#center(){|CENTER:&br()動き出した。私と地球の&br()そしてあいつの、新しい時が──&br()&br()この星に命が生まれ、&br()いくつもの生物種が現れては消えた。&br()たとえ、もし人類が滅亡しようとも&br()地球は何事もく、&br()銀河を巡り続けることだろう。&br()人の歴史など、遥かな時の中では&br()瞬きほどの時間でもないのだから。&br()&br()「なら、どうして?&br()どうして、あなたは捜すの?&br()新しい時を…… どうして?」&br()&br()|} #center(){ |BGCOLOR(darkblue):COLOR(white):CENTER:&br()今&br()&br()こ の 星 の 上 に 生 き る&br()&br()奇&br()跡&br()&br()|} #center(){ |CENTER:&br()一つ。体は力みなく、&br()伸びやかに天地を貫き&br()二つ。心を鎮め、&br()大地に深く息を吐き&br()三つ。眼差しは遠く、&br()遥か無限を超えて──&br()&br()ある夏の暑い日、私は死んだ。&br()&br()そして見た。&br()この星の、死にかけた未来を……&br()&br()|} #center(){ |BGCOLOR(blue):COLOR(white):CENTER:&br()&big(){第&br()一&br()章}&br()&br()| |BGCOLOR(black):COLOR(yellow):CENTER:&br()&big(){&big(){&bold(){時 の し ず く}}}&br()&br()| } 高校の弓道部。 主人公・有吉&ruby(じゅな){樹奈}が弓を引き、的に狙いを定める。 樹奈 (四つ。的を射るのではなく、己と的を一つにせよ) 次第に手が震え、矢は的目がけて放たれるどころか、樹奈の足元に落ちる。 樹奈「あ……」 港。樹奈が恋人の大島時夫とともに、海を見つめる。 樹奈「やっぱり、向いてへんのかなぁ~? 『的を射るのではなく、己と的を一つにせよ』ゆうたかて……」 時夫「俺はお前と一つになりたいわぁ」 樹奈「……」 時夫「あ、ハハ! あんまり気ぃ落とすこと、ないで。樹奈。秋の大会かて、あるんやろ?」 樹奈「あ~ぁあ。『あんたみたいなお転婆者は、お茶でもお華でも習って、ちっとは落ち着かんかい』って、おかんが言いよるさかい、『ほなら私、弓がえぇ』って始めたんやけど、何年経っても進歩なし。大体、私すぐ感情が表に出てまうからなぁ」 時夫「……お前、なんかあったんちゃうか?」 樹奈「えっ? ……なんも、なんもあらへんって!」 時夫「まぁ、言いたくないんやったら、無理に言わんでもえぇねんけどな」 樹奈「来る……」 時夫「え?」 海鳥が空から舞い降り、海に飛び込み、魚を捕える。 時夫「捕った!」 樹奈「なぁ、時夫。なんで鳥は、わざわざ魚を捕るんやろ?」 時夫「えっ?」 樹奈「だって、飛べんねんで。羽が生えてて、自由に空を飛べるのに、何でこないに、わざわざ潜って魚を?」 時夫「それは…… お前、妙なこと聞くなぁ」 樹奈「だって、飛べんねんで? 虫やって、小さな鳥やって、空飛ぶ奴を捕まえたらえぇのに」 時夫「あぁ、そう言われてみれば…… せや、好きなんや」 樹奈「好き?」 時夫「せやせや。きっとあいつら、魚の味が好きなんや」 樹奈「好き、か……」 樹奈が時夫をじっと見つめる。時夫が見つめ返し、顔を近づけていく。 そんな時夫を、樹奈は弓でポカリと叩いてみせる。 時夫「ぐ!?」 樹奈「ふふ。せ──のっ!」 空に舞う鳥たち目がけ、樹奈が弓を高く掲げる。 樹奈「あんな高く飛べたら、何が見えるんやろ?」 時夫「世界の果てまで、見えるかもしれへんなぁ」 樹奈「世界の果て、か…… なぁ、時夫。海。