《メイワクな子供達 ~Trouble makers/Lost children~》
目が覚めれば、窓から差し込む日は既に高かった。
「……腹減った」
ぐぅぅぅ~~~、と自己主張する胃袋を押さえてベッドの上に身を起こし、柊は情けない声を上げる。
「ちょっとうるさい、ですよ」
「しょーがねぇだろ! 腹減ってんだよ! いいよな、お前は水で済むから……」
サボテンの言葉に返す声も、空腹のあまり尻すぼみになる。
結局、昨日は瑠璃に付き合って洞窟に行ったため、買出しもできず、きちんとした食事を取ることもなかった。せいぜい口にしたのは、ティーポに出してもらった茶菓子くらいである。
間の悪いことに、月衣に持ち歩いている非常食は、この間の任務の最中に食べ尽くしてしまっていた。無いとわかっているのに月衣の中を漁るのも虚しく、昨日は着替えだけを出して着替え、力尽きるようにベッドに倒れて寝入ったのだった。
「しゃーねぇ、動けるうちに買出し行くか」
ぼやいて、勢いよく立ち上がる。このままだと空腹のあまり動くのも億劫になりかねない、と手早く身支度を整え、
「サボテン、ちょっと出かけてくるから、留守頼むな」
「おみやげ話、よろしく。ですよ」
サボテンとそんなやり取りを交わしてから、階段を下りて、玄関を開けた。
途端、
「――大変よぉ~~~~~ッ!」
「どぅわ!?」
開けた先にいた相手からドアップで甲高い絶叫攻撃を受けて、思わず仰け反った。
「な、なんだぁ……?」
呻きつつ、一歩引いて、絶叫の主を観察する。
それは、人間大のペリカンだった。洋画などで見覚えのある円筒型ポスト、その蓋のような帽子を被り、くちばしの袋には“〒”のマーク。その高い声や話し方からして、どうやら女性(メス?)らしい。
「大変よ! 大変!」
「何がだ!? つか、お前誰だよ!? うちに何の用だ!?」
ばたばたと羽を動かしながらひたすら喚き続けるのに、柊が堪らずツッコむと、相手はぴたりと動きを止めて、
「ミーはキュートな郵便ペリカン♪ トウディもバリバリ、配達配達♪」
何故か、変な歌を歌いながら答えた。
「やっぱペリカンなのか! ……って、郵便屋ってことはうちに何か届けんもんか?」
「そ~よ~♪ はい、お手紙~♪」
柊の言葉に頷くと、ペリカンは自身のくちばしの袋に羽を突っ込んで、器用に中から一枚の葉書を取り出した。
「……な、なんか微妙にヤな感じだな……」
柊は思わずボソリと呟く。ヒトの口(というか、ペリカンのくちばし)から出されたものを受け取るのは、ちょっと抵抗がある。人として。
「ん? どうかしたの?」
「い、いや……なんでもねぇ……」
不思議そうに首を傾げて葉書を差し出してくるペリカンに、柊は力なく頭を振って答える。そうして、恐る恐る、といった手つきで葉書を受け取った。
葉書は、特に汚れもなく、綺麗な状態だった。これでなんか濡れてたりしたら、という内心の不安が杞憂に終わって、柊はとりあえず安堵の息を吐いた。そうして、改めて葉書を見る。
葉書の宛名には、柊の名前。差出人の名の部分には――
「……レイチェル?」
目を瞬いて柊は呟く。てっきり、家の主であるユウに宛てられたものだと思っていたので、自身宛というだけでも驚いたのに、更に意外な差出人に戸惑わずにいられなかった。
ひっくり返して、文面に目を通す。文章は三行、内容は実にシンプルだった。
酒場で助けてもらってありがとうございました、という礼。両親が厄介ごとを無理に頼んだようですみませんでした、という謝罪。最後に、一度お礼とお詫びを兼ねて何かご馳走するので、是非近いうちにまた酒場に来てください、というお誘いで締められていた。
「……律儀だな、あの娘(こ)」
口数は少ないがいい子だな、そう思って柊は呟き、
「で、大変なのよぉ~~~っ!」
「だぁっ!? ……だ、だから何が大変なんだよ!?」
思い出したようにまた喚きだしたペリカンの声に、再び身を仰け反らせた。
ペリカンは仰け反った柊に詰め寄るように身を乗り出すと、
「ドミナの町の西の方に、変なカボチャが大発生したの!」
「……はあ? カボチャ?」
騒ぎ立てる割には危機感のない内容に、柊は思わず眉をしかめる。
(“変な”って、突然変異種か何かか?)
しらけた様子の柊には構わず、ペリカンはおどろおどろしい声を作って言った。
「きっと、悪ぅーい、悪ぅーい魔法使いが、カボチャの大群でミー達をミナゴロシにする気よ! ミーは安心してお手紙配達できないじゃない!」
「いや、どんなカボチャだよ、それ。つか、あんた、ちゃんと配達してるじゃねぇか」
柊のツッコミを華麗にスルーして、ペリカンはくるりと踵を返す。
「もう行かなきゃ! ミーはとっても怖くてドキドキしてるの!」
最後に、怖がってるんだか楽しんでるんだかわからない声でそう言うなり、翼を広げて飛び立っていった。
「……なんだったんだ、今の……」
空腹に加え、妙な脱力感と疲労感を与えられてへたり込みそうになりながら、柊は呻くようにそう呟いた。
「……腹減った」
ぐぅぅぅ~~~、と自己主張する胃袋を押さえてベッドの上に身を起こし、柊は情けない声を上げる。
「ちょっとうるさい、ですよ」
「しょーがねぇだろ! 腹減ってんだよ! いいよな、お前は水で済むから……」
サボテンの言葉に返す声も、空腹のあまり尻すぼみになる。
結局、昨日は瑠璃に付き合って洞窟に行ったため、買出しもできず、きちんとした食事を取ることもなかった。せいぜい口にしたのは、ティーポに出してもらった茶菓子くらいである。
間の悪いことに、月衣に持ち歩いている非常食は、この間の任務の最中に食べ尽くしてしまっていた。無いとわかっているのに月衣の中を漁るのも虚しく、昨日は着替えだけを出して着替え、力尽きるようにベッドに倒れて寝入ったのだった。
「しゃーねぇ、動けるうちに買出し行くか」
ぼやいて、勢いよく立ち上がる。このままだと空腹のあまり動くのも億劫になりかねない、と手早く身支度を整え、
「サボテン、ちょっと出かけてくるから、留守頼むな」
「おみやげ話、よろしく。ですよ」
サボテンとそんなやり取りを交わしてから、階段を下りて、玄関を開けた。
途端、
「――大変よぉ~~~~~ッ!」
「どぅわ!?」
開けた先にいた相手からドアップで甲高い絶叫攻撃を受けて、思わず仰け反った。
「な、なんだぁ……?」
呻きつつ、一歩引いて、絶叫の主を観察する。
それは、人間大のペリカンだった。洋画などで見覚えのある円筒型ポスト、その蓋のような帽子を被り、くちばしの袋には“〒”のマーク。その高い声や話し方からして、どうやら女性(メス?)らしい。
「大変よ! 大変!」
「何がだ!? つか、お前誰だよ!? うちに何の用だ!?」
ばたばたと羽を動かしながらひたすら喚き続けるのに、柊が堪らずツッコむと、相手はぴたりと動きを止めて、
「ミーはキュートな郵便ペリカン♪ トウディもバリバリ、配達配達♪」
何故か、変な歌を歌いながら答えた。
「やっぱペリカンなのか! ……って、郵便屋ってことはうちに何か届けんもんか?」
「そ~よ~♪ はい、お手紙~♪」
柊の言葉に頷くと、ペリカンは自身のくちばしの袋に羽を突っ込んで、器用に中から一枚の葉書を取り出した。
「……な、なんか微妙にヤな感じだな……」
柊は思わずボソリと呟く。ヒトの口(というか、ペリカンのくちばし)から出されたものを受け取るのは、ちょっと抵抗がある。人として。
「ん? どうかしたの?」
「い、いや……なんでもねぇ……」
不思議そうに首を傾げて葉書を差し出してくるペリカンに、柊は力なく頭を振って答える。そうして、恐る恐る、といった手つきで葉書を受け取った。
葉書は、特に汚れもなく、綺麗な状態だった。これでなんか濡れてたりしたら、という内心の不安が杞憂に終わって、柊はとりあえず安堵の息を吐いた。そうして、改めて葉書を見る。
葉書の宛名には、柊の名前。差出人の名の部分には――
「……レイチェル?」
目を瞬いて柊は呟く。てっきり、家の主であるユウに宛てられたものだと思っていたので、自身宛というだけでも驚いたのに、更に意外な差出人に戸惑わずにいられなかった。
ひっくり返して、文面に目を通す。文章は三行、内容は実にシンプルだった。
酒場で助けてもらってありがとうございました、という礼。両親が厄介ごとを無理に頼んだようですみませんでした、という謝罪。最後に、一度お礼とお詫びを兼ねて何かご馳走するので、是非近いうちにまた酒場に来てください、というお誘いで締められていた。
「……律儀だな、あの娘(こ)」
口数は少ないがいい子だな、そう思って柊は呟き、
「で、大変なのよぉ~~~っ!」
「だぁっ!? ……だ、だから何が大変なんだよ!?」
思い出したようにまた喚きだしたペリカンの声に、再び身を仰け反らせた。
ペリカンは仰け反った柊に詰め寄るように身を乗り出すと、
「ドミナの町の西の方に、変なカボチャが大発生したの!」
「……はあ? カボチャ?」
騒ぎ立てる割には危機感のない内容に、柊は思わず眉をしかめる。
(“変な”って、突然変異種か何かか?)
