3話 Y氏のとある日常 -Pray-
ヨーロッパにあるとあるウィザーズ・ユニオンの本拠地。
そのロビーには今、安いテーブルの上に取っ手のついた回転する八角形の箱が置かれ、
その特設会場の後ろの壁には大々的に『福引抽選会』とでかでかと書いてある紙が張られていた。
……信じがたいことだが、こんなことをしているところが世界を侵魔の脅威から守っている組織の一つである。
閑話休題。
そのロビーには今、安いテーブルの上に取っ手のついた回転する八角形の箱が置かれ、
その特設会場の後ろの壁には大々的に『福引抽選会』とでかでかと書いてある紙が張られていた。
……信じがたいことだが、こんなことをしているところが世界を侵魔の脅威から守っている組織の一つである。
閑話休題。
「おぅ?」
その抽選会場で、一人のウィザードがぽかんと目を丸く見開いていた。
そのウィザードが取っ手を回して出た玉の色は―――金色に輝いていた。
抽選会運営側のハッピを着た青年が、はっという声を上げて安いテーブルの上に置かれていた鈍い色の手鐘をとり、からんからんと鳴らした。
そのウィザードが取っ手を回して出た玉の色は―――金色に輝いていた。
抽選会運営側のハッピを着た青年が、はっという声を上げて安いテーブルの上に置かれていた鈍い色の手鐘をとり、からんからんと鳴らした。
「おめでとうございまーすっ!特賞・『日本の交流区域をゆく -桃月町3泊4日の旅-』大当たりー!」
からんからんと鳴り響く鐘の音に、周りから漏れるのは特賞を手に入れた運のいい相手に対する拍手と、自分が賞を手に入れられなかった軽い落胆のため息。
ともあれ、特賞を手に入れたウィザードは久しぶりに行く日本に思いを馳せ―――『待ってろ日本!』と言わんばかりに目を輝かせた。
ともあれ、特賞を手に入れたウィザードは久しぶりに行く日本に思いを馳せ―――『待ってろ日本!』と言わんばかりに目を輝かせた。
ミルで丹念に豆を挽く。程よく焙煎された豆が挽かれることで薫り高い匂いが立ち込めるが、これはまだ前段階だ。
次に、挽いてできた粉をドリッパーにかぶせたろ紙の上にセット、沸騰したお湯を一度は泡が膨らむまで大きく、二回目以降はできるだけ細く、円を描くように注ぐ。
この時の注意点としては、熱湯をかけることでこんもりと盛り上がる粉末と泡の交じり合った山があふれ出さないように、何度か分けてかけること。
そして、じっくりと抽出されるのを待つ。
そうして出来上がった黒く薫り高い液体を、眼鏡のさえない男が一口飲んでうん、と頷いた。
次に、挽いてできた粉をドリッパーにかぶせたろ紙の上にセット、沸騰したお湯を一度は泡が膨らむまで大きく、二回目以降はできるだけ細く、円を描くように注ぐ。
この時の注意点としては、熱湯をかけることでこんもりと盛り上がる粉末と泡の交じり合った山があふれ出さないように、何度か分けてかけること。
そして、じっくりと抽出されるのを待つ。
そうして出来上がった黒く薫り高い液体を、眼鏡のさえない男が一口飲んでうん、と頷いた。
「おいしいよ、柊くん。ほんの一週間でこんなに上手くなるとはねぇ」
「あざーっす!」
「そうそう、最初はろ紙破いたりお湯を滝みたいにかけてたりした使えない子とは思えないニャ」
「うるせぇ黙れ猫又、三枚に下ろされてーか」
「あざーっす!」
「そうそう、最初はろ紙破いたりお湯を滝みたいにかけてたりした使えない子とは思えないニャ」
「うるせぇ黙れ猫又、三枚に下ろされてーか」
ここは喫茶エトワール。今の時刻は午後の2時で、いつでもヒマな喫茶エトワールでは当然客のいるはずもない時間帯である。
一週間ほど前に客として訪れ、そのままくるみの提案でこの店に住み込みで短期バイトをしている柊に、店長はヒマつぶしとしてコーヒーの淹れ方講座を行っていたのだ。
柊に(もとから悪い目つきで)睨まれて黙るのは、ここに住み着いているなんかよくわからない二足歩行をするナマモノ。
当人は魔法少女猫(マジカルニャンニャン)と名乗っているが、ベホイミ以上に魔法少女分のない謎のナマモノであるため、くるみにはクソ猫、柊には猫又扱いされていた。
一週間ほど前に客として訪れ、そのままくるみの提案でこの店に住み込みで短期バイトをしている柊に、店長はヒマつぶしとしてコーヒーの淹れ方講座を行っていたのだ。
柊に(もとから悪い目つきで)睨まれて黙るのは、ここに住み着いているなんかよくわからない二足歩行をするナマモノ。
当人は魔法少女猫(マジカルニャンニャン)と名乗っているが、ベホイミ以上に魔法少女分のない謎のナマモノであるため、くるみにはクソ猫、柊には猫又扱いされていた。
エトワールになりゆきとはいえバイトとして入った柊は、意外にまともに仕事をこなしていた。器用度が高いのが幸いしているのかもしれない。
閑話休題。
店長は感慨深げに呟く。
閑話休題。
店長は感慨深げに呟く。
「柊くん手順さえ教えればちゃんと料理も作れるし。コーヒーも淹れられるようになったんだから僕がいなくなっても安心だね」
「何言ってんですか店長、俺短期バイトなんですからいなくなられたらこの店潰れますって」
「えぇー……その用事くるみちゃんに任せるとかしてここで働かない?」
「桃瀬妹が聞いたらそれ泣きますよっ!?」
「何言ってんですか店長、俺短期バイトなんですからいなくなられたらこの店潰れますって」
「えぇー……その用事くるみちゃんに任せるとかしてここで働かない?」
「桃瀬妹が聞いたらそれ泣きますよっ!?」
意外にきちんと敬語を使う柊。前の雇い主にはタメ口だったくせにえらい違いである。
もっとも、彼に言わせれば『任務のためとはいえ半年も学生を学校に行かせない組織とか、登校を嬉々として邪魔する連中に敬意払いたくなるか?』とのことだが。
そんな劣悪な労働条件下にいた彼からすれば、威厳がなかろうがヘタレだろうがオタクだろうが三食住み込みで雇ってくれた店長は神以上に有り難い存在なのかもしれない。
もっとも、彼に言わせれば『任務のためとはいえ半年も学生を学校に行かせない組織とか、登校を嬉々として邪魔する連中に敬意払いたくなるか?』とのことだが。
