「ガールフレンド(仮)の第4話」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
ガールフレンド(仮)の第4話 - (2015/12/19 (土) 13:16:16) の1つ前との変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
朝。櫻井家のあるマンション。
鼻唄混じりで身支度をする明音。
明音「…ん~、中々決まらないなぁ…」
髪のセットが思ったように決まらない。
彼女はマイゴールデンポイントを日夜研究するほどポニーテールに強いこだわりを持ち、毎日のセットにも余念が無い。そのため登校が遅れることも。
明音「?」
時計が8時10分を指す。
明音「はぁぁっ!? もう行かなきゃ…」
切り上げて、急いで部屋を出ようとするが…。
明音「!」
忘れ物に気付いて再び鏡台の前へ。
前髪にヘアピンを飾り、セットもバッチリ決まって上機嫌。
そして消灯し部屋を出て…。
明音「行ってきまーす!!」
・
・
・
息せき学校を目指す明音。
明音「…?」
道端に誰かがうずくまっているのを見つけた。
明音「あれ…」
同じ聖櫻学園の生徒のようだ。
明音「どうしたの? 気分でも悪いの?」
「そういう訳では無いのだが…」
振り返ったのは五十鈴。
明音「(あれ? いい匂い…花の香り?)」
どこからか猫の鳴き声が聞こえてきた。
明音「? 今、『みゃあ』って鳴いた?」
五十鈴「私が鳴く訳無いだろ…」
明音「あ、そっか。そうだよね」
五十鈴「鳴き声の主は…」
明音「?」
茂みの中に、ダンボールに入った5匹の子猫がいる。
五十鈴「この子らだ」
明音「あぁ…可愛い…」
途端に表情が曇る。
明音「捨てられちゃったのかな…」
五十鈴「…」
子猫たちのうち1匹の喉元をさすっている。
明音「飼ってあげたいけど…うちのマンション、ペット禁止なんだよね…」
五十鈴「うちも無理でな…」
明音「…そうだ! いい事思いついた!」
五十鈴「?」
明音「任せておいて。あ…私、2年C組櫻井明音。あなたも2年生だよね?」
五十鈴「…ああ。A組の不知火五十鈴だ。その気があれば覚えておいてくれ」
明音「うん。よろしくね。不知火さん」
子猫たちが嬉しそうに鳴く。
#center(){
&size(18){&bold(){&color(#ff3399){「猫と雨の夜」}}}
}
2-C教室。
子猫を持ってきていた明音の前に人だかりができている。
「か、可愛いなぁ…!」
可愛さに感嘆の声をあげる一葉。
続けて奈央も…。
奈央「本当だにゃ~」
一葉「見吉さんまで猫になってるけど?」
奈央「ありゃ?」
&ruby(やつか){八束}&ruby(ゆきえ){由紀恵}が席を立つ。
彼女は2-Cのクラス委員でありながら、時々生徒会を手伝うこともある。PCやスマホは普通に扱えるが、趣味の文通は手書きでする。
由紀恵「ちょっとみんな! 席に戻って!! 授業始まるわよ!!」
落胆する明音、そして子猫を見に来た女生徒たち((一葉と奈央の他は伊勢崎郁歩、桐山優月、早見英子、東雲レイ、遠山未涼。))。
由紀恵「猫たちが休めないじゃない…」
&ruby(つきしろ){月白}&ruby(ようこ){陽子}が入ってくる。
2-C担任で英語を手がける女性教師。校内では真面目で堅物だが、メイクを落とせば柔和な素顔を見せる。
酒が苦手にもかかわらず、一方的に同僚教師たちから飲みに誘われている((尚、英語研究会の顧問でもある。))。
陽子「どうしたの?」
子猫に目が留まる。
陽子「それは…」
明音「にゃんこズです」
陽子「それは分かってます。どうして一緒に登校してきたのか、っていうことよ」
五十鈴が様子を見に来た。
明音「あの…もらってくれる人を募集しようと思って…」
陽子「だからと言って学校に連れてくるのはどうなの?」
明音「すみません…」
陽子「はぁ…仕方ないわね。今日1日だけ、職員室で預ります。私も先生たちに聞いてみるけど、責任持って引き取れる人を探しなさいね」
明音「ありがとうございます!」
陽子の背後で覗いている五十鈴に、明音はウインクでサインを送る。
五十鈴「…」
五十鈴に気づいて振り返る陽子。
一同「?」
五十鈴「…」
職員室。
陽子は子猫のダンボールを隅に置いて眺めていた。
陽子「うふ…生徒たちよりは、手が掛からないかも…」
子猫たちは、気持ちよさそうに眠っている。
2-C教室。
由紀恵「それで、どうやって飼い主を見つけるつもりなの? 悪いけどうちは無理よ」
奈央「飼いたいけどにゃ~」
一葉「全部で5匹いたもんな…」
明音「うん。だから…」
そして昼休み。
明音「ハ~イ! 本日も、お昼の放送の時間です! 今日も、2年C組櫻井明音が担当させて頂きます! そして、本日のゲストは! 5匹の子猫ちゃ~ん!!」
そのうち1匹が、明音が近付けたマイクにじゃれる。
明音「たちで~す!」
知「みんな可愛いにゃ~」
裏方の知も子猫に夢中。
明音「…この子猫ちゃんたちを、引き取って下さる方、募集中です。1匹でも、5匹一緒でも、にゃんこちゃんを飼いたいという方は、放送室まで来て下さいね。よろしくお願いします!」
放送を聴いた一部の女生徒が反応を示す。
2-A教室では&ruby(にいがき){新垣}&ruby(ひな){雛菜}が、外ではエミが、そして2-Cでも。
放送終了後、明音と知が廊下に出ると…。
明音「? あ…!」
知「お~、ピッタリ5人だね~」
明音「A組の新垣さんに…」
新垣雛菜。実家は美容院で、母に憧れ美容師を志望している。
右半分が紫で左半分がピンクという、奇抜な色のストレートロングヘアが一際目を引く。
雛菜「は~い!」
明音「B組の相楽さんだよね?」
エミ「はいは~い!」
明音「由紀恵ちゃんと奈央ちゃん((原作では明音は奈央のことを「見吉さん」と呼ぶ(『聖櫻学園劇場』より)。))、一葉ちゃんも!」
由紀恵「やっぱり面倒見てもいいかな、と思って」
一葉「猫飼ってみたかったんだよね~!」
奈央「私も~。猫ちゃんコスで撮影したことがあって…」
「んにゃ」と猫耳と尻尾の付いたメイド服姿決めポーズする奈央(イメージ)。