しらけた様子の柊には構わず、ペリカンはおどろおどろしい声を作って言った。
「きっと、悪ぅーい、悪ぅーい魔法使いが、カボチャの大群でミー達をミナゴロシにする気よ! ミーは安心してお手紙配達できないじゃない!」
「いや、どんなカボチャだよ、それ。つか、あんた、ちゃんと配達してるじゃねぇか」
柊のツッコミを華麗にスルーして、ペリカンはくるりと踵を返す。
「もう行かなきゃ! ミーはとっても怖くてドキドキしてるの!」
最後に、怖がってるんだか楽しんでるんだかわからない声でそう言うなり、翼を広げて飛び立っていった。
「……なんだったんだ、今の……」
空腹に加え、妙な脱力感と疲労感を与えられてへたり込みそうになりながら、柊は呻くようにそう呟いた。
◇ ◆ ◇
「うわ、結構混んでるな」
訪れた酒場が昨日とは打って変わって賑わっているのに、柊は思わず呟いた。
昼過ぎの半端な時刻でこれなのだから、おそらく、これから日が暮れれば、更に混みあうのだろう。
「えーと……」
空いてる席を探して店内を見回し、その拍子にウェイトレスと目が合った。
「……いらっしゃいませ。来てくれたんですね」
静かな口調で言ったそのウェイトレスは、レイチェルだった。
「おう、出かけに手紙受け取ったぜ。……当てにしているようでなんだが、ホントに奢ってもらってもいいのか?」
「お礼ですから……」
相変わらずの無表情で淡々と言う。翡翠の瞳に、不快そうな色はない。
それから、レイチェルは柊を空席に案内し、
「ご注文は?」
「あー……とりあえず、何かオススメの料理頼むわ。腹が膨れるようなやつ」
メニューをちらりと見たものの、名前を見てもさっぱりどんな料理かわからない。柊はレイチェルに任せることにした。
「わかりました。少々お待ち下さい」
事務的な調子で頷くと、レイチェルは厨房の方へと足早に向かっていった。
料理が来るまでの間、手持ち無沙汰だな、と柊は深々と椅子の背もたれにもたれかかるが、
「しっかし、町外れのカボチャはなんなんだろうなー」
隣の席から聞こえたその言葉に、思わず身を起こしてそちらを見遣った。
「……カボチャ?」
思わず呟いたその声が聞こえたのか、隣の客達が柊の方を振り返った。
獣人と植物人の二人連れはきょとんと柊を見遣ると、次いで観察するようにまじまじと見詰めて、
「きみ、もしかして何も混ざってない?」
驚いたように、獣人が言った。質問の意味がうまくつかめず、柊は首を傾げる。
「……混ざってない?」
「えーと、言葉が悪かったかな? なんていうか、獣人とかじゃなくて、“純粋な人間”なのか、ってこと」
「おい、その言い方だと、私達が人間じゃないみたいだぞ」
苦笑したように植物人がツッコむ。
「いや、もちろんぼくらも人間だけどさ。種族としての“純粋な人間”って意味だよ」
やはり苦笑したように言う獣人の言葉に、柊は目を瞬いた。
彼らの言い様からして、この世界では獣人も植物人も――おそらくは、マーク一家のような昆虫人も、まとめて人間と称されるらしい。そして、その呼称とは別に、純粋に種族としての“人間”も存在する、ということなのだろう。
「ああ、確かにそういう意味なら俺は“純粋な人間”だな」
「やっぱり! ガトなんかには古い血筋が結構残ってて割といるみたいだけど、こんな田舎ではあんまり見ないから、驚いたよ」
柊の返答に、獣人は破顔した。物珍しがるような言葉だが、その口調に不快な響きはない。
「あ、もしかして昨日、町の厄介者を追い払った人間っていうのは君かい?」
植物人が気がついたように言う。柊は思わず苦笑した。
「ああ、瑠璃か。別に、追っ払ったって訳じゃねぇよ。捜しものに付き合ってやっただけだぜ。町からいなくなったってんなら、もう用がなくなったからだろ」
「へぇ……あれ、捜し物してたのか。てっきり恫喝してるのかと思ってたぞ、私は」
呆れたように言うのに、柊としては苦笑するしかない。フォローしてやりたくとも、言うべき言葉がなかった。
と、獣人が微かに顔をしかめて言う。
「でも、あの男にはもう関わらない方がいいと思うよ」
「いや、んな避けるほど悪いやつでもねぇぞ、あいつ」
ただちょっとテンパっちまってただけで、という柊に、獣人は首を振る。
「そういうことじゃなくて……彼は、珠魅みたいだから」
「……ジュミ?」
聞き覚えのない単語に、柊は鸚鵡返しに呟いて眉を寄せた。
獣人は少々頼りなげな表情で、
「ぼくもよくは知らないんだけど……人間とは違う、排他的な種族らしいよ」
この場合の人間とは、種族ではなく、大きな括りでの人間という意味だろう。
「詳しく知りたかったら、教会のヌヴェルさんに訊くといい。彼は博識だから。歴史や伝説、あらゆる種族について、たいていのことは知ってるよ」
「へぇ……」
呟きながら、柊は昨日の瑠璃の様子を思い出していた。
柊の技倆を知った直後のあの警戒。あの時の瑠璃には、柊の対応次第で即座に斬りかかってきそうな敵意があった。排他的、というのは、ああいうことなのだろうか。
と、そこで、レイチェルが料理を持って戻ってきて、獣人達との会話はそこで切れた。
「お待たせしました」
「……パイ?」
レイチェルが持ってきたのは、ボリュームのあるパイだった。ほのかに漂う甘い香り。
「はい、パンプキンボムのパイです。……お嫌いでしたか?」
ほんの僅かに彼女の無表情が崩れて、不安げな色が覗く。
「いや……嫌いって言うか、食ったことないって言うか……えと、ようはカボチャなんだよな?」
ボム、という不穏当な名前に、柊は思わずそう訊かずにはいられなかった。レイチェルが頷くのに、とりあえず安堵して、かぶりつく。
「――お、うめぇ」
味は、普通のパンプキンパイだった。いや、普通より上等なくらいだろう。表面はカリッと、中はホクホク。カボチャの甘みがしっかり生きている。
「うまいな、これ。サンキューな、レイチェル」
柊が忙しく口と手を動かす合間にそう告げれば、レイチェルは一瞬、ほのかに口許をほころばせたように見えた。すぐに無表情に戻ってしまったが。
「うちの店長の十八番で……ただ、ここはお酒の席ですから、普段はあんまり注文されないんだけど……今日は売れてるみたい」
いつもの淡々とした調子での言葉に、柊は首を傾げる。口の中のものを嚥下して、
「もしかして……町外れのカボチャ、とかいうやつのせいか?」
その言葉にレイチェルは小さく頷く。
「みんな、空き地に突然現れたカボチャ畑を見て、無性にカボチャが食べたくなったみたいで……」
「……ちょ、ちょっと待て。突然現れたカボチャ畑?」
訳のわからない言葉に、柊は思わず顔をしかめた。
「ええ、今朝起きたら突然、町外れの空き地がカボチャに占拠されてて……」
告げるレイチェルは淡々としているが、それはかなりの異常事態ではなかろうか。
(なるほど、それであのペリカン、あんな騒いでたのか)
たかがカボチャ、されど、その出現の唐突さは、確かに騒ぐに値する。
「パンプキンボムに見た目は似てるんだけど……ずっと大きいし、どうも食用じゃないらしくて味は良くないみたい」
「って、食ったやついるのかよ! んな得体の知れねぇもん!?」
「……店長が。食用パンプキンボムなら儲けものだって」
淡々とした調子で告げられて、柊は唖然と返す言葉を失った。
その様子に、フォローするようにレイチェルは言葉を続ける。
「……普通のカボチャはともかく、パンプキンボムは、マナの強い土地でしか採れなくて……その分味もいいけど……この辺りでは取れないから、ドミナではガトの近くの農村から仕入れてて」
でも、その分値が張ってしまう、と微かにレイチェルは顔を曇らせたようだった。
「昔は、ユウが自分の家で育てたやつを、よく安値で売ってくれたんだけど……パンプキンボムだけじゃなくて、マナの強いところでないと育たない野菜や果物を、色々……」
「……あの家、畑なんかあったのか?」
敷地はざっと見回ったが、と思わず呟いた柊の言葉に、レイチェルは微かに目を見開いた。
「あ……そういえば、今、あなたがあそこに住んでるって……」
柊が頷くと、レイチェルは軽く思い出すように虚空を見上げて、
「ユウがいなくなってしばらくして、町の皆が、果樹園だけでも維持しておこうとしたらしいんだけど……結局、駄目になってしまったって……」
多分、ユウは特別な肥料か何かをあげていたんだと思う、と首を傾げた。
「ふぅん……」
相槌を打ちつつも、もう一度きちんと敷地内を見て回るか、などと思って、柊はもう一口パイを口に運んだ。
訪れた酒場が昨日とは打って変わって賑わっているのに、柊は思わず呟いた。
昼過ぎの半端な時刻でこれなのだから、おそらく、これから日が暮れれば、更に混みあうのだろう。
「えーと……」
空いてる席を探して店内を見回し、その拍子にウェイトレスと目が合った。
「……いらっしゃいませ。来てくれたんですね」
静かな口調で言ったそのウェイトレスは、レイチェルだった。
「おう、出かけに手紙受け取ったぜ。……当てにしているようでなんだが、ホントに奢ってもらってもいいのか?」
「お礼ですから……」
相変わらずの無表情で淡々と言う。翡翠の瞳に、不快そうな色はない。
それから、レイチェルは柊を空席に案内し、
「ご注文は?」