そんな劣悪な労働条件下にいた彼からすれば、威厳がなかろうがヘタレだろうがオタクだろうが三食住み込みで雇ってくれた店長は神以上に有り難い存在なのかもしれない。
と、店長が時計を見て柊に言う。
「あぁ、そうだ柊くん。角のパン屋さんに行って来てくれないかな。食パン頼んでおいたの忘れてた」
喫茶店で出すのはコーヒーだけではない。
パフェなんかのデザートやトーストやサンドウィッチなどの軽食も出しているエトワールは、近くのパン屋からパンを仕入れている。
商店街の規定で、商店街の店舗間の品物の売買や店員割引などが定められているため、その方がお得なのである。
柊に断る理由はない。
パフェなんかのデザートやトーストやサンドウィッチなどの軽食も出しているエトワールは、近くのパン屋からパンを仕入れている。
商店街の規定で、商店街の店舗間の品物の売買や店員割引などが定められているため、その方がお得なのである。
柊に断る理由はない。
「了解っす」
「ふん、今日は妙なことに巻き込まれるんじゃないわよ」
「黙ってろ猫又、活造りにすんぞ」
「ひどいこと言うわねこの野蛮人!動物愛護団体に訴えてやる!」
「たとえライオンを愛護しようとお前を愛護しようとする団体はいねぇっ!?」
「ふん、今日は妙なことに巻き込まれるんじゃないわよ」
「黙ってろ猫又、活造りにすんぞ」
「ひどいこと言うわねこの野蛮人!動物愛護団体に訴えてやる!」
「たとえライオンを愛護しようとお前を愛護しようとする団体はいねぇっ!?」
そんないつものやりとりを数分繰り広げ、店長が止めに入り、メンチをきりあいつつ柊が外に出る、という一連がここ一週間の彼の日常だった。
桃月商店街を歩く。
時刻はまだ3時。ここから一番近い学校である桃月学園の生徒はまだ授業中だ。買い物の奥様方ももう少し日が傾かないと出てこない。
そんな昼下がり、通りを歩いている人影はまばらだ。
パン屋までは歩いて5分程なのだが、忙しさが一段落した店先から色々と声をかけられる。
時刻はまだ3時。ここから一番近い学校である桃月学園の生徒はまだ授業中だ。買い物の奥様方ももう少し日が傾かないと出てこない。
そんな昼下がり、通りを歩いている人影はまばらだ。
パン屋までは歩いて5分程なのだが、忙しさが一段落した店先から色々と声をかけられる。
「若いの、今日もコロッケいい色だぞー」
「よう兄ちゃん!今日はどこの悪いやつやっつけにいくんだい?」
「アイヤー、おにーさんちょっと寄てかないアルか。今なら跋家直伝地獄マーボー580円ポッキリアルよ」
「よう兄ちゃん!今日はどこの悪いやつやっつけにいくんだい?」
「アイヤー、おにーさんちょっと寄てかないアルか。今なら跋家直伝地獄マーボー580円ポッキリアルよ」
この町に来て一週間も経たない内にこれだけ認知されているのは、やはりここ一週間の所業のせいだ。
引ったくりと銀行強盗を捕まえて、地方紙に載ってしまったことが主な原因である。
しかも、外に出ていく時にエトワールのエプロンを着ていたためエトワールに色んな人が訪れたことで彼の人格を多くの人が知ったこともある。
ともあれ、昔手違いであれ指名手配されたこともある人間をここまで暖かく迎える人々は、柊にとっても少しありがたいものだった。
適当に返しながら、町を歩く。満足そうに町並みを見渡しながらパン屋へ向かっている彼の。
引ったくりと銀行強盗を捕まえて、地方紙に載ってしまったことが主な原因である。
しかも、外に出ていく時にエトワールのエプロンを着ていたためエトワールに色んな人が訪れたことで彼の人格を多くの人が知ったこともある。
ともあれ、昔手違いであれ指名手配されたこともある人間をここまで暖かく迎える人々は、柊にとっても少しありがたいものだった。
適当に返しながら、町を歩く。満足そうに町並みを見渡しながらパン屋へ向かっている彼の。
―――後頭部に思いきりドロップキックをかます人影があった。
「ひ―――いらぎっ!」
隙があったのか、その一撃を完璧な不意打ちで受けた柊は、声も出せずにおよそ人間から出る場合は不適切にすぎる音を立ててアスファルトの地面に叩きつけられる。
あまりの光景に、まばらに歩いていた人々が足を止めてそちらを向く。
犯人は、10歳くらいのお下げ髪の活発そうな少女だった。
明日の桃月新聞の見出しが10歳児による殺人事件で彩られる光景が周りの人間の脳裏に浮かんだその時、被害者ががばりと立ち上がった。
あまりの光景に、まばらに歩いていた人々が足を止めてそちらを向く。
犯人は、10歳くらいのお下げ髪の活発そうな少女だった。
明日の桃月新聞の見出しが10歳児による殺人事件で彩られる光景が周りの人間の脳裏に浮かんだその時、被害者ががばりと立ち上がった。
「てめぇ―――何しやがる望っ!?普通死ぬぞあんなん食らったらっ!」
「大丈夫だよひいらぎだし」
「その根拠のねぇ自信はどっから来るんだっ!?」
「大丈夫だったじゃんひいらぎだし」
「結果だけで物を語るなあぁぁっ!?」
「大丈夫だよひいらぎだし」
「その根拠のねぇ自信はどっから来るんだっ!?」
「大丈夫だったじゃんひいらぎだし」
「結果だけで物を語るなあぁぁっ!?」
たいした傷もない様子の柊。それもまぁ当然だ。この男、人工衛星に直撃されても死ななかったし、隕石を受け流したこともある。
ウィザードは月衣を纏うため一般人の攻撃はほぼダメージが通らない。しかし、痛くないかといわれればやはりちょっとくらいは痛いわけで。
あって当然な彼の主張を、しかし少女――― 一条家次女、一条 望は笑って受け流す。
望はこの近くにある桃月第三小学校5年2組のクラス委員だ。柊とは引ったくり事件の時に顔を合わせ、それから懐いた経緯がある。
ウィザードは月衣を纏うため一般人の攻撃はほぼダメージが通らない。しかし、痛くないかといわれればやはりちょっとくらいは痛いわけで。
あって当然な彼の主張を、しかし少女――― 一条家次女、一条 望は笑って受け流す。
望はこの近くにある桃月第三小学校5年2組のクラス委員だ。柊とは引ったくり事件の時に顔を合わせ、それから懐いた経緯がある。
