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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第02話

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匿名ユーザー

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2話 ベホイミのとある一日  -晴れてハレルヤ-


灰色の通路。そこに立つのは一人の少年。
その足元には、何人もの大人が倒れている。大人達はその手に銃を握っていたが、しかしそれでも何も持たぬ少年によって倒されていた。
そこに、声がかけられる。

「そんなところで、何してるっスか」

少年はそちらを向いた。そこにいるのは同じ年頃の黒髪の少女。
少女は油断なく構えながら少年を睨む。そこにいるのは少女の所属する組織に敵対し、そこから何かを奪還しようとしている敵だ。
だからこそ彼女は、その少年に向けて宣戦布告代わりに声をかける。正々堂々は彼女の嫌うものではない。
それを理解しているのか、少年も不敵に笑った。

「ウィザードか。話には聞いてたけどホントにいたんだな」
「何をしてるのかって聞いてるっスよ。答えてもらうっス」
「別に。ここの連中にさらわれた知り合いを助けてくれって仲間に頼まれたからな、その手伝いをしてるだけだ」

にやりと笑って、彼は右手を真横に伸ばす。
月衣から何かが抜き出される気配を感じ、彼女も腰を落とした。
相手が引き抜いたのは長大な剣。それを隙なく構える彼を見て、彼女もまたその口の端を持ち上げた。

直後、二人のウィザードは激突を開始した。




「……なんてことも、あったっスねぇ」

そう哀愁を込めていうのはベホイミで、今の時間は朝の6時。つまりは、夢から覚めたばかりなわけである。
再会したのはつい3日前。それまでは思い出すこともなかった昔の話だが、今になって夢に見るというのはやはり心に何かしら残っているものがあるということだろう。
一昨日から夜の巡回など色々と手伝ってもらってはいるものの、事件自体が進行したようには思えない。
ならばまだ黒幕が動いていないのだろうと、彼女は一つ伸びをして昨日の内に用意しておいたアンダーと制服を身に着ける。
彼女が着替え終えると、そこに声がかかった。

『ベホイミさん、おはようございます』
「おはよーっス。宇宙人も今朝食の時間っスか?」
『朝の食事は一日の活力ですからね』

そう、ものすごく宇宙人らしくない言葉をはきながら小型スピーカーから声を出すのは、彼女の部屋にカメラを置いている宇宙人だ。
彼らは地球の観察が行える位置に滞空し、常に地球の監視とベホイミのバックアップを行っている。
……正直、なんで気づかないんだコスモガードとロンギヌス。

『最近はカオティックの行動も下っ端の派遣に収まっているようですが、それとは別件で街によくないことが起きているみたいですね。
 ベホイミさんも気をつけてくださいね』

カオティックとは、破壊や殺戮を目的とし、法を否定し全てを拒絶し混沌をもたらすもののこと。
宇宙人たちが見つけた、地球を狙う絶対の破壊者。
『魔法少女』ベホイミの打ち倒すべき敵だ。
しかし、今回の事件にウィザードとして巻き込まれたベホイミは、バツが悪そうに答えた。

「あー……もう、巻き込まれてるような気が果てしなくするっスけど。それに、アンタらの開発したスーツってそんなに弱いモンなんスか?」
『いえ、どうせベホイミさんのことですから巻き込まれないように気をつけてと言っても無駄ですし。
 そもそもあんな暴れ牛みたいな暴れ方する人に何か心配するほうが無駄でしょう』
「映像切るっスよー」
『あぁやめてくださいっ!ベホイミさんっ!?ベホイミさーんっ!?』

しばらく宇宙人の叫び声と平謝りとベホイミの怒号が響き、それが一段落すると、宇宙人は言った。

『我々は、これでもベホイミさんのことを信頼しているんです。
 ベホイミさんは、我々が用意した『魔法少女』になる前から、この街を守ることを決めていた人です。
 たった一人でも、皆が楽しい学園祭を過ごせるように爆弾を解体したり、
 例え止める力があったと知らなくても、友達を守るために暴走トラックの前に立ちはだかれる人です。
 ですから、そんな人に街を守るために使える力を使うなと言っても無駄でしょう。ベホイミさんはその力を悪用することは絶対にないでしょうし』
「……宇宙人さん」

