「話を本題に戻しましょう」
何事もなかったかのようにアンゼロットが口を開く。
ちなみに爪先から頭までずぶ濡れになりこめかみに青筋を立てながらも、とりあえず沈黙を守って
座っている蓮司を気にしているのは斗貴子一人だった。
「現在この銀成市に出没している敵はエミュレイターとホムンクルスの融合体です」
「エミュレイターと、ホムンクルス」
「はい。今回のホムンクルスはあくまで戦団側の錬金術によって精製された人造生命。
よって"わたくし達"のホムンクルスの事は忘れてくださって結構」
毎日のようにアンゼロットに弄られているとはいえ、蓮司も折り紙つきのウィザードには違いない。
彼はすぐに表情を引き締めてから、アンゼロットに視線を向ける。
「つまり……どういう奴なんだ?」
「別に難しい事ではありませんよ。単にホムンクルスを寄り代にしているというだけですから」
エミュレイターは大別して他者に憑依して現界する『アモルファス』、己が力によって肉体を創り
現界する『シェイプドライフ』に分けられる。
通常ならばアモルファスタイプのエミュレイターは人間や動植物などといった生物全般(無機物に憑く場合もある)に
憑依する事で肉体を掌握して現界するのだが、今回の場合はその寄り代にホムンクルスを用いているという事だ。
「……そいつは、通常の奴等とは違うのか?」
「いえ、別に変わりありません。むしろ現状を見る限りエミュレイター側にとってはデメリットしかないんじゃないでしょうか?」
「……は?」
「融合したホムンクルスは月匣を展開する能力を得ます。コレによって彼等は通常よりもより秘密裏に人を喰う事ができる訳ですが……非効率でしょう?
エミュレイターなら肉体を喰う必要なんてないんですから」
「……確かに」
「待て」
眉間に皺を寄せた蓮司の脇から、斗貴子が声を出した。
その響きはこれまでの彼女が見せていたモノよりも幾分暗く、隣にいたカズキは僅かに息を呑んだ。
何故ならそれは本当に久し振りに見た、初めて出逢った頃の彼女の顔だったからだ。
「肉体を喰う必要はない? では私達が今まで倒してきたホムンクルスは?」
刺すような斗貴子の視線を受けて、しかしアンゼロットは全く表情を崩す事なく彼女に向かって言い放つ。
「……融合しきれていない『半端者』です。融合が進んだ固体は肉体は勿論の事、加えてエミュレイターと同様にプラーナを喰います。
プラーナとはモノが存在するための力。プラーナを失ったモノは世界からその存在を抹消され、"始めからいなかった"事になります。つまり、」
「……つまり、この街で頻発している『行方不明』は奴等の『喰い残し』でしかないというコト」
端的に過ぎた灯の言葉に斗貴子は無意識に殺気を彼女に向けた。
しかし感情を動かす事なくそれを受け止める灯を見て、斗貴子は小さな得心と共にその殺気を抑え込んだ。
学校がどうのという理由はともかく、灯が問答無用に戦闘を仕掛けてきた点に関しては斗貴子は彼女にシンパシーを感じる。
何故なら、その事情を知っていれば自分でも同じ事をしていただろうから。
「……ともかく。その行動がホムンクルスを主体にしている事から、恐らくは錬金術に関わりのある何者かの側が積極的な意思を以て
エミュレイターに接触したと推測されます」
「この街で活動している事から、戦団側では首謀者はLXEの残党という見方をしている。
あの組織において錬金術の知識を持つのはドクトル・バタフライ一人との事だが、早坂桜花にシステム関連を任せていた辺り、
奴一人だけでその技術の総てを掌握・秘匿できていたとは考えにくい」
「……それで、オレ達はどうすれば?」
「現状は今まで通り、柊さん達と共に街を捜索しホムンクルスやエミュレイターの駆逐をお願いします。
月匣の感知に関しては我々ウィザードの方が優れていますから、効率は上昇するでしょう」
アンゼロットはカズキの問いに答えた後、次いで蓮司と灯に目を向ける。
「なお、これに伴って柊さんと灯さんは銀成学園高校に編入して頂きます」
「……了解」
「しゃあねえな……って、ちょっと待ったっ!」
渋々といった形で頷きかけた蓮司が泡を食って立ち上がり、アンゼロットに詰め寄った。