「っつーかお前、俺以外にもあんな危険極まりない殺人未遂挨拶してんじゃねぇだろうな?いつか捕まるぞ」
「失礼ねー、そんなことしたらお姉ちゃんに泣かされるからしないよ」
「泣かされるからしないのかよ」
「ウチのお姉ちゃん怒らせると怖いんだよー?」
「知らねぇよ。姉貴っていう生き物が世界最強なのは知ってるけど」
「失礼ねー、そんなことしたらお姉ちゃんに泣かされるからしないよ」
「泣かされるからしないのかよ」
「ウチのお姉ちゃん怒らせると怖いんだよー?」
「知らねぇよ。姉貴っていう生き物が世界最強なのは知ってるけど」
そんな他愛もない会話をしながら、柊と望はしばらく一緒に歩く。単に行く方向が一緒なだけだが。
今度は望がたずねた。
今度は望がたずねた。
「それで、ひいらぎは今なにしてんの?サボり?」
「お前こそ失礼なこと言うんじゃねぇよ。パン屋まで荷物取りに行く途中、ちゃんと仕事中だ」
「ふーん……あ、ひいらぎ。お姉ちゃんにひいらぎみたいな奴のことなんていうか聞いてみたんだけど」
「へぇ、なんて言ってた?」
「ちんぴらっていうんだって」
「いや、それは違う。なんか違う。違うと思いたい」
「お前こそ失礼なこと言うんじゃねぇよ。パン屋まで荷物取りに行く途中、ちゃんと仕事中だ」
「ふーん……あ、ひいらぎ。お姉ちゃんにひいらぎみたいな奴のことなんていうか聞いてみたんだけど」
「へぇ、なんて言ってた?」
「ちんぴらっていうんだって」
「いや、それは違う。なんか違う。違うと思いたい」
最後はなんか願望混じってるぞ。
ともあれ、そんな他愛無いやり取りをしていると、やがて柊の用事の場所であるパン屋の前までやってくる。
それを察した望がさよならを告げようとするのを見て、彼は言う。
ともあれ、そんな他愛無いやり取りをしていると、やがて柊の用事の場所であるパン屋の前までやってくる。
それを察した望がさよならを告げようとするのを見て、彼は言う。
「おい、望」
「ん。何か用ー?」
「遊ぶのはいいが、最近物騒なんだからさっさと帰れよ」
「ん。何か用ー?」
「遊ぶのはいいが、最近物騒なんだからさっさと帰れよ」
その言葉に、一瞬きょとん、として彼女は笑った。
「なに、心配してくれてんの?」
「近所のガキの心配すんのは当然のことだろうが。ともかく、友達と遊ぶのはいいけど早めに帰れ。いいな?」
「はいはーい。けど、心配いらないと思うけどなぁ」
「近所のガキの心配すんのは当然のことだろうが。ともかく、友達と遊ぶのはいいけど早めに帰れ。いいな?」
「はいはーい。けど、心配いらないと思うけどなぁ」
望の言葉に疑問符を浮かべる柊に対し含むように笑って、彼女は言う。
「この町は魔法少女が守ってくれてるし―――それに、わたしたちみたいな子供がピンチになったら、ひいらぎだって助けようとするでしょ?」
「……俺はなんでもできる正義の味方サマじゃねぇぞ」
「知ってるよ、わかってる。早く帰るし、友達にも早く帰るように言うよ」
「……俺はなんでもできる正義の味方サマじゃねぇぞ」
「知ってるよ、わかってる。早く帰るし、友達にも早く帰るように言うよ」
じゃね、と言って、彼女は元気に駆けて行く。その背中を見て、柊は一つため息をつく。
「ったく、人にあんまり重いモン背負わせんなってーの」
そう言いながらも、その荷物を下ろす気は彼にはない。結局、苦労性で損な性格をしているおバカなのだった。
紙袋に入った食パン5斤を受け取り、左腕で抱えてもと来た道を戻る。
少しずつ人が増えているのを見て時計を見れば、もはや時刻は4時半だ。よほどパン屋の爺さんのパン自慢を聞き流していた時間が長かったのか、と感慨深くため息をつく。
まぁ、あの店が忙しくなることはないだろうとあたりをつけてゆっくりと店に戻ろうとし―――前方に、重そうなビニール袋を両手に持ってふらふらと歩く子供をみつけた。
少しずつ人が増えているのを見て時計を見れば、もはや時刻は4時半だ。よほどパン屋の爺さんのパン自慢を聞き流していた時間が長かったのか、と感慨深くため息をつく。
まぁ、あの店が忙しくなることはないだろうとあたりをつけてゆっくりと店に戻ろうとし―――前方に、重そうなビニール袋を両手に持ってふらふらと歩く子供をみつけた。
子供の持っているビニール袋の取っ手部分は伸びきって今にも千切れそうだ。それ以上にあんな重そうなものを運んでいる子供を放っておくのは、少し気が引けた。
空いている片手でひょい、と片方のビニール袋を持ってやる。
子供は驚いたように無言でビニール袋を奪った柊を見た。金髪で青い目の、綺麗に着飾った少女だった。年の頃は望と同じくらいだろうか。
ふらふらしながら、少女はきつい目で柊を睨んで言う。
空いている片手でひょい、と片方のビニール袋を持ってやる。
子供は驚いたように無言でビニール袋を奪った柊を見た。金髪で青い目の、綺麗に着飾った少女だった。年の頃は望と同じくらいだろうか。
ふらふらしながら、少女はきつい目で柊を睨んで言う。
「なんだよ、新手の引ったくりか?人呼ぶぞ」
「誰がこんな食いもんしか入ってない重いだけの荷物引ったくりたがるってんだよ。
ビニール袋千切れそうだから持ってるだけだ。こんなとこでぶちまけたら片付けるの大変だろ」
「誰がこんな食いもんしか入ってない重いだけの荷物引ったくりたがるってんだよ。
ビニール袋千切れそうだから持ってるだけだ。こんなとこでぶちまけたら片付けるの大変だろ」
言われてう、とうめく少女。たった一つになったビニール袋を両手で掴むものの、それでもややふらふらしている。
柊は、その思いきり無理をしているのが目に見える少女を見て、一つため息。
最近ため息が多くなった気がする。幸せが逃げるぞ。
ともあれ、彼は奪ったビニール袋を肩まで上げると空いた手で少女の片腕を掴んだ。
柊は、その思いきり無理をしているのが目に見える少女を見て、一つため息。
最近ため息が多くなった気がする。幸せが逃げるぞ。
ともあれ、彼は奪ったビニール袋を肩まで上げると空いた手で少女の片腕を掴んだ。
「へ!?お、お前何するんだっ!この人さら―――」
「人聞きの悪いこと言うんじゃねぇっ!?