なんだか感動的なシーンだが、彼女の朝がこんなに綺麗にまとまるはずもなく。

『それよりベホイミさん。3日前から夜行動をともにしている男性のことですが、今日こそまともにどんな関係なのかお聞かせ願えませんか。
 もうウチの艦長が大荒れして困ってるんですよ、ウチのベホイミちゃんはあんな男にはやれませーんって』
「だから、なんの関係もないっスよって毎回毎回繰り返してるじゃないっスかっ!?
 あと私がいつお前らの娘になったっ!?育ててもらった覚えはねぇっスよ―――っ!」

どたばたがしゃんぼすぼす。
これが、彼女がこの二日間繰り返している日常だった。




昼。
桃月学園第三会議室で、とある会議が行われていた。
選ばれた者だけが参加する、厳粛にして学園を動かす舵をとるその会議は、あまり一般の生徒には知られていない。

その名は、「委員長委員会」。

……なんかマヌケなネーミングだというのは僕と君だけの心の中にしまっておこう。
ともあれ、その委員長委員会に集うのは各クラスのクラス委員、生徒会役員。やることは行事におけるクラスと生徒会の橋渡しを行う会議である。
白板の前に立つ、セミロングにアホ毛の眼鏡娘こと2年B組学級委員の瀬奈 雪絵が司会をするのが恒例で、今回もその例にもれず彼女が司会進行をしていた。
一つの議題が終わり、彼女は手元のレジュメを見て場に集まる委員達に向けて告げた。

「では、次の議題に移ろうと思います。
 一週間後に迫った桃月学園クラス対抗料理合戦についてですが、各クラスとも代表は決まりましたか?」

何かと行事とイベント事の多い桃月学園。
今回の議題に上げられているクラス対抗料理合戦は、クラスから一組(1人か2人まで)の人間を代表として選出。
その代表が一つの課題にそって料理を作り、審査員に試食させて判定をする。賞をとった人間のいるクラスには、桃月商店街内の店から供与された商品が配られる。
桃月商店街の全面協力を得て、材料を安く買い入れたり商品を用意してもらったり地域との交流を図ることを目的とするイベントだ。
これだけの全面協力体制があるのは、商店街全体が桃月学園生に対して地域で守り関わろうという風潮を持っているからだろう。
雪絵の言葉に各クラス委員が頷くのを見て、彼女は先に話を進めた。

「後でボードの前に表を置いておくので、代表の名前とクラス名を忘れることなく書いていってください。
 この行事について、他に何か連絡しておきたいことなどはありますか?」
「はい」
「なんですか?運営委員長の春原さん」
「特設キッチンの設営に手が足りなくなりそうなので、前日に運動系の部活の方に手をお借りしたいのですが」

そうはきはきと発言する3年B組の春原少年。
ふむ、と一つ頷いて雪絵は委員長委員会のリーダー格である大森 みのりを見た。
ヘアバンドでおでこを出した眼鏡っ子であるみのりは、雪絵の視線を冷静に受け止め、周囲へと視線を見回して一つ頷き、軽く息を吸って―――

「―――へぷちっ」

可愛らしい声でくしゃみをした。
……この辺りが「意外に癒し系」と彼女が呼ばれる由縁である。
少し和んだ空気を無視し、彼女はズレた眼鏡を直しながら全員に向けて小さく呟く。

「ごめんなさい、慢性的に鼻炎なの」
「先輩、それ皆知ってます」

答えるのは、同じく白板の前に立つ三つ編みお下げにキツイ目つきの眼鏡っ子である2-Aクラス委員にして風紀委員長の朝比奈 英理子だ。
見た目どおりキツめの委員長の完成型のような存在なのだが、どうにもみのりには甘い傾向がある。なお、雪絵に言わせれば彼女はドMらしい(本人否定)。
気を取り直し、みのりはクラブ運営委員長に目を向けた。

「止むをえないわね。イベントの成功のために、少し体育会系クラブに働きかけてくれる?」
「わかりました、やってみます。部費の内申に関わると言えば立候補するクラブも増えるでしょう」

お願いね、とみのりは言って、雪絵へと視線を返す。
雪絵は頷いて、進行を続けた。

「他に料理合戦についてなにか言及したい委員はいませんか?」
「は、はい~」

困ったように手を上げるのは、イベント実行委員の2-Aの鳥矢だ。
あら、と雪絵はこのイベントの主になっている委員会の代表委員にたずねる。

「何か深刻なことなの?鳥矢くん」
「そ、それがですね~。学校外特別審査員に予定されていた、桃月料理教室のハッタリ先生が急にいなくなっちゃいまして」
「いなくなった?」
「なんでも、教室の生徒さんがおっしゃるにはたまに『ポーランドに行って来るでゴザル!』と置手紙を残して一週間ほどいなくなることがあるらしくて……」
「その一週間に引っかかっちゃったわけね」

