それは、雨風の強い夜の事だった。
壊れたお茶くみ人形が歩いてくる。その手に持った皿には鯖の頭が。
「ひっ!」
暗い部屋の中で枕を抱きしめながらホラー映画のDVDを見ている女の子…名前は鵜野うずめ。
とある廃墟と化した建物。
男が開けたケースの中に5枚のカードが。
ホラー映画の続き。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…!!」
「?」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…!!」
「きゃあぁぁぁぁ!!」
少女が壊れた人形に追われる。
廃墟。
男は廊下を走っている最中つまずいてしまい、ケースから持ち出したカードを落としてしまう。
ホラー映画の続き。
乳母車が少女の足にぶつかり、それに乗っていた人形が足に組み付いてよじ登ってくる。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
うずめ「ぅわああぁぁ!! もう駄目!!」
余りの怖さに部屋を飛び出してしまう。
うずめ「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ……」
ノックもせずにトイレに入ると、先に入っていた妹のみこがジト~ッとした視線でうずめを睨む。
みこ「?」
うずめ「ひっ!! ぅわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
幼少時代のうずめ。
TCG『闘宝ドラゴン』の大会の決勝戦。
山からカードを引いて…。
うずめ「うずめが決めるよ! これで、一丁上がり~!!」
うずめの勝利。会場が歓声に包まれる。
「うずめちゃん! うずめちゃんってば!!」
うずめ「……?」
目の前にみこが。先程の優勝は夢だった。
うずめ「…ぅああああぁっ!!」
みこ「…ねえねえ、失礼だよ人の顔見て!」
うずめ「ごめん…ビックリしちゃって…」
時計は7時5分を指している。
うずめ「もうこんな時間!?」
慌てて制服に着替える。
うずめ「うわぁ~寝過ごした~!」
「うずめー! 起きたのー!?」
下の階から、母・みことの呼ぶ声がする。
机の上には、幼少時代に『闘宝ドラゴン』の大会で優勝した時の写真が飾られている。
朝食の時間。
みこと「ほらあと5分」
うずめ「は~い」
外ではみこが待っている。
うずめ「いってきま~す!」
みこ「うずめちゃん! 早くぅ!」
うずめ「ごめん…」
鵜野姉妹が街中を歩いていると…。
みこ「あ、小町ちゃんだ!」
うずめ「ん?」
向こうにいるのは清正小町。うずめの通う学校"私立聖悠学館"中等部の先輩。
小町「…あら、お早う。うずめちゃん達いつも仲良しねぇ」
うずめ「あ…はい」
寝癖を気にして前髪を整える。
みこ「ていうか、うずめちゃんは中学生なのに私がついてないと駄目なんです! 今日だって寝坊しちゃうし…」
うずめ「みこ!」
小町「うふふ…それじゃあまたね。さよなら」
そう言って、小町は先に学校へと足を急がせる。
うずめ「はい、さよなら」
みこ「バイバイね、小町ちゃん!」
手を振って笑顔で見送るみこ。
うずめ「綺麗だね…読者モデルとかやってるんだって」
小町の背中を見つめながら…。
うずめ「(私も、あんな風になれたらいいな…)」
みこ「…? うずめちゃん、電車来ちゃう!」
うずめ「?」
慌てて携帯を見ると…。
うずめ「……ぅわあ! やばい!!」
みこ「じゃあね」
うずめ「はぁ…はぁ…あぁ…」
みこに手を振りつつ、棚瀬駅へと走っていく。
何とか間に合った。
うずめ「…ちょっと…」
急いで前に出てきたサラリーマンに声をかけると…。
サラリーマン「!」
うずめ「ひっ!」
睨み返されてしまった。
発車ベルが鳴り出し…。
うずめ「す、すいませ~ん!」
何とか乗れた。
うずめ「う~…」
満員電車の中で苦しそうなうずめ。
その時、何者かの手が彼女の鞄を掴む。
うずめ「!?」
ひったくりにあったかも、と思って後を振り返っても誰もいない。
うずめ「(気のせい?)」
私立聖悠学館のすぐ近くにある橋の上。