そんなふらふらしたガキ放っておけるかっ!いいから来い!」
「人聞きの悪いこと言うんじゃねぇっ!?
そんなふらふらしたガキ放っておけるかっ!いいから来い!」
なおも少女はぎゃあぎゃあと言っているが、店は目の前だ。無視無視。
店に戻ると、やはり店の中に客はいなかった。
というか、店長と猫又もいない。
というか、店長と猫又もいない。
カウンターの隅に、『町内会の集まりに行って来るからよろしくね柊くん』と書かれた置手紙があるのを見て、少し安心して任せすぎじゃないのか、と呆れる。
しかし、逆に言うのなら好都合だ。こんなちびっ子を連れてきたらオタク店長が暴走する可能性もある。
憮然としている少女に座るように促すと、合格が出されたばかりのやり方でコーヒーをいれてマグカップに半分くらい注ぎ、冷蔵庫から出したばかりの牛乳で割る。
こうすると熱い食べ物が苦手な猫舌の多い子供でも飲めるだろうという考えだ。
カウンターに座っている少女にそれを出すと、少女は不機嫌なのを隠そうともせずに柊を睨む。
しかし、逆に言うのなら好都合だ。こんなちびっ子を連れてきたらオタク店長が暴走する可能性もある。
憮然としている少女に座るように促すと、合格が出されたばかりのやり方でコーヒーをいれてマグカップに半分くらい注ぎ、冷蔵庫から出したばかりの牛乳で割る。
こうすると熱い食べ物が苦手な猫舌の多い子供でも飲めるだろうという考えだ。
カウンターに座っている少女にそれを出すと、少女は不機嫌なのを隠そうともせずに柊を睨む。
「……金はないぞ」
「ガキから金とってどうする」
「子ども扱いすんなー!」
「そう言う奴は大抵子供なんだよ。それに、俺が勝手に連れてきた奴に俺が勝手にコーヒー牛乳出しただけだ。これで金とったら訴えられても文句言えねぇ」
「ガキから金とってどうする」
「子ども扱いすんなー!」
「そう言う奴は大抵子供なんだよ。それに、俺が勝手に連れてきた奴に俺が勝手にコーヒー牛乳出しただけだ。これで金とったら訴えられても文句言えねぇ」
そう言う柊に少し警戒の色を弱め、少女はシュガーポットから出した角砂糖をマグカップの中に入れて飲む。
両手でマグカップを持つ様子は、先ほどまで警戒をあらわにしていた少女とは思えないほど年相応に見える。
半分くらい中身を飲み干すと、幸せそうにぷはー、と呟く少女。
少女は、そんな様子を見ていた柊と目が合ったことで顔を真っ赤にして叫ぶ。
両手でマグカップを持つ様子は、先ほどまで警戒をあらわにしていた少女とは思えないほど年相応に見える。
半分くらい中身を飲み干すと、幸せそうにぷはー、と呟く少女。
少女は、そんな様子を見ていた柊と目が合ったことで顔を真っ赤にして叫ぶ。
「な、なんだよ!なにニヤニヤしてるんだお前!見るな!見せ物じゃないんだぞ!?」
「む、ムチャクチャ言うなよお前……そんなことより、うまかったか?コーヒー牛乳」
「こういうの、コーヒー牛乳じゃなくてカフェラテって言わないか?」
「コーヒーと牛乳が混ざってる飲み物を日本で出せば、そりゃ全部コーヒー牛乳で十分だ」
「む、ムチャクチャ言うなよお前……そんなことより、うまかったか?コーヒー牛乳」
「こういうの、コーヒー牛乳じゃなくてカフェラテって言わないか?」
「コーヒーと牛乳が混ざってる飲み物を日本で出せば、そりゃ全部コーヒー牛乳で十分だ」
世界中のコーヒー愛好家に謝れ。
閑話休題。
少しばかり緊張が解けたのか、少女はその言葉にふっ、と笑った。
少しばかり緊張が解けたのか、少女はその言葉にふっ、と笑った。
「お前、ムチャクチャ言うな」
「よく言われる。っていっても、お前みたいなガキに言われるとは思わなかったけどな」
「子供扱いするなよ、これでも国民の義務は果たしてるんだぞ」
「義務って……まぁいいや。で?お前それだけの買い物で何するつもりだったんだよ。そんだけの量だ、家の手伝いってわけじゃねぇだろう?」
「よく言われる。っていっても、お前みたいなガキに言われるとは思わなかったけどな」
「子供扱いするなよ、これでも国民の義務は果たしてるんだぞ」
「義務って……まぁいいや。で?お前それだけの買い物で何するつもりだったんだよ。そんだけの量だ、家の手伝いってわけじゃねぇだろう?」
柊の言葉にしばらく逡巡していたが、話さないと開放してくれない類の馬鹿だと観念したのか、彼女はぽつりぽつりと話し出した。
学校の行事で、一人で料理を作ることになったこと。
自分は料理を一度も上手く作れたおぼえがないこと。
当日までみんなに内緒で練習しようとしていること。
学校の行事で、一人で料理を作ることになったこと。
自分は料理を一度も上手く作れたおぼえがないこと。
当日までみんなに内緒で練習しようとしていること。
なるほど、と柊は呟いた。
「けど、さすがにこの量は買い込み過ぎじゃねぇのか?60人前は作れるぞこれ。どんだけ失敗する気なんだ」
「う……仕方ないだろっ!加減も何も本格的に料理の練習するのこれがはじめてなんだぞっ!」
「まぁな。それで、何作るんだよ?」
「学校のイベントで作る課題はカレーだから、カレー作る気なんだけど……」
「……カレー作るのに豆腐とかあんことか白玉粉とかは必要ないと思うんだが」
「う……仕方ないだろっ!加減も何も本格的に料理の練習するのこれがはじめてなんだぞっ!」
「まぁな。それで、何作るんだよ?」
「学校のイベントで作る課題はカレーだから、カレー作る気なんだけど……」
「……カレー作るのに豆腐とかあんことか白玉粉とかは必要ないと思うんだが」
ビニール袋の中に入っていた代物をごそごそ物色しながら柊がそう指摘すると、真っ赤になって少女は俯いた。
何も言わない少女。沈黙が落ちる喫茶店エトワール。
沈黙が苦手な柊は言い過ぎたか、と内心で罪悪感を感じつつ話を進めることで沈黙を終わらせた。
何も言わない少女。沈黙が落ちる喫茶店エトワール。
