大戦のさなか わずか数十名の部隊で 帝国軍を壊滅寸前にまで追い詰めた集団があった その名は「忍空組」
辛うじて戦争に勝利した帝国府は 彼らの力を恐れ 討伐に乗り出した
今 本当の「忍空」を知る者は 少ない
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回想──
どこかの小さな家で、母親が子供に子守唄を歌っている。
子供「母ちゃん……」
母親「風助……」
ふいに、足音が聞こえてくる。
母親「誰です!?」
扉が切り裂かれる。
マント姿の男──その手には剣が握られている。
母親「お前は……!?」
男が母親に近づき、剣を振りかざす。
母親「やめて!」
子供・風助が目を覚ますのと同時に、風助の母が男に袈裟斬りにされる。
倒れた風助の母を捕らえる謎の男。
風助「母ちゃん!? 待てっ!」
謎の男が不快げに風助をにらみつける。
風助「返せ! 母ちゃんを返せ!」
男の足にしがみついて何度も叩く風助。
男が手で風助を払いのける。
その拍子に男の外套の袖が破れ、手首に彫られた刺青があらわになる。
男「悪いな、坊主。悔しかったら強くなることだな」
男が風助を突き飛ばし、去る。
風助(……母ちゃん……)
風助「……母ちゃんっ!!」
風助が目を覚ます。
風助は何もない草原にいた。
風助「夢か……」
おもむろに立ち上がる風助。
腹の虫が鳴る。
風助「そういやぁ、3日も食ってねェもんな」
別の生き物の腹の虫が鳴るのが風助の耳に入る。
振り向くと、一羽のペンギンが道に行き倒れていた。
風助「そんなところで寝てっと、車にひかれっぞ」
ペンギンは応えない。
風助「おい、ヒロユキ」
風助が、ペンギンのヒロユキを抱き起こす。
そこに、車のエンジン音──暴走族がやってきた。
風助とヒロユキがひかれそうになった瞬間、ヒロユキが巨大な屁をこき、2人を空中に浮かび上がらせる。
そして、無傷で道の端に着地。
風助「くせェぞ、ヒロユキ」
暴走族「カシラぁ! なんだか今、一瞬、ものすごく臭くありやせんでしたか!?」
リーダー「おう、気を失いそうになったぜ。どっかで休んでこうぜ」
暴走族「ヘイ!」
風助とヒロユキは黙って暴走族を見送った後、空を見上げた。
風助「ヒロユキ、村がありそうだぞ」
早速近くの村に来た風助とヒロユキだが、人の気配がまるでない。
風助が立ち止まる。
風助「いい匂いだ」
民家の煙突から煙が出ている。
勝手に扉を開けて中に入る風助。
風助「おい! 誰かいねェか? おーい!」
棚にパンがたくさん積まれているが、人の気配はない。
風助「仕方ねェな」
棚の上のパンが1つ、風助の頭の上に落ちる。
パンを拾う風助。
風助「うまそうだぞ」
棚の上では、ヒロユキがパンを手当たり次第に貪り食っていた。
風助「あっ! おめェ、ダメだぞ、勝手に食っちゃあ!」
風助がヒロユキを抑える。抵抗するヒロユキ。
風助「こらヒロユキ、暴れるな! 怒られるぞ」
そこに、武器を持った男が現れる。
風助めがけて武器……ではなく、パン生地を伸ばすのに使う木の棒を振り下ろす男──風助が倒れる。
パン屋「コノヤロ、コノヤロ、もー!」
妻「あんた、待ちなよ! 子供じゃないのさ」
パン屋「何?」
すると、風助が何事もなかったように立ち上がって、パン屋を見上げる。
風助「けっこう痛てェぞ」
パン屋が風助の首根っこをつかみ、つまみ上げる。
パン屋「誰だ、おめぇ」
風助「俺は風助。腹減ってんだ。飯食わしてくれ」
パン屋「嘘つくんじゃねぇ。ここに置いてあったパン、1つも残ってねえじゃあねぇか」
妻「あんた、どこから来たんだい?」