由紀恵「それ、猫を飼う理由になってないわよ」
奈央「いいんじゃないかな~別に~」
明音「うん。みんな来てくれてありがとう。じゃあ、放課後に引き取りに来てね」
「待ちなさい!」
一同「?」
陽子が立っていた。
明音「月白先生!」
陽子「みんなちゃんとお家の方の了承は取ったの? 生き物を飼うということは、その命の責任を持つということですよ。途中で放り出したりできないんだから、ちゃんと自分に世話ができるかどうかよく考えて、ご家族と相談してから決めなさいね。それまでは、知り合いの動物病院で預かってもらうようにしたわ。ちゃんと責任感のある飼い主が見つかるまでね」
明音「先生…ありがとうございます。…じゃあみんな…」
一葉「?」
明音「一度お家の人と相談してみてくれる? その上で飼ってもいいってなったら教えて」
頷く5人。
一葉「分かった」
雛菜「相談してくるね」
由紀恵「ちゃんとしないとね」
奈央「だね」
明音「うん。よろしく」
何かに気づいた明音。
明音「…」
振り返り、廊下の向こうで覗いていた五十鈴に手を振ってみせる。
一同「?」
五十鈴「…」
気恥ずかしくなり、その場を立ち去る。
夜、櫻井家。
明音「不知火さん、心配してくれてたんだ…」
今日のことを振り返り、眠りにつく。
翌日、2-C教室。
一葉「…」
奈央「…」
由紀恵「…」
3人共、気重な表情で明音の前にいる。
明音「あ…お家の人に『ダメ』って言われちゃった?」
一葉「いや…ダメじゃないんだけど、条件が…」
明音「条件?」
一葉「今度の中間テストで、全科目平均点を越えたら飼ってもいいって…」
奈央「実はうちも同じような感じなんだ~」
明音「え?」
奈央「私、モデルのお仕事してるでしょ?」
モデルとしての奈央の仕事風景、そしてグラビアを飾る彼女の写真(イメージ)。
奈央「ただでさえ、勉強が疎かになりがちだから~って」
一葉「わたしも毎日、柔道一直線だから…」
「どりゃああああ!!!」と、絶叫と共に豪快に投げを決める一葉(イメージ)。
由紀恵「つまり要約すると、この2人は部活やバイトが忙しくて、あまり勉強していない。なので、テストはいつも平均点以下。猫を飼いたいんなら、成績を上げなさいってことね」
奈央&一葉「…」
落胆する。
明音「…えっと…じゃあ他の人を探すね」
由紀恵「…賢明な判断ね。なにしろ熊田さんも見吉さんも、成績は学年で…底辺」
一葉&奈央「うっ!!」
由紀恵「どん底」
一葉&奈央「ぐふっ!!」
由紀恵「最下層」
一葉&奈央「ぐえっ!!」
由紀恵が発する度に一葉と奈央に「底辺」「どん底」「最下層」の文字がのしかかる。
奈央「そこまでじゃないわよ~!!」
一葉「そうだそうだ!! 最下位じゃないぞー!!」
明音「…」
由紀恵「うちは平気だったけど、1匹しかダメそうなの。新垣さんと相楽さんが2匹ずつもらってくれれば、問題解決なんだけど…」
一葉「えっと…委員長んちに1匹、新垣さん相楽さんちに2匹…ちょうど5匹」
指を使わないと計算できないようだ。
由紀恵「それも指折り確認しないとダメ?」
一葉「…なは…」
その後、明音は2-Aを訪れた。
雛菜「実は私も、中間テストで成績が上がったら…」
続けて2-Bへ。
エミ「飼っていいって言われちゃって…」
そして2-Cに戻り…。
明音「…何でみんな揃ってそんな条件が…」
由紀恵「仕方無いわね」
明音「?」
由紀恵「テスト前だもの」
明音「…はぁ…」
由紀恵「もう一度、放送で呼びかけてみたらどうかしら」
明音「…そうだね…」
昼休み。明音は放送室の鍵を開ける。
明音「でね、もう一度呼びかけてみようかなって…」
知「うん」
「明音ちゃん!!」
明音&知「?」
一葉たちが駆けてくる。
一葉「わたしたち、やっぱり猫飼いたいんだ!」
奈央「責任持ってお世話するから!」
雛菜「だから!」
エミ「試験勉強がんばるよ!」
明音「よし。じゃあ、みんなで一緒に試験勉強しよっか!」
知「あと3日しかないけどね…」
「任せて!」
明音&知「?」
由紀恵も来た。
由紀恵「私がビシビシ指導してあげるわ! 全員放課後、図書室に集合よ!」
放課後、図書室。
明音と由紀恵は一葉たちの来るのを待っていた。しかし…。
明音「みんな来ないね…」
由紀恵「何やってるの。もう…」
一葉はとある道場で、年下の女の子相手に稽古をつけていた。
女の子「えいっ! えいっ! えいっ! …」
一葉「もっと間合い詰めて!!」
雛菜は、とある家でおばさんの髪をセットしていた。
雛菜「チャキーンと! 素敵に仕上げますね。」
エミは、店の前でディアボロを披露。
エミ「ていっ! ていっ! ていやぁぁっ!!」
そして奈央もモデルの仕事中。
奈央「うふっ…」
明音のスマホに来ていた奈央からのメール。
|奈央|
|ごめ~ん&br()急に先輩の代わりに雑誌の&br()撮影にいかなきゃいけなく&br()なっちゃった~(;´д`人)|
明音「はぁ…」
由紀恵「みんな、連絡ついた?」
明音「ついた、けど…一葉ちゃんは知り合いに頼まれて道場で代稽古、新垣さんは、近所のおばあちゃんが同窓会に出るから髪の毛セットしてあげてて、相楽さんは、お客さんの集まりがいまいちなお店にお願いされて大道芸、奈央ちゃんは、風邪で倒れた事務所の先輩の代わりにモデルの仕事だって」
由紀恵「試験勉強する話はどこに行ったの?」
明音「でも、みんな優しいんだね。困ってる人を放っておけないのかも」
由紀恵「…」
咳払いする。
由紀恵「仕方無い。試験勉強は明日からにしましょうか」
明音「うん」
翌日の放課後も、明音と由紀恵は図書室で一葉たちを待ったが…。
明音「…今日も来ないね…」
由紀恵「みんな何してるの…」
メールを確認する明音。
明音「一葉ちゃんは、知り合いの道場の修理を手伝ってて…」
破れた壁に板を張って釘を打ちこんでいる。
明音「奈央ちゃんは、先輩が今日も体調が悪くて…」
昨日と変わらず撮影に大忙し。
明音「相楽さんは、町内会のお祭りでどうしてもって頼まれて…」
お手玉を披露する。
明音「新垣さんは、知り合いの女の子が久しぶりにおじいちゃんおばあちゃんに会うからおしゃれしたいってお願いされた、って…」
雛菜にメイクしてもらい、女の子は上機嫌。
