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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第19話

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nwxss

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 世界を喰らう闇色の極光が解き放たれる。
 何もかもを塗りつぶす暗闇を眼前に、カズキは総身の力を振り絞ってランスを突き出した。
「――全開っ!!」
 大きく展開したサンライトハートから眩いエネルギーが迸る。
 白色の閃光が迫る暗黒を受け止めて激しくせめぎあった。
 押し潰されそうな圧力に歯を食いしばり、全力で闇を受け止める。
 サンライトハートの刺突(チャージ)は闇を貫く事は叶わなかったが――闘っているのは彼一人だけではない。
 拮抗した黒白の乱舞の中、地を滑るように蓮司が疾走した。
 切っ先を地面に掠らせ、火花を散らしながら蓮司はベリトへと肉薄し、一気に斬り上げる。
 そこにベリトの豪腕が唸りを上げて振り落とされた。
「くっ……!」
 魔剣の鋭い刃はしかし瘴気を纏う豪腕を切り裂く事はできない。
 以前の激突の時には吹き飛ばされた。
 そして現在のベリトの力はその時の圧力を凌駕する。
 圧倒的な膂力から振るわれた豪腕に蓮司は――
「来るのがわかってりゃな……!」
 プラーナを解放してその場に踏み止まっていた。
 その衝撃で両者の立つ地面が陥没する。
 手に持った闇のランスはサンライトハートの激突で制止を余儀なくされ、空いた片腕は蓮司の魔剣によって受け止められた。
 両の腕を封じられたベリトに、天から四つの刃が降り注いだ。
「バルキリースカート!!」
 疾風が駆け抜ける。
 視認するのも困難な程の速度で斗貴子がベリトの脇を駆け抜け、それと同時に巨狼の体躯が闇ごと切り裂かれた。
「ち……!」
 攻撃に成功したにも関わらず、斗貴子の表情は優れない。
 駆け抜け様に放った斬撃は実に十六斬。
 しかし内の七斬はその巨躯に弾かれ、五斬は僅かに表皮を削ったのみ。
 有効打ともいえる斬撃は僅かに四斬でしかなかった。
「ギ―――!」
 だがそれでもダメージを与えた事には変わりなく、僅かにベリトの身体が傾いだ。
 同時に蓮司が刃を返し、ベリトの腕をいなして体勢を更に崩して間隙をこじ開ける。
 その穴を貫くように、
「サンライトクラッシャーッ!!」
 カズキが光と共に突進した。
 カズキの体躯を大きく上回るベリトの巨躯をもってしてもその突進力を防ぐ事は敵わず、両者はもつれる様に数十mを押し跳んでいく。
 胴体を打ち貫かんと放たれたサンライトハートの穂先は、
「……っ!」
 ベリトの構える闇色のランスによって受け止められていた。
 カズキの刺突に反応したベリトがエネルギーの放出を止め、盾代わりにランスを構えたのだ。
 ベリトの圧倒的な膂力にサンライトハートがぎしりと悲鳴を上げる。
 その武装錬金と命を共にするカズキは苦痛に顔を歪めるが決して引きはしない。
 歯を食いしばって再びエネルギーを展開する――