風助「俺、母ちゃんを探して旅してんだ。美人で、いい匂いのする母ちゃんなんだ。5歳の時、別れたまんまだけどな」
妻「そうなのかい…… 何か、手掛かりは?」
風助「ない」
パン屋はため息をつくと、風助とヒロユキを縛って路地裏の木に吊るしてしまった。
パン屋「しばらく、そこで反省してろ!」
妻「あんた、何もそこまでしなくったって…… よっぽどお腹すかしてたんだよ」
パン屋「わかってるよ。けど子供は、しつけが肝心なんだ。それに…… 忍空の残党が、またやってくるに決まってる。ここが安全だろう」
「忍空」の単語に、風助が目を見開く。
風助「忍空……?」
パン屋夫婦は家の中に戻っていった。
ふいに、笑い声がする。リンゴを持った女の子が、風助とヒロユキを見て笑っていた。
風助「おめェ、誰だ?」
女の子「ごめん、あたし、ミカ。ここの娘なの。ねぇ、そのペンギン、あんたのペット?」
風助「ペットじゃねェ。友達のヒロユキだ」
ミカ「友達かぁ。いいな……」
風助「友達、いねェのか」
何も言わずうつむくミカ。
風助「だったら、俺たちが友達になってやるぞ」
ヒロユキも喜んでうなずいている。
ミカ「本当!?」
ふいに、ミカの腹の虫が鳴る。赤面するミカ。
ミカ「お腹すいてんのね。はい」
ミカが風助にリンゴを食べさせる。
風助「サンキュー」
リンゴを食べ終わった風助がミカに質問をする。
風助「1つ聞いていいか? おっちゃん、どうして忍空の残党におびえてんだ」
ミカ「知らないの? この辺の村は、みんな忍空に襲われて、ひどい目に遭ってるのよ」
風助「忍空は、そんなことしねェぞ」
村の老人が話に割り込む。
老人「お前さん、なんにも知らねぇんだな。忍空はヤクザよりも悪い連中だ。忍空さえいなきゃ戦争だって起きなかったんだ」
風助「忍空は平和のために戦ったんだ。悪いのは帝国府の方だぞ」
主婦「なんてこと言うんだい、この子は! 将軍様が忍空をやっつけてくれたから、戦争が終わったんじゃないか! やっと平和になったってのに……」
言葉を失う風助。
そこに、先ほどの暴走族どもが寄声を上げながら現れた。
ミカ「あれ、忍空!?」
風助「さっきの奴らだ」
暴走族「カシラぁ! 今日はあの店、狙いましょうぜ!」
リーダー「よーし、かかれぇい!」
暴走族がパン屋に瓶を投げ込み、窓ガラスを割る。
パン屋「俺の店に、何しやがる!」
暴走族「どけぇい!」
パン屋「やめろ! 俺の店だぞ!!」
暴走族の1人がパン屋の首に鞭を巻き付け、引きずり始めた。
倒れるパン屋。
ミカ「お父さん!」
主婦「ミカちゃん!」
ミカが倒れたまま動かないパン屋に駆け寄る。
風助も、暴走族の蛮行に怒りを隠さない。
風助「行くぞ、ヒロユキ!!」
ヒロユキとともに木から降り、駆け出す──が、2人を縛りつけた縄が井戸に引っ掛かり、2人そろって転んでしまった。
風助「……あのなぁ」
暴走族は店からパンを次々に盗み出していく。
暴走族「大漁ですぜ!」
リーダー「おい」
暴走族のリーダーがミカに目を向ける。
ミカ「お父さん……」
パン屋「ミカ、出てくんじゃねぇ!」
そこに暴走族が迫る。
ミカの悲鳴──
パン屋「やめろ! 娘に手を出すな!」
暴走族のリーダーがパン屋の顔面に蹴りを入れる。
リーダー「うるせぇ! てめぇに用はねぇ」
ミカ「お父さん!」
リーダー「行くぞぉ!!」
リーダーの合図で、暴走族が一斉に引き上げていく。
パン屋「ミカぁー!」
ミカ「お父さぁん!」
そして、縄をほどいた風助とヒロユキが現場に駆けつけるが──
風助「あれ?」
時すでに遅く、暴走族は去った後だった。
妻「忍空め、どこまでひどい目に遭わせりゃ気が済むんだ!」
パン屋「誰か、お役人に知らせに行ってくれ!」
