第五章 『幻想殺し』 _Project_■_■_ 前編
1
重力の鎖に身体を預けて、地に着いた足が軽い音を立てる。
「イリヤ!」
魔法少女カレイドルビー・プリズマイリヤこと、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは、同じく魔法少女な親友、美遊・エーデルフェルトと合流した。
学園都市第一八学区、超能力者開発機関の顔を持つ学園都市の中でも、第七学区の『学び舎の園』とトップ争いで鎬を削る学校が集まっている区画。
有名どころを挙げれば、能力開発分野ナンバーワンの長点上機学園、イレギュラーな能力者を数多く輩出する霧ヶ丘女学院などが出てくるだろう。
第一八学区の避難は早急に終了しており、辺りに人影は無い。イリヤと美遊がここにやってきたのは、偏に迷子の捜索の為である。
学園都市第一八学区、超能力者開発機関の顔を持つ学園都市の中でも、第七学区の『学び舎の園』とトップ争いで鎬を削る学校が集まっている区画。
有名どころを挙げれば、能力開発分野ナンバーワンの長点上機学園、イレギュラーな能力者を数多く輩出する霧ヶ丘女学院などが出てくるだろう。
第一八学区の避難は早急に終了しており、辺りに人影は無い。イリヤと美遊がここにやってきたのは、偏に迷子の捜索の為である。
「美遊、相良さんは?」
「こっちにいる。案内するからついてきて―――」
「こっちにいる。案内するからついてきて―――」
第七学区の避難誘導中に発生した迷子の少女。
名前は、『打ち止め(ラストオーダー)』という偽名感バリバリな感じ。携帯端末に送信されてきたデータを見る限り、イリヤたちとほぼ同年代のようである。
その彼女を、執行委員の相良宗介が一度は捕捉したものの、何が起こったのか逃げられてしまっている。
宗介は一応プロの傭兵であり、そういったことは得意分野のはずなのだが。
名前は、『打ち止め(ラストオーダー)』という偽名感バリバリな感じ。携帯端末に送信されてきたデータを見る限り、イリヤたちとほぼ同年代のようである。
その彼女を、執行委員の相良宗介が一度は捕捉したものの、何が起こったのか逃げられてしまっている。
宗介は一応プロの傭兵であり、そういったことは得意分野のはずなのだが。
「―――相良さん曰く、アレはプロの動きだった。って」
美遊の言葉に、イリヤは首を傾げる。イリヤでなくともきっと首を傾げただろう。
「………あの、迷子の子って私たちと同じぐらいの年だよね?」
そんな女の子が、プロの傭兵の目を晦ます事などできるのだろうか?
「―――まぁ、異世界だから」
美遊の返答には、何処か疲労が滲んでいた。
理論と理性の魔法少女、美遊・エーデルフェルト(カレイドサファイア)も、異世界の事情に深く突っ込む不毛さを熟知している。
ある程度は流しておかなければ、身がもたない。
理論と理性の魔法少女、美遊・エーデルフェルト(カレイドサファイア)も、異世界の事情に深く突っ込む不毛さを熟知している。
ある程度は流しておかなければ、身がもたない。
軽い足音を発て、二人の魔法少女はそこに足を踏み入れた。
軍事系(ミリタリー)知識の乏しいイリヤには、なんだかよく解らない機械としか見えない機材に囲まれて、大きな影が在った。
二人の足音を聞き分けて、その影が振り向く。その姿は、なんと言うか、可愛かった。
全体としてズングリとした、三頭身の茶色い毛並み。
犬なんだか鼠なんだかよく判らないデザインに、大きくつぶらな瞳。
丸っこい耳と耳のあいだに、ちょこんと乗っている緑の帽子。
極めつけが、
軍事系(ミリタリー)知識の乏しいイリヤには、なんだかよく解らない機械としか見えない機材に囲まれて、大きな影が在った。
二人の足音を聞き分けて、その影が振り向く。その姿は、なんと言うか、可愛かった。
全体としてズングリとした、三頭身の茶色い毛並み。
犬なんだか鼠なんだかよく判らないデザインに、大きくつぶらな瞳。
丸っこい耳と耳のあいだに、ちょこんと乗っている緑の帽子。
極めつけが、
「ふもふもふもふも。ふっもふもふも」
口から零れる判別不能な言語。
ソレは、『ボン太くん』と呼ばれる某遊園地のメインマスコット――その着ぐるみであった。
ソレは、『ボン太くん』と呼ばれる某遊園地のメインマスコット――その着ぐるみであった。
無数の軍事機材に囲まれるマスコット。ひたすらにシュールなその情景に、しかし、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンが、突っ込んだのは―――
「いや、何言ってるのか解らないから」
「……ふも」
ボン太くんは何かに気付かされたように一言呟くと、いそいそと犬なのか鼠なのかよく解らない頭をはずす。
この着ぐるみは、口の部分にボイスチェンジャーが仕込まれており、中で喋った言葉を正体不明の言語に変換する機能を持っている。
着ぐるみの奥から出てきたのは、意志の強そうな男子高校生の顔であった。
都立陣代高校生徒会安全保障問題担当・生徒会長補佐官兼2年4組ゴミ係兼傘係。そして、極上生徒会執行部付執行委員、相良宗介その人である。
この着ぐるみは、口の部分にボイスチェンジャーが仕込まれており、中で喋った言葉を正体不明の言語に変換する機能を持っている。
着ぐるみの奥から出てきたのは、意志の強そうな男子高校生の顔であった。
都立陣代高校生徒会安全保障問題担当・生徒会長補佐官兼2年4組ゴミ係兼傘係。そして、極上生徒会執行部付執行委員、相良宗介その人である。
「よく来た、アインツベルン、エーデルフェルト」
愛想に欠けた言葉だが、これが宗介の基本(デフォルト)であるので気にしてはいけない。
「……相良さん。何でボン太くんなんか着てるの?」
「対象の心理状態を和らげる為だ」
「対象の心理状態を和らげる為だ」
即答する。
ズングリとした着ぐるみだからよく解らないが、多分胸を張っていることだろう。
しかし、意味不明の言葉を喚き散らす着ぐるみ姿をみて、安心するような迷子はいないと思うのはイリヤだけだろうか。