「あー……とりあえず、何かオススメの料理頼むわ。腹が膨れるようなやつ」
メニューをちらりと見たものの、名前を見てもさっぱりどんな料理かわからない。柊はレイチェルに任せることにした。
「わかりました。少々お待ち下さい」
事務的な調子で頷くと、レイチェルは厨房の方へと足早に向かっていった。
料理が来るまでの間、手持ち無沙汰だな、と柊は深々と椅子の背もたれにもたれかかるが、
「しっかし、町外れのカボチャはなんなんだろうなー」
隣の席から聞こえたその言葉に、思わず身を起こしてそちらを見遣った。
「……カボチャ?」
思わず呟いたその声が聞こえたのか、隣の客達が柊の方を振り返った。
獣人と植物人の二人連れはきょとんと柊を見遣ると、次いで観察するようにまじまじと見詰めて、
「きみ、もしかして何も混ざってない?」
驚いたように、獣人が言った。質問の意味がうまくつかめず、柊は首を傾げる。
「……混ざってない?」
「えーと、言葉が悪かったかな? なんていうか、獣人とかじゃなくて、“純粋な人間”なのか、ってこと」
「おい、その言い方だと、私達が人間じゃないみたいだぞ」
苦笑したように植物人がツッコむ。
「いや、もちろんぼくらも人間だけどさ。種族としての“純粋な人間”って意味だよ」
やはり苦笑したように言う獣人の言葉に、柊は目を瞬いた。
彼らの言い様からして、この世界では獣人も植物人も――おそらくは、マーク一家のような昆虫人も、まとめて人間と称されるらしい。そして、その呼称とは別に、純粋に種族としての“人間”も存在する、ということなのだろう。
「ああ、確かにそういう意味なら俺は“純粋な人間”だな」
「やっぱり! ガトなんかには古い血筋が結構残ってて割といるみたいだけど、こんな田舎ではあんまり見ないから、驚いたよ」
柊の返答に、獣人は破顔した。物珍しがるような言葉だが、その口調に不快な響きはない。
「あ、もしかして昨日、町の厄介者を追い払った人間っていうのは君かい?」
植物人が気がついたように言う。柊は思わず苦笑した。
「ああ、瑠璃か。別に、追っ払ったって訳じゃねぇよ。捜しものに付き合ってやっただけだぜ。町からいなくなったってんなら、もう用がなくなったからだろ」
「へぇ……あれ、捜し物してたのか。てっきり恫喝してるのかと思ってたぞ、私は」
呆れたように言うのに、柊としては苦笑するしかない。フォローしてやりたくとも、言うべき言葉がなかった。
と、獣人が微かに顔をしかめて言う。
「でも、あの男にはもう関わらない方がいいと思うよ」
「いや、んな避けるほど悪いやつでもねぇぞ、あいつ」
ただちょっとテンパっちまってただけで、という柊に、獣人は首を振る。
「そういうことじゃなくて……彼は、珠魅みたいだから」
「……ジュミ?」
聞き覚えのない単語に、柊は鸚鵡返しに呟いて眉を寄せた。
獣人は少々頼りなげな表情で、
「ぼくもよくは知らないんだけど……人間とは違う、排他的な種族らしいよ」
この場合の人間とは、種族ではなく、大きな括りでの人間という意味だろう。
「詳しく知りたかったら、教会のヌヴェルさんに訊くといい。彼は博識だから。歴史や伝説、あらゆる種族について、たいていのことは知ってるよ」
「へぇ……」
呟きながら、柊は昨日の瑠璃の様子を思い出していた。
柊の技倆を知った直後のあの警戒。あの時の瑠璃には、柊の対応次第で即座に斬りかかってきそうな敵意があった。排他的、というのは、ああいうことなのだろうか。
と、そこで、レイチェルが料理を持って戻ってきて、獣人達との会話はそこで切れた。
「お待たせしました」
「……パイ?」
レイチェルが持ってきたのは、ボリュームのあるパイだった。ほのかに漂う甘い香り。
「はい、パンプキンボムのパイです。……お嫌いでしたか?」
ほんの僅かに彼女の無表情が崩れて、不安げな色が覗く。
「いや……嫌いって言うか、食ったことないって言うか……えと、ようはカボチャなんだよな?」
ボム、という不穏当な名前に、柊は思わずそう訊かずにはいられなかった。レイチェルが頷くのに、とりあえず安堵して、かぶりつく。
「――お、うめぇ」
味は、普通のパンプキンパイだった。いや、普通より上等なくらいだろう。表面はカリッと、中はホクホク。カボチャの甘みがしっかり生きている。
「うまいな、これ。サンキューな、レイチェル」
柊が忙しく口と手を動かす合間にそう告げれば、レイチェルは一瞬、ほのかに口許をほころばせたように見えた。すぐに無表情に戻ってしまったが。
「うちの店長の十八番で……ただ、ここはお酒の席ですから、普段はあんまり注文されないんだけど……今日は売れてるみたい」
いつもの淡々とした調子での言葉に、柊は首を傾げる。口の中のものを嚥下して、
「もしかして……町外れのカボチャ、とかいうやつのせいか?」
その言葉にレイチェルは小さく頷く。
「みんな、空き地に突然現れたカボチャ畑を見て、無性にカボチャが食べたくなったみたいで……」
「……ちょ、ちょっと待て。突然現れたカボチャ畑?」
訳のわからない言葉に、柊は思わず顔をしかめた。
「ええ、今朝起きたら突然、町外れの空き地がカボチャに占拠されてて……」
告げるレイチェルは淡々としているが、それはかなりの異常事態ではなかろうか。
(なるほど、それであのペリカン、あんな騒いでたのか)
たかがカボチャ、されど、その出現の唐突さは、確かに騒ぐに値する。
「パンプキンボムに見た目は似てるんだけど……ずっと大きいし、どうも食用じゃないらしくて味は良くないみたい」
「って、食ったやついるのかよ! んな得体の知れねぇもん!?」
「……店長が。食用パンプキンボムなら儲けものだって」
淡々とした調子で告げられて、柊は唖然と返す言葉を失った。
その様子に、フォローするようにレイチェルは言葉を続ける。
「……普通のカボチャはともかく、パンプキンボムは、マナの強い土地でしか採れなくて……その分味もいいけど……この辺りでは取れないから、ドミナではガトの近くの農村から仕入れてて」
でも、その分値が張ってしまう、と微かにレイチェルは顔を曇らせたようだった。
「昔は、ユウが自分の家で育てたやつを、よく安値で売ってくれたんだけど……パンプキンボムだけじゃなくて、マナの強いところでないと育たない野菜や果物を、色々……」
「……あの家、畑なんかあったのか?」
敷地はざっと見回ったが、と思わず呟いた柊の言葉に、レイチェルは微かに目を見開いた。
「あ……そういえば、今、あなたがあそこに住んでるって……」
柊が頷くと、レイチェルは軽く思い出すように虚空を見上げて、
「ユウがいなくなってしばらくして、町の皆が、果樹園だけでも維持しておこうとしたらしいんだけど……結局、駄目になってしまったって……」
多分、ユウは特別な肥料か何かをあげていたんだと思う、と首を傾げた。
「ふぅん……」
相槌を打ちつつも、もう一度きちんと敷地内を見て回るか、などと思って、柊はもう一口パイを口に運んだ。
◇ ◆ ◇
「あら! あらあらあらあら! 柊くんじゃな~い♪」
食料を仕入れるなら、商店街よりバザールの方がいい、というレイチェルのアドバイスに従い、食事を終えてバザールを訪れた柊に、高い女性の声がかかった。
「え、えと……ジェニファー……さん、だっけ」
「あらぁ、覚えててくれたの~! 嬉しいわー!」
声に比例してテンションの高いレイチェルの母親は、抱きつきそうな勢いで柊に駆け寄ってきた。
「お買い物~? 何買うの? いいお店教えるわよ~!」
「――相変わらずメンクイだねー、アンタ」
はしゃぐジェニファーに冷めた声をかけたのは、すぐ脇で露天を開いていた女性だった。
柊よりいくつか年上だろう。葡萄を思わせる型と色をした髪の、植物人。色とりどりのフルーツを放り込んだ編み籠の中に立っているため、彼女もフルーツに紛れてしまいそうだった。
彼女はすらりと均整の取れた肢体を前かがみにして、柊の顔を覗き込む。
「ふぅん、でもまあ、騒ぐのもわかるけどね。なかなかいい男だし。けど、まだまだ子供って感じ」
面と向かってずけずけと物言う。物言いのはっきりした目つきのきつい美人、というのに、柊は思わず姉を連想した。苦手な感じだ。いや、ジェニファーも得意なタイプではないのだが。
「あ、アタシはメイメイ。占い屋。一回やってく? カッコいいオニイサン」
お兄さん、の部分が思いっきり棒読みである。さっきの言葉通り、子供、と思っているのが丸わかりだ。
「いや、俺は……」
柊がしどろもどろに後退ると、メイメイはあっさり身を引いて、
「あ、そ。ま、大して当たんないしね。賢いよ、アンタ」
「あら~、そんなことないわよ~。メイメイちゃんの占いはよく当たるもの~」
対称的にジェニファーがそう食い下がった。
「わたしが一回奢るから、占ってみてもらいなさいよ、ね?」
「いや、でも、悪ぃし……」
さっき娘に食事を奢ってもらって、すぐ後にその母親に占いを奢ってもらう、というのも気が引ける。
「まあまあまあ、大した金額でもないし、どうしても気になるって言うなら、レイチェルを助けてもらったお礼ってことにするから。――あ、もうお礼貰ったっていうのはなしよ? わたしはお礼してないもの」
言おうとした台詞を先回りされ、柊は言葉を詰まらせた。
(このおばさん、苦手だ……)