うずめは電車内で何か盗まれたかも知れないと、鞄の中身を確かめている。
うずめ「何か盗まれてたり…?」
中から見た事もないピンク色のデバイスが出てきた。
うずめ「何これ…」
「…よっと」
うずめ「!?」
後から、通りかかった男子生徒3人組の1人にデバイスを取られる。
男子生徒C「うっすうずめ」
男子生徒A「まだカードゲームとかやってんの?」
デバイスを持った手を上に掲げられ…。
うずめ「ちょっ、返してよ!」
男子生徒A「…へっ」
うずめ「そういう下らない事やめてくれない?」
男子生徒A「?」
うずめ「小学生じゃあるまいし」
男子生徒A「…」
素直にデバイスをうずめに返す。
2年A組の教室にて…。
うずめ「あの子達、小学生ん時同じクラスだったんだけど、今でも会うとイタズラばっかりしてくるんだよねー」
うずめは、クラスメイトの岡崎れいかともう1人に先程の不満をぶち撒けていた。
女子生徒「うんうん」
うずめ「やんなっちゃう」
女子生徒「分かるよそれ」
れいか「男子っていつまでも子供だよね」
うずめ「あ、そうだ!」
れいか「?」
鞄から、昨晩見ていたホラーDVDを取り出し、れいかに返す。
うずめ「これ、ありがとう」
れいか「どうだった? 面白かった?」
うずめ「あ、えーと…いい感じだった、かな…」
れいか「ほんと? だったらまた他のオススメホラー、貸してあげる!」
うずめ「あ、うん…」
愛想笑いでその場を乗り切る。
その時、始業チャイムが鳴る。
うずめ「…?」
「えー、席について下さい」
担任教師・富士見勲が入ってくる。
富士見「今日はまず、プリントを配ります」
うずめは前の席の子からプリントの束を受け取り、一枚取って後の子に回す。
富士見「近頃学校の周りで、不審者を見た生徒がいるそうです。くれぐれも気をつけて下さい」
「不審者に注意」というプリントを見ると、机の上のノートの表紙に黄色い髪をポニーテールにした女の子の姿が映る。
うずめ「……え?」
富士見「ようやく皆さんも、この学校に慣れ始めたかと思いますが、こんな時期だからこそ、一層注意して下さい」
その女の子は一瞬で消えた。
うずめ「(あれ? なんか動いた?)」
後の張り紙に青い髪の女の子が映り、その背後を銀髪の女の子が通り過ぎる。
うずめ「…」
放課後。
うずめはれいか、そしてもう1人の女子生徒と廊下を歩いていた。
女子生徒「やっと部活だね、嬉しい!」
「あ、あの…」
うずめ「! まない!?」
突然声をかけたのは、うずめの幼馴染・羽月まない。
れいか&女子生徒「?」
れいか「うずめちゃん、先行くね」
うずめ「あ、うん!」
れいか達と別れる。
うずめ「…どうかしたの?」
まない「お願いがあって…」
まないが差し出したのは"カード部"の部員募集のチラシ。
うずめはそれを受け取り…。
うずめ「カード部、部員募集?」
まない「あのね、まだ新しい部だから、部員が足らなくて…うずめちゃん、部員になって欲しいの!」
手を合わせてお願いする。
うずめ「え~? でも…」
まない「うずめちゃん、大きな大会で優勝したって言ってたでしょ?」
うずめ「そんなの昔の話だもん。子供の遊びみたいなもんだから…」
首を縦に振るまない。
まない「カードって今や、インターハイとか世界大会もある、立派な競技なのよ。『マジックトゥギャザー』とか、プレイ人口も凄いし…」
うずめの手を握り…。
まない「だからお願い! 私と一緒に、世界一を目指しましょう!」
うずめ「そう言われても…私、もう行かなくっちゃ…ごめんね。チラシ一応貰っとく。じゃ…」
困惑した表情のままその場を後にするうずめ。
それを茫然と見送っていたまないだったが…。
まない「(私、うずめちゃんの事諦めないから…)」
うずめ「…はぁ…はぁ…はぁ…」
テニス部部室。
うずめは、脱いだブレザーを畳んでロッカーに仕舞おうとしていた。
その時、部室前に人が。
うずめ「!?」
ドアノブを激しく何度も回す音に驚く。
うずめ「…だ、誰? …」
ドアを開けると、突然背後に人の姿が。
うずめ「…」
その人の手がうずめの背中に触る。
うずめ「!! きゃああああぁぁぁぁっ!!! はぁ…はぁ…はぁ…」