沈黙が苦手な柊は言い過ぎたか、と内心で罪悪感を感じつつ話を進めることで沈黙を終わらせた。
「チビ、それでなんでお前は料理作ったことないのにイベントで作ることになってんだ?」
「知るかっ!クラスの連中が勝手に登録したんだよ!仕方ないだろ!?」
「決まっちまったもんはしょうがないか。
ていうか、お前くらいの年だったら親の手伝いだの家庭科だので2回3回は料理したことあるもんじゃねぇの?」
「やったことないもんはないんだから仕方ない。今までやる必要もなかったんだし」
「そーゆーもんか?俺としてはなんでそこまで料理に近づこうとしなかったのか気になるけどな」
「知るかっ!クラスの連中が勝手に登録したんだよ!仕方ないだろ!?」
「決まっちまったもんはしょうがないか。
ていうか、お前くらいの年だったら親の手伝いだの家庭科だので2回3回は料理したことあるもんじゃねぇの?」
「やったことないもんはないんだから仕方ない。今までやる必要もなかったんだし」
「そーゆーもんか?俺としてはなんでそこまで料理に近づこうとしなかったのか気になるけどな」
その、なんの気なしに言った一言に、少女はしばらく沈黙して―――搾り出すように言った。
「刃物、使うだろ」
は?といきなりの言葉に問い返すと、少女は独白するように続ける。
「あんなおっきな刃物使うんだぞ?
はさみとかカッターとかならともかく、あんなおっきなので切ったら指が落ちるかもしれないんだぞ?
切ったら血が出て痛いんだぞっ!怖いじゃないかそんなの!」
はさみとかカッターとかならともかく、あんなおっきなので切ったら指が落ちるかもしれないんだぞ?
切ったら血が出て痛いんだぞっ!怖いじゃないかそんなの!」
俯いて両拳をぎゅ、と膝の上で握りしめる少女。
彼女が今まで料理をしてこなかったのは、刃物に対する恐怖心があったから。
普通、『料理をしたい』という考えが生まれるのは台所に立つ人間への憧れからだ。
憧れを真似るため、学び、練習をする。そうして経験が積まれていく。遠い憧れを、一つ一つの経験をへて理解へと至る。これが全ての技術習得の源だ。
しかし彼女は『刃物を持つことの怖さ』を理解しているため、憧れを抱くことよりも先に恐れを抱いた。
先のことを考えることができるというのは彼女が聡いことを指している。
けれど、これまで多くのことを経験すること―――体ごとぶつかることで学んできた柊は、ぽつりと呟く。
彼女が今まで料理をしてこなかったのは、刃物に対する恐怖心があったから。
普通、『料理をしたい』という考えが生まれるのは台所に立つ人間への憧れからだ。
憧れを真似るため、学び、練習をする。そうして経験が積まれていく。遠い憧れを、一つ一つの経験をへて理解へと至る。これが全ての技術習得の源だ。
しかし彼女は『刃物を持つことの怖さ』を理解しているため、憧れを抱くことよりも先に恐れを抱いた。
先のことを考えることができるというのは彼女が聡いことを指している。
けれど、これまで多くのことを経験すること―――体ごとぶつかることで学んできた柊は、ぽつりと呟く。
「―――そんなに怖がられちゃ、刃物の方が可哀想だな」
へ?と意外な言葉に少女が顔を上げると、柊はキッチンから一本の包丁を取り出していた。
それを光にかざすようにすると、一つ頷く。
それを光にかざすようにすると、一つ頷く。
「見てろ」
言葉と同時、彼は左手の手のひらに向けて包丁の刃を軽く振り下ろす。
包丁とはいえ刃物だ。使い方によっては人を殺す事だってできる。そんな凶器にもなりうるものを振り下ろす光景を見て、少女はぎゅっと目を閉じて耳を塞ぐ。
包丁とはいえ刃物だ。使い方によっては人を殺す事だってできる。そんな凶器にもなりうるものを振り下ろす光景を見て、少女はぎゅっと目を閉じて耳を塞ぐ。
けれど、彼女の想像した光景が広がることはなかった。
柊の手のひらの上で、包丁の刃は彼の皮膚一枚傷つけることなくぴたりと止まっていたのだ。
不思議そうに目を見開いている少女を見て、悪戯を成功させた子供のように誇らしげに笑い、柊は言う。
柊の手のひらの上で、包丁の刃は彼の皮膚一枚傷つけることなくぴたりと止まっていたのだ。
不思議そうに目を見開いている少女を見て、悪戯を成功させた子供のように誇らしげに笑い、柊は言う。
「刃物ってのは、基本引かなきゃ切れねぇもんだ。
よっぽど重さがあるか、勢いをつけるかしなきゃ叩き切ることはできない。あんだけでかいギロチンも、落とす前にあの高さがなきゃ押し切れないんだ。
それをたかがこんな大きさしかない包丁で、骨ごと指落とすにはかなりの力か技術がいる。
確かに切りゃ痛いが、どこを使ってどうやったら切れるのかを覚えて丁寧にやれば怪我することはまずない。
―――結局、刃物ってのは道具だ。
使う人間が使い方を知ってりゃ、無駄に何かを傷つけることはねぇ。それを覚える前から傷つけるからって遠ざけてたら、仲良くなることなんか絶対できねぇよ」
よっぽど重さがあるか、勢いをつけるかしなきゃ叩き切ることはできない。あんだけでかいギロチンも、落とす前にあの高さがなきゃ押し切れないんだ。
それをたかがこんな大きさしかない包丁で、骨ごと指落とすにはかなりの力か技術がいる。
確かに切りゃ痛いが、どこを使ってどうやったら切れるのかを覚えて丁寧にやれば怪我することはまずない。
―――結局、刃物ってのは道具だ。
使う人間が使い方を知ってりゃ、無駄に何かを傷つけることはねぇ。それを覚える前から傷つけるからって遠ざけてたら、仲良くなることなんか絶対できねぇよ」
包丁で人を殺す時は、体ごとぶつかりながら突き刺すか太い動脈を狙って撫で切るかしかない。前者は度胸が、後者は技術が必要になる。
三徳包丁程度のサイズでは、刃の部分を引かずに叩きつけたぐらいで人の手を落とすことはできないのだ。
柊の言葉にしばらく目を白黒させていた少女は、何度か頷いた後不思議そうにたずねた。