しかし、村人たちは誰も暴走族を恐れて動こうとしない。
帽子を被った村人「無駄だよ。こんな辺鄙な村にわざわざ来てくれねぇよ」
パン屋夫婦が悔しげにうなだれる。
妻「あんた……」
そこへ風助が進み出た。
風助「心配すんな。俺が助けてきてやるよ」
パン屋「ガキに何ができるってんだ!」
風助「大丈夫だ。ミカは俺の友達だからな」
そう言う風助の後ろ姿には、奇妙な凄みが漂っていた。
パン屋「おめぇ…… 本気か……?」
暴走族のアジト──軟禁されているらしい若い女のわめき声が聞こえる。
リーダー「昨日捕まえた女ぁ、相変わらず威勢がいいじゃねえか」
若い女「あんた! こんなことして、ただで済むと思ってんの?」
縛り上げられている若い女の隣に、ミカが突き飛ばされ、若い女とミカがぶつかる。
若い女「痛~」
ミカ「ごめんなさい」
若い女「あなたも捕まったの?」
うなずくミカ。
若い女「かわいそうに。こんなかわいい顔してるから狙われちゃうのよ…… まぁ、あたしには負けてるけどね」
女が暴走族に向き直る。
若い女「あんたたち! いつまでここに閉じ込めとく気? いったいどうしようっていうのよ?」
暴走族たちはみんなニヤニヤ笑って、何も答えようとしない。
若い女「も…… もしかして、あたしの体が目当てなの!? いや、そうなのね!? いやーん、今から窓閉め切ってエッチなことしようとしてるのね!?」
暴走族「バカ! 違うよ。売り渡すんだよ」
若い女「売り渡す、って……」
暴走族「もうすぐ若い女を買い取る商人が来るんだ。エッチなことはスケベ爺に買われていった後のお楽しみだな…… ぐげっ!?」
女が顔を近づけてきた暴走族の1人の顎めがけて膝蹴りを叩き込んだ。
若い女「冗談じゃないわよ! あたし、初めての時はクールな二枚目バター顔って決めてるのよ。スケベ爺なんて、そんなの絶対に嫌よ!!」
暴走族のリーダーが、まくしたてる若い女の顔にナイフを突きつける。
女がひるむ。
リーダー「嫌なら死んでもらうぞ」
そこに別の暴走族が声をかける。
暴走族「カシラ、いらしたようです」
高級そうな車がアジトの敷地内に入ってきた。
リーダー「出迎えに行ってこい!」
暴走族「ヘイ!」
その頃、風助とヒロユキもアジトへ侵入しようとしていた。
風助「あそこみてェだな。行くぞ!」
見張りを無視して堂々と正面から入っていく2人。
当然、見張りが気づく。
見張り「待て……」
見張りが手を伸ばした瞬間、ヒロユキが巨大な屁をこいた。
強烈な臭いに失神する見張り。
風助「くせェぞ、ヒロユキ」
アジトの中では、暴走族たちが商人のスケベ爺に「商品」を紹介している。
暴走族「どうです」
スケベ爺「おお! これはなかなかですな」
リーダー「それじゃあ細かい話は別の部屋で…… おい、そいつらを車に連れてっとけ」
暴走族「ヘイ!」
ミカ「あたしたち、もう逃げられないのね……」
若い女「何、弱気になってんの。大丈夫、きっと素敵な王子様が助けに来てくれるわよ」
その時、暴走族の車の1台が突然爆発を起こす。
暴走族「なんだ、どうしたんだ!?」
若い女「ほら、来た来た!」
ミカ「お父さん!?」
暴走族「おとなしくしねぇか!」
すかさず女が暴走族の股間に蹴りを入れ、ミカを促して逃げ出す。
そしてアジトの扉が開いた。
雑魚2人を蹴散らして現れたのは──風助とヒロユキ。女はすっかりやる気をなくす。
若い女「何、あれ……」
ミカ「風助くん……!?」
風助「おーい、ミカー。助けに来たぞー」
若い女「いや~、ずいぶんチンクシャな王子様ね」
暴走族「ええい、おとなしくしろ!」
そこへ、暴走族たちがミカと女を後ろから羽交い絞めにしてきた。
風助「おい、おめェら! ミカを返してもらいに来たぞ!」