「俺の追試はどうなる!?」
食い付きそうな勢いで吼える蓮司に、アンゼロットは不思議そうな表情で彼をまじまじと見つめた後、首を傾げて見せた。
「銀成学園高校に通うことと輝明学園の追試に一体何の関係があるっていうんです?」
「ぐっ……こ、この……っ!!」
悔しそうに歯軋りしながらも、言っている事が正論なだけに何も言い返せない蓮司をよそにアンゼロットは残りの三人を
見回して小さく微笑みを浮かべてみせた。
「話は以上です。それでは皆さん頑張って下さいね」
言いながら彼女はいつの間にか手元に垂れていた紐に手を伸ばす。
瞬間蓮司の顔色がざっと青ざめ、彼はカズキと斗貴子を振り返って叫んだ。
「逃げろォーーーー!!」
忠告に気を取られて反応できなかったのだろう、アンゼロットが紐を引くと同時に床に開いた穴に蓮司の姿が吸い込まれ、
悲鳴が遠ざかっていった。
ぱたりと床が閉じる。
しばしの沈黙の後、斗貴子はゆらりと椅子から立ち上がった。
「……あら、どうしました斗貴子さん?」
「……話は終わったのでしょう? それなら私は失礼させていただく……」
どこか切羽詰った声で彼女は言うと、油断なく身構えたままじりじりと扉の方へと後ずさって行く。
「自分でいうのもなんですが、この宮殿は相当に広いですから歩くのも大変でしょう。『直通』でお送りいたしますよ?」
「結構っ!!」
言うが早いか斗貴子は踵を返し、扉に向かって脱兎の如く駆け出す。
だが、彼女が扉に到達するより早く。間に割り込んだ灯が斗貴子をがしりと捕まえた。
「お前……っ!?」
「……慣れれば平気だから」
「慣れたくなどないっ!!」
「斗貴子さん!」
後ろからカズキの声が響き、斗貴子は天恵を得たかのように彼を振り向く。
が、そこには。
「大丈夫だって。フリーフォールみたいなもんだから。多分」
身体をわきわきと動かし、期待に満ち満ちた笑顔を向けるカズキの姿があった。
「……っ」
一縷の望みを託して――半ば結果はわかりきってもいたが――斗貴子はブラボーを見やる。
「……何事も経験だ、戦士・斗貴子!」
サムズアップしながら爽やかに言い放つブラボーを見て、斗貴子の中で何かが切れた。
「ふっっざけるな! こんな役は剛太にでもやらせればいいだろう! なんで私が……っ!!」
「それでは皆さん、頑張って下さい」
「……了解」
「任せてくれ! いざ出撃!!」
「離せ! くそ、このっ……バルキリースカ――」
何事もなかったかのようにアンゼロットが口を開く。
ちなみに爪先から頭までずぶ濡れになりこめかみに青筋を立てながらも、とりあえず沈黙を守って
座っている蓮司を気にしているのは斗貴子一人だった。
「現在この銀成市に出没している敵はエミュレイターとホムンクルスの融合体です」
「エミュレイターと、ホムンクルス」
「はい。今回のホムンクルスはあくまで戦団側の錬金術によって精製された人造生命。
よって"わたくし達"のホムンクルスの事は忘れてくださって結構」
毎日のようにアンゼロットに弄られているとはいえ、蓮司も折り紙つきのウィザードには違いない。
彼はすぐに表情を引き締めてから、アンゼロットに視線を向ける。
「つまり……どういう奴なんだ?」
「別に難しい事ではありませんよ。単にホムンクルスを寄り代にしているというだけですから」
エミュレイターは大別して他者に憑依して現界する『アモルファス』、己が力によって肉体を創り
現界する『シェイプドライフ』に分けられる。
通常ならばアモルファスタイプのエミュレイターは人間や動植物などといった生物全般(無機物に憑く場合もある)に
憑依する事で肉体を掌握して現界するのだが、今回の場合はその寄り代にホムンクルスを用いているという事だ。
「……そいつは、通常の奴等とは違うのか?」
「いえ、別に変わりありません。むしろ現状を見る限りエミュレイター側にとってはデメリットしかないんじゃないでしょうか?」
「……は?」
「融合したホムンクルスは月匣を展開する能力を得ます。コレによって彼等は通常よりもより秘密裏に人を喰う事ができる訳ですが……非効率でしょう?