微妙な貌のイリヤを他所に、身体の三分の二を着ぐるみに突っ込んだまま、宗介はテレビ画面のような物を指した。
ズングリとした着ぐるみだからよく解らないが、多分胸を張っていることだろう。
しかし、意味不明の言葉を喚き散らす着ぐるみ姿をみて、安心するような迷子はいないと思うのはイリヤだけだろうか。
微妙な貌のイリヤを他所に、身体の三分の二を着ぐるみに突っ込んだまま、宗介はテレビ画面のような物を指した。
「あ、これって、レーダーってヤツ?」
つられ、そして興味津々と、イリヤは画面を覗き込む。
同心円が描かれたその画面には、しかし白い棒が回転するだけで、何も映っていない。
同心円が描かれたその画面には、しかし白い棒が回転するだけで、何も映っていない。
「対象を発見した際に、発信機をつけておいたのだが、どうやら気付かれたらしい。
発信されている電波を辿って見つけたのはコイツだった」
発信されている電波を辿って見つけたのはコイツだった」
そういって、今度はケージに納められた野良犬を指す。
発信機の存在に気付いた保護対象が、その辺の犬にくっ付けたとしか考えられない。
発信機の存在に気付いた保護対象が、その辺の犬にくっ付けたとしか考えられない。
「他にも、逃走の際の進路選択や、行動の端々に軍事色が多く見られる。俄かには信じられないが、相手は専門の訓練を受けている可能性が高い。
そうなると、少々手が掛かる―――と、そういうわけだ。手を貸して欲しい」
そうなると、少々手が掛かる―――と、そういうわけだ。手を貸して欲しい」
二人の魔法少女は同時に頷いた。
何時爆破するか解らない爆弾に、大量発生したデーモン。早く迷子を見つけなければ、大変なことになるかもしれない。
夫々の携帯電話を、複数回線を繋ぎっぱなしに出来るトランシーバーモードに設定し、イリヤと美遊は空を翔る。
宗介は二人に指示を飛ばすために、情報端末の前に陣取った。
何時爆破するか解らない爆弾に、大量発生したデーモン。早く迷子を見つけなければ、大変なことになるかもしれない。
夫々の携帯電話を、複数回線を繋ぎっぱなしに出来るトランシーバーモードに設定し、イリヤと美遊は空を翔る。
宗介は二人に指示を飛ばすために、情報端末の前に陣取った。
―――その時。
鼓膜が破裂しそうな轟音と共に、夜の空に稲光が瞬いた。
十億ボルトの雷光は数度大地を穿ち、その度に大気を激震させる。
十億ボルトの雷光は数度大地を穿ち、その度に大気を激震させる。
「御坂美琴か」
自分と同じく、執行委員に名を連ねる少女のなを呟いて、宗介は端末にむかう―――事は無く、傍らのショットガンを手に取り構える。
引鉄を引く。
どばんっ。と、腹に響く音と共に、銃口から鋼鉄の塊が発射された。
十二ゲージスラッグ。
熊や虎などの猛獣を狩るための弾丸は、迫り来る怪物の頭を吹き飛ばしていた。
肩のラインが平坦になり、侵魔は仰向けに倒れこむ。が、まるでビデオを巻戻すかのように、起き上がった。
引鉄を引く。
どばんっ。と、腹に響く音と共に、銃口から鋼鉄の塊が発射された。
十二ゲージスラッグ。
熊や虎などの猛獣を狩るための弾丸は、迫り来る怪物の頭を吹き飛ばしていた。
肩のラインが平坦になり、侵魔は仰向けに倒れこむ。が、まるでビデオを巻戻すかのように、起き上がった。
「ふん。悪魔か」
デーモンの群は学園都市中に出現している。ココもまた例外ではないようだ。
続々と出現する敵を見て、宗介は口元を吊り上げる。
そして、外していた着ぐるみの頭部を装着した。
続々と出現する敵を見て、宗介は口元を吊り上げる。
そして、外していた着ぐるみの頭部を装着した。
「ふもふもっふ。ふもふもふも、ふもっふるふも!!(モード4、バイラテラル角3.5。ミッションスタート!!)」
ギンっ!! と、着ぐるみの両目が光り、剣呑な空気を醸し出す。
相良宗介が纏うこのボン太くんは、ただの着ぐるみでは無い。
茶色のズングリとしたボディを覆うのは、ライフル弾すらストップする超アラミド繊維の防弾毛皮。
その内部には、指向性マイク、サーマルセンサー、暗視システム、制御用AIなどの高価な電子機器の数々。
そして、最強の陸戦兵器であるアームスレイブの操縦系に酷似した、筋力補助機能。
ふんだんのハイテクを組み込んだ、『人間サイズのAS』とも言うべき驚異的な個人兵装である。
相良宗介が纏うこのボン太くんは、ただの着ぐるみでは無い。
茶色のズングリとしたボディを覆うのは、ライフル弾すらストップする超アラミド繊維の防弾毛皮。
その内部には、指向性マイク、サーマルセンサー、暗視システム、制御用AIなどの高価な電子機器の数々。
そして、最強の陸戦兵器であるアームスレイブの操縦系に酷似した、筋力補助機能。
ふんだんのハイテクを組み込んだ、『人間サイズのAS』とも言うべき驚異的な個人兵装である。
「ふも、ふもふもっふる(来い、訓練をつけてやる)」
2
小さく呻くような音が聞こえた。
音の発生点で、一体のデーモンが肩を震わせている。
小さく、しかし確かに、人ならぬ声で、そのデーモンは嗤っていた。
高く低く、心底可笑しいと。哄笑は、次第に群のすべてに伝播する。
音の発生点で、一体のデーモンが肩を震わせている。
小さく、しかし確かに、人ならぬ声で、そのデーモンは嗤っていた。
高く低く、心底可笑しいと。哄笑は、次第に群のすべてに伝播する。
大気が震えた。
嗤い続ける悪魔たち。
眩暈がするほどの大喝采。吐き気を催す大合哂。
その中で、最初に笑い出したデーモンが、人ならぬ声で宣告する。
眩暈がするほどの大喝采。吐き気を催す大合哂。
その中で、最初に笑い出したデーモンが、人ならぬ声で宣告する。
「(我々を、今までの我々と同じだとは思わないことだな)」
悪魔の哄笑は津波のように。
一つにまとまり、練り合わさって、崩れ落ちる波頭のように、侵魔の群は二人を飲み込んだ。
黒く昏く、瓦礫が転がる廃墟を埋め尽くすほど。
砂糖に群がる黒蟻の群。
耳障りな羽虫の音。神経を逆撫でる不快感を催す嗤声。
