優衣が豹変した様子で、ミラーワールドの中に留まり続けている。 そこに、兄の士郎が現れる。 士郎「今ならまだ間に合う。帰れ、現実の世界へ」 優衣「私は…… ここにいる」 士郎「優衣!」 優衣が不意に、意識を失って倒れる。 士郎「優衣!?」 龍騎はミラーワールドの中で、優衣を捜し続ける。 龍騎「優衣ちゃあん! 優衣ちゃあん!」 優衣が倒れている。 龍騎「優衣ちゃん!?」 自宅で東條を介抱している佐野のもとには、父の死の報せが入っている。 佐野「親父が、死んだ……? 俺、ちょっと出かけて来る」 真司は、優衣を現実世界へ救い出している。 真司「優衣ちゃん、しっかりして! 優衣ちゃん!」 優衣「……真司くん?」 真司「優衣ちゃん……」 優衣「ここ…… どこ? 何してたんだっけ、私?」 真司「もしかして、憶えてないの? 何も」 優衣「うん。何があったの? 私…… 何してたんだっけ?」 真司「いや。優衣ちゃんは、またモンスターに襲われて、ミラーワールドに引きずり込まれて…… でも、本当に大丈夫? 気分悪いとか、どっか痛いとか」 優衣「別に、大丈夫。何ともないから」 真司「良かった……」 後日の&ruby(あとり){花鶏}。 優衣は、何事もなかったかのように振るまっている。 真司「やっぱり、本当のこと言ったほうがいいのかなぁ…… 優衣ちゃんがモンスターを操ってたこととか」 蓮「まぁ、やめておいたほうがいい。今の段階じゃ、動揺させるだけだ」 真司「そりゃ、そうだけど……」 沙奈子は店も開けず、惚けた様子でシャボン玉を飛ばしている。 真司「おばさん……!?」 優衣「ねぇ、おばさん。なんで今日、お店、休みなの?」 沙奈子「休みなのよ。永──遠にねぇ…… もう、どうだっていいわ。こんな店……」 真司「どうだっていいって……」 優衣「何かあったの?」 沙奈子「フン! 白々しい…… 私ゃ、もう疲れたのよ。蓮ちゃんだって真ちゃんだって全っっ然手伝ってくれないし、優衣は優衣で無断外泊するし、一体な──にやってたんだか知らないけど」 優衣「それは…… ごめん。もうしないよ。またがんばるから! ね?」 沙奈子「あ──、がんばんなくていい。もう当てにはしてないから。ハハッ」 優衣「そんなこと言わないでよ! 蓮も真司くんも、何とか言ってよ!」 真司「あぁ、今度こそがんばりますから! マジで。おばさんのいうことなら、何っっでも聞きます!」 沙奈子「本当ぉ──に、何でも言うこと聞くんだね~?」 佐野は、亡き父が経営していた会社の、重役たちのもとへ呼び出されている。 佐野「親父の、遺言?」 重役A「えぇ。知ってのとおり、あなたの父上は一代で、この会社を築き上げた。そして、その跡目に1人息子であるあなたを、指名しておられるのです」 佐野「親父が、俺を!?」 重役B「驚かれるのも無理はありません。あなたは2年前に、社長から勘当されたとか。しかしそれも、あなたに早く一人前になってほしいという、親心だったのでしょう。いつも、社長は言っておられましたよ。社会の荒波に揉まれ、成長したあなたに、いつか会社を継いでほしいと」 佐野「で、でも、無理っスよ。いきなり社長だなんて」 重役C「もちろん最初は、我々が全力でサポートします。あなたにはできるだけ早く、経営者の知識を身につけてほしい」 重役A「大丈夫。できますよ、あなたなら。あなたの体には、先代の血が流れているんだから」 佐野「俺が…… 社長…!」 一方でOREジャーナルのもとには、偶然撮影されたミラーワールドの写真記事について、電話の嵐が舞い込んでいる。 