はい、と困ったように頷く大嶺少年。
別に彼が悪いわけではないが、責任を感じているのだろう。
朝比奈が発言する。

「欠員が出るなら、どこかから増やすべきだと思うけど」
「そうね。けど、これから料理に造詣が深い人を連れてくるのは無理だと思うわよ?
 料理合戦があるのは平日の午後、喫茶店は掻きいれ時だし、まっとうな料理店は夜の仕込みをしてる時間帯だもの」

雪絵の言葉は事実だ。その時間帯に働くのを止めるというのは、流石に忙しい飲食店では無理だろう。
はぁ、と雪絵はため息をつく。

「どっかにいないかしらねー。客の入らないヒマな店で働いてて、午後から丸々休みもらえるようなヒマ人」
「あ」
「お」

そんな、ちょっと酷い彼女の言葉に時を同じくしてうめくのは、雪絵の隣のみのりと1-Aの生徒会書記を務める桃瀬 修―――くるみの双子の兄だった。
主がまったく違う位置にいる声がハモったことに、会議に参加していた委員全員が二人を交互に見比べる。
先に言葉を発したのは修だった。

「え、えーと……どぞ、大森先輩。俺の考えてる人と違う人かもしれないですし」
「桃瀬君だったわよね?確か実家から自転車通いだったと思ったけど、このあたりの人?」
「お、大森先輩?」
「だったら、たぶん同じ人を想像してると思うわよ」
「……ですよね」

観念したように両手を上げ、やれやれというようにため息をつく修。
その様子を見た朝比奈が、はっきりしない様子の修を見てイライラしたように彼に問う。

「で、誰なの?その連れてこれそうなヒマ人って。もったいぶらずに言いなさい」
「えーと、色々縁があって仲良くなった喫茶店の店長さんがいてですね。
 そこが本当に流行らなくて閑古鳥がいつも鳴いてるような状況なんですけど、そこの名前がエトワールって言って……」

そして彼は、客の入らないヒマな店で働いていて午後から丸々休みもらえるようなヒマ人の心あたりを口にした。




その頃、屋上ではベホイミがメディアと昼食をとっていた。
メディアは手袋のままおにぎりをもきゅもきゅとほおばりながら、ベホイミに話しかける。

「へぇ、晶さんを助けたのはウィザードの方だったんですか。それもベホちゃんの昔のお友達なんて、なんか運命的ですね」
「運命っていうか、ヤな取り合わせっていうか……色々あった相手だから、あんまり会いたくなかったんだけどな」
「もう。昔色々あった私とだって仲良くしてくれてるベホちゃんが気にするなんてらしくないですよ?」

どこか腑に落ちない様子で、素のしゃべり方で話をするベホイミに、いつものように笑顔で諭すメディア。
だが、ベホイミは浮かない様子で答える。

「そーゆー意味で色々あったわけじゃなくてな……あの人と会う時って、必ず大事になるんだよ」
「そ、それはまた……」
「別に柊さんが悪いわけじゃないんスけどねー。
 なんかトラブル連れてくるっていうか、むしろもともとあったトラブルを顕在化させてるっていうか、砂場の砂鉄を吸い寄せる磁石っていうか」

……本当に昔色々あったらしい。
しかし、そんなベホイミを見てなだめるようにメディアは言う。

「けど、この街に今起きてる事件を解決するために手を組むことには異論はないんでしょ?」
「それはまぁ。確かにあの人事件つれてくるけど、その代わりあの人が関わると事件の日数が少なくて済むし。
 腕自体は疑いようがないくらい確かだしな。それより、お前の方はどうなんだよ?」

ベホイミがたずねると、メディアはどこからかごそりと紙の束を取り出す。
桃月町で起きた異変がこちら側であることを察知すると同時、ベホイミはメディアに協力をあおぎ情報を探ってもらっていたのだ。
メディアもこの街を守りたいウィザードの一人として、またベホイミの友人(本人談)として断るはずもない。
そんな彼女はしかし、かんばしい結果ではないと言うように曇った表情で答える。

