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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第02話

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(flag.X2-1 白き陽の神)

―――学園世界居住区

水曜日放課後。

「~♪」
まだ日の高い居住区で朱野ユリは鼻歌交じりに選抜委員としてパトロール任務をこなしていた。
ここ最近、居住区にモンスターが出現する事件が頻発しているせいか、ユリや智には回ってこなかった任務だったが、"今の"ユリになら任せられると判断されたのだ。
認められた。その事が素直に嬉しい。いつの間にか、漠然と感じていたあの気持ちも消えていた。
今のユリの格好は輝明学園の制服に159番隊と記された腕章と言う平日の放課後らしい格好。
だが、ユリは知っている。今のユリの周りには見えない収納場所…月衣が展開され、その月衣の中には麒麟に選んでもらった真新しい装備と魔導書が入っていること。
その魔導書に記された魔法を、3日で全部覚えて、使いこなせるようになったことを。
輝明学園の新米ウィザード、朱野ユリ…彼女は半人前ながら、ウィザードとしての実力を急速に身につけつつあった。
放課後から完全に日が落ちるまでのこの時間、居住区は授業を終え、友人と共に遊びに行こうとするものや寮への家路を急ぐものが行きかい、活気と笑い声に満ちている。
(いいなあ。こういうの)
そんな町並みをゆったりと歩きながら、ユリの心は自然と華やぐ。
(もう少ししたら部活終わった人たちが帰ってきてもっと…)
「あ」
ふと、お昼休みに言われたことを思い出し、ちくりと胸が痛んだ。
(そういえば、葵先輩から桜水台との合同観測会の準備手伝ってほしいって言われてたんだった)
忘れていた気持ちがちょっとだけ蘇る。
(…ちょっと、行き辛いな。最近ずっと、天文部には顔出して無かったから…)
ほんわかとした雰囲気の葵先輩に可愛らしいエリス先輩と言う2人の部長、親友でもあり天文部員でもある麒麟に、貴重な男手と言う事で半ば無理やり参加させられているトオル…
輝明学園天文部のメンツの顔が次々と頭に浮かぶ(本当は他にも3年に緋室先輩、1年に結城さんと星野さんと言う部員がいるらしいのだが、彼らが来ているのをユリは見たことが無かった)
3ヶ月ほど前に選抜委員の公募に応募して選抜隊に入ってからは、ユリはほとんど天文部には顔を出していなかった。
忙しかったからと言う理由もあるがそれだけでも無い。選抜委員の仕事は緊急任務でも無ければ精々週に2~3回所属隊に顔を出せば良いことになっているから、部活に顔を出す時間くらいはある。
朱野ユリ、彼女が天文部に顔を出さなくなった理由。それは…
(でも、今なら行ってもいいかな?あたしも…ウィザードになったから)
くれはお姉ちゃんが部長をやってた去年あたりからだと聞いている。天文部がウィザードのたまり場とでも言うべき部活になったのは。
部員が少なく、潰れかけていた今年の天文部。葵先輩に誘われ、軽い気持ちで入部した。
だが、ファー・ジ・アースの裏事情と共に天文部の部員が全員ウィザードあるいは元ウィザードだと聞いてから、何となくユリは天文部と距離を置くようになった。
別にウィザードが怖くなったわけではない。選抜委員の仕事が非番の休日なんかにはトオルや麒麟、葵と遊びに行くことも多い。
ただ、何となく部活…ウィザードの集まりに顔を出すのは、気が引けた。イノセントの自分は場違いな気がしたから。
その状態は、今も続いている。
(…誘ってくれたのも、そう言う意味なのかな?)
ずっと顔を出して無かった天文部に顔を出すきっかけになれば。そんな意味なのかも知れない。だったら。
「…今度、顔を出そうかな…?」
ぽつりと呟いたその時だった。
ざわりと。
空気が変わったことを察知し、ユリは顔を上げる。
「これって…!」
そう遠くない場所に現れた気配と、空に輝く"紅い月"。その正体をユリは"ウィザードの力"でもって察知する。そう、一昨日感じたものとよく似た気配。
「大変!行かなくちゃ!」
人気の多い居住区に現れた侵魔を放っておくわけにはいかない。ユリは気配の方に向って駆けだした。