大久保「えぇ。ですからあれは、そんないい加減な記事ではなくてですねぇ……」 令子「だからぁ、ちゃんと専門家にも鑑定してもらって──」 大久保「さようでございますか? ではまたのお電話をお待ちしております」 令子「ちょっとあんた、人の話、ちゃんと聞いてんの!? もういいです! ──編集長、当てが外れましたね。この写真を載せれば、読者からの情報が寄せられてくると思ったんですが……」 大久保「まったくなぁ。かかってくる電話といやぁ、罵詈雑言か、購読契約の破棄。──何やってんだ、島田、めぐみ?」 奈々子とめぐみは探検隊の扮装で、無数のガラス瓶に双眼鏡を突きつけている。 大久保「お前ら、まさか怪物捕まえようってんじゃないだろうな? ガラスの前で待ち伏せして…… 勝手にやってろ」 佐野は、重役たちと会食を楽しんでいる。 重役「ハッハッハ! とにかく前社長の葬儀が終わり次第、緊急役員会議を招集します。そこで、あなたの社長就任が決まるわけです」 佐野「でも、本当にそんなにうまくいくの?」 重役たち「手は打ってあります! もちろん反対勢力はありますが、金でカタがつくでしょう」「ハッハッハッハ!」 佐野「まぁ、うまくやってよ。任せるから」 佐野が帰宅すると、部屋の中は真っ暗。 佐野「電気もつけないで、大丈夫? ──あぁ、まだ駄目みたいだな。これ、残り物だけど食べてよ」 寝込んだままの東條に、佐野が食事を勧める。 佐野「なぁ、一つ聞いていいか?」 東條「何かな……?」 佐野「おたく、『英雄になりたい』みたいなこと言ってたけど、どういうこと? 英雄になって、どうするわけ?」 東條「……そうすれば、みんなが好きになってくれるかもしれない」 佐野「ふぅん。結構、お宅も苦労したんだぁ~。でも、ライダーの戦いが終わる前に、願いが叶ってしまったら?」 東條「……何が言いたいの?」 佐野「いや。でも、もしそうなったら意味ないよな…… ライダーでいたって、しょうがないし」 後日。 佐野が高級車で会社に出勤し、重役たちが迎える。 重役たち「おはようございます!」 佐野「君。手が空いたときでいい。車のウィンドウ、磨いといてくれるかい」 佐野が重役の1人のポケットに、紙幣をねじ込む。 佐野が社内を行くと、神崎士郎が現れる。 士郎「お前は仮面ライダーだ。ライダーである以上、戦い続けなければならない」 佐野「あぁ、そのことなんだけどさぁ、これ、返すわ」 佐野がインペラーのカードデッキを差し出す。 佐野「俺、いい暮しがしたくてライダーになったけどさぁ、もう、そんな必要なくなっちゃって。辞めたいんだ、ライダーを」 士郎「一度ライダーになった者は、最期までライダーであり続ける── それが掟だ」 佐野「何だよ!? そんなの、俺の自由だろう!? もう要らないんだよ、こんな物!」 士郎「戦わないのはお前の自由だ! だが、それが何を意味するかは、お前もわかっているはずだが」 そばのガラス窓。 鏡面の中で無数のモンスターたちが、エサに狙いをつけた獣のように、佐野を睨みつけている。 士郎「戦え── そして生き残れ── そうすれば、お前はライダーを辞めることができる」 花鶏では、優衣がなぜかメイド姿。 客として、大勢の子供たちが店になだれ込む。 沙奈子「何でも言うこと聞くっていったでしょう!? いらっしゃいませ~! 何がいいかなぁ~?」 大騒ぎの様子の店に、佐野が訪れる。 真司「いらっしゃいませ、ご注文は?」 佐野「そうねぇ、一番高いの、持ってきて」 真司「一番…… って、お前ぇ!?」 