「呪法連殺っ!」
 響く玲瓏の声。
 後方から溢れる力の高ぶり。
 カズキの両脇を擦過するように細い輝きが駆け抜けた。
 岩塊を穿つほどに圧縮された水槍――二発の《アクアレイブ》は巨大すぎる標的に過たず命中し、瘴気と赤銅の硬皮を貫いて胸部と腹部に炸裂する。
「ガ、アアアァアァァァッ!!」
「くっ!」
 魂切るような絶叫。その怒りを受け止めてか、ベリトの豪腕が更に膨れ上がり拮抗を保っていたカズキを吹き飛ばした。
 数mを飛ばされてたたらを踏んで踏み止まる。
 と同時、彼の肩を力強い手が掴んだ。
「!」
 エネルギーを展開して地を蹴る。
 同時に後ろに引くベリト。
 飛ばされた直後の進路反転と僅かな加速では、エネルギーを展開して射程を延ばしたサンライトハートでもベリトには届かない。
 だが、その僅かな加速はそれまで疾走していた『彼』にとっては十分なモノだった。
「ぉおおおっ!!」
 サンライトハートから溢れ出す閃光から閃く魔剣の刃。
 加速を得て疾走する魔剣使い。
 ベリトはランスを肉薄する蓮司に向かって一閃する――
「!?」
 ――はずの腕が、あらぬ方向へと押し退けられた。
 同時に腕に裂傷が生まれ血霞が舞う。
 元より身のこなしに長ける斗貴子が両者に割って入るように駆け抜けたのだ。
 斬撃の数よりも一撃の重みを念頭に置いた四刃。そしてそれを身体ではなく腕のみに集中させれば、力勝負でもかろうじてバルキリースカートに分があった。
 《アクアレイブ》によって刻まれた傷跡に魔剣を突き入れる。
 そしてプラーナを限界にまで解放し、一気に勝負を決める。
「魔器――」
「ギ、イ――!!」
「んだと……っ!?」
 肉の抉れる感触が魔剣を通じて蓮司の掌に伝わる。
 無論彼は何もしていない。
 ベリトが自分から身を捩って、胴体を貫いた魔剣を強引に引き抜いたのだ。
 このまま力を解放しても不発にはならないだろうが、威力はかなり減退する。
 魔器の解放を咄嗟に中断して解放したプラーナのみを持ってベリトの身体を切り裂く。
 それでも十分な威力を保った魔剣の一撃がベリトの身体を大きく抉った。
 身体から体液と瘴気を吐き散らしながら巨狼は大きく跳び退って三人から距離を取った。
「逃がすか……!」
 追撃しようと斗貴子が脚を踏み出しかけるが、その動きが唐突に止まった。
 別段怪我をした訳でもないし、歩を踏み損ねた訳でもない。
 斗貴子は自分でもわからないまま僅かに身体を傾がせ、そしてすぐにそれに思い至った。
「エネルギードレイン……!?」




 最初に喰らった時ほど強烈ではない。
 だが、力が抜け出していくその感覚は間違いなくヴィクターのエネルギードレイン現象。
「そういう事かよ、厄介だな……」
 蓮司も気付いたのだろう、忌々しげに舌打ちしてベリトを見据える。
 切り裂かれた腕。貫かれた胸部。そして抉り飛ばした胴体。
 当然の結果ではあるが、その部分に巻かれていたエネルギードレインを封じる『魔殺の帯』は既に剥がれ落ちている。
 拘束する部分が少なくなった分、エネルギードレインが発動しかけているのだ。
 それはすなわち、ベリトにダメージを与えれば与えるほどにエネルギードレイン能力が解放されていくという事。
 そしてその能力が解放されれば――
「ォオオォオォオオォオオオッ!!」
 咆哮と共に圧力が強まる。
 同時に蓮司達がベリトに刻んだ傷口から膨大な瘴気が溢れ出した。
 噴き出した瘴気がベリトの身体を護るように包み込む。
 放たれた圧力が安定した時には、既にその体躯には傷一つ残っていない。
「半端なダメージは逆効果って事だな」
「なら、一気に叩くしかない」
「随分と簡単に言ってくれるな……」
 らしいといえばらしいのだろうが、カズキの声に蓮司は小さく嘆息した。
 ついさっきの攻防を見てもわかるとおり、ベリトは単なる木偶の坊ではないのだ。
 四人がかりで連携しても完全に仕留めきる事はできなかった。
 攻撃力という点で言えば蓮司と同等以上だろうカズキのサンライトハートの一撃が入っていないという事もあるが、それを踏まえても倒しきれるかは怪しい。
 何しろベリトは極論して”死に”さえしなければ身体を修復できるのだ。
 能力を封印されるまでにどれほどのエネルギーを搾取して蓄えたのかはわからないが、とにかく膨大である事は違いない。
「だが、無限ではない。あれだけのエネルギーの展開と肉体の修復を繰り返していれば尽きるはずだ」
「他に方法がねえな。前倒しだもんなぁ、俺達」
 夢使いであるナイトメアのようなトリッキーな力を持つものがいればまた別なのだろうが、生憎と魔剣使いである蓮司と陰陽師であるくれは、
そしてカズキも斗貴子もオーソドックスな戦闘能力しか持っていない。
 安定した力を持つ反面、自力の差が如実になるパワーゲームだと覆すのが難しくなるのだ。
「皆、大丈夫?」
「ああ、今ンとこはどうにかな」
 カズキのチャージによって距離を離されたくれはが合流するのを見計らって、蓮司は魔剣を握り締める。
「けどこれからは難しくなる。援護と回復頼むぞ……いやマジで。失敗とかすんなよ?」
「失敗……するの?」
「しないよ! 多分……」
「多分……?」
「は、はわ……大丈夫だって、そんな眼で見ないでよ斗貴子さん」
 半眼の斗貴子に慌てて手を振るくれはに大きく嘆息してから、蓮司は気を取り直してベリトに眼を向ける。
 こちらの様子を窺うように真紅の瞳をぎらつかせているベリトを真っ向から睨み据えて、蓮司達は再び巨狼に向けて地を蹴った。