暴走族「バカか、オメーは! そう言われて誰が素直に渡すか!」
暴走族たちは手に銃を持っている。
暴走族「やっちまえ!」
一斉に発砲。風助の目の色が変わる。
暴走族「撃て撃てぇ!」
弾丸の雨の中を、目にもとまらぬ速さで駆け抜けていく風助。
若い女「わ~、何よあの子! 頭悪いんじゃないの!? あれじゃ殺されに来たようなもんじゃない!!」
そして、風助の胸を1発の弾が貫く──。
ミカ「ああっ…… 風助くん!!」
倒れる風助。その胸には血がにじんでいる。
暴走族「ひゃはは、ざまぁねーや…… ん!?」
暴走族たちが一斉に目を丸くする。
風助が倒れ伏した場所には──風助の死体ではなく、血糊のついた丸太が転がっていた。
暴走族「あのガキじゃねぇ……!?」
若い女「ねぇ、見てたわよね!? 今、確かに撃たれたわよね!?」
暴走族「お、おう……」
若い女「どうなってんの……!?」
暴走族「……どこだぁ!! どこ行きやがった!!」
風助「ここだぁぁっ!!」
風助が暴走族どもの前に姿を現す。
流れるような打撃で、まず1人片づけた。
リーダー「なんの騒ぎだ! うるせぇぞ……」
リーダーとスケベ爺が部屋から出てきた時には、すでにその場にいた手下全員が風助にのされていた。
リーダー「どうした、てめぇら! ケン、女はどうした!?」
最初に風助に叩きのめされた暴走族は、何も答えない。
その間に、スケベ爺が背後から風助に倒された。
風助「2人は助けたぞ」
風助と暴走族のリーダーがにらみ合う。
風助「本当は、俺、戦うの好きじゃねェんだ…… でも、これ以上みんなに悪さするなら…… 俺はおめェを許さねェ!!」
リーダー「面白れぇことを言うなぁ、坊主。おめぇ、忍空を知らねぇのか? 女やガキどもを平気で殺す、極悪集団さ。俺はそこで隊長をやってた辰巳ってんだ。帝国軍さえ俺の力に恐れをなしたんだぜ? だから許してくれなくても……」
暴走族のリーダーこと辰巳が銃を取り出す。
辰巳「……全然平気だぜ!!」
そして発砲した時には、すでに風助は辰巳の前から消えていた。
風助「どこ狙ってんだ。そんな狭めェ所にいねェで、こっちでやろうぜ」
辰巳「てめぇ、ただもんじゃねぇな? 待ってろ!」
辰巳が広場へ移動。再び風助と対峙する。
辰巳「俺は元忍空組、五番隊の辰巳だぞ?」
風助「おめェ、それさっきも言ったぞ」
辰巳「なっ……!? じゃ、じゃあもう1つ教えてやるよ。忍空五番隊ってのは、火を操ることができるんだぜ!!」
辰巳の両の手のひらの間に火の玉が発生した。
辰巳「喰らえーっ!!」
辰巳が手を突き出すと同時に、風助めがけて炎が放たれる。
たちまち炎に包まれる風助。
辰巳「はははははは!! どうだ! 恐ろしくて、小便ちびっちまったか!?」
しかし、炎は一瞬にして消え失せた。
辰巳「ん!?」
風助「忍空を名乗るなら、もっと技を磨いてからにした方がいいぞ」
辰巳「何ぃ!?」
風助「その程度じゃ、偽物だってすぐにバレバレだ」
辰巳が怒りに身を震わせ始めた。
辰巳「言ってくれるじゃあねぇか。強がりやがって小僧が! 来れるもんなら来い!!」
そう言い切った瞬間には、すでに風助は辰巳の顎めがけて蹴りを打ち込んでいた。
さらに残っている雑魚を軽くひねる。
若い女「すごい……!」
ミカも息をのんで風助の戦いを見守っている。
辰巳「くそぉ…… もう許せねぇ!!」
辰巳が再び炎を放つ。
対する風助の体から風が巻き起こり、炎を巻き上げた。
辰巳「な、なんだ!?」
風助「教えてやるよ。忍空一番隊ってのは、風を操ることができんだぜ」
風助は一瞬のうちに辰巳の背後に立っていた。
辰巳「き、貴様ぁ!? まさか本物の……」