―――数分後

現場…紅い月の輝く月匣の中にたどり着いたユリが最初に見たもの、それは大きめの不定形モンスターに襲われる、1人の少年の姿だった。
キシャー!
モンスターが場違いに香ばしい甘いにおいを放ちつつ、ぞろりと生えた牙をむき出しにして咆哮する。
ドジュウッ
咆哮と共に零れおちたモンスターのよだれが石畳の地面を焼いた。
「く、来るな…!」
冷汗を流し、モンスターから後ずさるのは、線の細い、ユリと同じくらいの年代の少年。
どこかの学園の制服なのであろう小豆色のブレザーに灰色のズボン。細い首に、首輪のようにも見えるチョーカーをつけている。
その、眼鏡がよく似合う整った中性的な顔立ちには、押し殺した恐怖が浮かんでいた。
じりじりと後ずさる少年を追い詰めるように"それ"はゆっくりと距離を詰める。
「ボクはまだ…こんなところで死ぬわけには行かない…ボクにはまだ、攻略しなければならないギャルゲーがあるんだ!」
見たところ少年には、戦う力はなさそうだ。月匣内でも動けるくらいの強い意志の力…プラーナを持っていることは感じられるものの、武器は持っていないし、魔法が使える様子は無い。
恐らく一撃でも攻撃を受ければ、少年の命は無いだろう。
(助け無くちゃ)
そう考えるより先に身体が動いた。
「こっちよ!モンスター!」
その声に反応して、モンスターがユリの方を向く。
「そこの君、逃げて!ここはあたしが何とかするから!」
それを確認しつつ、ユリは月衣から自らの武器を抜き出す。
細くて小さく、それ故に軽い指揮棒を思わせる魔法の杖と、魔力増幅の効果が込められた、魔導書。
それを手にし、ユリは目の前の怪物に集中する!
「地に伏せし巨龍よ!」
ユリの体内から黒い、瘴気と化したプラーナがあふれ出し、杖の先に集まる。
「その顎を持って、彼のものを噛み砕け!」
最初から出し惜しみはしない。してはいけない。自らの扱える最大最強の魔法。それでもって戦わなければ危ない相手だ。
「《ドラゴンファング》!」
ユリの叫びが響き渡った瞬間。
ガシャアン!
大地から生えた、瘴気を纏った岩の牙がモンスターを挟み込む。
「…っう」
魔法に上乗せした瘴気と化したプラーナが身体を蝕む感覚に、ユリは眩暈を覚える。
その時だった。
「油断するな!まだ終わってない!」
少年から発せられた言葉にはっと我に帰る。
「わっ!?」
岩石の牙からはみ出した触手が、ユリに迫る。
「あ、《アースシールド》!」
咄嗟に覚えたばかりの魔法で土の壁を作り出して防ぐ。
「っつう!?」
その壁に触手が叩きつけられ、壁は破壊される。殺し切れなかった勢いがユリに叩きつけられ、ユリはダメージを受ける。
「つ、強い…」
苦痛に耐えきれずその場にへたり込みそうになったユリの手が取られる。思わずユリはその手の持ち主を見る。そこには。
「一旦あいつの触手が届かないところまで距離を取るんだ。岩に挟まれてる今なら追ってこれない」
逃げ出さず、冷静にユリを見つめる、少年の瞳があった。