「それがですね、ベホちゃんが夜な夜な倒してる下級エミュレイターならともかく、それを使役するような強力なエミュレイターの出現は確認されてないんですよ。
 どこかのエミュレイターが故意に生み出したものじゃなくて、発生したみたいな風なんです。
 それから、やっぱりプラーナを抜かれた人たちは、死なないぎりぎりくらいまで抜かれてるのでまだ昏睡から立ち直った人はいません。これは妖怪さん達も同じです」
「そんなわけないだろ?これまで一月に一匹下級エミュレイターが発生する程度の土地だぞ桃月(ここ)は」
「そうなんですよね。それがここ一週間ほぼ毎日のように2、3匹。
 ベホちゃんをはじめとして町に定住してるウィザードの皆さんが駆除に走ってくださってるからともかく、異常発生です」

困ったようにメディアがぼやく。
これだけ小さな区画に、いきなり大量に現れるようになったエミュレイター。それはこの町に異変が起きようとしていることに他ならない。
状況が見えていながらも、黒幕のわからない気持ちの悪さに悩みこむ二人。ふと、ベホイミは気づいたように顔を上げた。

「ちょっと待て。生み出した上位存在は現れてないって言ってたよな、お前」
「えぇ、そうですけど。それがどうかしましたか?」
「下級エミュレイターを作った奴がいなくても、下級程度ならある程度知識があればどこからでも喚びだせるんじゃないか?」
「それはやろうと思えばできると思いますけ、ど……ベホちゃん、まさか」
「あぁ、可能性はあるだろ。なんの目的かはわからないけど、こういう事件がエミュレイターだけの仕業ってわけじゃない」

二人の間に緊張した糸が張られる。
それは、これまで多くの戦場を潜り抜けた二人だからこそできたアイコンタクト。
メディアはこくりと頷くと、ベホイミに向けて告げた。

「わかりました。事件の前後からこの町に入ってきた人たちと、外部組織から出向している人達について洗ってみます。
 あと、襲われた人たちに共通点がないかも調べてみますね。
 これまではエミュレイターの無差別な犠牲になったのかと思ってましたけど、何か狙いがあるのなら事前に防ぐことも、逆に罠にはめることもできるでしょうしね」
「頼む。こっちは片っ端からエミュレイターぶちのめしてくから、その間にお前は打開策を見つけてくれ」
「もちろんです。あと、ベホちゃん」

昼休みが終わりかけているこの時間帯、あまりじっともしていられない。
呼ばれたベホイミは急かすようになんだよ、とたずねる。
メディアは嬉しそうに笑って、告げた。

「こういうことで頼ってくれるのは嬉しいですけど、私もこの犯人さんには怒ってるんですよ?
 黒幕さんの戦いの時には、絶対に呼んでくださいね」

そう言って、彼女は屋上を出て行った。
ベホイミはしばしその言葉に硬直し、重いため息をつく。

「竜使いのアタッカーに魔剣使いのアタッカー、ついでに忍者のディフェンダーなパーティって、激しく構成間違ってるっスよねぇ……」

メタなことは言うもんじゃありません。




夕方

黒いボディスーツ!
真っ赤なマント!
そして極めつけは頭の位置にある培養槽とその中に浮かぶしゃれこうべ!
世界征服を狙う超次元よりの侵略者・『ZONE』の大幹部、その名は―――ドクロ仮面!

そのドクロ仮面は今、近くのスーパーの裏路地に入って、携帯で連絡をとっていた。

「あ、社長。今日のお仕事のスーパー桃月での風船配り終わったっス」

……訂正。バイトでドクロ仮面の格好をしていたベホイミは、仕事が終わったことをアルバイト先の山岸社長に伝えていた。
彼女のアルバイトは着ぐるみを着て子供達に接するような内容なのだが―――なぜそんなバイトで悪の幹部の着ぐるみセットなんかがあるのかは永遠の謎である。
ともあれ、彼女は学校が終わると同時にバイトに出向。今日の仕事を言い渡されて今までドクロ仮面の格好で風船を配っていたのだ。
……「先に家族から始末してやる!」とか「貴様も同じ姿に変えてやろう!」とか「全てを我が手に!」とか言ってドクロが風船配るというのは、
子供の精神衛生上やっぱりよくない気がするが、半分くらいの子供は泣くこともできずにがたがた震えつつ風船を受け取るが、残りの半分は絡みつつ風船を奪いとっていく。
この街の子供は、強い。

