身も気付かなかった。



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