悪鬼羅刹魑魅魍魎、悪魔が蠢く地獄さながらに、蝕む猛毒、悪意なる黒の中心点。
一つにまとまり、練り合わさって、崩れ落ちる波頭のように、侵魔の群は二人を飲み込んだ。
黒く昏く、瓦礫が転がる廃墟を埋め尽くすほど。
砂糖に群がる黒蟻の群。
耳障りな羽虫の音。神経を逆撫でる不快感を催す嗤声。
悪鬼羅刹魑魅魍魎、悪魔が蠢く地獄さながらに、蝕む猛毒、悪意なる黒の中心点。
「ッォォオオオオオオオオオオオ――――!!!!!!!」
絶叫と暴風が、暴風それと絶叫が。
台風または竜巻の如く。天災さながらの、生命の輝きを織り込む浄嵐。
穢れた黒を吹き飛ばし洗い流す。
台風または竜巻の如く。天災さながらの、生命の輝きを織り込む浄嵐。
穢れた黒を吹き飛ばし洗い流す。
魔剣使い、柊蓮司。
幾度と無く、世界を救ってきたベテランウィザード。
そして、魔を斬り捨て神を降し、砕けてなお蘇り、彼と共にある魂の相棒。
無銘なる神殺しの魔剣。
幾度と無く、世界を救ってきたベテランウィザード。
そして、魔を斬り捨て神を降し、砕けてなお蘇り、彼と共にある魂の相棒。
無銘なる神殺しの魔剣。
魔剣と主が、巻き起す虞風の渦。無限の鎌鼬が、狂乱する竜巻の中で、無数の侵魔は一様にミキサーに放り込まれた紙屑となる。
つまり、ズタズタでグチャグチャ。
原形を留めぬ悪魔の屍骸が、ベチャベチャとヘドロの様に降り注いだ。
つまり、ズタズタでグチャグチャ。
原形を留めぬ悪魔の屍骸が、ベチャベチャとヘドロの様に降り注いだ。
群の大半を薙ぎ払った魔風の渦。しかし耳障りな声は衰えない。
哄笑をBGMに、平面の影が立体となる様に、粘つく黒が膨れ上がる。
間髪ほどの狭間も無く、残骸だったものは悪魔の姿を取り戻す。
不条理な現象に、柊の口元は引き攣っていた。
哄笑をBGMに、平面の影が立体となる様に、粘つく黒が膨れ上がる。
間髪ほどの狭間も無く、残骸だったものは悪魔の姿を取り戻す。
不条理な現象に、柊の口元は引き攣っていた。
「て、てめぇら………そのプラーナ、どっからもって来てやがる」
生きとし生きるものの生命力。あらゆるものが存在する為の力。
裏界の侵魔が、表界に涌き出る最大の目的。
そして、ウィザードとは常人よりも多くのプラーナを持ち、それを扱う術を知るものの事。
ヘドロが悪魔に戻るその瞬間、大量のプラーナが放出されるのを、柊の感覚が感じ取った。
情報収集(そういったこと)が人一倍苦手な魔剣使い(ひいらぎれんじ)ですら容易に感じ取れるほどの、高密度のプラーナ。
決して一山幾らの下級侵魔が内包できる量ではない。
殺しても殺しても復活するなど、ある種の反則だ。
裏界の侵魔が、表界に涌き出る最大の目的。
そして、ウィザードとは常人よりも多くのプラーナを持ち、それを扱う術を知るものの事。
ヘドロが悪魔に戻るその瞬間、大量のプラーナが放出されるのを、柊の感覚が感じ取った。
情報収集(そういったこと)が人一倍苦手な魔剣使い(ひいらぎれんじ)ですら容易に感じ取れるほどの、高密度のプラーナ。
決して一山幾らの下級侵魔が内包できる量ではない。
殺しても殺しても復活するなど、ある種の反則だ。
「(あは、あはは、あはあは、あはははははははは!!! 無様なものだな柊蓮司! 貴様に今の我々は斃せぬさ!!)」
心底可笑しいと笑いながら、デーモンの攻勢魔力は急激に高まる。
大開の侵魔の口内には、地獄の入り口を覗き込んだかのような闇が渦巻いている。
放たれる闇の刃。
柊は咄嗟に魔器に力を込め、<ダークブレード>を切り払う。
放たれる闇の刃。
柊は咄嗟に魔器に力を込め、<ダークブレード>を切り払う。
攻撃魔法は、事も無げに霧散した。
(? 攻撃にプラーナは乗せてないのか?)
剣を振った手応えが、柊に首を傾げさせた。
復活の際に感じ取っただけの力を乗せられていたら、この一薙ぎで防ぎきれる筈は無いだろう。
復活の際に感じ取っただけの力を乗せられていたら、この一薙ぎで防ぎきれる筈は無いだろう。
(手加減する意味もねぇしな。水増し分には使用制限でもあんのかも知れねぇ)
だとすれば、そこが攻略の糸口になるかもしれない。
思考しながら、柊は侵魔の群を睨みつける。
大口を開けて笑うデーモンたちは、次々と闇の刃を装填する。
思考しながら、柊は侵魔の群を睨みつける。
大口を開けて笑うデーモンたちは、次々と闇の刃を装填する。
「(無限の力を得られたパール様。その配下の我々にかなう筈が無いだろう!!)」
柊と美琴に向けて、一斉に攻撃魔法が放たれた。
3
学園都市はかつてない混乱に包まれていた。
いままでにも、外から入り込んだテロリストが、地下街を破壊し、大量の人間を昏倒させ、現れた『天使』が街を破壊するなど、物騒な事件は結構な頻度で起こっていた。
しかし、学園都市の一区画が丸ごと消えるなどと言う事態は、長年この町に住んでいる住人たちにとっても初めての経験である。
その上、学園都市の外に避難するという事態もまた初めてのことだ。
いままでにも、外から入り込んだテロリストが、地下街を破壊し、大量の人間を昏倒させ、現れた『天使』が街を破壊するなど、物騒な事件は結構な頻度で起こっていた。
しかし、学園都市の一区画が丸ごと消えるなどと言う事態は、長年この町に住んでいる住人たちにとっても初めての経験である。
その上、学園都市の外に避難するという事態もまた初めてのことだ。
そして、転送魔法で避難場所に送られることも初めてなら、下級侵魔、レッサーデーモンの群に襲撃されることも初めてである。
襲い来る侵魔の群に、しかし、学園都市は超能力者の育成機関。大能力者(レベル4)以上の学生たちは、即座に執行委員と共に迎撃に移った。
そして、強能力者(レベル3)以下の生徒たちは急いで避難を続ける。
強能力者と大能力者の違いは一つ、軍事作戦に役立つかどうかである。
『瞬間移動(テレポート)』しかり『座標移動(ムーブポイント)』しかり、大能力者という人種は、押しなべて軍事的に価値のある能力を持っているのだ。
火炎弾が、冷気弾が、鎌鼬が、不可視の弾丸が、伝承に語られる悪魔そのものの怪物たちを次々に捉えていく。