真司「何だって? 俺たちを雇いたい?」 蓮「何を考えてるんだ、お前?」 佐野「別に。もちろん、タダとは言わない。取敢えず契約金として……」 佐野が鞄を開くと、中には札束の山。 佐野「どう? 悪い話じゃないと思うけど。ライダーとして勝ち残っていくためには、仲間がいた方がいいわけだし」 真司「ふざけんな! 金で仲間が買えると思ったら大間違いなんだよ! なぁ、蓮! 大体なぁ、俺たちゃお前のことなんか全っ然信用してないんだから! なぁ、蓮?」 蓮の目は意外にも、大金に釘づけになっている。 真司「……蓮?」 佐野「ま、そういうことならしょうがないか。馬鹿だね、あんたら」 佐野が去って行く。 蓮は最後まで、大金に目を奪われている。 真司「ったく、なんて奴だよ、あいつは!」 佐野は今度は北岡の事務所を訪れ、またも大金を見せつけている。 北岡「では、この私を雇いたい、そう仰るわけですね?」 佐野「そう。ライダーとして俺に力を貸してほしい」 北岡「はい、喜んで! さぁ、おかけください。ほら、コーヒーお出しして! あの金は前金として受け取っておきますが、いろいろ細かい問題もありますし、こちらで契約書を作りますので…… ゴホン! 正式な雇用はそれからということで、いかがでしょう?」 佐野「あぁ、それでいいよ」 佐野が事務所を去り、北岡たちがうやうやしく見送る。 吾郎「いいんですか、先生? 本当に、あんな奴と組んで」 北岡「心配ないって、吾郎ちゃん。言ったでしょ? まず、契約書を作るって。時間がかかるんだよねぇ~、そういうのって。1年先か、2年先か」 吾郎「先生……」 北岡「何よ?」 吾郎「素敵です……!」 佐野「どうも胡散臭いんだよなぁ、あの弁護士。やっぱり俺には、あいつしかいないのかな? ちょっと頼りないけど」 佐野が帰宅すると、東條は部屋の中で座り込んでいる。 佐野「どう、具合は? ほら、弁当買って来たからさ。いっぱい食べて、早く元気になってくれよ」 東條「ありがとう……」 佐野「なぁ。ちょっと聞きたいんだけど…… おたく、俺のことをどう思ってるわけ?」 東條「……感謝してる。香川先生以外で、こんなに優しくしてくれたの、君が初めてだし」 佐野「あ…… お茶、入れてくるね! ──友達だよな、俺たち」 東条は弁当を食べながら、無言で頷く。 後日。 佐野は父の友人たちに食事に招かれ、その娘を紹介されている。 「いやぁ、君の父上とは古くからの付き合いでね。私も随分お世話になった。さぁ、食べましょう。君と百合絵を結婚させようなんて話したこともあった。まぁ、そんなことは本人同士が決めることだが、でも、どうだ? こうやって見ると、なかなかお似合いじゃないか」 「いやぁ、まったくです。ハッハッハ!」 食事を終え、佐野はその娘の百合絵と2人きりになり、町を行く。 百合絵「ごめんなさい、父が急に変なこと言いだして」 佐野「いえ、むしろ嬉しかったです。あの…… 百合絵さん。できれば、これからも時々逢ってもらえませんか?」 百合絵が笑顔で頷く。 佐野「少し、歩きましょうか? (俺は勝つ…… 必ず、俺の人生を守ってみせる……)」 車が通りかかる。 窓ガラスの鏡面の中から、モンスターが飛び出す。 佐野「危ないっ!」 佐野がとっさに百合絵をかばい、横っ飛びでモンスターをかわす。 佐野「大丈夫!?」 百合絵「えぇ……」 佐野が車を目がけて駆け出す。 百合絵「佐野さん!? 佐野さぁん!」 佐野「変身!」 バイクで道路を行く真司のもとにも、モンスターが襲いかかる。 真司「変身!」 