『ご苦労さま、ベホイミちゃん。今日はそのまま直帰でいいよ』
「わかったっス。じゃ、お疲れ様でしたっス」

そう言って、彼女は電話を切る。
秋も半ばに入り、だんだんと日も短くなってきた昨今。スーパーのタイムサービスの終わる時刻はもはや夕暮れを過ぎ、暗くなりはじめている。
携帯をしまって、ドクロ仮面のスーツをスーパーの裏の更衣室で着替える為に向かおうとした時、携帯が着信を告げる。
嫌な予感を感じつつ液晶画面を見ると、そこには『宇宙人 着信』の文字。
見てみぬふりをしようかと思いつつもため息をついて、たっぷり4コールくらい逡巡した後、彼女は通話ボタンを押した。

「……もーしもーしっス」
『ベホイミさん、なんで出てくれないんですか!地球の危機なんですよっ!?』
「だからなんでこう地球の危機ってヤツは私がバイト(このカッコ)の時にばっかり集中して来やがるんスかっ!?」

世界の理不尽に対して部屋の隅っこに行ってさめざめと泣きたい気分に駆られるが、そんなことも言ってられない。

『ほら、そんなこと言ってる場合じゃないでしょうっ!変身ですベホイミさん!』
「あぁもうちくしょう絶対ぶちのめーすっ!」

両手を交差し、変身ポーズをかまして、彼女は魔法少女へと変身する!

―――ドクロ仮面の内側だけが。

そう。なんの因果かわからないが、彼女がこの格好の時に変身すると、ドクロ仮面のスーツまでは変身後の制服に変換してくれないのだった。
つまり、彼女はバイト中に宇宙からの侵略者と戦う時は現場にドクロ仮面の格好で現れることになるわけだ。
……そのせいで、桃月町の中で発行されている桃月新聞ではどこからともなく現れる『なにか』の親玉として見られていたりする。不幸だ。

ともあれ彼女は現場に急行し、そこで暴れている三つ首怪獣ケルベロンを一撃の下に撃砕する。
早っ!?とか思うかもしれないが、そこは盛り上がらないのでさらっと流す方向で。
ケルベロンが消滅していく中で、マントをはためかせながら立っていると、その背後から声がかけられた。

「あ、ドクロさん」

声をかけたのは小学生くらいの女の子だ。ただし、見た目からしてただの少女ではない。
二つに括った髪の毛をゆらし、ひらひらとした白とピンクの肩の出るワンピース。
オレンジと白の横ストライプのニーソックス。ところどころに星型の飾りがついていて、青いリボンが風とともにゆれる。
その手には折り畳み傘の畳んだ後くらいの長さのワンドが握られている。
彼女の名前は鈴原 未来。小学五年生。この街にいるもう一人の『魔法少女ベホイミ』である。
地球の免疫システムが力の源であるこちらの方がものすごく魔法少女っぽいが、ベホイミの方が元祖であると宇宙人は言い張ります。
特許出願しておかないからこういうことになるのです。
ともあれ、ベホイミはドクロ仮面の中の正体を知られないために未来にポーズとして使っているドクロ仮面的な物言いで彼女に応えた。

「なんだ、魔法少女か」
「あ、もう終わっちゃったんですね。さすがドクロさんです」

なお、ひょんなことから未来はベホイミ……もといドクロ仮面に懐いており、憧憬に近い感情を抱いている。
やっぱりこの子も変な子だ。
と、未来の後ろから赤い羽根の生えたトカゲのような生き物がぴょこりと現れる。

「あーあ、またお前デスかこの暴れ牛。むしろ暴れドクロ。
 魔法少女でもないお前はすっこんでろデス」

この生き物は地球免疫システムの代弁者。炎のエレメンタルを司る、サラマンダーと名乗る精霊のようなものである。
口が悪いのと口調がベホイミに似ているのは仕様です。
その言いように、ベホイミがサラマンダーをどう始末しようか13通りほど考えたところで未来が彼をたしなめる。

「もう、サラくんたらまたドクロさんの悪口言って。
 一緒にこの街を守ってくれてるんだよ?そんなこと言わないの」
「……悪かったデスね暴れ水槽」
「お前、それは本当に謝る気があるのか?今すぐ頭をもぎ取ってやろうかこのトカゲ」
「言わせておけばこのドクロが……いい加減お前とは決着をつけなきゃと思っていたデスよ!」