エミュレイターなら肉体を喰う必要なんてないんですから」
「……確かに」
「待て」
眉間に皺を寄せた蓮司の脇から、斗貴子が声を出した。
その響きはこれまでの彼女が見せていたモノよりも幾分暗く、隣にいたカズキは僅かに息を呑んだ。
何故ならそれは本当に久し振りに見た、初めて出逢った頃の彼女の顔だったからだ。
「肉体を喰う必要はない? では私達が今まで倒してきたホムンクルスは?」
刺すような斗貴子の視線を受けて、しかしアンゼロットは全く表情を崩す事なく彼女に向かって言い放つ。
「……融合しきれていない『半端者』です。融合が進んだ固体は肉体は勿論の事、加えてエミュレイターと同様にプラーナを喰います。
プラーナとはモノが存在するための力。プラーナを失ったモノは世界からその存在を抹消され、"始めからいなかった"事になります。つまり、」
「……つまり、この街で頻発している『行方不明』は奴等の『喰い残し』でしかないというコト」
端的に過ぎた灯の言葉に斗貴子は無意識に殺気を彼女に向けた。
しかし感情を動かす事なくそれを受け止める灯を見て、斗貴子は小さな得心と共にその殺気を抑え込んだ。
学校がどうのという理由はともかく、灯が問答無用に戦闘を仕掛けてきた点に関しては斗貴子は彼女にシンパシーを感じる。
何故なら、その事情を知っていれば自分でも同じ事をしていただろうから。
「……ともかく。その行動がホムンクルスを主体にしている事から、恐らくは錬金術に関わりのある何者かの側が積極的な意思を以て
エミュレイターに接触したと推測されます」
「この街で活動している事から、戦団側では首謀者はLXEの残党という見方をしている。
あの組織において錬金術の知識を持つのはドクトル・バタフライ一人との事だが、早坂桜花にシステム関連を任せていた辺り、
奴一人だけでその技術の総てを掌握・秘匿できていたとは考えにくい」
「……それで、オレ達はどうすれば?」
「現状は今まで通り、柊さん達と共に街を捜索しホムンクルスやエミュレイターの駆逐をお願いします。
月匣の感知に関しては我々ウィザードの方が優れていますから、効率は上昇するでしょう」
アンゼロットはカズキの問いに答えた後、次いで蓮司と灯に目を向ける。
「なお、これに伴って柊さんと灯さんは銀成学園高校に編入して頂きます」
「……了解」
「しゃあねえな……って、ちょっと待ったっ!」
渋々といった形で頷きかけた蓮司が泡を食って立ち上がり、アンゼロットに詰め寄った。
「俺の追試はどうなる!?」
食い付きそうな勢いで吼える蓮司に、アンゼロットは不思議そうな表情で彼をまじまじと見つめた後、首を傾げて見せた。
「銀成学園高校に通うことと輝明学園の追試に一体何の関係があるっていうんです?」
「ぐっ……こ、この……っ!!」
悔しそうに歯軋りしながらも、言っている事が正論なだけに何も言い返せない蓮司をよそにアンゼロットは残りの三人を
見回して小さく微笑みを浮かべてみせた。
「話は以上です。それでは皆さん頑張って下さいね」
言いながら彼女はいつの間にか手元に垂れていた紐に手を伸ばす。
瞬間蓮司の顔色がざっと青ざめ、彼はカズキと斗貴子を振り返って叫んだ。
「逃げろォーーーー!!」
忠告に気を取られて反応できなかったのだろう、アンゼロットが紐を引くと同時に床に開いた穴に蓮司の姿が吸い込まれ、
悲鳴が遠ざかっていった。
ぱたりと床が閉じる。
しばしの沈黙の後、斗貴子はゆらりと椅子から立ち上がった。
「……あら、どうしました斗貴子さん?」
「……話は終わったのでしょう? それなら私は失礼させていただく……」