しかし、ソレはまるで岩壁にむかって波飛沫が飛び散るようなものだった。どれだけの攻撃を重ねようと、デーモンの進軍は止らない。
それどころか、咆哮と共に放たれた闇色の刃が、能力者たちを弾き飛ばす。
そして、強能力者(レベル3)以下の生徒たちは急いで避難を続ける。
強能力者と大能力者の違いは一つ、軍事作戦に役立つかどうかである。
『瞬間移動(テレポート)』しかり『座標移動(ムーブポイント)』しかり、大能力者という人種は、押しなべて軍事的に価値のある能力を持っているのだ。
火炎弾が、冷気弾が、鎌鼬が、不可視の弾丸が、伝承に語られる悪魔そのものの怪物たちを次々に捉えていく。
しかし、ソレはまるで岩壁にむかって波飛沫が飛び散るようなものだった。どれだけの攻撃を重ねようと、デーモンの進軍は止らない。
それどころか、咆哮と共に放たれた闇色の刃が、能力者たちを弾き飛ばす。
「うわーっ!! だっ、だめだぁあああ!!」
たった一人が叫んだ弱音。それだけで、能力者の前線はあっけなく崩れる。
それも仕方がない、幾ら力を持っているとは言え、彼らはまだ学生。命がけの戦闘など出来るはずも無い。
三々五々と、散り散りになる能力者。それ追い駆け更なる攻撃を加えるデーモン。あちこちで起こる悲鳴。一瞬で地獄絵図に変わった慣れ親しんだ街並み。
そして、彼女は瓦礫に躓き大地に倒れ付した。
狂乱したように、立ち上がろうとするが足がもつれて再び大地に抱きとめられる。
その間に、デーモンは彼女に肉薄していた。
恐怖に染まった視先で見上げる。
それも仕方がない、幾ら力を持っているとは言え、彼らはまだ学生。命がけの戦闘など出来るはずも無い。
三々五々と、散り散りになる能力者。それ追い駆け更なる攻撃を加えるデーモン。あちこちで起こる悲鳴。一瞬で地獄絵図に変わった慣れ親しんだ街並み。
そして、彼女は瓦礫に躓き大地に倒れ付した。
狂乱したように、立ち上がろうとするが足がもつれて再び大地に抱きとめられる。
その間に、デーモンは彼女に肉薄していた。
恐怖に染まった視先で見上げる。
「 あ」
それだけで、死を宣告された。
デーモンは嗤っていた。その名にふさわしく、悪魔の笑みを貼り付けて。
振り上げられる鉄の腕(かいな)。巌のような拳をにぎり、破砕槌の如き一撃が、風を切り彼女に振り下ろされ――――
デーモンは嗤っていた。その名にふさわしく、悪魔の笑みを貼り付けて。
振り上げられる鉄の腕(かいな)。巌のような拳をにぎり、破砕槌の如き一撃が、風を切り彼女に振り下ろされ――――
「………。………?」
目は瞑らなかった。死の恐怖で身体が固まって動けなかった。
だから、その一部始終を見ていた。けれど、何が起こっているのかわからなかった。理解できなかった。
だから、その一部始終を見ていた。けれど、何が起こっているのかわからなかった。理解できなかった。
振り下ろされるデーモンの拳。
大気を歪めすべてを打ち砕く必殺の打撃。
それは、真黒な帯を巻いた少女の細い腕で、受け止められていた。
大気を歪めすべてを打ち砕く必殺の打撃。
それは、真黒な帯を巻いた少女の細い腕で、受け止められていた。
「ここから逃げろ!! 早く!!」
叫んだのは彼女ではない。彼女と手を握った少年がその声の主。
ツンツンとした黒髪の少年は、灰銀の髪の少女の左手を握り締めた右手ごと、無防備なデーモンの脇腹を殴りつける。
ツンツンとした黒髪の少年は、灰銀の髪の少女の左手を握り締めた右手ごと、無防備なデーモンの脇腹を殴りつける。
バキン と、硝子を砕いたような音がした。
炎も冷気も、何も纏わないただのストレート。それも二人同時に拳を突き出す奇妙なパンチ。
でもそれだけで、たったそれだけで、大能力者が束になっても勝てなかった悪魔が消滅する。
まるで嘘のように、悪い夢から醒めるように、目前の死が消え去った。
でもそれだけで、たったそれだけで、大能力者が束になっても勝てなかった悪魔が消滅する。
まるで嘘のように、悪い夢から醒めるように、目前の死が消え去った。
彼女は呆然と、その二人の少年と少女を、見上げることしか出来なかった。
* *
飛び出したのは、二人同時。
上条当麻とアゼル・イヴリスが、その現場を目撃したのは、ただの偶然だった。
第一〇学区の廃墟から、マンホールの蓋を砕いたり手近なビルの窓ガラスを割ったりと、『追跡封じ(ルートディスターブ)』の真似事をしながら逃走。
第一〇学区の廃墟から、マンホールの蓋を砕いたり手近なビルの窓ガラスを割ったりと、『追跡封じ(ルートディスターブ)』の真似事をしながら逃走。
そうして、漸く撒いたとおもったら、目の前で怪物に少女が襲われている場面に遭遇した。
今は自分たちが追われている身だという事情とか、相手は怪物だという理性とか、そんなものは全て置き去りにして、何よりも速く、上条の足は突撃する。
それはアゼルも同じようで、気がつけば二人揃って無防備に硬直する少女の前に飛び出して、デーモンの攻撃から、彼女を庇っていた。
それはアゼルも同じようで、気がつけば二人揃って無防備に硬直する少女の前に飛び出して、デーモンの攻撃から、彼女を庇っていた。
上条の右手とアゼルの左手。重ねあわせた複合ストレート。それを受けた侵魔が消滅する。
響く硝子を砕いたような音。
上条にとってはなじみの深い、己の右手(イマジンブレイカー)が、異能を破壊する音だ。
上条にとってはなじみの深い、己の右手(イマジンブレイカー)が、異能を破壊する音だ。
夏の海で遭遇した『大天使』も、友達である『人工天使』も、この右手を怖れ、恐らくは触れるだけで消滅してしまう。と、確信していた。
ならば、異世界からの侵略者である侵魔についても同じことが言えるかもしれない。けれど、そうだとすなら、しかし手を握るアゼルが無事なのは何故なのだろう?
ならば、異世界からの侵略者である侵魔についても同じことが言えるかもしれない。けれど、そうだとすなら、しかし手を握るアゼルが無事なのは何故なのだろう?