「……ァアァァアアアアアアアアアアアア!!」
 ベリトが天に向かって咆哮する。
 同時に闇色のランスを大地に突き立て、闇の瘴気を展開させる。
 これまでとは違う行動。
 訝しみながらもベリトに向かう三人を前に、放たれた闇がベリトを中心に螺旋を描くように荒れ狂った。
 周囲が闇の暴風に包み込まれる。
 暗闇が咄嗟に防御姿勢をとる蓮司達を飲み込んだ。
「攻撃……ではない……?」
 渦巻く闇の瘴気は、以前のような攻勢の圧力を伴っていない。
 その代わりに纏わり付くような空気が視界総てを黒色に染め上げる。
「っ! くれは、退け!」
 一体どんな作用があるかもわからないこの暗闇に回復役であるくれはを巻き込ませる訳にはいかず、蓮司は叫んだ。
 彼女もれっきとしたウィザードである以上、その役割と取るべき行動はわかっているはずだが――声が返ってこなかった。
 いや、それどころではない。
 視界は勿論、音も気配も何もかもが闇に沈んでいる。
 まるで自分自身すらも闇に溶け込んでしまったような感覚。
 すぐそばにいるはずのカズキや斗貴子の気配も感じられない――気配という点で言うなら、むしろ周囲に充満する闇そのものが気配を持って他の気配を塗りつぶしているのだ。
(やべえ……っ!)
 この闇はまず間違いなく眼くらまし。眼も耳も感知も利かない闇の結界。
 これではベリトの攻撃に対応できない。
「サンライトフラッシャーッ!!」
 その闇を貫くように、カズキの咆哮とサンライトハートの閃光が迸った。
 闇が光に切り裂かれ、周囲が露になる。


 だが、遅すぎた。
 闇が祓われたその場で蓮司とカズキが眼にしたのは、ランスで身体を貫かれた斗貴子の姿だった。



 それを脳が認識するよりも速く。
 二人は地を蹴っていた。
「て――」
 一瞬にして臨界点に達した感情を迸らせるように蓮司はベリトへと疾走する。
 それを見て取ったベリトが蓮司に紅蓮の双眸を向け、露を払うようにランスを振るって貫いた斗貴子の身体を放り捨てた。
 意識がないのか、それとも既に絶命しているのか、斗貴子は人形のように振り落とされて崩れ落ち、地面に転がる。
 そこで、感情が決壊した。
「テメェ――!!」
 吼えて魔剣を握り締める。
 感情に任せた一直線の全力疾走。
 それは苛烈ではあったが、あまりにも愚直で無防備だった。
 ベリトのランスが一閃する。
 斗貴子を貫いた血痕の残るその矛先が、肉薄する蓮司の身体に突き刺さる――