恐怖のあまり逃げ出し、廊下を無我夢中で走る。
うずめ「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ……」
そして、突き当たりに来ていた。
うずめ「…?」
うずめが辺りを見回すと、右側に倉庫があった。
そこに入り、ドアにもたれて休む。
うずめ「はぁ…はぁ…はぁ……(怖い…誰か助けて…!)」
「サポートをご希望されますか?」
突然、どこからともなく聴こえてきた声に驚くうずめ。
うずめ「…だ…誰?」
「今すぐエントリーすれば、何でもご要望に応じますが…」
うずめ「よ…よく分かんないけど…何でもするから助けて! お願い!!」
「かしこまりましたマスター。それではこれより、エントリーを開始します。まずは名前、生年月日、血液型をお答え下さい」
うずめ「…えーと…」
どこかで女子生徒が携帯で話をしている。
女子生徒「ターゲットを見失いました…はい。見つけ出して、必ずカードを回収します」
通話を切る。
一方その頃。
身震いするうずめ。
「それから携帯番号、メールアドレス、趣味、好きな食べ物、身長、体重、スリーサイズ、初恋の年齢…」
うずめ「そんな事まで聞く!?」
何者かが、うずめの隠れている部屋に近づいてきている。
「ではこれが最後の質問です。私達とチームを組む事に、同意しますか? しませんか?」
うずめ「はい。同意します。…はぁ…やっと終わった…」
安堵のため息をついた途端…。
うずめ「え?」
スカートのポケットの中のデバイスから光が。
うずめ「うわあっ!!」
光が更に広がっていく。
うずめ「……?」
正面に現れたのは…。
うずめ「あ、あなた、誰?」
白いレオタードの様な服に身を包んだ、黄色のポニーテールの女の子だった。
女の子「エントリー、ありがとうございました」
うずめ「って、服着てない!」
女の子「うるさいわね。装備がまだないのはあなたの所為よ、マスター!」
うずめ「マスター? 私の事?」
女の子「ふん…私はささら。マスターの願いを叶える為にやってきた、"ファンタジスタドール"」
うずめ「ファンタジスタ…ドール?」
ツインテールにした青髪の女子生徒が、うずめとささらのいる倉庫に入ってくる。
名前は戸取かがみ。
うずめ「……!?」
かがみ「エントリーしたのね…まあいい…カードは私が頂くわ!」
かがみがデバイスからカードを取り出すと、くのいち姿のファンタジスタドールが召喚される。
かがみ「行け、くのいち くぅ!」
くぅ「御意……はっ!!」
大型の手裏剣を投げるくぅ。
ささらはうずめの前に躍り出て、素手でそれを振り払うが、続けて小さな手裏剣が飛んできて1発目は振り払ったものの、2発目が左肩に当たってしまう。
ささら「…!」
うずめ「ぅわああぁぁぁっ!!」
ロッカーの裏に隠れる。
ささら「早く逃げて!」
うずめ「で…でもどこに…?」
ささら「いちいち説明しなきゃ何にも出来ないの!? 面倒なマスターね!」
ささらは壁をパンチで破壊。
うずめ「!」
ささら「そこから出て!」
うずめ「分かった。後はよろしくー!!」
一目散に廊下へと駆け出す。
うずめ「はぁ…はぁ…はぁ…」
ささら「…ってこら!! そんなに離れたら、こっちが消えちゃうんだってば!!」
ささらもうずめを追って走っていく。
くぅ「逃がさん…!」
手裏剣を召喚し、2人の後を追う。
逃げるささらの背後から、くぅの手裏剣が飛んでくる。
ささら「!?……!! え~いっ!!」
傍にあった石灰の袋を取り、くぅめがけて投げる。
彼女がそれを切り払った瞬間中身が飛び出し、石灰の煙に包まれる。
うずめは体育館の大ホールに来ていた。
ささら「ちょっと待ちなさいってば!!」
ようやく追いついたささら。
ささら「装備がないままじゃ、まともに戦えないわ!」
うずめ「…」
ささら「私をカードに戻して!」
うずめ「ど…どういう事?」
ささら「もう1回、私をライティングカードと一緒に呼び出すの。いいわね?」
うずめ「わ、分かった。やってみる」
ポケットからデバイスを出して操作し、正面にかざす。
うずめ「リジェクション!」