『得意ではない』どころではなかった。冷めてる分あっさり引いてくれるメイメイより、余程難敵である。
「じゃ、話がまとまったところで。はい♪」
柊の沈黙を了承と勝手に受け取って、ジェニファーがメイメイに小銭を手渡した。
受け取ったメイメイは疲れたような柊に目をやって、軽く嘆息する。
「ま、払ってくれるってんなら、誰が出した金でもいいけどね。老後の蓄えだからね」
まだ若いのに、妙にババクサイことを言う。
「じゃ、ま、やりますか」
受け取った小銭をしまうと、彼女は軽く言って両手を天に掲げた。
「……ビタミン、カロチン、カリウム、ファイバー……ポリフェノォ~~~ルッ!」
掛け声と共に、籠ごとぐるんぐるん身体を回転させる。
ドン引く柊の前で、やがて、ぴたっ、と動きを止めると、自身の真ん前に回って来たフルーツを手にとって掲げ、
「ふ~む、これは……『カボチャがきっかけで新しい家族が』? なんじゃこりゃ」
自分で自分の占いの結果に首を傾げた。
「……カボチャ?」
「それって、空き地のカボチャのことかしら?」
眉をしかめる柊に、首を傾げるジェニファー。
「つか、『新しい家族』ってなんだ」
「もしかしてお嫁さんのことかもしれないわ! 素敵~!」
柊の疑問に答え、ジェニファーが黄色い悲鳴を上げる。
「とりあえず、空き地に行ってみましょうよ! 運命の相手がお待ちかねかも知れないわ!」
「いや、得体の知れないカボチャ畑にいる運命の相手ってどんなだよ!」
張り切るジェニファーに柊は思わずツッコんだ。柊は別段ロマンチストではないが、それでも微妙にそんな運命は嫌だ。
「まあまあ、いいじゃない、いいじゃない! いきましょ~!!」
「え、あ、おい!」
強引に、その細腕のどこからそんな力が出るのか、とツッコみたくなる勢いで。
ジェニファーに引きずられる形で、柊は結局そのカボチャ畑に向かう羽目となった。
食料を仕入れるなら、商店街よりバザールの方がいい、というレイチェルのアドバイスに従い、食事を終えてバザールを訪れた柊に、高い女性の声がかかった。
「え、えと……ジェニファー……さん、だっけ」
「あらぁ、覚えててくれたの~! 嬉しいわー!」
声に比例してテンションの高いレイチェルの母親は、抱きつきそうな勢いで柊に駆け寄ってきた。
「お買い物~? 何買うの? いいお店教えるわよ~!」
「――相変わらずメンクイだねー、アンタ」
はしゃぐジェニファーに冷めた声をかけたのは、すぐ脇で露天を開いていた女性だった。
柊よりいくつか年上だろう。葡萄を思わせる型と色をした髪の、植物人。色とりどりのフルーツを放り込んだ編み籠の中に立っているため、彼女もフルーツに紛れてしまいそうだった。
彼女はすらりと均整の取れた肢体を前かがみにして、柊の顔を覗き込む。
「ふぅん、でもまあ、騒ぐのもわかるけどね。なかなかいい男だし。けど、まだまだ子供って感じ」
面と向かってずけずけと物言う。物言いのはっきりした目つきのきつい美人、というのに、柊は思わず姉を連想した。苦手な感じだ。いや、ジェニファーも得意なタイプではないのだが。
「あ、アタシはメイメイ。占い屋。一回やってく? カッコいいオニイサン」
お兄さん、の部分が思いっきり棒読みである。さっきの言葉通り、子供、と思っているのが丸わかりだ。
「いや、俺は……」
柊がしどろもどろに後退ると、メイメイはあっさり身を引いて、
「あ、そ。ま、大して当たんないしね。賢いよ、アンタ」
「あら~、そんなことないわよ~。メイメイちゃんの占いはよく当たるもの~」
対称的にジェニファーがそう食い下がった。
「わたしが一回奢るから、占ってみてもらいなさいよ、ね?」
「いや、でも、悪ぃし……」
さっき娘に食事を奢ってもらって、すぐ後にその母親に占いを奢ってもらう、というのも気が引ける。
「まあまあまあ、大した金額でもないし、どうしても気になるって言うなら、レイチェルを助けてもらったお礼ってことにするから。――あ、もうお礼貰ったっていうのはなしよ? わたしはお礼してないもの」
言おうとした台詞を先回りされ、柊は言葉を詰まらせた。
(このおばさん、苦手だ……)
『得意ではない』どころではなかった。冷めてる分あっさり引いてくれるメイメイより、余程難敵である。
「じゃ、話がまとまったところで。はい♪」
柊の沈黙を了承と勝手に受け取って、ジェニファーがメイメイに小銭を手渡した。
受け取ったメイメイは疲れたような柊に目をやって、軽く嘆息する。
「ま、払ってくれるってんなら、誰が出した金でもいいけどね。老後の蓄えだからね」
まだ若いのに、妙にババクサイことを言う。
「じゃ、ま、やりますか」
受け取った小銭をしまうと、彼女は軽く言って両手を天に掲げた。
「……ビタミン、カロチン、カリウム、ファイバー……ポリフェノォ~~~ルッ!」
掛け声と共に、籠ごとぐるんぐるん身体を回転させる。
ドン引く柊の前で、やがて、ぴたっ、と動きを止めると、自身の真ん前に回って来たフルーツを手にとって掲げ、
「ふ~む、これは……『カボチャがきっかけで新しい家族が』? なんじゃこりゃ」
自分で自分の占いの結果に首を傾げた。
「……カボチャ?」
「それって、空き地のカボチャのことかしら?」
眉をしかめる柊に、首を傾げるジェニファー。
「つか、『新しい家族』ってなんだ」
「もしかしてお嫁さんのことかもしれないわ! 素敵~!」
柊の疑問に答え、ジェニファーが黄色い悲鳴を上げる。
「とりあえず、空き地に行ってみましょうよ! 運命の相手がお待ちかねかも知れないわ!」
「いや、得体の知れないカボチャ畑にいる運命の相手ってどんなだよ!」
張り切るジェニファーに柊は思わずツッコんだ。柊は別段ロマンチストではないが、それでも微妙にそんな運命は嫌だ。
「まあまあ、いいじゃない、いいじゃない! いきましょ~!!」
「え、あ、おい!」
強引に、その細腕のどこからそんな力が出るのか、とツッコみたくなる勢いで。
ジェニファーに引きずられる形で、柊は結局そのカボチャ畑に向かう羽目となった。
◇ ◆ ◇
商店街を通って、脇にある噴水の広場を抜け、街の喧騒から離れた民家の立ち並ぶ田舎道へ。その更に向こうに、空き地だった場所はあった。
「……カボチャ……確かにカボチャだけど……」
呆然と、柊は呻く。
辺りを埋め尽くすように伸びるツタ。そこについた大量の実。子供の背丈ほどもありそうな直径の、オレンジ色のその実には、笑みの形をした目と口、鼻のような割れ目。
「ジャック・オ・ランタン……?」
呻く柊の声を掻き消すように、不気味な笑い声が響き渡る。
ケケケケケ、というその怪笑は、辺りに実る巨大なカボチャの口から。怪奇現象ここに極まれり、といった感じである。
「……え、えと……」
やたらとテンションの高かったジェニファーも、この異様な雰囲気に怖気づいたような様子で、
「で、出会いの邪魔をしちゃ悪いし……わたしはここで! じゃあね、柊くん!」
そう言い残すと、脱兎の如く、元来た方へ逃げ出した。
「あ、おい!」
思わず叫んだ柊の声も、カボチャの嗤いに掻き消される。
異様な空間に一人残され、柊は呆然と立ち尽くし、
(ここまで来て、ただ帰るのもなんだかなぁ……)
そう思って、中へと歩を進めた。もしかしたらこの怪奇現象の原因も見つかるかもしれないしな、と、寧ろ自分に言い聞かせる風に思った時。
「――ケケケケケ!」
響いた、一際高い笑い声に、そちらに視線を転じた。
巨大なカボチャの向こう。一面、ツタと葉の緑と実のオレンジしかない空間で、目を引く深い葡萄色。
覗きこんだ先にいたのは、年の頃六、七歳に見える子供。短い葡萄色の髪から覗く、少し尖った大きな耳。奇妙な笑いを顔に貼り付けているが、顔立ちそのものは整っている。年のせいも相俟って、男女の判断がつけづらい。服装も深緑のローブで、判断材料にはならなかった。
「バド~、そういう笑い方やめてー」
と、その子供に、別の声がかかる。少し離れたカボチャの上に腰掛ける、小さな人影。
声の主は、バドと呼ばれた子供とよく似た容貌で、まるで鏡写しのようだった。年の頃も同じくらい、背丈にも差はない。
違うのは、その葡萄色の髪を長く伸ばして頭の上で結わいていること、身に纏うものが深紅のワンピースだということ、あとはどこか呆れたようなその表情くらい。
「コロナ! お前も笑え! 支配者スマイルだッ!」
ケケケケケケッ! という例の奇怪な笑い声を上げて、バドが鏡写しの少女に言う。
「カボチャで世界を支配するの? バッカみたい!」
対照的に、コロナと呼ばれた少女はどこまでも冷めた様子だ。
(……って、おい)
はた、と子供二人の会話の内容に、柊は眉をしかめる。
「このカボチャ、お前らの仕業かっ!?」
思わず叫べば、二人は弾かれたように柊の方を振り返った。
「あっ! 怪しいやつ! 追い返すぞコロナ!」
自身のことは棚に上げ、バドが勢い込んで叫ぶのに対し、コロナは冷ややかに一言。
「カボチャにやらせればいいじゃん」
「そーゆーのはこれからの課題だ!」
バドがそう力強く即答するのに、思わず柊はボソリとツッコんだ。
「……出来ねぇんだな、ようは」
「う、うるさい! 行くぞコロナ!」
耳聡く聞き止めていきり立つバド。その大きな耳はダテではないようだ。