―――居住区 路地裏

「…《ヒール》」
モンスターからある程度距離を取り、魔法で消耗した自らの体力を回復する。
「これで、行ける…かな」
とりあえず、最悪の状況を脱し、ユリは溜息を吐く。そして、後回しにしていた行為を行う。
「その…さっきはありがとう。えっと」
冷静にモンスターを観察するメガネの少年に礼を言う。
「桂馬。桂木桂馬。よろしく。それと、礼を言うのはボクの方だ。ボクだけだったら、どうしようも無かった」
少年…桂馬がモンスターから目を離さずに言う。
「えっと、それはどうも…あ、そのあたしは朱野ユリです」
「…まずいな」
ユリの自己紹介には返事を返さずに観察を続け、桂馬は呟く。
キシャー!
ベキベキベキベキ!
咆哮と共に岩の顎がこじ開けられて、モンスターが自由を取り戻す。
「…ったく、エルシィの奴…」
桂馬がユリに聞こえぬよう小さな声で毒づく。あれの"製作者"に。
そんな時だった。
~~♪
0-phoneから場違いな音楽が流れる。"仕事"用の着メロだ。ユリはごくりと唾をのみ、電話に出る。
「…はい。朱野ユリです」
電話の向こうから聞こえてくるのは予想通り。隊長の声。珍しく焦った様子で、隊長はユリに命令と情報を告げる。
「…すぐに撤退しろ?相手が悪い?あれって…スイーツなんですか!?」
その情報を聞き、ユリは驚きと共に納得した。目の前のモンスターの怪物っぷりに。

スイーツ。

悪名を馳せる某お菓子研究会が作る"怪物"を指すそれは、この学園世界でも屈指の厄介さを誇るモンスターカテゴリとして恐れられている。
大抵は失敗作あるいは成功作としてお菓子研究会とその恋人が手ずから"処理"するか執行委員が"退治"するかの2択なのだが稀にああして逃げのびたものが学園や居住区に現れる。
基本ベースは製作者の関係で輝明学園の世界のモンスター、侵魔に近いとされるそれの特徴は、独特の甘いにおい、恐ろしいまでの生命力、そして強力な毒性。
文字通りの意味で怪物じみた耐久力を持つため強力な武器や魔法を使っても仕留めるのは容易ではなく、撒き散らされる瘴気のブレスや肉体、体液には強い毒性がある。
その出来栄え次第では熟練のウィザードや上位の侵魔…"雑魚魔王級"すら手こずらせるだけの力量を誇る、恐るべき怪物。それがスイーツである。
そのため、戦闘能力を有した選抜委員であってもみだりに挑むことはせず、執行委員あるいは特選隊の到着を待ち、その指示に従うことが選抜委員対モンスター戦闘マニュアルには記載されている。


「どうしよう…」
ユリはちらりと傍らの桂馬を見る。
「えっと…桂木君?ここから逃げないと行けないんだけど」
「そうだな…」
戦う力は無いが、怯えることも無く沈着冷静。桂馬はモンスターから目を離さずに答える。
「放っておいたら危ないよね。何とかして、倒す…せめてしばらく動けなく出来ないかな?」
「今考えてるところだ」
表情を変えず、桂馬が答える。そして。
「…ユリ、さっきの魔法、もう1回使えるか?」
「え?…うん。大丈夫。だけど…多分あと1回だけだと思う」
あの様子からだともう1回使っても倒せるかどうかは怪しい。
それ以上使うと身体が瘴気に耐えきれない。
「…いや、あと1回使えればそれで良い」
考えついたらしく、ユリを促して駆けだす。
「どうするの?」
「おびき寄せる」
簡潔に返事を返し、後ろを振り返らず桂馬がユリの手を取り駆ける。
キシャー!
その場から逃げだす2人を見つけ、スイーツが奇声を上げながらユリたちに迫る。
「…ここだ!」
桂馬が駆けこんだのは寮の間の細い路地裏。一気に駆け抜けると同時に、身をひるがえす。
「今だ!あいつがここを抜け切る前に!」
「…わ、分かった!地に伏せし巨龍よ…」
桂馬に促され、慌てて詠唱する。そして。
キシャー!
追ってきたスイーツがあと一歩で路地裏を抜けようとした瞬間!
「《ドラゴンファング》!」
ユリの魔法が発動する!
ガスガスガスガス!
辺りの"石"…地面だけでなく寮の壁からも岩の牙が生え、スイーツを縫い止める。
ギシュアー!?
慌てて動こうとするが、完全に岩に挟まれ、見動きが取れない。先ほどの一枚岩ではなく、建物の壁に閉じ込められる形となったため、こじ開けることもできない。
苦し紛れに触手を伸ばすが、既に2人は届かない位置に逃げていた。そして…
「…死んだか」
力尽き、ドロドロと甘いバターの匂いがする液体と化していくスイーツと紅い月の消えた空を確認しながら桂馬が至極冷静に言う。
「…凄いね」
その冷静さと機転にユリは驚く。この男の子は、もしかしたらウィザード以上に冷静かも知れない。そう、思った。
「凄くも無いさ」
そんなユリの感想に桂馬は肩をすくめる。
「選択肢ミス=即死の、絶対絶命のピンチを機転で乗り越えるシーンで間違えたことなんて1度も無いし、昔のは妙にシビアなバランスのRPGやSLGも多かったからな」
「え?」
それっきり興味を失くしたとでも言うように桂馬は懐からゲーム機を取り出して歩き出す。
「あ!待って…」
慌てて立ち去ろうとする桂馬に手を伸ばそうとした、その時だった。
「あ、あれ?」
地面が揺れる。吐き気がして、辺りがゆっくりと暗くなっていく。
「お、おい!?こんなところで倒れるな!?」
桂馬が慌てて駆けよって来るのを確認したのを最後に、ユリは気を失った…