「エア、」

 この時、柊 蓮司個人としての感情は確かに限界を越えていた。
 だが、ウィザードとしての彼の思考は、どこまでも冷静だった。

「ダンスッ!」

 蓮司の身体がかき消え、ベリトのランスが虚空のみを切り裂く。
 空打ったその交差の間隙に、

「おぉおおぉおおぉぉっっ!!」

 今度こそ混じりなく感情のみを吐き出すサンライトハートの閃光が飛び込んだ。
 ベリトの巨躯を打ち貫き、なお勢いを減じないチャージが炸裂する。
 その場に残光のみを残して両者は吹き飛び、踏み止まろうとするベリトをカズキは丸ごと粉砕させんと力を込める。
 瞬間、激痛が身体を駆け巡り、カズキはそこでようやく我を取り戻した。
 ベリトが吹き飛ばされながらランスをカズキの身体に叩き込んだのだ。
 防御を度外視した状況で叩きつけられた一撃にカズキの身体が後方に吹き飛ぶ。
 しかし彼はサンライトハートを地面に突き刺して制動すると、ベリトを敢然と睨み据える。
「ォオオオオォォオォオォォ!!」
「ぅおおおおおおっ!!」
 ベリトとカズキがほぼ同時に咆哮する。
 そしてやはりほぼ同時に、ベリトから闇が溢れサンライトハートから光が迸った。

 ――無論、カズキとしては何よりも先に斗貴子の下へと向かいたかった。
 だが、現状においてベリトの放つ闇の結界を打ち消せるのはカズキのサンライトフラッシャーだけだ。
 そしてベリトを差し置いて安否の確認などできる訳がない以上、蓮司とカズキの取るべき役割は決まっている。
 それは武藤 カズキの中にある戦士としての判断が半分。
 もう半分は、敵を放置して駆けつける事など斗貴子は望まないだろうという確信。
 だから彼は、