三徳包丁程度のサイズでは、刃の部分を引かずに叩きつけたぐらいで人の手を落とすことはできないのだ。
柊の言葉にしばらく目を白黒させていた少女は、何度か頷いた後不思議そうにたずねた。
「……お前、やけに刃物に詳しいけど刃物マニアかなにかか?」
純真な質問。
まさか『魔物を夜な夜なでかい剣で叩き斬る魔法使いやってます』と言えるわけもなく、目線をそらしてお茶を濁す。
まさか『魔物を夜な夜なでかい剣で叩き斬る魔法使いやってます』と言えるわけもなく、目線をそらしてお茶を濁す。
「あー、そういうわけじゃねぇんだけどな。職業柄っつーかなんつーか」
「職業柄?……っていうと、アレか。大陸全土に散らばった伝説の8つの厨具を探して集める旅をしてる感じの」
「誰が万里の長城使ってオムライス作った史上最年少の特級厨師だっ!?そもそもあれ19世紀の中国の話じゃねぇかっ!」
「職業柄?……っていうと、アレか。大陸全土に散らばった伝説の8つの厨具を探して集める旅をしてる感じの」
「誰が万里の長城使ってオムライス作った史上最年少の特級厨師だっ!?そもそもあれ19世紀の中国の話じゃねぇかっ!」
そもそも漫画の話だってツッコミはないのか。
ともあれ、少女は握っていた手を解き、半分残ったコーヒー牛乳をこくりと傾けて飲み干すと、言った。
ともあれ、少女は握っていた手を解き、半分残ったコーヒー牛乳をこくりと傾けて飲み干すと、言った。
「なんか気が楽になった。やれるだけやってみる。やれないことがやれるようになるのは嬉しいし、それに対する努力をしようとしなかった私も馬鹿だった。
包丁と仲良くなるために、ちょっと頑張ってみることにする。もともと、逃げるのは嫌いだしな」
「なんかややっこしい考え方するなぁお前……。
他人事だからそこまで俺が口出すことじゃねぇんだけどよ。まぁ、やる気になったんならやってみろや」
包丁と仲良くなるために、ちょっと頑張ってみることにする。もともと、逃げるのは嫌いだしな」
「なんかややっこしい考え方するなぁお前……。
他人事だからそこまで俺が口出すことじゃねぇんだけどよ。まぁ、やる気になったんならやってみろや」
そう、適当に返す柊。少女はカウンターの上にマグカップを置くと、言った。
「世話になったな。やる気になってるうちに家に帰って練習してみる、帰るよ」
「まてまて、これだけの荷物お前だけじゃ運べないだろ。ビニール袋切れそうだし」
「大丈夫だ。さっき迎えを呼んでおいた」
「まてまて、これだけの荷物お前だけじゃ運べないだろ。ビニール袋切れそうだし」
「大丈夫だ。さっき迎えを呼んでおいた」
その言葉と同時、エトワールの入り口のドアベルが鳴り、外から何かが入ってきた。
それは、二足歩行するウサギのようだった。ウィザードから見れば『妖怪』と呼ばれる生き物だ。
そのウサギは体に見合うリュックを背負っていて、少女を見つけると嬉しそうに彼女に向けて走りながらそれを差し出した。
彼女はそのリュックから、折りたたまれていた大きな布の袋をとりだすと、ビニール袋二つ分の荷物を中に入れた。
そう言われては柊もついていくことはできないが、彼はできることをやるために言った。
それは、二足歩行するウサギのようだった。ウィザードから見れば『妖怪』と呼ばれる生き物だ。
そのウサギは体に見合うリュックを背負っていて、少女を見つけると嬉しそうに彼女に向けて走りながらそれを差し出した。
彼女はそのリュックから、折りたたまれていた大きな布の袋をとりだすと、ビニール袋二つ分の荷物を中に入れた。
そう言われては柊もついていくことはできないが、彼はできることをやるために言った。
「おいチビ、ついて来なくていいって言ってたけど最近物騒だ。
お前携帯持ってるだろ?出せ。ちゃんと帰れたら連絡しろ」
「……お前、過保護だって言われないか?」
「いや、はじめて言われたな」
お前携帯持ってるだろ?出せ。ちゃんと帰れたら連絡しろ」
「……お前、過保護だって言われないか?」
「いや、はじめて言われたな」
ジト目でそう言った少女は、それでも満更でもなさそうに柊の携帯情報を登録する。
柊も自分の携帯に登録された少女の情報を確認するために携帯をいじると、意外そうに言った。
柊も自分の携帯に登録された少女の情報を確認するために携帯をいじると、意外そうに言った。
「へぇ、お前レベッカって言うんだ。もともと日本人じゃねぇのか?」
「血筋はハーフで国籍は日本だ。っていうか、今の今まで不思議に思わなかったのかお前は」
「髪の毛とか目の色とかはこれまで珍妙な奴山ほど見てきたしなぁ……日本語通じるなら別によくねぇ?」
「そんなこと言ってると国際社会に参加できないぞ」
「血筋はハーフで国籍は日本だ。っていうか、今の今まで不思議に思わなかったのかお前は」
「髪の毛とか目の色とかはこれまで珍妙な奴山ほど見てきたしなぁ……日本語通じるなら別によくねぇ?」
「そんなこと言ってると国際社会に参加できないぞ」
柊は今割と国際社会に貢献してるわけだが。月衣と0-Phone って本っ当に便利ですねー。
レベッカの言葉に肝に銘じとく、と苦笑して、柊はもう一度釘を刺した。
レベッカの言葉に肝に銘じとく、と苦笑して、柊はもう一度釘を刺した。
「いいかレベッカ、無事に帰れたらちゃんと連絡しろよ?あと、なんか危ない目にあったらすぐ電話しろ。絶対助けに行ってやるから」
望に約束した以上、危ない目にあう子供を放っておくことは彼にはできない。
とはいえ、そんなことをいきなり真剣な表情で言われたレベッカは頭の中でその処理がしきれずにわたわたしながら真っ赤になった顔を俯いて隠してなんとか答えた。
とはいえ、そんなことをいきなり真剣な表情で言われたレベッカは頭の中でその処理がしきれずにわたわたしながら真っ赤になった顔を俯いて隠してなんとか答えた。
「は、恥ずかしいこと言うなっ!