由紀恵「みんな、成績が悪い理由、分かった気がする」
明音「テストまで、あと1日しかないんだけど…」
由紀恵「こうなったら…大一夜漬け勉強会をします!!」
それから…。
一葉「大…」
奈央「一夜…」
雛菜「漬け…」
エミ「弁当会!?」
木の下で輪になって弁当を食べる6人(イメージ)。
由紀恵「勉強会!!」
明音「お泊りして、みんな一緒に勉強しようって由紀恵ちゃんが…」
一葉「お、試験明日だもんね」
奈央「いいけど、どこで~?」
由紀恵「この中の誰かの家でって思ってるんだけど…」
明音「誰か、泊まらせてもらえる?」
雛菜「うち、そんなに広くないし…」
エミ「うちもだよ」
奈央&一葉「…」
揃って首を縦に振る。
「それなら、うちに来るといい」
一同「?」
振り返ると五十鈴がいる。
明音「不知火さん!」
・
・
・
そして、6人は不知火家に着いた。
明音「はぁ…立派なお家だね…」
正門を開けて現れた五十鈴に驚く一同。
明音「お人形さんみたい!」
奈央「着こなしもいいよ~、バッチリ!」
雛菜「黒髪によく似合ってる!」
褒め倒されて赤面する五十鈴。
五十鈴「…いいから中に入れ」
五十鈴に案内され、明音たちは廊下を行く。
明音「お庭も素敵だね」
エミ「お花がいっぱ~い!」
五十鈴「うちは代々華道を教えていてな…」
明音「あ、それでなんだ…」
適当な部屋に着いたところで五十鈴が足を止める。
五十鈴「ここを使うといい」
立派な和室に驚く明音たち。
明音「ありがとう不知火さん」
由紀恵「じゃあ始めましょうか」
各々が準備をする。
由紀恵「では、私が試験範囲の中から、テストに出そうなところをまとめてきたから、とにかくこれを全部覚えること!」
明音「凄い由紀恵ちゃん!」
奈央「さっすが委員長だよ~」
一葉「分かった!」
エミ「がんばる!」
雛菜「うんうん、やるよー!!」
「失礼するぞ」
一同「?」
五十鈴がお茶を持って入ってきた。
明音「あ、ありがとう」
由紀恵「そんなに気を遣わなくても…」
一同大喜び。
一葉「やったー!!」
五十鈴「…別に君らのためでは無い…」
照れ臭そうに言う。
明音「その花は?」
五十鈴「床の間の花を生け替える」
明音「綺麗だね」
雛菜「それって何の花なの?」
五十鈴「山茶花だ。花言葉は…"困難に打ち勝つ"」
由紀恵「今の私たちにピッタリね…さあ」
勉強開始…どころか、明音と由紀恵以外がお菓子を食べている。
一葉「おいしいな、このお饅頭…」
奈央「まずいな~、今はこの体型維持しなきゃいけないもん…」
由紀恵「…午後のお茶会じゃないんだからぁ!!」
雛菜「八束さんも食べようよ~」
エミが由紀恵に饅頭とお茶を差し出す。
エミ「ほいどうそ」
ため息の後、由紀恵は饅頭を一口。
由紀恵「…おいしい!」
エミ「でしょ」
由紀恵「ほんと? …あ、危ない危ない。私まで、あなたたちのペースに巻き込まれるところだったわ…じゃあまずは…」
エミ「ほーい!!」
由紀恵「?」
エミ「まずは自己紹介から始めたらどうかな?」
明音「そうだね。クラスも違ったりするし」
由紀恵「…じゃあ手早く済ませるわよ。八束由紀恵。C組の学級委員をしてるわ」
奈央「すご~い」
エミ「よっ、委員長!!」
次に一葉が手を上げる。
一葉「わたしも同じく、C組熊田一葉。柔道部に所属してる」
雛菜「かっこいいね」
エミ「柔道~、にっぽーん!!」
奈央「私も、C組の見吉奈央。帰宅部~、でも、ちょっとモデルもやってるよ~」
エミ「おお~」
雛菜「それでスタイル良いんだよ」
エミ「はっとーしーん!」
由紀恵「いちいちリアクションしなくていいのよ」
エミ「えへ…」
雛菜「私はA組の新垣雛菜。ヘアスタイルをアレンジするのが大好きなの」
髪をかき上げる。
茫然と見とれる一同。
エミ「はーい!! B組の相楽エミ。大道芸研究会なんだよ」
一葉「大道芸?」
雛菜「どんなの?」
エミ「例えば…ジャグリングとか」
手元にある饅頭でお手玉を始める。
一葉「うっほ~!」
由紀恵「食べ物をそんな風に扱わないの!」
慌てて饅頭を仕舞う。
エミ「ごめんなさい…」
一同が苦笑。
明音「…じゃあ不知火さんも…」
五十鈴「え?」
照れて顔を背けてしまう。
五十鈴「不知火、五十鈴だ…」
明音「えっと…新垣さんと同じ、A組なんだよね? 今日はお家を使わせてくれてありがとう。最後になりましたが、私は放送委員の…」
エミ「櫻井明音さん」
明音「?」
エミ「お昼の放送、いつも聴いてるよ」
明音「ありがとう!」
由紀恵「じゃあ…勉強しましょうか」
五十鈴が立つ。
明音「あ、不知火さんも良かったら、一緒に勉強しない?
五十鈴「夕食の支度をしてくる」
明音「え?」
五十鈴「母も祖母も、お華の稽古で遅くてな…今日は私が用意しないと…」
厨房。
明音たちも揃って五十鈴を手伝っている。
一葉「今夜は栗ご飯か~」
エミ「秋らしくていいね~」
エミ・由紀恵・一葉、五十鈴と雛菜、明音と奈央とに分かれて食材の下ごしらえをしている。
由紀恵「また手間のかかるものを…」
明音「後は、カボチャの煮物と焼き魚と湯豆腐だっけ」
五十鈴「ああ」
明音「…よ~し!」
カボチャに包丁を当てた瞬間…。
雛菜「あ、私、切るの得意だから。任せて」
明音「?」
奈央「切るの得意なのは、髪の毛じゃないの?」
格好をつけて誤魔化す雛菜。
由紀恵「まだ全然勉強してないんだけど…」
一葉「食べ終わったら集中してやろう!」
そして、夕食が終わる。
それぞれ手を合わせて…。
一同「ごちそうさまでした~!!」
1人で食器を運ぼうとする五十鈴。
明音「…あ、手伝うよ」
五十鈴「きみらは勉強が…」
雛菜「みんなでチョキーン! っとやればすぐ終わるから!」
一葉「そうそう!」
五十鈴「…?」
・
・
・
明音がスマホを確認。
明音「え~、9時になっちゃいました…」
由紀恵「も~、今日は寝られないわね」
一葉「分かってる!」
奈央「覚悟してるよ~。肌に悪そうだけど…」
雛菜「徹夜か~」
エミ「あ、じゃあ買出し行かない? 飲み物とかお菓子とか」
一葉「そうだね! 腹が減っては戦はできぬ!」
由紀恵「買出しって…今食べたばかりじゃない!」
雛菜「でも遅くから外出するのも危ないし…」