(頼む、蓮司……!)
 ともすれば振り返りそうになってしまう身体を全力で抑制して、更に前へ――ベリトへと向かって地を蹴った。



「斗貴子っ!」
 蓮司は身体を穿たれ鮮血に塗れた斗貴子を抱え上げる。
 反応のなさに一瞬だけ背筋に冷たいものが走ったが、呼びかけた瞬間に僅かに眉が動いたのを見て取って彼は安堵の息を漏らした。
 とはいえ、致命に等しい怪我で在るのは間違いない。
 武装錬金を核鉄に戻して身体に当てているようだが、出血は全く止まらない。
「くれは!」
「わかってる!」
 駆け込んできたくれはが斗貴子の身体に掌を翳す。
 そして彼女が口元で何事かを囁くと同時、その手に淡い光が灯った。
 癒しの清流たる《キュア・ウォーター》の力が鮮血に染まった身体を清浄の水で洗い流し、覗いた白い素肌には貫かれた痕は何処にもなかった。
 ただ、傷はともかくランスで貫かれた衣服だけはどうしようもなく、彼女は腹部が完全に露出した形になってしまっている。
「ひーらぎ、あんま見ちゃダメだからね」
「はあ? 何がだよ」
「……何でもない」
 くれはが放った謎の言葉に蓮司が首を捻ると、何故かくれはは複雑な表情をしてそっぽを向いてしまった。
 全く訳がわからず眉を寄せる蓮司の脇で僅かに斗貴子が顔を歪める。
 斗貴子はゆっくりと眼を開くと、貫かれたはずの腹部を軽く手で擦った。
「……助かった、が……こんな傷まで治すのか。まったくウィザードはでたらめだな……」
「斗貴子さん、大丈夫?」
「お陰様でどうにか動ける」
 言いながら立ち上がった途端、斗貴子は表情を険しくしてよろめいた。
「はわ……とりあえず傷は塞いだだけだから、あんまり無理しちゃ」
「そうもいかない。カズキが闘っている」
「……そうだな」
 頷くと蓮司は魔剣を握り締めて視線を映した。
 その先ではカズキが一人でベリトと対峙している。
 吐き出される闇の結界をエネルギーで相殺してどうにか防いでいるものの、かなりの劣勢だ。
 すぐにでも救援に向かわなければならない。
 が――
(あの眼眩ましがどうにもならねえ……)
 ベリトに闇を放出されると眼も耳も知覚も塞がれてまったく手出しができなくなってしまう。
 カズキのフラッシャーで相殺する事はできるが、その分攻撃の手数が減る。
 カズキの攻撃力を抜いたダメージではベリトを倒しきれないのは既に実証済みだった。
「くれは」
 その時声を出したのは斗貴子だった。
 彼女は厳しい目線で一人闘うカズキを見据えたまま、くれはに問う。
「以前キミが使った流星の魔法。使えるか?」
「《スターフォールダウン》? 何とか使えると思うけど……」
 答えるくれはの表情には少々陰りがあった。
 その魔法を使えるか、という点に関しては少々精神力が危ういが特に問題はない。
 闇の結界でベリトの存在が知覚できなくなったとしても、敵が消えてなくなってしまうわけではない。必ずベリトは闇の中に『いる』のだ。
 広範囲への攻撃を可能とする《スターフォールダウン》ならベリトがどこにいようと攻撃できるはずだ。魔法の威力も折り紙つき。
 だがここで問題になるのは、
「私、魔力操作あんまり得意じゃないからアイツだけを狙う事はできないよ」
 その攻撃が無差別になってしまうという事。
 以前校庭で使用した際灯と斗貴子はそれを回避する事ができたが、それも降り注ぐ魔力を知覚・視認できてこその話。
 その知覚を無効化する闇の中に放たれれば避ける事は不可能だ。
 星屑召喚ほどの大魔法の直撃を貰えばそのダメージは計り知れない。
「かまわねえよ。どの道このままじゃジリ貧なんだ、分が悪くても賭けるしかねえ」
 焦れたように言う蓮司に斗貴子は首肯して応えると、くれはに眼を向ける。
「それはこちらでどうにかする。……信じてくれ」
「頼むぜ、くれは」
「……うん。わかった」




「がっ……!」
 身体に叩き込まれた衝撃に顔を歪めてカズキは呻く。
 吹き飛ばされる身体を無理矢理に押し留めて、顔を上げた瞬間に叩きつけられる黒い極光をサンライトハートで受け止める。
 サンライトハートから放出したエネルギーを盾にしても貫いてくる衝撃にカズキが歯を食いしばり、渾身の力で闇を切り払った。
「く!」
 たたらを踏んで見据える先にはランスを掲げるベリトの姿。
 放出される暗黒を視認すると同時に彼もまたフラッシャーを放ち、相殺する。
 だが、次の瞬間に彼が見たのは、眼前に迫る巨狼。そして振り下ろされる巨大な爪牙。
 防御が間に合わず胸板を切り裂かれる。間に合わない、と判断した時点で回避に切り替えたが僅かに遅かった。

 カズキの持つ武器は突撃槍の武装錬金たるサンライトハートのみ。
 それをベリトの闇の放出に合わせてフラッシャーとして使用するために攻防においてどうしても一手が遅れてしまう。
 対するにベリトの持つ武器は闇を放出するランスと、そして巨狼自身が持つ豪腕と爪牙。
 ランスから放たれる闇を相殺しても爪牙の方に対処しきれない。
 度重なる一手の差がどうしようもなく彼の身体を傷つけていた。

(でも――!)
 カズキは傾いだ身体を強引に持ち上げると、烈火のような瞳でベリトを睨みつける。
 ここで倒れるわけにはいかないのだ。
 倒れてしまっては一人でベリトと闘っている意味がなくなってしまう。
 自分の後方では蓮司やくれはが斗貴子を助けてくれているはず。
 治療に専念させるためにもベリトは留めておかなければならない。
 今は一人でも、もう少しだけ持ちこたえれば必ず彼等は来てくれる。
 蓮司も、くれはも、そして――