そんな、小さな疑念が上条の思考に浮かび上がるが、自分たちを取り囲む侵魔の群を前にして、脳裏の片隅に追いやる。
今はそんな事を考えている場合ではない。
十を越え、百に至るほどの悪魔たち。それらは十重二十重と上条当麻とアゼル・イヴリスを取り囲む。
今はそんな事を考えている場合ではない。
十を越え、百に至るほどの悪魔たち。それらは十重二十重と上条当麻とアゼル・イヴリスを取り囲む。
「なんか、こいつら空気が変わってないか?」
右手と左手。
手を繋いだまま、上条とアゼルは背中合わせにデーモンたちと相対する。
手を繋いだまま、上条とアゼルは背中合わせにデーモンたちと相対する。
視界の隅を、光が薙いだ。
降り注ぎ、アスファルトを灼き斬る新緑の閃光。
光の槍は大地を煮溶かし、焦熱の地獄を造り上げる。
溶鉱炉のように赤熱した地面は、周囲の侵魔諸共二人を焼き殺した筈だった。
光の槍は大地を煮溶かし、焦熱の地獄を造り上げる。
溶鉱炉のように赤熱した地面は、周囲の侵魔諸共二人を焼き殺した筈だった。
しかし、ドロドロのマグマのように溶けたその中心は、しかし周囲の惨状からは切り離されていた。
天を打つように、握り合った右手と左手を突き上げて。
自分たちに降り注ぐ光(チカラ)を打ち消して、上条当麻とアゼル・イヴリスは傷一つ無くそこに居る。
天を打つように、握り合った右手と左手を突き上げて。
自分たちに降り注ぐ光(チカラ)を打ち消して、上条当麻とアゼル・イヴリスは傷一つ無くそこに居る。
「くっそ。もう追いついてきやがった」
悪態を向ける相手は、仰ぎ見るほどの上空に。
箒のような槍のような何かを足場にして、二人に武器を向けている。
箒のような槍のような何かを足場にして、二人に武器を向けている。
「上条君。とにかく―――」
「解ってる、ここから離れるぞ」
「解ってる、ここから離れるぞ」
周囲には、まだ逃げ遅れた学生たちが居る。上条たちの足元には逃げ遅れた少女がへたり込んでいる。
だと言うのに、奴らは彼等に構う事無く攻撃を実行した。
これ以上関係の無い人間を巻き込むなど、そんなコトを許せる筈は無い。
だと言うのに、奴らは彼等に構う事無く攻撃を実行した。
これ以上関係の無い人間を巻き込むなど、そんなコトを許せる筈は無い。
人(神)造人間の膂力で上条を担ぎ上げ、アゼルは跳躍する。
それを追い、レミングスのように繋がり連なるデーモンたち。侵魔の群を撃つ事無く追撃するウィザードの男たち。
それを追い、レミングスのように繋がり連なるデーモンたち。侵魔の群を撃つ事無く追撃するウィザードの男たち。
担ぎ上げられ、運ばれる中で、上条は思う。
「って、またコレですかぁああ!!!」
というか叫ぶ。
荷物よろしく運ばれるのは、脳と胃に宜しくない。
上下に揺さぶられて、激しくシェイクされる。
荷物よろしく運ばれるのは、脳と胃に宜しくない。
上下に揺さぶられて、激しくシェイクされる。
身体能力を最大限に引き出して、アゼルは駆ける。
学生寮、学び舎が乱立する地区を抜け、比較的落ち着いた建物の集まった区域を通り過ぎ、足を止めたのは、カラカラに乾き、ボロボロの瓦礫が散乱する荒廃した区画。
学園都市、第六学区。アゼル自身が消し飛ばした破壊の後。
そして、何が起こったとしても被害がでる可能性が最も低い場所。
学生寮、学び舎が乱立する地区を抜け、比較的落ち着いた建物の集まった区域を通り過ぎ、足を止めたのは、カラカラに乾き、ボロボロの瓦礫が散乱する荒廃した区画。
学園都市、第六学区。アゼル自身が消し飛ばした破壊の後。
そして、何が起こったとしても被害がでる可能性が最も低い場所。
上条を降ろし、身構える。
振動のダメージを押さえ込んで、上条は立ち上がった。
二人の後を追って、次々に現れるデーモンとウィザード。
振動のダメージを押さえ込んで、上条は立ち上がった。
二人の後を追って、次々に現れるデーモンとウィザード。
「いくよ。上条君」
二人は同時に地面を蹴り、重ね合わせた拳を叩きつけた。
4
私立輝明学園秋葉原分校、校長室で、『彼女』は顔に似合わぬ妖艶な笑みを浮かべる。
「リヴァイアサン」
知っているかしら? と問いかけた。
世界の守護者代行見習心得、赤羽くれはは、招きもしない来客の存在に少々頭を抱えていた。
世界の守護者代行見習心得、赤羽くれはは、招きもしない来客の存在に少々頭を抱えていた。
「知ってるわよ。
別名レヴィアタン。旧約聖書に登場する海の怪物。十字教七大罪・嫉妬の対応悪魔」
別名レヴィアタン。旧約聖書に登場する海の怪物。十字教七大罪・嫉妬の対応悪魔」
赤羽くれはの、魔法使いとしての分類(ウィザードクラス)は『陰陽師』である。
それは、流入してきた大陸道教と日本神道が融合した総合魔術の使い手であるという意味だが、だからと言って日本以外の思想を知らないと言うわけではない。
それに、以上は『常識』的に語られている知識であり、
それは、流入してきた大陸道教と日本神道が融合した総合魔術の使い手であるという意味だが、だからと言って日本以外の思想を知らないと言うわけではない。
それに、以上は『常識』的に語られている知識であり、
「名のある魔王の一柱。『魔王蛇』レビュアータのことでしょ? 大陸一つを抱き枕にして眠っていて、起きたら世界が滅ぶって言う……」
『非常識』な(ウィザードとしての)回答は、そういう事になる。
『彼女』はたしか、パール・クールの魔導具『東方王国旗』の機能について話していたはずだ。それが何故、『魔王蛇』の話になるのだろうか?