海、見に行こうよ」 時夫「はぁ?」 樹奈「なぁ、行こうよ。海」 時夫「お前、熱あるんとちゃうか? ──ん、ないか。ここ、どっか、わかっとう?」 樹奈「うん」 時夫「だって、海やで? ここ」 樹奈「ここは、ちゃう」 時夫「ちゃう?」 工場の煙突から煙が空に撒かれ、海面にはゴミがたまっている。 樹奈「なんか、閉じ込められたみたいに窮屈で、息が詰まりそう」 時夫「ったく、贅沢もんやなぁ…… ここかて、東京の海よりよっぽどマシやのに」 樹奈「……」 時夫「よぉ──し! 一発、北まで飛ばすか!」 樹奈「北!?」 時夫「今から飛ばせば、荒波揺れる日本海に沈む夕日が、拝めるでぇ!」 樹奈「時夫!」 時夫がバイクに樹奈を乗せ、高速道路を走る。 並走する車が次第にまばらとなり、やがて山々を貫く道路を、時夫のバイクのみが駆ける。 左手に、海に沈む夕日が見えてくる。 樹奈「わぁ……!」 時夫「よっしゃあ!」 樹奈「あ、鳥が……」 突然、前方に奇妙な光が満ち、得体のしれない何者かのシルエットが見える。 樹奈「わぁ……!?」 バイクが地面から持ち上がり、ガードレールに叩きつけられ、樹奈の体が宙に投げ出される── 樹奈が気がつくと、病院の手術室で、医師や看護師らが手術を行っている様子が見える。 手術を受けている患者は、樹奈自身。 その光景を見ている樹奈は、手術室の宙に浮いている。 樹奈「あれ? なんで、私……」 声「樹奈…… 死ぬなよ!」 樹奈「えっ?」 壁が透けて見え、手術室の外にいる時夫が見える。 樹奈「時夫? 時夫なん?」 時夫「樹奈……」 樹奈「時夫! な、時夫!」 手術室の機器の示す数値が、次第に小さくなっていく。 樹奈「ここやって! 私、ここにおるって!」 やがて機器の数値が0を示し、「ピ、ピ、ピ」の音が「ピ──」と変わる。 樹奈「私、まさか…… 死んだん?」 宙に浮いていた霊体?の樹奈が、天井に吸い込まれてゆく。 樹奈「わ!? な、なんやぁ!?」 そのまま天井を突き抜け、病院を突き抜け、空高く舞い上がる。 樹奈「わ、わ、わぁ──っっ!?」 樹奈がどんどん空高く舞い上がり、視界がどんどん遠ざかる。 付近の街並みから、日本列島、そして地球全体。 宇宙に浮かぶ地球の姿。 樹奈「わぁ…… 綺麗……!」 突如、得体のしれない怪物たちが出現し、地球を取り囲んでゆく。 樹奈「何!?」 その怪物が飛び出し、樹奈を飲み込む。 樹奈「わぁぁ!?」 樹奈の脳裏に次々にイメージが浮かぶ。木々が燃え、火が樹奈の体を焼く。 樹奈「わぁ、嫌ぁ!」 ダム決壊、水があふれ出し、洪水に樹奈が巻き込まれる。 枯渇した大地。 無数の動物の死体。 飢えた人々。 声「見つけた── 見つけた──」 夜の都会。 工場の排ガス。 無残に廃棄される多くの食料品。 除草剤が畑に撒かれ、多くの虫たちが死滅し、地面に転がる。 声「ようやく見つけた── この星の命を、終末の危機から救う者── 見つけたよ、樹奈」 積み上げられた無数の生物の死骸。 その中から、光に包まれた人影が現れる。 樹奈「何!?」 声「終末をもたらす魔物を清め、未来を開く『時の化身』、樹奈よ」 樹奈「誰!? あんた、誰よ!?」 声「クリス。君を守り、導く者── クリス」 樹奈「クリス?」 光が、1人の少年の姿となる。 生物の死骸たちの向こうに、ビル群がそびえる。 その中に、怪物たちが蠢いている。 樹奈「わぁ…… 何? 何なんよ、これ?」 クリス「この星に終末をもたらす者、『ラージャ』」 樹奈「ラージャ?」 クリス「お前が戦い、清めるべき魔物」 樹奈「魔物? 戦うって…… 何でよ? 何で私が、あんな化け物と!?」 クリス「時の化身、樹奈よ。この星の命は今、滅亡の危機に瀕している。もしも、お前がラージャと戦い、清め、未来を開くのならば、今一度、お前に命を授けよう」 樹奈「命……? ほんまに命を?」 病院。 