明音「…よし。不知火さんにも何かお礼の物買ってきますか!」
由紀恵「…」
一同が賛成の声をあげる中、呆れる由紀恵。
そして、6人はコンビニに出かけた。
由紀恵「きっかり5分で買い物済ませないさいよ!」
一葉「分かったー!」
エミ&雛菜「うん!」
奈央「ミネラルウォーター、っと…」
雛菜「ポテチは欲しいかな~」
エミ「みんな、あと4分だよー」
明音「えへへ…あ、これ好きなんだ~」
目に留まった"たけのこの林"を取ろうとすると…。
「そりゃダメだー!!」
明音「え?」
引き止めたのは2-Cの引きこもり少女、&ruby(ひめじま){姫島}&ruby(きのこ){木乃子}。
ゲームとアニメをこよなく愛する典型的なオタクで、学校を何かにつけてサボり、来ても寝てばかり。
菌類を自称し、"しめじ"を自分の本名と言い張っている((公式の解説によると、クラスの大半が彼女の本名を忘れてしまっている、とのこと。))。
明音「姫島さん!」
木乃子「そこは"きのこの森"だろ? 常識的に考えて!」((きのこの森・たけのこの林は、それぞれ木乃子の好きな食べ物と嫌いな食べ物。))
明音「おお…姫島さんの名前、&ruby(・・・){きのこ}だから?」
木乃子「空気は読まんといかんぞ~」
明音「…」
木乃子は陳列されたきのこの森全部を明音の買い物カゴに放り込む。
明音「え…?」
木乃子「よし!」
明音「こんなに食べないから…」
外でイライラしながら待つ由紀恵。しばらくしてドアが開く。
由紀恵「?」
明音たちと木乃子が一斉に出てくる。
由紀恵「結局30分もかかったじゃない!!」
明音「…戻ろっか」
由紀恵「…」
6人に木乃子が加わり、駄弁りながら不知火家に戻っていく。
しかし空模様は崩れてきており、いつ雨が降ってきてもおかしくない状態だった。
明音「…?」
案の定、雨が降り出す。
そして、7人は雨宿りしていた。
明音「あ~もう寒い…」
奈央「こんなに降るなんて…」
雛菜「びしょ濡れ~!」
一葉「止まないかなぁ…」
7人は銭湯の玄関にいた。
明音「…? ここって…」
由紀恵・エミ・奈央・一葉・雛菜・木乃子「?」
明音が振り返って、7人はそこが銭湯であると気づいた。
そして、女湯にて…。
エミ「気持ちいぃ~!」
雛菜「良かったね~」
由紀恵「私、銭湯って初めてだわ」
一葉「おお祝・初銭湯!」
奈央「上がるまでに服乾くかなぁ…」
明音「乾燥機にかけてるから、大丈夫じゃないかな。姫島さんが見ててくれてるけど…『お風呂嫌いだから』って、いいのかな…」
木乃子は乾燥機の前で漫画を読みふけっていた。
そして再び不知火家。
木乃子も6人にすっかり馴染んでいた。
明音「着替えなくていいの? 姫島さん」
木乃子「…着替えるのめんどくさいんじゃ~」
由紀恵「って言うか何であなたまで!」
木乃子「まあまあ、食べなはれ食べなはれ~」
それまで1人で食べていたきのこの森を由紀恵に差し出す。
由紀恵「…」
きのこの森を1つまみ。
由紀恵「…これで、やっと遂に! ようやく勉強が始められるわね」
一時的な沈黙の後、落雷の音がし驚く一同。
更に停電で騒ぎが大きくなる。
「みんなが集まったその雨上がりの夜…ヒタヒタと何かがやって来た…」
場の雰囲気に乗じて、木乃子が突然怪談話を始める。
明音「え? 何?」
雛菜「やめてよ~!」
木乃子「なぜか部屋の畳が濡れている…」
興味津々なエミ。
奈央「怖い怖い~!」
一葉「あははは…」
木乃子「ふと見ると、いつの間にか部屋の中にいたのは…」
由紀恵「誰よー!?」
木乃子「長~い髪の…」
誰かが障子を開ける。
木乃子「女の霊!!」
五十鈴が懐中電灯片手に入ってきた。
一同絶叫。一葉だけが爆笑。
明音「…?」
顔を伏せていた明音が正面を見ると…。
明音「…不知火さん!」
五十鈴「悲鳴が聞こえたのだが…」
明かりを付け直す。
木乃子「やは…ちょっと怪談話をしてただけでな…」
由紀恵「しなくていいから!!」
一葉「続き聞かせてよ~!」
木乃子「その女の霊は…」
エミ「どうしたの?」
奈央「やめて~!!」
五十鈴「随分と楽しそうだな…」
奈央「別に怖い訳じゃないんだけど…」
明音「あ、不知火さんも着替えたんだね」
奈央「可愛いね、それ」
五十鈴がしている猫の柄のついた腹巻に一言。
五十鈴「…お腹を壊しやすいので、母がして寝ろと…」
明音「あ、猫の絵…」
由紀恵と一葉、そして他の子たちも注目。そして…。
明音「…勉強しよっか」
一葉「うん」
雛菜「あのにゃんこたちのために!」
エミ「頑張らないとね」
奈央「うん」
五十鈴「私も手伝おう。判らないことがあったら、訊いてくれ」
雛菜「不知火さん、A組でトップなんだよ」
明音「そうなんだ。凄い!」
由紀恵「さあ、朝までがんばるわよ!」
木乃子「んじゃああたしは、これで…」
一同「帰るの!?」
夜も更け、ようやく勉強に入れた。
誰もが何のトラブルも無く勉強に励み…そして消灯。
その後、明音だけが机に突っ伏し、各々が畳の上で熟睡していた。
しばらくして、明音が真っ先に目を覚まして周りを見回す。
明音「みんな猫みたい…」
どこからともなく鋏の音が聞こえてくる。
明音「?」
音に誘われて明音が廊下に出ると、五十鈴が庭木の手入れをしている。
明音「不知火さん!」
振り返る五十鈴。
明音「そのお花って、生けるの?」
五十鈴「ああ」
明音「ごめんね。遅くまで付き合ってもらって。すっかり迷惑かけちゃった…」
五十鈴「…結構楽しかったぞ」
照れ臭そうに言う。
明音「ほんと!? 良かった~!」
明音が満面の笑顔を見せた瞬間、朝日が差し込む。
五十鈴「…」
・
・
・
テストが終わったその日の放課後。
明音「みんな成績アップして良かったね」
一葉「結局平均点には届かなかったけどね…」
奈央「前回よりは大分良くなったから」
うちの1匹が鳴く。
エミ「可愛い~!」
雛菜「今日から一緒だよ!」
明音「今度は、この子たちも一緒にお泊り会ができるといいね」
由紀恵・一葉・奈央・エミ・雛菜「うん!」
由紀恵「みんな、名前何て付ける?」
五十鈴「もう付けてある」
由紀恵・一葉・奈央・エミ・雛菜「?」
五十鈴「最初に見つけた時に。キキョウ、アザミ、エリカ、ナデシコ、ダリア((それぞれ飼い主は由紀恵、一葉、雛菜、エミ、奈央。))」