額(ドクロ仮面は培養層)を突きつけ合わせてにらみ合いをはじめる二人。
それを止めるのは少し怒った様子の未来だ。

「サラくん!今のはサラくんが悪いよ、ちゃんと謝りなさい!」
「うぅ……ごめんなさい、デス」
「よろしい。
 ドクロさんごめんなさい、この子ドクロさんと会う度に失礼を……」
「いや、こっちも少し大人気なかった。あまり気に病むな魔法少女」

未来を見てそう言うベホイミ。ともあれここでの仕事は終わったため、そろそろ去ろうとして――― 一つ、告げた。

「そうだ魔法少女、一つ言っておく。これから先しばらくは夜中外に出るな」
「え?なんでですか、ドクロさん」
「なんででもだ……と言っても、お前は言うことを聞かんだろうからな。
 一つだけ言うのなら、こちら側の事情だ。こちらでカタをつけるのが筋というものだろう。
 そこのトカゲ、自分の主に余計な火傷をさせたくないのならきちんと夜は見張っておけよ」
「当たり前デス!お前らの事情なんかに未来ちゃんを巻き込まれたくないデス!」

サラくん!と叫ぶ声がするが、その声に背を向けベホイミは最後に一つだけ言った。

「いいか魔法少女。お前はいまだ子供、子供は友人と遊ぶのが使命だ。わかったな」

颯爽と赤いマントを翻し去っていくドクロ仮面。
それを見つめていた未来は、一言だけ呟く。

「……ドクロさん、私のこと心配してくれてたね」
「そうデスね。ほら、未来ちゃん。さっさと帰るデスよ」

空は暗いどころか黒く染まりはじめている。
さぁ、これで魔法少女の時間は終わる。
これからは、明日をもたらす為だけに走る―――夜闇の魔法使いの時間だ。




だんっ、と力強い踏み込みとともに必殺の薙払いを放つ柊。
そのあまりの速さに、下級エミュレイターは自身の命を絶つ刃を目に焼き付けることもできず一撃の下に両断された。
直後、柊の背に声がかかる。

「柊さん、そのままっス!」

あ?と彼がたずねるよりも速く、ベホイミが彼の背を足場に空へと跳びあがる。
それに驚いたのは、柊を狙うため降下しはじめていた、翼をもつエイのような形のこれまた下級エミュレイターだ。
足元でカエルの潰れたような声がした気がするものの、ベホイミはそれを無視。
手を伸ばした先にあるエイの鼻先を掴み、そこを支点にぐるりと鉄棒の要領で半回転、エイの上へと舞い上がる。
そのまま、エイの上へと落下しながら常識を無視して体を捻り、裂帛の気合とともに自身の最も信頼を置く、両の手を固く組んで振り下ろした。

どごぉっ!と重いものを陥没させるような音と共にエイが地面へと落下する。

……先ほど足場にして思いきり体勢を崩している柊もいる地面へと。

「柊さーん、行ったっスよー」
「うおおぉぉてめぇええええっ!?」

全力で絶叫しつつも、彼の体は現状を打開するために最善の行動を本人の意思を無視して動き出す。
倒れないために踏ん張っていた足の力を抜き、わざと倒れこむ。
剣を握っていない左手をつき、思いきり突き放すことで落下のエネルギーを回転の力に変える。
プラーナを開放して常識を無視し―――そうして可能になるのは、常識では考えられない無茶苦茶だ。
倒れかけた独楽のように回転し撫でるように放たれた薙ぎ払いが、落ちてきたエイにとどめをさし―――あまりに無茶苦茶な体勢だったため、柊はその場で背中から倒れた。
綺麗に足から着地して、ベホイミは倒れた柊にぐっ、とサムズアップ。

「ナーイス連携っス!」
「この街では人を足蹴にすることを連携って言うのかよっ!?」
「この街ではともかく私は言うっス!」
「いい加減にしろこの野郎っ!?」

体を起こして抗議する、が―――その言い合いも、当人の腹の音で終了させられた。
緊張感を削ぐその音に、ベホイミはジト目で彼を軽く睨んだ。

「ひーらぎさーん?」
「しょうがねぇだろ、店長から夕飯もらう前にお前から呼び出しかかっちまったんだから」
「……ま、手伝ってもらってるわけっスし。はい」

ベホイミが月衣から取り出すのはコンビニの袋だ。
その中からおにぎりと缶の緑茶を一つずつ取り出すと、ぽいと柊に投げ渡す。それを空中でキャッチして、軽く礼を言う柊。
ベホイミもその袋からおにぎりと缶の茶を取り出して、しばしの休憩の時間がはじまる。
休憩の間、話はそれぞれの昼にあった出来事のものになる。