医師「申し訳ない。精一杯、手を尽くしたんだが」 時夫「そ、そんな…… そんなことって……」 医師「樹奈! 樹奈はどこ!?」 樹奈の母・淳子が駆け込んで来る。 順子「あぁっ……!? 樹奈! 樹奈ぁ!!」 樹奈「あ!? これって…… 時夫! 母さん! 時夫ぉ!! 母さあぁん!!」 クリス「もう一度聞く」 樹奈「えっ?」 クリス「我らの代わりにラージャと戦い、清めてくれるなら── 命を、君の命を助けよう」 樹奈「でも…… そんなん、無理や。私、戦えっこない……」 クリス「なぜわかる?」 樹奈「えっ?」 クリス「試もしないで、なぜわかる?」 樹奈「そんな……」 時夫「樹奈ぁ! 目、覚ましてくれよぉ!」 樹奈「時夫!? 時夫ぉ──っ!!」 樹奈の体がどんどん地球を離れ、時夫の声が次第に聞こえなくなってゆく。 時夫「樹奈……」 看護師「先生! 心拍が……」 医師「何!?」 死んでいたはずの樹奈の目がカッと開かれ、おもむろに手術台から起き上がる。 樹奈「行かな……」 時夫「えっ!?」 樹奈「行かな」 樹奈が手術台から飛び降り、手術室から飛び出す。 時夫「あ…… 樹奈……!?」 順子があまりの事態に、気を失う。 医師「大丈夫ですか!? クランケの捜索を!」 時夫「樹奈ぁ──っ!!」 樹奈が病院から出ると、ヘリコプターが舞い降りている。 声「乗れ」 樹奈「もう…… ほんまに強引なんやから!」 時夫「樹奈ぁ!」 時夫が病院の外に出ると、ヘリコプターから垂れたロープに、樹奈がつかまっている。 時夫「樹奈ぁ──っ!!」 樹奈「時夫!?」 時夫「何やねん……!? 何やねん、これは!?」 樹奈「ごめん。私、行かな!」 時夫「ま、待てぇ!」 樹奈「時夫…… 母さん……」 時夫「どないなってんねん……!?」 ヘリ機内。外国人の上院が、樹奈をへ引き込む。 樹奈「さ、サンキュー、ベリマッチ。あ、あの……」 機内の暗がりの中から、少女が車椅子を押して現れる。 車椅子の上には、樹奈に語りかけたクリスがいるが、点滴チューブがつながっており、体はピクリとも動かない。 樹奈「ま、まさか…… まさか、この子?」 声「あんたのせいよ。あんたのせいで、クリスが」 声が響くが、少女は口を閉じたままである。 樹奈「えっ!? ど、どこ!?」 声「鈍いわね、このグズ」 よく見ると、少女は樹奈をじっと、何か言いたげに睨んでいる。 樹奈「えっ? 今の、あなたが?」 声「お前なんかの命を助けるために、クリスは無理に力を……」 樹奈「な、何よ、この……」 声「何よ、このガキ、イチャモンつけて」 樹奈「あ……」 声「冗談じゃないわ。この子が勝手に命を助けるなんて言い出したのに」 樹奈「嘘!? こいつ、私の心を読んでる」 声「今頃気づいたの? このグズ。テレパシーぐらいで驚いて」 クリス「もう、いい…… シンディ」 シンディ「クリス! 無理しないで!」 クリスのテレパシーが響く。 シンディというその少女は、肉声でクリスを気遣う。 クリス「時の化身、樹奈よ。君はこれから、我々『&ruby(シード){SEED}』の一員として働いてもらう」 樹奈「シード……?」 クリス「『時の雫』を、君に」 クリスが震える腕を伸ばす。 その手に、勾玉のようなものがある。 樹奈「勾玉……?」 クリス「もっとはるか昔から、失われた神が生み出した時の雫」 樹奈「時の雫……」 クリス「この星と、地球とシンクロして、その力を自在に操る聖なる石だ」 樹奈「この星と、シンクロ……」 樹奈が手を伸ばし、それに触れる。 途端、膨大な光があふれる。 樹奈「わ、わぁ、わぁ!?」 樹奈の手がひとりでに動き、額へ押し付けられる。 光がやむと、その「時の雫」なるものは、樹奈の額に貼りついている。 樹奈「な、なんや!?」 原子力発電所施設。 「一次冷却系に、作動不能発生」「電力系統A7、B5に降下」 「4号炉、核分裂反応に不均衡が見られます」「原因は?」