胡乱気なくれはの視線に、招かれざる客は馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
胡乱気なくれはの視線に、招かれざる客は馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
「あんたも頭悪いわね、赤羽くれは。柊蓮司といい勝負よ?」
「はわっ!? ちょっと、どゆことよ」
「はわっ!? ちょっと、どゆことよ」
剣呑に輝くくれはの視線を、まるでそよ風のように受け流して、『彼女』は言葉を続けた。
「あのネボスケ魔王のことじゃあないわ。あんたたち、人間が書いた本の名前よ。
正式名称をLeviathan or the matter, form and power of a common-wealth ecclesiastical and civil"。
西暦1651年、トマス・ホッブズが記した思想書。
こんなの、高校の倫理の授業で習うでしょ?」
正式名称をLeviathan or the matter, form and power of a common-wealth ecclesiastical and civil"。
西暦1651年、トマス・ホッブズが記した思想書。
こんなの、高校の倫理の授業で習うでしょ?」
授業出てなかったの? と、ニヤニヤする『彼女』を、三白眼で睨みつける。
「あのねぇ! 仮にも裏界の魔王が人間の思想家を引き合いに出すなんて誰が思うのよ!」
「単に、説明がしやすいからよ。
まぁ、いいわ。で、このホッブズによれば、人間の自然状態は『万人の万人による闘争』であるそうよ―――」
「単に、説明がしやすいからよ。
まぁ、いいわ。で、このホッブズによれば、人間の自然状態は『万人の万人による闘争』であるそうよ―――」
人間はつねに自己保存のために他者より優位に立とうとする。しかしこの優位は相対的なものであるから、際限がなく、これを求めることはすなわち無限の欲望である。
けれども自然世界の資源は有限であるため、無限の欲望は満たされることがない。
人はそれを理性により予見しているから、限られた資源を未来の自己保存のためにつねに争うことになる。またこの争いに実力での決着はつかない。
なぜならホッブズにおいては個人の実力差は他人を服従させることが出来るほど決定的ではないのだから。
けれども自然世界の資源は有限であるため、無限の欲望は満たされることがない。
人はそれを理性により予見しているから、限られた資源を未来の自己保存のためにつねに争うことになる。またこの争いに実力での決着はつかない。
なぜならホッブズにおいては個人の実力差は他人を服従させることが出来るほど決定的ではないのだから。
即ち、『万人の万人による闘争』。
「―――この混乱状況を避けるためには、『人間が天賦の権利として持ちうる自然権を政府に対して全部譲渡するべき』。
そういう社会契約を結ぶべきだって、ホッブズは言っているわ。
噛み砕いて言えば、満足に生きていく為に自分のすべてを王様に渡してしまいなさいってことね」
そういう社会契約を結ぶべきだって、ホッブズは言っているわ。
噛み砕いて言えば、満足に生きていく為に自分のすべてを王様に渡してしまいなさいってことね」
そうやって、国民すべての自然に生きる権利=自然権をあつめた政府を、ホッブズは旧約聖書に登場する怪物の名をとって『リヴァイアサン』と名付けた。
これは、それまでの王権神授説にかわって絶対王制を正当化する理論であると言われている。
トマス・ホッブズという哲学者が、何を主張したかったについては研究者の間でも解釈が分かれるところであるが、今回、彼の真意を追求することに意味は無い。
これは、それまでの王権神授説にかわって絶対王制を正当化する理論であると言われている。
トマス・ホッブズという哲学者が、何を主張したかったについては研究者の間でも解釈が分かれるところであるが、今回、彼の真意を追求することに意味は無い。
「『東方王国旗』は、立てた場所をパールの領地、即ち東方王国の一部であると認める証。
大昔、あんたたち人間の冒険家とかが、新発見した土地に自分たちの国の国旗を立てたみたいにね。
そして、王制という政治体制下では、その国のすべては王の持ち物という事になる。
水も、空気も、大地も、そしてそこに住んでいるモノの命ですら―――すべて、ね」
大昔、あんたたち人間の冒険家とかが、新発見した土地に自分たちの国の国旗を立てたみたいにね。
そして、王制という政治体制下では、その国のすべては王の持ち物という事になる。
水も、空気も、大地も、そしてそこに住んでいるモノの命ですら―――すべて、ね」
『東方王国旗』は、そういった契約を強制的に結ばせる魔導具。
それを使われると言うことが、一体如何言うことなのか。
一つの答えにたどり着いて、呆然とくれはの唇が言葉を紡いだ。
それを使われると言うことが、一体如何言うことなのか。
一つの答えにたどり着いて、呆然とくれはの唇が言葉を紡いだ。
「すべてって、まさか……」
「―――そう。
この学園世界に存在する、水も、空気も、大地も、そしてそこに住んでいるモノの命も、即ち、満ち溢れる様々な異世界の、多種多様のプラーナでさえも。
すべてがパール・クールのチカラになる。
一柱の魔王でありながら、世界一つ分のチカラを内包した存在。
それは、いわば世界を相手にすることと等しい。対抗手段は、アゼルの力しかない―――」
「―――そう。
この学園世界に存在する、水も、空気も、大地も、そしてそこに住んでいるモノの命も、即ち、満ち溢れる様々な異世界の、多種多様のプラーナでさえも。
すべてがパール・クールのチカラになる。
一柱の魔王でありながら、世界一つ分のチカラを内包した存在。
それは、いわば世界を相手にすることと等しい。対抗手段は、アゼルの力しかない―――」
それは、すべてを喰らう荒廃の力。
世界規模のプラーナを扱う怪物を相手にするには、世界の危機レベルの力が必要である。
世界規模のプラーナを扱う怪物を相手にするには、世界の危機レベルの力が必要である。
「表界でなら兎も角、この世界で魔王の相手を、人間風情が出来ると思わないことね」
『彼女』は、ニヤリと獰猛に笑うと
「だから手を貸してあげるわ、この私が、私たちが。
裏界に轟く、その名にかけてね」
裏界に轟く、その名にかけてね」
翼の様に、バサリと外套を翻した。
「―――信用して良いの?