「柊さんは今日こそ妙なことに巻き込まれなかったっスかー?」
「今日こそってなんだよ今日こそって」
「一昨日は道歩いててバイクで逃げようとしてる引ったくりを、立てかけてあった木の棒で吹っ飛ばしたんでしたっけ?
 で、たしか昨日はお使いで銀行行った時に銀行強盗に鉢合わせして、単独犯だった実行犯に関節極めて交番に突き出したって聞いてるっスけど」
「俺だって好きで巻き込まれてるわけじゃねぇよっ!?
 つーか、なんでそんなこと知ってんだよお前はっ!」
「そりゃ、地域版とはいえ結構読まれてる桃月タイムスにでかでかと載ってたっスしねぇ。
 それ以上に帰り道の商店街である程度の噂は収拾できちゃいますし。もう、商店街の名物店員みたいな扱いされてるじゃないっスか」

くるみさんが怒ってましたよ、目立ちやがって目立ちやがってって、とからかうようにベホイミが言うと、柊も半眼で言い返す。

「とか言って、お前も結構派手にやってんじゃねぇか。
 なんだよ熊を素手で倒すバケツマンとか、宇宙から落ちてきた何かをタンクローリーとロードローラーで潰して倒す魔法少女とか」
「なあぁっ!?な、なんでそんなこと知ってるんスかっ!?」

本気で狼狽するベホイミに、柊は意地悪い笑みを浮かべたまま答えた。

「引ったくりぶっ飛ばした時に、引ったくり追っかけてたガキ共に懐かれたんだけどよ。
 そいつらに色々とこの町のこと教えてもらったわけなんだが、最近あった話でどう考えてもお前のことだろーなっていうのをカマかけてみただけだ。
 けど、どーやら本当にお前のことみたいだな。人のこと言えない暴れっぷりじゃねぇか」
「ど、どいつもこいつも人のことを暴れ牛だの暴れドクロだの……そんなに暴れてないっスよ!見境なく暴れ倒す突撃馬鹿みたいに言わないでほしいっス!」
「見境はあるけど暴れはじめたら止まんねぇ類の暴走超特急じゃねぇか」

自覚があるのか、うぼーっ!と目の端に涙すら浮かべて叫ぶベホイミ。
それをくっく、と意地悪く笑っている柊を軽く睨みながら、ベホイミは拗ねたように言った。

「……それで。柊さんの方は何か収穫あったっスか?」
「無茶言うなっ!?俺はこの街来て三日しか経ってねえんだぞ、まだ地形の把握も覚束ないのに調査なんぞできるかっての!」
「まぁ、柊さんっスしね。そこまで期待はしてなかったっスけど。
 こっちも大きな収穫はナシっス。ただ、下級エミュレイターがこんだけ頻発してるのに、それを操ってる上位エミュレイターが現れないっていうのはおかしいっス。
 だから、ひょっとしたら」
「敵はエミュレイターじゃなくて、こっち側に詳しい人間―――つまり、ウィザードっつーセンか?」

柊の推測に、その通りっスと頷くベホイミ。
そう難しい推測ではない。一定の手順さえ踏めば、ウィザードにだって(一時的にとはいえ)魔王を使役することができる。
名を持たぬ下級エミュレイターならば、知識さえあれば完全に操ることができないわけもないことくらいはたやすく推測できる。今までやろうとしたものがいたかは別だが。
お茶でのどを潤して、ベホイミはため息をつきながら夜空を見上げる。
それを見て、柊は視線を合わさぬまま話しかけた。

「―――ま、お前のやることは結局一つだろ。俺はそのために引っ張りこまれたんだから、しっかりしてもらわなくちゃ困るぜ大将?」

柊の言葉を聞いてベホイミは彼の方を驚いたように見て……ふっと笑った。

「それもそうっスね。改めて、よろしく頼むっスよ柊さん」

それにおう、と答えて彼らはそこで別れた。
ベホイミは少しだけ軽くなった足取りで家に戻る。今日はよく眠れそうな気がした。

―――さぁ、明日も一日頑張ろう。

ベホイミの日常は、こうして今日は終わりを告げた。


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