そんなバドの様子に、コロナは溜息混じりにカボチャから下りる。
「やれやれ……頭、冷やさなきゃダメね」
一方バドは、どこから取り出したのか、巨大なフライパンで柊を指し示して叫んだ。
「侵入者よ! おとなしく投降するなら、見逃してやってもいいぞ!」
「いや、侵入者って……お前らの方が不法占拠だろ、これ」
「うるさい! あくまで反抗する気ならば……!」
柊のツッコみに、バドはフライパンを大きく振りかぶり、
「……実力で排除するっ!」
叫ぶのと同時に、間にあるカボチャを乗り越えて突っ込んで来た。
「――うおっ!?」
飛び退いた鼻先で唸りをあげるフライパンに、柊は流石に声を荒げた。
「おい! 流石にガキの悪戯じゃすまねぇぞ、これは!」
フライパンを振りきって、動きの止まったその子供のフードを、柊は引っ捕まえる。その手からフライパンを没収し、
「こら! 不気味なカボチャ植えるだけならともかく、鈍器で人に殴りかかるんじゃねぇよ! 相手が素人だったら避けられずに直撃してたぞ、今の!」
「うるせぇー! 返せ! はーなーせー!」
うがー! と宙にぶら下げられたまま、手足をバタバタと振り回して暴れるバド。しかし、いかんせん七歳児のリーチである。襟首を掴んだ腕を伸ばしてぶら下げられれば、柊まで攻撃が届くはずもなかった。
バドは暴れながら、後ろに視線を向けると、
「コロナ! 助けろよ!」
「今のはあんたが悪いでしょ、いきなり殴りかかって。それにその人、剣士じゃない。カウンターでばっさりやられててもおかしくなかったんだから。捕まえられるくらいですんでよかったじゃない」
少女にそうツッコまれて、バドは初めて柊の背負った剣に気づいたらしい。さっ、と顔から血の気を引かせて動きを止めた。
少女は脇に置いてあった古ぼけた竹箒を手に取ると、柊の前まで歩いてきて、頭を下げた。
「すいませーん。私たち双子の姉弟なんです。私はコロナ。そっちが弟のバド。あの……そのフライパン、大事なものなんで返して欲しいんですけど……」
「これか?」
柊は没収したフライパンを改めて見る。火に掛ける裏側の部分には大きな星が描かれていた。古ぼけてはいるが、きちんと磨いてあって綺麗なものだ。
「確かに、大事にしてるみたいだな」
弟の方に返すのは微妙に不安なので、姉の方に手渡す。コロナは手にしていた竹箒と一緒に、そのフライパンを大切に抱え込んだ。
「ありがとう。あと、ホントにごめんなさい。バドってば、イタズラばっかりしてるの」
はあ、と深々と溜息をつく姉に、弟はぶら下げられた姿勢のまま猛然と講義する。
「イタズラじゃない! 偉大なる魔法実験だ!」
「空き地をカボチャで埋めて、なんの実験になるのよ。しかも、侵入者の排除もできない、ただ不気味に笑うだけのカボチャで」
姉の冷たいツッコみに、うぐぐぐ、とバドは呻いた。姉は容赦なく言葉を続ける。
「そもそも、普段から『俺は大魔法使いになるんだ!』とかいってるくせに、いざとなったら直接殴りにかかってる時点で語るにおちてるわよ」
「い、いったな……なら!」
むむむ、と眉間にしわを寄せて、バドは懐から小さな横笛を取り出した。
「これならどうだ!」
「あ、こら! やめなさい!」
コロナの制止の声も聞かず、バドは笛を口許に運び、短い旋律を吹き鳴らす。
「んなっ!?」
瞬間、足元から伸びて来た薔薇の茨に絡め取られそうになり、柊は咄嗟に後ろへ飛び退いた。しかし、茨は柊を追うように真っ直ぐ伸びて来る。しかも速い。
「……ちぃっ!」
呻いて、少年を自身の後ろに放り出すと剣を抜き放ち、迫り来る茨を斬り払った。
目の前で薔薇が溶けるように消えていくのを見て、柊は思わず叫ぶ。
「なんだこのバラ!?」
「魔法楽器も知らないのかよ! 田舎者だな!」
振り返った先で、ふふん、と自慢げに胸を張るバドに、柊は眉を寄せる。
(つまり、あの楽器で魔法を使ってる、ってことか?)
なら、次はあれを没収だな、と柊が思ったその時。
がくんッ、と辺りが大きく揺れた。
「――な、なんだよ!?」
「なに!?」
ごごごごご、と地鳴りを伴って辺りが揺れ続けるのに、バドとコロナが困惑の声を上げる。
(……こいつらの仕業じゃねぇのか)
おろおろとうろたえる二人の姿に、柊はそう判断し――それに気づいた。
「――危ねぇッ!」
「わっ!?」
叫ぶと同時に再びバドのフードを引っ掴み、自身の方へと引き寄せる。刹那、
唸りを上げて、先程までバドがいた場所を、カボチャのツタが薙ぎ払った。
「……な、なんだよこれ!?」
「そりゃこっちのセリフだ! このカボチャ、お前の仕業なん――って、おわっ!?」
驚愕の声を漏らすバドへツッコむ暇もなく、柊は彼を小脇に抱え直して迫り来るツタを躱す。
もはや、空き地を埋めるカボチャは、ただ不気味に笑うだけの無害なものではなかった。ツタを手足のように使って動き回り、柊達を攻撃してくるモンスターと化していた。この揺れは、根付いたカボチャ達が動いたためのものだろう。
と――
「きゃあっ!」
「――コロナ!?」
少女の短い悲鳴に、バドも悲鳴のような声を上げる。
「ちょっとー! バド! これ、どうなってるのよー!」
コロナは涙声で叫ぶ。ツタを足のように立ち上がったカボチャの上で、振り落とされそうになっていた。その高さは柊の身長の倍はある。落ちればただでは済まない。
彼女は片手で必死に掴まりながらも、もう片方の手に抱えた箒とフライパンを放そうとはしなかった。余程大切なものなのだろう。
「おい! これ、止められねぇのか!?」
「そ、そんなこといったって! この『お化けカボチャ』はただ笑って人をおどかすだけの魔法植物のはず……」
柊にそう答えながら、バドは懐から小さな冊子を取り出した。抱えられた姿勢のまま、器用にぱらぱらと中を読んでいく。
「えーと……『お化けカボチャ、使用上の注意』……
『この魔法植物はドリアードの魔法で動いているため、近くでドリアードの魔法を使用すると、活性化して暴走する危険があります。一度暴走すると半日は動き回るため、植えた場所から半径200メートル以内でドリアードの魔法は使用しないで下さい』……!?」
「……おい! つまり、どういうことだ!?」
何かに気づいたらしく固まったバドに、柊は足元を掬おうとするツタを飛んで躱してからツッコむ。
「こいつのそばでドリアードの魔法を使うと、暴走して半日は暴れ続けるってことだよ!」
「……つまり、さっきの魔法が原因で暴れだしたってことか!?」
ちゃんと使う前に使用上の注意読んどけ! とツッコみながら、柊は頭を狙ってきたツタを屈んで躱した。
「なんでもいいから助けてよー!」
泣きながら、コロナが叫ぶ。何とかまだしがみついているが、今にも振り落とされそうだ。
「コロナ!」
「……少し揺れるぞ!」
バドが顔色を変えて声を上げるのに、柊は鋭く叫ぶ。
「え――」
「風よ、踊れ――《エア・ダンス》!」
バドの声を遮って、柊は自身に風を纏わせた。そのままツタの間をすり抜けるように疾走する。
速く、飛ぶように。まさに風の如く。振るわれるツタは、柊の走りぬけた空間を空しく薙いだ。
「なぁ、あぁあ、あぁああぁ、あ――っ!?」
揺さぶられて変な悲鳴を上げる少年はとりあえず無視。柊はあっという間に少女のしがみついているカボチャの真下まで辿り着くと、
「舌噛むなよ!」
抱えた少年に一言警告の声をかけ、勢いよく跳んだ。
宙で月衣を足場として展開。虚空を蹴って更に上へ。二段跳びでカボチャの上に降り立つと、片手にぶら下げていた剣を収めて、少女を抱え込む。
「ひゃ!?」
「歯ぁ食いしばっとけ!」
抱えられて声を上げる少女にそう声をかけて、一気に揺れるカボチャから飛び降りた。
着地の瞬間、膝で衝撃を逃がす。月衣も相俟って殆どダメージはないが、それでも多少、じん、と両足が痺れた。だが、その痺れを無視して、再び駆け出す。
二人を抱えたまま、再びツタの間を駆け抜けて、空き地の入り口の方へ。二人を道の方に降ろして、背後に庇うように立った。
「おい!これ、止める方法ねぇのか!?」
柊は剣を抜き放ち、迫り来るツタを斬り払いながら、バドに問う。
「さっきも言ったとおり、一度暴れだしたら半日は……! 逃げたほうがいいよ!」
バドは姉を抱きしめるように、もしくは姉にしがみつくようにして、悲鳴のように言う。
「でも……これ、追っかけてきそうだよ!?」
コロナも弟を抱きしめ返しながら、泣きそうな声で言った。
彼女の言う通り、カボチャは地に張った根を自ら引き抜こうとして、地は地響きと共に揺れ続けている。このまま放っておけば、この場から動いて街の方にまで行きそうな勢いだ。
「どの道、ここでどうにかしねぇとまずいか……!」
歯軋りしながら、柊は呻く。しかし、斬っても斬っても、別のツタが迫ってきて、キリがない。
(きっと、どっかに本体があるはず……!)
これだけ斬って何の痛手も受けた様子がないのは、斬られているのがただの端末だからだ。ならば、本体を叩けばいい。
(……何か変なところ、それっぽいもんは……!)
柊は、そう思って視線を走らせ――
(……あれか!?)
先程までコロナがしがみついていた、一際高いところに伸び上がったカボチャ。それだけ、他のカボチャと顔の目鼻の形が違う。
あれが本体であるという確証はないが――
(―― 一か八か!)