ささらが光に包まれ、デバイスに吸収される。
ささら「カード、スタンバイして」
画面にささらのカードを表示させ、それを親指でタッチ。
更に上にずらすとカードが取り出し口から出てくる。
うずめ「う、うん…」
取り出したカードを正面に構え、目を閉じて心を澄ます。
緊張感が高まっていく。
うずめ「(…ああ…なんか…懐かしい…この感じ…)」
ささら「マスター、私の言う通りにやるのよ。よく聞いて」
うずめ「うん」
ささら「天駆ける星の輝きよ」
うずめ「天駆ける星の輝きよ」
カードをデバイスにスキャンさせると、光になって消える。
ささら「時を越える水晶の煌きよ」
うずめ「時を越える水晶の煌きよ」
ささらの後に続いて、うずめも言葉を詠唱する。
それと同時に、異空間の中のささらの両脇に電車が出現。その車体が開くと中からクローゼットが現れる。
ささら「今こそ」
うずめ「今こそ」
ささら「無限星霜の摂理にもとづいて」
うずめ「無限星霜の摂理にもとづいて」
続けてライティングカードをスキャン。
ささら「その」
うずめ「その」
ささら「正しき姿を」
うずめ「正しき姿を」
ささら&うずめ「ここに現せ」
ささらの全身を光が取り巻き、覆っていく。
うずめももう一枚別のカードをスキャン。
うずめ「アウェイキング!」
デバイスを正面にかざすと、ライティングカードの絵柄と同じコスチュームのささらが召喚される。
ささら「OK! マスター上出来よ!」
うずめ「わあ、かっこいい!」
ささら「さてと…それじゃあとっとと、片付けるとしますか」
かがみとくぅが、遂にホールまで来ていた。
ささら「こいつ程度、私1人で充分!」
サーベルを召喚し、大きくジャンプして空中で回転、平均台の上に着地。
ささら「アンギャルド!」
フェンシングの構えをとる。
くぅも腰に装備した小刀を抜き、平均台までジャンプ。
まずはくぅが仕掛けるが、ささらはそれを切り払う。逆にささらの突きもくぅに切り払われ、両者共一歩も譲らない。
うずめ「凄い…」
ささら「!!」
気合を込めた一振りで平均台を斬る。両者共空中高くジャンプ。
くぅが飛ばした手裏剣を斬ると、ささらは爆煙に包まれる。
しかし、それを突き抜けてすかさず背後に回りこみ…。
くぅ「?…わあっ!!」
くぅはささらのキックで吹っ飛び、跳び箱に叩きつけられると同時に煙が巻き上がる。
うずめ「…きゃあっ!!」
前が見えない。
くぅ「カードは何処だ!?」
うずめ「ぅわあああぁぁぁっ!! …!!」
煙の中から襲ってきたくぅ。うずめが倒れこんだ途端互いの頭がぶつかる。
うずめ「いっ…あっ……ぅわあああぁぁぁっ!!」
その場から逃げ出す。目の前にささらが着地。
ささら「中々やるじゃないマスター」
うずめ「いいから早く何とかして! 助けてくれるって言ったでしょ!?」
ささら「はいはい。急かさないでよ」
ささらはサーベルに気合を込め、発光した刀身をくぅに向ける。
くぅ「!」
くないを装備。
ささら「これで止めよ!! てええあああああぁぁぁっ!!!」
一直線に突っ込んで最後の突きを叩き込む。
閃光に包まれ、勝敗は決した。
ささら「ラッサンブレ・サリュー」
礼をする。
かがみは髪をかき上げ…。
かがみ「…まあいいわ。今日の所はこれぐらいで許してあげる。いい事? 次にあった時は手加減しないわよ。覚えてなさい」
そういってホールを去る。
茫然を見ていたうずめは、気が抜けた様に膝をつき…。
うずめ「はぁ…怖かった…」
ささらは床に落ちているくぅのカードを拾う。
ささら「大した事ない相手だったわね…マスター、お片付けよろしく」
うずめ「お、お片付け? …」
周りの器物は戦闘の影響で壊れていた。
うずめ「どうしたらいいの? これ…」
ささら「そんなの、修復カードをセットしておけば楽勝よ。はい。さっき倒したカード」
くぅのカードをうずめに差し出す。
うずめ「…」
修復カードをセットしたデバイスを壊れた跳び箱にかざすと、次第に元に戻っていく。
うずめ「へぇ~、便利だね。…ねえ…さっきの敵みたいな子って、あなたの事狙ってたんだよね?」
ささら「…」
うずめ「何か、事情でもあるの?」
ささらは何かを我慢している…。