「カズキ!」
「!」



 後方から響く声にカズキは身を震わせた。
 同時に身体の中心に火が灯ったように熱いものがこみ上げる。
 眼前のベリトの双眸が狂気を帯びて燃え上がり、深く身を沈ませる。
「ぉ――」
 地を蹴って爆ぜるようにベリトに突進する。己を串刺そうとするランスの穂先、血に濡れた凶槍を眼にしてカズキは更に吼えた。
「ぉおおおおっ!!」
 光と共にサンライトハートを闇槍に叩きつける。
 もう幾度目になるかわからない光と闇の交錯。弾け跳ぶエネルギーの渦。
 彼女を貫いた凶器を粉砕せんと、全霊の力を込めてサンライトハートの柄を握るカズキの拳に、細い手が重なった。
 斗貴子は力を込めてカズキの手ごとサンライトハートを握り締め、渾身の力を以てベリトに向かい地を蹴る。
 治癒しきっていない腹部に激痛が走り、顔が苦痛に歪む。
「く……ぁあああっ!!」
 しかし彼女は文字通り血を吐くように叫ぶと、カズキと共に一歩を更に踏み込んだ。
「ギ――!」
 二人の力に押し負けてベリトが吹き飛ぶ。
 だが、鬩ぎあっていたのがランス同士であったためにベリトそのものにダメージはない。
 巨狼は数mを吹き飛んだ後地を揺らすように着地して、低い唸り声を漏らしながら二人を睨み付けた。
「斗貴子さん……!」
「すまない。負担をかけた」
「いいよ、それくらい。全然平気」
 客観的に言うならカズキはまったく平気ではなかった。裂かれた胸は灼けるような痛みを感じているし、度重なるエネルギーの放出で精神的にも疲労が激しい。
 だが、カズキ本人は本当に平気だった。斗貴子の声を聞いた瞬間に、それ以上の力を得たのだ。
「くるぞ」
「……。わかってる」
 ベリトを見据えたまま漏らす斗貴子にカズキは僅かな逡巡の後応えた。
 今だ彼女がバルキリースカートを展開していないのと、サンライトハートに手をかけたままというのが不思議であったが、
戦闘において彼女の思考はカズキの推測が及ぶ所ではない。
 不謹慎を承知で付け加えるなら、重ねられている斗貴子の手の感触は心地良い。彼女がそのままでいるのなら、そのままの方がいいのだろう。
「ガァアァァァァ!!!!」
 ベリトが腕を掲げ咆哮する。
 同時に展開されたランスから暗黒が噴出して周囲を包み込む。
 名残惜しかったがカズキは斗貴子の手を外してサンライトフラッシャーを――
「え」
 思わぬ抵抗にカズキは小さく声を漏らしてしまった。
 フラッシャーを放とうとした刹那斗貴子がカズキの腕を押し、その動きを阻害したのだ。
 疑問の声を上げる間もなく、二人はベリトの放つ闇の結界に呑みこまれた。



 世界総てが黒色に染め上げられる。
 景色も、音も、感覚も総てが塗り潰された中で、斗貴子はサンライトハートと、彼の手を握り締めた。
 おそらく彼は疑問の表情を浮かべているだろうが、この闇の中ではまったく見えない。声も聞こえない。
 だから彼女はカズキの手を強く強く握った。
 何もかもが呑みこまれたこの世界で触感だけは確固として存在する事に僅かな安堵を覚えながら。


 ――― 一秒。


 握り締めてくる斗貴子の手の感触を、カズキは確かに感じていた。
 彼女の姿は見えない。声も聞こえない。
 だが、自分の手を握る細い手の感触だけは、彼女の存在を雄弁に示している。
 ならば彼がする事はただ一つ。彼女を信じるだけだ。
 この闇の中ではこちらの知覚能力は全く役に立たないが、ベリトはそうではないだろう。
 眼前のカズキ達の姿は間違いなく捕捉しているだろうし、何ら動きを見せていないのも理解しているはず。
 防御行動に意味がないとはいえ、無防備に過ぎるその二人を見逃すはずがない。