思って、柊は再びカボチャのツタの只中に突っ込んだ。
「炎よ、宿れ――《エンチャントフレイム》!」
剣に炎を纏わせ、迫り来るツタを斬り払い、一直線にそのカボチャの元に。
「ハズレじゃないことを祈るぜ……!」
地を蹴って宙に、虚空を蹴って更に上に。ツタで伸び上がったカボチャを、眼下に見下ろし、
「……《魔器》――」
腰元で溜めるように引いた魔剣の核が、応えるように輝きを湛え――
「――《解放》ッ!」
言葉と共に閃いた輝きは、刃に刻まれた紋様へと走りぬける。
「……カボチャ……確かにカボチャだけど……」
呆然と、柊は呻く。
辺りを埋め尽くすように伸びるツタ。そこについた大量の実。子供の背丈ほどもありそうな直径の、オレンジ色のその実には、笑みの形をした目と口、鼻のような割れ目。
「ジャック・オ・ランタン……?」
呻く柊の声を掻き消すように、不気味な笑い声が響き渡る。
ケケケケケ、というその怪笑は、辺りに実る巨大なカボチャの口から。怪奇現象ここに極まれり、といった感じである。
「……え、えと……」
やたらとテンションの高かったジェニファーも、この異様な雰囲気に怖気づいたような様子で、
「で、出会いの邪魔をしちゃ悪いし……わたしはここで! じゃあね、柊くん!」
そう言い残すと、脱兎の如く、元来た方へ逃げ出した。
「あ、おい!」
思わず叫んだ柊の声も、カボチャの嗤いに掻き消される。
異様な空間に一人残され、柊は呆然と立ち尽くし、
(ここまで来て、ただ帰るのもなんだかなぁ……)
そう思って、中へと歩を進めた。もしかしたらこの怪奇現象の原因も見つかるかもしれないしな、と、寧ろ自分に言い聞かせる風に思った時。
「――ケケケケケ!」
響いた、一際高い笑い声に、そちらに視線を転じた。
巨大なカボチャの向こう。一面、ツタと葉の緑と実のオレンジしかない空間で、目を引く深い葡萄色。
覗きこんだ先にいたのは、年の頃六、七歳に見える子供。短い葡萄色の髪から覗く、少し尖った大きな耳。奇妙な笑いを顔に貼り付けているが、顔立ちそのものは整っている。年のせいも相俟って、男女の判断がつけづらい。服装も深緑のローブで、判断材料にはならなかった。
「バド~、そういう笑い方やめてー」
と、その子供に、別の声がかかる。少し離れたカボチャの上に腰掛ける、小さな人影。
声の主は、バドと呼ばれた子供とよく似た容貌で、まるで鏡写しのようだった。年の頃も同じくらい、背丈にも差はない。
違うのは、その葡萄色の髪を長く伸ばして頭の上で結わいていること、身に纏うものが深紅のワンピースだということ、あとはどこか呆れたようなその表情くらい。
「コロナ! お前も笑え! 支配者スマイルだッ!」
ケケケケケケッ! という例の奇怪な笑い声を上げて、バドが鏡写しの少女に言う。
「カボチャで世界を支配するの? バッカみたい!」
対照的に、コロナと呼ばれた少女はどこまでも冷めた様子だ。
(……って、おい)
はた、と子供二人の会話の内容に、柊は眉をしかめる。
「このカボチャ、お前らの仕業かっ!?」
思わず叫べば、二人は弾かれたように柊の方を振り返った。
「あっ! 怪しいやつ! 追い返すぞコロナ!」
自身のことは棚に上げ、バドが勢い込んで叫ぶのに対し、コロナは冷ややかに一言。
「カボチャにやらせればいいじゃん」
「そーゆーのはこれからの課題だ!」
バドがそう力強く即答するのに、思わず柊はボソリとツッコんだ。
「……出来ねぇんだな、ようは」
「う、うるさい! 行くぞコロナ!」
耳聡く聞き止めていきり立つバド。その大きな耳はダテではないようだ。
そんなバドの様子に、コロナは溜息混じりにカボチャから下りる。
「やれやれ……頭、冷やさなきゃダメね」
一方バドは、どこから取り出したのか、巨大なフライパンで柊を指し示して叫んだ。
「侵入者よ! おとなしく投降するなら、見逃してやってもいいぞ!」
「いや、侵入者って……お前らの方が不法占拠だろ、これ」
「うるさい! あくまで反抗する気ならば……!」
柊のツッコみに、バドはフライパンを大きく振りかぶり、
「……実力で排除するっ!」
叫ぶのと同時に、間にあるカボチャを乗り越えて突っ込んで来た。
「――うおっ!?」
飛び退いた鼻先で唸りをあげるフライパンに、柊は流石に声を荒げた。
「おい! 流石にガキの悪戯じゃすまねぇぞ、これは!」
フライパンを振りきって、動きの止まったその子供のフードを、柊は引っ捕まえる。その手からフライパンを没収し、
「こら! 不気味なカボチャ植えるだけならともかく、鈍器で人に殴りかかるんじゃねぇよ! 相手が素人だったら避けられずに直撃してたぞ、今の!」
「うるせぇー! 返せ! はーなーせー!」
うがー! と宙にぶら下げられたまま、手足をバタバタと振り回して暴れるバド。しかし、いかんせん七歳児のリーチである。襟首を掴んだ腕を伸ばしてぶら下げられれば、柊まで攻撃が届くはずもなかった。
バドは暴れながら、後ろに視線を向けると、
「コロナ! 助けろよ!」
「今のはあんたが悪いでしょ、いきなり殴りかかって。それにその人、剣士じゃない。カウンターでばっさりやられててもおかしくなかったんだから。捕まえられるくらいですんでよかったじゃない」
少女にそうツッコまれて、バドは初めて柊の背負った剣に気づいたらしい。さっ、と顔から血の気を引かせて動きを止めた。
少女は脇に置いてあった古ぼけた竹箒を手に取ると、柊の前まで歩いてきて、頭を下げた。
「すいませーん。私たち双子の姉弟なんです。私はコロナ。そっちが弟のバド。あの……そのフライパン、大事なものなんで返して欲しいんですけど……」
「これか?」
柊は没収したフライパンを改めて見る。火に掛ける裏側の部分には大きな星が描かれていた。古ぼけてはいるが、きちんと磨いてあって綺麗なものだ。
「確かに、大事にしてるみたいだな」
弟の方に返すのは微妙に不安なので、姉の方に手渡す。コロナは手にしていた竹箒と一緒に、そのフライパンを大切に抱え込んだ。
「ありがとう。あと、ホントにごめんなさい。バドってば、イタズラばっかりしてるの」
はあ、と深々と溜息をつく姉に、弟はぶら下げられた姿勢のまま猛然と講義する。
「イタズラじゃない! 偉大なる魔法実験だ!」
「空き地をカボチャで埋めて、なんの実験になるのよ。しかも、侵入者の排除もできない、ただ不気味に笑うだけのカボチャで」
姉の冷たいツッコみに、うぐぐぐ、とバドは呻いた。姉は容赦なく言葉を続ける。
「そもそも、普段から『俺は大魔法使いになるんだ!』とかいってるくせに、いざとなったら直接殴りにかかってる時点で語るにおちてるわよ」
「い、いったな……なら!」
むむむ、と眉間にしわを寄せて、バドは懐から小さな横笛を取り出した。
「これならどうだ!」
「あ、こら! やめなさい!」
コロナの制止の声も聞かず、バドは笛を口許に運び、短い旋律を吹き鳴らす。
「んなっ!?」
瞬間、足元から伸びて来た薔薇の茨に絡め取られそうになり、柊は咄嗟に後ろへ飛び退いた。しかし、茨は柊を追うように真っ直ぐ伸びて来る。しかも速い。
「……ちぃっ!」
呻いて、少年を自身の後ろに放り出すと剣を抜き放ち、迫り来る茨を斬り払った。
目の前で薔薇が溶けるように消えていくのを見て、柊は思わず叫ぶ。
「なんだこのバラ!?」
「魔法楽器も知らないのかよ! 田舎者だな!」
振り返った先で、ふふん、と自慢げに胸を張るバドに、柊は眉を寄せる。
(つまり、あの楽器で魔法を使ってる、ってことか?)