そして、帰り道で…。
ささら「実は私、狙われてるの…」
2人は公園にいた。
ささらは、それまでと違い下が短パンのブレザー姿になっていた。
うずめ「?」
ささら「敵に連れ去られたら、酷い目に合わされるわ…きっと、あんなコトやこんなコト…」
言葉が次第に涙混じりになっていく。
うずめ「えー!?」
ささら「お願いよマスター、私を見捨てないで!」
うずめ「あ、あの…気持ちは分かるけど…あんな風に戦うのとかって、私にはちょっと…無理っぽいかも…」
うずめの様子をうかがいつつ、突然泣き出すささら。
うずめ「…ねえ、えっと…」
ささらはうずめが自分から目を逸らした途端、再び様子をうかがい、また泣き出す。
うずめ「…分かったから、泣かないで。とりあえず、もうちょっと考えさせてくれる?」
ささら「…どうぞどうぞ。ゆっくり考えて。それじゃ私、疲れたから戻るね」
泣き止んで笑顔を見せるが、それまでの態度は芝居だった。
うずめ「あ、うん…」
デバイスを出してささらに向ける。
うずめ「…リジェクション! ……はぁ…」
ささらをデバイスに戻し、溜息をつく。
うずめ「…?」
携帯に着信が。
それは、テニス部仲間からのメールだった。
どしたの、うずめちゃん? 部活来ないから心配してます
うずめ「あ…」
ごめんね。体調悪くて。先輩にも伝えておいてください
そう書いて返信する。
うずめ「(だって、言えないよね。何があったかなんて…)」
携帯をしまってデバイスを出す。
うずめ「(私だってまだ信じられないのに…)」
「あら、うずめちゃん?」
うずめ「?」
小町が公園に来た。
うずめ「小町さん!」
2人で川沿いの舗道を歩く。
うずめ「実は今日、自分にびっくりする様な事が起きて…でも誰にも言えなくて…どうしたらいいか…」
小町「う~ん…」
うずめ「あ…ごめんなさい…意味分かんないですよね。曖昧過ぎて…」
小町は立ち止まって振り返り…。
小町「大丈夫。そのままでいいの」
うずめ「?」
小町「……今日起きた事は、全てうずめちゃんの、運命だったんじゃないかしら」
うずめ「運命…」
小町「ええ。そう思えば、少しは気持ちも楽になるでしょ?」
うずめ「…」
うずめは笑顔で頷く。
小町「いずれ全て、時が解決してくれるわ…」
その様子を何者かが立ち聞きしていた…。
夜、鵜野家。
うずめは風呂に入る準備をしている。
うずめ「はぁ…なんか今日は疲れちゃった…」
突然呼び鈴の音が鳴り、ポケットが光る。
うずめ「? わ…嘘…やだ!」
ポケットからデバイスを出すと、ささらが勝手に外に出る。
ささら「あ~念願のお風呂タイム!」
うずめ「あ~また出た!!」
ささら「?…何よ人をお化けみたいに…私達、この時を待ってたのよ」
うずめ「私、達?」
ささら「そのデバイスのカードよ」
うずめ「…」
ささらに言われるまま、デバイスから4枚のカードを出すと…。
うずめ「あ…え!?」
4人のドールが出現。
「初めましてご主人様。私マドレーヌと申します」
白と黒のシックな服、ウェービーな紫のロングヘアに眼鏡をかけた、知的な雰囲気をまとった女の子…マドレーヌ。
「カティアよ。よろしく」
青いドレスに特徴的な結び方の青い髪の、わがままそうな女の子…カティア。
「私がしめじですぅ。こっちの子が、小明ちゃんって言いますぅ」
セーラー服とエプロンが一体化したような服にピンクのロングヘア、おっとりした口調の女の子…しめじ。
「どうも…」
黒いゴスロリ衣装に銀髪、熊のぬいぐるみを抱えた物静かな雰囲気の女の子…小明。
うずめ「な、何でいっぱいいるの!?」
カティア「ささら、あなたエントリーの時にちゃんと説明しなかったの!?」
ささら「したわよ…多分」
うずめ「してない! 何も聞いてない!!」
マドレーヌ「私達もご主人様のドールですから、以後お見知り置きを」
ささら「汗かいたからシャワー浴びたい!」
カティア「ずるいカティアも!」
ささら達は籠の上の段に無造作に服を放り込み、マドレーヌだけは畳んで下の段に入れた。
マドレーヌ「カティア、入る前に体も洗うのよ」
うずめ「…」
小明「私も入る…」
うずめ「…? ……全員でお風呂入るの?」