あとそれから名前で呼ぶな!お前くらいの奴に名前で呼ばれると変な感じがするっ!」
「変なとこ気にするな?んじゃ、なんて呼べばいいんだよ」
「お、お前くらいの年頃の奴は皆ベッキーって呼ぶから、それでいい」
あとそれから名前で呼ぶな!お前くらいの奴に名前で呼ばれると変な感じがするっ!」
「変なとこ気にするな?んじゃ、なんて呼べばいいんだよ」
「お、お前くらいの年頃の奴は皆ベッキーって呼ぶから、それでいい」
少し腑に落ちないものがあったものの、本人がそれでいいと言うのならそれでいいんだろう。
納得してじゃあなベッキー、と言うと、彼女は安心したような残念なような表情でそれでいい、と呟いて店を出て行った。
ぺこり、とウサギは柊にお辞儀をし、ありがとうございました、と言ってレベッカの後を追う。やがて追いつくと、二つの影は同じリズムで宵闇の町を歩いていった。
納得してじゃあなベッキー、と言うと、彼女は安心したような残念なような表情でそれでいい、と呟いて店を出て行った。
ぺこり、とウサギは柊にお辞儀をし、ありがとうございました、と言ってレベッカの後を追う。やがて追いつくと、二つの影は同じリズムで宵闇の町を歩いていった。
―――彼らの再会は、意外と早く訪れることとなる。
「あぁ、それウチの学校の宮本先生っスね」
桃月町にある数年間ずっと改装中の札が貼られているボウリング場。
その中の、ところどころ穴の空いたビニール革のソファに座って缶の緑茶をすすりながらベホイミは言った。
彼女にエミュレイター退治の手伝いに駆りだされた柊は、月衣の中に店の残り物で作ったサンドウィッチをいれて、仕事が終わるのと同時に休憩にしたのだった。
そして今日一日の出来事について意見交換を行っている中、今日会ったウサギの妖怪を連れている少女についての話となり、それが終わるとベホイミはそう言ったのだった。
その中の、ところどころ穴の空いたビニール革のソファに座って缶の緑茶をすすりながらベホイミは言った。
彼女にエミュレイター退治の手伝いに駆りだされた柊は、月衣の中に店の残り物で作ったサンドウィッチをいれて、仕事が終わるのと同時に休憩にしたのだった。
そして今日一日の出来事について意見交換を行っている中、今日会ったウサギの妖怪を連れている少女についての話となり、それが終わるとベホイミはそう言ったのだった。
「先生って、話聞いてたかお前。あいつどう見ても10歳かそこらだぞ?」
「宮本先生はMITで博士号を三つとった天才なんスよ。今は本人の希望でこっちで教員やってるんス」
「へぇ。輝明学園以外にもいるんだな、そんなの」
「宮本先生はMITで博士号を三つとった天才なんスよ。今は本人の希望でこっちで教員やってるんス」
「へぇ。輝明学園以外にもいるんだな、そんなの」
彼の母校である輝明学園には16歳の中学教師がいるため、柊もそれ以上は食いかからない。
けど、と彼は続ける。
けど、と彼は続ける。
「10歳で教師っていうとなんか魔法使えそうだよな」
「いやいや、連れてるマスコットが違いますって。あのウサギエロくないしオコジョでもないですもん」
「いやいや、連れてるマスコットが違いますって。あのウサギエロくないしオコジョでもないですもん」
それもそうかと呟いて、柊はベホイミに促した。
「お前の方は?なんか進展あったか」
「そうっスね、調査頼んどいたのの結果が割と次々と」
「そうっスね、調査頼んどいたのの結果が割と次々と」
まずこれを見てくださいっス、と言って彼女が取り出すのは桃月町の地図だ。
いくつも赤い印がつけられている地図の、印の部分を指しながら彼女は言った。
いくつも赤い印がつけられている地図の、印の部分を指しながら彼女は言った。
「印のところが、通り魔事件のあった場所っス」
「この配置見る限りは別に意味があるようには思えねぇな」
「そうっスね。知り合いもこの場所そのものには意味があるようには思えないって言ってたっス。
けど、この印のあるところのうち―――西口公園、商店街の路地裏、第三小学校、川沿いの小さな広場、そしてここ。柊さんは、何かピンとこないっスか?」
「……全部ここ最近お前と一緒にエミュレイターぶちのめしたとこってことか?」
「この配置見る限りは別に意味があるようには思えねぇな」
「そうっスね。知り合いもこの場所そのものには意味があるようには思えないって言ってたっス。
けど、この印のあるところのうち―――西口公園、商店街の路地裏、第三小学校、川沿いの小さな広場、そしてここ。柊さんは、何かピンとこないっスか?」
「……全部ここ最近お前と一緒にエミュレイターぶちのめしたとこってことか?」
そう眉をひそめて言う柊に、ベホイミは真剣な表情でこくりと頷いた。
エミュレイターの発生と通り魔のあった場所が重なっているという事実は、この二つの事件になんらかの関係がある可能性が高いという推測を成り立たせる。
エミュレイターの発生と通り魔のあった場所が重なっているという事実は、この二つの事件になんらかの関係がある可能性が高いという推測を成り立たせる。
「この二つには、何らかの同じ裏があることが予想されるっスね。
もしかしたら私が見回りをはじめてからはぱたりと止んでる通り魔の方も、相手への牽制になってるかもしれないっス」
「かもな。けど、こんないたちごっこ続けるのもお前の本意じゃねぇだろ?何よりお前短気だし」
「人をすぐキレる最近の若者みたいに言わないでほしいっスよっ!?
……けど、確かに焦れてくるっス。さっさと黒幕ぶちのめして終わらせたいとこっスね」
「だろ?そっちのほうの調査はどうなんだ」
もしかしたら私が見回りをはじめてからはぱたりと止んでる通り魔の方も、相手への牽制になってるかもしれないっス」
「かもな。けど、こんないたちごっこ続けるのもお前の本意じゃねぇだろ?何よりお前短気だし」
「人をすぐキレる最近の若者みたいに言わないでほしいっスよっ!?