―――更に数分後

「あ、神に~さま~」
何処かへ行ってしまったマドレーヌを追ってやってきたエルシィは、見知った顔を見つけ駆け寄った。
「こっちにマドレーヌが逃げてきま…ああ!?」
近寄って、路地裏でぐちゃぐちゃになって息絶えたマドレーヌにショックを受ける。
「これじゃあもう食べられません…だれがこんなことを…」
「エ~ル~シ~ィ~」
聞きなれた声にエルシィは振り向いた。そこには、鬼がいた。
「は、はう!?か、神に~さま…?」
それに危険なものを感じ取ったエルシィが後ずさる。そんなエルシィに桂馬は顔を寄せ、噛んで含めるように尋ねる。
「こ ろ す き か 」
朱に交われば赤くなると言う奴なのか、学園世界に来てからエルシィの料理は進化した。
主に命の危険を感じる方向に。って言うか今日も危うく命を落としかけた。
「ち、違います!ちゃんと神に~さま…人間の人向けに灯さんに聞いた通りに作りました!」
「料理下手がもはや属性を通り過ぎてオチ担当の領域に達している奴にレシピを聞くな」
「え?あ、で、でも味見してくれたヨメ子さんも活きが良くておいしいって…」
「大魔王とタイマン張れる本物の魔界の悪魔娘の味覚を基準にするな」
命の危険があったせいか桂馬の突っ込みも厳しい。
「う~。ちゃんと神に~さまがおいしく食べられるように甘さ控えめにしたのに…」
すっかり打ちのめされたエルシィが拗ねて地面に消防車の絵を描き出した。
「…それよりエルシィ。こいつに見覚えはないか?」
気を取り直し、抱き起した女の子をエルシィに見せる。来ているのは紫の制服…ディティールから判断するに恐らくA地区の輝明学園の制服。
それと選抜隊の腕章。先ほどの魔法を見るに、魔法使いであるのには間違いない。それを踏まえたうえで桂馬のゲーマーの勘が告げていた。
「え?…ああ~!?こ、この人、この人です!」
「…やっぱりか」
予感はあった。何かの化け物に襲われる主人公と、それを寸でのところで助ける能力者のヒロイン。数百回は見て来たパターンだ。
(さて、朱野ユリの心の隙間は、どこにある?)
駆けつけてくる選抜隊の足音と月匣の解除と共に集まってきた野次馬の声を聞きながら、桂馬は冷静に考えていた。
これからのこと…"落とし神"としての、"朱野ユリ"の攻略ルートを。


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