5人に続いて、うずめもバスタブに。
うずめ「う~、狭…」
しめじ「あ~、久しぶりのお風呂です」
マドレーヌ「ご主人様がいない間は、自由に入浴も出来なかったものね…」
うずめ「えーと、ねえ。つまりこれって、私が選ばれしお姫様で、あなた達が敵をやっつける武士みたいなの?」
カティア「誰が武士ですって!?」
うずめ「なんか、素敵な運命とか、始まっちゃう感じ?」
しめじ「まあ、そんな感じですかね」
うずめ「あ、いい事思いついた。ねえねえ、マスターになれば、何でも言う事聞いてくれるって言ってたよね」
マドレーヌ「と言いますと?」
うずめ「…今日、数学の宿題いっぱいあるからお願いしたいな~。それから部屋も散らかってるから掃除もして欲しいし…」
うずめの我が侭なお願いに、ドール達の表情が次第にジト目になっていく…。
うずめ「後ね…って、あれ?」
ささらは怒り心頭。
うずめ「!」
ささら「あんた…ナメてんの!?」
バスタブに拳を叩きつけ、破壊してしまう。
うずめの部屋。
ドール達がうずめを問い詰めている。
ささら「マスターの風上にも置けない!」
マドレーヌ「ドールをお手伝い代わりに使おうだなんて、信じられないわ…」
しめじはマイペースにジュースをすすっている。
小明「その根性、叩き直してやろう…」
カティア「この素人マスター!!」
ハリセンでうずめの膝の前の床を叩く。
うずめ「ひっ!!」
ささら「大体、書類上はマスターだけど、まだ私達、あんたの事を認めた訳じゃないからね!」
うずめ「ひどーい!! 泣いて『お願い』って言ってたじゃない! 騙された…別に私だって、好きでマスターとやらになったんじゃないんだから…」
ささら「エントリーした癖に!」
うずめ「まだクーリングオフ、利く?」
小明「解約すると…恐ろしい事になる…」
うずめ「お…恐ろしい事って、な、何?」
小明「…とても言えない…」
うずめ「えー!? 何それ…」
契約した事を後悔し、涙目になる。
うずめ「(もう…こんなヘンテコな子達と一緒になんてやってけない…)?」
ささらの左肩の傷痕に目が止まる。
うずめ「(あの時の…)」
戦いの事を思い出す。
うずめ「…ねえ…ささら」
ささら「…何?」
うずめ「これからどうするのかはまだ分かんないけど…とにかく今日は助けてくれて、ありがとう」
ささら「…」
うずめ「……え? 私、なんかヘンな事言った?」
ささら「マスターにお礼を言われたの…初めてだったから…」
マドレーヌ「うふふ…」
ささら「…まあ、こっちもそっちがエントリーしてくれたお陰で出てこられたんだもの…お互い様よね。ありがと。あんたさ、カードの扱い慣れてんの? 結構筋がいいかもね」
うずめ「え? …」
うずめの携帯に着信が。
一同「?」
うずめ「…はい。もしもし…」
「おめでとう、うずめ」
うずめ「…」
「少しぐらいドール達と仲良くなれたかな?」
うずめ「え…だ、誰ですか?」
「窓の外を見てごらん」
うずめ「…」
窓を開いて外を見ると、空から花束が降ってくる。
うずめ「…わ! あっ…?」
受け取った花束には、『祝! ご登録』と書かれたメッセージカードが添えられている。
電柱の上に、白い軍服にマントを羽織りモノクルをかけた男が立っている。
男「君は、ラフレシアの花言葉を知ってる?」
うずめ「し…知りません」
カティア「花言葉は、"夢うつつ"でしょ?」
カティアが窓ガラスから語りかけてくる。
男「そう。僕は君にファンタジスタドールという"夢"を贈った。君にはカードマスターとなって、夢を現に変える存在になって欲しい。それが君の使命」
うずめ「…」
男「君達の活躍に期待している。いつでも見守っているよ」
男はマントを翻し、電柱から飛び降りる。
うずめ「あ、あの…」
カティア「素敵な人ね~」
しめじ「カティア、ああいうのが好み?」
カティア「?」
例の男の事で茶化され…。
ささら「いちいち臭いんだよやる事が。まさにラフレシアの君」
うずめが笑い出す。
うずめ「ラフレシアの君? 何それ…うふふ…あはは…」
ささらもマドレーヌもつられて笑い、そしてみんなで笑い合う。
最終更新:2023年10月16日 11:46