どこか切羽詰った声で彼女は言うと、油断なく身構えたままじりじりと扉の方へと後ずさって行く。
「自分でいうのもなんですが、この宮殿は相当に広いですから歩くのも大変でしょう。『直通』でお送りいたしますよ?」
「結構っ!!」
言うが早いか斗貴子は踵を返し、扉に向かって脱兎の如く駆け出す。
だが、彼女が扉に到達するより早く。間に割り込んだ灯が斗貴子をがしりと捕まえた。
「お前……っ!?」
「……慣れれば平気だから」
「慣れたくなどないっ!!」
「斗貴子さん!」
後ろからカズキの声が響き、斗貴子は天恵を得たかのように彼を振り向く。
が、そこには。
「大丈夫だって。フリーフォールみたいなもんだから。多分」
身体をわきわきと動かし、期待に満ち満ちた笑顔を向けるカズキの姿があった。
「……っ」
一縷の望みを託して――半ば結果はわかりきってもいたが――斗貴子はブラボーを見やる。
「……何事も経験だ、戦士・斗貴子!」
サムズアップしながら爽やかに言い放つブラボーを見て、斗貴子の中で何かが切れた。
「ふっっざけるな! こんな役は剛太にでもやらせればいいだろう! なんで私が……っ!!」
「それでは皆さん、頑張って下さい」
「……了解」
「任せてくれ! いざ出撃!!」
「離せ! くそ、このっ……バルキリースカ――」
滅茶苦茶に暴れ回る斗貴子に極上の微笑みを向けてアンゼロットが紐を引く。
同時に床が二つに割れ、
「あ゛あ゛あ゛あぁぁ……っ!!」
斗貴子の悲痛な叫びと共に三人の姿は穴の中へと消えていった。
同時に床が二つに割れ、
「あ゛あ゛あ゛あぁぁ……っ!!」
斗貴子の悲痛な叫びと共に三人の姿は穴の中へと消えていった。
「――よろしかったのですか、ナイトメアさん」
三人(+一名)を見届けた後、静寂を取り戻した室内でアンゼロットが静かに背後に語りかけた。
「……何がだ?」
「柊さんはともかく、灯さん――絶滅社の契約は実地による調整任務だったはず。少々込み入った事になりそうですが」
「構わんだろう。状況が複雑化するなど別に珍しい事でもなし、正式な契約である以上向こうも反故にはできまい」
「……本当に、よろしいのですね?」
「……何か問題が?」
アンゼロットの言い方に何かを感じ取ったのだろう、ナイトメアは僅かに眉を潜めてから問いかける。
「いえ、それならいいのです」
しかし彼女は打ち切るように言った後、ブラボーに向き直った。
「それではブラボーさんはナイトメアさんと共に調査に当たってください。
お二人ならそう遅れを取る事はないでしょうが……今回のエミュレイターの動きはどうもきな臭いですから」
「……了解しました」
ブラボーは頷いて返すと、ナイトメアと共に部屋を後にする。
そして部屋に残ったのは、世界の守護者ただ一人。
銀髪の少女はテーブルに置かれたティーカップを見据えたまま、静かに思考する。
「……彼には何も伝えていないのですね」
どうやら絶滅社は緋室 灯の事を徹底的に秘匿するつもりであるらしい。
それがかの魔王に対してどれほど意味があるのかは知れないが、柱システムに関しては絶滅社の管轄だけに迂闊には干渉できない。
不都合があれば契約を破棄してでも呼び戻すであろうから今回の事に関して考慮から外しても問題はないだろう。
とりあえずの結論を出してからアンゼロットは思考を切り替えた。
三人(+一名)を見届けた後、静寂を取り戻した室内でアンゼロットが静かに背後に語りかけた。
「……何がだ?」
「柊さんはともかく、灯さん――絶滅社の契約は実地による調整任務だったはず。少々込み入った事になりそうですが」