真司の変身した龍騎が、ミラーワールドに飛び込む。 佐野の変身したインペラーが待ち構えており、その周りでは、彼の従えるモンスターの大群が奇声を発している。 インペラー「わかってるよ。腹が減ってるんだろ? 今すぐ満腹にしてやるから」 音声&i(){『ファイナルベント』} 龍騎が一気に、ドラゴンライダーキックでモンスターを仕留める。 だが続けざまに、インペラーが龍騎に襲いかかる。 音声&i(){『ストライクベント』} 龍騎「お前、いい加減にしろよ! 何考えてんだ!?」 龍騎が必死に、インペラーと応戦する。 そこに、東條の変身したタイガも現れる。 インペラー「東條、頼む! こいつを…… 東條、東條!」 タイガが突進し、龍騎を殴り飛ばす。 インペラー「悪いな! 負けるわけにはいかないんだよ!」 龍騎は2体1で劣勢に陥り、さらにインペラーに追いつめられる。 タイガがその様子を、静かに見据える。 音声&i(){『アドベント』} タイガのモンスターであるデストワイルダーが、なんと龍騎ではなく、インペラーに攻撃を加える。 インペラー「うわぁ──っ!?」 インペラーは不意を突かれてまともに攻撃を食らい、地面に転がる。 インペラー「はぁ、はぁ……」 タイガ「ねぇ」 インペラーが息を切らしつつ立ち上がるが、タイガはさらに攻撃を突き立てる。 インペラー「ぐうぅっ……! お、お前……!?」 タイガ「ごめん。君は大事な人だから…… 君を倒せば、僕はもっと強くなれるかもしれない」 インペラー「そ、そんな……!?」 龍騎「おい、やめろ!」 龍騎は必死に、タイガを取り押さえる。 龍騎「逃げろ! 逃げろ!」 インペラーが深手を負いつつ、フラフラとした足取りで、必死に逃げ続ける。 インペラー「はぁ…… はぁ…… 何だよ、あいつ!? 何考えてんだよ!?」 しかしそこに、王蛇が立ち塞がる。 王蛇「ハハハハ……」 インペラー「はぁ…… はぁ……」 インペラーは逃げることはおろか、立つことすらままならない。 王蛇の最強技・ベノクラッシュが、インペラー目がけて炸裂する。 インペラー「わああぁぁ──っっ!!」 インペラーが強烈なキックをまともに浴び、痛烈に吹き飛ばされる。 ベルトからカードデッキが外れ、粉々に砕け散る── 現実世界では、突然の雨が降り出している。 傘を持っていない通行人が慌てて駆け去って行く中、百合絵は雨に濡れたままで佇む。 ミラーワールドでは、変身の解けた佐野が1人、フラフラと彷徨っている。 カードデッキが失われたため、現実世界へ戻ることはできない。 ゴミ捨て場に、鏡が捨てられている。 鏡面の中に、現実世界の百合絵の姿が見える。 佐野「百合絵さん、百合絵さぁん! 出してくれぇ! 出してくれぇ! 出してくれ、 出してくれぇぇ! 百合絵さん、百合絵さぁん!」 絶叫と共に鏡を叩き割り、その破片を手にする。 佐野「出してくれぇぇ! はぁ、はぁ……! 百合絵さん、百合絵さぁん!」 百合絵が雨に濡れたまま、虚空を見つめて立ち尽くしている。 佐野「百合絵さぁん! 出してくれ、出してくれよぉ! 俺は帰らなくちゃいけないんだ、俺の世界に!」 鏡の破片を握る手が、次第に蒸発を始める。 佐野「はっ……!? 嫌だ、嫌だぁ! 出してくれぇ! 出してくれぇ!!」 現実世界では、百合絵が依然として立ち尽くしている。 佐野「何で、こうなるんだよぉ……? 俺は…… 俺は…… 幸せになりたかっただけなのに……」 佐野の体が蒸発し、跡形もなく消え去る── #center(){&big(){(続く)}}