 ――― 二秒。


 無論、『それ』をベリトが見逃すはずもなかった。
 巨狼は真紅の双眸を狂気に輝かせてそれを見据える。
 赤銅の体躯をわななかせてランスを大きく構える。
 展開し更なる闇を噴出する黒色の槍。放たれる極光は眼晦ましのモノではなく、総てを呑み込んで穿ち砕く破壊のエネルギー。
 ベリトは身体を螺子のように巻き込むと、渾身の力でランスとエネルギーを撃ち出した。
 眼前にいる無防備で無力な二人――その背後。
 闇の結界の向こう、世界を喰らう巨狼をして警戒を呼び起こさせる膨大な魔力を収斂する少女に向けて。


 ――― 三秒。


 ドーム状に覆われた闇の結界の中から、槍のように極光が迸った。
 四方に大呪符を配し最大の魔力を練り上げるくれはは、巨大な瘴気と殺気を吐き散らしながら迫る破光に全く気付かない。
 意識する事ができないほどに精神を集中していた、という事も確かにある。
 だがそれ以上にくれはにはそれを意識する必要がない所以があった。
 敵の攻撃はどれほど強力であっても絶対に自分には届かないという確信。
 神道の巫女たる彼女の信仰する神々との契約よりもなお固いと言い切れるだけの信頼がある。
 何故なら自分の目の前には――


 ――― 四秒。



「うおおおおっ!!」
 蓮司はくれはに向けて迸る極光を真っ向から受けて立った。
 いっそ砕けてしまえとばかりに魔剣を闇の極光へと叩きつける。
 カズキは自らもエネルギーを放出する事でベリトの放ったエネルギーを緩和できたが、彼には己の身一つしかない。
 プラーナを全開にしてもなお身体を貫いてくる力に彼は歯を食いしばる。
 押し負けそうになる身体を奮い立たせてその場に踏み止まる。
 潰れてしまいそうな重圧を総身の力で以て捻じ伏せる。
 ここで退く訳にはいかない。
 何故なら自分の後ろには護るべきモノが――彼女がいるからだ。
 たとえ魔剣が折れても、身体が砕けても、退く訳にはいかない――!
「――おぉおおおおおっっ!!!」
 蓮司は渾身の咆哮と共に魔剣を一気に振り下ろし、大地と共に闇の極光を文字通り叩き潰した。


 ――― 五秒。


 闇のエネルギーを切り伏せた蓮司の身体が地面に沈む。
 満身創痍ではあったが、それはしかし崩れ落ちたのではない。
 力を溜めるように身を屈め、そして爆ぜるように彼は地を蹴って疾走した。

 ランスより放ったエネルギーを防がれたベリトは何ら驚く様子を見せなかった。
 それだけの思考を持ち得ないのか、それとも切り替えが早いだけなのか、ともかくベリトは即座に標的を眼前の二人に変えた。
 怒りに震えるようにガチガチと牙を噛みあわせ、ランスの矛先を無防備な二人に向けて構えると巨狼は咆哮と共に地を蹴った。

 外の顛末の一切を知覚できない暗闇の中、斗貴子は静かにそれを待つ。
 彼女の脳裏に浮かんでいるのはつい先日の記憶。
 無数の影狼達に囲まれた戦場で、紅い髪の少女はこう言った。


"一掃する。敵を接近させないで"

"……何秒?"


 ――――――― 六秒!!



 同じ暗闇の中でカズキは斗貴子がサンライトハートを掲げるの感じた。
 眼は見えなくとも、声は聞こえなくとも、その手の感触と彼女の意思は間違いなく彼に受け止められた。

「――サンライトフラッシャーッ!!!」

 周囲の闇を吹き払い、遍く戦場を照らし出す陽光が迸る。
 露になる世界。目の前の巨狼。
 そして――

「――《スターフォールダウン》!!」

 ――降り注ぐ、流星光。

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