「現在調査中ですが、制御系には異常は見られません」「そうか」 軍服のような、ものものしい姿の者たちが現れる。 「特異現象調査局の、テレサ・ウォンです。地磁気異常の接近を調査に参りました」 「私は管理責任者の堂島だ。まったく、何だ!? あのガラクタは」 特異現象調査局なる者たちの1人が、大掛かりな調査機器であちこちの調査にあたっている。 堂島「どういうルートから、うちの会長に圧力をかけたのかは知らんが、ここの設備は万全だ。素人に勝手な手出しは慎んでもらおう」 テレサ「もちろん、我々もそのつもりです。でも、テクノロジーにパーフェクトなんてことは、ありえないと思いますが?」 堂島「いいかね? 当原発は4重の安全システムを採用し、あらゆる事態に対処を……」 テレサ「賭けましょうか?」 一方で樹奈は1人、その施設のそばに降ろされている。 樹奈「嘘や! 私1人で原子炉なんか、守れっこない!」 クリス「恐れるな。恐れを捨て、お前の内に眠る星の力を呼び覚ませ」 樹奈「星の力?」 クリス「恐れるな…… たとえ何が起ころうとも、心の恐れ、迷いを捨て、この星と一つになるとき、自ずと道は開かれる──」 樹奈「もう~! 勝手なことばっかしぃ!」 空の彼方が、ぼんやりと光る。 樹奈「な、何!?」 原子力発電所施設内では、特異現象調査局員の1人の調査機器が、反応を示す。 局員「特異反応接近」 テレサ「来る」 堂島「何?」 外では、施設に通じる電線に火花が走り、爆発が起きる。 樹奈「わぁっ!?」 爆発に伴って施設内が停電し、照明が消える。 施設員たち「わぁ!?」 堂島「落ち着け! 非常電源作動! 各部安全装置チェック!」 施設員たち「はい、わかりました!」「2号炉、3号炉、炉心起動システム作動」 堂島「1号と4号は?」 施設員たち「ダメです! 先ほどの過電流で、トラブルが生じた模様!」 堂島「ただちに炉心制御棒をスクラム」 施設に火が上がり、警報が鳴り響く。 樹奈「あ…… あ……」 クリス「恐怖か……」 シンディ「間違いじゃないの? あんなブスが、クリスの代りの時の化身だなんて」 一方で時夫はヘリコプターを追い、バイクを走らせる。 山の彼方に、原発施設から立ち昇った炎が見える。 時夫「火事!?」 テレサ「クリス。時の化身の目覚めはまだ?」 施設に立ち昇る炎の中に、得体のしれない巨大な怪物たちが蠢いている。 樹奈「あぁ……!?」 クリス「やむを得んか……」 クリスの体からオーラが立ち昇り、光球と化し、どこかへ飛び去る。 シンディ「クリス、大丈夫!? どこへ!?」 バイクを飛ばす時夫を、白い鳥状の光が掠める。 時夫「なんや、この鳥!? 鳥……!? まさか、樹奈!?」 時夫がその光を追い、バイクを急がせる。 やがて、施設が見えてくる。 時夫「なんやぁ?」 施設の炎の中、怪物が蠢き続け、樹奈はどうすることもできずにいる。 鳥が舞い、樹奈を掠める。 時夫「樹奈ぁ! いるのか!?」 樹奈「嘘! 時夫!?」 時夫がバイクで近づいてくる。 時夫「樹奈ぁ!!」 樹奈「時夫!」 時夫「樹奈ぁぁ!!」 突然の爆発。 時夫が爆風で吹っ飛ぶ。 宙に舞う時夫を目の当たりにし、無我夢中で樹奈が駆けだす。 樹奈「わぁぁ──っっ!! 時夫──っ!!」 樹奈の体が光に包まれ、羽衣を纏った天女のような「時の化身」と化す。 時の化身となった樹奈が宙を舞い、空中に放り出された時夫を受け止める。 原子炉に出現した怪物たちが、無数の攻撃を放つ。 樹奈のまとう羽衣が壁と化し、攻撃をひとつ残らず跳ね返す。 局員「地球共鳴波反応を確認」 テレサ「まさか…… あの子が!?」 シンディ「時の化身……!」 樹奈「樹奈……!?」 #center(){|CENTER:&br()動き出した。私と地球の&br()そしてあいつの、新しい時が──&br()&br()|}