明音「えへへ…」
喜ぶ明音の隣で、五十鈴も笑う。
#center(){&bold(){<続く>}}
朝。櫻井家のあるマンション。
鼻唄混じりで身支度をする明音。
明音「…ん~、中々決まらないなぁ…」
髪のセットが思ったように決まらない。
彼女はマイゴールデンポイントを日夜研究するほどポニーテールに強いこだわりを持ち、毎日のセットにも余念が無い。そのため登校が遅れることも。
明音「?」
時計が8時10分を指す。
明音「はぁぁっ!? もう行かなきゃ…」
切り上げて、急いで部屋を出ようとするが…。
明音「!」
忘れ物に気付いて再び鏡台の前へ。
前髪にヘアピンを飾り、セットもバッチリ決まって上機嫌。
そして消灯し部屋を出て…。
明音「行ってきまーす!!」
・
・
・
息せき学校を目指す明音。
明音「…?」
道端に誰かがうずくまっているのを見つけた。
明音「あれ…」
同じ聖櫻学園の生徒のようだ。
明音「どうしたの? 気分でも悪いの?」
「そういう訳では無いのだが…」
振り返ったのは五十鈴。
明音「(あれ? いい匂い…花の香り?)」
どこからか猫の鳴き声が聞こえてきた。
明音「? 今、『みゃあ』って鳴いた?」
五十鈴「私が鳴く訳無いだろ…」
明音「あ、そっか。そうだよね」
五十鈴「鳴き声の主は…」
明音「?」
茂みの中に、ダンボールに入った5匹の子猫がいる。
五十鈴「この子らだ」
明音「あぁ…可愛い…」
途端に表情が曇る。
明音「捨てられちゃったのかな…」
五十鈴「…」
子猫たちのうち1匹の喉元をさすっている。
明音「飼ってあげたいけど…うちのマンション、ペット禁止なんだよね…」
五十鈴「うちも無理でな…」
明音「…そうだ! いい事思いついた!」
五十鈴「?」
明音「任せておいて。あ…私、2年C組櫻井明音。あなたも2年生だよね?」
五十鈴「…ああ。A組の不知火五十鈴だ。その気があれば覚えておいてくれ」
明音「うん。よろしくね。不知火さん」
子猫たちが嬉しそうに鳴く。
#center(){
&size(18){&bold(){&color(#ff3399){「猫と雨の夜」}}}
}
2-C教室。
子猫を持ってきていた明音の前に人だかりができている。
「か、可愛いなぁ…!」
可愛さに感嘆の声をあげる一葉。
続けて奈央も…。
奈央「本当だにゃ~」
一葉「見吉さんまで猫になってるけど?」
奈央「ありゃ?」
&ruby(やつか){八束}&ruby(ゆきえ){由紀恵}が席を立つ。
彼女は2-Cのクラス委員でありながら、時々生徒会を手伝うこともある。PCやスマホは普通に扱えるが、趣味の文通は手書きでする。
由紀恵「ちょっとみんな! 席に戻って!! 授業始まるわよ!!」
落胆する明音、そして子猫を見に来た女生徒たち((一葉と奈央の他は伊勢崎郁歩、桐山優月、早見英子、東雲レイ、遠山未涼。))。
由紀恵「猫たちが休めないじゃない…」
&ruby(つきしろ){月白}&ruby(ようこ){陽子}が入ってくる。
2-C担任で英語を手がける女性教師。校内では真面目で堅物だが、メイクを落とせば柔和な素顔を見せる。
酒が苦手にもかかわらず、一方的に同僚教師たちから飲みに誘われている((尚、英語研究会の顧問でもある。))。
陽子「どうしたの?」
子猫に目が留まる。
陽子「それは…」
明音「にゃんこズです」
陽子「それは分かってます。どうして一緒に登校してきたのか、っていうことよ」
五十鈴が様子を見に来た。
明音「あの…もらってくれる人を募集しようと思って…」
陽子「だからと言って学校に連れてくるのはどうなの?」
明音「すみません…」
陽子「はぁ…仕方ないわね。今日1日だけ、職員室で預ります。私も先生たちに聞いてみるけど、責任持って引き取れる人を探しなさいね」
明音「ありがとうございます!」
陽子の背後で覗いている五十鈴に、明音はウインクでサインを送る。
五十鈴「…」
五十鈴に気づいて振り返る陽子。
一同「?」
五十鈴「…」
職員室。
陽子は子猫のダンボールを隅に置いて眺めていた。
陽子「うふ…生徒たちよりは、手が掛からないかも…」
子猫たちは、気持ちよさそうに眠っている。
2-C教室。
由紀恵「それで、どうやって飼い主を見つけるつもりなの? 悪いけどうちは無理よ」
奈央「飼いたいけどにゃ~」
一葉「全部で5匹いたもんな…」
明音「うん。だから…」
そして昼休み。
明音「ハ~イ! 本日も、お昼の放送の時間です! 今日も、2年C組櫻井明音が担当させて頂きます! そして、本日のゲストは! 5匹の子猫ちゃ~ん!!」
そのうち1匹が、明音が近付けたマイクにじゃれる。
明音「たちで~す!」
知「みんな可愛いにゃ~」
裏方の知も子猫に夢中。
明音「…この子猫ちゃんたちを、引き取って下さる方、募集中です。1匹でも、5匹一緒でも、にゃんこちゃんを飼いたいという方は、放送室まで来て下さいね。よろしくお願いします!」
放送を聴いた一部の女生徒が反応を示す。
2-A教室では&ruby(にいがき){新垣}&ruby(ひな){雛菜}が、外ではエミが、そして2-Cでも。
放送終了後、明音と知が廊下に出ると…。
明音「? あ…!」
知「お~、ピッタリ5人だね~」
明音「A組の新垣さんに…」
新垣雛菜。実家は美容院で、母に憧れ美容師を志望している。
右半分が紫で左半分がピンクという、奇抜な色のストレートロングヘアが一際目を引く。
雛菜「は~い!」
明音「B組の相楽さんだよね?」
エミ「はいは~い!」
明音「由紀恵ちゃんと奈央ちゃん((原作では明音は奈央のことを「見吉さん」と呼ぶ(『聖櫻学園劇場』より)。))、一葉ちゃんも!」
由紀恵「やっぱり面倒見てもいいかな、と思って」
一葉「猫飼ってみたかったんだよね~!」
奈央「私も~。猫ちゃんコスで撮影したことがあって…」
「んにゃ」と猫耳と尻尾の付いたメイド服姿決めポーズする奈央(イメージ)。
由紀恵「それ、猫を飼う理由になってないわよ」
奈央「いいんじゃないかな~別に~」
明音「うん。みんな来てくれてありがとう。じゃあ、放課後に引き取りに来てね」
「待ちなさい!」
一同「?」
陽子が立っていた。