なら、次はあれを没収だな、と柊が思ったその時。
がくんッ、と辺りが大きく揺れた。
「――な、なんだよ!?」
「なに!?」
ごごごごご、と地鳴りを伴って辺りが揺れ続けるのに、バドとコロナが困惑の声を上げる。
(……こいつらの仕業じゃねぇのか)
おろおろとうろたえる二人の姿に、柊はそう判断し――それに気づいた。
「――危ねぇッ!」
「わっ!?」
叫ぶと同時に再びバドのフードを引っ掴み、自身の方へと引き寄せる。刹那、
唸りを上げて、先程までバドがいた場所を、カボチャのツタが薙ぎ払った。
「……な、なんだよこれ!?」
「そりゃこっちのセリフだ! このカボチャ、お前の仕業なん――って、おわっ!?」
驚愕の声を漏らすバドへツッコむ暇もなく、柊は彼を小脇に抱え直して迫り来るツタを躱す。
もはや、空き地を埋めるカボチャは、ただ不気味に笑うだけの無害なものではなかった。ツタを手足のように使って動き回り、柊達を攻撃してくるモンスターと化していた。この揺れは、根付いたカボチャ達が動いたためのものだろう。
と――
「きゃあっ!」
「――コロナ!?」
少女の短い悲鳴に、バドも悲鳴のような声を上げる。
「ちょっとー! バド! これ、どうなってるのよー!」
コロナは涙声で叫ぶ。ツタを足のように立ち上がったカボチャの上で、振り落とされそうになっていた。その高さは柊の身長の倍はある。落ちればただでは済まない。
彼女は片手で必死に掴まりながらも、もう片方の手に抱えた箒とフライパンを放そうとはしなかった。余程大切なものなのだろう。
「おい! これ、止められねぇのか!?」
「そ、そんなこといったって! この『お化けカボチャ』はただ笑って人をおどかすだけの魔法植物のはず……」
柊にそう答えながら、バドは懐から小さな冊子を取り出した。抱えられた姿勢のまま、器用にぱらぱらと中を読んでいく。
「えーと……『お化けカボチャ、使用上の注意』……
『この魔法植物はドリアードの魔法で動いているため、近くでドリアードの魔法を使用すると、活性化して暴走する危険があります。一度暴走すると半日は動き回るため、植えた場所から半径200メートル以内でドリアードの魔法は使用しないで下さい』……!?」
「……おい! つまり、どういうことだ!?」
何かに気づいたらしく固まったバドに、柊は足元を掬おうとするツタを飛んで躱してからツッコむ。
「こいつのそばでドリアードの魔法を使うと、暴走して半日は暴れ続けるってことだよ!」
「……つまり、さっきの魔法が原因で暴れだしたってことか!?」
ちゃんと使う前に使用上の注意読んどけ! とツッコみながら、柊は頭を狙ってきたツタを屈んで躱した。
「なんでもいいから助けてよー!」
泣きながら、コロナが叫ぶ。何とかまだしがみついているが、今にも振り落とされそうだ。
「コロナ!」
「……少し揺れるぞ!」
バドが顔色を変えて声を上げるのに、柊は鋭く叫ぶ。
「え――」
「風よ、踊れ――《エア・ダンス》!」
バドの声を遮って、柊は自身に風を纏わせた。そのままツタの間をすり抜けるように疾走する。
速く、飛ぶように。まさに風の如く。振るわれるツタは、柊の走りぬけた空間を空しく薙いだ。
「なぁ、あぁあ、あぁああぁ、あ――っ!?」
揺さぶられて変な悲鳴を上げる少年はとりあえず無視。柊はあっという間に少女のしがみついているカボチャの真下まで辿り着くと、
「舌噛むなよ!」
抱えた少年に一言警告の声をかけ、勢いよく跳んだ。
宙で月衣を足場として展開。虚空を蹴って更に上へ。二段跳びでカボチャの上に降り立つと、片手にぶら下げていた剣を収めて、少女を抱え込む。
「ひゃ!?」
「歯ぁ食いしばっとけ!」
抱えられて声を上げる少女にそう声をかけて、一気に揺れるカボチャから飛び降りた。
着地の瞬間、膝で衝撃を逃がす。月衣も相俟って殆どダメージはないが、それでも多少、じん、と両足が痺れた。だが、その痺れを無視して、再び駆け出す。
二人を抱えたまま、再びツタの間を駆け抜けて、空き地の入り口の方へ。二人を道の方に降ろして、背後に庇うように立った。
「おい!これ、止める方法ねぇのか!?」
柊は剣を抜き放ち、迫り来るツタを斬り払いながら、バドに問う。
「さっきも言ったとおり、一度暴れだしたら半日は……! 逃げたほうがいいよ!」
バドは姉を抱きしめるように、もしくは姉にしがみつくようにして、悲鳴のように言う。
「でも……これ、追っかけてきそうだよ!?」
コロナも弟を抱きしめ返しながら、泣きそうな声で言った。
彼女の言う通り、カボチャは地に張った根を自ら引き抜こうとして、地は地響きと共に揺れ続けている。このまま放っておけば、この場から動いて街の方にまで行きそうな勢いだ。
「どの道、ここでどうにかしねぇとまずいか……!」
歯軋りしながら、柊は呻く。しかし、斬っても斬っても、別のツタが迫ってきて、キリがない。
(きっと、どっかに本体があるはず……!)
これだけ斬って何の痛手も受けた様子がないのは、斬られているのがただの端末だからだ。ならば、本体を叩けばいい。
(……何か変なところ、それっぽいもんは……!)
柊は、そう思って視線を走らせ――
(……あれか!?)
先程までコロナがしがみついていた、一際高いところに伸び上がったカボチャ。それだけ、他のカボチャと顔の目鼻の形が違う。
あれが本体であるという確証はないが――
(―― 一か八か!)
思って、柊は再びカボチャのツタの只中に突っ込んだ。
「炎よ、宿れ――《エンチャントフレイム》!」
剣に炎を纏わせ、迫り来るツタを斬り払い、一直線にそのカボチャの元に。
「ハズレじゃないことを祈るぜ……!」
地を蹴って宙に、虚空を蹴って更に上に。ツタで伸び上がったカボチャを、眼下に見下ろし、
「……《魔器》――」
腰元で溜めるように引いた魔剣の核が、応えるように輝きを湛え――
「――《解放》ッ!」
言葉と共に閃いた輝きは、刃に刻まれた紋様へと走りぬける。
そして――輝き纏った刃は、突き出されるままに獲物を貫き、深々と斬り裂いた。
◇ ◆ ◇
暴れまわるカボチャの只中に突っ込んでいく、名も知らない青年をただ見送って、姉弟は抱きしめあう。互いに縋るように。
「ねぇ、あの人……死んじゃわないよね……?」
「縁起でもないこと言うなよ!」
姉の涙声に、バドはきつい調子で返す。
「あの人、剣士だぞ! それも、俺とコロナを抱えて、あの中を無事に突っ切るような人なんだ! 大丈夫に決まってる!」
姉に言い聞かせるようなその言葉は、その実、バド自身に言い聞かせるものだった。
(こんなくだらない魔法の失敗で……こんなことで……!)
死ぬはずない――そう言い聞かせながらも、不安は消えない。
『今度こそ、この理論は完璧だ! 世紀の大発見だぞ!』
『やったわね、あなた! コロナ、バド! 今日はお祝いよ!』
いつも子供のように目を輝かせて、両親は他愛もない魔法実験を繰り返しては、役に立つのかわからないような魔法道具を作っていた。
そして、本当にくだらない、本当にしようもない魔法実験の失敗で、家ごと吹っ飛んで死んでしまったのだ。
姉弟二人はその時、学校にいて無事だった。けれど、二人には他に誰も身寄りがなくて、誰も守ってくれる人がいなくなってしまった。学校の先生は親身になってくれたが、バドが悲しみを誤魔化すようにくだらない悪戯で校内を騒がすようになると、少々持て余し気味になった。
どの道、両親の蓄えも家と一緒に殆ど吹っ飛んでしまったから、学費の高い魔法学校に通い続けるのは無理だった。奨学金制度はあったけれど、それを受けられるほど、二人の成績は良くなかった。
都市(まち)を出よう――そう言いだしたのは、姉弟で殆ど同時だった。
両親の思い出話でよく出てきた二人の故郷、ドミナへ。行ったこともない場所だけれど、そこに行ったら、何かあるような気がしたから――誰か助けてくれるような気がしたから。
少ない蓄えをかき集めて、唯一手元に残った両親の形見であるフライパンと箒を持って。何とかこの町に辿り着いて――
でも、何も変わらなかった。誰も彼も知らない人ばかりで、頼れる人なんかいなかった。――居場所なんかなかった。
だから――
『ないなら、作ってやる!』
そう言い出したのは、バドだった。殆ど自棄で、学園から持ち出してきた魔法植物を植えて、空き地を占拠した。いつもなら、無茶やる前に止める姉が止めなかったのは、姉も多分、自棄になりかけていたのだ。
植物は一晩で根付いて育った。当然ながら、町の人々は突然現れたカボチャ畑に驚いて、戸惑ったようだった。殆どの人は気味悪がって遠巻きにしたし、稀に見に来る人も入ってすぐのところで引き返して行ってしまう。
中まで入って来たのは、ただ一人――あの、剣士の青年だけ。
「ねぇ、あの人……死んじゃわないよね……?」
「縁起でもないこと言うなよ!」
姉の涙声に、バドはきつい調子で返す。
「あの人、剣士だぞ! それも、俺とコロナを抱えて、あの中を無事に突っ切るような人なんだ! 大丈夫に決まってる!」
姉に言い聞かせるようなその言葉は、その実、バド自身に言い聞かせるものだった。
(こんなくだらない魔法の失敗で……こんなことで……!)
死ぬはずない――そう言い聞かせながらも、不安は消えない。
『今度こそ、この理論は完璧だ! 世紀の大発見だぞ!』
『やったわね、あなた! コロナ、バド! 今日はお祝いよ!』
いつも子供のように目を輝かせて、両親は他愛もない魔法実験を繰り返しては、役に立つのかわからないような魔法道具を作っていた。
そして、本当にくだらない、本当にしようもない魔法実験の失敗で、家ごと吹っ飛んで死んでしまったのだ。
姉弟二人はその時、学校にいて無事だった。けれど、二人には他に誰も身寄りがなくて、誰も守ってくれる人がいなくなってしまった。学校の先生は親身になってくれたが、バドが悲しみを誤魔化すようにくだらない悪戯で校内を騒がすようになると、少々持て余し気味になった。
どの道、両親の蓄えも家と一緒に殆ど吹っ飛んでしまったから、学費の高い魔法学校に通い続けるのは無理だった。奨学金制度はあったけれど、それを受けられるほど、二人の成績は良くなかった。
都市(まち)を出よう――そう言いだしたのは、姉弟で殆ど同時だった。
両親の思い出話でよく出てきた二人の故郷、ドミナへ。行ったこともない場所だけれど、そこに行ったら、何かあるような気がしたから――誰か助けてくれるような気がしたから。
少ない蓄えをかき集めて、唯一手元に残った両親の形見であるフライパンと箒を持って。何とかこの町に辿り着いて――
でも、何も変わらなかった。誰も彼も知らない人ばかりで、頼れる人なんかいなかった。――居場所なんかなかった。
だから――
『ないなら、作ってやる!』
そう言い出したのは、バドだった。殆ど自棄で、学園から持ち出してきた魔法植物を植えて、空き地を占拠した。いつもなら、無茶やる前に止める姉が止めなかったのは、姉も多分、自棄になりかけていたのだ。
植物は一晩で根付いて育った。当然ながら、町の人々は突然現れたカボチャ畑に驚いて、戸惑ったようだった。殆どの人は気味悪がって遠巻きにしたし、稀に見に来る人も入ってすぐのところで引き返して行ってしまう。
中まで入って来たのは、ただ一人――あの、剣士の青年だけ。
彼はバドの悪戯に目くじらを立てながらも、バドとコロナを助けるために駆け回ってくれた。
『バド、ダメだろう? この薬品は危ないって言ったじゃないか』
悪戯した自分を怪我しないように庇って、そして、優しく厳しく叱ってくれた父。
悪戯した自分を怪我しないように庇って、そして、優しく厳しく叱ってくれた父。
彼は、今もその後始末のために奮闘してくれている。
『まったくもう……危ないから、下がってなさいね』
困ったように溜息をついて、それでも無事でよかったと笑いながら、悪戯の後片付けをしてくれた母。
困ったように溜息をついて、それでも無事でよかったと笑いながら、悪戯の後片付けをしてくれた母。
(……死なないで……!)