「構わんだろう。状況が複雑化するなど別に珍しい事でもなし、正式な契約である以上向こうも反故にはできまい」
「……本当に、よろしいのですね?」
「……何か問題が?」
アンゼロットの言い方に何かを感じ取ったのだろう、ナイトメアは僅かに眉を潜めてから問いかける。
「いえ、それならいいのです」
しかし彼女は打ち切るように言った後、ブラボーに向き直った。
「それではブラボーさんはナイトメアさんと共に調査に当たってください。
お二人ならそう遅れを取る事はないでしょうが……今回のエミュレイターの動きはどうもきな臭いですから」
「……了解しました」
ブラボーは頷いて返すと、ナイトメアと共に部屋を後にする。
そして部屋に残ったのは、世界の守護者ただ一人。
銀髪の少女はテーブルに置かれたティーカップを見据えたまま、静かに思考する。
「……彼には何も伝えていないのですね」
どうやら絶滅社は緋室 灯の事を徹底的に秘匿するつもりであるらしい。
それがかの魔王に対してどれほど意味があるのかは知れないが、柱システムに関しては絶滅社の管轄だけに迂闊には干渉できない。
不都合があれば契約を破棄してでも呼び戻すであろうから今回の事に関して考慮から外しても問題はないだろう。
とりあえずの結論を出してからアンゼロットは思考を切り替えた。
「…………ウィザードが憎い……っ」
「その……あんま落ち込むなよ、な? 犬とか猫に噛まれたと思ってさ……だから元気出せ……?」
――銀成学園高校に程近い森の中。
立つ気力さえも失って地面に蹲った斗貴子に蓮司は恐る恐る声をかけた。
しかし彼女は僅かに身体を震わせたまま、決して顔を上げようとしない。
「今回は比較的まともだった……」
「いいなあ、ウィザード! オレ、子供の頃から憧れてたんだ! こう、秘密基地からズバーッて出撃するの、カッコいいよな!」
カズキが全身で喜びを表している傍らで、斗貴子の回りにはどんよりとした雰囲気が覆っている。
「もうどうでもいい……好きにして……」
「ホントわりぃ……」
なんで俺が謝らないといけないんだ、と思いつつも必死に斗貴子を宥める蓮司だった。
「その……あんま落ち込むなよ、な? 犬とか猫に噛まれたと思ってさ……だから元気出せ……?」
――銀成学園高校に程近い森の中。
立つ気力さえも失って地面に蹲った斗貴子に蓮司は恐る恐る声をかけた。
しかし彼女は僅かに身体を震わせたまま、決して顔を上げようとしない。
「今回は比較的まともだった……」
「いいなあ、ウィザード! オレ、子供の頃から憧れてたんだ! こう、秘密基地からズバーッて出撃するの、カッコいいよな!」
カズキが全身で喜びを表している傍らで、斗貴子の回りにはどんよりとした雰囲気が覆っている。
「もうどうでもいい……好きにして……」
「ホントわりぃ……」
なんで俺が謝らないといけないんだ、と思いつつも必死に斗貴子を宥める蓮司だった。
※ ※ ※
「――かくて演者は舞台に登った」
何処とも知れぬ暗闇の中、紙が擦れる小さな音が響く。
漆黒の内にあってなおその存在を示す黒壇の髪が僅かに揺れる。
小さな膝に巨大な本を広げるその少女は、記述に目を落としたまま僅かに目を細めた。
一切の光明のない闇の中、それでも苦もなく少女は書を読み進める。
その書に記されているのは彼女以外に読み解き得ぬ知識、秘匿された情報。
定められた運命の記述を前に、世の総ての秘密を識るというその少女は薄く微笑み、そして謳う。
「――総ては、この書物に書かれている通り」