明音「月白先生!」
陽子「みんなちゃんとお家の方の了承は取ったの? 生き物を飼うということは、その命の責任を持つということですよ。途中で放り出したりできないんだから、ちゃんと自分に世話ができるかどうかよく考えて、ご家族と相談してから決めなさいね。それまでは、知り合いの動物病院で預かってもらうようにしたわ。ちゃんと責任感のある飼い主が見つかるまでね」
明音「先生…ありがとうございます。…じゃあみんな…」
一葉「?」
明音「一度お家の人と相談してみてくれる? その上で飼ってもいいってなったら教えて」
頷く5人。
一葉「分かった」
雛菜「相談してくるね」
由紀恵「ちゃんとしないとね」
奈央「だね」
明音「うん。よろしく」
何かに気づいた明音。
明音「…」
振り返り、廊下の向こうで覗いていた五十鈴に手を振ってみせる。
一同「?」
五十鈴「…」
気恥ずかしくなり、その場を立ち去る。
夜、櫻井家。
明音「不知火さん、心配してくれてたんだ…」
今日のことを振り返り、眠りにつく。
翌日、2-C教室。
一葉「…」
奈央「…」
由紀恵「…」
3人共、気重な表情で明音の前にいる。
明音「あ…お家の人に『ダメ』って言われちゃった?」
一葉「いや…ダメじゃないんだけど、条件が…」
明音「条件?」
一葉「今度の中間テストで、全科目平均点を越えたら飼ってもいいって…」
奈央「実はうちも同じような感じなんだ~」
明音「え?」
奈央「私、モデルのお仕事してるでしょ?」
モデルとしての奈央の仕事風景、そしてグラビアを飾る彼女の写真(イメージ)。
奈央「ただでさえ、勉強が疎かになりがちだから~って」
一葉「わたしも毎日、柔道一直線だから…」
「どりゃああああ!!!」と、絶叫と共に豪快に投げを決める一葉(イメージ)。
由紀恵「つまり要約すると、この2人は部活やバイトが忙しくて、あまり勉強していない。なので、テストはいつも平均点以下。猫を飼いたいんなら、成績を上げなさいってことね」
奈央&一葉「…」
落胆する。
明音「…えっと…じゃあ他の人を探すね」
由紀恵「…賢明な判断ね。なにしろ熊田さんも見吉さんも、成績は学年で…底辺」
一葉&奈央「うっ!!」
由紀恵「どん底」
一葉&奈央「ぐふっ!!」
由紀恵「最下層」
一葉&奈央「ぐえっ!!」
由紀恵が発する度に一葉と奈央に「底辺」「どん底」「最下層」の文字がのしかかる。
奈央「そこまでじゃないわよ~!!」
一葉「そうだそうだ!! 最下位じゃないぞー!!」
明音「…」
由紀恵「うちは平気だったけど、1匹しかダメそうなの。新垣さんと相楽さんが2匹ずつもらってくれれば、問題解決なんだけど…」
一葉「えっと…委員長んちに1匹、新垣さん相楽さんちに2匹…ちょうど5匹」
指を使わないと計算できないようだ。
由紀恵「それも指折り確認しないとダメ?」
一葉「…なは…」
その後、明音は2-Aを訪れた。
雛菜「実は私も、中間テストで成績が上がったら…」
続けて2-Bへ。
エミ「飼っていいって言われちゃって…」
そして2-Cに戻り…。
明音「…何でみんな揃ってそんな条件が…」
由紀恵「仕方無いわね」
明音「?」
由紀恵「テスト前だもの」
明音「…はぁ…」
由紀恵「もう一度、放送で呼びかけてみたらどうかしら」
明音「…そうだね…」
昼休み。明音は放送室の鍵を開ける。
明音「でね、もう一度呼びかけてみようかなって…」
知「うん」
「明音ちゃん!!」
明音&知「?」
一葉たちが駆けてくる。
一葉「わたしたち、やっぱり猫飼いたいんだ!」
奈央「責任持ってお世話するから!」
雛菜「だから!」
エミ「試験勉強がんばるよ!」
明音「よし。じゃあ、みんなで一緒に試験勉強しよっか!」
知「あと3日しかないけどね…」
「任せて!」
明音&知「?」
由紀恵も来た。
由紀恵「私がビシビシ指導してあげるわ! 全員放課後、図書室に集合よ!」
放課後、図書室。
明音と由紀恵は一葉たちの来るのを待っていた。しかし…。
明音「みんな来ないね…」
由紀恵「何やってるの。もう…」
一葉はとある道場で、年下の女の子相手に稽古をつけていた。
女の子「えいっ! えいっ! えいっ! …」
一葉「もっと間合い詰めて!!」
雛菜は、とある家でおばさんの髪をセットしていた。
雛菜「チャキーンと! 素敵に仕上げますね。」
エミは、店の前でディアボロを披露。
エミ「ていっ! ていっ! ていやぁぁっ!!」
そして奈央もモデルの仕事中。
奈央「うふっ…」
明音のスマホに来ていた奈央からのメール。
|奈央|
|ごめ~ん&br()急に先輩の代わりに雑誌の&br()撮影にいかなきゃいけなく&br()なっちゃった~(;´д`人)|
明音「はぁ…」
由紀恵「みんな、連絡ついた?」
明音「ついた、けど…一葉ちゃんは知り合いに頼まれて道場で代稽古、新垣さんは、近所のおばあちゃんが同窓会に出るから髪の毛セットしてあげてて、相楽さんは、お客さんの集まりがいまいちなお店にお願いされて大道芸、奈央ちゃんは、風邪で倒れた事務所の先輩の代わりにモデルの仕事だって」
由紀恵「試験勉強する話はどこに行ったの?」
明音「でも、みんな優しいんだね。困ってる人を放っておけないのかも」
由紀恵「…」
咳払いする。
由紀恵「仕方無い。試験勉強は明日からにしましょうか」
明音「うん」
翌日の放課後も、明音と由紀恵は図書室で一葉たちを待ったが…。
明音「…今日も来ないね…」
由紀恵「みんな何してるの…」
メールを確認する明音。
明音「一葉ちゃんは、知り合いの道場の修理を手伝ってて…」
破れた壁に板を張って釘を打ちこんでいる。
明音「奈央ちゃんは、先輩が今日も体調が悪くて…」
昨日と変わらず撮影に大忙し。
明音「相楽さんは、町内会のお祭りでどうしてもって頼まれて…」
お手玉を披露する。
明音「新垣さんは、知り合いの女の子が久しぶりにおじいちゃんおばあちゃんに会うからおしゃれしたいってお願いされた、って…」
雛菜にメイクしてもらい、女の子は上機嫌。
由紀恵「みんな、成績が悪い理由、分かった気がする」
明音「テストまで、あと1日しかないんだけど…」
由紀恵「こうなったら…大一夜漬け勉強会をします!!」
それから…。
一葉「大…」
奈央「一夜…」