どこか両親を思い出させるあの青年の無事を、バドはただひたすらに祈り――
どこか両親を思い出させるあの青年の無事を、バドはただひたすらに祈り――
カボチャの群れの只中から、高く跳び上がる青年の姿が見えた。
炎を纏った刃を、腰元に構えて。
「……《魔器》――」
響き続ける不気味な哄笑を貫いて、不敵に強い声が耳に届く。剣に埋まった宝石が、きらりと輝いて、綺麗だと思った。
「――《解放》ッ!」
声と共に、その輝きは刃へと広がり――
炎を纏った刃を、腰元に構えて。
「……《魔器》――」
響き続ける不気味な哄笑を貫いて、不敵に強い声が耳に届く。剣に埋まった宝石が、きらりと輝いて、綺麗だと思った。
「――《解放》ッ!」
声と共に、その輝きは刃へと広がり――
繰り出された刃は、彼の眼下にあるその獲物を貫き、深々と斬り裂いた。
◇ ◆ ◇
ぼろぼろと崩れるように、空き地を占拠していたカボチャが朽ちていく。
「……当たりだったか……」
着地し、その結末を見届けると、柊は深々と安堵の息をついた。そうして、空き地の入り口に立つ子供達を振り返る。
「大丈夫か?」
抱きしめあった子供達は、しかし、柊の声が聞こえていない様子で、呆然と立ち尽くしていた。
「……おーい? 大丈夫か?」
柊は二人の目の前まで歩み寄って、改めて声をかける。すると、
「……すげぇ!」
「どぉわ!?」
声を上げたバドがいきなり飛びついてくるのに、引っくり返りそうになった。
「なに――」
「俺を弟子にしてくだせぇ!」
文句を言おうと上げかけた声を遮ってのバドの言葉に、柊は目を見開いた。
「……は?」
「バド! なにいってるの!」
コロナも慌てた様子で、弟の突拍子もない発言を咎める。
しかし、バドは一向に引く様子を見せず、
「だって、あんなすげぇの見たことねぇよ! トドメの一撃もそうだけど、剣に纏った炎とか、ありえない速さで走ったりとか! あれ、魔法ですよね!?」
「いや、トドメはちょっと違うけど……他の二つは一応魔法だな」
柊の答えに、バドはますます目を輝かせる。
「今の世で、魔法楽器なしに魔法を使える人なんてほとんどいないんだ! それこそ七賢人とか、伝説級の魔法使いくらいだよ!」
ホントにすげぇ! と興奮した様子のバドに、柊としてはただ困惑するしかない。そもそも柊の使う魔法は、おそらくここの世界のものとはまったくの別物のはずだ。
「いや、でも、弟子っていわれてもよ……得体の知れない若造に弟子入りなんて、親御さんとか、反対するんじゃないか?」
「その心配はありません! 両親いませんから!」
バドに力強く言い切られ、柊はぐっと言葉に詰まる。コロナに視線を向ければ、彼女も頷いた。本当のことらしい。
「が、学校とかは……?」
「バドのイタズラが過ぎて、いられなくなっちゃいました」
コロナが答え、何故かバドが胸を張る。
「……家は?」
「ない!」
「学校の寮に住んでたんで。ちなみに実家も、両親が亡くなった事故で吹っ飛びました」
即答するバドに、コロナが補足する。柊は思わず頭を抱えた。
「つまり……お前ら、行くあてがないのか?」
二人に揃って頷かれ、柊は大きく息をつく。
ようやっと、この子供達がこんな悪戯をしたのかわかった気がした。頼れる人が居なくて、誰かに見つけて欲しくて――それで、騒ぎを起こした。
きらきらと輝く目で見つめてくるバドに、どこか縋るような不安げな目のコロナ。ここまで関わって、こんな目で見つめられて、放り出すなんてできるはずもない。
「……俺は柊。柊蓮司」
唐突な名乗りに、え? と首を傾げる二人に柊は苦笑を向けて、
「金もなけりゃ学もない、いつまでここにいるかもわからないような、師匠とか保護者とかにはとことん不向きな人間だけどな。それでもいいか? 住むとこだけは、どうにかしてやれそうだからよ」
その言葉に、ぱあっ、とバドは顔を輝かせた。
「ぃやったぁ!」
「あわわわわ。なんて心が広いというかなんというか……」
コロナも申し訳なさそうにしつつ、顔を明るくする。
そんな二人の顔を見ながら、柊はメイメイの占いを思い出した。
(なるほど、『新しい家族』ね。……確かに、当たるみたいだな、占い)
柊はそんな風に思って苦笑しながら、町の方へと歩を進め、
「じゃ、行くか。バド、コロナ」
「行きましょうっ! 師匠!」
「はい! 柊さん」
頷く双子を伴って、空き地に戻った空き地を後にした。
「……当たりだったか……」
着地し、その結末を見届けると、柊は深々と安堵の息をついた。そうして、空き地の入り口に立つ子供達を振り返る。
「大丈夫か?」
抱きしめあった子供達は、しかし、柊の声が聞こえていない様子で、呆然と立ち尽くしていた。
「……おーい? 大丈夫か?」
柊は二人の目の前まで歩み寄って、改めて声をかける。すると、
「……すげぇ!」
「どぉわ!?」
声を上げたバドがいきなり飛びついてくるのに、引っくり返りそうになった。
「なに――」
「俺を弟子にしてくだせぇ!」
文句を言おうと上げかけた声を遮ってのバドの言葉に、柊は目を見開いた。
「……は?」
「バド! なにいってるの!」
コロナも慌てた様子で、弟の突拍子もない発言を咎める。
しかし、バドは一向に引く様子を見せず、
「だって、あんなすげぇの見たことねぇよ! トドメの一撃もそうだけど、剣に纏った炎とか、ありえない速さで走ったりとか! あれ、魔法ですよね!?」
「いや、トドメはちょっと違うけど……他の二つは一応魔法だな」
柊の答えに、バドはますます目を輝かせる。
「今の世で、魔法楽器なしに魔法を使える人なんてほとんどいないんだ! それこそ七賢人とか、伝説級の魔法使いくらいだよ!」
ホントにすげぇ! と興奮した様子のバドに、柊としてはただ困惑するしかない。そもそも柊の使う魔法は、おそらくここの世界のものとはまったくの別物のはずだ。
「いや、でも、弟子っていわれてもよ……得体の知れない若造に弟子入りなんて、親御さんとか、反対するんじゃないか?」
「その心配はありません! 両親いませんから!」
バドに力強く言い切られ、柊はぐっと言葉に詰まる。コロナに視線を向ければ、彼女も頷いた。本当のことらしい。
「が、学校とかは……?」
「バドのイタズラが過ぎて、いられなくなっちゃいました」
コロナが答え、何故かバドが胸を張る。
「……家は?」
「ない!」
「学校の寮に住んでたんで。ちなみに実家も、両親が亡くなった事故で吹っ飛びました」
即答するバドに、コロナが補足する。柊は思わず頭を抱えた。
「つまり……お前ら、行くあてがないのか?」
二人に揃って頷かれ、柊は大きく息をつく。
ようやっと、この子供達がこんな悪戯をしたのかわかった気がした。頼れる人が居なくて、誰かに見つけて欲しくて――それで、騒ぎを起こした。
きらきらと輝く目で見つめてくるバドに、どこか縋るような不安げな目のコロナ。ここまで関わって、こんな目で見つめられて、放り出すなんてできるはずもない。
「……俺は柊。柊蓮司」
唐突な名乗りに、え? と首を傾げる二人に柊は苦笑を向けて、
「金もなけりゃ学もない、いつまでここにいるかもわからないような、師匠とか保護者とかにはとことん不向きな人間だけどな。それでもいいか? 住むとこだけは、どうにかしてやれそうだからよ」
その言葉に、ぱあっ、とバドは顔を輝かせた。
「ぃやったぁ!」
「あわわわわ。なんて心が広いというかなんというか……」
コロナも申し訳なさそうにしつつ、顔を明るくする。
そんな二人の顔を見ながら、柊はメイメイの占いを思い出した。
(なるほど、『新しい家族』ね。……確かに、当たるみたいだな、占い)
柊はそんな風に思って苦笑しながら、町の方へと歩を進め、
「じゃ、行くか。バド、コロナ」
「行きましょうっ! 師匠!」
「はい! 柊さん」
頷く双子を伴って、空き地に戻った空き地を後にした。
◇ ◆ ◇
ちなみに。
「カボチャがケケケだったね」
「……土産話の甲斐がねぇな……」
三人で買出しを済ませて家に帰り、土産話を聞かせたサボテンの感想に、柊が憮然と肩を落したのは余談である。
「カボチャがケケケだったね」
「……土産話の甲斐がねぇな……」
三人で買出しを済ませて家に帰り、土産話を聞かせたサボテンの感想に、柊が憮然と肩を落したのは余談である。