風助「……風圧掌!!」
風助の放った風が再び炎を巻き上げ、辰巳の体を一気に包み込む。
『風圧掌』とは── 掌の空気を圧縮することによって 気圧を高め 辺り一帯の風の流れを自由に操る 子忍の技である |
辰巳「うあぁ──っ!! 熱いっ!! 助けてくれぇっ!!」
風助「火が熱いのは当たり前だぞ」
辰巳「許してくれっ!! もうしねぇ!! だから……」
風助が風圧掌で炎を消す。そして──
風助「許してくれなくていいって言ったのは!」
ひと息で辰巳に肉薄し、腹に肘鉄を入れ、肘と膝を極め、とどめに蹴りを食らわせた。
風助「おめェだぞ!!」
転がる辰巳。
辰巳「あんた、いってぇ……!?」
風助「……元忍空組一番隊々長、子忍の風助!」
風助の名乗りを聞いて、ミカが言葉を失う。
風助「もうしねェか」
辰巳「はい……」
満身創痍の辰巳には、それだけ言うのが精いっぱいだった。
風助の活躍により、ミカ(と、ついでに例の若い女)は無事解放された。
ミカ「お父さーん!」
パン屋「ミカ!」
再会を果たした親子が抱き合う。
妻「よかった、よかった……!」
村人「ミカが帰ってきたぞ!」「奇跡だ!」
ミカ「風助くん!」
パン屋「ありがとう。本当にありがとう!」
村人「どうやって助け出したんだい?」「まったく、たいしたもんだよ」
ミカ「あのねぇ、風助くんはものすごい忍空使いなのよ」
それを聞いて、村人たちの目の色が変わる。
ミカはそれに気づいていない。
ミカ「あたしを捕まえた悪い奴なんか、一瞬でやっつけちゃったんだから……」
村人「に、忍空……?」「忍空組の残党なのかい? あんた……」
風助「……ああ、そうだ」
主婦「……あんた、悪いけど、出てってくれ」
村人「そうだ! 忍空の残党なんて、何をしでかすかわかったもんじゃない」
ミカ「風助くんは、悪い人じゃないわ! ね、お父さん……」
風助「いいよ」
風助はすでに村を発つ準備を始めていた。
風助「忍空は悪くねェ…… ミカ! 気にするな。そのうち、みんなにわかってもらえるさ」
歩き出す風助。なぜか若い女も一緒についていく。
風助「元気でな」
ミカは村人たちを押しのけ、自分の家のパンをかごに入れて風助の下へ向かった。
ミカ「風助くーん!」
風助、ヒロユキ、若い女が立ち止まる。
ミカ「あたし、信じてるから! 信じてるから…… また来て」
風助「……当たりめェだ。友達じゃねェか」
ミカ「お腹すいちゃうでしょ? これ持ってって」
パンの入ったかごを手渡すミカ。
風助「サンキュー」
ヒロユキがかごを奪う。
風助「じゃあな」
そして、今度こそ風助たちは村を出ていった。
ミカ「風助! きっとよ!」
風助「おう!」
ミカ「ありがとう!」
パン屋夫婦が、深々と頭を下げて風助を見送った。
それからしばらく後、風助と若い女は、ヒロユキがこぐ船に乗って川を渡っていた。
風助はハーモニカを吹いている。
若い女「そういえばさ、あたしたち、まだ自己紹介してなかったわよね? あたしは里穂子、お兄ちゃんを探して旅してるんだ。あんた、ちっこいのになかなかやるじゃん? ……まぁ、お兄ちゃんには負けるけどね」
風助「……おめェは俺が怖くねェのか」
里穂子「当たり前じゃない! なんたって、あたしのお兄ちゃんは忍空組六番隊々長の橙次なんだから」
風助「……えっ? 橙次の妹!?」
里穂子「えっ、知ってんの?」
風助「一緒に戦った仲間だ」
里穂子「なーんだぁ~! ……舌出して笑うのやめなよ」
こうして、風助たちの前途多難な旅と戦いの日々は幕を開けた。
時に、EDO歴3年──かつての戦争の爪痕がまだあちこちに残っていた時代のことである。
最終更新:2022年03月21日 17:24