雛菜「漬け…」
エミ「弁当会!?」
木の下で輪になって弁当を食べる6人(イメージ)。
由紀恵「勉強会!!」
明音「お泊りして、みんな一緒に勉強しようって由紀恵ちゃんが…」
一葉「お、試験明日だもんね」
奈央「いいけど、どこで~?」
由紀恵「この中の誰かの家でって思ってるんだけど…」
明音「誰か、泊まらせてもらえる?」
雛菜「うち、そんなに広くないし…」
エミ「うちもだよ」
奈央&一葉「…」
揃って首を縦に振る。
「それなら、うちに来るといい」
一同「?」
振り返ると五十鈴がいる。
明音「不知火さん!」
・
・
・
そして、6人は不知火家に着いた。
明音「はぁ…立派なお家だね…」
正門を開けて現れた五十鈴に驚く一同。
明音「お人形さんみたい!」
奈央「着こなしもいいよ~、バッチリ!」
雛菜「黒髪によく似合ってる!」
褒め倒されて赤面する五十鈴。
五十鈴「…いいから中に入れ」
五十鈴に案内され、明音たちは廊下を行く。
明音「お庭も素敵だね」
エミ「お花がいっぱ~い!」
五十鈴「うちは代々華道を教えていてな…」
明音「あ、それでなんだ…」
適当な部屋に着いたところで五十鈴が足を止める。
五十鈴「ここを使うといい」
立派な和室に驚く明音たち。
明音「ありがとう不知火さん」
由紀恵「じゃあ始めましょうか」
各々が準備をする。
由紀恵「では、私が試験範囲の中から、テストに出そうなところをまとめてきたから、とにかくこれを全部覚えること!」
明音「凄い由紀恵ちゃん!」
奈央「さっすが委員長だよ~」
一葉「分かった!」
エミ「がんばる!」
雛菜「うんうん、やるよー!!」
「失礼するぞ」
一同「?」
五十鈴がお茶を持って入ってきた。
明音「あ、ありがとう」
由紀恵「そんなに気を遣わなくても…」
一同大喜び。
一葉「やったー!!」
五十鈴「…別に君らのためでは無い…」
照れ臭そうに言う。
明音「その花は?」
五十鈴「床の間の花を生け替える」
明音「綺麗だね」
雛菜「それって何の花なの?」
五十鈴「山茶花だ。花言葉は…"困難に打ち勝つ"」
由紀恵「今の私たちにピッタリね…さあ」
勉強開始…どころか、明音と由紀恵以外がお菓子を食べている。
一葉「おいしいな、このお饅頭…」
奈央「まずいな~、今はこの体型維持しなきゃいけないもん…」
由紀恵「…午後のお茶会じゃないんだからぁ!!」
雛菜「八束さんも食べようよ~」
エミが由紀恵に饅頭とお茶を差し出す。
エミ「ほいどうそ」
ため息の後、由紀恵は饅頭を一口。
由紀恵「…おいしい!」
エミ「でしょ」
由紀恵「ほんと? …あ、危ない危ない。私まで、あなたたちのペースに巻き込まれるところだったわ…じゃあまずは…」
エミ「ほーい!!」
由紀恵「?」
エミ「まずは自己紹介から始めたらどうかな?」
明音「そうだね。クラスも違ったりするし」
由紀恵「…じゃあ手早く済ませるわよ。八束由紀恵。C組の学級委員をしてるわ」
奈央「すご~い」
エミ「よっ、委員長!!」
次に一葉が手を上げる。
一葉「わたしも同じく、C組熊田一葉。柔道部に所属してる」
雛菜「かっこいいね」
エミ「柔道~、にっぽーん!!」
奈央「私も、C組の見吉奈央。帰宅部~、でも、ちょっとモデルもやってるよ~」
エミ「おお~」
雛菜「それでスタイル良いんだよ」
エミ「はっとーしーん!」
由紀恵「いちいちリアクションしなくていいのよ」
エミ「えへ…」
雛菜「私はA組の新垣雛菜。ヘアスタイルをアレンジするのが大好きなの」
髪をかき上げる。
茫然と見とれる一同。
エミ「はーい!! B組の相楽エミ。大道芸研究会なんだよ」
一葉「大道芸?」
雛菜「どんなの?」
エミ「例えば…ジャグリングとか」
手元にある饅頭でお手玉を始める。
一葉「うっほ~!」
由紀恵「食べ物をそんな風に扱わないの!」
エミ「お~ありゃりゃりゃ…」
慌てて饅頭を仕舞う。
エミ「ごめんなさい…」
一同が苦笑。
明音「…じゃあ不知火さんも…」
五十鈴「え?」
照れて顔を背けてしまう。
五十鈴「不知火、五十鈴だ…」
明音「えっと…新垣さんと同じ、A組なんだよね? 今日はお家を使わせてくれてありがとう。最後になりましたが、私は放送委員の…」
エミ「櫻井明音さん」
明音「?」
エミ「お昼の放送、いつも聴いてるよ」
明音「ありがとう!」
由紀恵「じゃあ…勉強しましょうか」
五十鈴が立つ。
明音「あ、不知火さんも良かったら、一緒に勉強しない?
五十鈴「夕食の支度をしてくる」
明音「え?」
五十鈴「母も祖母も、お華の稽古で遅くてな…今日は私が用意しないと…」
厨房。
明音たちも揃って五十鈴を手伝っている。
一葉「今夜は栗ご飯か~」
エミ「秋らしくていいね~」
エミ・由紀恵・一葉、五十鈴と雛菜、明音と奈央とに分かれて食材の下ごしらえをしている。
由紀恵「また手間のかかるものを…」
明音「後は、カボチャの煮物と焼き魚と湯豆腐だっけ」
五十鈴「ああ」
明音「…よ~し!」
カボチャに包丁を当てた瞬間…。
雛菜「あ、私、切るの得意だから。任せて」
明音「?」
奈央「切るの得意なのは、髪の毛じゃないの?」
格好をつけて誤魔化す雛菜。
由紀恵「まだ全然勉強してないんだけど…」
一葉「食べ終わったら集中してやろう!」
そして、夕食が終わる。
それぞれ手を合わせて…。
一同「ごちそうさまでした~!!」
1人で食器を運ぼうとする五十鈴。
明音「…あ、手伝うよ」
五十鈴「きみらは勉強が…」
雛菜「みんなでチョキーン! っとやればすぐ終わるから!」
一葉「そうそう!」
五十鈴「…?」
・
・
・
明音がスマホを確認。
明音「え~、9時になっちゃいました…」
由紀恵「も~、今日は寝られないわね」
一葉「分かってる!」
奈央「覚悟してるよ~。肌に悪そうだけど…」
雛菜「徹夜か~」
エミ「あ、じゃあ買出し行かない? 飲み物とかお菓子とか」
一葉「そうだね! 腹が減っては戦はできぬ!」
由紀恵「買出しって…今食べたばかりじゃない!」
雛菜「でも遅くから外出するのも危ないし…」
明音「…よし。不知火さんにも何かお礼の物買ってきますか!」
由紀恵「…」
一同が賛成の声をあげる中、呆れる由紀恵。
そして、6人はコンビニに出かけた。