アゼルは兎も角、あんたが人助けなんて違和感たっぷりなんだけど?」
アゼルは兎も角、あんたが人助けなんて違和感たっぷりなんだけど?」
幾らかの沈黙を挟んで、視線に力を込めて赤羽くれはが言う。
返答は、大きな溜息だった。
返答は、大きな溜息だった。
「判ってないわね、赤羽くれは。これはゲームなのよ―――?」
「………。」
「………。」
「―――だから、私にとってこの状況は、立てるべきフラグの一つでしかないわ」
5
轟轟と音を立てて、風の刃が舞い踊る。
全長約二メートル、刃渡り約一.五メートルの巨大な刃。
ウィッチブレードと呼ばれる白兵戦用戦闘箒。第八世界の魔法使い(ウィザード)たちが好んで使う、科学魔術相半の戦闘兵器である。
しかし、彼が持つのは唯の箒にあらず。
魔を斬り捨て神を降した無銘の魔剣。神の半身との戦いで砕かれた剣を元にして、製造されたワンオフのフルカスタムメイド。
魔剣使い、柊蓮司。
その銘(クラス)の通り、切っても切れぬ魂の相棒である。
全長約二メートル、刃渡り約一.五メートルの巨大な刃。
ウィッチブレードと呼ばれる白兵戦用戦闘箒。第八世界の魔法使い(ウィザード)たちが好んで使う、科学魔術相半の戦闘兵器である。
しかし、彼が持つのは唯の箒にあらず。
魔を斬り捨て神を降した無銘の魔剣。神の半身との戦いで砕かれた剣を元にして、製造されたワンオフのフルカスタムメイド。
魔剣使い、柊蓮司。
その銘(クラス)の通り、切っても切れぬ魂の相棒である。
「 ッァ!!」
音にならない気合と共に、烈風を纏った刃を振り抜く。魔剣の纏う風は唯の気流にあらず、人の持つ生命力、可能性の力であるプラーナそのもの。
命の輝きを織り込んだ竜巻は、刃圏に入った侵魔たちを磨り潰すように引きちぎる。
命の輝きを織り込んだ竜巻は、刃圏に入った侵魔たちを磨り潰すように引きちぎる。
「ッぁあああッ!!」
返す刀でもう一斬。細切れを挽肉に変える勢いで、烈風の刃は踊り狂う。
しかし―――、
秒間三発、音の壁を越え青白の雷光が水平に閃く。
静電気を帯びた前髪は、バチバチと音をたてイルミネーションのように輝いた。
数億ボルトの電撃を受け、黒々としたデーモンの群が弾け飛ぶ。
間髪入れず、荒れ狂う黒の蛇。
磁力で引き寄せられた無数の砂鉄は、高速振動しチェーンソウ並みの切れ味を誇る。
デーモンたちが砂鉄の電動鋸でブツギリにされ、肉塊に変わって転がった。
仲間の屍を越えて、侵魔が飛び掛る。
一体。二体。三体四体。津波のように覆い被さる影、影、影。
静電気を帯びた前髪は、バチバチと音をたてイルミネーションのように輝いた。
数億ボルトの電撃を受け、黒々としたデーモンの群が弾け飛ぶ。
間髪入れず、荒れ狂う黒の蛇。
磁力で引き寄せられた無数の砂鉄は、高速振動しチェーンソウ並みの切れ味を誇る。
デーモンたちが砂鉄の電動鋸でブツギリにされ、肉塊に変わって転がった。
仲間の屍を越えて、侵魔が飛び掛る。
一体。二体。三体四体。津波のように覆い被さる影、影、影。
「くぉんのぉおおおお!!!」
雷光が弾ける。何も無い空中で、壁に激突したかのように吹き飛ぶ侵魔たち。
格子状に放出された電撃が、まるで結界のように、デーモンの突撃を防ぎ跳ね飛ばす。
格子状に放出された電撃が、まるで結界のように、デーモンの突撃を防ぎ跳ね飛ばす。
「そこを、ドケェええええ!!!」
咆哮と共に、煌橙の極光が右手より放たれる。
『超電磁砲(レールガン)』
学園都市第三位、御坂美琴の威名たるその一撃は、黒山の一角を直線的に抉り取った。
『超電磁砲(レールガン)』
学園都市第三位、御坂美琴の威名たるその一撃は、黒山の一角を直線的に抉り取った。
それでも―――、
プラーナの強嵐が、超音速の砲弾が、余波で巻き上げる砂塵のカーテンが晴れた後には、何事も無かったように、デーモンたちは平然と。
気分の悪くなる哄笑をあげ続けている。
気分の悪くなる哄笑をあげ続けている。
「しぶとい―――」
呻くように呟いた。
魂の相棒、己が魔剣を構え、柊蓮司は現状に歯噛みをする。
まるで、ゲームの初期的なバグのように、斃しても斃しても復活してくる下級侵魔たち。
相手にしている暇は無いというのに、湯水の如く湧いて出る。
このままでは、斃すことは愚か、突破することも難しい。
魂の相棒、己が魔剣を構え、柊蓮司は現状に歯噛みをする。
まるで、ゲームの初期的なバグのように、斃しても斃しても復活してくる下級侵魔たち。
相手にしている暇は無いというのに、湯水の如く湧いて出る。
このままでは、斃すことは愚か、突破することも難しい。
侵魔たちは、破壊された傍からプラーナを使用して肉体を再構成している。無尽蔵なプラーナを、そのためにしか使っていない、もしくは使えない事が唯一の救いか。
しかし、その再生能力に加えて、元からの膨大な数。魔剣使いと超能力者では、少々荷が重い。
逃げるにしろ、斃すにしろ、なにか、広範囲に強力な破壊を撒き散らす魔法のようなものがあればいいのだが、あいにくと柊はそちら方面には疎かった。
しかし、その再生能力に加えて、元からの膨大な数。魔剣使いと超能力者では、少々荷が重い。
逃げるにしろ、斃すにしろ、なにか、広範囲に強力な破壊を撒き散らす魔法のようなものがあればいいのだが、あいにくと柊はそちら方面には疎かった。
嗤うデーモンの群。取り囲む侵魔の円陣。
半径は極端に狭まって、柊と美琴は背中合わせに、判り易く追い詰められていた。
半径は極端に狭まって、柊と美琴は背中合わせに、判り易く追い詰められていた。
(くっそ、切りがないわね………)
汗を拭い、美琴は荒い息の下で小さく舌打ちする。
雷撃も、高速振動する砂鉄の電動鋸も、そして異名たるレールガンもすべてクリーンヒットしている筈だ。
切り刻まれ、引き千切られ、肉塊に変わったデーモンの残骸がその証拠。
しかし一瞬の後に、侵魔の群は整然とそこに存在していた。
あたかも、時が巻戻ったとでも言いたげに。
それは、御坂美琴の力は何一つ通用しないと、彼女のすべてを否定されているようなものだった。
雷撃も、高速振動する砂鉄の電動鋸も、そして異名たるレールガンもすべてクリーンヒットしている筈だ。
切り刻まれ、引き千切られ、肉塊に変わったデーモンの残骸がその証拠。
しかし一瞬の後に、侵魔の群は整然とそこに存在していた。
あたかも、時が巻戻ったとでも言いたげに。
それは、御坂美琴の力は何一つ通用しないと、彼女のすべてを否定されているようなものだった。
(学園都市第三位が聞いて呆れる。
ま、アイツみたいに完全に無効化されてるって訳じゃないのが、唯一の救いかしら?)
ま、アイツみたいに完全に無効化されてるって訳じゃないのが、唯一の救いかしら?)
美琴の言う、アイツ―――即ち、上条当麻。彼の右手はありとあらゆる異能を否定する。
けれどそんな神憑りな力も、効果を発揮するのは右腕の手首から先だけ。それを除けば、上条当麻は至って普通の高校生でしかない。
けれどそんな神憑りな力も、効果を発揮するのは右腕の手首から先だけ。それを除けば、上条当麻は至って普通の高校生でしかない。
(だって言うのにあのバカは、いっつもいっつも厄介事に首を突っ込んで!)