……けど、確かに焦れてくるっス。さっさと黒幕ぶちのめして終わらせたいとこっスね」
「だろ?そっちのほうの調査はどうなんだ」
がぶり、ときゅうりのサンドウィッチを口の中に叩き込みつつ、ベホイミは答える。
「とりあえず通り魔事件前後からここに潜入したウィザードは数人っス。
外部組織と強いラインのあるウィザードが中心だったっスけど、その連中は全員もとの組織に戻ってるっス。
つい最近入ってきたのが一人まだ滞在してるみたいっスけど、これは関係なさそうっスね。
あんまりにも最近っスし、それまでの足取りを見てもこっちに何かする余裕はなさそうな報告書っス。
となれば、組織の情報網に引っかからないフリーかそれに近い人間が犯人である可能性が高い」
「俺は犯人じゃねぇからな、言っとくけど」
「言われなくてもわかってるっスよ。
輝明学園をスレスレで、なんとか、辛うじてといった感じで卒業した柊さんに低位とはいえエミュレイターを召喚するような知識があるとは思えないっス」
「本っ当に酷い台詞吐きやがるなお前っ!?」
外部組織と強いラインのあるウィザードが中心だったっスけど、その連中は全員もとの組織に戻ってるっス。
つい最近入ってきたのが一人まだ滞在してるみたいっスけど、これは関係なさそうっスね。
あんまりにも最近っスし、それまでの足取りを見てもこっちに何かする余裕はなさそうな報告書っス。
となれば、組織の情報網に引っかからないフリーかそれに近い人間が犯人である可能性が高い」
「俺は犯人じゃねぇからな、言っとくけど」
「言われなくてもわかってるっスよ。
輝明学園をスレスレで、なんとか、辛うじてといった感じで卒業した柊さんに低位とはいえエミュレイターを召喚するような知識があるとは思えないっス」
「本っ当に酷い台詞吐きやがるなお前っ!?」
柊の台詞を軽くスルーし、ベホイミは報告を続けた。
「一応、そういう条件で探して引っかかったウィザードが一人いたっス。
まだ本人かどうか確認はとれてないんスけど郊外のウィークリーマンションを借りた人間に、
以前「黄金の蛇」の出先機関である「十輪樹形(サークルツリー)」で錬金術を学んだ魔術師にして錬金術師によく似た人間がいるそうっス」
「錬金術師?なんでそんな奴が……」
「そんなことは締め上げて本人から聞けばわかるっス!まぁ、確認が取れ次第本人のいるところに乗り込んでって捕まえる予定っス。柊さんも手伝ってくださいっスね?」
「そりゃ、手伝えって言われりゃ手伝うけどよ。
なんか変じゃねぇか?これだけ派手にプラーナ集めてりゃ町のウィザードが気づくのは当然だ。
俺だって考えりゃわかるんだ、そんな頭のよさそうな奴が気づかないはずがない。そもそもプラーナ集めたいならこの町じゃなくてもいいはずだろ?
なんで、ここだったんだ?」
まだ本人かどうか確認はとれてないんスけど郊外のウィークリーマンションを借りた人間に、
以前「黄金の蛇」の出先機関である「十輪樹形(サークルツリー)」で錬金術を学んだ魔術師にして錬金術師によく似た人間がいるそうっス」
「錬金術師?なんでそんな奴が……」
「そんなことは締め上げて本人から聞けばわかるっス!まぁ、確認が取れ次第本人のいるところに乗り込んでって捕まえる予定っス。柊さんも手伝ってくださいっスね?」
「そりゃ、手伝えって言われりゃ手伝うけどよ。
なんか変じゃねぇか?これだけ派手にプラーナ集めてりゃ町のウィザードが気づくのは当然だ。
俺だって考えりゃわかるんだ、そんな頭のよさそうな奴が気づかないはずがない。そもそもプラーナ集めたいならこの町じゃなくてもいいはずだろ?
なんで、ここだったんだ?」
嫌な予感を感じなにやら考えこむ柊に、ベホイミが不思議そうに聞く。
「珍しいっスね。柊さんは考えてもわからないことに対して悩むのを無駄だと切り捨てる人だった気がするんスけど」
「俺だって珍しいと思ってるよ。ただ、なんか引っかかるだけだ。
この町を痕跡を残してまで襲った理由。
場所に意味がねぇんだとしたら、なんで襲った奴があの連中じゃなきゃいけなかったのかの理由。
他のウィザードに尻尾つかまれる危険を冒してまで、通り魔を一旦止めてエミュレイターを召喚してでも時間を稼いでるのかの理由。
こんだけわかんねぇことがあるんだ、すっきりしなくても当然だろ。何か他の目的があってやろうとしてるとしか思えねぇ。
それがわからなきゃ間違いで足すくわれかねねぇしな。事件のはっきりとした輪郭が見えねぇのに、黒幕だけわかってるってのはやっぱ気持ち悪いだろ」
「俺だって珍しいと思ってるよ。ただ、なんか引っかかるだけだ。
この町を痕跡を残してまで襲った理由。
場所に意味がねぇんだとしたら、なんで襲った奴があの連中じゃなきゃいけなかったのかの理由。
他のウィザードに尻尾つかまれる危険を冒してまで、通り魔を一旦止めてエミュレイターを召喚してでも時間を稼いでるのかの理由。
こんだけわかんねぇことがあるんだ、すっきりしなくても当然だろ。何か他の目的があってやろうとしてるとしか思えねぇ。
それがわからなきゃ間違いで足すくわれかねねぇしな。事件のはっきりとした輪郭が見えねぇのに、黒幕だけわかってるってのはやっぱ気持ち悪いだろ」
こちらにここまで読まれることさえ計算済みなのではないか、と言う柊に、ベホイミは首を振った。
「かもしれないっスけど……それでも、虎穴に入らずんば虎子を得ずっスよ。
もしも罠だったとしても、柊さん罠踏み砕くのは得意でしょう?」
「うるせぇよ!?誰も好き好んで罠にかかりたがってるわけじゃねぇっ!」
もしも罠だったとしても、柊さん罠踏み砕くのは得意でしょう?」
「うるせぇよ!?誰も好き好んで罠にかかりたがってるわけじゃねぇっ!」
へへーん、と笑ってベホイミはボーリング場の扉から駆け出した。
柊は今日あったことを思い出し―――外に出ながらため息をついた。
柊は今日あったことを思い出し―――外に出ながらため息をついた。
「明日もまた、大変そうだな」
そのため息は、どこか嬉しそうでもあった。