由紀恵「きっかり5分で買い物済ませないさいよ!」
一葉「分かったー!」
エミ&雛菜「うん!」
奈央「ミネラルウォーター、っと…」
雛菜「ポテチは欲しいかな~」
エミ「みんな、あと4分だよー」
明音「えへへ…あ、これ好きなんだ~」
目に留まった"たけのこの林"を取ろうとすると…。
「そりゃダメだー!!」
明音「え?」
引き止めたのは2-Cの引きこもり少女、&ruby(ひめじま){姫島}&ruby(きのこ){木乃子}。
ゲームとアニメをこよなく愛する典型的なオタクで、学校を何かにつけてサボり、来ても寝てばかり。
菌類を自称し、"しめじ"を自分の本名と言い張っている((公式の解説によると、クラスの大半が彼女の本名を忘れてしまっている、とのこと。))。
明音「姫島さん!」
木乃子「そこは"きのこの森"だろ? 常識的に考えて!」((きのこの森・たけのこの林は、それぞれ木乃子の好きな食べ物と嫌いな食べ物。))
明音「おお…姫島さんの名前、&ruby(・・・){きのこ}だから?」
木乃子「空気は読まんといかんぞ~」
明音「…」
木乃子は陳列されたきのこの森全部を明音の買い物カゴに放り込む。
明音「え…?」
木乃子「よし!」
明音「こんなに食べないから…」
外でイライラしながら待つ由紀恵。しばらくしてドアが開く。
由紀恵「?」
明音たちと木乃子が一斉に出てくる。
由紀恵「結局30分もかかったじゃない!!」
明音「…戻ろっか」
由紀恵「…」
6人に木乃子が加わり、駄弁りながら不知火家に戻っていく。
しかし空模様は崩れてきており、いつ雨が降ってきてもおかしくない状態だった。
明音「…?」
案の定、雨が降り出す。
そして、7人は雨宿りしていた。
明音「あ~もう寒い…」
奈央「こんなに降るなんて…」
雛菜「びしょ濡れ~!」
一葉「止まないかなぁ…」
7人は銭湯の玄関にいた。
明音「…? ここって…」
由紀恵・エミ・奈央・一葉・雛菜・木乃子「?」
明音が振り返って、7人はそこが銭湯であると気づいた。
そして、女湯にて…。
エミ「気持ちいぃ~!」
雛菜「良かったね~」
由紀恵「私、銭湯って初めてだわ」
一葉「おお祝・初銭湯!」
奈央「上がるまでに服乾くかなぁ…」
明音「乾燥機にかけてるから、大丈夫じゃないかな。姫島さんが見ててくれてるけど…『お風呂嫌いだから』って、いいのかな…」
木乃子は乾燥機の前で漫画を読みふけっていた。
そして再び不知火家。
木乃子も6人にすっかり馴染んでいた。
明音「着替えなくていいの? 姫島さん」
木乃子「…着替えるのめんどくさいんじゃ~」
由紀恵「って言うか何であなたまで!」
木乃子「まあまあ、食べなはれ食べなはれ~」
それまで1人で食べていたきのこの森を由紀恵に差し出す。
由紀恵「…」
きのこの森を1つまみ。
由紀恵「…これで、やっと遂に! ようやく勉強が始められるわね」
一時的な沈黙の後、落雷の音がし驚く一同。
更に停電で騒ぎが大きくなる。
「みんなが集まったその雨上がりの夜…ヒタヒタと何かがやって来た…」
場の雰囲気に乗じて、木乃子が突然怪談話を始める。
明音「え? 何?」
雛菜「やめてよ~!」
木乃子「なぜか部屋の畳が濡れている…」
興味津々なエミ。
奈央「怖い怖い~!」
一葉「あははは…」
木乃子「ふと見ると、いつの間にか部屋の中にいたのは…」
由紀恵「誰よー!?」
木乃子「長~い髪の…」
誰かが障子を開ける。
木乃子「女の霊!!」
五十鈴が懐中電灯片手に入ってきた。
一同絶叫。一葉だけが爆笑。
明音「…?」
顔を伏せていた明音が正面を見ると…。
明音「…不知火さん!」
五十鈴「悲鳴が聞こえたのだが…」
明かりを付け直す。
木乃子「やは…ちょっと怪談話をしてただけでな…」
由紀恵「しなくていいから!!」
一葉「続き聞かせてよ~!」
木乃子「その女の霊は…」
エミ「どうしたの?」
奈央「やめて~!!」
五十鈴「随分と楽しそうだな…」
奈央「別に怖い訳じゃないんだけど…」
明音「あ、不知火さんも着替えたんだね」
奈央「可愛いね、それ」
五十鈴がしている猫の柄のついた腹巻に一言。
五十鈴「…お腹を壊しやすいので、母がして寝ろと…」
明音「あ、猫の絵…」
由紀恵と一葉、そして他の子たちも注目。そして…。
明音「…勉強しよっか」
一葉「うん」
雛菜「あのにゃんこたちのために!」
エミ「頑張らないとね」
奈央「うん」
五十鈴「私も手伝おう。判らないことがあったら、訊いてくれ」
雛菜「不知火さん、A組でトップなんだよ」
明音「そうなんだ。凄い!」
由紀恵「さあ、朝までがんばるわよ!」
木乃子「んじゃああたしは、これで…」
一同「帰るの!?」
夜も更け、ようやく勉強に入れた。
誰もが何のトラブルも無く勉強に励み…そして消灯。
その後、明音だけが机に突っ伏し、各々が畳の上で熟睡していた。
しばらくして、明音が真っ先に目を覚まして周りを見回す。
明音「みんな猫みたい…」
どこからともなく鋏の音が聞こえてくる。
明音「?」
音に誘われて明音が廊下に出ると、五十鈴が庭木の手入れをしている。
明音「不知火さん!」
振り返る五十鈴。
明音「そのお花って、生けるの?」
五十鈴「ああ」
明音「ごめんね。遅くまで付き合ってもらって。すっかり迷惑かけちゃった…」
五十鈴「…結構楽しかったぞ」
照れ臭そうに言う。
明音「ほんと!? 良かった~!」
明音が満面の笑顔を見せた瞬間、朝日が差し込む。
五十鈴「…」
・
・
・
テストが終わったその日の放課後。
明音「みんな成績アップして良かったね」
一葉「結局平均点には届かなかったけどね…」
奈央「前回よりは大分良くなったから」
うちの1匹が鳴く。
エミ「可愛い~!」
雛菜「今日から一緒だよ!」
明音「今度は、この子たちも一緒にお泊り会ができるといいね」
由紀恵・一葉・奈央・エミ・雛菜「うん!」
由紀恵「みんな、名前何て付ける?」
五十鈴「もう付けてある」
由紀恵・一葉・奈央・エミ・雛菜「?」
五十鈴「最初に見つけた時に。キキョウ、アザミ、エリカ、ナデシコ、ダリア((それぞれ飼い主は由紀恵、一葉、雛菜、エミ、奈央。))」
明音「えへへ…」
喜ぶ明音の隣で、五十鈴も笑う。
#center(){&bold(){<続く>}}