頼まれもしないのにお節介にも、譬え死にそうな身体であっても引き摺って、這う様にしてでも地獄のような戦場に向うのだ。
そんな光景を、御坂美琴は過去、目の当たりにしていた。
その時、美琴は決めたのだ。
そんな光景を、御坂美琴は過去、目の当たりにしていた。
その時、美琴は決めたのだ。
「今度は、私があいつを助ける番だ―――」
それは超能力者(レベル5)だから、第三位『超電磁砲』だからとか、そんなコトではない。そんな小さな事はどうでも良い。
譬え、その場ですべての力を失い無能力者(レベル0)に成ったとしても、美琴は同じことを言うと誓えた。
譬え、その場ですべての力を失い無能力者(レベル0)に成ったとしても、美琴は同じことを言うと誓えた。
それは、今でも変わらない。
美琴の全身を、雷光が纏う。
大気中に放出された高圧電流が、バチバチと音を立てた。
心折れず、なおも抗う意思を見せ付ける美琴に、黒山の侵魔は嘲弄を浴びせかける。
大気中に放出された高圧電流が、バチバチと音を立てた。
心折れず、なおも抗う意思を見せ付ける美琴に、黒山の侵魔は嘲弄を浴びせかける。
「(無駄だ無駄無駄。その程度では、我らを殺しつくすことなど不可能―――!!)」
狂笑し、雪崩れ込むように襲い来る侵魔の群。
美琴の雷をかいくぐり、柊の魔剣に貫かれてなお、傷つくことを欠片も恐れず、壊れた動物のように、二人を取り囲んで襲い掛かる。
絨毯爆撃のような闇の刃、鍵盤を叩くように振り下ろされる巨大な爪。
美琴の雷をかいくぐり、柊の魔剣に貫かれてなお、傷つくことを欠片も恐れず、壊れた動物のように、二人を取り囲んで襲い掛かる。
絨毯爆撃のような闇の刃、鍵盤を叩くように振り下ろされる巨大な爪。
「(人間風情が!! ―――我々を倒したければ、せめて大公クラスの魔王を連れて来い!!)」
「っ、避けろ!! 美琴!!」
「っ、避けろ!! 美琴!!」
柊の絶叫虚しく、まるで五本の鉈をくくりつけたような手が、御坂美琴の頭に振り下ろされる。
思わず、目を瞑った闇の中で、
思わず、目を瞑った闇の中で、
ぐしゃり。という音を聞いた。
ばしゃり。と水のような感触が全身を濡らす。
首を落とされても、人間の意識はしばらく残っていると言うが、脳を潰されてはそれもありえない。
巨大な凶器を連ねた五本の爪。そんなもので殴られたら、人間の頭など、ゆで卵のように綺麗に輪切りになることだろう。
ならば、闇の中の感覚は錯覚か、死に至る瞬間に見た幻なのだろうか。
巨大な凶器を連ねた五本の爪。そんなもので殴られたら、人間の頭など、ゆで卵のように綺麗に輪切りになることだろう。
ならば、闇の中の感覚は錯覚か、死に至る瞬間に見た幻なのだろうか。
「―――ふぅううん。面白い事いうじゃない」
聞こえた声。それは鈴を転がしたような、涼やかな美声。
しかし、同時に背筋に氷を詰め込まれたような、怖気を呼び覚ます静かな怒声。
聴覚が捉えたそれは、決して幻などではなかった。
御坂美琴は恐る恐る目を開く。
痛覚は何も語らず。しかしすべての感覚は、沈黙を以って目前の存在への畏怖を謳う。
しかし、同時に背筋に氷を詰め込まれたような、怖気を呼び覚ます静かな怒声。
聴覚が捉えたそれは、決して幻などではなかった。
御坂美琴は恐る恐る目を開く。
痛覚は何も語らず。しかしすべての感覚は、沈黙を以って目前の存在への畏怖を謳う。
見開いた目が捉えたのは小さな背中。
紫を基調とした制服の上から、月と太陽を描いた高山外套(ポンチョ)を羽織った少女の後姿。
銀の髪を波打たせ、白魚のような手を侵魔の血で汚す少女は、金色の瞳で群れる悪魔に笑いかける。
紫を基調とした制服の上から、月と太陽を描いた高山外套(ポンチョ)を羽織った少女の後姿。
銀の髪を波打たせ、白魚のような手を侵魔の血で汚す少女は、金色の瞳で群れる悪魔に笑いかける。
「随分面白い冗談を聞いた気がするわ。
高々下級侵魔風情が、残り糟とはいえ、それだけのプラーナを与えられていながら、自己修復にしか使えないような三流共が、『大公クラスの魔王を連れて来い』?
パールの奴は、配下に冗句の指導でもしてやがるのかしら?」
高々下級侵魔風情が、残り糟とはいえ、それだけのプラーナを与えられていながら、自己修復にしか使えないような三流共が、『大公クラスの魔王を連れて来い』?
パールの奴は、配下に冗句の指導でもしてやがるのかしら?」
少女は地獄のような怒りを撒き散らす。
燃え盛る煉獄(ゲヘナ)のような、寒風荒ぶ凍結地獄(コキュートス)のような。
燃え盛る煉獄(ゲヘナ)のような、寒風荒ぶ凍結地獄(コキュートス)のような。
彼女に貫かれ、物言わぬ骸になった侵魔が蘇生する。
ソレは、震える身体を押し留めて、
ソレは、震える身体を押し留めて、
「(な、なにを。現に貴様はこうして私を殺せてはいないではないか―――!!)」
空気が激変する。
少女が発散する怒りの変化が、辺りの大気をまるで爆発寸前の爆弾のような、致命的なモノに塗り替える。
少女が発散する怒りの変化が、辺りの大気をまるで爆発寸前の爆弾のような、致命的なモノに塗り替える。
「ふぅうん。ほんと、面白い冗談ね―――」
夏の風鈴を思わせる声音。
涼風が奏でる、爽やかな音。
涼風が奏でる、爽やかな音。
「ホンッと――最ッ高の冗談よ」
それに、この上ない怒りを乗せて、彼女は笑った。
燃え盛る煉獄を凍結し、凍て付く凍結地獄を蒸発させるような、
燃え盛る煉獄を凍結し、凍て付く凍結地獄を蒸発させるような、
「 。」
恐怖が、その言葉を覆い隠した。
天空に紅い月がのぼり、美琴と柊、そして少女を結界が包む。
そして、
天空に紅い月がのぼり、美琴と柊、そして少女を結界が包む。
そして、
―――ヴァニティ・ワールド・ジ・アンリミテッド
防御結界の外、月匣の中を吹き荒れる虚無の嵐が、群れる悪魔を飲み込んだ。